おしらせ


2009/07/05

Rodenstock Heligon 50mm/F1.9 (M42 mount)
ローデンストック ヘリゴン


幻のレンズHeligonは

中間色の発色の良さが魅力

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 海外のあるレンズ収集家はブログ上で、M42マウントのHeligonについて「eBayで7年間も購入の機会を待ったが、出品されたのはたったの2件だった」と嘆いている。Heligon 50mm/F1.9は中判カメラの名門Rodenstock社が1959年に僅かに製造した標準レンズである。私は見たことがないが、エギザクタマウント用も存在するようだ。姉妹品として本ブログでも過去に取り上げた広角レンズのEurygon 30mm/F2.8が存在する。いずれも市場での流通量が極めて少なく、知る人ぞ知る隠れ玉とされ指名手配されている。無骨なデザインは人それぞれ好みが分かれるようだが、私はかなり好きだ。ガラスに光を当てると紫色に輝くのもお洒落。デザインはEurygonによく似ているが、フィルター枠の周りが銀色の二重線でカラーリングされているなど、こちらの方が若干凝っている印象を受けた。WEB上での情報が極めて少ないため、今回入手できたのを機会に少しばかり正体を明らかにしてみたい。

フィルター径52mm 開放F値1.9 最短撮影距離0.6m M42-mount 鏡胴の側面に絞り開放レバーがついておりピント合わせの際に重宝する。レンズ名はギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosに「角」を表すGonを組み合わせたのが由来である。


Pentax MZ-3への装着例
左: 姉妹品のユリゴン 30/2.8 右:ヘリゴン 50/1.9 デザインがよく似ている

入手の経緯 
2009年6月にeBayに出品していたロスのカメラ業者から即決価格610㌦(6万円弱)にて落札した。この業者(ケビンさんが経営する"ゴー・ケビン・カメラ")は品揃えが極めて豊富でレアな商品を多数扱っているため私のお気に入りだ。価格は少し高めであるものの、日本の相場よりはいくらか安めの設定。本品の日本での相場は全く不明だが、ドイツ版eBayでの相場は1000㌦近い値であった。この業者からは過去にAngenieux 35mm/F2.5(M42)を購入した。商品の状態については、Minty/Rare (98% Mint)とあり、ほぼ新品同様品とのこと。実際に届いた商品は解説通りであった。それにしても、ケビンさんの商品調達能力は凄い。
試写テスト 
開放絞りでは解像度が落ち、やや甘い描写になる。また、暗部が若干明るくなるなどコントラストの低下もある。1~2段絞ればシャープになりコントラストは充分に高くなる。発色は僅かにクールトーン調で落ち着いており、姉妹品の広角レンズEURYGONと傾向が良く似ている。青や赤およびこれらの中間色がしっかり出てくれるのが魅力だ。このレンズの場合、開放絞り時の収差が大きいようで、ボケの暴れっぷりは凄い。二線ボケやグルグルボケが強く出る。1960年頃のレンズはどれも収差の補正が未熟なようで、大口径レンズの場合、ボケ癖の無いものに出会ったことがない。開放絞りにて近景を撮影する際には、背景のシーン選びに注意し、心配ならば少し絞ったほうが無難だろう。
アジサイの色は難しい中間色であり、きちんと再現できればかなり優秀なレンズだ。過去にLithagon35mm/3.5とPANCOLAR50mm/1.8で挑んだが、ともに淡くなり、だいぶ白っぽい色合いになってしまった。Heligonは見た目に近い色を再現した。F4
開放絞りで近景を撮影すると、背景に二線ボケやグルグルボケが強く発生する。収差が大きくボケ癖が強いようだ F1.9
少し絞っておけばこのようにボケは綺麗に整いコントラストも向上する F4
PANCOLAR(50mm/F1.8)のテストの時と同じ被写体を同じアングルで開放絞りにて撮影した。撮影時期が1週間程後のため前回の撮影時よりも花が萎んでしまった。気のせいかPANCOLARよりもボケが強い気がする。EURYGON 30mmの時にも30mmにしてはボケが強いなと感じた。絞り開放で球面収差が大きいのだろうか?背景のコンクリート部分を比べるとわかるがコントラストはPANCOLARのほうが高い。一方、花びらの発色を見比べれば中間色の再現性はHeligonの方が上である。 F1.9

階調表現もなかなか良い。早大理工キャンパスの新校舎にて F5.6

初夏の雰囲気を取り込む F5.6

開放絞りでの描写はこのように甘いので1段~2段絞ったほうが実用的だ F1.9
開放から一段絞るだけで、このように大変シャープになる 。Heligonの絵づくりは中間色の再現性に優れており、ピンク色がしっかりと出ている。PANCOLAR 50mm/1.8で撮影したコスモスのサンプル画像と比較して欲しい。

こちらもPANCOLAR50/1.8と同じシーンを写した。なかなか優れた発色だ f2.8

発色が優れているとはいえ金色(輝光色)の再現はさすがに難しい。銀色っぽくなってしまう(現代のレンズでもまともに写りません・・・。レンズの問題なのかどうか?)
パンカラーと同じシーンを何枚も撮影し比較した。色の濃淡(コントラスト)はパンカラーのほうが上、中間色の発色はHeligonのほうが上であると感じた。


撮影環境 Rodenstock Heligon 50mm/F1.9(M42-mount) + EOS Kiss x3 + PETRI HOOD

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2009/06/20

オールドレンズでUVカットフィルターを試す

UV(紫外線)カットフィルターってどうなのよ?
誰に尋ねてもハッキリ教えてくれないので自分で試すことに
 世の中には光を効率よく吸収する物質がある。黒い色をした物質はその典型で、人の目に見える可視光を吸収し、熱など他のエネルギー形態に変換している。この類の物質を透明なガラスにくっつけておき、そこを通した光から紫外光のみを落とせばUVカットフィルターとなる。

紫外光や赤外光が写真画像に与える影響
 肉眼で見ることの出来る可視光とは、波長がおおよそ400nmから700nmあたりの光である。このうち波長が長い側の700nm付近になると光は赤に見え、逆に波長が短い側の400nm付近では紫色に見える。波長が可視光域の外側にでると、それが長い側であっても短い側であっても、人の目には見ることができなくなる。このうち可視光域よりも長い波長の光を赤外光、逆に短い光を紫外光とよぶ。銀塩フィルムやイメージセンサーには光の3原色である赤・緑・青を独立に取り込む3つの感光層が設けられている。このうち青い光を取り込む層はフィルムの素材である銀の性質が影響し、青色の光だけでなく、それに近い紫外光にも感光してしまう。紫外光が多い撮影条件の下では青の光成分のみが過多になり、出来上がる写真イメージは肉眼でみたものよりも、モヤがかかったようなヌケの悪い画質になってしまう。そこでUVカットフィルターの出番なわけだ。レンズに光が入る前段階で余分な光を落とし、イメージセンサやフィルムに可視光のみを送り込んでやる。こうすれば肉眼で見たものに近い画像が得られることになる。また、レンズ系内で起こる光の内面反射のうちの紫外光の成分は落とせるので、画質(コントラスト)の向上にもつながる。今のUVカットフィルターは大変よくできており、紫外光をほぼ完全に吸収しながら、同時に可視光はマルチコーティングの助けもかりて99%以上を透過させる。お見事としか言いようがない。
 一方、フィルムの場合、赤い光を取り込む層は赤外線に感光しないので写真を撮る場合には紫外光のみに注意を払い、赤外光は気にしなくてもよい。デジタルカメラのイメージセンサーの場合には若干性質が異なり、紫外光だけでなく赤外光にも感光してしまう。このためデジタルカメラには、はじめから赤外線をブロックする仕組み(赤外光を反射するダイクロイックミラーと赤外吸収ガラス)がローパスフィルターの中にビルトインされている。 
図 あるフィルターメーカーのカタログトに載っていた光の透過率曲線の見取り図。透過率は波長400nm付近でもっとダラダラ変化するのかと思っていたが立ち上がりがスパッと急なので驚いた。これならば、可視光への影響はほぼないと考えても良さそうだ紫外光はもともとガラスなどの媒質中で吸収されやすく、レンズ系のガラス内を通る際にも波長が350nmより短い紫外光は充分に吸収されフィルムやセンサには殆ど到達しない。したがって実際にフィルター自体が活躍するのは、主に波長が350nmから400nmの付近の紫外光に対してである
  
 UVカットフィルターはケンコーやマルミ光機などフィルターメーカーの各社から製品化されている。ところが、今のレンズはどれもはじめからガラス面にUVカット皮膜が蒸着されているため、わざわざフィルターメーカーの製品をつけても殆ど意味が無い[1]。実際、多くのWEBサイトではUVカットフィルターのテスト結果が示され、期待していたほど明確な効果が得られないことが指摘されている。このように存在意義の薄いフィルターだが、UVカット皮膜を持たないオールドレンズに対する効果は大きいはずである。
  
footnote[1]: 強い光源を撮る場合にはレンズの持つUVカット能力の補強にはなるかもしれない。またフィルター自身のガラス内面でおこる紫外光の反射の予防にはなるかもしれない(それなら、はじめからフィルターなんてつけなければよい言われれば、それまでだが・・・)。
  
フィルターのテスト
 今回入手したのはケンコーから発売された最新のフィルターZeta UV L41である。この製品は波長410nm以下の光を吸収し、99.4%以上の可視光を透過させるかなり高性能なUVカットフィルターである。これをオールドレンズの前玉に装着すれば、フィルムやイメージセンサが紫外光に感光するのを防げるし、レンズ系内の光の反射も軽減できる。UVカット皮膜やマルチコーティングが施されていない古いレンズでは、この種のフィルターを付ければ画質は向上し、見た目に近い画像に変化するはず。では、いったい効果はどれほどか。以下のように紫外線の影響が大きくなる条件を狙いテストを行った。

(1)6~7月の正午、沖縄や九州、四国など南方の低緯度地域で撮影する。山の上などの高地もよい。
 
紫外線は大気層の浮遊物質などによって散乱されやすい。太陽が真上にあり太陽光が大気の層を通過する距離が短くなれば、地表には大量の紫外線が到達する。地球が太陽に近づく6月~7月が最も紫外線量が多い。今回は7月8日の午前11:30に熊本の水前寺公園で撮影を行った。
(2)なるべく晴天日を選ぶ
曇っていても紫外線は晴天日の60~80%近くが地表に届く。撮影日は薄っすら雲も出ていたが概ね青空の多い晴天日だった。

(3)水辺や空を入れて遠景を撮影する。
太陽からやって来る紫外線の照り返しを狙い水辺をチョイスする。約10%は反射するそうだ。また、空や遠景を入れることにより、紫外線の散乱光を多く取り込むことができる。今回は水前寺公園の中の水辺脇から遠くの遠景を空を入れて撮影した。
フレームを揃えるためにリミングしてしまったが、元々手前の植木の下に池があり照り返し光を入れている。写真・上はUVカットフィルターなし。写真は下はUVカットフィルター(Kenko Zeta UV L41)を使用。空の色にハッキリと違いがでており、UVフィルターを使用するほうが色が濃くでる。手前の芝生の色も明らかに濃くなっている。使用レンズはRodenstock Heligon 50/1.4 + EOS Kiss X3

空の部分の拡大表示を比較した。左はフィルター不使用。右はフィルター使用結果。そらの色の濃さに変化が見える。
緑の芝生の拡大表示を比較した。写真・上はフィルター不使用。写真・下はフィルター使用結果。芝生の色の濃さに変化が確認できる。

★まとめ
当初、UVカットフィルターにはかなり期待していた。オールドレンズを用いて様々な場所でテストを繰り返したが、ハッキリ言って効果は限定的だった。効果は出ているのだろうけれど肉眼では判断が付かないケースが殆どであるというのがより精確な評価なのだろう。上記のテストケースのように紫外線がレンズに多く入射するような条件が揃わない限り、フィルターをつけていても見た目の画質は向上しない。ノーマルフィルターで充分である。