1950年頃までの一眼レフカメラ用広角レンズには40mmの焦点距離を持つ3枚玉のトリプレットや4枚玉のテッサー型が数多く存在した。現在の主流となるレトロフォーカス型タイプ(6枚玉~)が普及する少し前の事である。この頃の写真用レンズはガラス面における光の透過率が今ほど高くないため、シンプルな光学設計で光の内面反射(ゴーストやフレア)を最小限に抑えることのできるトリプレットタイプやテッサータイプは画質的に優位な設計であった。当時はその存在価値が高く評価されており、発展途上であったレトロフォーカス型広角レンズに比べ、ヌケの良さ、コントラストや階調表現の鋭さで勝っていた。これらの設計は大口径化が難しく、大きくボケる明るいレンズを造るには不利な設計であったが、光軸方向の厚みがないので、ミラーの可動部を確保しながら焦点距離を40mmの準広角域まで短縮させることができた。
しかし、その後のコーティング技術やガラス素材の進歩により光の透過率が向上すると、より複雑な光学系においても高い画質が維持できるようになり、広角レンズの設計の主流は大口径化が容易で焦点距離をさらに短縮できるレトロフォーカス型へと急速にシフトしていった。
今回入手したのはドイツ・ミュンヘンの中堅光学機器メーカーSteinheil社が1951年に発売したCassaronという40mmのトリプレット型準広角レンズだ。同社はレンズの生産を専門とするメーカーで、極めてコンパクトなレンズやハイスペックなマクロレンズなど、個性豊かな製品を製造していた。Cassaronもコンパクトかつ軽量で、重量はたったの104gしかない。ただ小さく軽ければいいというわけではなく、絞り羽根の数はしっかり8枚もあるし、フォーカスリングが使いやすく出っ張っているなど、取りまわしの良さや機能を優先しているよく出来たレンズだ。フィルター枠が銀色に装飾され、個性的でお洒落なデザインに仕上がっている。絞り機構はプリセットタイプが採用され、絞りリングには各指標においてクリック感がなく、絞り羽根は実質的に無段階で開閉する。同社からはほぼ同じ時期に3枚玉のCassar S 50mm/F2.8というトリプレット型標準レンズや、トリプレット型をレトロフォーカス化したユニークな4枚玉のクルミゴン35mm/F4.5という広角レンズも発売されていた。いずれもデザインが良く似ており、パンケーキ型と言ってよい超小型仕様のレンズ達である。なお、レンズ名の由来は同社の創業者C.A.Steinheilの頭文字(C+A+S)から来ており、CassarやCassaritなども同様である。
40mmという微妙な焦点距離が生まれた経緯や意義はともかくとして、本品はフルサイズセンサーを搭載した一眼レフカメラにつけてもAPS-Cセンサーの一眼レフカメラにつけても、標準レンズとして使用することのできる使いやすい画角を提供してくれる。個性的なデザインとコンパクトさ、ユニークな焦点距離など、改めて存在価値が見直されてもいい魅力的なレンズといえるだろう。
しかし、その後のコーティング技術やガラス素材の進歩により光の透過率が向上すると、より複雑な光学系においても高い画質が維持できるようになり、広角レンズの設計の主流は大口径化が容易で焦点距離をさらに短縮できるレトロフォーカス型へと急速にシフトしていった。
今回入手したのはドイツ・ミュンヘンの中堅光学機器メーカーSteinheil社が1951年に発売したCassaronという40mmのトリプレット型準広角レンズだ。同社はレンズの生産を専門とするメーカーで、極めてコンパクトなレンズやハイスペックなマクロレンズなど、個性豊かな製品を製造していた。Cassaronもコンパクトかつ軽量で、重量はたったの104gしかない。ただ小さく軽ければいいというわけではなく、絞り羽根の数はしっかり8枚もあるし、フォーカスリングが使いやすく出っ張っているなど、取りまわしの良さや機能を優先しているよく出来たレンズだ。フィルター枠が銀色に装飾され、個性的でお洒落なデザインに仕上がっている。絞り機構はプリセットタイプが採用され、絞りリングには各指標においてクリック感がなく、絞り羽根は実質的に無段階で開閉する。同社からはほぼ同じ時期に3枚玉のCassar S 50mm/F2.8というトリプレット型標準レンズや、トリプレット型をレトロフォーカス化したユニークな4枚玉のクルミゴン35mm/F4.5という広角レンズも発売されていた。いずれもデザインが良く似ており、パンケーキ型と言ってよい超小型仕様のレンズ達である。なお、レンズ名の由来は同社の創業者C.A.Steinheilの頭文字(C+A+S)から来ており、CassarやCassaritなども同様である。
40mmという微妙な焦点距離が生まれた経緯や意義はともかくとして、本品はフルサイズセンサーを搭載した一眼レフカメラにつけてもAPS-Cセンサーの一眼レフカメラにつけても、標準レンズとして使用することのできる使いやすい画角を提供してくれる。個性的なデザインとコンパクトさ、ユニークな焦点距離など、改めて存在価値が見直されてもいい魅力的なレンズといえるだろう。
光学系は3群3枚, 絞り羽根の枚数:8,絞り値:F3.5-F16,重量:104g,最短撮影距離:0.7m,フィルター径34mm。絞り機構はプリセット。対応マウントはM42とEXAKTAの2種で本品はEXAKTA用
★入手の経緯
本品は2010年5月22日にeBayを介して、米国ラスベガスの総合中古業者(カメラ専門ではない)から135㌦の即決価格で購入した。送料込みの総額は149㌦(13500円位)であった。商品の状態はMINT+で紹介写真も非常に鮮明。出品者も解説で「パーフェクトな状態。これ以上綺麗な品は出てこないだろう」と自信満々に言い切っていた。国内相場は2万円程度、eBay相場は状態が良ければ200㌦位の品なので、これはとチャンスと判断し「BUY IT NOW(即決購入)」のボタンを押したところ、eBayのエージェントが「購入中のバイヤーがいるので早く送金手配を終えた者の品となる」という緊急性を示してきた。「おー。これはいかん」と思い、せっせと払い込んでしまった。1週間後に届いた商品は確かに美品レベルであったが、レンズ内に埃の混入が目立っていた。
★撮影テスト
描写には良くも悪くもシンプル構成のレンズに良くある性質が滲み出ている。1950年中ごろの製品としてはヌケが良くハイコントラストな長所と、中間階調が奮わず硬質な撮影結果になりやすいという短所を持つ。階調変化はなだらかさを欠き、明部から暗部へストンと落っこちてしまう傾向がある。こうした欠点は柔らかい階調変化を示す富士フイルムのPRO400Hや最近のデジカメに搭載されているダイナミックレンジ拡張機能(HDR合成等)を利用することで、いくらか改善すると思われる。収差の補正がやや過剰気味のようでボケに滑らかさがない。開放絞りでは距離によって2線ボケの発生することがある。一段絞れば素直なボケ味だ。発色はやや淡白。
F5.6 カリッと硬い階調変化によって鋭い描写に仕上がる
F11 小さな口径や少ない構成枚数のおかげであろうか?モノコート仕様にもかかわらず厳しい逆光でもフレアは出にくい
F3.5 開放絞りで撮影すると距離によっては2線ボケが発生し、滑らかさを欠いたやや目障りな描写になる。発色はやや淡白かな?
F5.6 少し絞っておけば素直なボケ味だ。こちらも背景のシャドー部の階調表現に粘りがなくストンと落ちてしまった
F3.5 近接では収差の影響からか柔らかくボケ、目障りにはならない
F5.6 トリプレットにしては、なかなかいいレンズではないだろうか
|
★ハイダイナミックレンジ(HDR)合成機能を用いれば階調変化の弱点を補うことができるか?
最近のデジイチに搭載されはじめたHDR合成機能とは露出の異なる写真を何枚か連射で撮影し、複数の画像を合成処理することでダイナミックレンジを拡張する新機能だ。この機能を上手に用いれば本レンズにおいても中間階調が豊かになり、画質が大幅に改善するかもしれない。HDR合成機能はCASSARONの救いになるだろうか。...comming soon!
★撮影機材
Sony NEX-5 + Steinheil Cassaron 40/3.5