おしらせ


2023/05/01

Bausch & Lomb Opt. Co. ANIMAR Balcote 26mm F1.9 C-mount



美しく滲む 線の細い繊細な描写

ボシュロムの高解像ソフトレンズ

Bausch & Lomb Opt. Co. ANIMAR Balcote 26mm F1.9 C-mount

オールドレンズ写真学校の参加者の一人がこのレンズを使い、まるでアートフィルターにでもかけたような美しい写真をSNSに連投していましたので尋ねると、無加工の写真だと言います。興味を持ち手に入れたレンズが、今回ご紹介する米国Bausch & Lomb社の16mmシネマ用レンズ ANIMAR Balcote(アニマー・バルコート)です。デジタルカメラに取り付けて使うと開放ではまさに求めていた通りの絶妙な滲みが出ており、とても繊細なうえ解像力は高くコントラストも良好という素晴らし写真が撮れます。「過剰補正タイプ」の典型でも「弱補正不足タイプ」の典型でもありません。ANIMARは「滲み」「解像」「コントラスト」の三拍子を揃えた反則級レンズなのです。もしかしたら、コーティング性能の優秀な過剰補正レンズで、構成枚数が少ない場合にだけ、この領域に到達できるのかもしれません。早速ご紹介しましょう。

ボシュ・ロムのAnimar Balcoteシリーズは1949年に登場した8mmおよび16mmのシネマ用レンズです[1]。8mmシネマカメラ向けにDマウントのAnimar Balcoteが 12.7mm F2.8, 16mmF1.9, 35mm/F3, 37.5mmF3.5のスペックで供給され, 16mmシネマカメラ向けにCマウントのAnimar Balcote 25mm F1.5, 25mm F2.3, 25mm F2.7, 26mm F1.9, 50mm F3.5およびCマウントのTele-Animar Balcote 75mm F3.5と100mmF3.5が供給されました[2]。今回紹介するレンズには上位モデルで1段明るい25mm F1.5もあり、開放からシャープで高性能なレンズのようです。私はどちらかと言えばF1.5よりもF1.9の柔らかい描写の方が好みです。

レンズ構成は4群4枚でネットには変形ダイアリートという報告がありますが、確認の上での記載なのかどうか不明なためエルノスターの可能性もあります。光を通し反射面の数を数えた感じでは確かに4群4枚で、前玉と後玉は凸レンズ、絞りに面したガラス面は前側が凹面で後ろ側が凸面でした。

 

参考資料

[1] Bausch & Lomb社 広告 "Bausch & Lomb Animar Lenses" Popular Photography, June 1949

[2] Bausch & Lomb社 広告 "9 NEW Bausch & Lomb CINE LENSES" (1950)

重量(実測)  130g, 設計構成 4群4枚,  絞り F1.9-F16, 最短撮影距離 2フィート (約0.6m), 絞り羽 6枚構成, コーティング Balcote, Cマウント




真鍮でできた鏡胴はサビや凹みなどと無縁の極めて良い作りです。また、刻印の文字が全周にわたって喧しいほど刻まれており、工業アートとしてのある種のカッコよさを醸し出しています。中でも目を引くのが側面中央部に記された「SUMMER」と「WINTER」で、DULL, HAZY, BRIGHTは天候の事のようです。絞り冠と連動しており、「冬の青空」や「夏の曇り日」など、その日の天気を選択できます。なんだか楽しい気分になれるレンズですよ、コレは。

Bausch and Lomb Opt. Co.

ボシュロムはニューヨーク州ロチェスターにて1853年に創業された米国で最も古い企業の一つで、創業者はドイツ系移民で眼鏡職人のJohn Jacob Bausch(ジョン・ボシュ)と同じくドイツ系移民で家具職人のHenry Lomb(ヘンリー・ロム)の二人です。二人はロチェスターで出会い友人となり、互いにドイツ出身ということで意気投合、片眼鏡を製造する小さな工場を設立したのが始まりです。1892年にはカール・ツァイス社との提携を結び、米国において同社のブランドのライセンス生産を担うようになります。19世紀末までには、眼鏡、顕微鏡、双眼鏡に加え、映写機、カメラ用レンズ、カメラ用絞りなども製造、20世紀に入ると軍需産業にも進出し、事業規模は急速に拡大してゆきました。そういえば国は違いますが、フランスにおけるカール・ツァイスブランドのライセンス生産もドイツ系移民が創設したE.Krauss(Eクラウス)社でしたね。

 

レンズの市場価格

eBayでは150~200ドル辺り(送料は別)で取引されています。ただし、国内では認知度がイマイチのためか、海外よりも安値で取引されるという逆転現象が起こっています。流通している個体数は決して多くないので、いずれ国内相場は海外相場に引っ張られ値上がりすると思われますが、国内で見つけ即購入するのがお得な入手ルートだと思います。

 

撮影テスト

F1.9のアニマーは解像力が高いことに加え綺麗な滲みの入る、線の細い繊細な描写が持ち味のレンズです。イメージサークルは広く、マイクロフォーサーズセンサーを完全にカバーでき、ダークコーナーは全く出ません。このクラスのシネレンズにしては珍しく、マイクロフォーサーズ機で画質的に四隅まで安定しています。コントラストは滲み系レンズにしては良好なレベルで、発色も淡くならない点が特徴だと思います。積極的に開放で使うのが良いでしょう。距離によっては背後にグルグルボケが出ることがあります。綺麗に撮れる素晴らしい描写のレンズだと思います。

F1.9(開放)  Panasonic GX-1(WB:auto) あらら。凄い!期待どうりの素晴らしい描写で、アートフィルターにかけたような繊細な柔らかさがみられます。中心解像力がずいぶんと高い事がわかります


F1.9(開放) Panasonic GX1(WB:auto)なんでもない写真ですが、わかりやすさ優先で採用しました。このレンズの滲み方、わかりますか? 

F1.9(開放)  Panasonic GX1(WB:auto)  滲みながらも中央はキッチリと解像しており、緻密な像の描き方です

F1.9(開放) Panasonic GX1(WB:auto)
F1.9 Panasonic GX1(WB:auto) 背後にはグルグルボケが出ます。動きのあるシーンで活かすことができます

F1.9(開放) Panasonic GH1(WB:日光)


F1.9(開放) Panasonic GH1(WB:日光)

F1.9(開放) Panasonic GH1(WB:日光)

F1.9(開放) Panasonic GH1(WB:日光)

レンズの特徴は屋外で用いた最初の1枚目の写真でよくわかりました。このレンズならばポートレート撮影で素晴らしい結果が得られると思います。オールドレンズフェス2023の撮影会にてモデルのらんさんを撮影させていただきました。

F1.9(開放) Paasonic GX1(WB:auto)

F1.9(開放) Panasonic GX1(WB:auto)

F1.9(開放) Panasonic GX1(WB:auto) このレンズの良さが出せましたので、大満足です
 

Photographer ニシカワヒカル
Bausch & Lomb Animar Balcote 26mm F1.9
+ Olympus OM-D
以下はニシカワヒカル(工学部4年生)さんご提供のスナップショットです。レンズの特徴をよく活かしています。
Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)


Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)

Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)

Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)
Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)

Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)

Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)

Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)

Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)

Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)
Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)

Photo:ニシカワヒカル Olympus OM-D(Aspect Ratio 16:9)

2023/04/21

DALLMEYER 38mm(1.5 inch) F1.9 TV lens


ダルマイヤーのテレビジョンレンズ
DALLMEYER 1.5 inch (38mm) F1.9 TV lens
converted to Leica M mount

ダルマイヤーの明るいレンズはどれも恐ろしい値段で取引されているので手が出せませんが、Dマウントのこのレンズならどうにか気軽に買えるので手に入れてみました。英国Dallmeyer社がTV撮影用に市場供給した8mmのシネマムービー用レンズです。ネット上には焦点距離の異なる4種類のモデル 1inch(25mm) F1.9,  1.5inch(38mm)F1.9, 2inch(51mm)F1.9,  3inch(76mm)F1.9の存在を確認することができます。Dマウントでは使えるカメラが限られてしまいますので、CマウントやライカMマウントに改造されている事例を多く見ます。焦点距離が38mmあれば、レンズのイメージサークルはAPS-Cセンサーを包括できるかもしれませんし、汎用性の高いライカMマウントに改造できるかもしれません。あれこれ甘い期待を抱きながらレンズを入手し、さっそくライカMに改造するための試行錯誤に取りかかりました。
レンズの設計や製造年代など製品に関する情報はなかなか見つかりませんが、光の反射から判断すると、設計構成は3枚玉のトリプレットのようです。

入手の経緯
2019年の夏にeBayを介して英国の個人出品者から153ポンドで入手しました。eBayでの取引相場はよくわかりませんが、しばらく売買の様子をウォッチして2万円以内なら良いだろうという感触をつかんでいたので、おそらくその辺りが相場ではないかと思います。傷、カビ、クモリ等のないコンディションの良い個体が届きました。
 
Dallmeyer 1.5 inch F1.9: 最短撮影距離 0.9m(3 feet), 絞り F1.9-F16, 重量(実測)67g, 絞り羽 10枚, もともとはD-mountだったモデルだが改造でライカMに変換されている


今回はレンズをマイクロフォーサーズ機やAPS-C機で使いたいので、ケラレの原因となるDマウントのマウント部分を取り外し、ライカMマウントに改造しています。改造にはCマウント to M39アダプターとライカL-M変換アダプターを組み合わせて使いましたが、このレンズはピントリングがマウント側にある仕様のため、改造の結果、ピントリングの取り回しが窮屈になってしまいました。はじめから本体のヘリコイドは捨て、外部ヘリコイドに載せてライカL39あたりにするのが正解だったと思います。このままミラーレス機用のヘリコイド付きアダプターで使うこととしました。
 
撮影テスト
イメージサークルは広くマイクロフォーサーズセンサーを充分に包括できますが、像面湾曲が大きく出るので、被写体の平面性が最も高くなる遠景を開放で撮影すると、四隅の画質がピンボケを起こします。近距離撮影時ならば平らな被写体を取ることがほぼ皆無なので、像面湾曲はあまり目立たなくなります。ちなみに一回り大きなAPS-Cセンサーでは四隅がハッキリとケラれてしまいましたので、アスペクト比を1:1にする必要があります。開放からコントラストとシャープネスは高く、スッキリと抜けの良いレンズです。もう少しセンサーサイズの小さなデジタルカメラ(Nikon 1やPentax Qなど)で用いる方が画質は安定しますので、人によってはこの方が使いやすいかもしれません。
 
マイクロフォーサーズ機(Olympus E-PM1)での作例
F1.9(開放) Olympus PEN E-PM1 (WB:auto) 遠景撮影は被写体の平面性が最も高いので、像面湾曲が大きく、絞らないと四隅のピンボケが目立ちます

F5.6  Olympus PEN E-PM1(WB:auto) 絞れば少しは被写界深度の広がりでピンボケが改善します。この画像は開放だとこちらのようになります。

F1.9(開放)  Olympus PEN E-PM1(WB:auto) マイクロフォーサーズ機で8mmレンズはハードルが高いということが、よくわかりました。
APS-C機(Fujifilm X-T20)での写真作例
APS-C機では写真の四隅に大きなダークコーナーが発生しますので、カメラの設定を変え、写真のアスペクト比を1:1にする必要があります。何枚か写真を御覧ください。
F1.9(開放) Fujifilm X-T20(Aspect ratio 1:1, WB:auto, Film simulation: CC)

F5.6 Fujifilm X-T20(Aspect ratio 1:1, WB:auto, Film simulation: CC)

F1.9(開放) Fujifilm X-T20(Aspect ratio 1:1, WB:auto, Film simulation: CC)