おしらせ


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2021/06/20

LOMO OKC1-56-1 56mm F3 and OKC4-75-1 75mm F2.8 (70mm film lenses)


LOMOの映画用レンズ part 10

ワイドスクリーン用の70mmフィルムに対応した

LOMOのシネレンズ

LOMO OKC1-56-1(OKS1-56-1) 3/56 and OKC4-75-1(OKS4-75-1) 2.8/75

かつて商業映画は35mmフィルムでの撮影が標準規格でしたが、1960年代に入るとワイドスクリーンへのニーズが高まり、70mmフィルム(52.5x23mm)と呼ばれる大きく横長なフィルムによる撮影規格が普及しました。70mmフィルムを用いた史上初の上映映画は1955年に米国で上映されたフレッドジンネマン監督によるミュージカル映画の「オクラホマ!」で、更に「ウエストサイドストーリー」(1961年)、「クレオパトラ」(1963年)、「サウンドオブミュージック」(1965年)、「2001年宇宙の旅」(1968年)などの名作が続きます。ロシア(旧ソビエト連邦)では1961年にユリア・ソーンツェア監督によるドラマ映画の「戦場(Chronicle of Flaming Years)」が公開され、これが70mmフィルムによる最初の上映作品となりました。この映画は同年にカンヌ映画祭で最優秀監督賞を受賞しています。

今回紹介するOKC1-56-1 56mm F3とOKC4-75-1 75mm F2.8はロシアのLOMOが旧ソビエト連邦時代の1960年代中頃に70mmフィルム用に開発した映画用レンズで、1966年の映画機材のカタログ[2]に掲載されています。1963年のGOIのレンズカタログ[1]には未掲載ですので、この間に発売されたようです。設計構成は両レンズとも下図のようなガウスタイプの発展型(4群7枚構成)で、後玉を2枚の貼り合わせにすることで被写体の輪郭部が色付いて見える色収差を効果的に補正するとともに、無理のない口径比F3/ F2.8で画角端でも30線/mmを超える良好な解像力を維持しています。

これらは通称RUSSIAと呼ばれたスタジオ向け映画用カメラの1СШС(1エス・シャー・エス)や70CΚ(70エス・カー)、ハイスピード用の70KCK (70カー・エス・カー)、小型ハンドシネカメラの1KCШP (1カー・エス・シャー・エル)などに搭載する交換レンズとして市場供給されました。これらカメラには他にもKino RUSSAR-10 3.5/28, OKC4-40-1 3/40, OKC2-100-1 2.8/100, OKC1-125-1 2.8/125, OKC2-150-1 2.8/150, OKC1-200-1 2.8/200, OKC1-300-1 3.5/300など70mmフィルム用の多数の交換レンズ群が用意されています。

OKC1-56-1(左)とOKC4-75-1(右)の構成図:GOIレンズカタログからのトレーススケッチです。設計構成は両レンズとも4群7枚の変形ガウス型

 

70mmフィルムのフレームサイズは52.5x23mmで、35mmフィルム(ライカ判)に対し面積比1.57倍の大きさを持ちます(下図)。中判デジタルセンサー(面積比1.69倍)を搭載したGFXシリーズとの相性がよさそうです。

撮影フォーマットの比較

参考文献

[1] レンズは1970年のGOIのレンズカタログに既に登場しています。1963年のカタログには未だ登場していません。

[2] 70mm CINEMATOGRAPHY CAMERAS AND EQUIPMENT, MOSCOW (1966-1967年頃の書籍)

[3] wikipedia: 70mm film, wikipedia : List of 70mm films

 
OKC1-56-1(OKS1-56-1) 56mm F3: 解像力 中心65LPM,画角端 32LPM,  重量(カタログ値) 101g, 透過率0.76, マウントネジ径 33mm, 絞り羽枚  7枚構成, 絞り F3(T3.3)-F16, 設計構成 4群7枚(変形ガウス型)   

OKC4-75-1(OKS4-75-1) 75mm F2.8(T3.2):解像力 中心55LPM, 画角端 40LPM, 重量(カタログ値)120g, 透過率0.76, マウントネジ径 36mm, 絞り羽枚構成 16, 絞り F2.8-F16, 設計構成 4群7枚(変形ガウス型)






 

レンズの入手方法とマウント改造

両レンズとも国内での流通はまず無いと思ってください。映画用のプロフェッショナル向けのレンズです。私自身は2020年秋にeBay経由でロシアのセラーから入手しました。相場はOKC1-56-1が40000円~50000円、OKC4-75-1が40000円程度で、数は多くないですがeBayには常時出品されている様子です。両レンズともレンズヘッドの状態ですので、写真用のカメラで使用するにはアダプター経由で直進ヘリコイドに搭載します。アダプターはロシアのRafCameraがeBayにて特製品を販売していますが、なかなか高額なので、近いネジ径のステップダウンリングを据え付ければ安上りでしょう。私はeBayで購入したM36-M39変換リングをOKC4-75-1に、M33-M42変換リングをOKC1-56-1にそれぞれ用いて、レンズを直進ヘリコイドに搭載しました。OKC1-56-1はM42-M39ヘリコイド(17-31mm)に搭載してカメラ側をライカLマウント(もちろん距離計には非連動)に変換、OKC4-75-1はM42-M42ヘリコイド(21.5-49mm)に搭載してカメラ側をM42マウントに変換して用いました。



撮影テスト

両レンズともイメージサークルはGFXシリーズに搭載されている中版デジタルセンサーを余裕でカバーでき、暗角は全く出ません。画質的に驚いたのは開放で白い被写体の輪郭部が色付いて見えるパープルフリンジ(軸上色収差)が全く出ない点です。両レンズとも素晴らしい性能のレンズです。

今回はメンズポートレートですが、念願がかない以前から撮りたかったヒューさん(Hugh Seboriさん)を撮影させていただくチャンスに巡り会えました。Fujifilmのフィルムシミュレーションのエテルナ・ブリーチバイパスを使い、ヒューさんを映画用フィルムの「銀残し」の世界にお連れしました。男前ですわぁ

OKC1-56-1 56mm F3 + Fujifilm GFX100S

GFXシリーズでは35mm換算で焦点距離43mm 口径比F2.3と同等の写真が撮れます。開放からシャープネスが高くコントラストも充分、スッキリとした透明感のある画作りができます。中央はGFX100Sの1億画素を活かせる高解像な画を出してくれます。広い中判センサーを用いた場合でも写真の周辺部まで滲みのない充分な解像感が保たれています。ボケには安定感があり、グルグルボケや放射ボケが目立つことはありません。輪郭が強調される硬めのボケ味で質感のみを潰した描写のため、背景が絵画のように画かれます。スナップ向きのたいへん高性能なレンズです。

F3(開放) Fujifilm GFX100S(WB:AUTO, Film Simulation:ETERNA Bleach Bypass, Shadow Tone:-2, Color:-2 ) 被写体のモデルさんを拡大しても、かなりの解像感です

F3(開放)  Fujifilm GFX100S(WB:AUTO, Film Simulation:ETERNA Bleach Bypass, Shadow Tone:-2, Color:-2 )

F3(開放) Fujifilm GFX100S(WB:AUTO, Film Simulation:ETERNA Bleach Bypass, Shadow Tone:-2, Color:-2 )
F4 Fujifilm GFX100S(Film Simulation: Standard, WB:⛅)

F5.6 Fujifilm GFX100S(Film Simulation:Standard, WB:⛅)

F5.6 Fujifilm GFX100S(Film Simulation:Nostalgic Neg. Shadow Tone -2, COlor:-2, WB:⛅)

F3(開放) Fujifilm GFX100S(Film Simulation:Nostalgic Neg., Shadow tone:-2, Color:-2 )




 

OKC4-75-1  75mm F2.8 + Fujifilm GFX100S

GFXシリーズでは35mm換算で焦点距離58mm 口径比F2.15と同等の写真が撮れます。開放ではOKC1-56-1よりも若干柔らかい描写ですが、中心解像力は驚くほどあります。コントラストは良好で色濃度も充分です。ボケには安定感があり、背後のボケはとても綺麗。トーンはとてもなだらかで、やや柔らかい開放描写と相まってポートレート向きの美しい質感表現が可能なレンズです。

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:AUTO, Film Simulation:ETERNA Bleach Bypass, Shadow Tone:-2, Color:-2 )


F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:AUTO, Film Simulation:ETERNA Bleach Bypass, Shadow Tone:-2, Color:-2 )

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:AUTO, Film Simulation:Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:AUTO, Film Simulation:Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:AUTO, Film Simulation:Standard)

2021/05/08

LOMO OKC7-28-1 (OKS7-28-1) 28mm F2 KONVAS OCT-18 mount


LOMOのシネレンズには解像力に対する厳しい規格があり、中心50線/mm以上、画角端25線/mm以上を要求していました。28mm F2の広角レンズでこの性能に到達するには、世界最高峰の光学技術を擁したLOMOでも10年近いの歳月を要したのです。

LOMOの映画用レンズ part 9
 
厳しい画質基準を豪華な9枚構成でクリアした

LOMO渾身の一本

LOMO OKC7-28-1(OKS7-28-1) 28mm F2

1950年代は映画用の明るい広角レンズを実現するにはまだ技術的に困難な時代でした。同時代の代表的な広角シネマ用レンズにテーラー・ホブソン社のSpeed Panchro(スピードパンクロ)25mmF2がありますが、開放ではコマ収差に由来するフレアが多く、柔らかく軟調な描写でした。ロシアでも1946年前後とかなり早い時期にレニングラードのKINOOPTIKAファクトリーでPO13-1 28mm F2が試作されていましたが、描写性能が厳しかったのか、後に映画用レンズの製造を引き継いだLENKINAPファクトリーで若干数の試作品が作られたのみに止まり、後継モデルが発売されることはありませんでした。

1960年代になるとレンズのコンピュータ設計が普及するとともにレトロフォーカス型広角レンズに有効な構成が発見されるなど、映画用広角レンズの設計に進歩の兆しが見えはじめます。また、1950年代末から1960年代初頭にかけて後にロシア映画界の黄金期と呼ばれる時代が到来し、映画産業に対する開発や投資が積極的に行われるようになります。この時期はレニングラードでLENKINAPファクトリーが映画用レンズの生産に乗り出すとともに、旧来からのPOシリーズを再設計、高性能な新型レンズをOKCシリーズとして再リリースしてゆきます。更に同地域では1962年にLENKINAPを含む幾つかの工場が合併し、巨大光学メーカーのLOMOが誕生、映画用レンズも含めた国内での光学製品の開発と生産を一手に担うようになります。レニングラードは再び、映画用レンズの国内最大の供給地となるのです。

LOMO(LENKINAP)の開発したOKCシリーズには明確な性能基準があり、諸収差に対する充分な補正をおこないながらも、解像力は中心で50線/mm、画角端で25線/mm以上を要求していました。一般的なネガフィルムに備わった記録密度の目安が25線あたりでしたので、この基準はフィルム面全体で記録密度を活かしきるといういうハードルの高いものです。広角レンズでこの基準をクリアすることは、当時、世界最高峰の光学技術を擁したLOMOでも容易なことではありませんでした。1960年代に28mm F2のモデルをOKCシリーズに組み込むことは、ついに実現しなかったのです。

しかし、1970年代に入りLOMOから2本の明るい広角レンズが登場します。1本目はOKC4-28-1 28mm F2で、ガウスタイプのマスターレンズ前方に凹メニスカスを据えるレトロフォーカス型レンズでした。このレンズは中心解像力こそ50線/mmでLOMOの基準をクリアしていましたが、画角端は20線/mmと僅かに届きませんでした。しかし、それまで開発されてきたどのレンズよりも優れていたため、1970年に発売されることとなりました。もう一本は翌1971年に登場したOKC7-28-1です。このモデルはマスターレンズが典型的ではない事からもわかるように、コンピュータで一から設計されたレンズでした。中心部53線/画角端32線とOKC4-28-1に比べ、周辺側の性能が大幅に向上しているとともに、光学系の全長がOKC4-28-1の60%弱まで短縮され、レンズはたいへんコンパクトになっています。ただし、設計構成は7群9枚と、たいへんコストのかかるものとなりました。それでも発売できたのは製造コストを度外視できる共産圏だったからでしょう。LOMOは10年かけて、十分な性能を有するOKC7-28-1の完成にこぎつけたわけです。このレンズは旧ソビエト連邦が崩壊する1991年まで製造されました。

OKC7-28-1の構成図:Catalog Objective 1971(GOI)からトレーススケッチした構成図の見取り図です。設計は7群9枚のレトロフォーカス型です

OKC7-28-1の設計は上図に示すような7群9枚構成で、何からの発展形態なのか判らない、まるで現代のレンズのような複雑な構造になっています。前方の凸レンズと凹レンズでそれぞれ歪みの補正とバックフォーカスの延長を実現し、2枚で凹レンズとなっていますので、レトロフォーカスタイプの一形態であることは確かです。後群はなんだか凄いことになっていますが、ガウスタイプからの発展形態のようにも見えます。コーティングはシアン系のシングルコーティングです。

 

レンズの入手と相場価格

LOMOのシネレンズは日本で全く認知されていませんので、本レンズも入手となるとeBayなど海外のオークションを通じてロシアやウクライナのセラーから買うルートしかありません。レンズはやや希少で、eBayには多い時でも1~2本程度しか出ていません。全く出ていない時もあります。相場価格はコンディションによって変わってきますが、4~7万円程度でしょう。前モデルのOKC4-28-1と大差はありません。私は2020年7月にeBayを介してロシアのレンズセラーから購入しました。外観、ガラスともに大変綺麗なコンディションでした。

OKC(OKS)7-28-1  28mm F2: フィルター径 62mm, 単撮影距離(定格) 1m, 絞り F2(T2.3)-F16, 絞り羽 12枚, 重量(実測) 247g, OCT-18マウント




マウントアダプター

本レンズは映画用カメラのKONVAS(カンバス)に搭載する交換レンズとして市場に供給されました。マウント部はカンバスの前期型に採用されたOCT-18マウントです。デジカメでこのマウント規格のレンズを使用するにはmukカメラサービスが3Dプリンタで製造し販売ているこちらのアダプターがよさそうです。私はこのアダプターの存在を知りませんでしたので、ポーランドのセラーがeBayにて8000~9000円で販売しているOCT18-Leica Mアダプターを使用しました。私が入手したアダプターは廻り止めのキーが内蔵されていないシンプルなつくりなので、ピントリングと絞りリングが一緒に回ってしまう点が不便ですが、レンズのヘリコイドは使用せず、代わりにミラーレス機に中継するアダプターをヘリコイド付きにして、ピント合わせはアダプター側のヘリコイドでおこないました。他にも、ロシアのRafCameraがeBayで販売しているOCT18 - M58x0.75アダプターやOCT18-Canon EOS(EF)アダプターなどがあります。このアダプターの使い方については本ブログのOKC4-28-1の記事で取り上げました。

F2(開放) sony A7R2(APS-C mode) 普通に撮ると、開放でもこんなに高コントラストでとれてしまいます。恐ろしく高性能なレンズです


 

撮影テスト

ピント部は中央から周辺部まで良像域が広く、解像力もあり、写真の四隅でも画質はかなり安定しています。開放でもピント部の像に滲みはなく、スッキリと良く写ります。レンズの前玉がフィルター枠よりかなり奥まったところにあるためゴーストが出にくく、逆光でも描写は安定しています。私が入手した個体はシングルコーティングでしたが、とてもシャープでよく写るレンズでした。背後のボケは穏やかで、グルグルボケや放射ボケが目立つことはありません。四隅での光量落ちは全く目立たないレベルでした。

フツーに撮るとたいへん高性能なレンズでつまらないので、以下ではFujifilmのミラーレス機に搭載し、フィルムシミュレーションのClassic Chromeで撮影しましたので、彩度がやや低めの設定です。

F8 Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:日光)

F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:日光)



F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:日光)
F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:曇天)

F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:曇天)

F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:曇天)

F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:曇天)

2021/05/07

LOMO特集(再開のおしらせ)

レニングラード生まれの映画用レンズ

ロシアの革命家レーニンは「すべての芸術の中で、もっとも重要なものは映画である」と唱え、世界初の国立映画学校を設立しました。「レーニンの街」の意を持つレニングラード州には世界遺産の古都サンクトペテルブルクがあり、ロシア帝国時代まで遡る同国の映画産業の発祥地、芸術の都として栄えました。ここは日本でいう京都みたいなところで、とても美しい場所です。

ロシアの映画用レンズの発祥地も、やはりレニングラード州でした。同州のKINOOPTIKA社が1946年前後に発売したPOシリーズが戦後のロシア映画用レンズの源流です。ただし、POシリーズの生産拠点は間もなくモスクワに移転され、戦後につくられたPOシリーズの多くはモスクワのKMZ社(現在のゼニット)が製造したものとなりました。ロシアの映画用レンズの楽しみ方は、こうした時代背景、社会的背景を知るところから始まります。

さて、長らく放置していたLOMOの映画用レンズの特集を再開したいと思います。特集もpart 9まで来ると中だるみするんですよね。あとちょっとですね。

  • part 9    OKC7-28-1 28mm F2
  • part 10  OKC1-56-1 and OKC4-75-1
  • part 11   OKC6-75-1 75mm F2
  • part 12   OKC1-50-1 50mm F2

と取り上げてゆく予定です。

2020/01/04

シネレンズ最後の秘境LOMOのOKCシリーズ!

新年明けましておめでとうございます。
2020年もよろしくおねがいいたします。

の特集もいよいよ残すところエース級レンズの50mmと75mmのみとなりました。このクラスのシネレンズは通常は高嶺の花で、われわれ一般庶民には手の届かない価格帯のレンズですが、ロシア製ならば、まだギリギリ手の届く範囲にあります。流行るといいなぁ~。いや!流行るでしょ。

2020/01/01

LOMO OKC11-35-1(OKS11-35-1) 35mm F2 for KONVAS


  

LOMOの映画用レンズ part 8
ロモの第三世代1980's、
焦点距離35mmのシネレンズは
シャープネスとコントラストが向上
LOMO OKC11-35-1 35mm F2
LOMOは数多くの映画用レンズを世に送り出しました。中でも焦点距離35mmのモデルはバリエーションが豊富にあり、改良の余地がたくさん残っていたようです。今回取り上げるOKC11-35-1LOMO1981年に発売した焦点距離35mm11作目にあたるシネレンズで、映画用カメラのKONVAS-1シリーズ (OCT-18マウント)やKONVAS-2シリーズ (OCT-19マウント)、KINOR-35シリーズ (OCT-19マウント)に搭載する交換レンズとして市場供給されました[1]KONVASのシネレンズとしてはこれまで紹介してきたOKC1-35-1OKC8-35-1があり、前者から後者への改良では設計構成が見直され、中心解像力を落とす代わりに像面特性の改善が図られました。本モデルでは設計構成が再び見直され、中心部の画質を重視した初代OKC1-35-1に近い描写設計に戻っています。シャープネスとコントラストは大幅に向上し、歪みの補正が悪化している点を除けば現代のレンズに近い優れた描写性能です。本モデルからはマルチコーティングが採用され、カラーフィルムの時代にふさわしい鮮やかな発色が得られるようにもなっています。
レンズの設計は下図のような逆ユニライトタイプの後玉を2分割した独特な構成形態で、他に例を知りません[2]。個々のレンズエレメントが厚めにデザインされており、各面の曲率を緩めた収差を生みにくい構造になっています。像面の平坦さは前モデルのOKC8-35-1にはかないませんが、シャープネスとコントラストは先代のどのモデルよりも良好で、初代OKC1-35-1が課題としていた周辺部の光量不足も改善されています[1]。このレンズがいつまで生産されていたのか確かな情報はありませんが、市場に流通している製品の中からは1992年に製造された個体が見つかっています。

OKC11-35-1の構成図:文献[2]からのトレーススケッチ。左が被写体側で右がカメラの側。設計構成は5群6枚で逆ユニライト型からの発展型です


参考文献・資料
[1] 収差図(LOMO) RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド
[2] LOMOのテクニカルシート(1981年)
  
入手の経緯
eBayでの現在の取引相場は350ドル程度かそれ以上です。数年前までは300ドルを切る値段でも買えましたがOKCシリーズは35mm/50mm/75mmの各モデルが近年ジワジワと値上がり傾向にあります。
今回紹介する羽根つきのモデル(OCT-18マウント)は少し前の201712月にウクライナのレンズセラーがeBay329ドル(フリーシッピング)で出品していた個体です。値切り交渉を受け付けていたので300ドルで交渉したところ自分のものとなりました。オークションの記載は「MINT CONDITION(美品)。絞り羽に油染みはない。絞りリングとフォーカスリングはスムーズでソフトに動く。ガラスはクリーンで、カビやキズはない。レンズはコリメーターでチェックしており問題は見当たらない。レンズフードとキャップが付いている」とのこと。綺麗な個体が届きました。

重量(実測):239g(フード無しでは222g), 絞り羽:10枚構成, 最短撮影距離:1m, 絞り:F2(T2.3)-F16, 設計構成:5群6枚, OCT-18マウント

  
レンズブロックのモデルは20188月にロシアのイーベイセラーから253ドル+送料の即決価格で落札しました。オークションの記載は「ガラスはクリアでキズ、クモリ、カビ、バルサム剥離、歪み、拭き傷などはなく、コーティングも問題ない。絞りの動きは適正でフォーカスリングや絞りリングはスムーズに動く。レンズキャップが付属する」とのこと。こちらも綺麗なレンズが届きました。
 
重量(実測): 110g, 絞り羽: 10枚構成, 設計構成: 5群6枚, マウント: M36x0.75

 

デジタル一眼カメラへの搭載例
回のブログエントリーではOCT-18マウントのレンズをフジフィルムのFXマウントに変換する事例を紹介します。下の写真をご覧ください。必要な部品はすべて市販品です。レンズによっては後玉の出っ張りに配慮しヘリコイドをM46-M42に変えなくてはなりませんが(←前ブログエントリー参照)、OKC11-35-1は出っ張りが少なくM42-M39ヘリコイドでも間口への干渉がありませんのて、フジフィルムのデジタルカメラに搭載できます。このままカメラの側のスリムアダプターを交換するだけでSONY Eマウントにも変更できます。


続いて、レンズヘッドの個体ですが、鏡胴にM39M36ステップアップリングをはめてM39ネジに変換すれば、ここから先は自由度が多くあります。M42-M39変換リングを用いてM42-M42ヘリコイド(12-18mm)にのせM42マウントにもできますし、M42-M39ヘリコイド(25-55mm)にのせてライカLマウントにもできます。部品は全てイーベイで買い揃えることができます。

M42 to M42 Helicoid(12-18mm)を用いてM42マウントに変換する場合のレシピ。一眼レフカメラで使用する場合、フルサイズ機ではミラー干渉してしまいますので、APS-C機で用いるのが良いでしょう。最短撮影距離は23cmくらいですので接写も十分にできます
 
撮影テスト
現代のレンズに近い高いコントラストと鮮やかな発色を持ち味とするレンズです。開放からピント部の像はたいへんシャープで、フレア(コマフレア)は等倍拡大時にようやく検知できるレベルです。少し絞ればカリカリの描写で、細部までスッキリとしたクリア―な描写になります。発色はたいへん鮮やかですが、夕方や日陰など光量の少ない条件では青みが増しカラーバランスがクールトーンにコケる事が多くあります。LOMOのカタログスペックを信じるなら解像力は先代の2つのモデルを大きく超えており、実写でもピント部中央は十分に緻密な像ですが、等倍まで拡大するとややベタっとした解像感になっており、正直言うと先代のモデルを超える程の解像力とは思えません。どちらかと言えば解像力よりもコントラストを重視したレンズ設計なのでしょう。逆光で光源を入れるとシャワーのようなハレーションが虹を伴いながら盛大に発生します。この手の虹を望んでいる方には願ってもない良いレンズだと思います。歪みは樽型でやや大きめに生じる点はテクニカルデータどおりです[2]。ボケは適度に柔らかく概ね安定しており、グルグルボケや放射ボケ、二線ボケなどの癖はありませんが、口径食が顕著で写真の四隅で玉ボケが半月状に欠けて見えます。
今回もイメージサークルの違いを期待してOCT-18マウントのモデルとレンズヘッドのモデルの両方を手に入れました。残念ながら両者のイメージサークルに違いはなく、レンズヘッドのモデルをフルサイズ機に搭載して使う場合ではこちらに示すように四隅に暗角が生じ、フルサイズセンサーをカバーすることができませんでした。本レンズはAPSC機またはフルサイズ機のクロップモードで用いるのがベストな使い方です。


CAMERA:FUJIFILM X-T20
LENS: OKC8-35-1 (OCT-18マウントモデル)

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB) スッキリとヌケのよいクリアな画質のレンズです

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB) 逆光撮影になるとシャワー状のハレーションが派手に出ます

F2.8 Fujifilm X-T20(AWB)
F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)
F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)

F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)

F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)


F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光) 歪みを除けばこれと言った欠点はなく、性能的には現代のレンズと大差ありません

F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光)




F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光) 逆光でもコントラストは良好です

2019/12/15

LOMO OKC8-35-1 (OKS8-35-1) 35mm F2 for KONVAS




LOMOの映画用レンズ part 7
ロモの第二世代1970's、
焦点距離35mmのシネレンズは
像面特性の改善と歪みの補正に力を入れる
LOMO OKC8-35-1 35mm F2
OKC8-35-135mmムービーカメラの最高峰、ロシア版アリフレックスのKONVASシリーズとロシア版ミッチェルのKSKシリーズに搭載する交換レンズとして、LOMO1971年に発売したOKC1-35-1の後継モデルです[1]OKC1-35-1の設計を見直し、中心部の解像度を維持したまま四隅の画質を大幅に向上させることで風景にも対応できるフラットな描写性能を実現しています[2]。このモデルではレンズのイメージサークルが前モデルよりも若干広くなり、光学ブロックの個体をフルサイズ機で用いる場合には暗角(ダークコーナー)の発生は僅かです。撮影フォーマットのアスペクト比を16:9に変えれば暗角は気にならないレベルに収まり、明るい広角レンズとして使う事ができます。この場合、本来は写真に写らない周辺部の領域が写るため、立体感に富んだ描写表現も可能です。
レンズの設計は下図のようなガウスタイプの後玉を2分割した7枚玉で、一段明るいF1.4のレンズに多く採用された構成です。明るさをF2に抑えることでワンランク上の描写性能を実現したのでしょう。本来はF2クラスのレンズに採用されることのない豪華な構成ですから、よく写るのは当然です、
このレンズがいつまで製造されていたのか確かな情報がありません。市場に流通している個体の大半は1970年代の製造ですが、1991年に製造された個体の存在を確認しています。
 
OKC8-35-1 35mm F2の構成図(文献[1]からのトレーススケッチ):左が被写体側で右がカメラの側。構成は5群7枚のLeitz-Xenon型
レンズの収差チャートを見ると輪耐部の球面収差がやや大きい分だけ中心部の解像度は前モデルよりも控えめですが、中心から四隅に向かって解像力の低下が緩やかで、広い画角領域にわたり解像力は逆に高くなっています[2]。像面湾曲と歪み、周辺部の光量落ちについても大幅に改善しています。LENKINAP PO4-1から続いてきたLOMOの焦点距離35mmの系譜は、このモデルの登場で一つの到達点を迎えたと言ってよいと思います。

参考文献・資料
[1]GOIレンズカタログ (1971年)
[2]RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド

レンズの入手先
20181月にウクライナのイーベイセラーからMINT CONDITION(美品)の個体を、それぞれ300ドル(光学ブロック)と275ドル(OCT-18マウント)で購入しました。LOMOOKCシリーズは日本での認知度がまだ低いため、国内でのレンズの流通は多くありません。レンズを入手するにはロシアやウクライナのeBayセラーから手に入れる事になります。eBayでの取引相場は状態の良い個体が300350ドルあたりです。流通しているモデルの大半は羽根の付いたOCT-18マウントのモデルですが、光学ブロックのモデルも僅かに流通しています。レンズの後玉が飛び出しているためガラスにキズの入っている個体が多くあります。状態の良い個体を探すのであれば後玉のコンディションに細心の注意を払う必要があります。
 
KONVAS OCT-18マウントのモデル: 重量(実測)165g, 絞り羽の枚数 10枚, 絞り値 F2(T2.2)-F16, 製造年 1974年, 最短撮影距離 1m
光学ブロック(M30ネジ), 重量(実測)43.8g, 絞り羽の枚数 10枚, 絞り値 F2(T2.3)-F16, 製造年 1980年製
   
SONY Eマウントへの変換方法
OCT-18マウントのレンズに対しては現在のところ使いやすい良いアダプターが存在しません。レラーレス機で用いるにはレンズを改造する必要があります。ここではロシアのRAFCAMERAから発売されているOCT18-M58 x0.75アダプターと46-58mmステップアップリングを使い、レンズをSONY Eマウントに変換する方法の一例をご紹介します。下の写真をご覧ください。RAFCAMERAのアダプターをステップアップリングを用いてM46-M42ヘリコイド(17-31mm)に装着します。ヘリコイドのカメラ側末端部はM42-SONY Eスリムアダプターを用いてソニーEマウントに変換してあります。通常よく用いられるM42-M42ヘリコイドではなく、一回り太いM46-M42ヘリコイドを採用したところが工夫点です。これはフォーカスを無限側に取る際に鏡胴が内部でヘリコイドの入り口に干渉するのを防ぐためです。ピント合わせは外部ヘリコイドの側でおこない、レンズ本体のヘリコイドはマクロ撮影時など必要な時以外には使用しません。
 
OCT-18マウントのレンズにRAFCAMERAのアダプターを装着しヘリコイドに搭載、末端をSONY Eに変換しています。ヘリコイドのレンズ側にあるM46ネジのネジピッチはフィルターネジと同じ0.75mmのようです。使用している部品はすべて市販品です

続いてレンズブロックの状態で手に入れたモデルをSONY Eマウントに変換する例です。このモデルはマウント部がM30ネジ(ネジピッチ0.75mm)になっています[2]GOIのカタログではM31(ネジピッチ0.5mm)と記載されていますので2種類の仕様があるのかもしれません。ネジピッチがフィルターネジと同じ0.75mmでしたのでステップダウンリング37-30mmが装着できます。下の写真のようにステップダウンリングを逆さ付けしオスネジ側にM37-M42変換リングを取り付ければ、レンズブロックをM42ヘリコイド(17-31mm)に搭載できるようになります。ヘリコイドのカメラ側末端部は先ほどと同様にM42SONY Eスリムアダプターを用いてソニーEマウントに変換してあります。

使用している部品は全て市販品で、改造と呼べるほど高度なものではありませんが、ステップダウンリングをレンズヘッドに逆さ付けするところが工夫点です






 
撮影テスト
レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットに準拠しており、デジタルカメラで用いる場合にはAPS-Cセンサーを搭載したミラーレス機を選択するのが最適です。OCT-18マウントのモデルの場合、フルサイズセンサーでは四隅に暗角(ダークコーナー)が出ますが、光学ブロックのモデルの方は暗角が少なく、フルサイズ機でも充分に使用できます。
開放からシャープネスとコントラストは高く、発色も濃厚です。滲みやフレアは全く見られず、スッキリとした透明感のあるヌケの良い描写です。絞るとコントラストは更に高くなり、撮影条件によってはカリカリの描写になります。像面は前モデルのOKC1-35-1に比べ格段に平坦になり、非点収差も小さく四隅までしっかりと写り、歪みもよく補正されています。ボケは安定しておりグルグルボケや放射ボケは見られませんが、ポートレート域で背後のボケがやや硬くなることがあります。欠点の少ないたいへん高性能なレンズです。
ピント部の広い範囲にわたり画質が向上したため立体感は控えめですが、フルサイズ機で画角を拡大させると、再び立体感に富んだ画作りができるようになります。
 

CAMERA:SONY A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9)
LENS: OKC8-35-1 (光学ブロック)
Location: Taman Ayun Temple, Indonesia
 
F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)光量落ちが凄くいい感じです

F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)コントラストの良いレンズです

F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)

F2.8 sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)





 
Fujifilmのカメラに搭載するには、レンズをいったんライカMマウントに改造するのが有効な手です。この場合にはライカM-FXヘリコイド付アダプターに搭載し、ピント合わせはアダプター側の外部ヘリコイドで行います。本体のヘリコイドはスピゴットマウント仕様のため使いにくいからです。マクロ撮影の時など繰り出し量が足らない場合のみレンズ本体のヘリコイドに頼ります。
 
CAMERA:FUJIFILM X-T20
LENS: OKC8-35-1 (OCT-18マウントモデル)

F2(開放)  Fujifilm X-T20(AWB)

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)

 F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)


F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)



F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)


 F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)


OLD LENS LIFE 2019-2020にも掲載されているモバイル情報ブロガーの伊藤浩一さんがOKC8-35-1を所持されていますので、お写真を提供していただきました。ありがとうございます。なんとiPhoneまでも母機にしてしまうという変化自在な使い方を実践なさっています。下の写真をクリックするとWEBアルバムにジャンプできます。
  
Photographer: 伊藤浩一(Koichi Ito)
Camera: Sony A7II / iPhone 11 / Lumix GX7 / Nikon J5
  
LOMOの映画用レンズってカッコいいので、撮っててワクワクしますよね。ヘラジカのような大角も素敵ですが、鏡胴の色落ち具合が1本1本異なるのは素晴らしいと思います。次回のOKC11-35-1もお楽しみに!