おしらせ


2009/12/03

Carl Zeiss Jena Flektogon (M42) 35/2.8(1st silver type) Restored!

焦点距離/絞り値: 35mm / F2.8-F16(プリセット絞り), 重量(実測):188g, フィルタ径:49mm,最短撮影距離:36cm, 本品はM42マウント用だがEXAKTAマウント用も存在する。本品はプリセット絞りである。マウント部に絞り連動ピンはついていないので、ピン押しタイプのマウントアダプターを用いる必要性はない。チューリップの蕾のような流線型の美しい鏡胴フォルムが特徴。レンズ名はラテン語の「曲がる、傾く」を意味するFlectoにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせたのが由来である

現代のコーティングを纏い蘇った
新生フレクトゴン(初期玉)

 「えっ。クモリですか?」ヤフオクを通じてそれまで所有していたレンズを売却したところ、売却先である山形のnavyblueことYさんからメールで連絡があり、レンズの中玉にクモリが見つかったのだ。Yさんのメールには中玉に光を通した写真が添付されており、確かにクモリである。クモリが発生するとガラスの表面で光が散乱しフレアが発生する。また、レンズの屈折率が変化し、収差の補正計算に狂いが生じるため、レンズが本来持っている描写性能を発揮できなくなる。私はこのレンズを用いて過去に「親子三代フレクトゴン祭」と題したブログ記事を発信していた・・・。そう、フレクトゴン35mm、初期玉のシルバー鏡胴モデルである。
フレクトゴンの初期玉と言えば、東独VEBツァイス社のハリー・ツェルナーとルドルフ・ソリッシがcontax版Biometarをベースに設計し、1952年に登場したドイツ初の一眼レフカメラ用広角(レトロフォーカス)レンズである。現在も絶大な人気を誇るフレクトゴンシリーズはこのモデルからはじまった。レトロフォーカスとは、焦点(=フォーカス)をカメラ側へと後退(=レトロ)させるという意味である。広角レンズは本来後玉と焦点の距離(バックフォーカス)が短くなるため、これらの間にミラーの稼動域を必要とする一眼レフカメラへの搭載は構造的に不向きとされていた。この問題を克服するため光学系に凹レンズを挟み、焦点を後玉側からカメラ側へと後退させ、バックフォーカスを長くする方法が導入された。余分なレンズを1枚挟むのだから、暗くはなるし収差のコントロールもより高度になるが、この方法によって広角レンズが一眼レフカメラにも容易に搭載できるようになった。こうして生み出されたフレクトゴン35mmは一眼レフカメラ用広角レンズのパイオニア的存在なのだ。
再コーティング施工前のクモリ入りレンズ。このスケールからの肉眼によるクモリの発見は難しい

ところがレンズの中玉に強い光を当て拡大すると、この通り。はっきりとクモリが確認できる(Yさん提供)
 

さて、クモリのことを知った私はYさんに謝罪し、全額返金&返品で対応するつもりでいた。ところがYさんは自分で修理し所有することを希望された。申し訳ないので、せめて修理経費ぐらいは私で持たなくてはと一部返金を申し出た。これがきっかけでYさんとのメールによるやり取りが始まった。クモリに対するリペア方法はいろいろあるようだが、調べてみると2つの方法に大別できることがわかった。クモリが軽度の場合にはクリーニングやメンテの一環として、特殊な溶剤を用いた簡単な処置で対応する。溶剤の成分など詳しいことは分からないが、ある種の洗浄液のようなものを用いるらしい。レンズ表面の傷を拭きながら(傷を平らに削っているのだろうか?)、同時に洗浄する。ただし、この方法による改善は限定的で、クモリが重度の場合には古いコーティング皮膜を剥離し、表面を研磨してから、そのレンズに合わせた新しい皮膜を再蒸着する。 コーティングの再蒸着はクモリ取りの最後のカードなのである。その後やり取りを繰り返すうちに、Yさんにはフレクトゴンを完全に修理したいという気持ちが芽生え、問題の中玉に対しコーティングの再蒸着を施す完全な修理を行うことになった。それならばと、修理業者を何軒かあたってみることにした。問題なのは再コーティングにかかる施工費用である。WEB上では10万円だの何だのといった恐ろしい金額の情報が飛び交っていた。
修理の経緯
今回、コーティングの再蒸着をお願いしたのは山崎光学写真レンズ研究所である。蒸着ともなれば費用はレンズの売却代金を超えてしまうのではないかという懸念があったが、見積もりはホッとする額であった。この業者は私の職場近くに工房を構える修理のプロであり、雑誌などで度々紹介され高い評価を集めている。電話で訪問のアポをとり、後玉に不具合のあるフレクトゴン25mm/F4を持ち込んで見積もり依頼をしてみた。工房の奥から私を出迎えてくれたのは物腰の柔らかそうな職人さんであった。その横で若いお弟子さんのような方がせっせと作業をしていた。私の珍品フレクトゴン25mmを見るや「あんたフレクトゴン好きなの?・・・そう。ニコリ」である。2~3言葉を交わした後にフレクトゴン25mmの修理の見積もりをお願いした。私のフレクトゴン25は後玉径が約1cmと小さく、この工房の機械で対応できる1.5cm径を下回るサイズのため、残念ながら修理ができないことがわかった。しかし、再蒸着に必要な大体の価格帯を尋ねる事はできた。山崎光学の職人さんはわざわざ足を運びレンズを持ち込んだ私を労うかのように、後玉に対して何か特別の溶剤を塗ってくれた。「だいぶ良くなったでしょう?あなたのレンズはクモリではなくコーティングが焼きついているだけなので、これで大丈夫」と、イギリスから取り寄せた特別の溶剤で私のフレクトゴン25に簡単な応急処置をしてくださった。みると透明感がアップし少し改善している。目から鱗であった。職人さんは別れ際の私に対し、「このレンズはまだまだ使えます。大切にしていい写真を撮ってください」と優しい言葉をくれた。再コーティングの費用もリーズナブルだし、本命の1st-silverフレクトゴンの修理は山崎光学に依頼したい気持ちでいっぱいになった。そして後日、Yさんと相談し1st-silverの修理を山崎光学にお願いすることになった。
さて、この種の修理は初めての経験なので、どんな状態に仕上がって帰ってくるのだろうかと興味津々であった。嬉しい事にYさんは修理上がりのフレクトゴンを私に貸してくださるという。なんと寛大な方なのだろうと感心した。
レンズは約20日で山崎光学からYさんの元に戻った。下の写真のようにクモリはすっかりと取れ、中玉はクリアーになっていた。光を通すと紫色の反射光が誇らしげに輝いていた。うん、これならいい写真が撮れそうである。 山崎光学写真レンズ研究所の修理工によれば、蒸着を施す皮膜はレンズ1本1本に合わせ、本来の規格と全く同じになるよう調整されており、レンズ本来の描写を変えてしまう事はないとのこと。驚きの技術力である。
再コーティングを終え帰ってきた新生フレクトゴン。クリアな中玉だ

試写テスト
クモリを抱えたフレクトゴンの描写(前回ブログ参照)に対し、改善後のフレクトゴンの描写力は次のように向上した。

1.シャープネスの向上
改善前の1st-silverフレクトゴンはシャープネスが2ndや3rdよりも低く、特に画像周辺部でのシャープネスの低下が著しかった。原因はクモリがガラス表面における光の屈折率を変えてしまい、収差の補正計算に狂いが生じていたためである。次の写真を見て欲しい。改善後のレンズは画像の中心部はもちろん周辺部における比較においても、2nd-zeblaのシャープネスとほぼ同じレベルになった。
マンションのタイルを1.5m離れた位置から撮影した。画像周辺部(右下)を拡大した結果が次の写真である

左列が1st-silverで右列が2nd-zeblaによる撮影結果だ。写真画像をクリックするとさらに拡大した画像が表示される。前回同様に1st-silverと2nd-zeblaは3rd-blackよりも若干赤が強くでるようだ。両者の解像感は肉薄しており、肉眼で優劣を着けるのは難しい

2.再コーティングにより発色の性質に変化はあったか?
1st-silverと2nd-zeblaの発色は良く似ており、3rd-blackよりも赤や黄色などの暖色系が強くウォームトーン調になることを前回のブログ記事で示した。今回のテスト結果[上のタイル写真参照]においてもその傾向に変化はなかった。ただし、以下の写真に示すように2ndの方が1stよりも極僅かに黄色味を帯びることがわかった。
F2.8: 1st-silverの方が背景のアウトフォーカス部にある木の枝が僅かに白っぽいのに対し、2nd-zeblaのほうが僅かに黄色っぽい。中央下部の植木の葉も2ndの方が極僅かに黄色味が強い。シャッタースピードは同じで露出補正レベルは両方とも±0EVである

一部を拡大したもの。注意深く比較すると1st-silverよりも2nd-zeblaの方が若干黄色味が強いことがわかる
3.フレアの抑制とコントラストの向上:何と2nd-zeblaよりもフレアが出にくくなってしまった・・・
改善前の1st-silverは明らかに2nd-zeblaや3rd-blackよりもフレアが出やすかった。原因はやはり、中玉のクモリである。これにより光の透過率が悪くなり、レンズ内で内面反射が起こりやすくなっていたのである。フレアの影響は晴天下の撮影において特に顕著であり、クモリをとる前の比較では1st-silverの方が2nd-zeblaよりもコントラストが低下し、画像全体が白っぽくなっていた。しかし、改善後の1st-flektogonは光の透過率が上がりフレアが出にくくなった。暗部が落ち着きを取り戻し、メリハリの効いた描写になるとともに、画像全面的にもヌケの良い力強い発色が蘇ったようだ。最も驚いたのは逆光下での撮影におけるフレアの発生レベルである。明らかに1st-silverの方が2nd-zeblaよりもフレアの発生が少ないのである[写真(下)参照]。一瞬2nd-zeblaにクモリがあるのではと疑ったが、注意深く調べてもクモリはない。はたしてこの結果は新しく蒸着したコーティングの威力なのだろうか?興味深い結果である。6枚もあるレンズ構成のうちの中玉を1~2枚クリアにしただけで、ここまで描写力が向上するとは思えなかったので、逆光下で何度も同じようなテストを繰り返た。しかし結果は同じで、1st-silverの方が2nd-zeblaよりも逆光に強くなっていた。

F5.6 逆光での撮影結果。木の枝や葉にフレアの発生が確認できる。明らかに2ndの方が白っぽく、フレアが強く発生している

上段の写真の木の枝を拡大したもの。明らかに2nd-zeblaの方が白っぽくくすんでいる。フレアのせいだろう。1stの方が緑が鮮やかだ

F4: 今度は逆光下で遠景を撮影した結果である。遠景の木を御覧いただきたい。ここでも1st-silverの方が2nd-zeblaよりもフレアが出にくいという結果になった

4. レベル曲線の比較
1st-silverと2nd-zeblaの輝度レベル曲線は大変良く似ており、暗部の立ち上がり方や明部の落ち方などそっくりである。中央に2本のピークが立っており、このピークの上下関係に2本のレンズの性質の差異がみられる。1st-silverは明るいほうのピーク(図の青丸)が大きく2nd-zeblaは暗いほうのピーク(赤丸)が大きい。フレアの発生の影響が無い場合、2nd-zeblaの方が暗部をきちんと拾うようだ。
上の写真に対する輝度レベルの分布曲線。左が1st-silverで右が2nd-zeblaである

山崎光学で再蒸着をしたのは単層とはいえ現代的なコーティング皮膜である。1950~1960年頃のコーティング皮膜よりも光の透過率が高くなることは充分に考えられる。再コーティング後に1st-silverフレクトゴンの描写力が向上したのはあたりまえの結果である。しかし、それが2nd-zeblaよりも優れたレベルになったのは大変興味深い結果である。新たに蒸着した中玉のコーティングにより、1st-silverフレクトゴンの光学系に対する光の透過率が2nd-zeblaフレクトゴンのそれを上回るようになったということだろう。

テスト撮影の環境:Flektogon 35/2.8 + EOS kiss x3 + PETRI metal hood

黒いカメラに着けると存在感が増す

オーナーのYさんによる撮影サンプル
最後にYさんから届いた新生フレクトゴンの試写サンプルを掲示し、再度、レンズを新しいオーナーの元に送り届けたいと思う。新生1stフレクトゴンよ、21世紀も活躍してくれよ!!

先週の土曜日の試写でフィルムを変えたら、こってりした色が出ました。フレクトゴンは色のバランスが良いように思います。(Yさんによるコメント&写真提供)

逆光で豪快にゴースト&フレアの発生を狙っている。暗部はレストア前よりも締りがあるように感じる(Yさん写真提供)

手前の苔は肉眼でみた緑よりも明るく派手に見える(Yさん提供/コメントも)
★Yさんの撮影環境:FLEKTOGON 35/2.8(1st) + PENTAX LX(BLACK)

2009/11/16

LZOS INDUSTAR 61L/Z-MC 50mm/F2.8 (M42)
インダスター61L/Z-MC


きらきらと輝く六芒星(ろくぼうせい)
カメラ女子の間で人気沸騰中の星ボケレンズ
LZOS INDUSTAR 61L/Z-MC 50mm/F2.8 (M42 mount)
いまカメラ女子の間でこのレンズがブームとなっており、ブログのアクセス解析にも、その過熱ぶりがハッキリとあらわれている。ロシア(旧ソビエト連邦)のLZOS(リトカリノ光学ガラス工場)が1960年代から2005年頃まで製造したIndustar (インダスター) 61 L/Zである。このレンズはアウトフォーカス部の点光源が星型の形状にボケる、いわゆる「星ボケレンズ」として知られている[文献1]。
去る10月のある日、私はJR山手線のシートに腰かけ、東京駅から上野駅を目指していた。気が付くと目の前に若い2人のカメラ女子が立ち、何やらインダスターの話題になっていた。しばらく耳を傾けていると・・・

「A: ねぇ、メール見た?例の星ボケが出るヤツ(レンズ)なんだけど。」
「B: みたよ。インダスターでしょ?でも、あれってフィルターでも同じことできるんじゃないの?」
「A: うんそうなんだけど、やっぱフィルターとは効果が全然違うんだよねぇ~」
「B: そうなんだ。どこかで試せるといいけど」
「A:ネットにはいっぱい写真出てるから参考になるとおもうよ。スパイラルっていうブログみた?」
「B: あぁ。みたみた。マニアのブログでしょ。なんか難しい事がいっぱい書いてあったわ(←spiral補足:偏差値上げてね)」
「A: ヤフオクに出てるけど、1万円くらいからあるみたい。でもやっぱり現物を見ないと、状態はわからないわ。取引も怖いし。店で試せるといいんだけどね。10月8日の代官山は行ける?」
「B: 即売会だっけ?(←spiral補足:恐らく北村写真機店の体験即売会のことでしょう)。ちょっと予定が入ってるんだよね。友達と映画。何時からやってるの?」

おおよそ、こんな内容のやり取りであった。レンズが少し気になりヤフオクで相場を検索してみると、中古美品が18000~25000万円程度の額で取引されている。ちなみに6年前~1年前の相場は10000~14000円程度で安定していたので、レンズの相場が上昇したのはごく最近になってからのことだ。あるショップの店員によると、レンズを購入するのは主にカメラ女子なのだとか。今になってカメラ女子達がザワつきはじめたのは、紛れもなく写真家・山本まりこさんが9月に出した著書「オールドレンズ撮り方ブック」が発端であろう[文献2]。本ブログもフルサイズ機の普及に合わせ、過去のブログエントリーを刷新している最中なので、これはいい機会である。黒船の放つ波にのり、このレンズを再び取り上げてみることにした。

インダスター61L/Zのルーツは、ロシアの光学研究を統括するGOI(Gosudarstvennyy Opticheskiy InstituteまたはVavilov State Optical Instituteでもある)という研究機関が1958年から1960年まで少量のみ生産したプロトタイプレンズのIndustar-61 5.2cm f2.8(Zorki-M39 mount)である[文献3-5]。レンズを設計したのはG.スリュサレフ(G.G.Sliusarev)とW.ソコロフ(W.Sokolov)という名のエンジニアで、1958年に正のレンズエレメントに希土類のランタンを含む新種光学ガラスSTK-6を用いることで、それまでのインダスターシリーズに比べ、光学性能を飛躍的に高めたとされている。Industar-61は設計の古いFED-2用Industar-26M 50mm F2.8(1955年登場, Zenit-M39マウント)の後継製品として1962年に登場している[文献5]。この頃のIndustar-61は主にFED(ハリコフ機械工場)とMMZ(ミンスク機械工場)が製造し、焦点距離52mmや53mmなどのモデルが供給されていたが、1964年頃からはLZOS(リトカリノ光学ガラス工場)がレンズの生産に参入し、焦点距離を50mmとするIndustar-61Lを生産するようになった。
Industar 61L/Zの光学系(文献4からのトレーススケッチ): 左が前玉で右がカメラ側である。構成は3群4枚のテッサー型で、肉厚ガラスが用いられているのが特徴である。ランタン系の新種ガラスSTK-6が導入され正エレメントの屈折力が旧来からのガラスの倍にまで向上、ペッツバール和と色収差の同時補正が可能になり、F2.8の口径比が無理なく実現されている
Industarというレンズの名は1929年にロシアで始まった工業化5か年計画のIndustrizationから来ており、これにテッサータイプのレンズで共通して用いられる接尾語の"-AR"をつけてIndustarとなったそうである。61はロシア製レンズの中で用いられる通し番号で、テッサータイプの61番目の製品であることを意味している。
1960年代後半にはレンズをZenit-M39/M42マウントの一眼レフカメラに適合させたLZOS製Industar 61L/Z 50mm F2.8が登場し、この頃から絞り羽を閉じたときの形状が六芒星になった。レンズ名の末尾に付いている頭文字Lはガラスに用いられているランタンを差し、ZはZenitカメラ用を意味しているとのこと[文献6]。現在の市場に出回っている製品は大半がM42マウントであるが、比較的少量ながらZenit-M39マウントの個体も流通している。
Industar 61L/Zはガラス面に用いられているコーティングの種類に応じ、3種類のモデルに大別することができる。1つめは初期の1960年代から1970年代に製造されたモデルで、ガラス面には単層コーティングが施されていた。一方で1980年代初頭からはマゼンダ色のマルチコーティングが施されるようになっている。ただし、1980年代後期に製造された一部の個体からはアンバー系のコーティングが施された変則的なモデルもみつかる。Industar 61L/Zがロシアでいつまで生産されていたのか正確なところは定かではないが、市場に出回る製品個体のシリアル番号からは、少なくとも2005年まで生産されていたことが明らかになっている。
 
参考文献
  • 文献1 「OLD LENS PARADISE」 澤村徹著 和田高広監修 翔泳社(2008)
  • 文献2 「山本まりこのオールドレンズ撮り方ブック」 山本まりこ著 玄光社(2016)
  • 文献3 GOI lens catalogue 1963
  • 文献4 A. F. Yakovlev Catalog The objectives: photographic, movie, projection, reproduction, for the magnifying apparatuses, Vol. 1(1970) ロシア製レンズが全て網羅されているカタログ資料
  • 文献5 SovietCams.com
  • 文献6 レンズに付属した取り扱い説明書
入手の経緯
ロシアのカメラ屋から新品(オールドストック)を99ドル(送料込み)で購入した。レンズには純正のプラスティックケースとシリアル番号付きのレシート、ロシア語で書かれたマニュアルが付属していた。このセラーは2004年製の新品をかなりの数保有しているようであった。インダスター61L/Zは絞り羽に油シミの出ている個体が大半であるが、今回入手した2004年製の個体は比較的新しいためか油染みが全くみられなかった。レンズはヤフオクの転売屋が中古品を数多く取り扱っており、流通量も豊富である。ヤフオクでの相場は中古美品が18000~20000円程度、海外では中古美品が6000円~8000円、新品が8000円~10000円程度で取引されている。国内市場で新品はなかなか出ないようだが、出れば20000円~25000円あたりの値が付くのであろう。人気が過熱気味の日本だけの相場なので、現在は送料を加味しても海外から入手したほうがお得であることは間違いない。
最短撮影距離:30cm, 絞り機構 プリセット式,  焦点距離 50mm, 絞り値 F2.8-F16, 撮影倍率1:約3.5, フィルター径 49mm, 重量(実測):212g, 設計構成 3群4枚テッサー型
撮影テスト
50mmの焦点距離を考えると星ボケを効果的に出せるのは被写体に近づいて接写を行う時のみに限定される。撮影方法はバブルボケの時と全く同じで、まずはじめにピカピカ光る光源をみつけ、フォーカスリングを回してボケ具合を決定する。ちなみに星型にボケるのは絞りを少し絞った時である。続いてピント部を飾るメインの被写体を見つけピントを合わせる。このとき被写体へのピント合わせはフォーカスリングを用いるのでなく、手でカメラを前後させて行うのがポイントである。こうすれば一度決定した背後のボケ具合に大きな変化はない。
昼間の撮影は夜間のイルミネーション撮影よりもテクニックが求められる。星ボケを効果的に発生させるには太陽光の反射を利用するわけだが、肝心なのは太陽に対して半逆光の条件で撮影することである。カメラの露出補正は+1EV程度オーバーに設定しておいたほうが、星ボケがクッキリと写るのでおススメである。あと、今回は人に見せられるような作例が見当たらなかったものの、前ボケを利用するのもよい。
レンズはシャープな描写で知られるテッサータイプである。開放でもスッキリとぬけたクリアな像が得られ、解像力こそ平凡だが、鮮やかな発色とメリハリのある高いコントラストを特徴としている。ボケは四隅まで安定しており、グルグルボケや放射ボケは出ない。同じF2.8のテッサー型レンズでも本家ツァイスのテッサーやフォクトレンダーのカラースコパーなどは背後に僅かにグルグルボケがみられるが、このレンズに関しては四隅までボケの乱れが一切みられない。ピント部の画質は四隅まで安定しており、像面も平らで平面性は高いが、そのぶん立体感には乏しい。ゴーストやハレーションは逆光時でも全くと言ってよいほどでない。F2.8のテッサータイプとしては、かなり優秀なレンズである。
F5.6, sony A7(AWB)
F5.6, sony A7(AWB): 

F5.6, sony A7(WB:電球)

F5.6, sony A7(WB:白色電球)