おしらせ


2010/02/14

Feinmess-Dresden BONOTAR 105mm/F4.5 (M42) 
フェインメス・ドレスデン ボノター

ドイツの精密機器メーカーが1950年代に製造した珍品は

ソフトな描写の中望遠レンズ

Feinmess(フェインメス)社はドイツのドレスデンに拠点を置く精密機器メーカーだ。1872年にGustav Heydeという人物が彼の名を社名に創業した。その後、1949年の旧東ドイツ時代に社名をVEB Feinmess(ファインメス人民公社)に改め、同時期にBelfocaと言う名の中判(6x9cm版)フォールディング型カメラに対応する2種類のレンズを製造した。一つは105mm/F6.3のBonar(ボナー)という名のレンズであり、もう一つが105mm/F4.5のBonotar(ボノター)である。Bonotarについては1954年から35mm版一眼レフカメラのM42、エキザクタ、プラクティカBマウントにも対応した。Feinmess社は後に社名をFeinmess Dresden GmbHに改め、現在も計測器などの製造を続けている。
今回入手したBontoar 105mm/F4.5はFeinmess社が1954年から1959年にかけて製造した単焦点望遠レンズである。M42マウント用は約14000本、EXAKTA用は約4000本、プラクティカBマウント用は若干数が製造された。レンズを設計したのは同社のClaus Lieberwirthという人物で、光学系はシンプルな設計で軽量化に有利な3枚構成のトリプレット型である。鏡胴にアルミ素材を用いることや開口径を小さく抑えるなどにより更なる軽量化が図られ、重量は166gとたいへん軽い。絞りの機構はプリセットである。絞り羽根はリングの回転に応じて無段階で開閉する仕組みだ。

重量(実測)166g, 鏡胴の長さ: 8.5cm, フィルター径40.5cm, 絞り値: F4.5-F22, 最短撮影距離1.7m。カラーはシルバーと黒が存在する。Vコーティングが蒸着されている。プリセット絞りなのでマウント部を見ても絞り連動ピンが出ていない

★入手の経緯
 本品は2010年1月にeBayを介し、ドイツの中古カメラ業者から購入した。入札締め切り時間の1日前に50㌦の値をつけていた品である。見た事も聞いた事もないレンズなので興味を持ち、100㌦以下で落札できるなら買いましょうと心に決めての入札であったが、翌日98㌦(約9000円)で落札できていた。送料込みでも1万円程度と安価である。本品の中古相場は100㌦前後だろう。私は最近になってようやくパソコンソフトを用いた自動スナイプ入札をはじめた。使用しているのはBayGenieと言う名の海外のフリーソフトである。締め切り時刻の数秒前にあらかじめ設定しておいた最大額で入札してくれるという優れものだ。これでスナイプ入札がだいぶ楽になったのは嬉しい事だが、正直なところどうも好きにはなれない。欲しい品は自分の手で競り落とすほうが幸せな気分になれる。

★実写テスト
 ISCONAR100mmで遂に望遠デビューを果たし今回が2本目の望遠レンズである。このレンズの描写を一言でまとめると「ソフトな望遠」という言葉に尽きる。球面収差を残す光学設計のようで、開放絞りではシャープネスが低く、甘い描写になるのが特徴だ。近接撮影ならともかく遠方の撮影には絞って使うしかない。撮影結果のコントラストは低く、この時代の単層コーティングレンズらしい淡白な仕上がりになる。Bonotarに対する描写テストの結果をまとめると、

●コーティングが単層のため逆光に弱くフレアが出やすい。暗部の締りがなくなり、撮影画像のコントラストは明らかに低いのでフードは必須
●絞り開放では結像がソフトで解像感は不足気味になる。1段絞ってもまだ甘い。球面収差を残す設計のようだ。柔らかくゆるい描写を求めるならば、かえって好都合だ
●ボケ味は柔らかい

描写にはだいぶ特徴(癖)があり面白そうだ。

F4.5 半逆光では豪快にフレアが出る。なかなか個性的な描写だ
F4.5 ピントは中央よりやや右の花。絞り開放では解像感がちと足りない
F5.6 最短撮影距離でのワンショット。ボケ味は柔らかい

F5.6 コントラストは低めで暗部が浮き気味。中間階調は豊かだ
F5.6 室内での作例。一段絞る程度では解像力は不足気味。光量があるなら、もう一段絞ったほうがよい

★撮影環境: Feinmess Dresden Bonotar 105mm/F4.5 + MAMIYA 2眼レフ用カブセ式フード(内径42mm) + EOS Kiss x3

フィルター径は40.5mmなので汎用品のフィルターやフードが使用できる

望遠レンズの使用経験の無い私にはソフトな望遠というのがどうもうまく使いこなせない。近接撮影で何か面白い写真が撮れるような気もするが、今はアイデアが浮かばない。

2010/02/09

Isco-Göttingen ISCONAR 100mm/F4.5(M42)
イスコ・ゲッチンゲン イスコナー


コンパクトでスタイリッシュな望遠レンズ
ライトセーバーにはなりません

  「この写真ずいぶんと写りがいいわね。」写真を覗き込んだ妻がそう口にした。カメラについては素人の妻も、このレンズの描写力がいつもの標準レンズや広角レンズのものとは異質であることを直感したらしい。
  ISCO社はドイツの古都ゲッチンゲンにあり、名門光学機器メーカーのシュナイダー・クロイツナッハ社を親会社とする中小規模のレンズメーカーだ。24mmから400mmまで数多くのラインナップを揃えていた。現在はカメラ部門から撤退し、シネマ用プロジェクションレンズや工業用レンズのみ製造を続けている。親会社のシュナイダーが高級品、イスコが廉価版を製造するという企業イメージがあるようだが、イスコのレンズは決して安っぽいものではない。鏡胴はオール金属でしっかりと造り込まれ、工業デザイン的にも優れた製品が多い。
  今回取り上げるISCONAR(イスコナー)100mm/F4.5はISCO社が1950年代に製造した単焦点望遠レンズである。対応マウントにはM42とexaktaがある。光学系は3枚のレンズからなるシンプルなトリプレット型で、軽量化に有利な設計である。アルミ鏡胴を用いることや開口口径を小さく抑える事により、更なる軽量化が図られ、重量は162gとたいへん軽い。絞りにはカメラとの連動を一切行わないプリセット絞りという機構が採用されている。絞りリングの動作は各指標においてクリック感がなく、絞り羽根はリングの回転に応じて無段階で開閉する。シルバーのアルミ鏡胴に青く輝く目を内臓した美しいレンズだ。

重量(実測):162g, 鏡胴長さ:約8cm, フィルター径:41mm, 最短撮影距離:1.7m, 絞り値: F4.5-F22, M42マウント; 本品はプリセット絞りであるためマウント部に絞り連動ピンはついていない。ピン押しタイプのマウントアダプターを用いる必要はない

私はこれまで使いやすさと携帯性を重視するあまり標準レンズや広角レンズばかりに目を向けてきた。「望遠レンズなんて、ただ遠くのものがアップで撮れるだけでしょ?」という具合に軽視し、これまで1本も所持したことがなかった。しかし、最近になって望遠レンズの持つ圧縮効果とやらに興味を持ちはじめ、背景を大きく写した写真が撮ってみたいと思うようになり、遊び半分でISCONARを購入してみたわけだ。あまり期待もせずに使ってみたところ「これは素晴らしい!」とビックリ仰天、感動してしまった。圧縮効果の迫力には当然満足したのだが、それ以上に感激したのは優れた画質である。望遠レンズは単に遠くを写すだけの品ではなかったのだ。

★入手の経緯
2009年11月30日にeBayを通じて米国オークランドにある写真雑誌関係の一般業者から落札購入した。IsconarはレアなレンズのようでありeBayでも出品される事は稀である。ただし、eBay相場は100㌦前後といったところ。単焦点望遠レンズというカテゴリーは明るい大口径レンズを除き一般に人気が無いため、どのレンズも相場は安値で安定している。出品者の解説は「ガラス面に傷はない。コーティングも問題なし。僅かに埃があるがカビやクモリもなく良好な状態。絞りリングの回転は正常で的確。鏡胴に少し傷があるが、おおむね良好。」とある。経年にしては上等な品であった。

★描写テスト
画像周辺部に至るまで平坦性の高い結像と均質な描写を実現するという観点から考えると、画角の狭い望遠レンズは広角レンズよりも無理の少ないレンズ設計が可能である。このため望遠レンズには非の打ちどころのない高い描写力を持つ製品が数多くある。今回の主役であるISCONARもなかなかの描写力である。ピント面の解像感は開放絞りから極めて高い。口径が小さいので諸収差の影響は絞り開放でも小さいようだ。画像周辺部までシャープで歪みの少ない均質な画質が得られる。ガラス面のコーティングが単層なので逆光耐性が劣ると思っていたら、そんなことは全くない。筒身が長く前玉径が小さいことに加え、単純なレンズ構成であることが優位に働き、内面反射光が光学系内に蓄積しにくいようだ。フレアはあまり出ず高コントラストな撮影結果を維持している。ボケ味は硬いが、乱れることなく綺麗に整っている。とてもアンティーク品とは思えない素晴らしい描写力を持ったレンズである。

F5.6 素晴らしい解像力と高いコントラストだ。ちなみにフードはつけておらず半逆光という悪条件だがフレアは全く出ていない。これが本当に1950年代の製品なのだろうか。

F4.5  望遠レンズの描写が広角・標準レンズと大きく異なる点は、背景のボケた部分の像が大きく写る「圧縮効果」である。背景が迫ってくるように大きく写る。望遠レンズらしい無理のない設計のためかピント面は極めてシャープであると同時に、アウトフォーカス部のボケた部分の結像が大変良く整っている

F5.6 画像周辺部まで均質な画質が得られている
F4.5 開放絞りでもシャープな像だ

F4.5 ボケはこの通りにザワザワと硬い

F5.6 屋根の瓦が持つ色や質感がよく再現できている

★撮影環境 Isco-Göttingen ISCONAR 100mm/F4.5 + EOS kiss x3


これは本当にいいレンズだ。ISCONARに出会い、望遠レンズに対する価値観が変わった。これからはもっと望遠レンズにも目を向けてみたい。