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2019/12/06

LENKINAP / LOMO OKC1-35-1 35mm F2 KONVAS and 1KSK/2KSK


LOMOの映画用レンズ part 6
ロモの第一世代1960's
焦点距離35mmのシネレンズは
豪華な7枚構成で中心部の画質を重視
LENKINAP/LOMO OKC(OKS)1-35-1 35mm F2
OKC1-35-1PO56の後継モデルとして1950年代末にレニングラードのLENKINAP工場(LOMOの前身組織の一つ)から発売されたスーパー35フォーマット(APS-C相当)の映画用レンズです。ロシアの映画用レンズにはオーソドックスなガウスタイプで設計されたPO4-1 / Helios-33 35mm F2の系譜もありますが、PO56 / OKC1-35-1はこれらの上位のモデルに位置づけられ、最高級35mmムービーカメラ(主にロシア版アリフレックスのKONVASやロシア版ミッチェルのKSKシリーズなど)に搭載する交換レンズとして市場供給されました。中心解像力が高く開放では立体感に富んだ画作りができるのがこのレンズの特徴で、デジタルカメラに付けて通常の写真撮影に用いる場合はポートレート撮影やスナップ撮影に用いるのが面白そうです。設計は同クラスのシネレンズとしては異例の7枚構成で、Hugo Meyer社のP.ルドルフが1931年に設計したミニチュア・プラズマートの後群に正レンズを1枚追加した発展型です(下図)。これと同じ設計構成を採用したレンズにはライツのSummilux 35mmがありますが、口径比は一段明るいF1.4でした。本レンズでは明るさをF2に抑えることで、ワンランク上の描写性能を実現したと考えることができます。この種の構成で中口径レンズを設計する場合、欠点のない極めて優秀なレンズがつくれることが知られています[1]
レンズは遅くとも1959年には登場しており、LENKINAPLOMO(当初はLOOMP)の傘下に入る1962年以降も製造は続いています。レンズの製造がいつまで続いたのか定かではありませんが、1970年のGOIのカタログには掲載されていますし1970年代に作られた製品個体も確認しています。

OKC1-35-1(左)と前身モデルのPO56(右)の構成図。PO56の方が曲率がきつくガラスには厚みがあります。OKC1-35-1は硝材の屈折力に余裕があるため曲率が緩んでおり、収差が生じにくい構造になっています。中心解像力はPO56からの再設計で15%向上しており、コントラストも向上しています[2]



OKC1-35-1にはシネマ用ムービーカメラのKONVASに供給されたOCT-18マウントのモデルと、1KSK/2KSKなどに供給されたKSKマウント(ロシア版のBNCマウント)のモデルの2種があります。OCT-18マウントのモデルはシネレンズ特有のスピゴットマウントと呼ばれる方式で、マウント部にはヘリコイドの回転による前後の繰り出しを制御する溝がついています。デジタルカメラで使用するには、ロシアのRafCameraやポーランドのeBayセラーなどが出しているアダプターを利用するのが一般的です。KSKマウントのモデルは鏡胴が巨大ですが、光学ブロックだけを取り外せる構造になっており光学ブロック自体はとてもコンパクトなのでヘリコイドにのせて使用することにしました。マウント部はM30ネジ(ねじピッチ0.5mm)eBayで購入できるM30-M42アダプターリング(ねじピッチ0.5mm)がピタリと付きます。これを使いM42ヘリコイドに搭載し、末端部をSONY EまたはFUJI Xマウントに変換して用いることができます。いったんLeica Lマウントに変換し他のミラーレス機に搭載することも可能で、ポルトガルのcustomphototools.comが出している30mmx0.5 -M39アダプターと一般的なライカLM変換アダプターを併用し、光学ブロックのマウント部をライカMマウントにしてから、ライカM-ミラーレス機アダプター(ヘリコイド付)に搭載すればよいです。フランジバックを微調整し、最後に30mmx0.5-M39アダプターをライカLM変換アダプターに接着固定すれば完成です。
 
光学ブロックのマウント部ネジ径はM30(ねじピッチ0.5mm)ですが、eBayで入手したアダプターリングがピタリと装着できM42マウントに変換できますので、M42ヘリコイドに搭載することができます
参考文献
[1] レンズ設計のすべてー光学設計の真髄を探るー 辻定彦著 電波新聞社2006年
[2] Catalog Objective 1970(1970年のGOIのカタログ)
[3] RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド
 
入手の経緯
羽根のついたOCT-18マウントのモデルは201712月にeBayを経由してウクライナのレンズ専門業者から220ドル(190ドル+送料)の即決価格で入手しました。オークションの記載は「MINT Condition(美品)。ガラスはカビ、クモリ、キズ、バルサム剥離等のない、とても良い状態。鏡胴の状態は写真で確認してほしい」とのこと。状態の良い個体が入手てきました。eBayには常時何本か出ており、価格は程度の良いものが250350ドル程度となっています。光学ブロック2018年6月にeBayを経由してレンズを専門に扱うロシアの出品者から200ドル+送料の即決価格で入手しました。オークションの記載は「OKC1-35-1の光学ブロックでガラスの状態は大変。傷はない。若干のコバ落ちが見られるがカビ、クモリ等の大きな問題はない。適切なアダプターを用いてデジタルカメラに接続できる」とのことです。後玉側にはメタルキャップが付いていました。このレンズが光学ブロックの状態で市場に出る事は滅多にありませんが、本来はKSKマウントの大きな鏡胴に収められていることを後で知りました。届いたレンズはコバ落ちのみでガラスの状態はたいへん綺麗でした。ebayでの相場は状態の良い個体が、やはり250ドルから350ドルあたりです。後玉が飛び出しておりキズの入っている個体が多いため、購入時は後玉のコンディションに気を付ける必要があります。後玉がキャップで保護されているものを入手する方が安全でしょう。
OCT-18マウントのモデル:重量(実測)180g, 最短撮影距離(規格) 1m, 絞り羽 10枚構成, 絞り値 F2-F16, 推奨撮影フォーマット 35mm映画フォーマット(APS-C相当), 設計 6群7枚 


KSKマウントのモデルから取り出した光学ブロック:重量(実測)63g, フランジバック 33.9mm, fマウント部はM30スクリュー(ねじピッチ0.5mm)。その他の仕様はOCT-18モデルと同じ

撮影テスト
レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットに準拠しており、デジタルカメラで用いる場合にはAPS-Cセンサーを搭載したカメラを選択するのが最適です。ちなみに、フルサイズ機では両モデルとも四隅に丸いケラレがハッキリと生じ無理があります。時代的にはシングルコーティングですが、滲みやフレアは全く見られず、スッキリとヌケのよい描写で発色も良好、シャープネスやコントラストは開放から高いレベルに達しています。また、絞っても中間階調は良く出ておりトーンを丁寧に拾ってくれます。開放でも中心部は解像力が高く緻密な像を描いてくれますが、像面が平坦ではないため四隅ではピントが外れます。その分、立体感に富んだ画作りに長けており、無理に像面を平坦にしなかったのて非点収差(像面分離)は小さくボケは安定しています。一段絞れば四隅に向かって良像域は拡がり、風景などでも充分に使えます。ボケはポートレート域でややざわつきますが、強いクセはありません。カタログのデータシートでは光量落ちが大きめに出ていました[3]。ただし、使ってみた感触では全く気になりません。歪みは少し樽型です。
  

CAMERA:Fujifilm X-T20
LENS: OKC1-35-1 (KSKマウントモデル)

F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:曇) 開放からスッキリとヌケが良く、コントラストも良好です
F4  Fujifilm X-T20(WB:曇) この通り解像力は高く、緻密な像が得られます

F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2) 逆光では少しゴーストがでる









F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2 ISO1600)
F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2 ISO1600)

 


CAMERA:SONY A7R2(APS-C MODE)
LENS: OKC1-35-1 (OCT-18マウントモデル)
 
F2.8, sony A7R2(WB:曇天, APS-C mode)  歪みは樽型。これも階調がとてもいい感じに出ている

F2.8, sony A7R2(WB:曇天, APS-C mode)  中心部の解像力はかなりいい。中間階調の良く出るレンズだ
F2(開放)  sony A7R2(WB: 電球/PSカラー自動補正, APS-C mode)  開放でのスッキリとしていて抜けがよく、よく写るレンズだ

F2(開放), sony A7R2(WB:Auto, APS-C mode) 僅かにグルグルボケがでました。出てもこんなもんでしょう。広角シネマ用レンズは開放でフレアの多い製品が多いのですが、本品にはフレアやにじみがあまりでないようです
F2(開放)  sony A7R2(WB: 電球/PSカラー自動補正, APS-C mode)  
F2.8(sony A7R2, WB:曇り)













  
 
Photographer:  Zhi Mei Li
Camera: Sony A7II
知人のZhi Mei Liさんにレンズを使っていただき、昭和記念公園で半日撮影をしていただきました。Liさんは私がお譲りした映画用のJupiter-9を使い、最近いろいろなコンテストで賞を獲得しているポートレート写真家です。写真作品は現像時にカラーバランスをいじっているそうで、発色はこってり目になっています。下のプレビュー写真をクリックするとリンク先のアルバムページにジャンプできます。
 


   
Photographer:  どあ*
Camera: OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ
続いてレンズをお譲りした知人のどあ* さんにもお写真を寄稿していただきました。どあ* さん曰くOKC1-35-1は「横浜が似合うレンズ」だそうです。多重露光のものが何枚か入っています。あと、ホワイトバランスをいじっているそうです。下のプレビュー写真をクリックするとリンク先のアルバムページにジャンプできます。
 

2019/11/28

LOMO/LENKINAP OKC/OKS 35mmF2 cine-lens family: OKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-1

KONVAS(OCT-18マウント)用に供給された羽根つきの製品:左からOKC11-35-1, OKC8-35-1, OKC1-35-1

レンズヘッドで供給された製品:OKC8-35-1(左), OKC1-35-1(手前), OKC11-35-1(右奥)
 
LOMOの映画用レンズ part 6-8 (プロローグ)
LOMOが改良に最も力を入れた
焦点距離35mmの主力レンズ群
LOMO/LENKINAP OKC(OKS) 35mm F2 family: 
OKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-1
今回からLOMOが市場供給した焦点距離35mmの製品群を取り上げます。ポピュラーなものとしてはOKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-13種があり、それぞれ設計構成や描写の味付けが異なります。初代のOKC1-35-1(LENKINAP時代の1959年頃に登場)は中心部に偏重した描写設定で立体感に富み、ポートレート向きであるのに対し、2代目のOKC8-35-1(1971年に登場)は中心部の性能をやや抑える代わりに像面特性と歪みを大幅に改善、風景にも対応できるフラットな描写性能を実現しています。3代目のOKC11-35-1(1980年代初頭に登場)は構成枚数を6枚に落とし製造コストと空気境界面数を同時に削減するとともにコーティングをマルチコート化、コントラストとシャープネスを合理的に向上させ、発色は鮮やかになっています。中心部を重視した初代OKC1-35-1に近い設定で解像力を更に向上させています。それぞれ鏡胴に羽根のついた製品(上段写真)とレンズヘッドとして供給された製品(下段写真)が市場に流通しています。せっかくなので全部入手し各モデルの違いを比べてみたいと思います。前者の羽根つきの方がシネレンズっぽさが出ており独特な外観で格好良いのですが、後者の方がコンパクトなうえケラれが少ない分だけイメージサークルは大きく、中にはフルサイズ機でも使える製品があります。







2019/11/19

LOMO/LENKINAP OKC1-16-1(OKS1-16-1) 16mm F3


技術の黎明期や発展期には足りない部分を力づくで成立させてしまうような、規格外の製品が登場する事があります。多くの場合、そういう類の製品は採算性が悪く市場経済には受け入れられませんので、メーカーに開発できる技術力があっても試作止まりで日の目を見ることがありません。あるとすれば製造コストを度外視できる国・・・そう共産圏の製品です。

LOMOの映画用レンズ part 5 
フロント径134mm、リアM29のクレイジーガイ!
サイズも写りも規格外のモンスターレンズ
LOMO/LENKINAP OKC(OKS)1-16-1  16mm F3
前玉に直径134mmの巨大なレンズユニットを据え付けたモンスター級シネレンズOKC1-16-1は、1960年代初頭にソビエト連邦(現ロシア)レングラードのLENKINAP工場(LOMOの前身団体の一つ)で開発されました。当時の西側諸国には焦点距離が18mmよりも短いシネレンズがありませんでしたので、これは画期的なことでした。焦点距離を更に短縮させる場合、当時の光学技術ではレンズが大型化してしまい、アリフレックスのターレット式マウントに同乗させると他のレンズの視界を遮ってしまいます。有名なSpeed Panchro(スピードパンクロ)18mm F1.7でさえ既にかなりの大型レンズでしたが、パンクロシリーズに焦点距離16mmのモデルはありませんでした。おそらくこのあたりが限界だったのでしょう。今回取り上げるOKC1-16-1もデカくて重いうえ、コストパフォーマンスは劣悪ですが、写りは驚くほど秀逸なうえ、何よりも焦点距離を16mmまで短縮させ未踏の領域に到達した先駆的なシネレンズでした。
レンズの設計は下図に示すような豪華な6群9枚構成で、前群に配置した屈折力の大きな2つの凹レンズで入射光束をいったん発散光束にかえバックフォーカスを延長させるとともに、正の屈折力を持つ後群で集光させながら収差の補正を同時に行うレトロフォーカス型レンズの典型です。マスターレンズが何であるのか、後群側をよく見ても複雑でよくわかりませんので、コンピュータで設計されていたのかもしれません。レニングラードには光学設計で有名なITMO大学があり、1958年からリレー式コンピュータのLIMTO-1を運用しています[1]。同大学とLOMOとは協力関係にありましたので、あり得ない話ではありません。
  
OKC1-16-1 16mm F3(T3.5)の構成図(文献[2]からのトレーススケッチ):左が被写体側で右がカメラ側。初期のレトロフォーカス型レンズは前玉の大きな凹レンズと前・後群間の広い空気間隔を利用してバックフォーカスを稼ぐ仕組みでしたので光学系は巨大でした
 
レンズが発売された1960年当時、レトロフォーカス型レンズの設計技術は急激な進歩の中にいました。西側諸国でもAngenieuxがすぐ後の1960年代前半に軽量でコンパクトなType R62 14.5mm F3.5を発売しています。デカいことがこのレンズの最大の弱点であったのは確かで、レンズを映画用カメラのKONVASにマウントする場合はカメラに3つのレンズを同時にマウントすることができず他の2つは取り外さなくてはなりませんでした。ただし、描写性能はOKC1-16-1の方が格段に現代的で先を行っていました。OKC1-16-11962年に少量が製造されたのみで、直ぐにコンパクトで軽量な後継製品のOKC2-16-1へとモデルチェンジしています。OKC2-16-1は前玉径が75mmで重量は350gと携帯性が大幅に向上し、KONVASのターレット式マウントにも問題なく搭載できました。
描写性能を維持したまま小型化することは可能だったのでしょうか?。小さく設計することと引き換えに失われたものが何かあるとするならば、それは何だったのでしょうか?。まだまだわからない事だらけです。
 

重量(実測)1.51kg, イメージサークル: スーパー35シネマフォーマット(APS-C相当), 対応マウント: KONVAS OCT-18(OST-18)とKONVAS KINOR-35(M29 thread)の2種, 設計構成: 6群9枚レトロフォーカス型, マウント: M29ネジマウント,  絞り: F3(T3.5)-F16, 解像力(GOI規格): 中心60LPM, 周辺25LPM, 絞り羽: 9枚構成, コーティング:単層Pコーティング
入手の経緯
ここまで広角のシネレンズともなると、常用ではなく室内など狭い空間でのシーンや、パースペクティブを強調したいシーンに限定して使われたに違いありません。市場に流通している個体数が極僅かなのは、このような事情を反映しており、探すとなるとなかなか見つけるのは難しい希少レンズです。
レンズは2018年8月にロシアのシネマフォトグラファーがeBayに出品していたものを450ドル(送料込み)の即決価格で購入しました。オークション記載は「レンズのコンディションは5段階評価の5。ガラスにカビ、クモリ、キズ、バルサム剥離などはない。鏡胴は腐食やびびなど見られずとても良い状態。各部のリングはスムーズに回り、全ては適正に動く。絞り羽もドライかつスムーズに開閉する」とのこと。提示写真には若干のコバ落ちがみられたものの全体的な状態は大変良さそう。レンズには純正のフロントキャップとM29リアキャップが付いていました。落札から2週間、手元には記載どうり状態の良いレンズが届きました。
届いたレンズを手に取り、ここまでデカいとは思っていませんでしたので、驚きと共に開いた口がふさがりませんでした。初期のレトロフォーカス型レンズはどれも大きくインパクトのある前玉が特徴ですが、インパクトでこのレンズの右に出る製品はないと思います。
 
参考文献
[1] Outstanding Scientific Achievements of the ITMO Scientists, ITMO University
[2] GOI lens catalog 1970
 
撮影テスト
レトロフォーカス型レンズの長所は像面が平らなことと四隅でも光量落ちが少ないことで、これらはレンジファインダー機用に設計された旧来からの広角レンズに対する大きなアドバンテージです。一方で初期のレトロフォーカス型レンズはコマ収差の補正と樽状の歪みを抑えることが課題でした。優秀なレトロフォーカス型レンズはこれらが十分に補正されています。
本レンズは開放でもコマ収差は全くみられず、ピント部はシャープで歪みも極僅か。解像力(GOI規格のカタログ値)は中心60線、周辺25線とかなり高く、シネマ用の標準レンズと比べてもなんら遜色のないレベルです[2]。この時代の製品としては描写性能の高い非常に優秀なレンズです。レトロフォーカス型レンズらしく光量落ちは少ないうえ、四隅の色滲み(倍率色収差)は全く目立たず、像面も平らなので、四隅にメインの被写体を置いても画質的に不安になることはありません。逆光ではゴーストが出ますがハレーションにはなりにくく、ド逆光でも少し絞れば耐えられます。階調は軟らかくトーンの変化はなだらかで、深く絞ってもカリカリになることはありません。風景の中の濃淡をダイナミックに捉えるレンズだと思います。

レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットですので、APS-C機で用いるのが最も相性のよい組み合わせです。今回はSONY A7R2に搭載しAPS-Cモードに設定変更して使用しました。
F5.6  sony A7R2(APS-C mode, WB:日光) さっそくド逆光で太陽を入れましたが、フツーに撮れます
F5.6  sony A7R2(APS-C mode, WB:日光) 
F8 sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)


F8 sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)

F3(開放)sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)

F4  sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)

F4  sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)

2019/09/12

LOMO HYDRORUSSAR-8 21.6mm F3.5
















水中撮影用カメラと言えば1963年に登場した日本光学のNikonos(ニコノス)が有名ですが、ロシア(旧ソビエト連邦)ではその10年前にカメラとレンズを防水・耐圧プロテクター(ハウジング)に入れて使用する技術が確立されており、水中撮影用レンズのHydrorussar(ハイドロルサール)シリーズが開発されました。Hydrorussarには1番から23番まで23種類ものモデルが設計され、その一部がLOMOにより製品化されています[0]Hydrorussar 8は同シリーズの中でも市場流通量の多い、最もポピュラーなモデルです。

LOMO特集 Part 4 
深海のドラマに光をあてる
ロモの水中撮影用レンズ

LOMO HYDRORUSSAR-8  21.6mm F3.5

Hydrorussar-8(ハイドロルサール8)は1950年代初頭に旧ソビエト連邦(現ロシア)のレニングラード州サンクトペテルブルグにあるLITMO(レニングラード機械光学研究所)で設計され、同州のLOMO(レニングラード光学器械合同)で製造された水中撮影用レンズです。ダイバーがカメラと共に耐圧防水ケース(ハウジング)に入れて用いたり、潜水艦に搭載され動画撮影に使用されました。焦点距離は21.6mmですが、水中で使用する際には4/3倍の28.8mm換算になります。レンズを設計したのは広角レンズの名玉Russar(ルサール)の開発者として知られるM.Rusinov(M.ルシノフ)博士[1909-2004]です[3]
Rusinov博士は戦前に光学デザイナーとしてLOMOKMZ393番プラント、航空測地学研究所に勤務し、戦後はITMO大学の研究機関で様々な種類のレンズを開発した人物です。ITMO大学では1958年にロシア初の大型コンピュータLITMO-1の運用が始まり、レンズの自動設計も行われるなど先駆的な研究が行われていました。Rusinov博士の設計した代表的なレンズには超広角のRussar MR-2(1956年完成) 20mmをはじめ、映画用のKinorussar、水中撮影用のHydrorussar、特殊ミラーレンズのRefleksrussar、核物理学用の写真計測システム、そして双眼鏡のBinorussarなどがあります[1,3]。ちなみに、今回紹介するレンズ名のHYDRO(ハイドロ)はギリシャ文字由来の「水」を表す接頭語です。
博士は作曲家でもあり、ピアノの達人でもありました。父親が高校の数学教師、母親がピアニストでしたので、両親の才能を余すところなく受け継いでいたのでしょう。真偽まではわかりませんが、彼のレンズ設計には作曲のノウハウがいかされているそうです[3]Rusinov博士には深い海の音が聞こえたのかもしれませんね。

参考文献・資料
[0] Underwater Photographic Lenses HydrolensPhotohistory.ru, G.Abramov
[1] Wikipedia: Mikhail Rusinov
[2] Outstanding Scientific Achievements of the ITMO Scientists, ITMO University
[3] Russar+(歴史), Lomography
 
入手の経緯
本品はロシアのレンズ専門業者が2018年秋にeBayに出品していたもので、360ドルの即決価格で購入しました。オークションの記載は「光学系はMINT(美品)。カビ・クモリ・バルサム剥離・傷などはみられず、コーティングの状態も良い。レンズヘッドのネジは32mmのスクリューマウント。純正の真鍮キャップが付属している」とのこと。めちゃくちゃ格好いいので、反射的に即決購入のボタンを押してしまいました。ガラスは記載どうりに拭き傷ひとつなく、ホコリもないクリーンな光学系でした。思っていた以上にバックフォーカスが長かったので、ヘリコイドに搭載しM42マウントレンズとして使用できるようにしました。後ろ玉が出ていないので一眼レフカメラでもミラー干渉なく使用できます。

重量(実測)774g, 絞り羽 8枚, フィルター 52mm,  マウントネジ 32mm(0.75ピッチ), 定格撮影フォーマット 35mmフルサイズ, 焦点距離 21.6mm(水中撮影時は換算28.8mm), 口径比 F3.5, 対角線包括画角 2β=70°









HYDRO RUSSAR-8の構成図:左が被写体側で右がカメラの側。光学系は4群6枚のレトロフォーカス型。耐圧ガラスの向こうは水中。水中用プロテクター(ハウジング)に格納して用いられた



撮影画テスト
このレンズが真価を発揮できるのは水族館などの耐圧ガラス越しに水中を撮影する時です。大気中での通常撮影の際は樽状の歪みと四隅で被写体の輪郭部が色付く現象(色収差)が目立ちます。ただし、中央は開放から十分にシャープで発色も鮮やかですので、全く使い物にならない描写ではありません。水中撮影時なら歪みはだいぶ収まり、色収差も気にならないレベルまで改善します。まずは水中撮影、続いて街中のスナップ撮影の写真をお見せします。
 
F5.6 水上部分(水槽の枠)は樽状に歪んでいるのに対し、水中部分のポールは少し糸巻き状に歪んでいます。水中撮影用レンズの補正の秘密を垣間見た気がします
F5.6 sony A7R2(AWB, ISO6400)  開放からとてもシャープで発色は鮮やかです
F5.6 sony A7R2(AWB, ISO6400) 水中撮影時は四隅の色滲みが収まり、歪みもよく補正されています


F5.6 sony A7R2(AWB, ISO6400) 近接時になると再び四隅で色滲みが目立つようになります
F3.5(開放) sony A7R2(AWB, ISO6400) 





F3.5(開放)sony A7R2(AWB)
F3.5(開放)sony A7R2(AWB)

F3.5(開放)sony A7R2(AWB) 開放でも大変シャープな像です

通常の撮影(水中外)で用いた場合
F8 sony A7R2(WB:日光) 歪みは大きく、電柱が曲がって見えます


F5.6, SONY A7R2(WB:曇天): 四隅での色滲み(倍率色収差)が大きく、被写体の輪郭部が赤っぽく色づいています

F5.6, SONY A7R2(WB:曇天): 

F5.6, sony A7R2(WB:日陰):ただし、全く使い物にならない描写というわけではありませんね

2019/05/02

LOMO(GOMZ) Ж-48 G-48 100mm F2










サンクトペテルブルクからやってきた
ロモの映画用レンズ PART 3
旧ソ連の怪物。
こんなレンズを1960年に造ってしまうロシアの本当の底力を我々は正しく理解していない
LOMO(GOMZ)  Ж-48 G-48 100mm F2
LOMOのシネレンズには映画用に供給されたOKCシリーズと、映画用、産業用、軍需用に供給されたЖシリーズ(Gシリーズ)の2系統があります。両シリーズには鏡胴のつくりや画質基準に差があり、Gシリーズは中心解像力が一律100線/mm(GOI基準)に規格化されているなど、明らかにOKC/POシリーズの上位の製品として位置付けられていました。定評のあるPO3-3M 50mmF2の中心解像力が45線/mmであることを考えると、2倍のレンズ口径を持つ本レンズが2倍を超える解像力を叩き出しているのは尋常なことではありません。OKCシリーズの製造を担当したのは旧LNKINAP工場、Gシリーズは旧GOMZ(国営光学工場)です。ロシア製レンズの情報を扱った総合的な資料であるGOIのレンズカタログには映画用レンズやスチル用レンズ、プロジェクションレンズなどのテクニカルデータが網羅されていますが、Gシリーズについては一部のレンズに関する情報が収録されているのみで、入手できる情報は限られています。以下に私が独自に集めた製品ラインナップを列記しておきますので、これら以外の製品をご存知でしたらお知らせいただけると助かります。Gシリーズが日本で認知される足掛かりになれば幸いです。

G-5 75mm F2(Cinema lens) 
G-21 28mm F2(Cinema lens)
G-22 35mm F2(Cinema lens)
G-24 75mm F2(Cinema lens)
G-25 100mm F2(Cinema lens)
G-26 180mm F2.5(Projection lens)
G-32 90mm F2(Projection lens)
G-34 110mm F2(Projection lens)
G-48 100mm F2(Cinema lens)
G-49 22mm F2.8(Enlarging or Cinema)
G-53 75mm F2(Projection lens)
G-54 85mm F2(Projection lens)
G-55 95mm F2(Projection lens)
 
今回とり上げるのは1965年に合併しLOMOの一部となるGOMZ1960-1962年に生産した焦点距離100mmの大口径望遠レンズЖ-48(G-48です。確かなソースからの情報ではありませんが、製造本数は2500本に満たない数だったそうです。このレンズを手にすれば重量感と鏡胴のつくりの良さに誰もが驚くことでしょう。ネットにはエアクラフト用シネレンズとの未確認情報もありますが、確実な情報や具体性のある情報は何一つ見当たりません。確かに雲中で氷塊が当たろうが流れ弾が来ようが弾き返しそうな高耐久なつくりですし、流通量の少なさやマウント部の特殊なネジ径から考えても、本品は市販品ではなかったように思えます。映画用として認知されているシネレンズのPO2 / PO3/ PO4もかつてはエアクラフト用(空撮シネカメラのAKS-4に搭載)として供給されていた実績がありますので、あり得ない話ではありません。レンズは4群6枚のガウスタイプで、中玉にマゼンダコーティング、前玉と後玉にアンバーコーティングが蒸着されています。定格イメージフォーマットは他のЖレンズと同様であるとして、恐らくAPS-C相等の35mmシネマフォーマットですので、APS-C機で用いるのが画質的に最も相性の良い組み合わせです。ただし、包括イメージサークルはこれよりも遥かに広く、フルサイズフォーマットを余裕でカバーしています。これによく似たレンズとしてЖ-25(G-25) 100mm F2というシネマ用レンズがあり、1950年代半ばから1960年まで生産されていました。前後関係から考えると、おそらくЖ-48はЖ-25の後継モデルではないかと予想することができます。レンズに関する情報や手掛かりをお持ちの方がおりましたら、ご教示いただけると幸いです。


入手の経緯
eBayには若干数の流通があり、800ドル~900ドル程度で取引されています。私自身は20183月にeBayでロシアのレンズセラーから770ドル+送料30ドルで購入しました。商品の説明は「美品。ガラスはクリーンで絞り羽は正常に動作する。ソビエト連邦による1962年製でエアクラフト用。コーティングがある。イメージサークルはフルサイズセンサーのみならず6x6中判フォーマットもカバーできる。フロ ントキャップ付き」とのこと。僅かに拭き傷があるのみで十分なコンディションのレンズでした。本品はレンズヘッドのみの製品なので、デジタルカメラで使用するには改造してヘリコイドに搭載しなければなりません。レンズヘッド自体にかなりの重量があるため、今回は高耐久なM52-M42ヘリコイド(35-90mm)に搭載してM42レンズとして使用できるようにしました。

GOMZ(LOMO) Ж-48 G-48 100mm F2: 重量(実測) 650g(レンズヘッドのみ),  絞り羽 18枚,  絞り F2-F16, 設計構成は4群6枚ガウスタイプ, S/N: N62XXXX (1962年製造), 35mmシネマフォーマット(APS-C相等)準拠, 中心解像力は100 LINE/mm(GOI規格)で、PO3の中心解像力45LINE/mmの倍以上をたたき出している


  
撮影テスト
現代のレンズと比較しても性能的に何ら遜色はありません。1950年代にここまで高性能なレンズを作り出せたロシア(旧ソビエト連邦)が、宇宙開発や軍事技術のみならず、光学技術においても世界のトップランナーであったことは紛れもない事実です。
解像力はとても高くピント部の像はたいへん緻密で、シャープネスやコントラストは開放から高いレベルに達しています。滲みやフレアは全く見られずスッキリとヌケのよい描写で発色も良好、ボケにクセはありません。時代的にはシングルコーティングでしょうが、コッテリとしたマゼンダ系とアンバー系のコーティングは、いかにも良く写りそうな強いオーラを醸し出しています。1950年代でもコストを省みることがなければ、ロシアではここまで高性能なレンズが作れたのです。

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)うーん。まいりました。現代レンズとしか思えない恐ろしい描写力です


F2(開放) sony A7R2(WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(WB:日陰)
F2(開放) sony A7R2(WB:日陰)TORUNOのオープニングセレモニーのモデル撮影会で使いました
F2(開放) sony A7R2(WB:電球1)






F2(開放) sony A7R2(クリエイティブスタイル:セピア)

F2(開放) sony A7R2 (クリエイティブスタイル:セピア)
F2(開放) sony A7R2 (クリエイティブスタイル:セピア)