おしらせ


2023/10/21

Wollensak Raptar 3inch (76. 2mm) f2.5 cine telephoto



ウォーレンサック社

シネマ用 高速望遠レンズ

Wollensak Raptar 3inch (76.2mm) f2.5 cine telephoto

今の私はエルノスター型レンズの予想外の性能にどはまりしている最中です。高価なガラス硝材を使いコスト度外視で作れば、僅か4枚の構成でも凄い性能に到達できる事をエルノスターは教えてくれています。そこで今回取り上げたいのが、米国WOLLENSAK社が1950年代初頭に生産したラプター 3inch F2.5 (RAPTAR 3 inch F2.5 Cine Telephoto LENS)という望遠レンズです。ラプターという名はWOLLENSAK社の最高級ブランドで、名称の由来はRAPID(=高速な)だそうです。このレンズにはFASTAX-RAPTARという軍用・研究所向けに供給された裏バージョンが存在し、これを映画用に転用したのが今回のモデルです。鏡胴のつくりは素晴らしく、ただならぬオーラにつつまれており、このままデジカメにつけて撮ることに一瞬ためらいを感じてしまうほどです。レンズの構成図は見当たりませんが、オーバーホール時に確認したところ確かに4群4枚のエルノスター初期型でした。これまでの経験からも分かるように、エルノスタータイプのレンズはコントラストとシャープネスで押し通す性格のものが多く、写真の四隅まで安定感があり、ボケ味も素直で美しいのが特徴です。本家エルノスターを取り上げる前に少し寄り道しておきたい面白そうなレンズです。このレンズのF2.5という中途半端な口径比はエルノスター構成の設計限界なのでしょう。そういえば、同じエルノスター型レンズにPrakticar F2.4という製品がありました。
WOLLENSAK RAPTAR 3inch F2.5 CINE TELEPHOTO:フィルター径 40mm, 最短撮影距離 3 feet弱(約0.9m), 重量(実測) 270g/フード込み300g , 絞り F2.2-F22, 設計構成 4群4枚 エルノスター型,  c マウント, シリアル番号から本品は1953年に製造された個体であることがわかります

市場価格
2022年夏頃、eBayにて本品とCine Velostigmat 1inch F1.5がセットで出品されていたものを、競買の末にお買い得価格で入手しました。本命がCine Velostigmatでしたので、今回のレンズは意図せず入手してしまったわけです。届いた個体はオーバーホールが必要でしたが、ピントリングをグリス交換し、ガラスの清掃もしたところ、カビ・クモリのないなかなか良いコンディションとなりました。ちょうどCマウント系の望遠レンズが欲しいというオールドレンズ女子部の知人がいましたので、この記事を書いたらお譲りすることとなっていますレンズは主に米国内で流通しており、eBay経由で米国のセラーから入手するのが一般的な購入ルートです。取引価格はコンディションにもよりますが、200ドルから250ドルあたり(現在の為替で30000~40000円あたり)です。米国からの購入の場合、送料が高いうえガッツリと税金を取られるので注意が必要です。また、同社の3inch望遠シネレンズには外観がよく似たF2.8やF4のモデルがあるので、購入時の勘違いにも注意してください。
 
撮影テスト
さっそく試写してみたところ、やはり滲みのないスッキリと写る高性能なレンズでした。ピント部は解像感がたいへん高く、開放でも像の甘さは全くありません。コントラストも高く、シャドー部には締まりがあり、そのぶん発色は鮮やかです。色味に癖はありません。ボケは素直で距離に依らず安定しており、グルグルボケや放射ボケとは無縁です。イメージサークルには余裕があり、本来は16mmのシネマフォーマットが定格ですが、APS-Cセンサーでもケラれることなく使えます。
4枚構成のエルノスター初期型はやはり戦後に大化けしたようです。コーティング技術やガラス硝材の進捗が、この種のレンズ構成の潜在能力を大きく引き出してくれたように思います。
F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅,F.S.: ST)

F4, Fujifilm X-T20(WB:⛅, F.S.:ST)シャドー部の締りは良好です

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.: ST) ボケは距離に依らず四隅まで安定感しており、綺麗なボケ味が得られます

F4, Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.: ST) 最短撮影距離ではこのくらい

F4 Fujifilm X-T20(WB:⛅, F.S.:ST)

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST)

F4, Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST) 発色は濃厚かつ鮮やか

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST)

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST) 逆光では写真全体が均一に軟調化し、いい雰囲気に写ります

2023/10/17

Taylor-Hobson Leicester "CINAR ANASTIGMAT" 1inch f1.5 (c-mount)

テーラー・ホブソン社のキノ・プラズマート型レンズ

Taylor-Hobson Leicester "CINAR ANASTIGMAT" 1inch (25mm) F1.5 (C mount)

やや珍しい英国製シネレンズを入手しましたので、軽くレポートしたいと思います。英国のテーラーホブソン社(以後TTH社と略称)が戦前の1932年頃に英国エンサイン社の16mm映画用カメラAUTO-KINECAM Sixteen TYPE Bに搭載する交換レンズとして市場供給したCinar Anastigmat 1inch(25mm) F1.5です。メーカー名の横に記されているLeicester(レスター)はご存知のようにイングランドの歴史ある都市で、同社はここを拠点に創設されました。

レンズ構成は下図のような4群4枚で、1924年にHugo-Meyer社のパウル・ルドルフが発表したキノ・プラズマート簡易型(4枚モデル)とよく似た設計形態です[DE Pat.401630 (1924) ]。この設計は米国Wollensak社のCine-Velostigmat 1inch F1.5/F1.9Kidak Anastigmat 1inch F1.9など16mm映画用レンズに多く採用されており、明るさと中心解像力の高さが映画撮影の用途に向いていたようです。ただし、キノ・プラズマートの前後群が絞りを挟んで対称であるのに対し、今回ご紹介するCINARは絞りに面するレンズが前側は平凹レンズ、後側は凹メニスカスで対称性が崩れており、描写傾向にも若干の差異が期待できます(下図)。さっそく試写してみたところ、やはり少し違うようで、キノ・プラズマートよりも滲みは少な目でコントラストは良好です。非対称な構成なので、コマ収差の補正でもしているのでしょうか。

設計構成の見取り図:左が被写体側、右がカメラの側
TTH Leicester CINAR Anastigmat 1inch F1.5: 最短撮影距離 1feet(約0.3m), フィルター径 23mm, 絞り F1.5-F16, 絞り羽 12枚構成, 重量 140g, 4群4枚キノプラズマート簡易型, C-mount

  

撮影テスト

キノ・プラズマー型レンズの描写の特徴はピント部の背後に生じる盛大なグルグルボケと前方のに生じる放射ボケ、コマ収差由来の強い滲み、良好な中心解像力、中心部の画質と四隅の画質の大きなギャップで、コントラストは低く発色はあっさりと軟調傾向なところです。本レンズも概ねそのような性質を受け継いでいますが、滲みはキノプラより軽めで、そのぶんコントラストは良好です。イメージサークルには余裕があり、マイクロフォーサーズ機では写真の四隅まで均一な明るさが得られ、明るい標準レンズとして使用できますし、APS-C機では隅端部が僅かにケラれる程度で、明るい準広角レンズとして使用できます。開放では良像域が写真中心部の狭い領域に限られますので、被写体を真ん中に置くポートレート撮影ではよいのですが、中遠景など平坦なものを撮る場合には大きな非点収差の影響で四隅の結像が甘くなります。この場合は絞って撮るほうがよいと思います。まぁ、絞っても効果は限定的ですが。

さてさて、どうやらモノクロがいいみたいですので、まずはニシカワヒカルさんの写真をどうぞ。


Photo ニシカワヒカル

Olympus OM-D(モノクロ)

F2, OM-D(Aspect ratio 16:9)

F2, OM-D(Aspect ratio 16:9)


F2, OM-D(Aspect ratio 16:9)

F2, OM-D(Aspect ratio 16:9)

F2, OM-D(Aspect ratio 16:9)

F2, OM-D(Aspect ratio 16:9)




続いて、カラー写真です。

Panasonic LUMIX GH1

F1.5(開放)  WB: 日陰

F1.5(開放)  WB: 日陰

F1.5(開放)  AWB

F1.5(開放)  AWB

F1.5(開放)  AWB

F1.5(開放)  AWB

F1.5(開放)  AWB
滲みはF2で収まります。F2.8まで絞ったサンプルもご覧ください。

 
F2.8, WB:日陰

F2.8, WB:日陰

F2.8, WB:日陰