おしらせ


2021/06/02

試写記録: Astro Berlin Tachonar 75mm F1 modified to GFX mount


GFXで試写をしてほしいと依頼され、1週間程お借りしました。シネマ用レンズで知られるベルリン(旧西独)のアストロ社(Astro Berlin)が生産したTachonar 75mm F1です。Tachonarには焦点距離の異なる25mm, 35mm, 40mm, 50mm, 75mmが存在し、すべてF1の明るさです。シリアル番号から、本レンズは1960年頃に製造された個体であることがわかります。
今回入手した個体はデジタル中判センサーを搭載したGFXシリーズで使えるように改造されていました。このレンズには本来は絞りがありませんので写真撮影用に作られたレンズではありません。海外の文献にはサイエンティフィックな用途に用いられたレンズとの記載があります。一方で今回の個体には絞りを入れる大きな改造が施されていましたので、描写については本来ものであるか判りません。試写記録を残しておきますが参考程度にしていただくのがよいと思います。収差の大好きな方にはうってつけだと思います。
Astro Berlin Tachonar 75mm F1: 絞り羽 13枚, フィルター径 72mm前後, 重量(実測) 1015g, 改GFXマウント, 設計構成 5群5枚



設計構成は下図のような5群5枚で、エルノスターの前方に正のレンズを1枚追加し屈折力を更に稼いだような形態です。正レンズ過多でグルグルボケの原因になる非点収差が沢山出そうな構成です。

Astro Berlin TACHONAR F1: 構成は5群5枚で、エルノスターの前方に正レンズを一枚追加したような形態です。
 

撮影テスト
レンズは中判センサーを搭載したフジフィルムのGFXシリーズで使えるように改造されています。四隅は若干のケラレがみられますが許容範囲です。開放でグルグルボケが強烈に出るのが特徴です。中心はそこそこ解像しますが、四隅に行くにつれ収差の嵐に吞み込まれてゆきます。コントラストが低く歪みも大きいので、写真の用途に応じて絞りながら使うとよいでしょう。絞れば描写は大人しくなります。私は開放で使いますけれど。

F1(開放) Fijifilm GFX100S





















F1(開放) Fijifilm GFX100S










F1(開放) Fijifilm GFX100S
F1(開放) Fijifilm GFX100S
F1(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Film simulation:NN)















F1(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Film simulation:NN)




F1(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Film simulation:NN)


F1(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Film simulation:NN)

特集:Schachtの一眼レフカメラ用レンズ プロローグ

特集:Schachtの一眼レフカメラ用レンズ

プロローグ

告知が前後しましたが、前回のM-Travenarの記事に引き続きシャハト社(A.Schacht)のレンズを何本か取り上げてゆく予定です。扱うレンズはM-Travenar 50mm F2.8, S-Travegon 35mm F2.8 R,  S-Travelon 50mm F1.8 R, Travenar 90mm F2.8 Rの4本です。

A.Schacht社は1948年に旧西ドイツのミュンヘンにて創業、1954年にはウルム市に移転して企業活動を継続した光学メーカーです。創業者のアルベルト・シャハト(Albert Schacht)は戦前にCarl Zeiss, Ica, Zeiss-Ikonなどでオペレータ・マネージャーとして在籍していた人物で、1939年からはSteinheilに移籍してテクニカル・ディレクターに就くなど、キャリアとしてはエンジニアではなく経営側の人物でした。同社のレンズ設計は全て外注で、シャハトがZeiss在籍時代から親交のあったルードビッヒ・ベルテレの手によるものです。ベルテレはERNOSTAR、SONNAR、BIOGONなどを開発した名設計者ですが、戦後はスイスのチューリッヒにあるWild Heerbrugg Companyに在籍していました。A.Schacht社は1967年に部品メーカーのConstantin Rauch screw factory(シュナイダーグループ)に買収され、更にすぐ後に光学メーカーのWill Wetzlar社に売却されています。なお、シャハト自身は1960年に引退していますが、A.Schachtブランドのレンズは1970年まで製造が続けられました。

同社の企業としての格付けを知る手掛かりとして1964年のドイツ国内でのレンズプライスリストを参考にしたところ、一番高価なのがLeitzとKilfitt、続いてZeiss Jena, Schneiderと続きますが、その次あたりがA.Schacht社のレンズの価格帯で、STEINHEILと同等。MEYER, ISCO, ENNAよりは格上であることが判ります。同社のレンズはゾナーの設計者であるL.Berteleとの関わりが大きなポイントになります。

ここでクイズ

Q. 上の写真に掲載した4本のレンズは左から

(1) S-Travegon R 35mm F2.8

(2) S-Travelon R 50mm F1.8

(3) M-Travenar 50mm F2.8(マクロ)

(4) Travenar R 90mm F2.8

です。これらを販売時の価格(1964年)が高い順にお答えください。答えは、この投稿の掲示板に書き込みました。