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2019/12/15

LOMO OKC8-35-1 (OKS8-35-1) 35mm F2 for KONVAS




LOMOの映画用レンズ part 7
ロモの第二世代1970's、
焦点距離35mmのシネレンズは
像面特性の改善と歪みの補正に力を入れる
LOMO OKC8-35-1 35mm F2
OKC8-35-135mmムービーカメラの最高峰、ロシア版アリフレックスのKONVASシリーズとロシア版ミッチェルのKSKシリーズに搭載する交換レンズとして、LOMO1971年に発売したOKC1-35-1の後継モデルです[1]OKC1-35-1の設計を見直し、中心部の解像度を維持したまま四隅の画質を大幅に向上させることで風景にも対応できるフラットな描写性能を実現しています[2]。このモデルではレンズのイメージサークルが前モデルよりも若干広くなり、光学ブロックの個体をフルサイズ機で用いる場合には暗角(ダークコーナー)の発生は僅かです。撮影フォーマットのアスペクト比を16:9に変えれば暗角は気にならないレベルに収まり、明るい広角レンズとして使う事ができます。この場合、本来は写真に写らない周辺部の領域が写るため、立体感に富んだ描写表現も可能です。
レンズの設計は下図のようなガウスタイプの後玉を2分割した7枚玉で、一段明るいF1.4のレンズに多く採用された構成です。明るさをF2に抑えることでワンランク上の描写性能を実現したのでしょう。本来はF2クラスのレンズに採用されることのない豪華な構成ですから、よく写るのは当然です、
このレンズがいつまで製造されていたのか確かな情報がありません。市場に流通している個体の大半は1970年代の製造ですが、1991年に製造された個体の存在を確認しています。
 
OKC8-35-1 35mm F2の構成図(文献[1]からのトレーススケッチ):左が被写体側で右がカメラの側。構成は5群7枚のLeitz-Xenon型
レンズの収差チャートを見ると輪耐部の球面収差がやや大きい分だけ中心部の解像度は前モデルよりも控えめですが、中心から四隅に向かって解像力の低下が緩やかで、広い画角領域にわたり解像力は逆に高くなっています[2]。像面湾曲と歪み、周辺部の光量落ちについても大幅に改善しています。LENKINAP PO4-1から続いてきたLOMOの焦点距離35mmの系譜は、このモデルの登場で一つの到達点を迎えたと言ってよいと思います。

参考文献・資料
[1]GOIレンズカタログ (1971年)
[2]RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド

レンズの入手先
20181月にウクライナのイーベイセラーからMINT CONDITION(美品)の個体を、それぞれ300ドル(光学ブロック)と275ドル(OCT-18マウント)で購入しました。LOMOOKCシリーズは日本での認知度がまだ低いため、国内でのレンズの流通は多くありません。レンズを入手するにはロシアやウクライナのeBayセラーから手に入れる事になります。eBayでの取引相場は状態の良い個体が300350ドルあたりです。流通しているモデルの大半は羽根の付いたOCT-18マウントのモデルですが、光学ブロックのモデルも僅かに流通しています。レンズの後玉が飛び出しているためガラスにキズの入っている個体が多くあります。状態の良い個体を探すのであれば後玉のコンディションに細心の注意を払う必要があります。
 
KONVAS OCT-18マウントのモデル: 重量(実測)165g, 絞り羽の枚数 10枚, 絞り値 F2(T2.2)-F16, 製造年 1974年, 最短撮影距離 1m
光学ブロック(M30ネジ), 重量(実測)43.8g, 絞り羽の枚数 10枚, 絞り値 F2(T2.3)-F16, 製造年 1980年製
   
SONY Eマウントへの変換方法
OCT-18マウントのレンズに対しては現在のところ使いやすい良いアダプターが存在しません。レラーレス機で用いるにはレンズを改造する必要があります。ここではロシアのRAFCAMERAから発売されているOCT18-M58 x0.75アダプターと46-58mmステップアップリングを使い、レンズをSONY Eマウントに変換する方法の一例をご紹介します。下の写真をご覧ください。RAFCAMERAのアダプターをステップアップリングを用いてM46-M42ヘリコイド(17-31mm)に装着します。ヘリコイドのカメラ側末端部はM42-SONY Eスリムアダプターを用いてソニーEマウントに変換してあります。通常よく用いられるM42-M42ヘリコイドではなく、一回り太いM46-M42ヘリコイドを採用したところが工夫点です。これはフォーカスを無限側に取る際に鏡胴が内部でヘリコイドの入り口に干渉するのを防ぐためです。ピント合わせは外部ヘリコイドの側でおこない、レンズ本体のヘリコイドはマクロ撮影時など必要な時以外には使用しません。
 
OCT-18マウントのレンズにRAFCAMERAのアダプターを装着しヘリコイドに搭載、末端をSONY Eに変換しています。ヘリコイドのレンズ側にあるM46ネジのネジピッチはフィルターネジと同じ0.75mmのようです。使用している部品はすべて市販品です

続いてレンズブロックの状態で手に入れたモデルをSONY Eマウントに変換する例です。このモデルはマウント部がM30ネジ(ネジピッチ0.75mm)になっています[2]GOIのカタログではM31(ネジピッチ0.5mm)と記載されていますので2種類の仕様があるのかもしれません。ネジピッチがフィルターネジと同じ0.75mmでしたのでステップダウンリング37-30mmが装着できます。下の写真のようにステップダウンリングを逆さ付けしオスネジ側にM37-M42変換リングを取り付ければ、レンズブロックをM42ヘリコイド(17-31mm)に搭載できるようになります。ヘリコイドのカメラ側末端部は先ほどと同様にM42SONY Eスリムアダプターを用いてソニーEマウントに変換してあります。

使用している部品は全て市販品で、改造と呼べるほど高度なものではありませんが、ステップダウンリングをレンズヘッドに逆さ付けするところが工夫点です






 
撮影テスト
レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットに準拠しており、デジタルカメラで用いる場合にはAPS-Cセンサーを搭載したミラーレス機を選択するのが最適です。OCT-18マウントのモデルの場合、フルサイズセンサーでは四隅に暗角(ダークコーナー)が出ますが、光学ブロックのモデルの方は暗角が少なく、フルサイズ機でも充分に使用できます。
開放からシャープネスとコントラストは高く、発色も濃厚です。滲みやフレアは全く見られず、スッキリとした透明感のあるヌケの良い描写です。絞るとコントラストは更に高くなり、撮影条件によってはカリカリの描写になります。像面は前モデルのOKC1-35-1に比べ格段に平坦になり、非点収差も小さく四隅までしっかりと写り、歪みもよく補正されています。ボケは安定しておりグルグルボケや放射ボケは見られませんが、ポートレート域で背後のボケがやや硬くなることがあります。欠点の少ないたいへん高性能なレンズです。
ピント部の広い範囲にわたり画質が向上したため立体感は控えめですが、フルサイズ機で画角を拡大させると、再び立体感に富んだ画作りができるようになります。
 

CAMERA:SONY A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9)
LENS: OKC8-35-1 (光学ブロック)
Location: Taman Ayun Temple, Indonesia
 
F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)光量落ちが凄くいい感じです

F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)コントラストの良いレンズです

F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)

F2.8 sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)





 
Fujifilmのカメラに搭載するには、レンズをいったんライカMマウントに改造するのが有効な手です。この場合にはライカM-FXヘリコイド付アダプターに搭載し、ピント合わせはアダプター側の外部ヘリコイドで行います。本体のヘリコイドはスピゴットマウント仕様のため使いにくいからです。マクロ撮影の時など繰り出し量が足らない場合のみレンズ本体のヘリコイドに頼ります。
 
CAMERA:FUJIFILM X-T20
LENS: OKC8-35-1 (OCT-18マウントモデル)

F2(開放)  Fujifilm X-T20(AWB)

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)

 F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)


F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)



F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)


 F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)


OLD LENS LIFE 2019-2020にも掲載されているモバイル情報ブロガーの伊藤浩一さんがOKC8-35-1を所持されていますので、お写真を提供していただきました。ありがとうございます。なんとiPhoneまでも母機にしてしまうという変化自在な使い方を実践なさっています。下の写真をクリックするとWEBアルバムにジャンプできます。
  
Photographer: 伊藤浩一(Koichi Ito)
Camera: Sony A7II / iPhone 11 / Lumix GX7 / Nikon J5
  
LOMOの映画用レンズってカッコいいので、撮っててワクワクしますよね。ヘラジカのような大角も素敵ですが、鏡胴の色落ち具合が1本1本異なるのは素晴らしいと思います。次回のOKC11-35-1もお楽しみに!

2019/12/06

LENKINAP / LOMO OKC1-35-1 35mm F2 KONVAS and 1KSK/2KSK


LOMOの映画用レンズ part 6
ロモの第一世代1960's
焦点距離35mmのシネレンズは
豪華な7枚構成で中心部の画質を重視
LENKINAP/LOMO OKC(OKS)1-35-1 35mm F2
OKC1-35-1PO56の後継モデルとして1950年代末にレニングラードのLENKINAP工場(LOMOの前身組織の一つ)から発売されたスーパー35フォーマット(APS-C相当)の映画用レンズです。ロシアの映画用レンズにはオーソドックスなガウスタイプで設計されたPO4-1 / Helios-33 35mm F2の系譜もありますが、PO56 / OKC1-35-1はこれらの上位のモデルに位置づけられ、最高級35mmムービーカメラ(主にロシア版アリフレックスのKONVASやロシア版ミッチェルのKSKシリーズなど)に搭載する交換レンズとして市場供給されました。中心解像力が高く開放では立体感に富んだ画作りができるのがこのレンズの特徴で、デジタルカメラに付けて通常の写真撮影に用いる場合はポートレート撮影やスナップ撮影に用いるのが面白そうです。設計は同クラスのシネレンズとしては異例の7枚構成で、Hugo Meyer社のP.ルドルフが1931年に設計したミニチュア・プラズマートの後群に正レンズを1枚追加した発展型です(下図)。これと同じ設計構成を採用したレンズにはライツのSummilux 35mmがありますが、口径比は一段明るいF1.4でした。本レンズでは明るさをF2に抑えることで、ワンランク上の描写性能を実現したと考えることができます。この種の構成で中口径レンズを設計する場合、欠点のない極めて優秀なレンズがつくれることが知られています[1]
レンズは遅くとも1959年には登場しており、LENKINAPLOMO(当初はLOOMP)の傘下に入る1962年以降も製造は続いています。レンズの製造がいつまで続いたのか定かではありませんが、1970年のGOIのカタログには掲載されていますし1970年代に作られた製品個体も確認しています。

OKC1-35-1(左)と前身モデルのPO56(右)の構成図。PO56の方が曲率がきつくガラスには厚みがあります。OKC1-35-1は硝材の屈折力に余裕があるため曲率が緩んでおり、収差が生じにくい構造になっています。中心解像力はPO56からの再設計で15%向上しており、コントラストも向上しています[2]



OKC1-35-1にはシネマ用ムービーカメラのKONVASに供給されたOCT-18マウントのモデルと、1KSK/2KSKなどに供給されたKSKマウント(ロシア版のBNCマウント)のモデルの2種があります。OCT-18マウントのモデルはシネレンズ特有のスピゴットマウントと呼ばれる方式で、マウント部にはヘリコイドの回転による前後の繰り出しを制御する溝がついています。デジタルカメラで使用するには、ロシアのRafCameraやポーランドのeBayセラーなどが出しているアダプターを利用するのが一般的です。KSKマウントのモデルは鏡胴が巨大ですが、光学ブロックだけを取り外せる構造になっており光学ブロック自体はとてもコンパクトなのでヘリコイドにのせて使用することにしました。マウント部はM30ネジ(ねじピッチ0.5mm)eBayで購入できるM30-M42アダプターリング(ねじピッチ0.5mm)がピタリと付きます。これを使いM42ヘリコイドに搭載し、末端部をSONY EまたはFUJI Xマウントに変換して用いることができます。いったんLeica Lマウントに変換し他のミラーレス機に搭載することも可能で、ポルトガルのcustomphototools.comが出している30mmx0.5 -M39アダプターと一般的なライカLM変換アダプターを併用し、光学ブロックのマウント部をライカMマウントにしてから、ライカM-ミラーレス機アダプター(ヘリコイド付)に搭載すればよいです。フランジバックを微調整し、最後に30mmx0.5-M39アダプターをライカLM変換アダプターに接着固定すれば完成です。
 
光学ブロックのマウント部ネジ径はM30(ねじピッチ0.5mm)ですが、eBayで入手したアダプターリングがピタリと装着できM42マウントに変換できますので、M42ヘリコイドに搭載することができます
参考文献
[1] レンズ設計のすべてー光学設計の真髄を探るー 辻定彦著 電波新聞社2006年
[2] Catalog Objective 1970(1970年のGOIのカタログ)
[3] RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド
 
入手の経緯
羽根のついたOCT-18マウントのモデルは201712月にeBayを経由してウクライナのレンズ専門業者から220ドル(190ドル+送料)の即決価格で入手しました。オークションの記載は「MINT Condition(美品)。ガラスはカビ、クモリ、キズ、バルサム剥離等のない、とても良い状態。鏡胴の状態は写真で確認してほしい」とのこと。状態の良い個体が入手てきました。eBayには常時何本か出ており、価格は程度の良いものが250350ドル程度となっています。光学ブロック2018年6月にeBayを経由してレンズを専門に扱うロシアの出品者から200ドル+送料の即決価格で入手しました。オークションの記載は「OKC1-35-1の光学ブロックでガラスの状態は大変。傷はない。若干のコバ落ちが見られるがカビ、クモリ等の大きな問題はない。適切なアダプターを用いてデジタルカメラに接続できる」とのことです。後玉側にはメタルキャップが付いていました。このレンズが光学ブロックの状態で市場に出る事は滅多にありませんが、本来はKSKマウントの大きな鏡胴に収められていることを後で知りました。届いたレンズはコバ落ちのみでガラスの状態はたいへん綺麗でした。ebayでの相場は状態の良い個体が、やはり250ドルから350ドルあたりです。後玉が飛び出しておりキズの入っている個体が多いため、購入時は後玉のコンディションに気を付ける必要があります。後玉がキャップで保護されているものを入手する方が安全でしょう。
OCT-18マウントのモデル:重量(実測)180g, 最短撮影距離(規格) 1m, 絞り羽 10枚構成, 絞り値 F2-F16, 推奨撮影フォーマット 35mm映画フォーマット(APS-C相当), 設計 6群7枚 


KSKマウントのモデルから取り出した光学ブロック:重量(実測)63g, フランジバック 33.9mm, fマウント部はM30スクリュー(ねじピッチ0.5mm)。その他の仕様はOCT-18モデルと同じ

撮影テスト
レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットに準拠しており、デジタルカメラで用いる場合にはAPS-Cセンサーを搭載したカメラを選択するのが最適です。ちなみに、フルサイズ機では両モデルとも四隅に丸いケラレがハッキリと生じ無理があります。時代的にはシングルコーティングですが、滲みやフレアは全く見られず、スッキリとヌケのよい描写で発色も良好、シャープネスやコントラストは開放から高いレベルに達しています。また、絞っても中間階調は良く出ておりトーンを丁寧に拾ってくれます。開放でも中心部は解像力が高く緻密な像を描いてくれますが、像面が平坦ではないため四隅ではピントが外れます。その分、立体感に富んだ画作りに長けており、無理に像面を平坦にしなかったのて非点収差(像面分離)は小さくボケは安定しています。一段絞れば四隅に向かって良像域は拡がり、風景などでも充分に使えます。ボケはポートレート域でややざわつきますが、強いクセはありません。カタログのデータシートでは光量落ちが大きめに出ていました[3]。ただし、使ってみた感触では全く気になりません。歪みは少し樽型です。
  

CAMERA:Fujifilm X-T20
LENS: OKC1-35-1 (KSKマウントモデル)

F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:曇) 開放からスッキリとヌケが良く、コントラストも良好です
F4  Fujifilm X-T20(WB:曇) この通り解像力は高く、緻密な像が得られます

F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2) 逆光では少しゴーストがでる









F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2 ISO1600)
F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2 ISO1600)

 


CAMERA:SONY A7R2(APS-C MODE)
LENS: OKC1-35-1 (OCT-18マウントモデル)
 
F2.8, sony A7R2(WB:曇天, APS-C mode)  歪みは樽型。これも階調がとてもいい感じに出ている

F2.8, sony A7R2(WB:曇天, APS-C mode)  中心部の解像力はかなりいい。中間階調の良く出るレンズだ
F2(開放)  sony A7R2(WB: 電球/PSカラー自動補正, APS-C mode)  開放でのスッキリとしていて抜けがよく、よく写るレンズだ

F2(開放), sony A7R2(WB:Auto, APS-C mode) 僅かにグルグルボケがでました。出てもこんなもんでしょう。広角シネマ用レンズは開放でフレアの多い製品が多いのですが、本品にはフレアやにじみがあまりでないようです
F2(開放)  sony A7R2(WB: 電球/PSカラー自動補正, APS-C mode)  
F2.8(sony A7R2, WB:曇り)













  
 
Photographer:  Zhi Mei Li
Camera: Sony A7II
知人のZhi Mei Liさんにレンズを使っていただき、昭和記念公園で半日撮影をしていただきました。Liさんは私がお譲りした映画用のJupiter-9を使い、最近いろいろなコンテストで賞を獲得しているポートレート写真家です。写真作品は現像時にカラーバランスをいじっているそうで、発色はこってり目になっています。下のプレビュー写真をクリックするとリンク先のアルバムページにジャンプできます。
 


   
Photographer:  どあ*
Camera: OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ
続いてレンズをお譲りした知人のどあ* さんにもお写真を寄稿していただきました。どあ* さん曰くOKC1-35-1は「横浜が似合うレンズ」だそうです。多重露光のものが何枚か入っています。あと、ホワイトバランスをいじっているそうです。下のプレビュー写真をクリックするとリンク先のアルバムページにジャンプできます。
 

2019/11/28

LOMO/LENKINAP OKC/OKS 35mmF2 cine-lens family: OKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-1

KONVAS(OCT-18マウント)用に供給された羽根つきの製品:左からOKC11-35-1, OKC8-35-1, OKC1-35-1

レンズヘッドで供給された製品:OKC8-35-1(左), OKC1-35-1(手前), OKC11-35-1(右奥)
 
LOMOの映画用レンズ part 6-8 (プロローグ)
LOMOが改良に最も力を入れた
焦点距離35mmの主力レンズ群
LOMO/LENKINAP OKC(OKS) 35mm F2 family: 
OKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-1
今回からLOMOが市場供給した焦点距離35mmの製品群を取り上げます。ポピュラーなものとしてはOKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-13種があり、それぞれ設計構成や描写の味付けが異なります。初代のOKC1-35-1(LENKINAP時代の1959年頃に登場)は中心部に偏重した描写設定で立体感に富み、ポートレート向きであるのに対し、2代目のOKC8-35-1(1971年に登場)は中心部の性能をやや抑える代わりに像面特性と歪みを大幅に改善、風景にも対応できるフラットな描写性能を実現しています。3代目のOKC11-35-1(1980年代初頭に登場)は構成枚数を6枚に落とし製造コストと空気境界面数を同時に削減するとともにコーティングをマルチコート化、コントラストとシャープネスを合理的に向上させ、発色は鮮やかになっています。中心部を重視した初代OKC1-35-1に近い設定で解像力を更に向上させています。それぞれ鏡胴に羽根のついた製品(上段写真)とレンズヘッドとして供給された製品(下段写真)が市場に流通しています。せっかくなので全部入手し各モデルの違いを比べてみたいと思います。前者の羽根つきの方がシネレンズっぽさが出ており独特な外観で格好良いのですが、後者の方がコンパクトなうえケラれが少ない分だけイメージサークルは大きく、中にはフルサイズ機でも使える製品があります。







2019/11/19

LOMO/LENKINAP OKC1-16-1(OKS1-16-1) 16mm F3


技術の黎明期や発展期には足りない部分を力づくで成立させてしまうような、規格外の製品が登場する事があります。多くの場合、そういう類の製品は採算性が悪く市場経済には受け入れられませんので、メーカーに開発できる技術力があっても試作止まりで日の目を見ることがありません。あるとすれば製造コストを度外視できる国・・・そう共産圏の製品です。

LOMOの映画用レンズ part 5 
フロント径134mm、リアM29のクレイジーガイ!
サイズも写りも規格外のモンスターレンズ
LOMO/LENKINAP OKC(OKS)1-16-1  16mm F3
前玉に直径134mmの巨大なレンズユニットを据え付けたモンスター級シネレンズOKC1-16-1は、1960年代初頭にソビエト連邦(現ロシア)レングラードのLENKINAP工場(LOMOの前身団体の一つ)で開発されました。当時の西側諸国には焦点距離が18mmよりも短いシネレンズがありませんでしたので、これは画期的なことでした。焦点距離を更に短縮させる場合、当時の光学技術ではレンズが大型化してしまい、アリフレックスのターレット式マウントに同乗させると他のレンズの視界を遮ってしまいます。有名なSpeed Panchro(スピードパンクロ)18mm F1.7でさえ既にかなりの大型レンズでしたが、パンクロシリーズに焦点距離16mmのモデルはありませんでした。おそらくこのあたりが限界だったのでしょう。今回取り上げるOKC1-16-1もデカくて重いうえ、コストパフォーマンスは劣悪ですが、写りは驚くほど秀逸なうえ、何よりも焦点距離を16mmまで短縮させ未踏の領域に到達した先駆的なシネレンズでした。
レンズの設計は下図に示すような豪華な6群9枚構成で、前群に配置した屈折力の大きな2つの凹レンズで入射光束をいったん発散光束にかえバックフォーカスを延長させるとともに、正の屈折力を持つ後群で集光させながら収差の補正を同時に行うレトロフォーカス型レンズの典型です。マスターレンズが何であるのか、後群側をよく見ても複雑でよくわかりませんので、コンピュータで設計されていたのかもしれません。レニングラードには光学設計で有名なITMO大学があり、1958年からリレー式コンピュータのLIMTO-1を運用しています[1]。同大学とLOMOとは協力関係にありましたので、あり得ない話ではありません。
  
OKC1-16-1 16mm F3(T3.5)の構成図(文献[2]からのトレーススケッチ):左が被写体側で右がカメラ側。初期のレトロフォーカス型レンズは前玉の大きな凹レンズと前・後群間の広い空気間隔を利用してバックフォーカスを稼ぐ仕組みでしたので光学系は巨大でした
 
レンズが発売された1960年当時、レトロフォーカス型レンズの設計技術は急激な進歩の中にいました。西側諸国でもAngenieuxがすぐ後の1960年代前半に軽量でコンパクトなType R62 14.5mm F3.5を発売しています。デカいことがこのレンズの最大の弱点であったのは確かで、レンズを映画用カメラのKONVASにマウントする場合はカメラに3つのレンズを同時にマウントすることができず他の2つは取り外さなくてはなりませんでした。ただし、描写性能はOKC1-16-1の方が格段に現代的で先を行っていました。OKC1-16-11962年に少量が製造されたのみで、直ぐにコンパクトで軽量な後継製品のOKC2-16-1へとモデルチェンジしています。OKC2-16-1は前玉径が75mmで重量は350gと携帯性が大幅に向上し、KONVASのターレット式マウントにも問題なく搭載できました。
描写性能を維持したまま小型化することは可能だったのでしょうか?。小さく設計することと引き換えに失われたものが何かあるとするならば、それは何だったのでしょうか?。まだまだわからない事だらけです。
 

重量(実測)1.51kg, イメージサークル: スーパー35シネマフォーマット(APS-C相当), 対応マウント: KONVAS OCT-18(OST-18)とKONVAS KINOR-35(M29 thread)の2種, 設計構成: 6群9枚レトロフォーカス型, マウント: M29ネジマウント,  絞り: F3(T3.5)-F16, 解像力(GOI規格): 中心60LPM, 周辺25LPM, 絞り羽: 9枚構成, コーティング:単層Pコーティング
入手の経緯
ここまで広角のシネレンズともなると、常用ではなく室内など狭い空間でのシーンや、パースペクティブを強調したいシーンに限定して使われたに違いありません。市場に流通している個体数が極僅かなのは、このような事情を反映しており、探すとなるとなかなか見つけるのは難しい希少レンズです。
レンズは2018年8月にロシアのシネマフォトグラファーがeBayに出品していたものを450ドル(送料込み)の即決価格で購入しました。オークション記載は「レンズのコンディションは5段階評価の5。ガラスにカビ、クモリ、キズ、バルサム剥離などはない。鏡胴は腐食やびびなど見られずとても良い状態。各部のリングはスムーズに回り、全ては適正に動く。絞り羽もドライかつスムーズに開閉する」とのこと。提示写真には若干のコバ落ちがみられたものの全体的な状態は大変良さそう。レンズには純正のフロントキャップとM29リアキャップが付いていました。落札から2週間、手元には記載どうり状態の良いレンズが届きました。
届いたレンズを手に取り、ここまでデカいとは思っていませんでしたので、驚きと共に開いた口がふさがりませんでした。初期のレトロフォーカス型レンズはどれも大きくインパクトのある前玉が特徴ですが、インパクトでこのレンズの右に出る製品はないと思います。
 
参考文献
[1] Outstanding Scientific Achievements of the ITMO Scientists, ITMO University
[2] GOI lens catalog 1970
 
撮影テスト
レトロフォーカス型レンズの長所は像面が平らなことと四隅でも光量落ちが少ないことで、これらはレンジファインダー機用に設計された旧来からの広角レンズに対する大きなアドバンテージです。一方で初期のレトロフォーカス型レンズはコマ収差の補正と樽状の歪みを抑えることが課題でした。優秀なレトロフォーカス型レンズはこれらが十分に補正されています。
本レンズは開放でもコマ収差は全くみられず、ピント部はシャープで歪みも極僅か。解像力(GOI規格のカタログ値)は中心60線、周辺25線とかなり高く、シネマ用の標準レンズと比べてもなんら遜色のないレベルです[2]。この時代の製品としては描写性能の高い非常に優秀なレンズです。レトロフォーカス型レンズらしく光量落ちは少ないうえ、四隅の色滲み(倍率色収差)は全く目立たず、像面も平らなので、四隅にメインの被写体を置いても画質的に不安になることはありません。逆光ではゴーストが出ますがハレーションにはなりにくく、ド逆光でも少し絞れば耐えられます。階調は軟らかくトーンの変化はなだらかで、深く絞ってもカリカリになることはありません。風景の中の濃淡をダイナミックに捉えるレンズだと思います。

レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットですので、APS-C機で用いるのが最も相性のよい組み合わせです。今回はSONY A7R2に搭載しAPS-Cモードに設定変更して使用しました。
F5.6  sony A7R2(APS-C mode, WB:日光) さっそくド逆光で太陽を入れましたが、フツーに撮れます
F5.6  sony A7R2(APS-C mode, WB:日光) 
F8 sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)


F8 sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)

F3(開放)sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)

F4  sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)

F4  sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)