おしらせ


2024/04/23

Canon Lens 400mm F2に遭遇!















Canon Len 400mm F2

オールドレンズフェスは刺激がいっぱい。Canonの超絶大口径レンズ400mm F2に遭遇しました。所有者のGEORAGEさんに会場に掲示されていたお写真の掲載許諾をいただきましたので御覧ください。凄いボケ量です。

2024/04/07

写真展の告知です

第六回 写真人会 写真展

Old Lens Best 3  私の選ぶ3本

2024年4月9日(火曜日)~4月14日(日曜日)

午前10:00-午後18:00

 JCII 日本カメラ博物館となり クラブ25

東京都千代田区一丁目25 JCIIビル地下1階


2024/03/10

LOOMP (LOMO) OKC1-75-1 (OKS1-75-1) MACRO 75mm F2

























LOMOのヘビー級マクロ・シネレンズ
LOOMP(LOMO) OKC1-75-1 (OKS1-75-1) 75mm F2  OCT-19 mount
ロシア製シネレンズにマクロ撮影用モデルがあることは、流通品を何度か目撃していましたので、認識はしていました。私が目撃した製品個体はPO2-2M、OKC1-75-1、OKC6-75-1の3製品で、いずれも焦点距離が75mmの35mm映画用レンズです。これらは撮影フォーマットがAPS-Cに近く、中望遠レンズというよりは望遠レンズのカテゴリーに入りますので、本来なら不人気のジャンルです。しかし、ライカ判(フルサイズセンサー相当)でもダークコーナーの出ない製品であることからポートレート撮影に流用できるため人気があります。さらにレンズがマクロ撮影仕様ともなれば流通量は少ないため、高額で取引される傾向があります。ただし、今回のレンズはデカさと重さでコレクターには嫌煙されているのでしょう。10万円前後の比較的買いやすい価格帯で流通しています。京都のブログ読者の方から1本お借りする機会が得られましたので、軽くレポートすることにしました。
お借りしたのはLOMOの前身団体である LOOMP(レニングラード光学器械工業企業体連合)が1964年代に製造したシネマ用マクロレンズのOKC1-75-1です。このレンズはそれ以前から存在していたKMZ PO2-2M やLENKINAP PO60の後継モデルにあたる製品です。レンズのヘリコイドは巨大で、金属製のため重量は何と865gもあります。ヘリコイドを完全に繰り出した時の全長は最も短い時の2倍にもなり、撮影倍率(最大値)は1.4倍に達します。センサーサイズと同じ幅の被写体を最短撮影距離で撮影すると、写真の幅の1.4倍の大きさで写ることになります。

OKC1-75-1(MACRO) 75mm F2: 重量(実測) 865g, 最大撮影倍率 x1.4, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, F2-F16, 絞り羽 16枚構成, 最短撮影距離 30cm前後, 定格撮影フォーマット Super 35mm(APS-C相当), マウント規格 OCT-19, Pコーティング(単層), 最大撮影倍率 約1.4倍
 
焦点距離75mmのシネレンズと言えば、1940年代中半に開発されたPO2-2がロシアでは始祖的な存在です。その後はレニングラードのLOOMPやLENKINAP工場でPO2-2をベースとする改良モデルのPO60(1950年代中半~)やOKC1-75-1(1960年代~)が開発されます。これらはいずれも2つの貼り合わせ面を持つ4群6枚構成のレンズで(下図)、レンズエレメントの形状や各部の寸法が似通っていますので、PO2-2からの直接の流れを汲んだ製品と言って間違いありません。
PO2-2とOKC1-75-1の構成図でGOIレンズカタログからのトレーススケッチです
 
今回のレンズはマクロ撮影用の特殊仕様ですが、ヘリコイドの繰り出し量が大きいだけで、光学系は通常撮影用のOKC1-75-1と同一であるというのが自然な解釈です。根拠はありませんが、GOIのレンズカタログにはマクロ版のOKCシリーズは掲載されていませんし、今回のレンズ個体の銘板にマクロモデルであることを主張するような表記は見当たりません。文献がないので、あとは撮影で判断するしかありません。マクロ撮影用に再設計された光学系であれば収差変動を考慮し補正の基準点が近接側にあるため、遠方撮影時には開放で少しフレアが出たり、背後のボケがゴワゴワと硬めのボケ味になる事が予想されます。
さて、届いたレンズを手に取り、デカさと重さ、金属とガラスの塊のような鏡胴に思わず笑ってしまいました。しかし、驚くのはまだはやく、ヘリコイドを回すと更に一回りも二回りも巨大化するのです。シュタインハイルのマクロレンズも見事な存在感でしたが、ここまでは重くはなかったです。
 
作成したOCT-19 to LEICA Mアダプター
レンズはOCT-18の後継にあたるOCT-19というマウント規格です。この種のレンズをデジタルカメラで使用するためのアダプターは存在するにはしますが、M42やライカなど汎用性の高いマウント規格に変換するアダプター製品が見当たりません。今回は様々な部品を組み合わせることで、ライカMマウントに変換するためのアダプターを自作しました。部品の組み合わせを下の写真に示します。当初予定していたM42アダプターの制作は途中で断念しました。マウント側の間口が後玉の直ぐ後ろに来てしまい、光の反射が画質に悪影響を及ぼすと判断したためです。
 
自作OCT-19マウント・アダプターの部品構成。これで微かにオーバーインフとなります
 

入手の経緯
レンズは京都のブログ読者からお借りた個体で、このレンズを使うためのOCT-19アダプターを自作で作っほしいというご相談とともに送られてきました。私はプロではないので、この手の依頼は原則受けないのですが、このデカいレンズには興味がありましたので、お引き受けすることとしました。eBayでアダプター製品を見回しますと、OCT-19マウントのアダプターは200ドルから300ドルと高値で取引されています。ただし、汎用性の高いM42やライカマウントに変換するようなアダプター製品はまだ存在しないようです。レンズの方はもともとeBayで700ドルで売られていたものを値切り交渉により525ドルで手に入れたとのことです。ガラスの状態は傷、カビ、クモリ等なくたいへん良好でした。私も値切り交渉は時々しますが、そこまで安くしてもらった経験はまだありません。せいぜい10~15%引きくらいまでです。
 
撮影テスト
高性能なレンズです。開放から滲みはほぼ見られず、ピント部には十分な解像感があります。開放での画質はやや軟調気味で発色もやや淡くなるものの、1段絞ればコントラストは向上し、更にシャープな像が得られます。ただし、絞っても階調は硬くはなりませんので、ここはオールドレンズならではの長所かとおもいます。背後のボケはポートレート域でも比較的柔らかく、綺麗に拡散しています。こうした描写の特徴からは、やはりこのレンズはマクロ用に設計されたものではなく、普通のOKC1-75-1からの転用であると感じさせられます。
定格イメージフォーマットは35mm映画用フォーマット(APS-C相当)ですので、規格外のフルサイズ機で用いると、通常は画角内に写らない広い領域が写ります。しかし、グルグルボケや放射ボケは全く見られませんし、ピント部も像は四隅まで安定しています。歪みは樽型ですがフルサイズ機でも目立たないレベルでした。良像域が広く、画質的にかなり余裕のある設計のようです。
続いて近接撮影ですが、開放では色収差による滲みが出ているものの2段も絞れば滲みは完全に消え、十分な解像感とスッキリとしたクリアな像が得られます。絞る事が基本のマクロ撮影ですので、開放での滲みは大した弱点にはならないでしょう。
 
F4 Nikon Zf (WB:日光)  蛇の影が現れました!


F2(開放) Nikon Zf(WB: 日光Auto) 今日もこの子がモデルです
F5.6 Nikon Zf(WB:日光Auto) 近接域の写真も一枚どうぞ。開放では少し色収差の滲みがでましたが、少し絞ると滲みは完全に消えます
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光Auto) 背後のボケは綺麗です。このくらいの距離でボケ味が硬くならないところから推し量ると、おそらく光学系はマクロ仕様ではなく、普通のOKC1-75-1からの転用であると思われます。四隅で口径食が出ていますが、規格外のフルサイズ機で用いている事に加え、前玉がかなり奥まったところにあることが影響しているのでしょう


F2(開放) Nikon Zf(WB:日光Auto) 開放でも全く滲みません。ピントを正確にあわせ赤枠をクロップしますと・・・
Cropped from one previous photo: 中央はこのとおりシャープで、性能はしっかり出ています。もう少し拡大し、100%クロップしますと・・・
Cropped from one previous photo(100% crop) キリッとした像を維持しています

F4 Nikon Zf (WB:日光Auto) 四隅まで像は安定しており、歪みも僅かです。こういう写真は30年後に見ると面白い!こんなのあったあったと楽しめそうです。しかし、この写真だけ見ると、今の日本の物価は30年前と大差が無いことを実感します

2024/02/28

Ludwig-Dresden PILOTAR ANASTIGMAT 7.5cm F2.9 (M31 screw mount)



バブルボケレンズに変身する前玉回転方式のトリプレット型レンズ

Ludwig-Dresden PILOTAR ANASTIGMAT 7.5cm F2.9

少し前から前玉回転方式でピント合わせを行うトリプレット型レンズを探していました。焦点距離は標準レンズよりも少し長めで、開放F値はトリプレット型の性能限界にあたるF2.8前後の製品です。そうなるとターゲットは自然と中判用レンズになるわけで、結果として今回取り上げる製品に辿り着きました。かつてドイツのドレスデンにあったE.Ludwig(E.ルードヴィッヒ)社が製造し、1939年から1941年までKW(Kamera Werkstätten)社のPilot Super(ピロート・スーパー)という中判カメラに搭載する交換レンズとして供給したPilotar(ピローター)です[1,2]。

レンズの前玉回転を無限側に固定すると球面収差が過剰補正になり、この設定を維持したまま外部ヘリコイドを使用して近接域からポートレート域の被写体を撮ると、背後にバブルボケがわんさかと出るという見立てです。つまり、前玉回転式のトリプレットレンズを追えば強いバブルボケレンズに行き当たるという仮説を主張したいわけなのですが、この見立てがどれほど有効なのかを自分の目で確かめてみたくなったのです。

絞り F2.9-16, 絞り羽 17枚構成, 最短撮影距離 1m, 重量(実測) 80g,3群3枚トリプレット, M31スクリューマウント, フィルターネジはない,ピント機構は前玉回転式


さて、実際にPILOTARを手にしてみたところ、確かに前玉回転でピントを合わせるレンズでした。しかし、よく見ると繰り出されるのは前玉のみではなく、レンズの1枚目(前玉)と2枚目がセットで繰り出されていることがわかりました。想定外の事態ですが、まぁ、よしとしましょう。ところで、このレンズには何と絞り羽が17枚もありますので、絞っても綺麗な真円のボケになります。

参考文献

[1] McKeown, James M. and Joan C. McKeown's Price Guide to Antique and Classic Cameras, 12th Edition, 2005-2006. USA, Centennial Photo Service, 2004. ISBN 0-931838-40-1 (hardcover). ISBN 0-931838-41-X (softcover). p585.

[2] Instruction for using the PILOT SUPER, Kamera Werkstätten

入手の経緯

PILOTARはカメラとセットで販売されていることが多く、レンズのみが単体で売られているケースは極稀です。私は2022年10月にeBayにてレンズのみの単体を即決価格155ドルで購入しました。レンズのコンディションは「MINTY(美品)。僅かなホコリの混入はあるが、カビ、クモリ等ない状態」とのこと。廉価製品であることは間違いないので、もっと安い値段で入手したかったのですが、いくら待っても状態の良いレンズには巡り会えません。この値段は仕方ないものと判断し、諦めてポチりました。

撮影テスト

さて、いきなりですが予想が的中し、強いバブルボケレンズに出会うことができました!いつもこうである保証はないので、他にも事例を集め、普遍性を確認してゆく必要があります。

一般にトリプレット型レンズの描写はシャープネスとコントラストが高く、中心解像力が高いのが特徴で、画角を広げすぎると四隅の像が破綻気味になります。一方、今回のレンズはトリプレットらしからぬソフトな描写となっています。このような描写傾向は過剰補正型レンズの特徴で、最短側で大幅な補正不足に陥ることを見越した上で、それを打ち消すため、はじめから計画的に強めの過剰補正で設計されているものと考えられます。

球面収差が過剰補正のため、背後の点光源がボケると輪郭部に「火線」と呼ばれる強い光の輪が現れ、バブルボケを形成します。レンズを定格よりも画角の狭いフルサイズセンサーで用いた場合には、写真の四隅までバブルボケが真円に近い理想的な形状を維持しています。反対にピント部前方(前ボケ側)はフレアがたっぷりと盛られ、強い滲みを伴うソフトな描写となります。ただし、少し絞るとシャープネスとコントラストが急激に向上し、滲みは瞬く間に消え、スッキリとしたヌケの良い描写に変わります。ほんとうに絞りのよく効くレンズです。

そんなわけで、前玉回転方式のトリプレット型レンズで、まさに強いバブルボケレンズに出会うことができたわけです。デジタルカメラと中判フィルム機での撮影結果を続けて御覧ください。

 

PILOTAR x DIGITAL CAMERA

F2.9(開放) Fujifilm GFX100S (日光, フィルムシミュレーション:CC)ピント部は滲みを伴う柔らかい描写です。背後の点光源が強いバブルボケになっていることがわかります。軟調ですがフジのデジタルカメラが持つ発色傾向と相まって個性的な色味になっています。僕がフジを好んで使うのはこういう描写だからです

F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, フィルムシミュレーション:スタンダード) バブルボケを撮る場合にデジタル中判機(GFX)では画角が広すぎるようで、写真の四隅でバブルが歪んでしまいます。あまりおすすめできません。フルサイズ機の方が相性はよさそうです

F2.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB:日光, フィルムシミュレーション:スタンダード) 




F2.9(開放) Nikon Zf(WB: 日光Auto) フルサイズ機で用いたほうがバブルの形は綺麗です。クッキリとした輪郭が出てり、前玉回転で強制的に過剰補正に導いた効果がよく出ています
F2.9(開放) Nikon Zf(WB: 日光Auto) 前ボケは滲み、後ろボケはゴワゴワと硬めのボケ味になるのが、このレンズの特徴です。ニコンのデジタル機なので癖はなく、自然な発症傾向です。画質の評価にニコンのカメラは適しています


F2.9(開放) Nikon Zf(WB: 日光Auto) バブルボケを発生させるには背後の遠方に光るものを捉えるだけです。時々バブルボケが出せないという相談がありますが、シャッターを押せばバブルボケが出るわけではありません。バブルボケを発生させるのは環境要因ですので、その点に留意して沢山写真をとってみてください

F2.9(開放) Nikon Zf(WB: 日光Auto)
Bronica S2のマウント部はM57スクリュー(ネジピッチ1mm)になっており、アダプター経由で他社製レンズを搭載することができます


中判6x6フォーマットでの写真作例

このレンズは中判6x6フォーマットをカバーできるよう設計されていますので、ブロニカS2で用いればレンズの性能を十分に引き出すことができます。この場合の35mm換算値は41mm F1.5です。無限のピントを拾えるようにするため、レンズをブロニカのカメラ内部に沈胴させた状態でマウントしました。こんなに沈胴させてはミラーにヒットしてしまうのではと心配なさる方もいるかと思いますが、大丈夫です。ブロニカS2は唯一無二の特殊な構造のため原理的にミラー干渉が起こりません。

F2.9(開放) Fujifilm PRO160NS(無限固定) : 遠方を開放でとるとこの通りに、かなり柔らかい

F2.9(開放) Fujifilm PRO160NS(無限固定) 中遠景ではフレアは減り、少しシャープになります

F2.9(開放)Fujifilm Pro160NS(無限固定)  ボケはこのくらいの近接でも、まだ硬くバブル気味。でも、フレアは収まった様子です

F2.9(開放)Fujifilm Pro160NS(無限固定) :開放でも、このくらい近接なら、だいぶシャープです



2024/02/12

Corfield LUMAX 45mm F1.9


カメラをプロだけでなくアマチュアにも広く使ってもらい、自身のビジネスを成功に導きたい。そう考えたケネス・コーフィールドは大衆向けカメラのPeriflexを開発し、交換レンズとともに世に送り出します。今回ご紹介するレンズは英国コーフィールド社が1957年ごろに市場供給したLUMAX 45mm F1.9という交換レンズです。

大衆向けカメラの普及に尽力した

英国コーフィールド社の高速標準レンズ

Corfield LUMAX 45mm F1.9 Leica L(L39) mount

コーフィールド社(K.G.Corfield Ltd)はケネス・コーフィールドという人物が1948年に妻ベティ、弟のジョンらと共に創業した家族経営の光学メーカーです。同社は現像用引き伸ばし機、暗室製品、カメラの製造を手掛け、エキザクタなどヨーロッパ製品の輸入代理店を兼ねていた事でも知られています。会社は当初、英国中部の都市ウォルバーハンプトンを拠点としていましたが、工場が老朽化したため、1958年に北アイルランドのバルモニーに移転し、1971年まで存続していました同社についてはBev Parkerの詳しいホームページやJohn E. Lewisが執筆した書籍があり、2016年までご存命だったケネス・コフィールドの監修をうけていますので、確かな情報が得られます[1-3]。

創業者のケネスは英国のSecondary schoolを卒業後、鉄の鋳造技術者として事業を成功させた祖父の影響でエンジニアを志望、ウォルバーハンプトンの工科大学で機械工学を専攻しながら、16歳半ばで見習いエンジニアとしてFischer Bearings社に入社します。その間、自宅では趣味の写真が高じて、印画紙や薬品の使用量を節約できる画期的な引き伸ばし機のアイデアを考案します。このアイデアが後の会社設立のきっかけとなりました。「ルミメーター」と名付けられたこの引き伸ばし機は1948年に彼の弟ジョンの助力を得てプロトタイプの12台が完成、会社設立後の翌1949年には量産品に注文が殺到し、5000台もの数が出荷されます。ルミメーターの成功で会社経営軌道に乗り、その後は手持ち式のスプリットイメージ精密距離計や光学式露出計などを商品化、1958年には潜望鏡の仕組みを応用したユニークなフォーカシング機構を持つ大衆向けカメラのPeriflex 1を発売しカメラ産業にも参入します。

Periflexの製品コンセプトは、ライカの所有者がセカンドボディとして購入するカメラだったそうで、このカメラにはライカスクリューマウントが採用されました。Periflex 1の発売は1953年のカメラ雑誌に発売前の予告記事として告知されますが、この広告戦略には効果があり、カメラが店頭に並ぶと注文が殺到、生産が追いつかないほどのヒット商品になります。1957年には後継製品のPeriflex 3、翌1958年には普及モデルのPeriflex 2が発売されます。供給体制を何とか維持するため、普及モデル(Periflex 2)の市場投入は上位モデル(Periflex 3)の1年後に見送られたそうです[1]。

ケネス・コーフィールド卿の似顔絵スケッチ(生成系AIによるイラスト)。同氏は写真をもっと普遍的なものにし、英国がドイツやアメリカのような写真立国と呼ばれるようになることを望んでいたそうです。カメラをプロだけでなくアマチュアに広くも使ってもらい、自身のビジネスを発展させたいと考えていました。Periflexを大衆向けカメラとして開発したのは、そういう思惑からだったのでしょう

今回紹介するLUMAX 45mm F1.9は同社が1957年に発売したPeriflex 3というカメラに搭載する交換レンズの一つとしてカメラと共に登場しました。このカメラには他にもLUMAX 45mm  F2.8, Retro-LUMAX 35mm F3.5, Lumar-X 50mm F3.5, Lumax 100mm F4.5などが供給されています。レンズの設計は下図に示すような4群6枚のオーソドックスなガウスタイプで、レンズエレメントの幾つかには高性能なランタンガラスが使用されていました[3]。ちなみに同社のレンズに導入されたランタンガラスはドイツのEnna Werk社から供給をうけていたそうです[1]


文献[3]に掲載されていたスケッチからの再トレース(見取り図)

 

Corfield社自体に当社レンズの設計技術や製造技術はなく、Periflex 1に搭載する交換レンズは英国ウォールソールにあるBritish Optical Lens Co(英国光学レンズ社)から供給を受けました。今回ご紹介するLUMAX 45mm F1.9も同じ供給元であったのか確かな情報はなく、レンズをどのメーカーが製造したのかは不明です。

ところがこのレンズ、発売後に英国Wray社から同社保有の特許権(Charles Wynneが設計)を侵害していると指摘され、大問題となってしまいます[3]。WrayはCorfileldに何らかのロイヤリティを支払うか、レンズの市場供給を停止するよう選択を迫りますが、両社は有効的な話し合いを行い、最終的には製造したレンズ1本につきCorfield社が数シリングのロイヤリティをWray社に支払うことで和解します。これを機にレンズの鏡胴にはWrayの特許番号が刻印されることとなります。

 

参考文献

[1] Bev Parker, The Corfield Story

[1] John E. Lewis, it's by CORFIELD: it must be good...: the periflex story

[3] John E. Lewis, Corfield Cameras: A History & Collector's Guide

 

入手の経緯

レンズは2020年にeBay経由で英国の個人出品者から送料込みの総額350ドルで購入しました。このレンズのeBayでの相場は400ドル位からだと思います。商品の解説は「ガラスに少し拭き傷があるが問題はない.クリアな写真が撮れている」とのこと。安めの価格設定だったのは良かったのですが、ピントリングと絞りリングが両方ともカチンコチンに硬く、手をいれる必要がありました。拭き傷は少なく、実写への影響は問題ないと判断したため、文句は言わずに自分でオーバーホールすることにしました。構造は単純で分解そのものは何でもありませんでしたが、ヘリコイドを分解する際に後玉の周りにある秘密の極小ねじを外さなければならない事がわかりました。よく観察すれば見つけられるとおもいますが、これを外さないとヘリコイドを分離することができません。

Corfield LUMAX 45mm F1.9:  重量(実測)164g, 絞り羽 12枚構成, 絞り F1.9-F16, Periflex L39 mount(Leica L39互換) 









 

撮影テスト

レンズには幾つかのエレメントに高価なランタンガラスが用いられており、レトロな鏡胴のデザインからは想像のできない高性能な製品となっています。シャープネスとコントラストは高く、開放から滲みは全く見られません。解像力は平凡ですがスッキリとクリアに写るレンズです。背後のボケには少し流れがみられるものの、グルグルボケと呼べるほど顕著な流れには至りません。若干ですが糸巻き状の歪みが出ており、人物を撮るポートレート撮影には向いていそうです。45mmの焦点距離はやや欲張り過ぎたのか、写真の四隅にやや光量落ちが目立ちます。勿論これが好きな人には大歓迎でしょう。

Corfield LUMAX + Nikon Zf
  
F1.9(開放)Nikon Zf(WB:曇り空) 
F1.9(開放)Nikon Zf (WB:曇り空)
F1.9(開放)Nikon Zf(WB:曇り空)




F1.9(開放)Nikon Zf(WB:日
F1.9(開放)Nikon Zf(WB:日陰) 


F5.6 Nikon Zf(WB:日光) 


F? Nikon Zf(WB:日光) 


F5.6  Nikon Zf(WB:日陰) 


F4  Nikon Zf(WB:日光) 


F2.8  Nikon Zf(WB:日光) 


F1.9(開放)  Nikon Zf(WB:日陰) 


F1.9(開放)  Nikon Zf(WB:日陰) 
















1960年代に入ると安価で高品質な日本製カメラがイギリスのカメラ店に並ぶようになり、これに対抗してドイツの大手メーカーも価格を引き下げるようになりました。海外メーカーとの競争の激化で苦境に立たされたコーフィールド社は、アイルランドのビール会社ギネスから資本注入を受け企業活動を存続させます。しかし、会社の経営が50年代のような拡張期の状態の戻ることはありませんでした。K. G.コーフィールド社は1971年7月に閉鎖されてしまいます。

Wollensak Cine-Velostigmat 1.9/25(1 inch)



滲みは控えめですが、それでも凄い

ブラック・ベロスティグマート

Wollensak Cine-Velostigmat 25mm(1inch) F1.9 C-mount

滲み系シネレンズの代表格として今や若者を中心に人気のCine-Velostigmat F1.5(シネ・ベロスティグマート)には、実は開放F値を1段抑えた兄弟(F1.9のモデル)が存在します。1段抑えたぶんだけ滲みや収差は控えめのはずですが、開放では依然として凄い描写です。F1.5が手に負えないと言う方には、こちらのモデルを試してみることをおすすします。

レンズは米国ニューヨーク州ロチェスターに拠点をかまえていたウォーレンサック社(WOLLENSAKが1940年代から1950年代にかけて、ボレックスという16mmの映画用カメラに搭載する交換レンズとして市場供給しました。軟調で発色も淡いので、ふんわり、ボンヤリとした写真を狙うここぞという時に力を発揮し、オシャレな写真が撮れます。飛び道具としてポケットに入れておきたいアイテムの一つです。

レンズはCマウントのためアダプターを介して各社のミラーレス機にて使用することができます。イメージサークルはAPS-Cセンサーをギリギリでカバーできる広さがあり(ただし、四隅が少しだけケラれます)、マイクロフォーサーズ機で用いる場合には標準レンズ、APS-C機では広角レンズとなります。鏡胴がコンパクトで軽いため小型ミラーレス機でもバランスよく使用でき、旅ではこれ一本あれば一通りの撮影をこなすことができます。唯一の弱点は最短撮影距離が50cmと長めなところで、これを克服するには、Cマウントレンズ用のマクロエクステンションリングを手にいれておくとよいでしょう。最短撮影距離を18cmまで短縮でき、十分に寄れる万能なレンズとなります。

 

Cine Velostigmat 1inch F1.9/F1.5の見取り図(Sketched by spiral)。左が被写体側で右がカメラの側です。構成は4群4枚でHugo Meyer社のKino Plasmat4枚玉バージョン[DE Pat.401630 (1924)]と同一構成です
 

レンズの設計構成は上図に示すようなKino-Plasmatの4枚玉バージョン[DE Pat.401630 (1924)]で、一段明るいF1.5のモデルと同じ光学系を流用しています。下の写真のように前群を抑えるトリムリングの厚みを変えることでF1.9としてあります。コーティングのある個体とない個体が存在しており、今回私が手にした個体にはコーティングがありませんでした。コーティン付きよりも更に軟調な描写です。

Cine Velostigmat 1inch F1.9(左)と 1inch F1.5(右)の前群を外したところ。両者は全く同一の光学系です。F1.9はトリムリング(レンズエレメントを固定するリング)の厚みで口径比を制限しています

レンズの市場価格

流通量はF1.5のモデルより少なく、探すとなるとやや大変です。値段的にはF1.5のモデルと大差はなく、eBayでの落札相場は100-150ドルくらいでしょう。ただし、市場に流通している個体の多くはヘリコイドグリスが固着しているので、オーバーホールを視野に入れておく必要があります。中古店での相場は25000~35000円とネットオークションに比べ割高ですが、オーバーホールされているなら、このあたりの値段でも妥当でしょう。

Wollensak Cine Velostigmat 1inch F1.9: 重量(実測)100g, 絞り羽 9枚構成, 最短撮影距離 約50cm, 絞りF1.5-F16, 絞り F1.5-F16, Cマウント, 16mmシネマフォーマット, 設計構成は4群4枚のKinoplasmat型, コーティング付のモデルとノンコートのモデルがありノンコートモデルの流通が大半のようだ


  
撮影テスト
開放ではフンワリと柔らかい描写で、薄いハレーションが適度な滲みを伴ってあらわれます。ただし、ピント部中央には芯がありソフトフォーカスレンズよりも細部までしっかり解像します。トーンが軟らかいうえ発色は淡いのですが、色が薄くなることはありません。個性の強い描写ですので常用にはできませんが、使いこなせるようになれば、ここぞという時に良い働きをしてくれる強い手駒となるはずです。ちなみに背後には強めのグルグルボケが出ており、APS-C機で用いると糸巻き状の歪みと、周辺光量落ちが目立ちます。近接撮影時は収差の嵐に見舞われます。
 
 
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日光)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日光 Aspect Ratio 16:9)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日光 Aspect Ratio 16:9)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日陰 Aspect Ratio 16:9)
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日陰 Aspect Ratio 16:9)
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB:日陰、Aspect ratio 16:9)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB:日陰 Aspect ratio 16:9)
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB:日光 Aspect ratio 16:9)