おしらせ


2024/02/03

しろがねの鏡胴映えるシネクセノン

Schneider-Kreuznach cine-Xenon 25mm F1.4 (c mount)

シネ・クセノンと言えば16mm映画用カメラに供給されたシネレンズで、ARRIFLEXマウントのモデルとCマウントモデルの2種があります。本ブログでは過去のこちらの記事でゼブラ柄の後期モデルを紹介しました。今回はBOLEXに搭載する交換レンズとして1960年に登場したCマウント版のシネ・クセノンの前期モデル(アルミ鏡胴)を紹介します。後期モデルは青紫色のコーティングでしたが、今回の前期モデルはマゼンダ色のコーティングですので、コントラストや色味に若干の差が出ることが期待できそうです。

焦点距離25mm(Cマウント)のシネマ用Xenonが登場したのは1920年代と古く、1927年に製造された真鍮鏡胴の個体が確認できます。ちなみに初期のモデルは口径比がF2(2.5cm F2)でしたので、トロニエ設計の4群6枚構成だったものと思われます。1930年代後半になると再設計され口径比がF1.5まで明るくなった真鍮鏡胴のモデル(シルバーカラーとブラックカラーがある)が登場しています。このモデルは戦後の1950年代にも生産が続きますが、1950年代半ばなると鏡胴の素材がアルミに変更され軽量化が図られるとともに、Dマウントでも市場供給されようになります。1960年代に入ると口径比がF1.4の新設計モデルが登場し、ごく初期の僅かな期間だけアルミ鏡胴で作られましたが、すぐにゼブラ柄にデザインが切り替わります。今回紹介するモデルはこの時代のものです。市場に流通している個体のシリアル番号から判断する限り、F1.4のモデルは遅く見積もっても1969年まで生産されていました。

重量 155g, 絞り F1.4-F22, 絞り羽 5枚, 最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm, マゼンダ系コーティング









Cine Xenon 25mm F1.4: 構成は4群7枚のズミタール型で、前玉が色消しの張り合わせ(たぶん旧色消し)になっています。絞りに接する両側のガラス面の曲率差(曲がり具合の差)でコマ収差を補正しています。上の構成図は文献[2]からのトレーススケッチです

参考文献

[1] Australian Photography Nov. 1967, P28-P32 

[2] SCHNEIDER Movie Lenses for 16mm cinema cameras: シュナイダー公式カタログ


撮影テスト

描写傾向はArriflex版モデルやゼブラ柄の後期モデルと似ており、良好な解像力を維持しつつ、開放では細部に微かな滲みを伴う線の細い繊細な画作りができます。コーティングが少し違うためか、後期モデルよりコントラストが抑え気味で、味のある描写が堪能できるのがこのモデルの大きな特徴と言えます。一段絞れば滲みは消えコントラストも上がり、シャープでキリッとした画作りになります。背後のボケは硬めで過剰補正気味なところはいかにも解像力を重視したレンズの特徴ですが、開放での微かな滲みもこれが原因のように思えます。

もともとは16mmフォーマットが定格ですから、マイクロフォーサーズ機では写真の四隅にダークコーナー(いわゆるケラレ)が出ています。カメラの設定を変え、アスペクト比をシネマ用ワイドスクリーンと同じ16:9にしたり、真四角の1:1にするとケラレは目立たなくなるでしょう。

 Cine Xenon 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:☁) ピント部中央はご覧の通りで開放でも高解像です














F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:☁) 背後のボケが硬くざわついています













F2.8 Panasonic GH-1(WB:日陰)

F2.8 Panasonic GH-1(WB:日陰)



F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰)

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰)






















2024/01/13

TAYLOR,TAYLOR-HOBSON COOKE PANCHROTAL ANASTIGMAT 2.8inch (71mm) f2.3

 

 
ストイックなレンズ構成が
マニアの共感を呼び、不安を煽る
テーラーホブソン社のシネマ用望遠レンズ

Taylor,Taylor-Hobson Cooke PANCHROTAL Anastigmat 2.8inch(71mm) f2.3

Panchrotal (パンクロータル)はTaylor & Taylor-Hobson(テーラーホブソン)社から1950年に発売されたシネマ用望遠レンズで、主にBELL & HOWELL社の16mm映画用カメラ(Cマウント系)に搭載する交換レンズとして市場供給されました。1950年に刊行されたAmerican cinematographer[1]という雑誌の新製品紹介に焦点距離の異なる4種類のレンズ(Super-Comat 0.7inch F2.5, Ivotal 2inch F1.4, Panchrotal 2.8inch F2.3, Panchrotal 4inch F2.3)と共に掲載されています。このうち2本のPanchrotalは同一構成のレンズで、深い被写界深度を実現したのが特徴なのだそうです。 レンズの作りは素晴らしく、手に取ったときのズシリと重い重量感に加え、鏡胴には鏡面仕上げの美しいクロームメッキが施されており、ただならぬ高級感を感じることができます。

マニアの視点から見たこのレンズの特徴は、何と言っても独特な設計構成でしょう[2]。下図のように各群が同一構成のまま同じ配列パターンを繰り返しており、水族館のクラゲにも似た奇怪な形態ですレンズ構成は3群6枚で、トリプレットからの発展型と各方面で紹介されていますが、パワー配置が真ん中の第2レンズ群(G2)は正、第3レンズ群(G3)が負となっており、屈折力が入れ替わっている点に注目すると、もはやトリプレットとの関連性は薄く、全く別物のレンズに見えます。テーラーホブソンと言えばトリプレットに所縁のあるメーカーですから、連想が一人歩きしているのかもしれません。被写界深度を稼ぐため球面収差の補正に加え、1群~3群の全てで軸上色収差を減らす徹底ぶりです。前群側に正の屈折力が集中しており、広い撮像面を持つ現代のデジカメで使用する場合には歪みが目立たないのか心配です。望遠レンズですから画角特性には目をつむり、その代わり被写界深度を深くすることに尽力したレンズと捉えることができます。しかし、改めてみると、やはりすごい設計構成ですよね。見るほどに不安になります。これで本当に、ちゃんと写るのでしょうか。

文献[2]からのトレーススケッチ。構成は3群6枚で、左が被写体側、右がカメラの側です
  

参考文献

[1] American cinematographer (Vol.31,1950, P329):新製品発売についてのアナウンスが掲載されています

[2] ARTHUR COX, "PHOTOGRAPHIC OPTICS", 9th Edt. p.211

 

絞り F2.3-F32, 絞り羽 12枚構成, 重量(実測) 238g (純正フィルター込みで260g)  フィルター径 40mm, 最短撮影距離 3 feet弱(約1m弱), イメージフォーマット 16mmシネマ準拠, Cマウント, 設計構成 3郡6枚(PANCHROTAL型)
 
入手の経緯
レンズは2017年9月にeBayにて英国の個人セラーから910ドル+送料で購入しました。商品の状態は美品(MINT CONDITION)とのことでしたが、残念ながら届いたレンズはピントリングがカチンコチンに硬く、ややホコリの混入が目立ちましたので、川崎の関東カメラに持ち込んでオーバーホールしていただきました。関東カメラは知る人ぞ知る、フィルムカメラやレンズの修理を専門とする業者で、レンズの組立工程時にコリメーターを使用しベストな位置で組むという技術力の高さを誇っています。
 
撮影テスト
開放から滲みは全く見られません。シャープネスとコントラストが高く、すっきりとクリアに写り、発色も鮮やかな高性能レンズです。背後のボケは概ね穏やかですが、口径食がみられる事と、距離によっては少しグルグルボケが出ることがありました。APS-C機で使用すると、やはり糸巻き状の歪みが目立ちます。加えて四隅には光量落ちがみられますが、はっきりとケラれるわけではありません。一回りセンサーサイズの小さいマイクロフォーサーズ機では写真の全面で均一な明るさが得られ、歪みや口径食は気にならないレベルとなります。切れ味と立体感に富んだ画作りからは、このレンズの原型と言われるトリプレットの特徴を感じとることができます。
 
F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光, FS: Standard) 近接撮影時はケラレが大きくなります。マウント側の光路が狭いからでしょう

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光, FS: Standard) スッキリ綺麗に写ります


F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光, FS: Standard) 発色も鮮やかです

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光, FS: Standard)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光, FS: Standard)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光, FS: Standard)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光, FS: Standard)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光, FS: Standard)











































































































F5.6 Fujifilm X-T20(WB:日光 FS.Standard)
F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:auto, FS:C.C.)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:auto, FS:C.C.)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:auto, FS:C.C.)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:auto, FS:C.C.)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:auto, FS:C.C.)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:auto, FS:C.C.)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:auto, FS:C.C.)

F2.3(開放) Fujifilm X-T20(WB:auto, FS:C.C.)