おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
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2018/09/08

KOMZ Jupiter-11 135mm F4 for KONVAS(OCT-18)









クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ  PART 8
レンズ選びはセンス!
シネ・ジュピターはいかがですか
カザン光学機械工場(KOMZ) JUPITER-11 135mm F4 for KONVAS-1M cinema movie camera
焦点距離135mmのロシア製レンズと言えば、やはりTair-11とJupiter-11がスチル用・シネマ用を問わず、数多くのマウント規格に供給された望遠レンズの双璧です。今回は35mm判シネマ用カメラのKONVASに供給されたJUITER-11を取り上げたいと思います。このレンズも前記事で紹介したJUPITER-9と同様に、もとはカール・ツァイスのベルテレ博士が戦前に設計したゾナーシリーズからのクローンコピーで、戦後間もない頃に望遠レンズの名玉Carl Zeiss Sonnar(ゾナー135mm F4をベースに設計されたZK-135というレンズの子孫です[1]。ZKとはSonnar Krasnogorskという意味で、レンズの生産が始まったモスクワの工業都市クラスノゴルスクで作られたゾナーという意味から来ています。ZK-135が市場に供給たのは1948年~1950年の期間ですが、レンズの製造には第二次世界大戦の戦後賠償としてロシアがドイツ国内から持ち出したガラス硝材が使われました。初期のZK-135はSonnarに限りなく近いレンズだったのです。その後、ドイツ産ガラスの枯渇にともなう措置としてロシアの国産硝材に切り替えるための再設計が行われ、1952年に現在のジュピターシリーズの原型が生み出されています[注1]。この再設計にあたったのは1948年にKMZ光学設計局の局長に就任したM.D.Moltsevというエンジニアです[注2]。KMZはこの新設計のモデルを1952年から1959年まで市場供給し、その後はレンズの製造・供給をカザン光学機械工場(KOMZ)に引き継いでいます。KOMZからレンズの市場供給が始まったのは1957年です。
一方でシネマ用のJupiter-11が登場したのは、35mm映画用カメラのKMZ KONVAS-1Mが登場した1952年です。このレンズの製造はしばらくの間KMZが担当し、ブラックカラーとシルバーカラーの2種類のモデルをKONVAS前期型の規格であるOCT-18マウントで供給しました。1960年になるとカザン光学機械工場(KOMZ)がレンズの製造に参入し、1960~1962年代にはKMZとKOMZの双方がシルバーカラーとブラックカラーの2種類のレンズを市場供給しています。ただし、これ以降はKOMZのみがレンズの生産を担当し、KMZはレンズを造らなくなっています。1960年代中頃からはピントリングの指かけが大きくなり、ヘラジカの大角(おおつの)のような形状に変わっています。1970年代に入ると鏡胴が再び改良され、指かけ(ヘラジカの大角)の角(つの)の数が2本から4本に変更された最終モデルが登場します。また、シルバーカラーの供給が中止されブラックカラーのみが供給されました。このモデルは1990年頃まで市場供給されていました。
Jupiter-11には今回取り上げるシネマ用のKONVASマウントのモデルの他に、シネマ用のKONVAS KONORマウント、スチル撮影用のゼニット(M42)マウントやフェド(ライカL39)マウント、キエフマウント(旧コンタックス互換)などのモデルがあります。光学設計はスチル用とシネマ用で微妙に異なっています[2]。
  
[注1] ジュピターという名が初めて記録に登場したのは1949年のKMZの公式資料[1]からです。この資料にはキエフマウント(旧コンタックス互換)のジュピターシリーズが焦点距離ごとに掲載されていますが、一部のモデルにはまだZKの名称が使われており、取り消し線が引かれレンズ名がJUPITERに訂正されていますので、この頃が再設計による切り替えの時期であったのは間違いないでしょう。

[注2]Zenitの公式ホームページ[3]をよく探すとMoltsevの写真を見つけることがでるでしょう。


Jupiter 135mm F4の構成図:文献[2]に掲載されていた35mmシネマ用モデルからトレーススケッチした。この文献にはスチル撮影用の構成図も掲載されており寸法が少し異なっている。れんずの設計構成は3群4枚のテレゾナー型でCarl ZeissのL. Bertele(ルードビッヒ・ベルテレ)博士がエルノスターからの発展形態として導き1929年に発表した3群4枚のゾナーを祖とし、戦後にKMZ光学設計局の局長M.D.Moltsevがロシア国産ガラスに対応できるよう再設計したもの。正パワーが前方に偏っている事に由来する糸巻き型歪曲収差を補正するため、後群を後方の少し離れた位置に据えている。望遠レンズは多くの場合、後群全体を負のパワーにすることでテレフォト性(光学系全長を焦点距離より短くする性質)を実現しているが、このレンズの場合にはErnostar同様に弱い正レンズを据えている。ここを負にしない方が光学系全体として正パワーが強化され明るいレンズにできるうえ、歪曲収差を多少なりとも軽減できるメリットがあるためである。ただし、その代償としてペッツバール和は大きくなるので画角を広げることは困難になる。テレ・ゾナーは望遠系に適した設計なのである。ならば、後群を正エレメントにしたことでテレフォト性が消滅してしまうのではと心配される方もいるかもしれない。実は前群が強い正パワーを持つため、後群の正パワーが比較的弱いことのみでも全体として十分なテレフォト性が得られるのである[5]


レンズの設計は上図のような3群4枚のテレゾナー型です[2]。シンプルな構成ながらも厚みのあるエレメントを用いることで各面の曲率を緩め、十分な性能を確保しています。解像感やコントラストは抜群によく、スッキリとヌケのよい素晴らしい写真画質が得られます。前玉と後玉の距離を開け、望遠レンズで問題となる糸巻き状の歪みを有効に抑えています。口径比F4はけっして明るくはないのですが、高感度な現代のデジタル一眼カメラで用いるなら全く心配はいりません。焦点距離が135mmもありますのでレンズの口径は標準レンズに換算しF1.5相当とかなり大きく、十分なボケ量がえられます。仮に口径比がF2.8ならば、携帯性に無理のある巨漢レンズになってしまったことでしょう。焦点距離135mmは手振れ補正を内蔵した現在のデジタル一眼カメラにおいて手持ち撮影のできるギリギリの焦点距離です。このレンズならスナップ撮影にも充分に活用できるとおもいます。
 
[1] КАТАЛОГ фотообъективов завода № 393 (The catalog of photographic lenses of the plant № 393) 1949年
[2] Catalog Objectiv 1970 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog,  The objectives: photographic, movie,projection,reproduction, for the magnifying apparatuses  Vol. 1, 1970
[3] ZENIT Home page: http://www.zenitcamera.com
[4] Soviet Cams.com: http://www.sovietcams.com/index.php?553745048
[5]「レンズ設計のすべて」 辻定彦著

入手の経緯
焦点距離135mmの望遠レンズはポートレート撮影には長すぎるため、不人気なジャンルです。中古相場はこなれており、ロシア製であれば本品のようなプロ仕様のモデルであっても1万円でお釣りがくるほど安価です。今回手に入れたシルバーカラーのアルミ鏡胴モデルは2018年6月にeBayを介しオールドレンズを専門に扱うウクライナのセラーから8800円(送料込み)で購入しました。オークションの記載は「ガラスは新品のようなコンディション。フォーカスリングとピントリングはスムーズ」とのこと。外観は目立たない小さな傷のみでアルミ鏡胴に腐食のない良好な状態でしたので即決価格で手に入れました。届いたレンズは記載通りの素晴らしい状態でした。
続くブラックカラーのモデルは2018年6月にeBayを介してオールドレンズを専門に扱うロシアのセラーから14500円(送料込)で購入しました。オークションの記載は「コンディションはエクセレント+++。カビ、クモリ、バルサム剥離、傷、拭き傷はなく、フォーカスリング、ピントリングはスムーズ」とのこと。こちらのモデルの方が中古市場では高値で取引されているようですが、シルバーカラーのモデルとの差はコーティングのみで中身の設計は同一です。
両モデルとも中古市場では比較的、数多く流通していますので、じっくり待ってコンディションのよい個体を探すのがよいでしょう。値段的にはM42やライカMマウントなどのスチル撮影用のモデルが狙い目で、eBayでは6000円程度から購入することができます。ただし、シネマ用とスチル用で設計は少し異なるようです。

シルバーモデル(前期型):絞り羽  12枚構成, 最短撮影距離 3m(規格), 絞り F4-F22, フィルター径 40.5mm, 重量(実測) 243g, 構成 3群4枚テレゾナー型, S/N: 6810XXX, 後玉側にフレアカッターがはめ込まれている。着けていてもケラレの心配はないが、フルサイズ機では写真の四隅で少し光量落ちが出るシーンもあった。避けたいならはフルサイズ機では外してもよい





ブラックモデル(後期型):絞り羽 12枚構成, 最短撮影距離 3m(規格), 絞り F4-F22, フィルター径 40.5mm, 重量(実測)263g, 構成 3群4枚テレゾナー型 , S/N: N7206XXX, 後玉側にフレアカッターがはめ込まれている
デジカメでの使用方法
今回紹介するレンズは映画用カメラのKONVAS-1Mに供給されたモデルで、マウント部はOCT-18という規格を採用しています。このマウント規格のレンズをデジタルミラーレス機で使用するためのマウントアダプターがeBayで販売されています。私がお勧めするのはロシアのラフカメラが販売しているOCT‐18マウントを58mmフィルターネジに変換するアダプターとCANON EFマウントに変換するアダプターです。前者は46-58mmステップアップリングを用いてM46-M42ヘリコイド17-31mmに接続し、カメラの側の末端にM42-SONY Eスリムアダプターを取り付けSONY αシリーズで使用します。後者はCANON EFマウントになりますので、各種ミラーレス機用のアダプター(補助ヘリコイド付)と組み合わせて使用します。レンズ本体にもヘリコイドがついていますが、スピゴットマウントというやや不便な機構をもつマウント規格ですので、通常のピント合わせには外部のヘリコイドを使い、近接撮影時に最短撮影距離を目いっぱい短縮させたいときのみ本体のヘリコイドの助けを借ります。

撮影テスト
ジュピターシリーズを含めたゾナータイプのレンズの凄いところは、設計構成に依存しないベルテレ博士の普遍的で揺るぎない描写理念が貫かれているところです。ゾナーシリーズには望遠レンズ、標準レンズ、広角レンズ(BIOGON系)があり設計はいずれも異なるものですが、基本的な描写はどれも同じ傾向のもので、本レンズにおいても開放からスッキリとヌケがよく、線の太いシャープで力強い画作りを真骨頂としています。コントラストは十分に高く発色も鮮やかです。階調は軟らかく繋ぎ目のないなだらかなトーンが実現されます。解像力はやや低めですが、フィルムの性能を活かしきるために必要なレベルをクリアしており、無駄のない合理的な性能を実現しています。後ボケは距離によらず四隅まで安定しており、乱れることはありません。ボケ味は柔らかく、美しい拡散です。望遠レンズには糸巻き状の歪みが問題になることがありますが、本レンズではあまり目立つことがありませんでした。現代レンズの味付けに近いとても高性能なレンズだと思います。

2018年8月 勝沼ぶどう郷・自由園

F4(開放, フレアカッター付, フード使用) SONY A7R2(WB:曇天)

F4(開放, フレアカッター付, フード使用) SONY A7R2(WB:曇天)
F4(開放, フレアカッター付, フード使用) SONY A7R2(WB:曇天)
F4(開放, フレアカッター付, フード使用) SONY A7R2(WB:曇天)
F4(開放, フレアカッター付, フード使用) SONY A7R2(WB:曇天)
F4(開放, フレアカッター付, フード使用) SONY A7R2(WB:曇天)


F4(開放, フレアカッター付, フード使用) SONY A7R2(WB:曇天)
2018年9月 横浜イングリッシュガーデン

F4(開放) SONY A7R2(WB: 曇天) 
F5.6 SONY A7R2(WB: 曇天) 

2018/09/07

IZOS PO-109-1A/ 16KP 50mm F1.2 Projection lens [RO-109-1A]













レニングラード生まれ、クラスノゴルスク育ちの
シネマムービー用レンズ  PART 7
安くて明るいプロジェクター用レンズ
アイズムスキー光学ガラス工場(IZOS) 
16KP / PO-109-1A 50mm F1.2(RO-109-1A) ライカMマウント(改)

双眼鏡メーカーで知られるロシアのアイズムスキー光学ガラス工場(IZOS)が1982年から1990年代まで供給した16mmプロジェクター用レンズの16KP。海外にはこの安くて明るいシネマプロジェクター用レンズをデジタル一眼カメラに搭載して素晴らしい写真を撮るアーティスト達がいます。プロジェクター用のためレンズに絞りはなく、常にF1.2の開放値で写真を撮ることになりますが、描写は写真の四隅にむかって大きく乱れ崩壊するため、使う側にある程度の許容力と表現の幅がないと、終始振り回されるだけで全く手綱を引かせてはもらえません。ただし、付き合い方を覚えてしまえば、ここぞという時に力を発揮する唯一無二のレンズにもなります。
レンズの起源は他のPOシリーズと同様にレニングラードのKINOOPTIKAファクトリー(1945-1947年頃)が1945年頃に開発したPOシリーズの原型うちの1本であると考えられます。インターネット上には名板に"KINOOPTIKA"の刻印をもつPOシリーズ(PO-109-1とは別のモデル)のプロジェクターレンズが写真と共に公開されています。事実ならレンズの生産拠点は他のPOシリーズと同じく複雑な過程を経ており、1947年に製造ラインごとモスクワのKMZに移設された後、1950年代末に再びレニングラードに戻ります。1950年代末からレニングラードでPO-109-1を生産したのは後に他の工場と合併しLOMOの一部となるLENKINAPファクトリーです。この頃のモデルはノンコート仕様で鏡胴は真鍮製でした。レンズの名称は1960年代のある時点からPO-109-1Aに代わり、ガラスにコーティングが施されたモデルが登場します。ところが、これ以降にレンズの生産を担当したのはLOMOではなくIZOSでした。POシリーズの大半は改良のため再設計されLOMOのOKCシリーズへと改称されてゆきますが、このレンズは例外的にIZOSが生産を引き継いだため1970年代もIZOS PO-109-1Aとして作られ続けます。この名称では1981年頃まで生産が続けられていましたが、1981~1982年頃よりレンズ名は16KPに変更されました。この改称時に設計変更などがあったのかについては確かな記録がないので不明ですが、両者を横に並べ観察すると細部に至るまで実によく似ており、全く同一のレンズに見えます。16KPは1990年代も生産が続けられました。
レンズの設計は下図のような5群6枚構成で、ガウスタイプの後群の張り合わせを外し、凹メニスカスを絞りの近くに配置した独特な形態です。


IZOS PO-109-1Aの構成図:GOI OBJECTIVE CATALOG 1970に掲載されていた構成図をトレーススケッチしました。左がスクリーン側で右がプロジェクターランプの側。設計構成は5群6枚の変形ガウスタイプで、ガウスタイプの後群側の張り合わせを外した形態です。こんかいはこれを写真撮影に使いますので、左が被写体側、右がカメラ(センサー)の側になります


入手の経緯
レンズはeBayに豊富に出回っておりオールドストック(未使用品)が1本2000~2500円程度の値段(即決価格)で手に入ります。ウクライナやロシアからの配送料を入れても、3500~4000円程度です。新品がゴロゴロとありますので、わざわざ中古品にゆく必要はないとおもいます。

重量(実測)225.5g, 鏡胴径 38mm(後ろ側)/52.5mm(前側), S/N: 9205***(1992年製)
ライカMマウントへの改造
このクラスの16mm用レンズにしてはイメージサークルが広くAPS-C センサーを余裕でカバーできます。バックフォーカスが比較的長いうえに後玉径もそれほど大きくないため、改造の難度はあまり高くはありません。改造方法についてはネットにいろいろと情報が出ていますので、ここでは事例のないライカMマウントへの改造方法を提案したいと思います。用意した部品は(1) T2-M42アダプター (2) M42-Leica Mアダプター(補助ヘリコイド付) の2つで、いずれも市販品として手に入るパーツです。これらを用いて下の写真のようなカプラーを作り、最後にレンズヘッドをエポキシ接着するだけです。このヘリコイドを用いた場合の最短撮影距離は約0.3mでしたので、近接撮影にも充分に対応することができます。補助ヘリコイド付きのライカMアダプターと組み合わせれば、最短撮影距離を更に短くすることもできます。T2-M42アダプターは側面のネジを緩めることで、いざとなればマウント部が外れる構造となっていますので、レンズヘッドとアダプターは遠慮なくガッチリとエポキシ接着しても大丈夫です。



なお、このレンズは後玉側のレンズガードが大きく飛び出しているため、ハレーションカッターや電子接点など内部に出っ張りのあるマウントアダプターではレンズガードが干渉してしまいます。私はレンズガードをニッパーでカットし除去しました。カットする際には少しコツがあり、レンズを回転させながらナイフでリンゴの皮を剥く要領で、少しづつカットしてゆきます(下・写真)。





撮影テスト
中央はフレアを伴にながらシャープで発色もよいのですが、四隅では画質が大きく乱れ、フレアの増大を伴いながら解像度が著しく低下します。像面が大きく湾曲しており四隅では像が著しくボケてしまうため、被写界深度がとても浅く感じられます。ポートレート撮影においては背後にグルグルボケが顕著にみられました。ゆがみは樽型で少し目立つレベルです。定格イメージフォーマットよりも広い範囲を写真に写しているとはいえ、これは凄い癖玉です。今回はレンズをSONY A7R2に搭載し、APS-Cモードでテスト撮影をおこないました。
  
2018年9月 横浜イングリッシュガーデン

SONY A7R2(AWB, APS-C mode)

SONY A7R2(WB: 日光, APS-C mode)
SONY A7R2(WB: 日光, APS-C mode)
SONY A7R2(WB: 日光, APS-C mode)
SONY A7R2(WB: 日光, APS-C mode)

2018年9月 ルミエールカメラにて

SONY A7R2(WB: 蛍光灯, APS-C mode)

SONY A7R2(WB: 蛍光灯, APS-C mode)

SONY A7R2(WB: 蛍光灯, APS-C mode)