おしらせ


2015/12/11

Fuji Photo Film X-Fujinon 55mm F2.2(Fujica X-mount)*









Xフジノンの明るいノンガウス part1
バブルボケの出るお値打ちレンズ
Fuji Photo Film X-Fujinon 55mm F2.2
オールドレンズの分野では2~3年前から世界的に流行しているバブルボケであるが、火付け役となったメイヤー社のトリオプラン(Trioplan)100mmは中古市場の相場がついに10万円を超え、流行前の10倍の価格にまで跳ね上がってしまった。入門者には手を出し難い高嶺の花である。しかし、バブルボケの性質自体は何も特別なことではなく、程度の差こそあれ古いトリプレット系レンズやその発展形態のエルノスター系レンズなどに普遍的にみられる描写傾向なので、探せばトリオプランのようなレンズは案外どこにでもある。ポイントは後ボケの硬いレンズである。10万円も出す必要はないので1本紹介しよう。富士写真フィルム株式会社(現・富士フィルム)が一眼レフカメラFujica AX/STXシリーズの交換レンズとして生産したX-Fujinon 55mm F2.2である。このレンズは1970年代に市場供給されたM42マウント(旧モデル)の後継製品として1980年に登場し、80年代半ばまで生産されていた。マウント規格はAX/STXシリーズへの移行に合わせて登場したフジカXマウント(2012年登場のフジXマウントとは互換性がない)である。設計構成は下図に示すような4群4枚のUNAR型で、事実なら20世紀初頭に姿を消した非常に珍しい設計構成ということになる。中古市場での流通量はとても多く、ヤフオクでは2000円から3000円程度で取引されているお値打ちレンズだ。Fujica AX用のマウントアダプターがやや高価なので、安く済ませたいならM42マウントの旧モデルでも設計は同一なので十分であると思う。ただし、M42マウントのモデルにはマウント部にプラスティックの小さなツメがありアダプターと干渉するので、棒やすりで削り落とす必要がある。また、初期のモデルはシングルコーティングなので、コントラストが高く発色の鮮やかな描写に拘るのであればEBCコーティング(マルチコーティング)が施されたM42マウントの後期モデルかFujica Xマウントの後継モデルを選択するのがよい。

X-Fujinon 55mm F2.2の構成図(文献1からのトレーススケッチ)。上が前玉、下がカメラ側である。設計構成はは4群4枚のUNAR(ウナー)型



参考文献
  • 文献1: Baris S.Bille WEB page, "X-FUJINON" 2015年秋までは閲覧できたが現在は閉鎖中となっている。フジカレンズの情報が完全に網羅され素晴らしい情報量を誇っていた。現在はキャッシュ検索のみにヒットする。

入手の経緯
このレンズはヤフオクを介し大阪の個人出品者から入手した。若干のクモリがあるとのことでキャップと保護フィルターがオマケでついていた。商品は開始価格500円でスタートし3人が入札、結局1300円+送料で私のものとなった。届いたレンズを清掃してみたところクモリの原因は汚れとカビの除去跡であった。カビ跡はコーティングの腐食なので除去できないが、清掃により実写に影響のないレベルまでクリアになったのでブログで紹介することにした。現在のヤフオクでの相場は2000円から3000円程度である。中古市場には大量に流通しており、じっくり探せばもっと安く手に入るかもしれない。フジカの廉価版キットレンズだったため、カメラとセットで売られていることも多い。
 
重量(実測) 130g, 絞り羽根 5枚構成, フィルター径 49mm, 画角 42°, 絞り値 F2.2-F16, 最短撮影距離 0.6m, 構成 4群4枚(UNAR型), 対応マウントはSTシリーズ用に供給されたM42マウント(1970-1979年)とFujica AX/STXシリーズ用に供給されたFujica Xマウント(1980-1985年)の2種, M42マウントの前期型はモノコートで同後期型とfujica Xマウントの後継モデルはマルチコート(EBCコーティング)となっている
撮影テスト
撮影していてとても楽しめるレンズである。開放で僅かに発生するフレアがしっとり感を演出し、とても雰囲気のある撮影結果になる。シャープネスやコントラストはそれほど悪くはなく、適度な解像感が維持されている。もちろん絞ればフレアは無くなりスッキリとヌケの良い描写でコントラストも一層向上する。発色は癖などなく色乗りもよい。開放では背後のボケが非常に硬く、ザワザワと強い主張を示し2線ボケ傾向もみられる。バブルボケがかなりハッキリと発生するので、うまく利用すれば幻想的な面白い写真になるであろう。反対に前ボケはフレアにつつまれ柔らかい拡散を示す。像面湾曲が良好に補正されているようでピント部は均一性が高い。ボケはよく整っており非点収差に由来する背後のグルグルボケは全く目立たないレベルである。オールドレンズの入門者のみならず、素直で大人しいレンズでは満足できないという上級者にもオススメのとても楽しいレンズである。以下に示すのはすべて開放での作例だ。

F2.2(開放), Sony A7(AWB): しっとり感があり、とても魅力的な開放描写だ。背後のボケがザワザワと主張したがっている。ハレーションが出やすいにもかかわらず開放からシャープネスは高くコントラストも十分。解像力も良好だ




F2.2(開放), Sony A7(AWB, ISO2500): やはり、こうなった。バブルボケの出るレンズであることがわかる。しかも、かなりしっかりと出るようだ。こうなったら・・・


F2.2(開放), Sony A7(AWB): 最短撮影距離で逆光にさらしレンズに無理をさせるまでのこと!。無理をさせればさせるほど、レンズは底力を見せるようになる


F4, Sony A7R2 (AWB) 















F2.2(開放), Sony A7R2 (WB:曇天)

F2.2(開放), Sony A7R2 (AWB) 




2015/12/05

「オールドレンズx美少女」の出版記念イベントおよびモデル撮影会*


「オールドレンズx美少女」の出版記念イベント
およびモデル撮影会

写真家・上野由日路氏が執筆された「オールドレンズx美少女」の出版記念イベントが11月29日に自由が丘にてブリコラージュ工房NOCTOの主催で開かれました。イベントには「オールドレンズライフ」などの著書で有名な澤村徹さんや、「オールドレンズの新しい教科書」などの著書で知られる鈴木文彦さんら豪華な顔ぶれが駆けつけ大いに盛り上がりました。上野さんが出版された本については本ブログでも過去にこちらの記事で取り上げています。


祝賀パーティでは何と私が祝辞のスピーチを述べる大役を担うことに(大汗)。そして、パーティの後にはジョイント企画としてモデル撮影会が開催されました。自然光を生かしたハウススタジオで5人のモデルさんを4か所のロケーションで撮るというもので、今夏に鎌倉で行われた和モデル撮影会の続編という位置づけです。ここでの私の役割は撮影班(第1班)を引率し5人のメンバーを4か所のロケーションに誘導することでした。引率の合間に私も撮影をさせてもらいましたので、撮影に用いたレンズと写真をご紹介したいと思います。

1本目に使用したのはシネマ用レンズやズームレンズのパイオニアメーカーとして名高いフランスのアンジェニュー社が1942年から1958年まで生産した35mmスチル撮影用の明るい標準レンズのAngenieux Paris Type S1 5cm F1.8です。同じ班で撮影会場を巡回したKさんのご厚意により使わせていただいたレンズです。
Angenieux Paris Type S1 5cm F1.8 ALPA ALITAR用をLeica-Lマウントに改造したもの。最短撮影距離 1m, 製造期間 1942-1958年, 6種類のマウント規格(ALPA /LEICA /CONTAX/ RECTAFLEX/ EXAKTA/ M42)に対応する製品モデルが市場供給されています。


Angenieux Type S1 50mm F1.8の構成図。公式カタログからのトレーススケッチ(見取り図)。構成は4群6枚のダブルガウス型
レンズの鏡胴は上の写真にあるようなブラウン色でしたが、本来はブラックだったものが色落ちして、こんなにも美しいペイントカラーに変化したのだそうです。ちなみに中古市場に出回っている製品個体は様々なレベルで色落ちしており、あたかもカラーバリエーションがあるように思えてしまいますが、元は全て同じ色でした。レンズの構成は4群6枚の典型的なダブルガウス型です(上図)。このレンズが登場したのはダブルガウス型レンズがまだ発展期だった頃で、この種のレンズの持病と言われるコマ収差の補正が大きく進歩したのは、これよりもだいぶ後の事です。開放ではフレアを伴う柔らかく繊細な描写を堪能することができます。撮影結果を何枚かご覧ください。

F1.8(開放), Angenieux Type S1 +Sony A7(AWB): やはり開放ではオールドガウスに特有のモヤモヤとしたコマフレアが出ており、柔らかい描写となっています。逆光撮影時にハレーションが出やすいのもこのレンズの特徴ですが、ゴーストが出にくいうえに発色が濁りにくいので、画として破綻することがありません。とても使いやすいレンズです


F2.8,Angenieux Type S1 +Sony A7(AWB): 1段絞ると急にヌケが良くなりシャープな像となります。背後のボケは硬めのテイストで2線ボケ傾向もありますが、これは球面収差の膨らみをたたき解像力を向上させるための反動ですから、折り込み済の描写傾向です。艶やかな質感表現のできるレンズです
F2.8,  Angenieux Type S1 +Sony A7(AWB): 階調はシャドー部がよく粘る印象でトーンがとてもなだらかにでています。作品創りにはもってこいの素晴らしいレンズだと思います。レンズを使わせてくださったKさんには大変感謝しています



続いて2本目に使用したのは世界最古の光学機器メーカーとして名高いフォクトレンダー社が1951年に登場させたNokton 50mm F1.5(プロミネント用)です。当時このクラスの明るさのレンズにはNoktonのようなスッキリとヌケの良い開放描写を実現できるものがありませんでした。Noktonはたいへんヒットしたレンズで、1958年までの8年間に少なくとも81611~85073本もの数が生産されたと記録されています。積極的に開放撮影を実践してみました。こちらも撮影結果を何枚かご覧ください。
F2, Nokton+Sony A7(AWB): とても良く写るレンズです。少しアンダー気味にとっていましたが、どういうわけかアップロードするとトーンが粗くなるので、階調全体を若干持ち上げました


F1.5(開放), Nokton+sony A7(AWB): Noktonの開放描写は完全に実用的です

F1.5(開放), Nokton+Sony A7(AWB): 開放でも質感表現は力強いです。厳しい逆光にさらしていますが、見事に耐えてくれました





NOCTO主催のモデル撮影会は今後も年2回程度のペースで定期的に開催されるそうです。オールドレンズつかいが集結し、情報交流の場としても十分に魅力のある会合です。とにかくモデルさん達が素晴らしいので、ご興味のある方は、ぜひとも足を運んでみてください。