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2016/03/05

VEB Pentacon (Meyer-Optik Diaplan) 150mm F2.8 (Projector lens)



 前エントリーで取り上げたPentacon AV 80mm F2.8は鏡胴の素材がプラスティックであったが、今回の望遠モデルは耐久性のあるメタルになっており貫禄は充分。ボケ量の大小を決める口径サイズは同シリーズで最大を誇る


東ドイツのペンタコンブランド PART 4(前篇)
ダイアプラン系列で最大の口径を誇る
バブルボケレンズの王者
VEB Pentacon (Diaplan) 150mm F2.8 改M42
プロジェクター用レンズのPENTACON AV/ DIAPLANシリーズは改造して写真撮影に転用することでバブルボケを発生させることができるため、高価なトリオプラン100mm F2.8の代用品になるレンズとして脚光を浴びている[文献1]。今回はその中で最大の口径を誇るペンタコン(AV) 150mm F2.8を取り上げてみたい。ボケ量は口径の大きなレンズほど大きく、口径比がF2.8の場合には長焦点レンズであるほど大きなボケ量となる。150mmの焦点距離を持つ本レンズの場合、得られるボケ量はF0.9相当の極めて明るい標準レンズと同等で、マクロ域での撮影のみならずポートレート域で人物を撮る際にも、背後の空間に大きなバブルを発生させることができる。しかも、本レンズの場合には望遠圧縮効果が有利に働くので、バブルボケの出方が平面的にはならず、大小さまざまなサイズのバブルが空間内を浮遊するような奥行き感のある写真が得られるのである。実はこの150mmのレンズを用いた写真がまだ殆ど公開されていないため、どれほど凄い写真が撮れるのか全く知られていない。レンズヘッドの購入額は約1万円強。1万円で未知の扉を開くことができるのは、オールドレンズ遊びを趣味とするグルメ人として冥利に尽きることだと思う。
ペンタコンAVには焦点距離150mmの製品以外に複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類を確認している[注1]。このレンズの先代はメイヤー・オプティックのDiaplan(ダイアプラン)150mm f2.8であるが、メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わっている。なお、ダイアプランとペンタコンAVの光学設計は全く同一である。
  
先代のMeyer-Optik DIAPLAN 150mm F2.8。外観だけでなく、中身(設計)も全く同一である


注1… Diaplan/Pentacon AVシリーズには焦点距離や口径比の異なる9種類のモデル2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200が存在する。このうち2.4/60は私がこちらで検証したようにレンズ構成が変則的なダブルガウス型のためバブルボケが出る保証はないが、他は全て3枚玉のトリプレット型である。今回入手した150mmf2.86x6フォーマットのMalisixという中判スライドプロジェクターに供給された交換レンズである。理由はよくわからないが、Malisix用のモデルのみ鏡胴が金属製で銘板にAVの表記がない。

参考文献・サイト
[文献1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
 
入手の経緯
2016年1月にドイツ版eBayを経由しアルパフォログラフィーというカメラ屋からレンズヘッドのみを90ユーロ(+送料12ユーロ)の即決価格で購入した。オークションの記述は「プロジェクター用レンズのPentacon (Diaplan) 150mm F2.8。鏡胴径は62.5mmでカメラマウントはない。傷、カビはない」とのこと。マウント部に傷がない品なのでオールドストックであると判断し購入に踏み切った。届いたレンズは撮影に影響のないレベルのホコリがみられる程度で、コンディションの良い個体であった。焦点距離150mmのモデルは流通量が少なく直ぐにはみつからなかったので、長らく探した末の入手である。
PENTACON 150mm F2.8, 重量(実測) 約400g(レンズヘッドのみ), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径 62.5mm, 鏡胴は金属製, マルチコーティング, Malisix 6x6 120 Slide Projector用レンズ

カメラへのマウント
このレンズにはヘリコイドはおろかマウント部すら付いていないため、改造にかなりの工夫を要する。改造における最大の難関は62.5mmもある太い鏡胴をヘリコイドにどうやって据え付けるのかである。しばらくのあいだ試行錯誤を繰り返していたが、ある時にミノルタのメタルフードD52N2が鏡胴にピタリとはまることを発見、このフードをレンズヘッドの後玉側に被せて固定し、レンズヘッドのマウント側を52mmのフィルターネジにすることができるようになった。あとは、そのまま中国製のM52-M42ヘリコイド(35-90mm)に搭載すれば、M42レンズとして使用可能である。M52-M42ヘリコイドはeBayにて50ドル程度から入手することができる。レンズの光軸が傾いてしまったりズレてしまうのを予防するため、レンズヘッドの土台部分に58mm-52mmカプラーを填めてみた。こうすることでレンズヘッドフードの内側にある平らな部分に乗り安定する。なお、レンズの鏡胴内やヘリコイドの内側には反射光防止用の植毛を貼っている。これだけの対策でハレーションはかなり抑制され、写真のコントラストもだいぶ向上している。本レンズのようにイメージサークルの大きなレンズではハレーション対策に万全を期す事が肝心なのである。
 



このレンズにはフィルターネジがないので、ステップダウンリングを前玉側にエポキシ接着した。これで、フードやキャップを装着することができる

撮影テスト
遠方に点光源をとらえ撮影したところ、焦点距離150mmの本レンズでもトリオプランの開放描写を彷彿させる輪郭のハッキリとしたバブルボケを確認することができた。しかも、本レンズの場合は大きなボケ量と強い望遠圧縮効果のため、大小さまざまな大きさのバブルを近接撮影時のみならずポートレート撮影時においても発生させることができる。バブルボケの出るレンズは収差(球面収差)が過剰に補正されており背後のボケは硬くザワザワとしているが、反対に前ボケはフレアに包まれフワッと柔らかく拡散するのが特徴で、これが本レンズの場合にはキラキラと輝きながら滲む素晴らしい写真効果を生む。過剰補正のためピント部は薄いハロに覆われ、ポートレートで人物を撮るのに適した柔らかい描写となっている。コントラストは低く階調はたいへん軟らかいが、中間部の階調はよく出ている。長焦点レンズということもあり、画質は四隅まで大きな乱れもなく安定している。ボケも四隅まで整っておりグルグルボケや放射ボケは全く見られない。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには望遠レンズ用の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。それではダイアプランシリーズ最大のバブルボケをご堪能いただきたい。
 
撮影に使用したカメラはSony A7
Photo 1, sony A7(AW:晴天,カラーバランス補正あり): 柔らかく、軟らかい描写がこのレンズの特徴だ。JPEG撮って出しのオリジナル画像はこちら


Photo 2, sony A7(AWB, 色調補正済): 自転車のハンドルから光のオーラが立ち上がっているが、これも収差の仕業であろう。少し口径食が出たのは深いフードを装着してしまったため。フードの丈を調整をした。補正前のオリジナル(JPEG撮って出し)はこちら

Photo 3, sony A7(WB:晴天, カラーバランスとコントラスト補正済): 背後の空間には輪郭部のはっきりしたバブルが発生する。JPEG撮って出しの補正無し画像はこちら
Photo 4, sony A7(WB 晴天, コントラスト+50, 明るさ+50): 




Photo 5, sony A7(WB 晴天, 補正なし): 前ボケにはフレアがかかり柔らかい

Photo 6, sony A7(AWB): 続いてポートレート。このスケールでも大小大きさの異なるバブルが出た

Photo 7, sony A7(WB 晴天): 

Photo 8, sony A7(AWB): 前ボケはフレアをまといながらキラキラと綺麗に滲む
Photo 9, sony A7(AWB):後ボケはもちろんのことだが、思っていた以上に前ボケがいい!フワッと綿のように拡散している。こうなったら・・・・
Photo 10, sony A7(AWB): : 調子に乗って前ボケによる表現を堪能するまでのこと

Photo 11, sony A7(AWB): : 再び近接撮影で、こんどはピントをきちんと合わせてみた。トリプレットはもともと中央が高解像なのだ
Photo 12, sony A7(AWB): ピント部はやや滲にをともなう柔らかい描写である。ポートレート撮影で女性を撮るにはよいレンズだ



Photo 13, sony A7(AWB): 





Photo 14, sony A7(AWB): 


2016/02/24

VEB Pentacon AV (Meyer Optik Diaplan) 80mm F2.8 (Projector Lens)

東ドイツのペンタコンブランド PART 3
バブルボケの出るプロジェクター用レンズ
VEB Pentacon AV(Diaplan) 80mm F2.8
オールドレンズの分野では数年前から流行しているバブルボケであるが、ブームの火付け役のとなったメイヤー・オプティック社のトリオプラン(Trioplan) 100mm f2.8には、実はプロジェクター用に供給された姉妹品のDiaplan(ダイアプラン)が存在する。レンズ構成はトリオプランと同一で、トリオプランとほぼ同等のバブルボケが発生するため、高価なトリオプランの代用になる製品として最近注目されはじめている[参考1]。3年前、私にトリオプランのバブルボケを教えてくれたドイツの光学エンジニアMr. Markus Keinathがその後"Soap Bubble Bokeh Lenses"と題する新しい記事を2014年に公開しており、その中でTrioplan 2.8/100とDiaplan(Pentacon AV)2.8/100の描写の比較をおこなっていた[参考2]。彼のレポートによるとトリオプランとダイアプランの描写は発色傾向に差がみられるものの極めて高い類似性があり、解像感やボケ具合等には差が認められなかったという。彼の作例からはダイアプランの方がトリオプランよりもクールトーンな発色傾向であることが判る。ダイアプランには100mm以外にも焦点距離の異なる複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200)を確認している。メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのダイアプランを含むメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わった。
今回紹介するレンズはメイヤーを取り込んだペンタコン人民公社がダイアプランの後継レンズとして生産したスライドプロジェクター用レンズのPENTACON AV 80mm F2.8である。このレンズにはスライドプロジェクターのPentacon Aspectomatシリーズに供給されたモデル(アスペクトマット用)とPentacon AspectarシリーズやPentacon AV autoシリーズに供給されたモデル(アスペクター用)の2系統が存在する。もともと撮影用ではないので絞りやヘリコイドはついていないが、開放でのバブルボケを利用した撮影が目的なので絞りは必要ない。そのまま市販のヘリコイドチューブに搭載して写真用レンズとして用いればよい。

参考文献・サイト
[参考1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
[参考2] Markus Keinath - Soap Bubble Bokeh Lenses

PENTACON AV 80mm F2.8(アスペクトマット用), 絞り無し, レンズヘッドネジ 58mm径, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴はプラスティック製, マルチコーティング, スライドプロジェクターのモデルはPentacon Aspectomat, 


PENTACON AV 80mm F2.8(アスペクター用), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径42.5mm, 鏡胴はプラスティック製,  マルチコーティング, スライドプロジェクターのモデルはPentacon auto 100/ auto 150/ Aspectar



入手の経緯
現在は改造済みの商品を入手することが可能になっており、レンズの改造を専門とするNOCTO工房に相談するか、ヤフオクで個人の工房が改造品を定期的に出品しているので、こちらからも手に入れることができる。2016年8月時点でのレンズの相場は20000円から30000円あたりのようである。
レンズは2016年1月にドイツ版eBayを介し旧東ドイツの光学製品を売る古物商が出品していたもので、アスペクトマット用が即決価格29ユーロ、アスペクター用が即決価格34ユーロであった。写真を見る限りガラスは綺麗で、プラスティック製のマウント部には傷が全く見られなかったので、未使用のオールドストック品と判断し購入に踏み切った。送料が5ユーロと安いにも関わらずドイツから5日で届いた。レンズは極僅かなホコリの混入のみで、クリーニングマークすらない状態の良い品であった。eBayなどの中古市場に流通しているモデルは大半がアスペクター用であり、アスペクトマット用を見つけるのは容易ではない。
  
カメラへのマウント
レンズにはヘリコイドがついていないので、一般撮影用としてデジカメで用いるには市販のヘリコイドチューブと組み合わせて使うことになる。おススメはアスペクター用のレンズヘッド(下の写真・左)をM42直進ヘリコイド(25-55mm)に搭載する改造である。まずはじめにニッパーでレンズガードをバキバキに割り、後玉が露出された状態にする(下の写真・右)。ここで注意しなければならないのは割れた部分で手を切らないよう手袋をすることと、パキパキしているところを家族に見られると怪しまれ、いちいち説明するハメになるので、人が寝静まる夜中などにコッソリ取り組む。









レンズガードを除去したのが下の写真の左。後玉が飛び出しているので、ガラスに傷をつけないよう注意しなければならない。ここに、52-43mmステップダウンリングを取り付け(写真・中央)、エポキシ接着剤でガッチリと接着する(写真・右)。




 
次に下の写真・左のように前玉側に43-46mmステップアップリングをエポキシ接着し、フィルターネジにする。下処理として43-46mmステップアップリングのネジ山を棒やすりで潰しておく必要がある。これを怠ると、据え付けがきつく前玉側の鏡胴が割れる。棒やすりによる下処理が面倒な人は・・・・、やや耐久性に劣るが42-46mmステップアップリングでもよい。完成したレンズヘッドをM42ヘリコイドに乗せ(写真・右)、これで完成。


「2番リング」とはマイクロフォーサーズ用マクロエクステンションチューブで使用されている2番目の中間リングのことだ(下の写真・左)。写真の右にはヘリコイド周りで使用した部品を並べている。39-52mmステップアップリングの代わりに42-52mmステップアップリングを用いても、ネジピッチが異なるのでM42ヘリコイドには着けられない。



続いてアスペクトマット用の改造例である。アスペクトマット用はマウント部に58mm径のオスネジがついており、フィルター用ステップアップリング(39-58mm)が問題なく装着できるので、M39-M42ステップアップリングを介しM42ヘリコイドチューブ(35-90mm)に搭載することができる。この状態でフランジバックはM42マウントレンズとほぼ同じで、若干のオーバーインフ気味であるが無限遠のフォーカスを問題なく拾うことができる。なお、レンズヘッド側のネジの軸(ネジ先からネジ頭まで)がステップアップリングのネジ軸よりも長いので、そのまま装着するとネジ込みが収まりきらず隙間が生じてしまう。レンズヘッド側のネジを棒ヤスリで半分ぐらいに落としておいたほうが見栄えは良い。(注意:よくある36-90mmでは無限遠が出ない!。その場合にはレンズヘッド側のネジを棒ヤスリで落とすことでフランジを削り無限を出す)





続いてアスペクター用モデルであるが、鏡胴径が約42.5mmなのでM42ヘリコイドにはギリギリ収まらず、改造難度はこちらのほうが高い。ルーターでネジ山をつぶしたステップダウンリング(52-43mm)を鏡胴にはめて接着固定し,そのままM52-M42ヘリコイドに搭載してM42レンズとして用いるのことにした(写真・下)。プラスティック製のレンズガードはニッパー等で除去している。


おすすめのモデル
冒頭でも触れたがPentacon AV(Diaplan)には少なくとも9種類のモデル(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150)が存在する。どれを選択すればよいのかはカメラの種類と撮影対象(マクロ域で使うのか?ポートレート域で使うのか?)で決まる。私のおすすめは35mm版換算で焦点距離が100mm以上になるモデルである。このくらいの長焦点レンズになると望遠圧縮効果が有利に働き、大小不揃いのバブルボケが発生するので、奥行きのある空間をシャボン玉の泡沫が浮遊しているように見える。使用するカメラがAPS-CセンサーやM4/3センサーを搭載した機種ならば9種類あるモデルのどれを選んでもよいが、センサーサイズの事を考えると口径比がF3よりも明るいモデルがよいだろう。マクロ域での撮影が中心ならば80mm F2.8、ポートレート域で人物の背後にバブルボケを出したいならば80mm F2.8か100mm F2.8(F3)をおすすめする。焦点距離が長いほどボケ量を稼ぐには有利だが、長すぎるとスナップ撮影では手振れを起こしやすく使いにくい。一方、使用するカメラがフルサイズセンサーを搭載した機種なら焦点距離100mm以上のモデルがおすすめである。中でも150mmF2.8はダイアプラン系列で最大の口径を誇り、50mmの標準レンズに換算しF0.9相当の極めて大きなボケ量が得られるので、ポートレート域で人物を撮る際には絶大な効果(巨大バブル)を期待することができる。60mm F2.4はトリプレット型ではなくダブルガウス型なのでバブルボケの出る保証はない。

撮影テスト
バブルボケの出るレンズはどれも収差(球面収差)を過剰に補正したものであるため、背後のボケは硬くザワザワとして煩いが、反対に前ボケはフレアに包まれ柔らかく美しいのが特徴である。本レンズの場合はやや長焦点レンズということもあり、ピント部の画質は四隅まで大きな乱れもなく安定している。ボケも四隅まで整っておりグルグルボケや放射ボケは全く見られない。私は望遠圧縮効果を強化するため、Sony A7をAPS-Cクロップモードに切り替えて撮影した。この場合の換算焦点距離(35mm版換算)は120mm相当である。遠方に点光源をとらえマクロ域を撮影したところ、大小さまざまな大きさのバブルボケを発生させることができた。トリオプランの開放描写を彷彿させる、輪郭のハッキリとしたバブルボケである。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには80mm相当の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。

撮影機材
カメラ SONY A7 (APS-Cクロップモードで使用) / Sigma SD Quattro
Photo 1: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)




Photo 2 by Yusuke SUZUKI : Pentacon AV80mm F2.8, Sigma SD quattro

Photo 3: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)

Photo 5 by Yusuke SUZUKI : Pentacon AV80mm F2.8, Sigma SD quattro
Photo 4: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)
Photo 6: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(FF mode, AWB)









Photo 7: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)

2016/02/03

VEB Pentacon PENTAFLEX Color(Domiplan) 50mmF2.8 (M42 mount)*









ある知人曰く、「ペンタコン製レンズの特徴は国産レンズには見られない魅力的なボケと適度な解像感、そして何よりレンズの安さである」。なるほど、このレンズはまさにそうだ。

東ドイツのペンタコンブランド PART 2
ドイツ製品最強のコストパフォーマンスを誇る
バブルボケレンズ
VEB Pentacon Pentaflex-Color (Domiplan) 50mm F2.8
その知人からマクロ域でバブルボケが出るレンズと教えてもらい、さっそく試してみることにした。旧東ドイツのペンタコン人民公社(VEB PENTACON)が一眼レフカメラのPentaflex SL(1967年登場)に搭載するキットレンズとして供給したペンタフレックス・カラー(Pentaflex color)50mm F2.8である。ドイツ製レンズの中では1、2位を争うロープライス製品であり、eBayでは30ユーロ前後で大量に売買されている。しかも、バブルボケが出るとなれば、手をださない理由はない。では、何故こんなに安いのか。実は最短撮影距離が0.75mとやや長く、バブルボケのスイートスポットであるマクロ域まであと一歩届かないのである。しかし、案ずることはない。この問題はマクロエクステンションリングやヘリコイド付きアダプターを併用することで簡単に解決できるのだ。
さて、製品のルーツを調べる中でバブルボケの出る理由については一定の理解が得られた。ペンタコン人民公社は1968年にレンズメーカーのメイヤー・オプティック(Meyer optik)を吸収しており、このレンズの正体はメイヤーのドミプラン(Domiplan) 50mmF2.8と同一、つまり1963年に姿を消したトリオプラン(Trioplan) 50mm F2.9の後継レンズなのである。トリオプランには焦点距離100mmと50mmの2種類のモデルがあり、どちらもバブルボケが顕著に発生するレンズとして有名である。
レンズの構成は下に示すような3枚構成のトリプレットタイプで、製造コストの低いシンプルな設計にも関わらず中心部の解像力は良好なうえ、シャープでヌケが良く、グルグルボケが出やすいのが特徴である。なお、ペンタフレックス銘のレンズには50mm F1.8(M42マウント)も存在し、これはメイヤー・オプティックのオレストン(Oreston)をベースとするガウス型レンズである。
Domiplanの断面図(左)およびPentacon DOMIPLANの構成図(右)。構成図は「東ドイツカメラの全貌」(Hummel, Koo 村山著, 朝日ソノラマ)からのトレーススケッチ(見取り図)





ペンタコン人民公社はメイヤー・オプティックを吸収した後、1971年にレンズの製品ラインナップを再構成し、メイヤーブランドの一部を同社のプラクチカール(Prakticar)ブランドへと置き換えている。ただし、どういう理由かは不明だがドミプランだけは例外的にプラクチカールファミリーに編入せず、Pentacon Domiplanとして存続させた。もしかしたら当初はテッサータイプのPrimotar 50mm f2.8をPrakticarに編入させる計画があり、席を空けておいたのかもしれない。
手に取ればDOMIPLANとPENTAFLEX-COLORが同一品であることを改めて実感できる。両者は銘板に刻まれた名称等を除き、細部に至るまで完璧に同一である




入手先
このレンズは2016年1月にドイツ版eBayを介しドイツの写真機材専門のセラーから32.5ユーロ(4160円)+送料9ユーロで落札した。オークションの記述は「新品同様。ドミプランの100%コピーである。レンズはプラクチカとCanon 600Dでテストした」とのことで、フロントキャップとリアキャップ、UVフィルター、Schachtの接写用マクロリング(6mm丈)が1枚付属していた。届いたレンズはパーフェクトに近い非常に良い状態であった。eBayでは今も流通量が豊富なレンズで価格もこなれているので、じっくりと探し、状態の良い個体を選ぶとよいであろう。
Pentaflex-Color/Domiplan: 重量 150g, フィルター径 49mm, 最短撮影距離 0.75m, 画角 47°, 絞り羽 6枚, 設計構成 3群3枚トリプレット型, 絞り値 F2.8-F22, 対応マウント M42, Exakta(Domiplanのみ), Domiplanについては極僅かにペンティナ(Pentina)マウントの個体も存在するようである(2016年1月にeBayで目撃)



撮影テスト
このレンズはフルサイズ機に準拠した設計仕様になっているが、バブルボケを生かす事を最優先に考えるなら、マイクロフォーサーズ機やAPS-C機などセンサーサイズが小さいカメラで用いることをおすすめする。例えばマイクロフォーサーズ機で用いると焦点距離100mm相当の望遠レンズとなり、望遠圧縮効果が起こるため、1枚の写真の中に大小さまざまな大きさのバブルボケを生み出すことができる。また、撮影倍率が2倍となり最短撮影距離の長いこのレンズの弱点が克服できるうえ、四隅の画質に弱点をもつトリプレット特有の問題も解決できる。それだけではない。トリプレット型レンズによく見られる非点収差由来のグルグルボケも殆ど目立たなくなるのだ。せっかくシャボン玉を送り出すのだからグルグルと回る嵐の中ではなく、穏やかなそよ風の中に放ちたい。そう思うのは私だけであろうか。
SONY A7での写真作例
F2.8(開放), sony A7(AWB):  手前にガラスがあるので後ボケが被写体の前方に写り込んでいる

F2.8(開放), sony A7(AWB): 

F2,8(開放), sony A7(AWB): 

F2.8(開放), sony A7(AWB):

F2.8(開放), siny A7(AWB):



Olympus PEN E-PL6での写真作例
バブルボケを大きく見せたいならば、レンズをヘリコイド付きアダプターで用いるか、マクロエクステンションリングを併用するのがよい。マクロエクステンションリングを用いる場合には、オリンパスPEN(M4/3)用かM42レンズ用のどちらかを手に入れればよい。
F2.8(開放), Olympus Pen EP-L6(AWB) + MACRO Extension Ring: 小さなバブルと大きなバブルが共存できるのは望遠レンズ特有の圧縮効果のおかげである。遠方のバブルが大きく誇張され、迫ってくるように見える


F2.8(開放), Olympus Pen EP-L6(AWB) + MACRO Extension Ring: 先代のトリオプランにも引けをとらないハッキリとしたバブルが出現している