おしらせ


2016/03/05

VEB Pentacon (Meyer-Optik Diaplan) 150mm F2.8 (Projector lens)



 前エントリーで取り上げたPentacon AV 80mm F2.8は鏡胴の素材がプラスティックであったが、今回の望遠モデルは耐久性のあるメタルになっており貫禄は充分。ボケ量の大小を決める口径サイズは同シリーズで最大を誇る


東ドイツのペンタコンブランド PART 4(前篇)
ダイアプラン系列で最大の口径を誇る
バブルボケレンズの王者
VEB Pentacon (Diaplan) 150mm F2.8 改M42
プロジェクター用レンズのPENTACON AV/ DIAPLANシリーズは改造して写真撮影に転用することでバブルボケを発生させることができるため、高価なトリオプラン100mm F2.8の代用品になるレンズとして脚光を浴びている[文献1]。今回はその中で最大の口径を誇るペンタコン(AV) 150mm F2.8を取り上げてみたい。ボケ量は口径の大きなレンズほど大きく、口径比がF2.8の場合には長焦点レンズであるほど大きなボケ量となる。150mmの焦点距離を持つ本レンズの場合、得られるボケ量はF0.9相当の極めて明るい標準レンズと同等で、マクロ域での撮影のみならずポートレート域で人物を撮る際にも、背後の空間に大きなバブルを発生させることができる。しかも、本レンズの場合には望遠圧縮効果が有利に働くので、バブルボケの出方が平面的にはならず、大小さまざまなサイズのバブルが空間内を浮遊するような奥行き感のある写真が得られるのである。実はこの150mmのレンズを用いた写真がまだ殆ど公開されていないため、どれほど凄い写真が撮れるのか全く知られていない。レンズヘッドの購入額は約1万円強。1万円で未知の扉を開くことができるのは、オールドレンズ遊びを趣味とするグルメ人として冥利に尽きることだと思う。
ペンタコンAVには焦点距離150mmの製品以外に複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類を確認している[注1]。このレンズの先代はメイヤー・オプティックのDiaplan(ダイアプラン)150mm f2.8であるが、メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わっている。なお、ダイアプランとペンタコンAVの光学設計は全く同一である。
  
先代のMeyer-Optik DIAPLAN 150mm F2.8。外観だけでなく、中身(設計)も全く同一である


注1… Diaplan/Pentacon AVシリーズには焦点距離や口径比の異なる9種類のモデル2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200が存在する。このうち2.4/60は私がこちらで検証したようにレンズ構成が変則的なダブルガウス型のためバブルボケが出る保証はないが、他は全て3枚玉のトリプレット型である。今回入手した150mmf2.86x6フォーマットのMalisixという中判スライドプロジェクターに供給された交換レンズである。理由はよくわからないが、Malisix用のモデルのみ鏡胴が金属製で銘板にAVの表記がない。

参考文献・サイト
[文献1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
 
入手の経緯
2016年1月にドイツ版eBayを経由しアルパフォログラフィーというカメラ屋からレンズヘッドのみを90ユーロ(+送料12ユーロ)の即決価格で購入した。オークションの記述は「プロジェクター用レンズのPentacon (Diaplan) 150mm F2.8。鏡胴径は62.5mmでカメラマウントはない。傷、カビはない」とのこと。マウント部に傷がない品なのでオールドストックであると判断し購入に踏み切った。届いたレンズは撮影に影響のないレベルのホコリがみられる程度で、コンディションの良い個体であった。焦点距離150mmのモデルは流通量が少なく直ぐにはみつからなかったので、長らく探した末の入手である。
PENTACON 150mm F2.8, 重量(実測) 約400g(レンズヘッドのみ), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径 62.5mm, 鏡胴は金属製, マルチコーティング, Malisix 6x6 120 Slide Projector用レンズ

カメラへのマウント
このレンズにはヘリコイドはおろかマウント部すら付いていないため、改造にかなりの工夫を要する。改造における最大の難関は62.5mmもある太い鏡胴をヘリコイドにどうやって据え付けるのかである。しばらくのあいだ試行錯誤を繰り返していたが、ある時にミノルタのメタルフードD52N2が鏡胴にピタリとはまることを発見、このフードをレンズヘッドの後玉側に被せて固定し、レンズヘッドのマウント側を52mmのフィルターネジにすることができるようになった。あとは、そのまま中国製のM52-M42ヘリコイド(35-90mm)に搭載すれば、M42レンズとして使用可能である。M52-M42ヘリコイドはeBayにて50ドル程度から入手することができる。レンズの光軸が傾いてしまったりズレてしまうのを予防するため、レンズヘッドの土台部分に58mm-52mmカプラーを填めてみた。こうすることでレンズヘッドフードの内側にある平らな部分に乗り安定する。なお、レンズの鏡胴内やヘリコイドの内側には反射光防止用の植毛を貼っている。これだけの対策でハレーションはかなり抑制され、写真のコントラストもだいぶ向上している。本レンズのようにイメージサークルの大きなレンズではハレーション対策に万全を期す事が肝心なのである。
 



このレンズにはフィルターネジがないので、ステップダウンリングを前玉側にエポキシ接着した。これで、フードやキャップを装着することができる

撮影テスト
遠方に点光源をとらえ撮影したところ、焦点距離150mmの本レンズでもトリオプランの開放描写を彷彿させる輪郭のハッキリとしたバブルボケを確認することができた。しかも、本レンズの場合は大きなボケ量と強い望遠圧縮効果のため、大小さまざまな大きさのバブルを近接撮影時のみならずポートレート撮影時においても発生させることができる。バブルボケの出るレンズは収差(球面収差)が過剰に補正されており背後のボケは硬くザワザワとしているが、反対に前ボケはフレアに包まれフワッと柔らかく拡散するのが特徴で、これが本レンズの場合にはキラキラと輝きながら滲む素晴らしい写真効果を生む。過剰補正のためピント部は薄いハロに覆われ、ポートレートで人物を撮るのに適した柔らかい描写となっている。コントラストは低く階調はたいへん軟らかいが、中間部の階調はよく出ている。長焦点レンズということもあり、画質は四隅まで大きな乱れもなく安定している。ボケも四隅まで整っておりグルグルボケや放射ボケは全く見られない。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには望遠レンズ用の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。それではダイアプランシリーズ最大のバブルボケをご堪能いただきたい。
 
撮影に使用したカメラはSony A7
Photo 1, sony A7(AW:晴天,カラーバランス補正あり): 柔らかく、軟らかい描写がこのレンズの特徴だ。JPEG撮って出しのオリジナル画像はこちら


Photo 2, sony A7(AWB, 色調補正済): 自転車のハンドルから光のオーラが立ち上がっているが、これも収差の仕業であろう。少し口径食が出たのは深いフードを装着してしまったため。フードの丈を調整をした。補正前のオリジナル(JPEG撮って出し)はこちら

Photo 3, sony A7(WB:晴天, カラーバランスとコントラスト補正済): 背後の空間には輪郭部のはっきりしたバブルが発生する。JPEG撮って出しの補正無し画像はこちら
Photo 4, sony A7(WB 晴天, コントラスト+50, 明るさ+50): 




Photo 5, sony A7(WB 晴天, 補正なし): 前ボケにはフレアがかかり柔らかい

Photo 6, sony A7(AWB): 続いてポートレート。このスケールでも大小大きさの異なるバブルが出た

Photo 7, sony A7(WB 晴天): 

Photo 8, sony A7(AWB): 前ボケはフレアをまといながらキラキラと綺麗に滲む
Photo 9, sony A7(AWB):後ボケはもちろんのことだが、思っていた以上に前ボケがいい!フワッと綿のように拡散している。こうなったら・・・・
Photo 10, sony A7(AWB): : 調子に乗って前ボケによる表現を堪能するまでのこと

Photo 11, sony A7(AWB): : 再び近接撮影で、こんどはピントをきちんと合わせてみた。トリプレットはもともと中央が高解像なのだ
Photo 12, sony A7(AWB): ピント部はやや滲にをともなう柔らかい描写である。ポートレート撮影で女性を撮るにはよいレンズだ



Photo 13, sony A7(AWB): 





Photo 14, sony A7(AWB): 


2016/02/24

VEB Pentacon AV (Meyer Optik Diaplan) 80mm F2.8 (Projector Lens)

東ドイツのペンタコンブランド PART 3
バブルボケの出るプロジェクター用レンズ
VEB Pentacon AV(Diaplan) 80mm F2.8
オールドレンズの分野では数年前から流行しているバブルボケであるが、ブームの火付け役のとなったメイヤー・オプティック社のトリオプラン(Trioplan) 100mm f2.8には、実はプロジェクター用に供給された姉妹品のDiaplan(ダイアプラン)が存在する。レンズ構成はトリオプランと同一で、トリオプランとほぼ同等のバブルボケが発生するため、高価なトリオプランの代用になる製品として最近注目されはじめている[参考1]。3年前、私にトリオプランのバブルボケを教えてくれたドイツの光学エンジニアMr. Markus Keinathがその後"Soap Bubble Bokeh Lenses"と題する新しい記事を2014年に公開しており、その中でTrioplan 2.8/100とDiaplan(Pentacon AV)2.8/100の描写の比較をおこなっていた[参考2]。彼のレポートによるとトリオプランとダイアプランの描写は発色傾向に差がみられるものの極めて高い類似性があり、解像感やボケ具合等には差が認められなかったという。彼の作例からはダイアプランの方がトリオプランよりもクールトーンな発色傾向であることが判る。ダイアプランには100mm以外にも焦点距離の異なる複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200)を確認している。メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのダイアプランを含むメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わった。
今回紹介するレンズはメイヤーを取り込んだペンタコン人民公社がダイアプランの後継レンズとして生産したスライドプロジェクター用レンズのPENTACON AV 80mm F2.8である。このレンズにはスライドプロジェクターのPentacon Aspectomatシリーズに供給されたモデル(アスペクトマット用)とPentacon AspectarシリーズやPentacon AV autoシリーズに供給されたモデル(アスペクター用)の2系統が存在する。もともと撮影用ではないので絞りやヘリコイドはついていないが、開放でのバブルボケを利用した撮影が目的なので絞りは必要ない。そのまま市販のヘリコイドチューブに搭載して写真用レンズとして用いればよい。

参考文献・サイト
[参考1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
[参考2] Markus Keinath - Soap Bubble Bokeh Lenses

PENTACON AV 80mm F2.8(アスペクトマット用), 絞り無し, レンズヘッドネジ 58mm径, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴はプラスティック製, マルチコーティング, スライドプロジェクターのモデルはPentacon Aspectomat, 


PENTACON AV 80mm F2.8(アスペクター用), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径42.5mm, 鏡胴はプラスティック製,  マルチコーティング, スライドプロジェクターのモデルはPentacon auto 100/ auto 150/ Aspectar



入手の経緯
現在は改造済みの商品を入手することが可能になっており、レンズの改造を専門とするNOCTO工房に相談するか、ヤフオクで個人の工房が改造品を定期的に出品しているので、こちらからも手に入れることができる。2016年8月時点でのレンズの相場は20000円から30000円あたりのようである。
レンズは2016年1月にドイツ版eBayを介し旧東ドイツの光学製品を売る古物商が出品していたもので、アスペクトマット用が即決価格29ユーロ、アスペクター用が即決価格34ユーロであった。写真を見る限りガラスは綺麗で、プラスティック製のマウント部には傷が全く見られなかったので、未使用のオールドストック品と判断し購入に踏み切った。送料が5ユーロと安いにも関わらずドイツから5日で届いた。レンズは極僅かなホコリの混入のみで、クリーニングマークすらない状態の良い品であった。eBayなどの中古市場に流通しているモデルは大半がアスペクター用であり、アスペクトマット用を見つけるのは容易ではない。
  
カメラへのマウント
レンズにはヘリコイドがついていないので、一般撮影用としてデジカメで用いるには市販のヘリコイドチューブと組み合わせて使うことになる。おススメはアスペクター用のレンズヘッド(下の写真・左)をM42直進ヘリコイド(25-55mm)に搭載する改造である。まずはじめにニッパーでレンズガードをバキバキに割り、後玉が露出された状態にする(下の写真・右)。ここで注意しなければならないのは割れた部分で手を切らないよう手袋をすることと、パキパキしているところを家族に見られると怪しまれ、いちいち説明するハメになるので、人が寝静まる夜中などにコッソリ取り組む。









レンズガードを除去したのが下の写真の左。後玉が飛び出しているので、ガラスに傷をつけないよう注意しなければならない。ここに、52-43mmステップダウンリングを取り付け(写真・中央)、エポキシ接着剤でガッチリと接着する(写真・右)。




 
次に下の写真・左のように前玉側に43-46mmステップアップリングをエポキシ接着し、フィルターネジにする。下処理として43-46mmステップアップリングのネジ山を棒やすりで潰しておく必要がある。これを怠ると、据え付けがきつく前玉側の鏡胴が割れる。棒やすりによる下処理が面倒な人は・・・・、やや耐久性に劣るが42-46mmステップアップリングでもよい。完成したレンズヘッドをM42ヘリコイドに乗せ(写真・右)、これで完成。


「2番リング」とはマイクロフォーサーズ用マクロエクステンションチューブで使用されている2番目の中間リングのことだ(下の写真・左)。写真の右にはヘリコイド周りで使用した部品を並べている。39-52mmステップアップリングの代わりに42-52mmステップアップリングを用いても、ネジピッチが異なるのでM42ヘリコイドには着けられない。



続いてアスペクトマット用の改造例である。アスペクトマット用はマウント部に58mm径のオスネジがついており、フィルター用ステップアップリング(39-58mm)が問題なく装着できるので、M39-M42ステップアップリングを介しM42ヘリコイドチューブ(35-90mm)に搭載することができる。この状態でフランジバックはM42マウントレンズとほぼ同じで、若干のオーバーインフ気味であるが無限遠のフォーカスを問題なく拾うことができる。なお、レンズヘッド側のネジの軸(ネジ先からネジ頭まで)がステップアップリングのネジ軸よりも長いので、そのまま装着するとネジ込みが収まりきらず隙間が生じてしまう。レンズヘッド側のネジを棒ヤスリで半分ぐらいに落としておいたほうが見栄えは良い。(注意:よくある36-90mmでは無限遠が出ない!。その場合にはレンズヘッド側のネジを棒ヤスリで落とすことでフランジを削り無限を出す)





続いてアスペクター用モデルであるが、鏡胴径が約42.5mmなのでM42ヘリコイドにはギリギリ収まらず、改造難度はこちらのほうが高い。ルーターでネジ山をつぶしたステップダウンリング(52-43mm)を鏡胴にはめて接着固定し,そのままM52-M42ヘリコイドに搭載してM42レンズとして用いるのことにした(写真・下)。プラスティック製のレンズガードはニッパー等で除去している。


おすすめのモデル
冒頭でも触れたがPentacon AV(Diaplan)には少なくとも9種類のモデル(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150)が存在する。どれを選択すればよいのかはカメラの種類と撮影対象(マクロ域で使うのか?ポートレート域で使うのか?)で決まる。私のおすすめは35mm版換算で焦点距離が100mm以上になるモデルである。このくらいの長焦点レンズになると望遠圧縮効果が有利に働き、大小不揃いのバブルボケが発生するので、奥行きのある空間をシャボン玉の泡沫が浮遊しているように見える。使用するカメラがAPS-CセンサーやM4/3センサーを搭載した機種ならば9種類あるモデルのどれを選んでもよいが、センサーサイズの事を考えると口径比がF3よりも明るいモデルがよいだろう。マクロ域での撮影が中心ならば80mm F2.8、ポートレート域で人物の背後にバブルボケを出したいならば80mm F2.8か100mm F2.8(F3)をおすすめする。焦点距離が長いほどボケ量を稼ぐには有利だが、長すぎるとスナップ撮影では手振れを起こしやすく使いにくい。一方、使用するカメラがフルサイズセンサーを搭載した機種なら焦点距離100mm以上のモデルがおすすめである。中でも150mmF2.8はダイアプラン系列で最大の口径を誇り、50mmの標準レンズに換算しF0.9相当の極めて大きなボケ量が得られるので、ポートレート域で人物を撮る際には絶大な効果(巨大バブル)を期待することができる。60mm F2.4はトリプレット型ではなくダブルガウス型なのでバブルボケの出る保証はない。

撮影テスト
バブルボケの出るレンズはどれも収差(球面収差)を過剰に補正したものであるため、背後のボケは硬くザワザワとして煩いが、反対に前ボケはフレアに包まれ柔らかく美しいのが特徴である。本レンズの場合はやや長焦点レンズということもあり、ピント部の画質は四隅まで大きな乱れもなく安定している。ボケも四隅まで整っておりグルグルボケや放射ボケは全く見られない。私は望遠圧縮効果を強化するため、Sony A7をAPS-Cクロップモードに切り替えて撮影した。この場合の換算焦点距離(35mm版換算)は120mm相当である。遠方に点光源をとらえマクロ域を撮影したところ、大小さまざまな大きさのバブルボケを発生させることができた。トリオプランの開放描写を彷彿させる、輪郭のハッキリとしたバブルボケである。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには80mm相当の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。

撮影機材
カメラ SONY A7 (APS-Cクロップモードで使用) / Sigma SD Quattro
Photo 1: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)




Photo 2 by Yusuke SUZUKI : Pentacon AV80mm F2.8, Sigma SD quattro

Photo 3: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)

Photo 5 by Yusuke SUZUKI : Pentacon AV80mm F2.8, Sigma SD quattro
Photo 4: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)
Photo 6: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(FF mode, AWB)









Photo 7: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)

2016/02/11

Kinoptik Paris Apochromat 100mm F2のハレーション対策



Kinoptik Apochromat 100mm F2のハレーション対策
キノプテック・アポクロマート(Kinoptik Apochromat) 100mm F2は逆光撮影にたいへん弱く、純正フードを装着しても写真の中央部に盛大なハレーション(ベーリング・グレア)の塊が発生する。知人のプロカメラマンからこの問題をどうにか改善できないかとレンズを託された。問題の発生原因を突き止めたのはフードに光を通し反対側から覗き込んだ時で、内側の壁にはギラギラとした照り返し光が顕著にみられた。なんと、高級なアルパの純正フードであるにも関わらず、反射防止塗料が用いられていなかったのである。フードの内側に植毛をはり、改善効果を検証することにした。
フードの内側に光の反射を抑える植毛を貼る 
撮影テスト
(1)フードを装着しないケース、(2)純正フード(植毛なし)を装着したケース、(3)純正フード(植毛あり)を装着したケースの3パターンで逆光撮影による画質の比較を行い、植毛を用いて反射を抑えたことによる改善効果を検査した。テストに使用したカメラはSONY A7で、マニュアルモードでシャッタースピードを固定、ISO感度は200としている。撮影テストはカメラを三脚に固定した状態で実施した。レンズの絞りは全て開放としている。
Photo 1: フードも何もつけない場合。ハレーション塊が発生しコントラストも低い



Photo 2:  純正フード(植毛なし)を装着した場合。中央部のハレーション塊は少し抑制されているが、依然として盛大に出ている

Photo 3: 純正フードの内側に植毛を貼った場合。ハレーション塊はほぼ消えコントラストが向上している




続いて太陽の光が斜め前方(画角外)から入る条件でテストした。

Photo 4: フードも何もつけないケース。ハレーションが発生しコントラストが低下している

Photo 5: 純正フード(植毛なし)を装着したケース。中央部にハレーション塊が登場している。フードを付けたことがハレーション塊の発生原因となってしまった

Photo 6: 純正フード(植毛あり)を装着したケース。ハレーション塊が消えコントラストが向上している









逆光では純正フードの装着・未装着に関係なくハレーション塊の発生を確認した。これに対し、太陽の光が斜め前方から入る条件では純正フードを付けることで逆にハレーション塊が出てしまった。これは、フードの表面で照り返しが生じたからである。フードの内側に植毛をつけることでハレーション塊は消え、コントラストが向上した。


2016/02/07

Dallmeyer 1inch F0.99(C mount)*

シネマ用レンズに口径比の明るいものが多いのは、カメラのシャッタースピードがフレームレート(コマ数)と回転式シャッターの開角度で決まってしまい、露出コントロールをレンズの絞りに頼らざるを得ないためである。シネマ用レンズのDallmeyer f0.99は1929年当時に高速レンズの頂点を極めた最も明るいレンズである。





表の顔は史上最も明るいマッチョ・レンズ
裏の顔は激烈な豹変系レンズ
Dallmeyer 1inch F0.99 (C mount)
英国ダルマイヤー社が16mmシネマカメラのBolex Filmo用として供給したDallmeyer 1inch F0.99は、私がこれまで入手したレンズの中で最も明るく、なおかつ絞りの開閉による画質の変化が最も著しい製品である。米国映画技術者協会(Society of Motion Picture Engineers)が1930年に刊行した雑誌[文献1]には「史上最も明るいレンズ」とする掲載文があり、1929年の暮れには既に登場していたことが記されている。それまで最も明るいレンズは1925年に登場したエルノスター(Ernostar) F1であるから、わざわざF0.99という中途半端な口径比が選ばれたのはエルノスターの記録を僅かでも破るためであったに違いない。しかし、このレンズがイタズラに明るさだけを追求して作られた製品でないことは、F2.8まで絞った時の画質を見れば明らかで、フォーカス部のキレとヌケの良さ、中心解像力の高さは1920年代に設計されたレンズとは思えない素晴らしいレベルに達しているのである。
レンズの構成は下図に示すようなペッツバール型で、前群に肉厚でマッチョな正レンズを据えることで強大なパワーを引き出し、極めて明るい口径比を実現している。F0.99という未踏の明るさと優れた描写力をわずか4枚のレンズで実現しているのは大変な驚きである。同社の明るいシネマ用レンズと言えば、本ブログでは過去にSpeed Anastigmat F1.5を取り上げているが、このレンズの場合は絞ってもモヤモヤとしたフレアが多く残存し、収差との上手な付き合い方を心得た上級者向けのレンズとして紹介した。今回取り上げるレンズとは異なる描写傾向である。ただし、くれぐれも誤解のないようにしてもらいたい。Dallmeyer F0.99の性格が素直なのは、あくまでも絞った時の話である。絞りを開ければ収差が急激に溢れ出し、激烈な変化の末、もう一つの別人格へと完全に変化してしまうのである。F0.99での荒れ狂う開放描写に対しては、もう開き直って見事と評価するしかない。この種の豹変系レンズではお馴染みの「一粒で二度おいしい」なんて生易しい表現が遥か彼方にかすんでみえる。
Dallmeyer 1inch 0.99の構成図(見取り図)。[文献2]に掲載されていたものをトレーススケッチした。構成は3群4枚のペッツバール型である。逆三角形風のマッチョな光学系である
入手の経緯
レンズは2015年12月にeBayを介し米国のシネレンズ・コレクターから落札した。このコレクターはNASAに供給されたスイター75mm F2.5など珍しいレンズを次々と出品しており、少し前からマークしていた人物である。950ドルの最大入札額を設定し自動入札ソフトでスナイプ入札を試みたところ、911ドルで自分のものとなった。送料に55ドルかかったので出費額は966ドル(約12万円)である。届いたレンズはヘリコイドリングの回転こそ重かったが、ガラスの状態は非常に良好であった。このレンズは中古市場での流通量が極めて少ないコレクターズアイテムとなっており相場価格は定かではないが、同じDallmeyer社のSpeed Anastigmat F1.5が9~10万円程度で取引されていることを考えると、この辺りの値段で落札できたのはラッキーだったものと思われる。真鍮鏡胴の側面にみられるペイントロスはまるで黒漆の工芸品のようである。eBayには即決価格2500ドル(約30万円)で1本出ているが、この値段では流石に売れていないようである。

Dallmeyer 1inch F0.99: 最短撮影距離 2 feet(約0.6m), 絞り値 F0.99-F11, 構成3群4枚, ペッツバール型, 前玉回転式フォーカス機構, 対応マウント C-mount



参考文献
  • 文献1  Journal of the Society of Motion Picture Engineers(1930) p567に1929年12月の撮影テストの報告が掲載
  • 文献2  "Lenses", The Commercial Photographer(1930) P263 構成図が掲載されている

撮影テスト
このレンズの包括イメージサークルはCマウント系レンズとしては比較的広く、APS-Cセンサーでも四隅が僅かにケラれる程度である。オリンパスPENなどのM4/3センサーならば十分にカバーできる。ただし、レンズ本来の定格イメージフォーマットはこれよりも遥かに小さい16mmシネマフィルムなので、普段は写らない広い領域(画角)をカバーしてしまう(下図)。その分だけ写真の四隅は厳しい画質になることを覚悟したほうがよい。

マイクロフォーサーズフォーマットでの撮影
このレンズの描写傾向を簡単に言い表すならば、「絞れば素晴らしく、開ければ凄まじい」に尽きる。開放ではグルグルボケが凄まじく、コマ収差に由来する激しいフレアの影響でコントラストも低下気味となる。画質的に良好なのは写真中央の狭い範囲に限られる、中心部はそこそこ解像力があり、球面収差は良好に補正されている。開放F0.99からF1.4、F2と絞るにつれ良像域は四隅に向かって広がり、F2まで絞ればフレアはかなり消えスッキリと写るようになる。F2.8まで絞ればヌケはよく、グルグルボケはほぼ収まり、解像力とコントラストは素晴らしいレベルに達する。

Photo 1, F2.8, Olymnpus Pen E-PL6(AWB): ヌケの良さ、解像力、コントラストの高さはとても素晴らしい
Photo 2, F2.8, Olympus Pen E-PL6(AWB): 中心部の解像力は素晴らしい。PENで用いる場合には、本来写らない広い領域まで写るため、周辺画質がやや妖しくなるのは仕方のないこと。それでは開放描写にいってみよう!





Photo 3, F0.99(開放) Olympus Pen E-PL6(AWB): 絞りを全開にしてレンズの主張を解き放つ。フレアが多く発生しコントラストも低下気味になる。グルグルボケがかなり目立つ
Photo 4, F0.99(開放) Olympus Pen E-PL6(AWB): 凄まじい魔力が溢れだしコントロール不能に陥る



Photo 5. F0.99(開放)Olympus Pen E-PL6(AWB): 収差の力を借りれば、こんなこともできる・・・凄い

Photo 6, F1.4, Olympus Pen E-PL6(AWB): こうなったら収差を積極的に利用するまでのこと。はやいところ開き直るのが肝心だ





Photo 7, F2, Olympus Pen E-PL6(AWB):  少し手加減してもらうためF2まで絞る。中心部のヌケはだいぶ良くなったが、背後のグルグルボケはまだ顕著にみられる

Photo 8, F1.4, Olympus Pen E-PL6(AWB):  酔いそうだ・・・



マイクロフォーサーズ機(アスペクト比3:4)での撮影
一般にレンズは本来の定格イメージフォーマットで用いるときに最も力を発揮できるよう設計されており、マイクロフォーサーズの規格はこのレンズには広すぎる。幸いにもオリンパスPENにはイメージフォーマットのサイズを変更できる機能(アスペクト比のカスタム設定機能)があるので、これを使わない手はない。最も小さいイメージフォーマットはアスペクト比を3:4に設定する場合であり、下図のようにレンズの定格である16mmシネマフォーマットに近いサイズとなる。このアスペクト比で撮影すれば収差は穏やかで扱いやすく、グルグルボケもだいぶ収まる。
レンズの定格イメージフォーマット(16mmシネマフォーマット)とカメラのイメージフォーマット(M4/3機でアスペクト比を3:4に設定)の比較。若干広い範囲までをカバーしてしまうが、レンズ本来の画質に近い撮影結果が得られる。
Photo 9, F2.8, Olympus Pen E-PL6(Aspect ratio 3:4, AWB): 逆光では軟調に大きく転びライトトーンな描写となる


Photo 10, F2, Olympus Pen E-PL6(Aspect ratio 3:4, AWB): こういう動きのある被写体にはグルグルボケが有効だ

Photo 11, F2.8, Olympus Pen E-PL6(Aspect ratio 3:4, AWB): F2.8ではほぼグルグルボケが収まる
Photo 12, F2.8, Olympus Pen E-PL6(Aspect ratio 3:4, AWB):

最後に、レンズをお譲りした知人が撮影した1枚。カメラはFujifilmのX-T1である。APS-Cセンサーでは四隅がややケラれることがわかる。

Photo 13, F0.99(開放), Fujifilm X-T1:(APS-C): カメラ仲間達と鎌倉の由比ガ浜にて 右側に写っているのは私