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2025/11/18

Leica Leitz APO-MACRO-ELMARIT-R 100mm F2.8

 


ライカRシステムの象徴的マクロレンズ

Leica Leitz APO-MACRO-ELMARIT-R 100mm F2.8(Leica R mount)

ライカ APO-Macro-Elmarit-R 100mm F2.8(通称 AME)は、1987年から2009年まで製造されたライカRシステム屈指の高性能マクロレンズで、無限遠から近接撮影まで対応する中望遠レンズとして初めてアポクロマート補正を導入した画期的な製品です。発表当時、その描写性能は衝撃的であり、瞬く間に画質の基準として広く認識されるようになりました。マクロ撮影における性能はもちろん、中望遠レンズとしてポートレート撮影でも優れた表現力を発揮します。

堅牢な鏡胴と組み込み式フード、そして光学的完成度の高さから、現在でも写真家や研究者の間では「Rシステムの憧れの一本」として長く愛用されています。ただし、設計の世代交代に伴い、近年ではインナーフォーカス方式とフローティング機構を備えた新世代のマクロレンズが登場し、徐々に新しい光学設計に追い抜かれつつあります。全群繰り出し方式を採用しているため、軽量化やコンパクト化には不利で、本体重量は760gにも達します。気軽に持ち歩ける携帯性よりも、画質と操作感を優先した「本気で撮るためのレンズ」と言えます。

設計構成は下図のようなガウスタイプをベースとする68枚で、色収差と歪みを徹底的に抑制、開放から極めて高い解像力とコントラストを誇ります。近接撮影性能を高めるため、ガウスタイプの後部に専用の光学群を追加しています。この追加群は近距離での描写を向上させる一方、遠距離撮影時には光学性能に一定の制約をもたらします[1]。とはいえ、マクロ域とポートレート域の描写力を向上させることに特化した、卓越した光学系と捉えるべきでしょう。レンズを設計したのは1981年から1990年までライツ社の光学設計部門を率いたフォルフガング・フォルラートというエンジニアです[3]。時代的にはコンピュータを援用した設計であると考えて間違いありません。

焦点距離100mm・開放F2.8というスペックは、マクロ撮影時での適度なワーキングディスタンスと取り回しの良さに加え、中望遠レンズとして理想的な画角を提供します。最短撮影距離は45cm、最大撮影倍率は1:2。専用のELPROクローズアップレンズを併用すれば、等倍撮影も可能です。

レンズは1986年から2005年の間に20000本が生産されていますが、2005年から2009年の間はデータがありません[2]。

レンズの構成図(トレーススケッチ):ガウスタイプを起点に、後部に正レンズと負レンズを追加した6群8枚構成です









 

参考文献・資料

[1] Erwin Puts – "Leica-R Lenses"

[2]  Camera wiki Leica forum: 100mm f/2.8 APO-Macro-Elmarit-R

[3]  日本オールドレンズ協会・写真展「ライカの望遠レンズ」の山田さんの展示解説を参考

中古相場・アダプターでの使用

販売は2009年に終了しています。当時の新品価格は27万円程度だったそうです。現在は中古品のみが市場に流通しており、相場は16万円~25万円程度と言われています。今回手にした個体は私自身で購入したわけではなく、写真光学研究会の会員の方からお借りしました。代々木の中古カメラ店が店をたたむ際に、安く譲っていただいたものだそうです。レンズはフランジバックの長いライカRマウントですので、アダプターを介して35mm一眼レフカメラとミラーレスカメラで使用できます。ただし、ライカMマウントを経由すると、中判デジタル機のGFXシリーズではアダプターの間口でケラれてしまいますので注意がいります。


重量(カタログ値) 760g, 最短撮影距離 0.45m, 製造年 1987-2009年, フィルター径 E60(60mm), 設計構成 6群8枚, 絞り F2.8-F22, 絞り羽根 7枚構成, フード組み込み, ライカRマウント
 
 

 

 

写真作例 

MTF曲線を見ても明らかですが、絞り開放でも、画面全体にわたって高いコントラストと均一な解像力・解像感が得られます[1] 。中心から周辺まで、非常に細かいディテールが鮮明なエッジ、微妙な階調の陰影によって精緻に再現されます。周辺光量の低下は開放でも小さく、絞りをf5.6まで絞ると画面全域の照度が完全に均一になります。驚いたことは、こうしたピント部の画質が絞り開放時とF5.6まで絞り込んだ時で、見た目には殆ど変化しないことです。

絞り込むことでコントラストは僅かに向上し、微細な質感がより明瞭に描写されます。また、f5.6まで絞り込んでもフォーカスシフトもほとんど認められません。深く絞り込むと、回折のため中心部のコントラストや解像感が僅かに低下するあたりは、多くのマクロレンズに共通する性質で、このレンズも例外ではありません。ただし、回折の影響はかなり改善しており、影響は他のレンズに比べ小さく感じます。デジタル撮影時にもパープルフリンジは全く見られず、歪曲収差はほぼゼロ。グルグルボケや放射ボケなどについても全く出ません。

発色は寒色寄りに転ぶという見解を作例付きでよく目にします。カラーバランスの補正を決めるコーティングの味付けがそのように設定されているためでしょう。ここはメーカーごとの匙加減により決まります。


F2.8(開放) まずはマクロ撮影のお手並み拝見。開放なのでピントは薄く、右側が被写界深度から外れてしまいましたが、中央と左側はしっかり被写界深度内に収まっています。素晴らしい結像性能です

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)














F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6  Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6 Nikon Zf  (WB:日光)  強い逆光のためグレアが出ています

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)


F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)



F2.8(開放) Nikon Zf



F4 Nikon Zf










2024/03/10

LOOMP (LOMO) OKC1-75-1 (OKS1-75-1) MACRO 75mm F2

LOMOのヘビー級マクロ・シネレンズ
LOOMP(LOMO) OKC1-75-1 (OKS1-75-1) 75mm F2  OCT-19 mount
ロシア製シネレンズにマクロ撮影用モデルがあることは、流通品を何度か目撃していましたので、認識はしていました。私が目撃した製品個体はPO2-2M、OKC1-75-1、OKC6-75-1の3製品で、いずれも焦点距離が75mmの35mm映画用レンズです。これらは撮影フォーマットがAPS-Cに近く、中望遠レンズというよりは望遠レンズのカテゴリーに入りますので、本来なら不人気のジャンルです。しかし、ライカ判(フルサイズセンサー相当)でもダークコーナーの出ない製品であることからポートレート撮影に流用できるため人気があります。さらにレンズがマクロ撮影仕様ともなれば流通量は少ないため、高額で取引される傾向があります。ただし、今回のレンズはデカさと重さでコレクターには嫌煙されているのでしょう。10万円前後の比較的買いやすい価格帯で流通しています。京都のブログ読者の方から1本お借りする機会が得られましたので、軽くレポートすることにしました。
お借りしたのはLOMOの前身団体である LOOMP(レニングラード光学器械工業企業体連合)が1964年代に製造したシネマ用マクロレンズのOKC1-75-1です。このレンズはそれ以前から存在していたKMZ PO2-2M やLENKINAP PO60の後継モデルにあたる製品です。レンズのヘリコイドは巨大で、金属製のため重量は何と865gもあります。ヘリコイドを完全に繰り出した時の全長は最も短い時の2倍にもなり、撮影倍率(最大値)は1.4倍に達します。センサーサイズと同じ幅の被写体を最短撮影距離で撮影すると、写真の幅の1.4倍の大きさで写ることになります。

OKC1-75-1(MACRO) 75mm F2: 重量(実測) 865g, 最大撮影倍率 x1.4, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, F2-F16, 絞り羽 16枚構成, 最短撮影距離 30cm前後, 定格撮影フォーマット Super 35mm(APS-C相当), マウント規格 OCT-19, Pコーティング(単層), 最大撮影倍率 約1.4倍
 
焦点距離75mmのシネレンズと言えば、1940年代中半に開発されたPO2-2がロシアでは始祖的な存在です。その後はレニングラードのLOOMPやLENKINAP工場でPO2-2をベースとする改良モデルのPO60(1950年代中半~)やOKC1-75-1(1960年代~)が開発されます。これらはいずれも2つの貼り合わせ面を持つ4群6枚構成のレンズで(下図)、レンズエレメントの形状や各部の寸法が似通っていますので、PO2-2からの直接の流れを汲んだ製品と言って間違いありません。
PO2-2とOKC1-75-1の構成図でGOIレンズカタログからのトレーススケッチです
 
今回のレンズはマクロ撮影用の特殊仕様ですが、ヘリコイドの繰り出し量が大きいだけで、光学系は通常撮影用のOKC1-75-1と同一であるというのが自然な解釈です。根拠はありませんが、GOIのレンズカタログにはマクロ版のOKCシリーズは掲載されていませんし、今回のレンズ個体の銘板にマクロモデルであることを主張するような表記は見当たりません。文献がないので、あとは撮影で判断するしかありません。マクロ撮影用に再設計された光学系であれば収差変動を考慮し補正の基準点が近接側にあるため、遠方撮影時には開放で少しフレアが出たり、背後のボケがゴワゴワと硬めのボケ味になる事が予想されます。
さて、届いたレンズを手に取り、デカさと重さ、金属とガラスの塊のような鏡胴に思わず笑ってしまいました。しかし、驚くのはまだはやく、ヘリコイドを回すと更に一回りも二回りも巨大化するのです。シュタインハイルのマクロレンズも見事な存在感でしたが、ここまでは重くはなかったです。
 
作成したOCT-19 to LEICA Mアダプター
レンズはOCT-18の後継にあたるOCT-19というマウント規格です。この種のレンズをデジタルカメラで使用するためのアダプターは存在するにはしますが、M42やライカなど汎用性の高いマウント規格に変換するアダプター製品が見当たりません。今回は様々な部品を組み合わせることで、ライカMマウントに変換するためのアダプターを自作しました。部品の組み合わせを下の写真に示します。当初予定していたM42アダプターの制作は途中で断念しました。マウント側の間口が後玉の直ぐ後ろに来てしまい、光の反射が画質に悪影響を及ぼすと判断したためです。
 
自作OCT-19マウント・アダプターの部品構成。これで微かにオーバーインフとなります
 

入手の経緯
レンズは京都のブログ読者からお借りた個体で、このレンズを使うためのOCT-19アダプターを自作で作っほしいというご相談とともに送られてきました。私はプロではないので、この手の依頼は原則受けないのですが、このデカいレンズには興味がありましたので、お引き受けすることとしました。eBayでアダプター製品を見回しますと、OCT-19マウントのアダプターは200ドルから300ドルと高値で取引されています。ただし、汎用性の高いM42やライカマウントに変換するようなアダプター製品はまだ存在しないようです。レンズの方はもともとeBayで700ドルで売られていたものを値切り交渉により525ドルで手に入れたとのことです。ガラスの状態は傷、カビ、クモリ等なくたいへん良好でした。私も値切り交渉は時々しますが、そこまで安くしてもらった経験はまだありません。せいぜい10~15%引きくらいまでです。
 
撮影テスト
高性能なレンズです。開放から滲みはほぼ見られず、ピント部には十分な解像感があります。開放での画質はやや軟調気味で発色もやや淡くなるものの、1段絞ればコントラストは向上し、更にシャープな像が得られます。ただし、絞っても階調は硬くはなりませんので、ここはオールドレンズならではの長所かとおもいます。背後のボケはポートレート域でも比較的柔らかく、綺麗に拡散しています。こうした描写の特徴からは、やはりこのレンズはマクロ用に設計されたものではなく、普通のOKC1-75-1からの転用であると感じさせられます。
定格イメージフォーマットは35mm映画用フォーマット(APS-C相当)ですので、規格外のフルサイズ機で用いると、通常は画角内に写らない広い領域が写ります。しかし、グルグルボケや放射ボケは全く見られませんし、ピント部も像は四隅まで安定しています。歪みは樽型ですがフルサイズ機でも目立たないレベルでした。良像域が広く、画質的にかなり余裕のある設計のようです。
続いて近接撮影ですが、開放では色収差による滲みが出ているものの2段も絞れば滲みは完全に消え、十分な解像感とスッキリとしたクリアな像が得られます。絞る事が基本のマクロ撮影ですので、開放での滲みは大した弱点にはならないでしょう。
 
F4 Nikon Zf (WB:日光)  蛇の影が現れました!


F2(開放) Nikon Zf(WB: 日光Auto) 今日もこの子がモデルです
F5.6 Nikon Zf(WB:日光Auto) 近接域の写真も一枚どうぞ。開放では少し色収差の滲みがでましたが、少し絞ると滲みは完全に消えます
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光Auto) 背後のボケは綺麗です。このくらいの距離でボケ味が硬くならないところから推し量ると、おそらく光学系はマクロ仕様ではなく、普通のOKC1-75-1からの転用であると思われます。四隅で口径食が出ていますが、規格外のフルサイズ機で用いている事に加え、前玉がかなり奥まったところにあることが影響しているのでしょう


F2(開放) Nikon Zf(WB:日光Auto) 開放でも全く滲みません。ピントを正確にあわせ赤枠をクロップしますと・・・
Cropped from one previous photo: 中央はこのとおりシャープで、性能はしっかり出ています。もう少し拡大し、100%クロップしますと・・・
Cropped from one previous photo(100% crop) キリッとした像を維持しています

F4 Nikon Zf (WB:日光Auto) 四隅まで像は安定しており、歪みも僅かです。こういう写真は30年後に見ると面白い!こんなのあったあったと楽しめそうです。しかし、この写真だけ見ると、今の日本の物価は30年前と大差が無いことを実感します

2021/05/08

A.Schacht Ulm M-Travenar R 50mm F2.8

等倍まで拡大できる

テッサータイプのマクロレンズ

A.Schacht M-Travenar 50mm F2.8

A.Schacht社は1948年に旧西ドイツのミュンヘンにて創業、1954年にはウルム市に移転して企業活動を継続した光学メーカーです。創業者のアルベルト・シャハト(Albert Schacht)は戦前にCarl Zeiss, Ica, Zeiss-Ikonなどでオペレータ・マネージャーとして在籍していた人物で、1939年からはSteinheilに移籍してテクニカル・ディレクターに就くなど、キャリアとしてはエンジニアではなく経営側の人物でした。同社のレンズ設計は全て外注で、シャハトがZeiss在籍時代から親交のあったルードビッヒ・ベルテレの手によるものと言われています。ベルテレはERNOSTAR、SONNAR、BIOGONなどを開発した名設計者ですが、戦後はスイスのチューリッヒにあるWild Heerbrugg Companyに在籍していました。A.Schacht社は1967年に部品メーカーのConstantin Rauch screw factory(シュナイダーグループ)に買収され、更にすぐ後に光学メーカーのWill Wetzlar社に売却されています。なお、シャハト自身は1960年に引退していますが、A.Schachtブランドのレンズは1970年まで製造が続けられました。

今回ご紹介するM-Travenar 50mm F2.8はA.Schacht社が1960年代に市場供給したマクロ撮影用レンズです。このレンズは等倍まで寄れる超高倍率が売りで、ヘリコイドを目一杯まで繰り出すと、なんと鏡胴は元の長さの倍にもなります。レンズ設計構成はベルテレとは縁の遠いテッサータイプですが(下図)、同社のレンズはベルテレが設計したというわけですから、このレンズも例外ではありません。ジェネリックな構成なので裏をとるための特許資料は見つかりそうにありませんが、ゾナーを作ったベルテレがテッサータイプを作ると一体どんな味付けになるのでしょう。事実ならば、とても興味深いレンズです。

A.Schacht M-Travenar 2.8/50の構成図(カタログからのトレーススケッチ)。左が被写体側で右がカメラの側です。設計構成は3群4枚のテッサータイプで、前・後群に正の肉厚レンズの用いて屈折力を稼ぎF2.8を実現している

テッサータイプのレンズ構成自体は1947-1948年にH. Zollner (ツェルナー)が新種ガラスを用いた再設計によって、球面収差とコマ収差の補正効果を大幅に改善させた事で成熟の域に達しており、口径比F2.8でも無理のない画質が実現できるようになったのは戦後のZeiss数学部(レンズ設計部門)の最も大きな成功の一つと称えられています。このレンズもF2.8で高性能ですので、新種ガラスが導入されているものと思われます。

A.Schacht M-Travenar 50mm F2.8( minolta MDマウン): 重量(実測)356g, フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22(プリセット機構), 最大撮影倍率 1:1(等倍), 最短撮影距離 0.08m, レンズ構成 3群4枚(テッサー型), 絞り羽数 12枚, レンズ名は「遠くへ」または「外国への旅行」を意味するTravelが由来である






























参考文献

[1] Peter Geisler, Albert Schacht Photo-Objektive aus Ulm a.d. Donau: Ein Beitrag zur neueren Ulmer Stadt- und Technikgeschichte (2013)

入手の経緯

A.Schachtのレンズはベルテレによる設計であることが広まり、近年値上がり傾向が続いています。eBayでのレンズの相場は350ドルあたりですが、安く手に入れるための私の狙い目はアメリカ人で、ビックリするほど安い即決価格で出品している事が度々あります。米国ではA.Schachtのレンズに対する認識や評価があまり進んでいないのかもしれませんね。国内ではショップ価格が35000円~45000円あたりのようです。今回の私の個体は海外の得意先から出品前の製品を購入しました。珍しいミノルタMDマウントでしたが、市場に数多く流通しているのはEXAKTAやM42、ライカLマウントです。

撮影テスト

ポートレート域ではいかにもテッサータイプらしいシャープで線の太い像ですが、近接撮影時では微かに柔らかい雰囲気のある画になります。マクロレンズに求められる近接撮影時の安定感はたいへん良好で、驚いたことに最短撮影距離でも滲みらしい滲みが全くでません。おかげで、コントラストは高く、発色も良好、等倍マクロの衝撃的なスペックは見掛け倒しではありません。

さすがにテッサータイプなのでガウスやトリプレットのような高解像な画は吐きませんが、フィルムで使用するには、このくらいの解像力があれば十分だったのでしょう。ボケはポートレート域で微かにグルっと回ります。テッサーには軽い焦点移動があり、開放でピントを合わせても絞り込んだ際にピントが狂ってしまう問題がありますが、さすがに高倍率のマクロ域で撮影する場合は、絞ってピント合わせをしますので、問題なし。

では写真作例です。まずはマクロ域ですが、我が家のコワモテアイドルであるサンタロボの魅力に迫ってみました。トコトン。

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日陰) まずは絞りを変えながらのテストショットです。開放でも滲みなどは出ず、スッキリとしたヌケのよい写りで、発色も良いみたい。十分にシャープな画質が撮れています


F8 sony A7R2(WB:日陰) 十分に絞りましたが、中心部の解像力、改造感はあまり変わらない感じがします。開放からの画質の変化は小さく、安定感のある描写です。


F8 sony A7R2(WB:日陰) 絞り込んだまま、かなり寄ってみました。ここから先は絞り込んでとるのが基本ですので、開放でのショットは省略します。この距離でも十分な画質で近距離収差変動はよく抑えられている感じです。トナカイ君との相性もバッチリで仲良く撮れています。さらに近づいてみましょう
F8 sony A7R2(WB:日陰)ここからはコワモテ君の単独ショットで本領発揮です。彼の魅力は接近時に引き立てられます。写真のほうは思ったほど滲まず、適度な柔らかさのまま解像感も十分に維持されており、想定以上の良い画質を維持しています。近距離収差変動はよく抑えられている感じで、これぐらいの柔らかさなら雰囲気重視の物撮りにおいて普段使ってもいい気がします
F8 sony A7R2(WB:日陰)いよいよ最短撮影距離(等倍)まで来ました。コワモテ君の迫力もMAXです。微かな柔らかさを残しつつも十分な解像感が得られており、コントラストは依然として良好で発色も十分に濃厚です。等倍でも十分に使えるレンズのようで、雰囲気重視を想定しているなら物撮り用に十分に使えるレンズだと思います














 

続いてはポートレート撮影の写真です。モデルはいつもお世話になっている彩夏子さん。ボーイッシュにイメチェンした彩夏子さんを初めて撮らせていただきましたが、とても新鮮でした。

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

F5.6  sonyA7R2(WB:日陰)

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

M-Travenar + Fujifilm GFX100S
最後はミニチュア人形たちを中判デジタル機のGFX100Sに搭載して撮りました。四隅に少し光量落ちが見られるものの、近接撮影では全く目立ちません。

F8, fujifilm GFX100S(AWB, film simulation: NN)

F8, fujifilm GFX100S(AWB, film simulation: NN)
F8, fujifilm GFX100S(AWB, film simulation: NN)







F8, fujifilm GFX100S(AWB, film simulation: NN)




2020/05/31

Auto Chinon MCM Multi-coated Macro 55mm f1.7 vs Auto-Alpa Macro 50mm f1.7



part 3(1回戦E組)
高速マクロレンズの頂上対決
Auto Chinon MCM Macro vs Auto-Alpa Macro
「似た者同士」という言葉が実にシックリとくるレンズの組み合わせが今回紹介するオート・チノン・マクロ(Auto CHINON MCM MACRO)55mm F1.7とオート・アルパ(Auto-ALPA)50mm F1.7で、どちらもF1.7の明るさを誇るハイスペックなマクロ撮影用レンズです。文献[1-2]にはAuto-ALPAがCHINONから供給を受けたと記されており、事実なら同門対決ということになりますが、実際にはもう少し複雑な背景があります。ともあれ、今回はマクロレンズ対決を楽しんでください。

Auto CHINON MCM 55mm F1.7は1977年にチノン株式会社が富岡光学からOEM供給を受けて発売した製品で、M42スクリューマウントの一眼レフカメラCHINON CE-3 MEMOTRONに搭載する交換レンズとして登場しました[3]。構成図は手に入りませんでしたが、設計はガウスタイプの前群の貼り合わせを外した拡張ガウスタイプ(5群6枚)と呼ばれる構成で、球面収差の膨らみを抑えることで一定水準の画質を実現しています。F1.7クラスの標準レンズとしては最もオーソドックスな設計構成です。
対するAuto-ALPAは高級カメラブランドのアルパで知られるスイスのピニオン社による監修のもと、1976年にコシナが製造しチノンから供給された拡張ガウスタイプ(CHINON MCMと同じ5群6枚)標準レンズです[4]。この製品はM42スクリューマウントの一眼レフカメラALPA Si2000(チノン製)に搭載する交換レンズとして登場しました[1]。実は外観や仕様が全く同じコシナ製チノンブランドのCHINON MACRO MULTI COATED 50mm F1.7という製品も存在し、Auto-ALPAとは銘板のみを挿げ替えた双子の製品のようです。コシナと富岡光学の関係がチノンとALPAを巻き込んでグチャグチャに絡み合っており、様々な憶測と誤解を生んでいます。まぁこの時代の日本の中堅光学メーカーにはよくある混沌とした状況ですが。
Auto ALPA 1.7/50の構成図(トレーススケッチ)

 
参考文献・資料
[1]  ALPA 50 Jahre anders als andere: ALPA Swiss controlにスイスコントロールのもと、日本のチノンと富岡からカメラやレンズのOEM供給をうけた経緯が記されています
[2] アルパブック―スイス製精密一眼レフアルパのすべて (クラシックカメラ選書)1995年
[3] マウント部のスイッチカバー(メクラと呼ぶらしい)に3方向からの固定用のイモネジがあるため、富岡光学製です。この検証法の詳細は「出品者のひとりごと: AUTO CHINON MCM」を参考にしています
[4] 内部に「直進キー用ガイド」があり富岡光学の製品ではありません。内部構造はコシナ製チノンブランドと同一です。「出品者のひとりごと:CHINON MACRO MULTI COATED(M42)」を参考にしています

入手の経緯
Chinon MCM MACROは知人が所有している個体をお借りしました。レンズのコンディションはとてもよく、ガラスに軽い拭き傷がある程度です。中古市場には最近、全く出てこなくなり、ヤフオクでもここ半年間で1本も出ていません。10年ほど前に買おうと思った時がありましたが、当時の相場は3万円弱で流通量も今よりは多かったと記憶しています。現在はもっと高い値が付くのではないでしょうか。
続いてAUTO-ALPAは2020年3月にeBayにて英国の古物商から250ドル+送料で落札しました。オークションの記載では「Very good condition」と説明されていました。このレンズのeBayでの相場は500ドル程度でしたので、安く手に入りラッキーと大喜びしていたのですが、届いたレンズには前玉のコーティングにごく小さなスポット状のカビ跡が2か所ありました。写真への影響は全く問題にならないレベルですので、これで良しとしました。




 
撮影テスト
これは一般論ですが、解像力(分解能)に偏重した画質設計ではフレアが発生しコントラストが低下気味になります。逆にコントラストに偏重しすぎるとヌケのよい画質になりますが、解像力が落ち、被写体表面の質感表現が失われてしまいます。両者は言わばトレードオフの関係にあり、メーカーによるチューニングがレンズの性格を決めています。シャープな像を得るには解像力とコントラストを高い水準でバランスさせる必要があり、うまくゆけば解像感に富む素晴らしい描写力のレンズができるとされています。今回取り上げる2本のレンズはどうなのでしょう。
両レンズとも開放からフレアの少ない高性能なレンズです。マクロ撮影に順応させただけのことはあり、背後のボケは中遠方でやや硬く、マクロ域までくると収差変動で適度な柔らかさに変わります。ボケはよく似ており、後ボケ内の点光源の輪郭は光強度分布まで含め、そっくりです。
 
Auto CHINON MCM Macro 55mm F1.7
CHINON MCM @F1.7(開放)sony A7R2(WB:日陰) 背後のボケ味はマクロ仕様のレンズらしく少し硬めで、玉ボケの輪郭部に光の輪っか(火面)ができています。ヌケはとてもいい
CHINON MCM @ F1.7(開放)sony A7R2(WB:日陰 iso 2400) 


CHINON MCM @ F2.8 sony A7R2(WB:日陰) 



 
Auto ALPA Macro 50mm F1.7

ALPA @ F2.8 sony A7R2(WB:日陰) こちらは色滲みが全く出ません。近接撮影に強い印象です

ALPA @ F4 sony A7R2(WB:日陰)



ALPA @ F1.7(開放) sony A7R2(WN:日陰) 遠方撮影ではChinonよりも柔らかく少し軟調気味です。近接を優先させ、かなり過剰補正にしたのか、これくらいの距離だと少しフレアが入ります。かなりストライクかも


  
画質の比較
遠方撮影時でのコントラストはCHINONの方が高く、発色も鮮やかなうえ濃厚です。ALPAはハレーション(迷い光)に由来するコントラストの低下がみられ、発色も青紫にコケる傾向があります。充分に深いフードをつけるなど、しっかりとしたハレ切り対策が必要です。ただし、滲みを伴うわけではありませんので解像感はCHINONと大差はありません。解像力は1段絞ったあたりでALPAの方がよく、CHINONよりも過剰補正が強いのでしょう。一方で近接撮影時になると遠方時とは少し様子が変わります。
CHINONは被写体の輪郭部が滲んで色付く色収差が目立つようになり、より近接域になるほど滲みが大きくなるとともに、ピント面全体でも少しフレア感が出てきます。この影響が描写の評価にかなり効いてしまい、解像感(シャープネス)はALPAよりも悪くなります。ALPAの方は近接撮影時でも色収差がよく補正されており、滲みやフレアは少なく、そのぶんシャープネスやヌケは一歩抜き出ています。ただし、一段絞れば両レンズのシャープネスはほぼ同等になります。
ポートレートから遠方を撮影する場合、コントラストはCHINON、シャープネスは同等かCHINONの方が僅かに上ですが、近接撮影になるとコントラストとシャープネスでALPAに軍配があがります。今回はマクロ撮影を売りにしたレンズであることを重視し、近接域で有利なALPAに軍配を挙げるべきかと思います。

さて、では評価結果を具体的に見てみましょう。2本のレンズの性能に顕著な差が見られたのは近接撮影時です。被写体はいつもの木馬で、ピントは目ではなく、質感の出やすい顎の表面の色が変色しているあたりとしました。絞りは開放、シャッタースピードとISO感度を固定し、三脚を立ててセルフタイマーを用いて撮影を行っています。

 
写真の赤枠を拡大したのが下の写真で、左がCHINON MCM MACRO、右がALPA MACROです。写真をクリックすると更に拡大表示ができます。
  


シャープネス(解像感)は明らかにALPAの方が高いうえ、コントラストも良く、スッキリとしたヌケの良い描写です。CHINONは色収差が大きめでフレアも出ています。背後のボケの拡散も大きいなどから判断すると、この距離で既に球面収差等が大きくアンダーに転じているように見えます。 

両レンズの活躍したフィルム撮影の時代では、色滲みは大きな問題にはなりませんでした。フィルム撮影による画質評価であるならばCHINON MCMが勝利した可能性も十分に考えられます。また、マクロ撮影用レンズの場合は絞った際に最高の画質が得られるよう過剰補正タイプにチューニングされている可能性もありますので、開放で評価した今回のテストは一つの切り口を与えたにすぎません。まぁ、CHINON MCMの場合は近接テストで既に補正がアンダーになっていたので、絞っても解像力の向上は限定的でALPAを追い抜くことは考えにくいと思います。

富岡光学がコシナに敗北するなんて信じられませんが、何度やっても結果は同じです。個体差なのではないかという意見もあるでしょうが、この意見は採用できません。CHINON MCMについてはショップでみつけた別の個体との比較をおこなっており、私が手に入れた個体との間に描写力の明らかな差は認められませんでした。
マクロスイターで名を馳せたピニオン社は本レンズを登場させるにあたり「スイス・コントロール」を宣伝文句に掲げていました。ピニオン社が当時のコシナにどのような技術供与をしたのか、とても興味がわいてきます。