おしらせ


ラベル Miranda の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル Miranda の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022/06/01

Auto MIRANDA 25mm F2.8:ペンタレフカメラのパイオニア、ミランダの交換レンズ群 part 3



ペンタレフカメラのパイオニア

ミランダマウントの交換レンズ群 part 3

ディスタゴンにも似た

ポピュラーな広角レンズ

Auto MIRANDA 25mm F2.8(初期型)

ミランダカメラは広角レンズのラインナップが恐ろしく充実しており、焦点距離のバリエーションが17mm, 21mm, 25mm, 28mm, 35mmと5種類もありました。この中で特に評価が高く人気だったモデルが今回取り上げる25mm F2.8です。画質的な評判(当時の海外での誌上評価のこと)は近い焦点距離の28mmF2.8よりも上で、超広角レンズにしてはコンパクトに作られている点も魅力でした。レンズは同社の一眼レフカメラSENSOREX-Cが登場した1970年からカタログに掲載され、Sensorex II, Sensomat RE(1970年), Sensorex EE(1972年)にも掲載があります。ただし、初期の製造ロットにはカタログに無いフィルター径46mmの個体があったようなので、市場供給が開始されたのはもっと前の1960年代後半であったと思われます[1,2]。人気の秘密は光学系をみると一目瞭然にわかり、何とカールツァイスの最高級カメラCONTAREXにも搭載されていたDISTAGON 25mm F2.8(1963年発売)によく似た設計構成なのです(下図)。レンズは空気間隔を分厚いガラスで埋めることによりコンパクトな光学系を実現しており、コンピュータ設計から生み出されたレトロフォーカスタイプの進化版と言った製品です。Auto MIRANDA 25mmを開発・生産したメーカーがどこであったのかは明らかになっていませんが[2]、珍しい焦点距離であることや、当時同じスペックのレンズを生産したメーカーが見当たらないこと、またレンズの内製化がすすめられた後に発売されているなど状況証拠から考えると、MIRANDAの自社設計である可能性が濃厚です。MIRANDAカメラは自社開発と思われる標準レンズや35mm F2.8をカメラのカタログに掲載していますが、そうではないことが判っている17mmや21mmの広角レンズを自社のカメラのカタログに掲載しませんでした。ちなみに今回の25mmはカメラのカタログに掲載されています。内部を開け部品レベルで検証すれば、よりはっきりとしたエビデンスが得られるのでしょう。それでは、和製ディスタゴンの写りを堪能してみましょう。


左はAuto MIRANDA 25mm  F2.8で7群8枚構成、右はCONTAREX/QBM DISTAGON 25mm F2.8で8群8枚です。上が被写体側で下がカメラの側
 

参考情報

[1]MIRANDA SENSOREX C official manual(英語版); MIRANDA SENSOREX II official manual(英語版); MIRANDA SENSOREX EE official manual(英語版);MIRANDA SENSOREX RE official manual(英語版)

[2]ミランダ研究会: Ultra wide angle lenses

Auto MIRANDA 25mm F2.8: フィルター径 52mm(初期ロットに46mmあり), 最短撮影距離 0.25m, 絞り値 2.8-16, 絞り羽 6枚構成, 設計構成 7群8枚, 重量(実測) 266g















入手の経緯

レンズは2021年11月にeBay経由で米国のカメラ専門のセラーから、純正フードとケースが付いた状態で225ドル(送料込み)にて入手しました。オークションの記載は「ファイン・ビンテージ・コンディション」とのタイトルで「素晴らしいコンディションのレンズ。説明を要する問題個所は見当たらない。純正フードとケースが付属する」とのこと。届いた商品は記載どうりのコンディションでした。eBayでの取引相場は状態にもよりますがフードなしで200~250ドル程度、純正フードのみが約35~40ドルくらいで取引されています。オートミランダの広角モデルの中では比較的高値で取引されており流通量も安定していることから、人気のあるモデルであることがわかります。ミランダカメラの製品は主に米国、ヨーロッパで販売され、日本国内でも数は少なめですが販売されました。レンズを探す際には海外の市場の方が流通が豊富です。

 

撮影テスト

開放ではピント部をフレアが覆いコントラストも低下気味の柔らかい写りですが、四隅まで良像域が広く解像感はそれなりにありますので、被写体をきっちりと写しながらも味のある描写を両立させる事ができ、なかなか楽しめるレンズです。ピント部全面に渡る画質的な均一性と安定感がこのレンズの長所のように思います。2段絞ればスッキリとしてヌケがよく、画面全体で解像感に富んだシャープな像が得られます。レトロフォーカス型には珍しく開放でやや光量落ちがみられますので、雰囲気のある画作りができます。歪みは樽型ですがこのクラスのレンズにしては少なめ。感心したのは最短撮影距離が24cmと短めな点で、近接撮影ができるのは大きなアドバンテージだと思います。グルグルボケは全くみられませんでした。

 

まずはYOKOHAMAを「赤煉瓦モード」でどうぞ

F8, sony A7R2(WB:⛅, R+22 G-12 B-16赤煉瓦シフト) ちょっと赤よりなのはいじっているからですが、なかなかの高描写です。モデルさんは白川うみさん(Thanks!)
F8 Sony A7R2(WB:日陰, R+22 G-22 B-16:赤煉瓦シフト)

F2.8(開放) Sony A7R2(WB:日陰, R+22 G-22 B-16:赤煉瓦シフト) 開放では光量落ちがあり、雰囲気が出ます。ちなみに、このシーンをF8まで絞るとこのようになります(←発色無補正)




























F2.8(開放)  SONY A7R2(WB:日陰, R+16 G-16 B-16)開放ですが、解像感は良好です。F8まで絞った写真はこちらです













F2.8(開放) SONY A7R2(WB: ⛅, R+16 G-16 B-16)レトロフォーカスタイプのくせに周辺光量落ちがしっかり目に出ているのは正に目から鱗です。光学系が細長い分、口径食でも出ているのでしょうか

 

続いて初夏の三崎(三浦半島)です

こちらは色補正なしの写真です

F8 SONY A7R2(WB:日光) 
F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

2022/05/06

Auto MIRANDA 35mm F2.8 :ペンタレフカメラのパイオニア、ミランダカメラの交換レンズ群 part 2





ペンタレフカメラのパイオニア

ミランダの交換レンズ群 part 2

ミランダカメラのコピー・アンジェニュー

ミランダカメラ AUTO Miranda 35mm F2.8 

1960年代はアンジェニュー(フランス)の広角レンズを手本とする日本のメーカーが後を絶ちませんでした。アンジェニューとは言わずと知れたスチルカメラ用レトロフォーカスレンズとズームレンズのパイオニアメーカーで、1950年に一眼レフ用広角レンズの源流とも言われるANGENIEUX Type R1(タイプR1)を製品化した事で知られています。今回取り上げるミランダカメラの広角レンズもタイプR1を模倣した数あるコピー・アンジェニューの一つです。1960年代半ばにこの構成を模倣するというのも技術的に時代遅れではという印象を抱きますが、こうした事も現代のオールドレンズファンには嬉しい誤算でしかありません。ミランダ以外の国産レンズではペトリカメラのPETRI C.C Auto 2.8/35 (前期型)、コニカのHEXANON AR 2.8/35 (前期型)、旭光学(ペンタックス)のSUPER TAKUMAR 2.3/35などがタイプR1のコピーとして知られ、オールドレンズの分野では一目置かれています。いずれもタイプR1の性質を受け継ぎながら1960年代の改良されたコーティングと新しい硝材により、より高いシャープネスと鮮やかな発色を実現しています。スーパータクマーやペトリについては少し前に本ブログで紹介記事を出しましたので、本記事と一緒にご覧ください。双方とも開放でフレアの多い滲み系レンズで、アンジェニューの性格を色濃く受け継いでいます。オリジナルのType R1は今や8~10万円もする高嶺の花となりつつあるわけですが、今回ご紹介するレンズならば、状態の良い個体がまだ10000円以内で入手できます。さっそくレンズの設計構成を見てみましょう。

 

 

上図の左がオート・ミランダで右がアンジェニュー(タイプR1)です[1]。設計構成はテッサータイプのマスターレンズを起点に前群側に凹レンズと凸レンズを1枚づつ加えた6枚玉(5群6枚)で、コマ収差の補正に課題を残す古典的なレトロフォーカスタイプです。オート・ミランダは確かにType R1と同一構成ですが、前玉径や空気間隔がType R1よりも小さめに設計されており、レンズをコンパクトにする事を重視していたようです。このレンズはミランダカメラが一眼レフカメラのMIRANDA F(1963年発売)以降に搭載する交換レンズとして設計したもので、それまで興和からOEM供給を受けていたAutomex用Soligor MIRANDA 35mm F2.8(こちらはType R1とは異なる7枚玉)の後継レンズとして市場供給されました[2]。フレアっぽい開放描写とシャープで解像感に富む中央部、黎明期の古いコーティングから生み出される軟らかいトーン、鈍く淡白な発色などが、よく知られているType R1の特徴です。これらの何がオート・ミランダに受け継がれ何が刷新されているのかを論点としながら、レンズの描写を楽しんでみたいとおもいます。

Auto MIRANDA 35mm F2.8: フィルター径 46mm, 重量(実測) 189.6g, 絞り羽 6枚, 絞り F2.8-F16, 最短撮影距離 0.3m, MIRANDAバヨネットマウント, S/N; 64XXXXX, 設計構成 5群6枚レトロフォーカスタイプ



 


 

参考文献・資料

[1] MIRANDA SENSOMAT through-the-lens exposure determination(英語版マニュアル)

[2] MIRANDA Model F Manual

[3] ミランダ研究会: MIRANDA SOCIETY JAPAN (xrea.com)

 

入手の経緯

MIRANDAブランドは米国やEUなど主に海外で流通しており、本品も入手ルートはeBayです。レンズは2021年12月に米国のレンズセラー(日本人)から39ドル+送料18ドル(総額約7500円)で入手しました。オークションの説明は「中古のミランダ35mm F2.8。ケース付きである。日本製」と簡素でしたが、セラーのフィードバック評価が優秀であることやオークションの記載に問題点の指摘が無いこと、写真でみる限りガラスは綺麗だったので、直感を信じて博打買いしたところ・・・綺麗でした。eBayでの相場はコンディションにもよりますが60~90ドル(送料別)あたりでしょう。今回もMIRANDA純正品のライカLアダプターを使い、レンズをデジタルカメラにマウントして使用しました。

 

撮影テスト

開放ではコマフレアが発生し一般的な感覚から言えば柔らかくボンヤリとした描写ですが、アンジェニュー・タイプR1を基準に考えればフレア量は少なく、そのぶんシャープネスは高めで発色も鮮やか。一方で解像力は平凡です。アンジェニューの発色は開放付近で温調方向にコケる傾向がありますが、ミランダは至ってノーマルです。開放で遠方を撮ると像面湾曲のためか四隅がピンボケを起こしています。風景撮影の際は基本的に絞る必要がありそうです。逆光でも前玉が小さいためなのかゴーストは気にならないレベルでした。背後のボケは安定しており、像が流れたりグルグルに至るような事はありません。デジタル撮影だとフィルム時代には問題にならなかった色収差がやや目立つようになっています。中判デジタルセンサーのFujifilmのGFX100SとフルサイズセンサーのSONY A7R2で写真を撮りました。続けてどうぞ。

 

Fujifilm GFX100Sでの作例

イメージサークルには余裕があり、中判デジタルセンサー(44x33mm)を搭載したFujifilmのGFXでも光量落ちが少しある程度で、ダークコーナーは全く出ません。開放では本来は写らなかった領域が写るため、画質が乱れ、四隅の像が流れています。

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Film simulation: NN)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Film simulation: NN)

  

 

Sony A7R2 での作例

 

F4 Sony A7R2(WB:日光)

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 近接からポートレートくらいの距離ですとType R1よりもコマ収差は少なめで、コントラストも良好です










F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光) 拡大すると輪郭部が色づく色収差がやや目立ちますが、デジタル撮影だからでしょう。フィルム撮影では問題にはならなかったことです









F2.8(開放)Sony A7R2(WB:日光) ところが、このくらい遠方になると開放では四隅の画質が怪しくなってきます。中遠景から遠景は絞って取るのが鉄則でしょう

F8 sony A7R2(WB: 日光) 絞れば良像域が広がり、四隅まで十分な画質です

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 遠景ではこのとおりコマフレアは多めで、シャドー部の階調は浮き気味となり、四隅の画質がだいぶ怪しくなります

F8 sony A7R2(WB:日光) 絞ればスッキリシャープです











































































 

これまで構成が同一のコピー・アンジェニューを何本か試しましたが、描写はどれも少しずつ異なっており、性格の差異が当初思っていた以上に大きい事を今回のレンズから学びました。どれもザックリとした傾向は似ていますが、そこからの違いにはメーカーや設計者の趣味・嗜好が働いているように思えます。テキトーに作っていたわけはないはずです。同一構成のレンズの中にも、更なる多様性を生じさせる余地があるというのは喜ばしいことです。

2022/05/01

Auto MIRANDA 50mm F1.4(1st Gen.):ペンタレフカメラのパイオニア、ミランダの交換レンズ群 part 1



 

1955年にミランダTを発売し国産ペンタレフカメラのパイオニアメーカーとして衝撃のデビューを果たしたミランダカメラ(旧オリオンカメラ株式会社)ですが、その後の道のりは順風満帆とはいきませんでした。当初のミランダにレンズを自社生産する技術や設備はなく、交換レンズ群はズノー、興和、ヤシカ、ノリタ、富岡、タイカ、アルコ、藤田等からのOEM製品で成り立っていました。一方で、技術的にハードルの高いF1.4クラスの高速標準レンズにはOEM供給を受ける当てが無く、興和製Soligor 5.8cm F1.5は存在のみしていたものの、価格設定でコケたのか供給量は極僅かでした。高速レンズの供給でミランダカメラは大きく出遅れていたのです。

撮影レンズがファインダー対物を兼ねる一眼レフカメラでは、ファインダーの明るさを確保するために明るい撮影レンズが必要となります。F1.4の高速レンズをラインナップに揃えることは一眼レフカメラの製品の魅力を左右します。ミランダTの登場から各社後を追うように続々とペンタプリズム付き一眼レフカメラを発売し、カメラにはF1.4クラスの高速レンズが用意されました。自社のカメラに高速レンズを安定供給することはミランダにとって社運に関わる重大事であったに違いありません。

1963年、とうとうミランダカメラはレンズの自社生産にのりだし高速レンズの開発に着手、1966年にAuto Miranda 50mm F1.4の発売に漕ぎ着けます[文献1,8]。しかし、この時既に市場では日本光学、東京光学、キャノン、コニカ、ミノルタ、旭光学が競合製品を揃え、熾烈な争いを繰り広げていたのです。どうするミランダ。

ペンタレフカメラのパイオニア

ミランダの高速標準レンズ part 1

ミランダの意欲作は唯一無二の8枚玉

Auto MIRANDA 50mm F1.4(初期型)

今回取り上げるAUTO MIRANDA 50mm F1.4(初期型)は高速レンズの供給で他社の後手を踏んでいたミランダカメラが形勢を立て直すべくレンズの自社生産に乗り出し、1966年に発売した高速標準レンズです。レンズの設計には著しい特色があり、口径比F1.4のクラスとしては異例の8枚構成(6群8枚)が採用されました(下図)。同クラスの他社製品が7枚構成(5群7枚)をとるのが一般的な中、このレンズにはF1クラスの明るさにも耐えうる豪華な構成が採用されたのです。同一構成のレンズとしては、例えば口径比F0.95を実現したアンジェニューのタイプM1があります。構成枚数が多いほど製造コストが嵩み、価格競争では不利になりますが、明るいレンズを無理なく設計できるようになります。ただし、口径比がF1.4であれば7枚玉でも高性能な硝材を用いた合理的な設計が可能で、高度な技術力があれば充分に高性能なレンズを作ることができます[文献9]。8枚玉への過大な期待は禁物です。このモデルを市場投入する意義はカメラ本体の付加価値を向上させる事にありましたので、レンズ単体での利益はそれほど重視していなかったものと思われますし、高価な新種ガラスをなるべく用いずにそこそこの性能を維持する事が8枚玉を採用した意図であったとも考えられます。このレンズでは短波長光の透過率が7枚玉の他のレンズと比べ良好であるという測定報告があり、新種ガラスを用いないとする見解に整合しています[文献6]。レンズは1969年に刊行されたカメラ毎日「レンズ白書」[文献5]のハウレットチャートによる紙上評価で、銘玉と謳われるRE Topcor 58mm F1.4を抑え、Nikkor 50mm F1.4に次ぐ高い評価を叩き出しています。少なくともピント部の性能については、なかなかのレベルだった事がわかります。オートミランダF1.4の初期型は8枚玉を世に問うことで巻き返しを図ろうとした同社の強い意志と願いが込められていたレンズだったのかもしれません。8枚玉の経緯や真実はどうあったにせよ、レンズを唯一無二の構成で実現したことは私たちオールドレンズユーザにとって大変喜ばしいことですし、他のオールドレンズとは一味異なる貴重な体験を私たちに提供してくれるにちがいありません。

 

AUTO MIRANDA 50mm F1.4(初期型)構成図:[文献2A]からのトレーススケッチ(見取り図)で左が被写体側で右がカメラの側です。スタンダードなガウスタイプの前後に正の凸レンズを一枚ずつ追加して屈折力を稼ぎながら、各面の曲率を緩めてバランスさせています。口径比をF1.4に抑えた分、球面収差の補正には余裕がありそうなので中心解像力は期待できますが、このタイプのレンズ構成は正レンズ過多によるペッツバール和の増大が問題になるようです[文献4]。像面湾曲をある程度許容しても非点収差を十分に補正しきれない問題が発生し、ピント部四隅の解像力や四隅のボケに影響が出ます。鏡胴が長くなるぶん口径食も多くなりそうです












 

Auto MIRANDA 50mm F1.4には大きくわけて第1世代から第3世代まで3種類のモデルに分類できます。年代順に追って紹介しましょう。

左から第1世代(初期型)、第2世代(Eタイプ)、第3世代(ECタイプ)





 

第1世代(初期型):AUTO MIRANDA

今回紹介するモデルで、シリアル番号の先頭が67または68で始まる個体として識別できます。一眼レフカメラのSENSOREX(1966年登場)、SENSOMAT(1968年登場)、SENSOMAT RE/RSとSENSOREX-C(いずれも1970年登場)に搭載する交換レンズとして市場供給されました[文献2A]。ちなみにAUTO MIRANDA F1.4シリーズの中で8枚構成のモデルはこの初期型のみです。他社のF1.4クラスの標準レンズに比べると鏡胴が細くコンパクトで、フィルター径も46mmと小さめです。

第2世代:AUTO MIRANDA / AUTO MIRANDA E

1972年に登場した一眼レフカメラのSENSOREX IIとSENSOREX EEに搭載された後継モデルです[文献2B-2C]シリアル番号の先頭が13または28で始まる個体として識別できます。レンズ構成がこのクラスとしては一般的な7枚玉(5群7枚)へと変更されています。SENSOREX EEにはElectric-Eyeに対応したEタイプのAUTO MIRANDA Eが供給されていますが、設計はSENSOREX II用に供給されたE表記のないモデル(non-E type)と同一です。初期型に比べ鏡胴径が太くなり、フィルター径も52mmと大きくなっています。

第3世代:AUTO MIRANDA EC

1975年に登場した一眼レフカメラのSENSOREX RE-IIとdx-3に搭載された後継モデルで、シリアル番号の先頭が25で始まる個体として識別できます[文献2D]。構成は第2世代と同じ7枚玉(5群7枚)ですが[文献2C]、光学系の全長が短く、後玉径も小さくなっていますので再設計が施されているようです。ピントリングのローレットがメタルからラバー素材に変更されました。フィルター径に変更はなく52mmです。

 



 



参考文献・資料等

[1] MIRANDA研究会

[2A] MIRANDA SENSOMAT manual (英語版) :構成図引用元

[2B] MIRANDA SENSOREX II Instructions (英語版)

[2C] Miranda SENSOREX EE Instructions (英語版)

[2D] Miranda dx-3 Instructions (英語版)

[3] 会計士によるバリューアップ クラカメ趣味: MIRANDAの8枚玉情報はこちらのブログ主の方にを教えていただきました。感謝いたします。

[4] 「レンズ設計の全て」辻定彦著 電波新聞社(第一版)P96頁 2006年

[5] カメラ毎日 別冊「レンズ白書」1969年

[6] カメラ毎日 別冊 カメラ・レンズ白書 1971年 : 寒冷色

[7] 「幻のカメラを追って」白井達男著 現代カメラ新書

[8] クラシックカメラ専科(1982年) 「ミランダカメラのすべてとその歴史」 日比孝著

[9] ニッコール千夜一夜物語 第七十七夜: Nikkor-S 50mm F1.4

 

Auto Miranda 50mm F1.4(1st model): フィルター径 46mm, 最短札視距離 0.43m, 絞り値 F1.4-F16, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測) 296g, MIRANDAバヨネットマウント, 設計構成 6群8枚(ガウス発展型)

 

レンズの購入価格

MIRANDAブランドは米国やEUなど主に海外で流通しており、本品も入手ルートはeBayです。レンズの相場はコンディションにもよりますが130~200ドル程度(送料別)でしょう。根気強く探せばカメラとセットで100~150ドル程度で手に入れる事も可能で、カメラを売却すれば正味の値段を安く抑えるができるはずです。ただし、カメラとレンズのセット販売は多くの場合でカメラ全体のコンディションとして語られることが多く、レンズ単体のコンディションに注力した記載は比較的希ですので、メンテ前提になるケースが多く発生します。オールドレンズ全般に言えることですが海外の物価は持続的なインフレにより右肩上がりですので、値上がり傾向にあります。探すなら早いに越したことはありません。

 

撮影テスト

開放からスッキリとヌケが良く、ピント部の滲みは僅かです。これが8枚玉の威力なのでしょうか。この時代の同クラスのレンズを開放で用いると、例えば球面収差が過剰気味になる中望遠よりも遠方では人肌の拡大像に薄っすらとしたフレアが見られる事がよくあります。中心解像力は良好で良像域も広めです。ボケは開放で四隅に流れがみられ、グルグルボケの一歩手前といった具合です。光学系が細長いためか、開放では口径食と周辺部の光量落ちがやや目立つ事があります。発色はクールトーンとの報告があり、測定装置を用いていますので間違いないでしょう[文献6]。逆光には弱くハレーション気味になるので、避けたい場合にフードは必須です(公式カタログ[2A]にもこの点を注意する記載があります)。逆に活かす場合には周辺光量落ちと相まって、とても効果的な演出効果を生みます。ピント部の画質に高い評価が得られている理由がよくわかります。

F1.4(開放)Sony A7R2(WB:電球)中心解像力は良好です。開放でもピント部の滲みは少なく、思った以上に高性能なレンズです。ボケは四隅で少し流れる感じです

F4 sony A7R2(WB:日光) 


F1.4(開放) Sony A7R2(WB:日陰)逆光ではいい感じにハレーションがでるので、周辺光量落ちとの相乗効果で雰囲気のある写真を狙うことができます。予想どうりに口径食と非点収差(グルグルボケ)がやや目立つ感じででています。



F1.4(開放) SONY A7R2(WB:日陰)開放からスッキリ写り、滲みも殆どみられません。すごいですね

F1.4(開放)SONY A7R2(WB:日陰)ボケはやや怪しく開放ではこの通り周辺部が流れますが、ピント部は良像域は広く、開放でも四隅までしっかり写ります


F1.4(開放) sony A7R2(WB:日光) 水平線が若干曲がって見えます。やや樽形の歪曲があるようです
F1.4(開放) sony A7R2(WB:日光) 光学系が長いぶん口径食が多めにあるのため、周辺光量落ちが出ています



2022/04/16

MIRANDAブランドの交換レンズ群: プロローグ

 


国産ペンタレフカメラのパイオニア

ミランダ一眼レフカメラの交換レンズ群

プロローグ

ミランダカメラ(旧オリオンカメラ株式会社)はかつて東京都狛江市に本社のあったカメラメーカーです。カメラやレンズは大半が輸出向けでしたので国内での製品流通は僅かですが、北米や欧州(主にドイツと英国)の中古市場には今もかなりの流通があります。ミランダカメラについては、ミランダ研究会という素晴らしいWEBサイトがあり、2013年頃まで同社に関する情報の整理と検証を続けていました。本記事の解説は概ねここからの情報の要約ですので、より精度の高い情報をお求めの方はミランダ研究会のWEBページを訪問してください[参照1]。

ミランダカメラの誕生には興味深いエピソードが残っており、東京大学航空工学科の出身でロケット/ジェットエンジンの開発に携わっていた荻原彰(1920-1992年)と荻原の一年後輩にあたる大塚新太郎(1921-2005年)が1948年に創業したオリオン精機産業有限会社を前身としています。二人は戦後間もなく日本を占領・統治した連合国軍総司令部(GHQ)による「航空禁止令」のため、ロケットエンジンの研究が思うように進められず、代わりに古巣である航空研究室に一室借りてカメラの研究を始めます。やがて、二人はペンタプリズム付き一眼レフカメラの将来性を確信し、その実現に心血を注いでいったのです。

カメラのレンズを通して得られる像は上下がさかさま、左右が逆の倒立逆像で、交換レンズを後玉側から覗くと目にうつる像は確かにそうなっています。同様に昔の中判カメラや大判カメラではピントガラスに映る像が倒立逆像でした。これに対して現在の一眼レフカメラのファインダー像は上下左右とも正しい正立正像に補正されています。カメラに内蔵されたペンタプリズムが像を反転してくれるからです。当時、荻原と大塚が目指したペンタプリズム付き一眼レフカメラは被写体の姿をファインダー内に正立正像で確認することができ、しかもパララックスのない夢のカメラでした。実現すればファインダー像通りの写真を撮ることができたのです。

荻原と大塚の研究が結実したのは1954年でフェニックスカメラを発表、翌55年8月には国産初のペンタプリズム付き一眼レフカメラであるミランダTを発売し一躍注目されるようになります。ちなみにカメラの名で後に社名ともなったミランダとはスペイン系の女性の名前です。正立正像を実現したミランダTの登場により、国産一眼レフカメラは一つの完成形に到達したのです。

本ブログでは新たな特集として、ミランダの一眼レフカメラに供給された交換レンズ群を何本か取り上げ紹介します。さすがに国産ペンタレフカメラのパイオニアというだけのことはあり、ミランダマウントの交換レンズ市場には数多くの光学メーカーが参入、超広角の17mmから300mmの望遠まで製品展開は実に賑やかなものとなりました。紹介するレンズは高速標準レンズのAuto MIRANDA 50mm F1.4の全モデルと50mm F1.9, 50mm F1.8, 広角レンズの21mm F3.8, 25mm F2.8, 35mm F2.8です。


参考文献・資料

[1] ミランダ研究会:http://miranda.s32.xrea.com/


ミランダ to ライカL アダプター

ミランダカメラが市場供給したミランダ to ライカL(L39)アダプターが存在します。これを用いればミランダの交換レンズ群をミラーレスカメラ各種で使用することができます。他にはRare AdaptersがeBayまたはFacebook上で出品している同等製品もあります。また、FOTODIOX製のミラーレス機用アダプターがAmazonに数種類出ています。

MIRANDA純正アダプター。ミランダカメラは自社カメラに他社レンズを取り付けるためのアダプターをいろいろと作っていました。

こちらはeBayのRare Adaptersから購入しました。レンズによっては脱着がきつい場合もありましたが、問題なく使用できます。0.2mmほどオーバーインフにつくられています。