おしらせ


2023/02/19

試写記録: Sankyo-Kohki SUPER-KOMURA Uni AUTO 200mm F3.5 (M42 mount)



試写記録

SUPERを冠した特別なコムラー PART 2

SANKYO-KOHKI SUPER-KOMURA Uni Auto 200mm F3.5

このブログで扱うSUPER-KOUMRAはこちらの135mm F2.8の記事に続き2本目です。一体どこがスーパーなのか全くわかりませんが、スーパーのつかないKOMURA 200mm F3.5も存在するので、恐らくこれはスーパー・マリオみたいなものなのでしょう。今回は200mm f3.5を手に入れましたので、軽く試写を行い、記録としての作例を残します。

三協光機株式会社は1951年に東京都台東区で創業したレンズ専業メーカーで、1980年に倒産するまでコムラのブランド名で様々なマウント規格のレンズを市場供給していました[1]。製品展開は主に望遠レンズと広角レンズで、カメラとセットで標準レンズを購入した消費者に、リーズナブルなサードパーティ製レンズを供給するのが、このブランドの立ち位置でした。会社名の「三協」には技術、営業、資本の三部門が手を取り合って協力と均衡を保つ意味が込められてたそうです[2]。

レンズの設計構成は下図に示すような4群5枚で、ガウスとトリプレットの折衷にも見えます。エルノスター型なら第3群をもっと前方に置き第4群(後玉)と距離をとりますが、このレンズはやや異なり、ありそうであまり見ない構成形態です[3]。ちなみに、もう一つのSUPER KOMURA 135mm F2.8もこれと同一構成です。

KOMURA 200mm F3.5構成図:文献[3]からのトレーススケッチ
 

レンズは人気のない焦点距離200mmですので、中古市場では数千円で入手できます。一眼レフカメラ各種いずれかに対応できるマウントアダプターがついていますので、汎用性の高いM42マウントあたりの個体を探すのがおすすめです。

SUPER-KOMURA Uni Auto 200mm F3.5(Komura Uni to M42アダプター付) : 絞り f3.5-f22,  最短撮影距離 3m, フィルター径 62mm,  絞り羽根 6枚構成, KOMURA Uni mount, 設計構成 4群5枚

 

参考文献

[1] 「コムラーレンズと三協光機」粟野幹男 クラシックカメラ専科No.50(1999)

[2] 戦後日本カメラ発展史 日本写真工業会編(1971)

[3] KOMURA INTERCHANGEABLE LENS GUIDE 米国向けカタログ(EPOI INTERNATIONAL LTD., 1963 NY)

[4]Komura Product catalog for 4x5 Large format, 6x9 format and 35mm format camera(Feb.1970). 


撮影テスト

シャープで線の太い描写ですが、開放では逆光耐性が弱く、コントラストは低めで軟調、発色は淡く暗部は浮き気味です。対して順光ではコントラストが急に高くなります。ボケは安定しており、グルグルボケや放射ボケはみられません。背後のボケは柔らかく綺麗に拡散しています。開放で軸上色収差が目立つ事があり、像が色づいて見えますが、絞ればもちろん消滅します。歪みは糸巻き状です。

F3.5(開放) SONY A7R2(WB:日光) 開放では軸上色収差が目立ち、像が色づきますが、絞ればもちろん下の写真のように消滅します

F5.6 SONY A7R2(WB:日光) 

F3.5(開放) SONY A7R2(WB:日光) 歪曲は糸巻き状です

F3.5(開放) SONY A'R2(WB:日光) 背後のボケは穏やかで綺麗。乱れもありません

F3.5(開放) SONY A'R2(WB:日光) 一つ前の写真と比べれば明らかなように、逆光と順光でコントラストに大きな差が生じます


2023/02/11

PETRI C.C Auto 28mm F3.5


ペトリカメラの主力広角レンズ

PETRI C.C Auto 28mm F3.5

ペトリカメラのネタもそろそろ今回で最後になりそうな頃合いですが、取り上げるのは同社が1966年頃に発売した焦点距離28mmの広角レンズPETRI C.C Auto 28mm F3.5です。このレンズは同年のフォトキナに新型一眼レフカメラのPETRI FTと共に出展されました[1]。28mmといえば古くから広角レンズの代名詞のような焦点距離で、各社ここには力を入れてきました。室内での撮影には広すぎず狭すぎずの絶妙な画角が要求されるわけで、焦点距離35mmでは画角が足らず、24mmではパースペクティブによるデフォルメが効きすぎる。焦点距離28mmのレンズはまさにこのような状況で活躍したわけです。

レンズの構成は7群7枚のレトロフォーカスタイプで(下図参照)、自動絞り機構を容易に組み込めるよう、絞りの位置を比較的前方に退避させる工夫が盛り込まれています[2]。レンズを設計したのは55mm F1.4や55mm F1.8(後期型), 21mm F4などペトリカメラの主要なレンズを手掛けた島田邦夫氏で、後群のパワー配置から見て明らかなように、1960年発売のNikkor-Hをベースに改良を施した製品であると判断できます。Nikkor-Hはコマ収差の新しい補正方法を切り拓いたレトロフォーカス型レンズの名玉で、これ以降の多くのメーカーの手本になった事で知られています[3]。島田氏の特許資料[2]によると「従来のレトロフォーカス型レンズでは絞りの位置がカメラのボディーに近すぎ、自動絞りの機構を組み込むには窮屈なのだが、(光学設計を工夫し)絞りを比較的前方に退避させることで、これに対応できるようにした」とのこと。ただし、コマ収差の除去がより困難になるため、同時にマスターレンズの側を変形トリプレットにすることで困難を解消したそうです。

Petri 28mm F3.8(左)とNikkor-H 2.8cm F3.5(右)の構成図。上が前玉側で下がカメラの側。Nikkor-Hは後群マスターレンズ側の配置を正負正正とすることでコマ収差が効果的に補正できることを実現した画期的なレンズですが、PETRIは明らかにこれを参考にしているように見えます。前群側の2枚で歪みを効果的に補正しています


参考文献

[1] PETRI@wiki: 「日本カメラショー・フォトキナ出品カメラ

[2] 日本特許庁 昭41-49384(1966年7月29日);特許公報 昭44-23393(1969年10月4日)「絞りを比較的前方に置いたレトロフォーカス式広角レンズ」 

[3] ニッコール千夜一夜物語:第十二夜 NIKKOR-H Auto 2.8cm F3.5

[4] PETRI @ wiki 「ペトリの社内資料レンズデータ編」に掲載されていた社内資料 


PETRI C.C Auto 28mm F3.5(1st model): フィルター径 52mm, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 6枚構成, 重量 208.5g, 設計構成 7群7枚(レトロフォーカスタイプ), 最短撮影距離 0.6m, PETRIブリーチロックマウント

 

入手の経緯

レンズは2023年2月と3月に1本づつヤフオクから手に入れました。ペトリの35mmF2.8はだいぶ値上がりしてしまいましたが、このレンズはまだあまり認知されていないようで、国内のネットオークションでは5000円にも満たない安値で取引されています。自分が手に入れた1本めのレンズもオークションの記載にカビがあると記載されていたため入札されず、3000円+送料で手に入れることができました。届いたレンズを見ると傷やクモリのない悪くない状態で、カビもレンズ2枚目の裏側に小さなものが居座っている程度でした。前群の光学ユニット全体が回せば簡単に外れる構造になっていましたので、取り出して清掃しみることに。。。しかし、残念ながらコーティングにはカビ跡が残りました。写真には全く影響の出ないレベルですので、値段を考えれば充分な個体です。2本目のレンズもヤフオクからで、PETRIの一眼レフカメラ本体と標準レンズ、PETRIズーム、テレコンのセット品を5000円で入手しました。カメラやレンズはペトリにしては珍しく丁寧に手入れされており、カビやクモリ等のない良好なコンディションでした。

PETRI to LEICA Mアダプター:秋葉原の2nd Baseで購入できる特製品を使用しました


撮影テスト
開放から中央は滲みの少ないシャープな描写のレンズです。線は太く、解像力よりもコントラストで押すタイプですが、現代のレンズに比べればコントラストは緩めで、トーンもなだらかなオールドレンズらしい側面を備えています。開放では遠方撮影時に光量落ちが目立ちますので、気になる場合は少し絞る必要があります。写真四隅の倍率色収差はやや強めに出ています。この種の広角レンズにありがちな樽型の歪みはよく補正されていますが、この補正に関する影響で近接撮影力が弱いとの解説がNikkor-Hに対してあります[2]。このレンズもおそらく同様で、最短側では解像力が弱い印象を受けました。拡大すると像がベタッとしています。最短撮影距離が0.6mとおとなしめの設定になっているのも頷けます。
F3.5(開放), SONY A7R2(WB:日光) 今日もこの子に付き合ってもらいます


F8, Sony A7R2(WB:日陰)
F3.5(開放), Sony A7R2(WB:日陰) 近接での解像力はこんなもんです

F8, SONY A7R2(WB:日光) 基本的に線の太い描写です 

F8, SONY A7R2(WB:日光)レトロフォーカスタイプにしてはゴーストは出にくい印象です。歪みもよく補正されています