おしらせ


2022/07/01

Auto MIRANDA /AUTO MIRANDA E 50mm F1.4 and AUTO MIRANDA EC 50mm F1.4 :ペンタレフカメラのパイオニア、ミランダの交換レンズ群 part 4


ぺンタレフカメラのパイオニア

ミランダの交換レンズ群 part 4

ミランダのハイスピード・スタンダード

AUTO Miranda E 50mm F1.4 ( 2nd Generation ) 

AUTO Miranda EC 50mm F1.4 ( 3rd Generation )

1966年にAUTO MIRANDA 50mm F1.4(第1世代・初期型)を豪華な8枚構成で製品化したミランダカメラですが、1972年に同社が発売した一眼レフカメラのSENSOREX IIとSENSOREX EEでは新設計の後継製品(第2世代)を投入します[1,2A-2C]。第2世代での変更箇所は鏡胴がやや太くなりフィルターのネジ径が46mmから52mm変更されている点と、レンズ設計が同クラスの標準レンズとしては一般的な5群7枚構成に変更された点です(下図を参照)。8枚構成から7枚構成への設計変更は製造コストを削減し利益率を引き上げるためと思われがちですが、そうではありません。2つのレンズを使い画質を比べてみると後継製品には明らかに改良が見られます。初期型の設計構成(8枚玉)には長所・短所がそれぞれありますが、それらを差し引いても総合的なアドバンテージはあまり大きくはないと判断されたのでしょう。8枚玉は補正パラメータが多いことや各屈折面の曲率を緩めることができるなど長所もあり中心解像力は良好でしたが、ペッツバール和が大きく、高価な新種ガラスを用いても非点収差を十分に抑える事ができませんでした[4]。初期型では背後に回転ボケが顕著にみられることがありますし、鏡胴が細長い分だけ四隅の光量落ちがそれなりに目立ちました。一方で1枚少ない7枚構成でも合理的な設計を行えば、諸収差を十分に補正することができたのです[5]。8枚玉から7枚玉への変遷はミランダカメラのレンズ設計技術の成熟を意味しているのでしょう。ちなみに同時代のMinoltaやKonicaの同クラスのモデルは7枚構成から6枚構成へと変更されています。これらのレンズを使ってみればわかることですが、6枚構成の後継モデルでは明らかなフレアの増大がみられます。合理性の追求というよりはコストの削減を目的とした設計変更であったのでしょう。もちろん、この種の柔らかい描写がオールドレンズフリークには大歓迎である事は間違いありません。

ミランダのレンズはどんなエンジニアがどんな理念で設計していたのでしょう。日本語や英語の文献を読み漁ってみたものの、この部分に関して踏み込むような記事が全く見当たりません。AUTO MIRANDA EC 50mm F1.4はPETRIカメラで55m F1.4や21mm F4, 55mm F1.8(新型)などのレンズ設計を手掛けミランダカメラに移籍してきた島田邦夫氏による設計であることがわかっています[12]。カメラの情報は少しあるのですがレンズについては情報が僅かです。ミランダカメラは倒産から46年が経ちます。関係者との連絡が途絶えてしまう前に、社内の事情やエンジニアのエピソードがもっと世に出てくることを願っています。また、このブログがそうした役割を果たせるのであれば、いつでも大歓迎です。

 

Auto MIRANDA 50mm F1.4(2nd Gen.)構成図:文献[2B]からのトレーススケッチ(見取り図)です。構成はF1.4クラスの高速レンズの典型である5群7枚(ガウス発展型)









 

レンズの相場

第2世代(タイプE)のeBayでの値段は100ドルから150ドル程度(送料は別)で、第3世代のタイプECはこれよりも若干安い80ドルから100ドル程度でしょう。日本国内でのレンズの流通は海外よりも少な目なのですが、それにも関わらずレンズの値段は日本国内で買う方が確実に安いです。裏技としてカメラとセットで買うとレンズ単体で買うよりも安く入手できることがあります。カメラが不要なら売ってしまえばよいわけです。ただし、レンズ単体て購入する場合よりも博打性が高いことは覚悟しなければなりません。コンディションの悪いレンズが来てしまった場合に自分でガラス等のメンテナンスができる人ならばよいとおもいます。

第2世代の2本はeBayにて米国のレンズセラーから購入しました。両方とも状態の良い個体でした。2本ともレンズ単体で110ドル前後でした。第3世代のMIRANDA ECはブロガーの伊藤浩一さんにお借りしました。いつもありがとうございます。

Auto MIRANDA 50mm F1.4(2nd Generation): フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.43m, 絞り羽 6枚構成, 絞り値 F1.4-F16, 設計構成 5群7枚(ガウスタイプからの発展型), 重量(実測)315g, S/N: 28XXXXX 

Auto MIRANDA E 50mm F1.4(2nd Generation): フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.43m, 絞り羽 6枚構成, 絞り値 F1.4-F16, 設計構成 5群7枚(ガウスタイプからの発展型), 重量(実測)340g  S/N: 139XXXX


Auto MIRANDA EC 50mm F1.4(3rd Generation): フィルター径 49mm,最短撮影距離 0.43m, 絞り羽 6枚構成, 絞り値 F1.4-F16, 設計構成 5群7枚(ガウスタイプからの発展型), 重量(実測)275g, S/N: 256XXXX, フィルター枠の内側に振出式の内蔵フードが隠されています




















参考文献・資料等

[1] MIRANDA研究会

[2A] MIRANDA SENSOMAT manual (英語版) :構成図引用元

[2B] MIRANDA SENSOREX II Instructions (英語版)

[2C] Miranda SENSOREX EE Instructions (英語版)

[3] Miranda dx-3 Instructions (英語版)

[4] 「レンズ設計の全て」辻定彦著 電波新聞社(第一版)P96頁 2006年

[5] ニッコール千夜一夜物語 第七十七夜: Nikkor-S 50mm F1.4

[6] カメラ毎日 別冊「レンズ白書」1969年

[7] カメラ毎日 別冊 カメラ・レンズ白書 1971年 : 寒冷色

[8] 「幻のカメラを追って」白井達男著 現代カメラ新書

[9] クラシックカメラ専科(1982年) 「ミランダカメラのすべてとその歴史」 日比孝著

[10]クラシックカメラ専科 (2004年)「ミランダの系譜」

[11]カメラスタイル13:今語る初期ミランダカメラ開発秘話:小さな町工場が踏み出した大きな一歩:ミランダを創った男たち

[12]ペトリカメラ元社員へのインタビュー(2013年) 2chペトリスレ リバースアダプター氏

 

撮影テスト

第1世代(初期型)に比べ、第2世代と第3世代には画質における改良点がみられ、よりバランスを重視した画質設計になっています。非点収差が無理なく補正できるようになり、背後の回転ボケ(グルグルボケ)はほぼ見られなくなりました。また、光学系が短くなった分だけ写真の四隅にみられた光量落ちや口径食が目立たなくなっています。第1世代のモデルが課題としていた逆光耐性が改善しゴーストが発生しづらくなるとともに、コントラストも良くなり、逆光時でも発色がより鮮やかになっています。中心部の解像力は可もなく不可もなく平凡で、このクラスとしては平均的です。開放で遠方を撮影するとピント部をフレアが覆い、輪郭部に滲みが生じます。近接撮影とポートレート撮影時では開放でもスッキリとした描写で、コントラストやシャープネスはこのクラスのレンズとしては良好です。デジタルカメラで用いる場合には第2世代に比べ第3世代の方が軸上色収差が目立ちます。


AUTO MIRANDA 1.4/50(第2世代) x SONY A7R2

2nd GEN @ F1.4(開放) sony A7R2(WB:⛅) 背後のボケがグルグルと回転しないのは初期型からの改善点です

2nd GEN @ F1.4(開放) SONY A7R2(WB:⛅) 開放でも中心部の解像感は、なかなかのものです
 

AUTO MIRANDA E 1.4/50(第2世代) x SONY A7R2

続いて第2世代のEタイプです。設計はnon-Eタイプと同じなので描写性能に差はありません。モデルさんは白川うみさんです。いつもありがとうございます。

2nd GEN @ F1.4(開放) SONY A7R2(WB:⛅)コントラスとは良好で、開放からスッキリとヌケのよい描写です










2nd GEN @F1.4(開放) SONY A7R2(WB:⛅)初期型に比べて開放での周辺光量落ちが、だいぶ改善されています
2nd GEN @F1.4(開放) SONY A7R2(WB:⛅)

AUTO MIRANDA EC 1.4/50(第3世代) x SONY A7R2

 
F2.8 SONY A7R2(WB: 日陰,  Cropped to 16:9 ratio) 絞るとキリリと高コントラストだが、絞りを開けると下のように



F1.4(開放) SONY A7R2(WB: 日陰) 夏らしいぼんやりした絵を狙い、開放にて前ボケのフレアを生かしました。絵画風な仕上がりを楽しむことができます





F1.4(開放) SONY A7R2 (WB: 日陰)薄いフレアが覆いボンヤリと写りで、雰囲気があります

F8 SONY A7R2(WB:日陰)もちろん絞ればカッチリとフツーによく写ります

F1.4(開放) SONY A7R2(WB:日光)開放の柔らかい雰囲気が好きです







F8 SONY A7R2(WB:日陰)



















F5.6  SONY A7R2(WB:日陰)


























































 
 
第2世代(Type E)と第3世代(Type EC)の描写性能の比較
 
第2世代(TYPE E)と第3世代(TYPE EC)は光学的に異なる設計ですが、様々なシーンでの比較にも関わらず基本性能(シャープネスや解像力)に差は見られませんでした。どちらのレンズも被写体の背後に回転ボケは起こらず、四隅までボケは安定しています。開放ではどちらのレンズもピント部を微かなフレアが覆い少し柔らかい描写となり、四隅には光量落ちがみられますが、いずれもF1.4クラスのレンズとしては平均的な性能です。発色の再現性に癖はありません。強いて言えば第2世代の方が微かに温調、第3世代の方が軸上色収差が目立ちました。また、第3世代の方が前ボケが大きいようなので、球面収差は第2世代よりも、より過剰補整に設定されているように思えます。


ひとつ前の写真の赤枠部を100%でクロップしたもの。ピントは手すりのあたりです。左が第2世代で右が第3世代。第3世代の方が軸上色収差が目立ちます。また、前ボケが大きいので、球面収差はより過剰補正のようです。


ピントの位置はパンダの左目です。この距離では両レンズの描写の違いが全くわかりません。


2022/06/01

Auto MIRANDA 25mm F2.8:ペンタレフカメラのパイオニア、ミランダの交換レンズ群 part 3



ペンタレフカメラのパイオニア

ミランダマウントの交換レンズ群 part 3

ディスタゴンにも似た

ポピュラーな広角レンズ

Auto MIRANDA 25mm F2.8(初期型)

ミランダカメラは広角レンズのラインナップが恐ろしく充実しており、焦点距離のバリエーションが17mm, 21mm, 25mm, 28mm, 35mmと5種類もありました。この中で特に評価が高く人気だったモデルが今回取り上げる25mm F2.8です。画質的な評判(当時の海外での誌上評価のこと)は近い焦点距離の28mmF2.8よりも上で、超広角レンズにしてはコンパクトに作られている点も魅力でした。レンズは同社の一眼レフカメラSENSOREX-Cが登場した1970年からカタログに掲載され、Sensorex II, Sensomat RE(1970年), Sensorex EE(1972年)にも掲載があります。ただし、初期の製造ロットにはカタログに無いフィルター径46mmの個体があったようなので、市場供給が開始されたのはもっと前の1960年代後半であったと思われます[1,2]。人気の秘密は光学系をみると一目瞭然にわかり、何とカールツァイスの最高級カメラCONTAREXにも搭載されていたDISTAGON 25mm F2.8(1963年発売)によく似た設計構成なのです(下図)。レンズは空気間隔を分厚いガラスで埋めることによりコンパクトな光学系を実現しており、コンピュータ設計から生み出されたレトロフォーカスタイプの進化版と言った製品です。Auto MIRANDA 25mmを開発・生産したメーカーがどこであったのかは明らかになっていませんが[2]、珍しい焦点距離であることや、当時同じスペックのレンズを生産したメーカーが見当たらないこと、またレンズの内製化がすすめられた後に発売されているなど状況証拠から考えると、MIRANDAの自社設計である可能性が濃厚です。MIRANDAカメラは自社開発と思われる標準レンズや35mm F2.8をカメラのカタログに掲載していますが、そうではないことが判っている17mmや21mmの広角レンズを自社のカメラのカタログに掲載しませんでした。ちなみに今回の25mmはカメラのカタログに掲載されています。内部を開け部品レベルで検証すれば、よりはっきりとしたエビデンスが得られるのでしょう。それでは、和製ディスタゴンの写りを堪能してみましょう。


左はAuto MIRANDA 25mm  F2.8で7群8枚構成、右はCONTAREX/QBM DISTAGON 25mm F2.8で8群8枚です。上が被写体側で下がカメラの側
 

参考情報

[1]MIRANDA SENSOREX C official manual(英語版); MIRANDA SENSOREX II official manual(英語版); MIRANDA SENSOREX EE official manual(英語版);MIRANDA SENSOREX RE official manual(英語版)

[2]ミランダ研究会: Ultra wide angle lenses

Auto MIRANDA 25mm F2.8: フィルター径 52mm(初期ロットに46mmあり), 最短撮影距離 0.25m, 絞り値 2.8-16, 絞り羽 6枚構成, 設計構成 7群8枚, 重量(実測) 266g















入手の経緯

レンズは2021年11月にeBay経由で米国のカメラ専門のセラーから、純正フードとケースが付いた状態で225ドル(送料込み)にて入手しました。オークションの記載は「ファイン・ビンテージ・コンディション」とのタイトルで「素晴らしいコンディションのレンズ。説明を要する問題個所は見当たらない。純正フードとケースが付属する」とのこと。届いた商品は記載どうりのコンディションでした。eBayでの取引相場は状態にもよりますがフードなしで200~250ドル程度、純正フードのみが約35~40ドルくらいで取引されています。オートミランダの広角モデルの中では比較的高値で取引されており流通量も安定していることから、人気のあるモデルであることがわかります。ミランダカメラの製品は主に米国、ヨーロッパで販売され、日本国内でも数は少なめですが販売されました。レンズを探す際には海外の市場の方が流通が豊富です。

 

撮影テスト

開放ではピント部をフレアが覆いコントラストも低下気味の柔らかい写りですが、四隅まで良像域が広く解像感はそれなりにありますので、被写体をきっちりと写しながらも味のある描写を両立させる事ができ、なかなか楽しめるレンズです。ピント部全面に渡る画質的な均一性と安定感がこのレンズの長所のように思います。2段絞ればスッキリとしてヌケがよく、画面全体で解像感に富んだシャープな像が得られます。レトロフォーカス型には珍しく開放でやや光量落ちがみられますので、雰囲気のある画作りができます。歪みは樽型ですがこのクラスのレンズにしては少なめ。感心したのは最短撮影距離が24cmと短めな点で、近接撮影ができるのは大きなアドバンテージだと思います。グルグルボケは全くみられませんでした。

 

まずはYOKOHAMAを「赤煉瓦モード」でどうぞ

F8, sony A7R2(WB:⛅, R+22 G-12 B-16赤煉瓦シフト) ちょっと赤よりなのはいじっているからですが、なかなかの高描写です。モデルさんは白川うみさん(Thanks!)
F8 Sony A7R2(WB:日陰, R+22 G-22 B-16:赤煉瓦シフト)

F2.8(開放) Sony A7R2(WB:日陰, R+22 G-22 B-16:赤煉瓦シフト) 開放では光量落ちがあり、雰囲気が出ます。ちなみに、このシーンをF8まで絞るとこのようになります(←発色無補正)




























F2.8(開放)  SONY A7R2(WB:日陰, R+16 G-16 B-16)開放ですが、解像感は良好です。F8まで絞った写真はこちらです













F2.8(開放) SONY A7R2(WB: ⛅, R+16 G-16 B-16)レトロフォーカスタイプのくせに周辺光量落ちがしっかり目に出ているのは正に目から鱗です。光学系が細長い分、口径食でも出ているのでしょうか

 

続いて初夏の三崎(三浦半島)です

こちらは色補正なしの写真です

F8 SONY A7R2(WB:日光) 
F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)