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2018/09/12

KMZ Industar-22 50cm F3.5 (Leica L mount)




エルマーの仮面をかぶったロシアン・テッサーで
素朴な写りを堪能する
KMZ INDUSTAR-22 50mm F3.5(Leica-L mount)
テッサータイプと言わば、かつては「鷲(わし)の目」などと呼ばれ、シャープなレンズの象徴みたいな扱いをうけてきた時期もありました。でも、それは大昔の話で、現代のレンズの基準からみればごく平凡なシャープネスでしかありません。むしろ、古い時代のテッサータイプの写りには軟らかく素朴な印象を受けることが多くあります。かく言う私もテッサータイプは古いものが大好きで、古いとは言ってもテッサー誕生の20世紀初頭までさかのぼるわけではなく、1940年代後半から1950年代辺りの製品です。この頃のテッサータイプのレンズにはトーンのつなぎ目を感じさせない軟らかい描写のものが多くみられます。また、製品によっては新種ガラスが導入され描写性能の大幅な向上を果たしていますが、新種ガラスが経年とともに茶色く色付いてしまう「ブラウニング現象」のため、結果としていい味を出してくれます。序文が長くなりましたが、今回は1940年代末からロシア版コピーライカのFEDに搭載され活躍したテッサータイプのインダスター22(INDUSTAR-22)というレンズを紹介してみたいと思います。

レンズの誕生は1945年でロシアのレンズ設計士M.D.Moltsevという人物が光学系を設計、試作レンズが作られました[1,2]。Moltosevは後のJupiterシリーズの再設計でも知られるようになる人物で、1948年からはKMZ光学設計局の局長に就任しています[1]。レンズの市場供給が始まったのは1948年でレンズはモスクワのクラスノゴルスク機械工場(KMZ)の393番プラントで生産されました[3]。初期のモデルはガラス面にコーティングのないノンコート仕様でしたが、1949年には薄いブルー系のコーティング(初期のP コーティング)が施されたモデルが登場しています。1949年から1950年にかけて一時はカザン光学機械工場(KOMZ)も生産に乗り出していますが、市場で見かける製品個体の数はごく僅かです[1]。レンズの外観がライツのエルマーにそっくりなため、エルマーのコピー製品と呼ばれることもありますが、光学系の形態はエルマーよりもテッサーに近いものとなっています。



このレンズにはライカの名玉エルマーに採用されていた「沈胴式」とよばれる機構が採用されています。撮影を行うとき以外は上の写真のようにレンズがカメラの内部に引っ込んでコンパクトになり、撮影時には下の写真のように引き出して使うのです。古い沈胴式レンズは憧れでしたので、デジカメにマウントすると、「どう、マニアみたいでしょ?」とばかりに、ちょっと得意気な顔ができます。


☆★カメラへのマウント時の注意点★☆


マウントアダプター経由でデジタル一眼カメラに搭載する場合、沈胴には十分に注意してください。SONYのA7(初代機)では沈胴時にレンズの鏡胴がボディ内部と干渉するようです。他の機種でも干渉の恐れがあります。沈胴させたままシャッターを切るとシャッター幕が破損する可能性もあります。沈胴させる場合には事前に十分に調べ、十分に注意してください。

重量(実測)106.7g, 絞り羽 8枚, F2.3-F16, 最短撮影距離(規定)1.2m, ライカL39マウント, フィルター径 23mm





INDUSTAR-22の構成図:文献[4]に掲載されているものをトレーススケッチした見取り図です。左が被写体側で右がカメラの側となっています。設計構成は3群4枚の典型的なテッサータイプです


入手の経緯
2018年2月にeBayを介してロシアのカメラ屋から45ドルの即決価格で入手しました。オークションの記載は「ガラスはクリーンで傷、チリ、汚れなどはない。エクセレント+++コンディションだ」とのこと。同じセラーが5~6本レンズを出しており、コンディションなどの記載はどれも同じでしたので、写真で一番まともそうにみえるものをチョイス。届いた品はフロントガラスに拭き傷1本と製造時由来の気泡がガラス内に1個ありましたが、良好なコンディションでした。
レンズはネットオークションで豊富に流通しており、中古店にも豊富にあります。沢山あるなかから、いかにして状態の良いものを選び出すかがポイントです。eBayでの相場は送料込みの総額で45ドル(約5000円)くらい、国内ではヤフオク!にて7500円前後の売値でした。
 
参考文献
[1] ZENIT Home page: http://www.zenitcamera.com
[2] Soviet Cams.com: http://www.sovietcams.com/index.php?553745048
[3] КАТАЛОГ фотообъективов завода № 393 (The catalog of photographic lenses of the plant № 393) 1949年
[4] Catalog Objectiv 1963 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog

撮影テスト
重厚かつ落ち着いた発色で、少しくすんだようにも見えます。軟調なのかと言えばそうなのですが、あっさり感はなく、味わい深い画作りができます。階調はシャドーに向かってなだらかに変化しており、トーンがとても丁寧に出ています。画質は開放から実用的で、スッキリとヌケがよく、中心から四隅までの広い範囲で乱れることのない均一な画質を維持しています。ボケも四隅まで乱れることはなく、とても安定感のあるレンズだとおもいます。
後になって気づいた事ですが、私が手に入れた製品個体はシリアル番号から1980年に製造されたもののようで、古いテッサーを紹介したいという本記事の趣旨には合いません。まぁ、設計は古いままなので問題ないでしょうが、はたしてどんなもんでしょう。作例どうぞ。開放でも十分な画質なので全部開放です。

2018年9月 漢字練習

F3.5(開放)sonyA7R2(WB:日光 )



F3.5(開放)sonyA7R2(WB:日光 )


F3.5(開放)sonyA7R2(WB:日光 )

F3.5(開放)sonyA7R2(WB:日光 )

F3.5(開放)sonyA7R2(WB:日光 )



F3.5(開放) sony A7R2(WB:日光)




F3.5(開放) sony A7R2(WB:日光)



F3.5(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F3.5(開放) sony A7R2(WB:日光)





2018/08/30

KMZ PO56(RO56) 35mm F2 KONVAS-1M OCT-18 mount



レニングラード生まれ、クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ  PART 6
豪華な7枚玉!
POシリーズのエース級レンズ
クラスノゴルスク機械工場 PO56(RO56) 35mm F2
焦点距離35mmのロシア製シネマ用レンズ(35mmフォーマット)には古くからKMZのPO4がありますが、設計が古く開放ではフレアが目立つため映画用カメラのKONVAS-1M(カンバス 1952年~)には代わりにレンズ構成を1枚増やし性能を向上させたPO56 35mm F2が採用されます。PO56は開放から滲みのない安定感のある写りでKONVASの主力レンズとして活躍、POシリーズの中では有名なPO3 と双璧をなす存在となっています。設計は同クラスのシネレンズとしては異例の7枚構成で、ガウスタイプの絞りのすぐ後ろに薄い凹メニスカスを配置した発展型です(下図)。これと同じ設計を採用したレンズにはライツのSummilux 35mmがありますが、口径比は一段明るいF1.4でした。本レンズでは明るさをF2に抑えることで、ワンランク上の描写性能を実現したと考えることができます。この種の設計では、口径比を抑えることで非常に優秀なレンズがつくれることが、コンピュータ・シミュレーションにより示されています[2]。なお、1950年代に登場したPOシリーズの映画用レンズは解像力に対する基準性能を中心50線・四隅25線(GOIの測定基準)と定めており、この基準値を超えるようレンズが開発されていました。
レンズが市場供給されたのは1950年代中頃からで、モスクワのKMZが製造したブラックカラーのモデルとレニングラードのLENKINAPファクトリー(LOMOの前身組織の一つ)が製造したシルバーカラーのモデルの2種類が存在します。レンズの生産は1970年まで続きますが[1]、LENKINAP製の個体は1950年代の短い期間に少量が生産されたのみで、直ぐに後継モデルのLENKINAP OKC1-35-1 35mm F2へとモデルチェンジしています。

PO56の構成図:GOI Catalog Objective 1970からのトレーススケッチ。左が前方で右がカメラ側。構成は5群7枚のガウスタイプ発展型で絞りの直ぐ後ろに凹メニスカスが配置されているのが特徴






PO56の魅力はイメージサークルが現在のデジタル一眼カメラの主流であるAPS-Cフォーマットに最適化されている点で、APS-C機においては規格の異なるフルサイズフォーマットのレンズを流用するよりも画質的に有利です。また、焦点距離が35mm判換算で52.5mmと標準レンズ相当であるため、これ一本でスナップからポートレートまで幅広い用途に対応することができます。APS-Cセンサーを搭載したミラーレス機で写真を撮る方には、とても魅力的なレンズではないでしょうか。

参考文献
[1] 1970年のGOIのカタログ(Catalog Objective 1970)には確かに掲載されているものの、同1971年のカタログでは削除されています
[2] レンズ設計のすべてー光学設計の真髄を探るー 辻定彦著 電波新聞社2006年: この種のレンズ構成で中口径レンズを設計する場合には、欠点の無い素晴らしい性能を実現できる事が示されています

レンズの入手
eBayでは200ドル~300ドル(+送料)の価格帯で取引されており、流通量の比較的多いレンズです。私はレンズを専門に扱うウクライナのセラーから2本の個体を1本は230ドル(約25000円)、もう一本は250ドル(約27000円)で手に入れました。双方とも外観にはスレやペイント落ちなどがありましたが、凹みなど大きなダメージはなく、肝心のガラスは新品に近い素晴らし状態でした。後玉が大きく飛び出していることからガラス表面に傷のある個体が多いので、購入時はコンディションに充分注意しなければなりません。

重量(実測) 156g, 絞り羽 8枚構成, 絞り F2(T2.5)-F22, 設計 5群7枚変形ガウスタイプ, フィルター径 56mm, マウント規格 OCT-18(KONVAS前期型)最短撮影距離(規格)1m, 解像力(GOI規格)中心50線/周辺25線, KMZ製(ブラックカラー)とLENKINAP製(シルバーカラー)の2種が存在する


デジタルミラーレス機で使用するには
レンズのマウントは映画用カメラのカンバス前期型に採用されていたOCT-18マウントです。eBayではOCT-18をライカMやソニーEなどに変換するためマウントアダプターが市販されており、レンズをデジタルミラーレス機で使用することができます。アダプターは5000円~10000円程度の値段で入手できます。ただし、OCT-18はスピゴットマウントと呼ばれる少し厄介な機構を持つマウント規格なので、市販のアダプターとはいえ、よほど良くできたものでない限り、ピント合わせに少し不便を感じるかもしれません。ピント合わせはレンズ本体のヘリコイドに頼らず、外部の補助ヘリコイドに頼るのがオススメの使い方です。アダプターを使いレンズをいったんライカMマウントに変換してから、補助ヘリコイド付のライカM→ミラーレス機アダプターを使ってデジタルミラーレス機に搭載するのがよいでしょう。簡単な改造ができる人なら、マグロエクステンションリングとステップアップリングを組み合わせれば、ライカMマウントに難なく変換できると思います。
 
撮影テスト
プロフェッショナル向けにつくられたKONVASの交換レンズともなれば、ライバルは西側諸国のスビードパンクロやシネ・クセノンあたりでしょう。本レンズも高性能なレンズであることは必然なわけで、シャープで解像力が高く、欠点の少ない優秀なレンズとなっています。開放でも四隅までフレアのないスッキリとヌケのよい写りで、近接撮影から遠方撮影まで撮影距離によらず画質には安定感がありますが、1~2段絞ったあたりからのシャープネスには凄いものがあります。背後のボケに乱れはなく、素直で穏やかなボケ味で、グルグルボケなどとは一切無縁です。逆光には比較的強く、太陽を入れてもハレーシヨンは少な目で、ゴーストはほぼ出ず、発色が濁ることもありません。階調描写も優れており、中間階調は豊富で、真夏日の試写においてもつなぎ目のないなだらかな階調描写です。シングルコーティングの時代のレンズですから開放ではトーンの軟らかい優しい画作りにも対応できます。

2018年8月 和歌山県・高野山
撮影機材:SONY A7R2/ Fujifilm X-T20

F8  Fujifilm X-T20(AWB) 

F5.6  sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)
F8  SONY A7R2(APS-C mode, WB:曇天) 
F2.8, sony A7R2(APS-C mode, AWB)
F2(開放)  SONY A7R2(APS-C mode, Aspect ratio 16:9. WB:日陰) 


F4  SONY A7R2(APS-C mode, WB:曇天) 



F8 SONY A7R2(APS-C mode, WB:曇天) 



2018年8月 ソルソファーム
撮影機材:FUJIFILM X-T20

F2(開放)  Fujifilm X-T20(WA: 日光)   


F4  Fujifilm X-T20(WB:日光 ;  Aspect ratio 16:9) 


F2.8  Fujifilm X-T20(WB:日光) 


F2(開放)  Fujifilm X-T20(WB:日光) 
F2(開放)  Fujifilm X-T20(WB:日光) 

F5.6  Fujifilm X-T20(WB:日光) 


F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光) 
F2.8 Fujifilm X-T20(WB:日光) 
F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:日光, Aspect ratio 16:9) 

F2.8  Fujifilm X-T20(WB:日光) 


F4  Fujifilm X-T20(WB:日光) 





F2(開放)  Fujifilm X-T20(WB:日光) 
F2(開放)  Fujifilm X-T20(WB:日光) 
F2(開放)  Fujifilm X-T20(WB:日光) 



2018/07/08

KMZ Jupiter-9 85mm F2 for Cinema(AKS-4M mount)


Jupiter-9 85mm F2+sony A7R2 with Recoilハイグリップカスタムケース



20世紀を代表する明るいレンズと言えば、真っ先に思い浮かぶのはガウスタイプとゾナータイプです。両者はレンズの設計構成のみならず描写の性格も大きく異なり、設計構成が描写の方向性を決定づける一大要因であることを私たちに教えてくれます。ガウスタイプの特徴がキレのあるフォーカス、線が細く繊細で緻密なピント部、破綻気味のボケであるのに対し、線が太く力強いピント部、安定感のある端正で優雅なボケを提供できるゾナータイプは、ガウスタイプとは異なる性格の持ち主でした。今回はロシア製ゾナー型レンズの鉄板、ジュピター・ナインをご紹介します。
 
クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ  PART 5
レンズ選びはセンス!
シネ・ジュピターはいかがですか
クラスノゴルスク機械工場(KMZ) JUPITER-9 85mm F2 for AKS-4M cinema movie camera

カールツァイスの名玉SONNAR 8.5cm F2のクローンコピーとして誕生し、美しい描写、豪華な設計、高いコストパブォーマンスから今も絶大な人気を誇るジュピター9(Jupiter-9/ ユピテル9)。ただし、今回取り上げるのは、ただのJupiter-9ではありません。シネマ用に設計された特別仕様のモデルで、カールツァイスのアリフレックス版ゾナーやコンタレックス版ゾナーと同格のプロフェッショナル向けに供給された製品です。
ご存知かもしれませんが、ゾナーとはカール・ツァイスのレンズ設計士ルードビッヒ・ベルテレが戦前に設計した大口径レンズの銘玉です。日本やロシアでは戦後にゾナーを手本とする同一構成のレンズがたくさん作られ、ロシアではこの種のレンズがジュピター(ユピテル)の製品名で市場供給されました。ジュピターは1948年に既に登場しており、モスクワのクラスノゴルスク機械工場(KMZ)の393番プラントにて、はじめはZK(Sonnar Krasnogorsk)というコードネームで開発されました。このモデルの製造には第二次世界大戦の戦後賠償としてロシアがドイツ国内から持ち出したガラス硝材が使われ、ツァイスのイエーナ工場から召喚されたマイスター達の指導のもとで製造されました。ZKはレンズの血肉であるガラスまでもがオリジナルと同一の、いわゆるクローン・ゾナーだったのです。その後、ドイツ産ガラスの枯渇にともなう措置として、ロシアの国産硝材に切り替えるための再設計が行われ、現在のジュピターシリーズの原型が開発されました。ジュピターシリーズを設計したのは1948年にKMZ光学設計局の局長に就任したM.D.Moltsevというレンズ設計士で、Moltsevはジュピターシリーズの他にもテッサータイプのIndustar-22を設計した人物として知られています。

Jupiter-9の構成図。左は今回のシネマ用モデルで右はスチル撮影用に設計されたよくあるモデル。シネマ用の方が構成面の曲率が緩いため、高性能なガラス硝材が用いられているのでしょう




ジュピター9は1950年にKMZから登場し、まずはLeicaスクリュー互換のZorki(ゾルキー)マウントと旧Contaxマウント互換のKiev(キエフ)マウントの2種のマウント規格で市場供給されました。翌1951年には一眼レフカメラのZenit(ゼニット)用のモデルが、やはりKMZから登場します。初期のモデルはどれもシルバーカラーのアルミ鏡胴でした。レンジファインダー機向けに造られたゾルキー用とキエフ用は最短撮影距離が1.15mでしたが、一眼レフカメラのゼニット用では光学系が同一のまま0.8mまで短縮されました。KMZは1950~1957年にジュピター9を複数回モデルチェンジしていますが、1958年にレンズの生産をLZOS(ルトカリノ光学ガラス工場)とウクライナのARSENAL(アーセナル)工場に引き継ぎ、映画用カメラなど新モデルを投入する場合を除いて、基本的にはジュピター9を造らなくなっています。
LZOSからは1958-1988年にZorkiマウントとKievマウントの2種のモデルが生産され、その後、対応マウントのラインナップはM39マウント(1960年代)、シネマ用AKS-4Mマウント(1960年代~1980年代)、1970年代からはM42マウントにまで拡張されています。1980年代半ばからガラス表面にマルチコーティングを施したモデルが従来の単層Pコーティング(Pはprosvetlenijeの意)を施したモデルに混じって造られるようになり、その割合が少しづす増えていきました。一方、Arsenalからは1958-1963年にKievマウントのモデルが生産され、その後は1970年代にKiev-10/15マウントのモデルなどが生産されました。なお、1963年からは各社ともジュピター9のカラーバリエーションにブラックを追加し、その後、1968年にシルバーカラー(写真・下)は製造中止となりました。

Jupiter-9 85mm F2+sony A7R2 with Recoilハイグリップカスタムケース


今回紹介するのは35mm映画用カメラのAKS-4M(AKC-4M)に搭載する交換レンズとしてKMZから供給されたシネマ用のモデルです。レンズの構成は上図に示す通りで、スチル用からの転用ではなくシネマ用として設計されています。スチル用に比べ個々の構成面の曲率が緩く、はじめから収差を補正しやすい構造となっています。イメージサークルは広く作られており、フルサイズセンサーを余裕でカバーしています。

入手の経緯
レンズは2018年4月にeBayを介してロシアのオールドレンズを専門に扱うセラーから265ドル+送料の即決価格にて購入しました。商品はAKS-4Mマウントの状態で売られており、「新品・オールドストック」との触れ込みで「未使用状態のレンズで、カビ、キズ、クモリ、バルサム剥離、陥没等はなく、コーティングもOKだ。絞りの開閉は問題なく、絞りリングとヘリコイドリングはスムーズに回転する」とのこと。届いた品は前玉に僅かに拭き傷がある程度で、前玉に傷の多いジュピターにしては良好なコンディションでした。M52-M42ヘリコイドチューブ25-55mmに搭載し、ソニーEマウントに改造して使用することにしました。改造のための部品代を含めるとレンズには総額315ドル程度とスチル用モデルの1.5倍程度の予算がかかりました。
ブラックカラーモデル:重量[実測]282g(ヘリコイド等改造部位を除く正味の重量), 絞り羽 15枚構成, フィルタ径 49mm,  映画用カメラのAKS-4用, 設計構成 3群7枚(ゾナータイプ)
シルバーカラーのモデル:重量[実測] 281g, 他の仕様もラックモデルと全く同一


撮影テスト
ゾナータイプのレンズは解像力ではなく階調描写力で勝負するレンズです。Jupiter-9も開放から線の太い力強い描写を特徴としており、なだらかなトーンと安定感のあるボケが優雅な雰囲気を作り出してくれます。細部まで写りすぎない描写はポートレート撮影に大きなアドバンテージをもたらしてくれるはずです。コントラストは良好で発色の良いレンズですが、絞っても階調が硬くなることはありません。
今回取り上げるシネマ用のモデルと通常の良くあるスチル用モデル(ノンコート)の違いを試写し比較したところ、シアン成分の階調特性に差が見られました。日光で撮影するとスチル用モデルではここが不安定になりやすく、温調気味に色転びします。また、光量がやや少ない条件では青みが強くなる傾向がありました。発色に関してはシネマ用モデルのほうが安定しておりノーマルです。プロ用モデルの方が描写が安定しているのは理にかなっていますが、オールドレンズとしての面白みは、これとは別問題です。両モデルの解像力とボケ味は同等でしたので、どちらを選ぶかは好みの問題となります。スチル用のほうが発色が転びやすい分だけ意外性に富んだ面白い写真が得られるのかもしれません。
さて、シネ用の長玉はスチル用の同等レンズよりもハレーションが出やすく、軟らかい描写傾向のレンズが多くあり、ジュピター9も例外ではありません。レンズによっては後玉の後方にハレーションカッターを設置しているシネレンズがありますが、スチル用の同等品にこれはなく、ハレーションも出にくい性質になっています。この傾向は多くのシネレンズに普遍的にみられる性質のようですが、どうしてなのか不明です。

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日陰) シネマ用レンズなんだなと、感じさせる質感表現です



 
2018年夏の鎌倉、海へ・・・。


sony A7R2(WB:日光)


sony A7R2(WB:日光)


sony A7R2(WB:日光)







sony A7R2(WB:日光)

sony A7R2(WB:日光)

sony A7R2(WB:日光)
sony A7R2(WB:日光)


F2(開放) sony A7R2(WB:曇天)