おしらせ


2010/11/01

ENNA München TELE-ENNALYT 135mm/F3.5


うーん・・・
デザインが良いから許します。ハイ

Enna社は戦後の旧西ドイツで廉価なレンズを生産していた新興メーカーだ。センセーショナルな製品を世に送り続けてきた元気の良い企業として知られている。1953年に西ドイツでは初となるレトロフォーカス型広角レンズのLithagon 35mmを発売すると、1955年には驚異的な光学性能を持つ大口径中望遠レンズのEnnaston 85mm/F1.5(後にEnnalytに改名)や、東西ドイツで初となる焦点距離28mmの一眼レフ用広角レンズUltra-Lithagon 28mm/F3.5を送り出し話題となった。Ennastonは希少価値が極めて高く、現在の中古相場では3000㌦以上の高額で取引されることもある。続く1958年に発売した9枚玉のSuper-Lithagon 35mm/F1.9は開放絞り値がズバ抜けて明るく、世界で最も明るいレトロフォーカス型広角レンズとして注目を集めた。また、1961年に当時としては解放F値が極めて明るい巨大な望遠ズームレンズのTELE-ZOOM 85-250mm/F4を発売しモンスターの愛称で呼ばれた。このようにEnna社は派手な光学性能を持つレンズを次々と発表し、存在感のあるメーカーに成長した。
今回入手したTele-Ennalyt 135mm/F3.5は同社が1955年に発売した単焦点望遠レンズのブランドである。光学系は1949年に登場したたシュナイダーのTele-Xenar 135mm/F3.5(ゾナーから発展した4群5枚構成)に大変良く似た設計で、Tele-Xenarが持つ第2群目の張り合わせ構造を分離した5群5枚の設計となっている。初期のものはアルミ製の鏡胴であるが今回入手したゼブラ柄の個体は60年代初頭に行われたモデルチェンジによって世に出た第二世代の製品で、M42マウントとEXAKTAマウントに対応する2種が供給されている。なお、1963年代には本品を更に大口径化させたF2.8の開放絞り値を持つモデルも追加されている。デザインは存在感たっぷりのゼブラ柄で、安価な価格とともに消費者へのアピール度は充分である。ひとつ残念なのは絞りリングの制御をヘリコイドの繰り出し機構と分離させなかった点であろう。製造コストを安く抑えるために構造を単純化させたとはいえ、絞り値の設定時にもう片方の手を使いヘリコイドリングを押さえおかないとピントがずれてしまう。同様の難点は広角レンズのLithagonにも見られる。
焦点距離135mm/絞り値F3.5--F22, 最短撮影距離1.5m, フィルター径52mm,重量(実測)266g(フード込みで294g), 光学系は5群5枚で絞り羽根は12枚構成、絞り機構はフルマニュアル。M42マウントとEXAKTAマウントに対応する2種が存在する。OEM供給された同一品がTele-SandmarやTele-Ennastonなどの名で発売されている。ただし、これらはEXAKTAマウント用のみである

ENNA社は1964年までに累計400万本ものレンズを生産している。しかし、同社の製品が高いブランド力を獲得することはなかった。1965年頃からはOEM生産が主体となりドイツ国内外を問わず様々なバイヤーズブランド名でレンズを供給した。この頃の製品は製造コストの削減が優先され、絞り機構がフルマニュアルへと退化し、鏡胴の素材にはプラスティックが使われるようになっている。同社は1990年代までレンズやスライドプロジェクター等の光学機器の生産を続けていたが、現在はカメラ用レンズの生産から撤退している。Enna社の製品や歴史についてはFriedrich-W.Voigt著の"ENNA TASCHEN BUCH"(1965 Heering-Verlag)に詳細な情報が記されている。
★入手の経緯
本品は2010年6月にeBayを介し、中古レンズを専門とするギリシャのトップセラーstill22から落札購入した。オークションでは「12枚の絞り羽根、パーフェクトなボケ」との触れ込みで、「鏡胴はEXCELLENT++コンディション。鏡胴には少し使用感がある。前玉コーティングにクリーニングマークがあるが撮影結果に影響はない。他のレンズエレメントはクリアー。各部の動作、絞りは精確かつスムーズに動く。フォーカスリングの動作もスムーズかつ精確。」と解説されていた。オークションの締め切り間際に最大落札価格を102㌦に設定して入札したところ61㌦であっさりと落札できた。送料込みでの総額は84㌦であった。この業者にはこれまでも良い品を売っていただき、だいぶお世話になっている。商品に対する記述が的確で過去に一度も裏切られたことがない。今回も勿論、記述どうりの商品が届いた。
★撮影テスト
がんばれENNAと言いたいところだが、描写力については廉価製品らしさが滲み出ている。ボケ癖や周辺画像の流れなどはなく素直な結像が得られるが、シャープネスは平凡でコントラストも高くない。
Tele-Ennalytの光学系は5群構成であり、当時の135mm望遠レンズの大半が3群ゾナー型や4群の設計を採用したことを考えると異例の構成群数となる。5群というのは大方のレトロフォーカス型広角レンズと同じ群数で、光の反射防止膜の進歩によって当時ようやく実用的な画質を維持できるようになった敷居の高い構成だ。わざわざ無理をして5群構成に踏み切った経緯はわからないが、その反動が撮影結果にハッキリと出てしまっているのではないだろうか。ちなみに本ブログで過去に取り上げた5群構成のLithagonもコントラストの低いレンズであった。本レンズを屋外で使用する際にはしっかりとフードでハレ切りをしておかないとフレアが発生しやすく、暗部が浮き気味でメリハリのない軟調な撮影結果に陥りやすい。また、開放絞りでは残存球面収差が大きいようで鮮明感は高くない。被写体の輪郭部に弱いハロが生じることもある。いずれも深く絞れば問題ない。カラーバランスには癖はなく自然な色の出方である。細かいことではあるが、解像度の高いデジタル一眼につけて使用すると開放絞り付近で軸上色収差による色滲みを拾い、ピント合わせの際にピント面近くにある像の輪郭部が前ピンで赤、後ピンで青に色付いて見えることがある。また、ハイコントラストな撮影シーンに対して中間階調が省略気味になる点も気になる。ベンチマーク的な性能は平凡なわけだから、描写面でもう少し個性が欲しいところだ。
F3.5(開放絞り) NEX-5 digital, AWB: 開放絞りではあまり解像力が高くない。コントラストも低め

F8 NEX-5 digital,AWB:   あまりシャープなレンズとは言えないが絞ればこれくらいは鮮明になる。コントラストのつき具合も良好だ

 ★撮影機材
Sony α NEX-5 + ENNA Tele-Ennalyt 135/3.5 +純正メタルフード
このレンズは描写力に期待するよりも、派手なゼブラ柄のデザインを楽しむというのが正しい付き合い方のように思える。まぁ、こういうレンズもありだと思う。


2010/10/27

LZOS MC VOLNA-9 50mm/F2.8(M42) ボルナ9


ロシア製マクロレンズの決定版

MC VOLNA-9はロシア(旧ソビエト連邦)が1980年代中ばから1992年頃までモスクワの近郊都市リトカリノにあるLZOS(リトカリノ光学ガラス工場)で製造した50mm/f2.8の単焦点レンズだ。光学系の構成は5群6枚のガウス型であり、近接時において高い描写力(解像力 etc...)が得られるように設計されたマクロ撮影専門のレンズである。近接撮影時の最大倍率は0.5倍(最短撮影距離は24cm)であり、花や虫を大きく写すことのできる。マクロ専門とは言うが、通常の撮影でも普通に使うことができ、普通レンズよりシャープな撮影結果が得られる。eBayでの実売価格は150㌦程度とマクロレンズとしてはかなり手頃な価格で取引されている。設計が新しく良く写く写ると評判であり、コストパフォーマンス抜群のレンズとして高い人気がある。
鏡胴は金属製のため重量感があり、手にとるとズシリと重い。また、バレル径が太くヘリコイドの繰り出し量が長いことから、ピントリングの回転にはかなりのトルク感を感じる。ガラス面に施されている光の反射防止膜はマルチコーティングとなり、内面反射を軽減することでフレアやゴーストなどが発生しにくいハイコントラストな描写力を実現している。5群6枚という設計は過去に取り上げたテッサータイプのマクロレンズ(マクロキラーやインダスター61)よりも豊かな階調変化と緻密な解像力を実現してくれそうだ。似たような構成(ガウス型)のレンズに本ブログで過去に取り上げたSteinheil社のMacro-Quinonという優秀なマクロレンズがあるが、反射防止膜がマルチコーティングである分、このレンズよりもVOLNA-9のほうがハイコントラストな撮影結果が得られるのではないかと思われる。いかにも良く写りそうなレンズだ。
なお、本レンズは星型の絞り羽根を採用したことにより、アウトフォーカス部に置かれた点光源の像が幻想的な星の形に姿を変える有名な星ボケを発生させることができる。


焦点距離 50mm, 絞り値 F2.8--F16, 重量340g   , 最大撮影倍率 0.5 最短撮影距離 0.24m, 絞り羽根の枚数 6, フィルター径 52mm, 光学系 5群6枚で1983年に設計された, 絞り機構はプリセット式。コーティングの色は赤紫。対応マウントはM42に加え、PENTAX Kマウント(レアな限定版)のMC VOLNA-9Kも存在する
焦点距離が50mmで開放絞り値がF2.8という仕様は同じ工場で生産されているテッサー型レンズのINDUSTAR 61L/Z-MC 50mm/F2.8と同一である。両者を並べると後玉径や前玉径はやはりガウス型のVOLNA-9のほうが大きく、光軸方向にも厚みがあるため、鏡胴のサイズはVOLNA-9の方が一回り大きい。INDUSTAR 61L/Z-MCも最大撮影倍率が1/3倍とマクロ的な撮影が可能で、たいへん優れた描写力を持つレンズであるが、近接撮影ともなれば、より高度な収差補正を行う本品の方が解像力(緻密さ)において一枚上手なのであろう。
VOLNA-9のガラス面にはINDUSTAR 61L/Z-MCのガラス面に対し1980年から1985年まで施されていた紫色のコーティング(つまり「お古」)が施されているようで、その証拠にINDUSTAR 61L/Z-MCのコーティングはVOLNA-9の生産が開始された頃の時期を境目に、紫色のタイプからゴールド色の新しいタイプに変更されている。また、VOLNA-9の絞り羽根にはINDUSTAR 61L/Zと同じ6枚構成の星形の羽根が使われており、製造ラインの一部を流用した生産体制だったと思われる。

★入手の経緯
VOLNA-9は海外の中古市場で常時出品されている流通量の多い品である。eBayでの相場は送料を含め150㌦程度のようで、主にウクライナの中古カメラ業者が売りさばいている。本品もウクライナの業者から2010年9月に送料込みの総額141㌦にて購入した。出品時における商品の状態はMINT(新品同様)との解説で、同じ業者がMINTと記し販売していた3本の同一レンズの中で鏡胴やガラス面の状態が最も良さそうに見えた。しかし、届いた品には運悪く中玉に製造時由来の小さな気泡が1つあった。

★撮影テスト
ピント面はたいへんシャープで解像度が高く、開放絞りからスッキリとクリアに写る。単色5収差と色収差は良く補正されているようで、ピント面・アウトフォーカス部ともに良く整った乱れの少ない結像である。色滲みもなく、これはもう現代的な描写力を持つレンズである。絞り羽根の形が星型となるF5.6からF8の間のボケ味は独特で、アウトフォーカス部にガサガサとした細かい濃淡変化がある場合にはその輪郭がザワザワとざわめき面白い作風が得られる。ただし、収差由来の2線ボケとは異なり、輪郭の結像自体が乱れるわけではないので、汚い感じにはならない。発色は癖もなく自然で、赤がビビットに表現される点が好印象だ。やや温調という噂を海外の掲示板で耳にするが、本ブログで検証するまでは至ってない。ガラス面にはマルチコーティングが施されており、シャープでハイコントラストな描写力と個性豊かな表現力を備えた優秀なレンズである。


F5.6  Sony NEX-5 digital, AWB: クセのない自然な発色だ。ガラス面はマルチコートされているので、晴天下でもフレアの発生は滅多にない。すっきりシャープに写るレンズのようだ
F5.6 Sony NEX-5 digital, AWB: 出ました秘技「星ボケ」。絞り値がF5.6-F8で発生する。被写体に近付いて接写撮影することが星を引き出すコツだ。このような星型の絞り羽根を持つレンズとしては本品以外にINDUSTAR 61L/ZやHelios-40がある
F5.6 Sony NEX-5 digital, AWB: 背景にガサガサしたものがあると距離によっては星形の絞り羽根の歪さがザワザワとした独特のボケ味を生む
F8 Sony NEX-5 digital, AWB: アウトフォーカス部がこういったシンプルな場合(普通の場合)には絞りバネの歪さがボケ味に影響することはない

上段/下段ともF8 Sony NEX-5 digital, AWB: マクロレンズの醍醐味はこういうものを大きく写せること。マクロ撮影時は被写界深度が薄くなるので、いつもより深く絞り込むのがポイントだ


F5.6 Sony NEX-5 digital, AWB: 赤はたいへんビビットだ
F8 Sony NEX-5 digital, AWB: 距離によっては絞り羽根の影響でボケ味がトゲトゲするが・・・
F8 Sony NEX-5 digital, AWB: そうかと思うと、このように何ともないケースもある。ピント面から背景の被写体までの距離の問題なのであろう


★撮影機材
sony α NEX-5 + LZOS VOLNA-9 50mm/F2.8
Sony NEXにも良く似合うレンズだ

INDUSTAR 61L/Z-MCを使用して以来、ロシアンレンズの高い描写力にすっかりと魅せられてしまった。今回注目したMC VOLNA-9も期待を裏切らない素晴らしいレンズであることがわかった。安価にマクロ撮影を楽しみたい方には、このレンズはオススメしたい。ついでに星ボケも楽しめるし。