おしらせ


2010/09/05

Schneider-Kreuznach JSOGON 40/4.5アイソゴン

40mm準広角レンズ第二弾
シュナイダー社初の一眼レフカメラ用広角レンズ
1950年頃の一眼レフカメラ用広角レンズには40mmの焦点距離を持つ準広角レンズが数多く存在した。Carl Zeiss Jena社のTESSARをはじめ, MeyerのHELIOPLAN,  KilfittのMAKRO-KILARなど各社から4枚玉のレンズが供給されていた。今回とりあげるJsogon(アイソゴン[注1])40mm/F4.5もそのうちの一本で、名門Schneider-Kreutznach社が1951年に製造した準広角レンズだ。製造本数は僅か725本と稀少性が高い。このレンズの光学系についてはトリプレットやテッサーという説もあるが、そうだとすれば同社のRadionarやXenarと被る。他には4枚構成という説もありWEB上には4群4枚という踏み込んだ情報もみつかる。この時代に3群のテッサータイプではなく4群4枚の設計をとるのは画質的に不利なので不自然だが、情報が極めて乏しいので光学系の詳細については完全にお手上げ状態だ。本品はCarl Zeiss Jena Tessar 40mmに次ぐKine-Exakta用に供給された広角レンズの第二号だそうである。
鏡胴は真鍮製クロームメッキ仕上げで、コンパクトながらも手に取るとズシリとした重量感が伝わってくる。前玉がフィルター枠よりもだいぶ奥まったところに位置しており、鏡筒がフードとしての役割を兼ねている。Jsogonというブランド名も焦点距離40mmのレンズもこのレンズ一代限りで姿を消し、同社のその後の一眼レフ用広角レンズはレトロフォーカスタイプで供給されている。

[注1] JSOGONとかいてアイソゴンと読むそうだ。ドイツ語にはJとIの読みが入れ替わることがあり、例えばエキザクタで有名なイハゲー社はJHAGEEと書く。

絞り羽根は8枚構成, 焦点距離40mm, 絞り値:F4.5-F16, 重量(実測):272g, 最短撮影距離:0.5m, 絞り機構はプリセット。対応マウントはEXAKTAとM42

★入手の経緯
本品は2010年3月にeBayを介し、米国ラスベガスの中古業者から120㌦の即決価格で落札購入した。オークションの解説には「クモリ入りだが鏡胴は新品の様に綺麗な状態」とあった。クモリ取りの修理に出せば元が取れるだろうと考え、思い切って購入してみた。Jsogonは名門シュナイダーの珍品とあって本来の中古相場はかなり高く、eBayでは状態の良い品が400~500㌦、クモリ玉でも250~300㌦で売られている。
商品は1週間後に届いた。ガラス面は確かに白濁していたが鏡胴はピカピカで、外観は経年を考えれば奇跡としかいいようのない状態であった。どうか良くなりますようにと願をかけて修理業者に持ち込み、その2週間後に修理から返ってきたが、残念ながらクモリを完全に除去することはできずガラスの表面にプツプツと薄いクモリが残ってしまった。ガラス面の傷を埋め合わせるだけの簡易的な施術では、このあたりが限界なのであろう。完治させるにはガラスの研磨とコーティング皮膜の蒸着ができる特別な業者に持ち込んで、本格的な修理を行うしかないようだ。
★撮影テスト
今回入手したJSOGONは本来の光学性能が発揮できない個体だ。クモリが描写に与える影響としては以下の2つが考えられる。
①ガラス面での光の透過率が低下しフレアが発生
クモリの正体であるガラス面上の小さな傷によってレンズに入ってきた光が乱反射し、その一部がレンズ内で全反射を繰り返しながら留まる。こうして生じた内面反射光の蓄積がフレアとなる。画質面においては暗部が白っぽく浮きあがりコントラストが低下するという影響がでる。メリハリのない解像感の乏しい結果を招くこともある。この影響を軽減させるためにはフードをつけてしっかりハレ切りをおこない、深く絞って撮影する必要がある。

②ガラス面での光の屈折率が変化し鮮明感が落ちる(結像がソフトになる)
ガラス面上のクモリが発生している場所では光の屈折率が変化してしまう。そのため、各収差の補正計算に狂いが生じ、結像が不鮮明になるなどレンズが本来持っている光学性能を発揮できなくなる。深く絞って撮影すれば画質は少し改善するものの効果は限定的。
これらの影響を加味した上で、以下では深く絞った作例を提示し、JSOGONが持っている100%の状態を想像してみたい。深く絞ればコントラストは改善し暗部は落ち着きを取り戻すが、依然として鮮明感の乏しいソフトな描写が予想される。ソフトフォーカスレンズとして使用するには好都合だ。
F8 これくらい深く絞れば屋外での撮影においてもフレアは気にならないレベルで、コントラストの高さは充分だ。階調変化のなだらかさが乏しく、暗部でストンと落ちる硬質な描写だ。周辺部の結像はクモリの影響でポワーンと甘く不鮮明

F8 晴天時に遠景を撮影したところフレアが発生しシャドー部が明るく白っぽくなってしまった。深く絞っているものの結像はソフトだ。ここは木々の中を電車が駆け抜けるように見えるお気に入りの場所

 
F11 日没後の綺麗な空。こういう黒主体でコントラストの高いケースにおいては、光の内面反射(フレア)を逆手に利用して黒潰れを防止するなんてことができるのかもしれない

恐らくクモリがなければ鋭い描写と力強い発色を武器とする優秀なレンズなのであろう。クモリを完全に除去するには、ガラス面の研磨とコーティング皮膜の蒸着ができる高度な技術をもった業者に修理をおねがいするしかない。日本でこの技術を持つ業者は私の知る限り数カ所しかない。予算的には最低でも1.5万円~3万円程度はかかる。業者によってはレンズ径が1.5cm以上ないと修理できない場合があるようだ。

★撮影環境
SONY NEX-5 + Schneider Jsogon 40/4.5 + Hakuba Rubber Hood + EXAKTA-EOS Adapter + EOS-NEX adapter(RJ Camera)

2010/08/26

Steinheil Cassaron 40mm/F3.5 VL



40mm準広角レンズ第一弾
レトロフォーカス化しないまま焦点距離を40mmの準広角域まで短縮させることができた価値ある設計
1950年頃までの一眼レフカメラ用広角レンズには40mmの焦点距離を持つ3枚玉のトリプレットや4枚玉のテッサー型が数多く存在した。現在の主流となるレトロフォーカス型タイプ(6枚玉~)が普及する少し前の事である。この頃の写真用レンズはガラス面における光の透過率が今ほど高くないため、シンプルな光学設計で光の内面反射(ゴーストやフレア)を最小限に抑えることのできるトリプレットタイプやテッサータイプは画質的に優位な設計であった。当時はその存在価値が高く評価されており、発展途上であったレトロフォーカス型広角レンズに比べ、ヌケの良さ、コントラストや階調表現の鋭さで勝っていた。これらの設計は大口径化が難しく、大きくボケる明るいレンズを造るには不利な設計であったが、光軸方向の厚みがないので、ミラーの可動部を確保しながら焦点距離を40mmの準広角域まで短縮させることができた。
しかし、その後のコーティング技術やガラス素材の進歩により光の透過率が向上すると、より複雑な光学系においても高い画質が維持できるようになり、広角レンズの設計の主流は大口径化が容易で焦点距離をさらに短縮できるレトロフォーカス型へと急速にシフトしていった。
今回入手したのはドイツ・ミュンヘンの中堅光学機器メーカーSteinheil社が1951年に発売したCassaronという40mmのトリプレット型準広角レンズだ。同社はレンズの生産を専門とするメーカーで、極めてコンパクトなレンズやハイスペックなマクロレンズなど、個性豊かな製品を製造していた。Cassaronもコンパクトかつ軽量で、重量はたったの104gしかない。ただ小さく軽ければいいというわけではなく、絞り羽根の数はしっかり8枚もあるし、フォーカスリングが使いやすく出っ張っているなど、取りまわしの良さや機能を優先しているよく出来たレンズだ。フィルター枠が銀色に装飾され、個性的でお洒落なデザインに仕上がっている。絞り機構はプリセットタイプが採用され、絞りリングには各指標においてクリック感がなく、絞り羽根は実質的に無段階で開閉する。同社からはほぼ同じ時期に3枚玉のCassar S 50mm/F2.8というトリプレット型標準レンズや、トリプレット型をレトロフォーカス化したユニークな4枚玉のクルミゴン35mm/F4.5という広角レンズも発売されていた。いずれもデザインが良く似ており、パンケーキ型と言ってよい超小型仕様のレンズ達である。なお、レンズ名の由来は同社の創業者C.A.Steinheilの頭文字(C+A+S)から来ており、CassarやCassaritなども同様である。
40mmという微妙な焦点距離が生まれた経緯や意義はともかくとして、本品はフルサイズセンサーを搭載した一眼レフカメラにつけてもAPS-Cセンサーの一眼レフカメラにつけても、標準レンズとして使用することのできる使いやすい画角を提供してくれる。個性的なデザインとコンパクトさ、ユニークな焦点距離など、改めて存在価値が見直されてもいい魅力的なレンズといえるだろう。
光学系は3群3枚, 絞り羽根の枚数:8,絞り値:F3.5-F16,重量:104g,最短撮影距離:0.7m,フィルター径34mm。絞り機構はプリセット。対応マウントはM42とEXAKTAの2種で本品はEXAKTA用
  
入手の経緯
本品は2010年5月22日にeBayを介して、米国ラスベガスの総合中古業者(カメラ専門ではない)から135㌦の即決価格で購入した。送料込みの総額は149㌦(13500円位)であった。商品の状態はMINT+で紹介写真も非常に鮮明。出品者も解説で「パーフェクトな状態。これ以上綺麗な品は出てこないだろう」と自信満々に言い切っていた。国内相場は2万円程度、eBay相場は状態が良ければ200㌦位の品なので、これはとチャンスと判断し「BUY IT NOW(即決購入)」のボタンを押したところ、eBayのエージェントが「購入中のバイヤーがいるので早く送金手配を終えた者の品となる」という緊急性を示してきた。「おー。これはいかん」と思い、せっせと払い込んでしまった。1週間後に届いた商品は確かに美品レベルであったが、レンズ内に埃の混入が目立っていた。

撮影テスト
描写には良くも悪くもシンプル構成のレンズに良くある性質が滲み出ている。1950年中ごろの製品としてはヌケが良くハイコントラストな長所と、中間階調が奮わず硬質な撮影結果になりやすいという短所を持つ。階調変化はなだらかさを欠き、明部から暗部へストンと落っこちてしまう傾向がある。こうした欠点は柔らかい階調変化を示す富士フイルムのPRO400Hや最近のデジカメに搭載されているダイナミックレンジ拡張機能(HDR合成等)を利用することで、いくらか改善すると思われる。収差の補正がやや過剰気味のようでボケに滑らかさがない。開放絞りでは距離によって2線ボケの発生することがある。一段絞れば素直なボケ味だ。発色はやや淡白。

F5.6 カリッと硬い階調変化によって鋭い描写に仕上がる
F11 小さな口径や少ない構成枚数のおかげであろうか?モノコート仕様にもかかわらず厳しい逆光でもフレアは出にくい
F3.5 開放絞りで撮影すると距離によっては2線ボケが発生し、滑らかさを欠いたやや目障りな描写になる。発色はやや淡白かな?
F5.6 少し絞っておけば素直なボケ味だ。こちらも背景のシャドー部の階調表現に粘りがなくストンと落ちてしまった
F3.5 近接では収差の影響からか柔らかくボケ、目障りにはならない
F5.6 トリプレットにしては、なかなかいいレンズではないだろうか


ハイダイナミックレンジ(HDR)合成機能を用いれば階調変化の弱点を補うことができるか?
最近のデジイチに搭載されはじめたHDR合成機能とは露出の異なる写真を何枚か連射で撮影し、複数の画像を合成処理することでダイナミックレンジを拡張する新機能だ。この機能を上手に用いれば本レンズにおいても中間階調が豊かになり、画質が大幅に改善するかもしれない。HDR合成機能はCASSARONの救いになるだろうか。...comming soon!

撮影機材
Sony NEX-5 + Steinheil Cassaron 40/3.5