おしらせ


2021/11/12

Schneider Kreuznach SL-ANGULON 35mm F2.8 (Rollei QBM)

 

QBMレンズの広角ツートップ  後編

Schkeider Kreutznach SL-ANGULON 35mm F2.8 

シュナイダー社はこの種のレトロフォーカス型広角レンズに対して通常CURTAGON(クルタゴン)のブランド名をつけるのですが、本レンズに対しては戦前から使用してきた伝統的な名称を襲名させました。理由はわかりませんがLeica用に同社が供給した広角レンズの名称にもSuper-Angulonが使用されており、EDIXAなど大衆機に供給したレンズとの差別化をはかっているという解釈が考えられます。ただし、ALPA用にはCURTAGONでレンズを供給していましたし、Rollei SL用にはシフトレンズのPC-CURTAGON 4/35もあり、こうした事実がこの解釈を支持しません(出だしから自爆でスミマセン)。そうなると、残るはRollei SL用に少し前の1970年から供給されていたCarl Zeiss DISTAGON 35mmとのレンズ名の被りに配慮したという解釈です。バックフォーカスを長くとる意味からきたDISTA(離れた/遠くの)+GON(角)に対し、焦点距離を短くとる意味からきたCURTO(短くする)+GON(角)では、まるで反対の事を言っているようで調子が狂います。妄想は尽きないので、このくらいにして本題に入りましょう。
SL-ANGULON(SLアンギュロン)はシュナイダー社が一眼レフカメラのRollei SL35/SL2000シリーズ用に1972年から1976年までの期間で市場供給したレトロフォーカスタイプの広角レンズです。設計は下図・右に示すような6群7枚構成で、CURTAGONをベースとする正常進化版です。初期のCURTAGONは5枚構成でしたが(下図・左、ALPA用に供給された改良版では1枚増えた6枚構成になり(下図・中央)、今回紹介する製品では更に1枚増えた7枚構成に到達、改良の度に設計がどんどん豪華になっています。また、前群の空気間隔が減り、光学系全体がコンパクトになっている様子もわかります。構成枚数が画質性能の決定要因にはなりませんが、設計自由度の多さに加え、時代的にはコンピュータ設計のアドバンテージを余すところなく発揮できましたし、シュナイダーの製造技術の高さを踏まえれば、本レンズが高性能であることは間違いないでしょう。やはり、QBMマウントで先行発売されていたZeiss-OberkochenのDISTAGON 2.8/35を強く意識した改良なのかもしれません。5枚玉のCURTAGONですら既にだいぶ高性能でしたので、今回取り上げる7枚玉の後継レンズはその遙か上を行く、ひたすら高性能なレンズに仕上がっているものとおもいます。オールドレンズとしては、ここがどうしても弱点になるわけですが。
 
 ★入手の経緯
eBayでの取引価格は200ユーロ(26000円)から250ユーロ(33000円)あたりでしょう。私が入手したのは2021年8月にフランクフルトのレンズセラーがドイツ版eBayに200ユーロで出品していた個体です。オークションの記載は「わずかにホコリの混入があるがカビ、クモリ等のない状態の良い中古品。ピントリング、絞りリングの動作は適正で、問題個所はない」とのこと。値切り交渉を受け付けていたので180ユーロでどうかと申し出たところ了解が得られ、送料込みの総額191ユーロで私のものとなりました。
Schneider-Kreuznach Rollei SL-ANGULON 35mm F2.8: フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽, 重量(カタログ値) 206g, 製造期間 1972-1976年, 設計構成 7群6枚レトロフォーカス型, 最短撮影距離 0.3m


 
撮影テスト
前回の記事で紹介したQBMマウントのDISTAGONと比較される事の多いレンズですが、このレンズもDISTAGONに勝るとも劣らない、あるいはそれ以上にも思える高性能なレンズで、コンピュータ設計のアドバンテージを余すところなく発揮して作られたカラーフィルム時代の申し子とでもいいますか、現代レンズの直接の祖先みたいな性格のレンズです。開放からスッキリとヌケが良く、コントラストや発色は良好、解像力よりも解像感(シャープネス)に注力した線太な描写を特徴としています。かつてレトロフォーカス型レンズが課題としていたコマ収差に由来するフレアや滲みは、全くと言っていいほど見られません。ただし、歪みがやや目につく時があり、フロント部の2枚の凹凸レンズで補正していますが、効果は充分ではないように思えます。ボケは距離によらず安定していて、像は四隅まで整っています。光学系がコンパクトで前玉が鏡胴の少し奥まったところに引っ込んでいるためでしょうが、逆光にはかなり強いです。フードによるハレ切りが無くても、ゴーストやハレーションはほとんど出ませんでした。周辺光量が豊富な点やグルグルボケが出にくい点などはレトロフォーカスタイプならではの性質です。
 
 
F8 sony A7R2(WB:日光)逆光も平気です。ゴーストはほとんど出ません
F5.6 sony A'R2(WB:日光)このとおり歪みはやや残っています

F4 sony A7R2(WB:日光) とてもシャープで解像感の高いレンズです
F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 開放でも全く滲まず!



F5.6 sony A7R2(wb:日光)
f4  SONY A7R2(WB:日光)
F2.8(開放) sony A7R2


2021/10/26

Carl Zeiss DISTAGON (QBM) 35mm F2.8

QBMレンズの広角ツートップ 前編

Carl Zeiss DISTAGON 35mm F2.8 

ドイツのRollei(ローライ)社が1970年に発売したRolleiflex SL35という一眼レフカメラにはCarl ZeissとSchnaiderが交換レンズを供給しており、ツァイスからPlanar, Sonnar, Distagon, シュナイダーからXenon, Curtagon, SL-Angulonなど魅力的なレンズが集まり人気を博しました。このカメラが採用したマウント形状のことをQBM(Quick Bayonet Mount)と呼びます。QBMマウントのカメラは後の1974年にVoigtlanderブランド(ローライ社が製造)でも発売され、カメラとブランド名を揃える目的から、こちらにはPlanarに代わり同一設計のColor-Ultron, Distagonに代わり同一設計のColor-Skoparexが供給されました。消費者はツァイス、シュナイダー、フォクトレンダーのドイツ三大ブランドからQBMレンズを選択できたわけです。QBMレンズの中で当時最もよく売れたのはブランド力で勝るツァイスのレンズでした。逆に販売成績が振るわなかったシュナイダーブランドのレンズは希少性が高く、特にQBMマウントのモデルにしかないSL-ANGULONは現在では高値で取引される人気商品です。今回から2回にわたり広角レンズのDISTAGONとSL-ANGULONを取り上げます。
 



初回は旧西ドイツのカールツァイス・オーバーコッヘンが設計したDISTAGON (ディスタゴン)です。このレンズにはドイツのブラウンシュバイグ工場で製造された前期型(初期型と称されることも)と、シンガポールのローライ工場で製造された後期型があり、設計構成や外観が異なります。設計構成は前期型が5群5枚で、下図に示すような第一群に負の凹レンズを置きバックフォーカスを稼いだレトロフォーカス型レンズですが、第2群にやたらと分厚い正の凸レンズを置いて屈折力を稼いでいる独特の形態です。後期型は前期型の基本構成に1枚レンズを追加し歪みの補正を強化した6群6枚で、1枚増えた分だけ鏡胴も長くなっています。外観については前期型のピントリングがメタル素材で後期型がラバー素材、前期型から後期型への過渡期にはラバー素材のドイツ製やメタル素材のシンガポール製が入り乱れています。定説ではありませんが、過渡期のレンズが前期型(5群5枚)なのか後期型(6群6枚)なのかを判断するには鏡胴の長さ(=ピントリングの素材)をみればよいはずです。歪みを気にする方は後期型がよいでしょうし、ピントリングのラバー素材が気に入らない人は前期型がよいでしょう。私が入手した個体はドイツ製・前期型です。製品が発売されてから半世紀近くが経ちますが、シンガポール製であろうとドイツ製であろうと、ローライが生産管理した製品に今のところ品質面での差はないようです。ゴム製ローレットの加水分解によるべたつきは品質管理というよりは保管環境と手入れの問題です。この手のベタつきは自分でも簡単に除去できます。
  
DISTAGON 35mm F2.8(QBM)の構成図:上段は前期型で5群5枚のレトロフォーカス型。下段は後期型で6群6枚のレトロフォーカス型。オレンジ色で着色した部分のメニスカスが1枚入り、鏡胴も長くなっている。文献[1]からのトレーススケッチ(見取り図)である

   
入手の経緯

レンズはeBayにて170~250ユーロ(20000円~30000円)あたりで取引されています。今回入手した個体はドイツの個人セラーがeBayに出していたもので、150 ユーロ+送料とやや安めの価格でした。レンズのコンディションは「ガラスは綺麗でカビ、クモリはない。絞りの開閉、ヘリコイドの動作も問題ない」とのこと。届いた品はガラスこそ綺麗でしたが、マウント部に少しガタがあり、絞りリングがグリス抜けであるなど難点のある品でした。明らかにセラーの説明不足ですが、緩みを締めればすぐに改善する気がしたので自分で修理して使うこととしました。相場より安値で売られている個体には、表面上わからない何らかの落とし穴が潜んでいることが多くあります。

 

Carl Zeiss DISTAGON 35mm F2.8(前期型): 最短撮影距離 0.4m, フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽 6枚構成, 構成 5群5枚レトロフォーカス型, 重量(実測)201g


 

参考文献・資料

[1] Rollei Report 3:Rollei Werke, Rollei Pototechnic, Claus Prochnow

[2] Frank Mechelhoff, Rollei QBM MOUNT Objektivprogramm, Update 2009

 

撮影テスト

開放から滲みはなく、スッキリとしたヌケの良いシャープな描写です。解像力は控えめですがコントラストは良好で、線の太い力強い性質がこのレンズの特徴です。設計がレトロフォーカス型であることを反映し、四隅まで光量落ちは目立ちませんし、ボケにも安定感がありグルグルぼけ等は出ません。ピント部の画質は均一で像面も平坦なので、立体感がやや物足りないかもしれません。歪みは樽型で前期型は少し目立つ事がありますが、後期型はこの点が改善しています。癖の少ない高性能なレンズだと思いますがオールドレンズとしては、どうしてもここが弱点になります。せめて旧東ドイツのフレクトゴン35mmの前期型みたいに少し開放で線が細い描写である方が面白いと思うのですが、どうでしょうか?。

イメージサークルは35mmライカ判向けとして設計されていますが実際にはかなり余裕があり、レンズを中判デジタル機のGFXシリーズで使用しても僅かに光量落ちがある程度で、ダークコーナーは出ません。GFXで使用する場合は35mm換算で27mm F2.15相当の写真が撮れるスーパーレンズに化け、画角が拡大する分だけ画質に味がでるようになります。フルサイズ機では小さくまとまってしまい大人しい描写ですが、GFXではパースペクティブが強く、光量落ちが少し出るせいか諧調がよりダイナミックに見えるようになります。自分はこっちの方が好きかな。今回はメイン機のSONY A7R2(フルサイズセンサー)とサブ機のFujifilm GFX100S(中判44x33mm)の両方で撮影をおこなっていますので、順番にどうぞ。

 

DISTAGON x SONY A7R2

 

F5.6 sony A7R2(WB:日光) 
F5.6 Sony A7R2(WB:日光)参考までに開放F2.8での写真はこちら。引き画では違いはほとんどわからない

F5.6 sony A7R2(WB:日光)







  

 

DISTAGON x Fujifilm GFX100S

model:  #はらみか #えぞえこうざぶろう

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)





















F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)













 

★DISTAGON x Fujifilm GFX100S★

 

F4 Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)



F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB)






































 
DISTAGON x Fujifilnm GFX100S
model: 彩夏子
 
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, F.S.: NN)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, F.S.:NN)