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2024/06/01

YASHICA COLOR-YASHINON DX 35mm F1.8

何しろ昭和の名機ヤシカ・エレクトロシリーズを語る上では外せない、広角モデルのELECTRO 35 CCに搭載されていたレンズです。広角でありながらF1.8の明るさ実現した貴重な存在でしたし、独特の青の発色は「ヤシカブルー」などと呼ばれました。いつかデジタルカメラでも使ってみたいと思っていたところ、その機会は前触れもなく訪れました。写真を撮り始めると予想外の展開が・・・。いつも被写体の背後に「何か」が写るのです。そこにいたのは「氷の妖精」の異名を持つクリオネでした!

クリオネが現れる大口径広角オールドレンズ

YASHICA COLOR-YASHINON DX 35mm F1.8

古い35mmレンジファインダー機にF2を超える明るさの広角レンズがついていることは極めて稀です。一眼レフカメラではどうかというとバックフォーカスを長く取るという制約があり、F2よりも明るい広角レンズを作ることは容易ではありません。1950年代のキャノンのライカマウントレンズやニコンSマウントレンズにこのクラスの明るいレンズが少しありましたが[0]、後に一眼レフカメラ全盛時代を迎えると、この明るさのレンズは著しく数を減らします[1]。そういうガラパゴス的な事情からか、キャノンやニコンの35mm F1.8は現在とても高価な値段で取引されています。

ある日、中古カメラ店のジャンクコーナーに束になって転がっていたヤシカエレクトロ35に出会い、思わず二度見してしまいました。明るい広角レンズCOLOR-YASHINON DX 35mm F1.8のついたELECTRO 35 CCです。一見するとごく普通のありふれたレンズが付いているようにも見えますので、誰の目にもとまらなかったわけです。カメラは故障品でしたが、レンズがまだ使えそうでしたので引き取って再利用することにしました。

ヤシカエレクトロ35シリーズといえば1965年に発売され、1980年まで全世界でシリーズ累計800万台を販売した大ヒットカメラです[4]。今回手に入れたカメラは同シリーズの中で唯一、広角レンズが付いているELECTRO 35 CCというモデルで、1970年に「ろうそく1本の明かりで撮れる!」とのキャッチコピーで登場しました。ちなみにスタンリー・キューブリック監督が明るいカール・ツァイスのレンズを手に入れ、ろうそくの炎だけで撮影した映画「バリー・リンドン」を連想させますが、映画は1975年でしたのでパクリではありません。

さて、救出したカメラの固定レンズをミラーレス機に付けるために、どう改造するかが問題でした。バックフォーカスが短く改造難度の極めて高いレンズでしたので、ヘリコイドごと取り出しライカMマウントに改造する案は物理的に不可能であることがわかりました。それどころか鏡胴が太いためSONY Eマウントに改造する事すらも実質無理(←信じ難いことですが、やってみるとわかります)。残された選択肢はヘリコイドを捨て外部ヘリコイドに載せミラーレス機のマウントにするか(ただし使えるカメラが限定されてしまう)、ミラーレス機用ヘリコイド付きアダプターでの使用を想定し、ヘリコイドレスのままライカMマウントにするか(汎用性重視)の二択です。シャッターをスタックさせるため一旦は鏡胴を分解し、シャッターユニットの内部に辿り着かなければなりません。改造には手間のかかるレンズですが、どうにかフルサイズミラーレス機で使用できるようになりました。このブログでは過去にYASHICA HALF 14用のYASHINON-DX 32mm F1.4を扱いましたが、この時も改造難度が高く散々な目に合いました。YASHINONはとにかくバックフォーカスの短い点が共通しており、容赦がありません。

YASHICA ELECTRO 35 CC。1973年には改良モデルのELECTRO 35 CCNが登場しますが、カメラのデザインはほぼ同じで、搭載されているレンズも同一です




絞り羽は脅威の2枚構成、特異仕様です。えっ?絞り羽って2枚で行けるの?。上の写真は1段絞った際の開口部の形状で、「クリオネ」のように見えますが、これが原因で写真の中の点光源が特異な形状となります。ネットにはこれを「クリオネボケ」とか「エンジェルボケ」などと呼ぶ人がいます。どうしてこんな非対称な絞りを採用したのか理解が追いつきません

COLOR-YASHINON DX 35mm F1.8のレンズ構成は4群6枚のオーソドックスなダブルガウスです[2]。前玉や後玉の曲率が大きく、ガラスが前後に大きく飛び出しています。レンズの設計と供給を担当したメーカーがどこなのかは、確かなエビデンスとなる文献や資料がなく不明です。ただし、この時代のヤシカには藤陵嚴達氏率いるヤシカ光学研究室があり、レンズを自社設計することができました。藤陵氏の回顧録にも「ヤシノン交換レンズ群、エレクトロ35用レンズ等を設計」とありますので、レンズを設計したのはヤシカ(藤陵氏もしくは藤陵監修)である可能性が濃厚です[4]。藤陵氏と言えば八洲光学工業からズノー光学(旧帝国光学工業)を経て1961年にヤシカに移籍しており、かの有名なZUNOW 50mm F1.1後期型(1953年発売)の設計に関わった人物でもあります[3]。レンズの製造は1968年から同社の子会社となった富岡光学で対応できました。レンズの設計はヤシカ、製造は富岡光学であったというのが大方の共通見解です[3-5]。情報をお持ちの方はお知らせいただけますと幸いです。

参考・脚注

[0] Canon 35mm F1.8 / F1.5(L mount), Nikon W-Nikkor 3.5cm F1.8(S mount)

[1] Minolta-HH 35mm F1.8 (MD), Tomioka Auto TOMINON 35mm F1.9(M42),  ENNA Super Lithagon 35mm F1.9 (M42, Exakta etc)

[2] YASHICA Electro 35 CCN Instruction manual

[3] 光学設計者 藤陵嚴達~ズノー、ヤシカ、リコー~, 脱力測定(2021年)

[4]  藤陵嚴達「六十年の回想」

[5] 写真工業1966年6月号 「新型カメラの技術資料」

 

撮影テスト

開放では僅かにフレアが発生し適度に柔らかい描写ですが、コントラストは良好で発色も鮮やかです。中心部は解像力があり、線の細い緻密な像を描きます。ただし、四隅にゆくほど像は甘くなります。一段絞ればフレアは消失し、スッキリとしたヌケの良い描写で、四隅までシャープな像が得られるようになります。ボケは概ね安定しており、グルグルボケは近接撮影時に少し出る程度です。発色傾向については、フィルム写真の時代から青に定評があり、くすんだような独特な青の表現を指して「ヤシカブルー」などと呼ばれることがありました。また、絞り開口部の形状が歪で、1段以上絞ると点光源がクリオネの形に見えることがあります。ネット上では「クリオネボケ」「エンジェルボケ」などと呼ばれることがあります。

F4 Nikon Zf(B&W mode)

F1.8(開放) Nikon Zf(B&W mode)
F1.8(開放) Nikon Zf(B&W mode)
F4 Nikon Zf(WB: 日光A)

F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光A)

F5.6 Nikon Zf(WB:日光A)

続いてボケを生かした写真を何枚かどうぞ。レンズの絞り羽はたったの2枚で、このため1~2段絞ったあたりで絞りの開口部が歪な形状となります。どうしてこんな非対称な形状を選んだのか理解が追いつきません。シャッター開口部の非対称な形状に起因する不均一な光の取り込みを絞りの形状で補正したかったのでしょうか?
 
F2.8, Nikon Zf(WB: 日光)
F4, Nikon Zf(WB:日光)

F4, Nikon Zf(WB:日光)


F2.8, Nikon Zf(WB:日光)

F1.8(開放),Nikon Zf(WB:日光)

F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F4, Nikon Zf(WB:日光)

F4, Nikon Zf(WB:日光)


スナップ写真の表現に遊び心を添える事ができるのは、この種のファンタジック系レンズの醍醐味ですね。


2023/03/08

YASHICA Auto YASHINON 5.5cm F1.8 (M42 mount)

逆光で光輝く白毛のサラブレッド
シルバー・ヤシノン

YASHICA AUTO YASHINON 5.5cm F1.8 M42-mount

美しいデザインと卓越した描写性能で知られるヤシノン5.5cm F1.8(後期型)は、日本の光学メーカーが絶頂期を迎える1960年代半ばに登場した、一眼レフカメラ用のM42マウントレンズです。この製品は当時カールツァイスから一目置かれていた伝説の光学メーカー「富岡光学」と、後の1975年よりツァイスとの共同事業でコンタックスブランドのカメラの製造と販売を行うヤシカ(旧・八洲光学精機株式会社[Yashima Optical Co., LTD])のコラボレーションによって生み出されました。富岡光学は1968年にヤシカの傘下に入り、ツァイスとの共同事業ではカールツアイスブランドのレンズの生産を担うようになります。今回はヤシノンブランドの中で私がイチオシでオススメしているヤシノン5.5cm F1.8の後期型(通称シルバー・ヤシノン)を取り上げ紹介します。
 


レンズはヤシカより発売されたM42マウント一眼レフカメラのYASHICA Penta J-5(1964年発売)に搭載する交換レンズとして登場しました[1]。ちなみに先代のPenta J-3(1962年発売)には半自動絞りを備えた別モデルのYASHINON 5cm F2が供給され[2]、反対に後継のPenta J-7(1968年発売)にはブラックカラーのYASHINON 50mm F1.7が供給されました[3]。Yashinon 5.5cm F1.8には、少し前の1960年に発売されたPentamatic用のバヨネットマウントのモデルが存在しますが、こちらは別会社が供給したレンズのようで、鏡胴のデザインが若干異なるうえ、色もブラックのみで、シリアル番号にもシルバー・ヤシノンとの連続性がありません。シリアル番号からはYashica YF用(1959-1960年)にセット供給されたSUPER-YASHINON 5cm F1.8や、Pentamatic II用に供給されたYashinon 5.8cm F1.7と同じ供給元のように思えます。シルバー・ヤシノンが供給されたのはPenta J-5の供給時のみでしたので、市場での流通量は少ないわけです。まさに「白毛のサラブレッド」といったところでしょう。
レンズの設計構成は下図に示すようなオーソドックスはガウスタイプ(4群6枚)です。レンズの設計と供給を担当したメーカーがどこなのかは、確かなエビデンスとなる文献や資料がなく不明です。ただし、この時代のヤシカには藤陵嚴達氏率いるヤシカ光学研究室があり、レンズを自社設計することができました。藤陵氏の回顧録にも「ヤシノン交換レンズ群、エレクトロ35用レンズ等を設計」とありますので、藤陵氏である可能性が濃厚です[5]。藤陵氏と言えば八洲光学工業からズノー光学(旧帝国光学工業)を経て1961年にヤシカに移籍しており、かの有名なZUNOW 50mm F1.1後期型(1953年発売)の設計に関わった人物でもあります[6]。レンズの製造は1968年から同社の子会社となる富岡光学で対応できました。製造したのは富岡光学であることが、こちらの個人の方の検証から示されています。文献[4]にはレンズに対する性能評価があり、中心解像力が200線/mm、周辺部116線/mmという、1960年代前半の製品としては頭一つ抜き出た性能を叩き出しており、富岡光学の底力を感じる高性能なレンズと言えます。ただし、レンズに使われたシングルコーティングが逆光耐性に弱く、光には極度に敏感で、逆光になると性質が豹変、緻密な像の描き方は維持しながらも驚くほどの軟調な描写に様変わりします。こうなってしまうと色は淡白で暗部が浮き上がり、ゴーストがビュンビュンと飛び交う「別物」で、ステキな写真が撮れると思います。この手の描写を好むオールドレンズファンには使い出のあるレンズとなるに違いありません。
工業製品としての美しさも大事なポイントです。その後の日本製レンズがプラ鏡胴でゴムローレットの没個性的なデザインに画一化されてゆくことを考えると、この時代のヤシノンには手にしたときの上品な質感があり、作りの良さが感じられます

YASHINON 5.5cm F1.8の構成図:文献[3]からのトレーススケッチです。設計構成は4群6枚のガウスタイプ

参考文献
[1] Yashica J-5 INSTRUCTION BOOKLET(1964年)
[2] Yashica J-3 INSTRUCTION BOOKLET(1962年)
[3] Yashica J-7 INSTRUCTION BOOKLET(1968年)
[4] クラシックカメラ選書-22 レンズテスト第1集
[5] 藤陵嚴達「六十年の回想」
[6] 光学設計者 藤陵嚴達~ズノー、ヤシカ、リコー~, 脱力測定(2021年)

入手の経緯
レンズは国内のオークションサイトで流通しており、今回紹介するレンズを含め、私は何本かをヤフオクから入手しました。入手額は概ね10000円程度で、状態の良い個体でも15000円程度以内で入手できます。流通量は少なめですので、じっくり待って購入する必要があります。
YASHICA Auto Yashinon 5.5cm F1.8: 絞り F1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, 重量 230g, 最短撮影距離 0.5m, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, M42マウント, 1964年発売
 
撮影テスト
ヤシノンブランドには堅実な描写のモデルが多く、本製品も例外ではありません。クラシカルな外見のデザインとは打って変わって、開放からスッキリとヌケが良く、線が細いわりにコントラストも良好な、いいとこ取りのレンズです。ただし、何度も繰り返すように、このレンズが本性を見せるのは逆光時です。
逆光になると大きな円を描くような見事なゴーストが何本も現れ、描写傾向が大きく様変わりします。暗部の階調が浮き上がり軟調傾向が強くなるとともに、発色も淡く、オールドレンズらしい強い性質を見せるようになります。このような性質がドラマチックな写真作りの一助となることは、間違いありません。しかも、ピント部は依然として繊細で緻密な像を描いてくれます。背後のボケはやや硬めでザワザワと騒がしくなることがあり、ポートレート域でも過剰補正傾向から、なかなか脱却しません。
イメージサークルには余裕があり、定格の35mm判はもとより、一回り大きな中版デジタルセンサー(44x33mm)を搭載したFujifilmのGFXでも、四隅に暗角は全く出ません。今回はフルサイズ機に加え、GFXでも写真撮影をおこないました。

★★ フルサイズ機 Sony A7R2での撮影 ★★
F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日光)  逆光では「カオス状態」に突入します!

F1.8(開放) SONY A7R2(WB: Auto): 様子がわかったところで、早速活用するとこんな感じです。これは楽しい!

F1.8(開放)  SONY A7R2(WB:日光) 開放では線が細いわりにコントラストは良好

F1.8(開放) SONY AR2(WB:日陰) ボケはこのくらいの近接でも、やや煩い感じで、柔らかいボケに転じるのは更に近接域のようです


F1.8(開放)SONY A7R2(WB:日光)レオちゃん。今日も素直に被写体となってくれました



★★ 中判デジタル機 Fujifilm GFX100Sでの撮影 ★★
このレンズは一回り大きな中版デジタルセンサー(44x33mm) を搭載したFujifilm の GFXでも、四隅に暗角は全く出ません。GFXで用いる場合は35mm判換算で39mm F1.4相当の明るい準広角レンズと同等の写真が撮れます。モデルはいつもお世話になているHughさんです。
F2.8, Fujifilm GFX100S(WB:日光,FS:NN) このとおりに順光で撮ればむちゃくちゃ高性能です。こういう時はどうすればよいかというと、素直に喜びましょう

F1.8(開放), Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS:NN)

F1.8(開放), Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN)
 

★★ カラーネガフィルムでの撮影 ★★
FILM: Kodak ULTRAMAX 400カラーネガ
Camera: minolta X-700 MPS
F1.8(開放) Kodak ULTRAMAX 400(だいぶ期限切れ)
F2.8 Kodak ULTRAMAX 400(だいぶ期限切れ)
F4 Kodak ULTRAMAX 400(だいぶ期限切れ)
F1.8(開放) Kodak ULTRAMAX 400(だいぶ期限切れ)

2023/01/22

YASHICA YASHINON-DX 32mm F1.7 converted to SONY E mount

フランジバック 28mm 鏡胴径50.5mm
ミラーレス機陣をはね退ける難攻不落のレンズ改造

Yashica YASHINON-DX 32mm F1.7 designed for YASHICA electro half

YASHICA electro HALFという、やや珍しいハーフサイズカメラの故障品を入手したので、分解してレンズヘッド部を救出しM42ヘリコイドに移植してデジタルミラーレス機で使おうとしたところ・・・久々に凍りました。フランジバックがとても短く何と28mm程しかありません。29mmならライカMにするところですが、まさかの28mmです。それなら最短の短い10-15mmあたりのM42ヘリコイドを用意し、1ミリ程度ヘリコイドの間口から沈胴させる奥の手をつかい、ミラーレス機で無限遠のフォーカスを拾えるようにするのが最後の手段なのですが、なんとレンズヘッドの鏡胴径が50.5mmもあり、ヘリコイドの間口に収まりません。ちなみにカメラに元々付いていたヘリコイドはマウント部の形状が複雑なため、光軸に対する垂直面を確保できずに流用できない事がわかっています。手も足も出ないというのはこの事で、ネットを広く探してみたものの、このレンズの改造に関する情報が全く無いワケを痛感したのでした。しばらく途方にくれ放置していると、eBayで最短が10mmで間口がM52の市販ヘリコイドを見つけ、再び改造に挑戦する勇気が湧いてきました。結果はギリギリ成功です。

eBayで購入したM52-M42ヘリコイド(10-15.5mm)。25ドル前後で購入しました。今回の改造を成功させた立役者です。ノギスで厚みを測ってみたところ、最短側は少し短めの9.6mmと、めちゃくちゃ薄い!。今回はコレと、M42-SONY Eスリムアダプターを用いてレンズの改造に当たります


さて、eBayからヘリコイドを入手したところで妙案が浮かび、一気に解決の道が拓けます。それは、52mm径のレンズ保護フィルターに付いているトリムリングを外し、レンズマウントの外周部の段差に据え付けるというもの。しかも、私の手に入れたトリムリングは下の写真のように外周部の段差に寸分狂わずにピタリとはまり、狙っていたかのようにネジ山だけが外側にはみ出すのです。これで、レンズヘッドをM52ヘリコイドの間口へと沈胴させながら装着することが可能となりました。試してみたところ1mm程度沈胴させたところで無限遠のフォーカスが拾えます。最後にヘリコイドのカメラ側をM42-SONY Eスリムアダプターで末端処理して完成。レンズをSONY Eマウントのカメラで使用できるようになりました。

左のようにレンズのマウント部にUV保護フィルターから取り出した外径52mmのトリムリングを据え付けます。鏡胴端に都合よくピタリとハマる段差があり、ここにジャストフィットしましたのでメタルロックでエポキシ固定します。トリムリングには色々な素材のものがありますが、樹脂製のものでは耐久性が足らないので、金属製のものを探すことをすすめます

完成したYASHICA YASHINON-DX 32mm F1.7(Yashica electro HALF用) : フィルター径 30mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, 絞り F1.7-F16, 絞り羽 5枚構成



難度の高いマウント改造のため、レンズをデジタルカメラで撮影した事例はネット上にも皆無のようです。ワクワク感が止まりません。

レンズの設計構成は4群6枚のガウスタイプで、ハーフサイズカメラに準拠したイメージサークルを持ちます。APS-C機で用いるのが最も相性の良い組み合わせです。フルサイズ機で用いると四隅に広めのダークコーナーが発生してしまいます。今回はSONY A7R2にて、APS-Cクロップモードにてレンズを使用することとしました。

撮影テスト

YASHINONブランドには優秀なモデルが多く、堅実な写りを期待することができます。開放では拡大表示で判別できる程度の微かな滲みと四隅の光量落ちが見られ、雰囲気重視の画作りができます。1段絞れば写真全面でシャープになり、スッキリとヌケの良い描写です。背後のボケは適度なざわつきがみられますが、極端に硬いわけではなく、ごく普通。ぐるぐるボケや放射ボケが目立つことはありません。逆光では虹のゴーストが出ます。

F4, SONY A7R2(APS-C mode, WB:日光) 思ったとおりの優秀なレンズです

F1.7(開放) SONY A7R2(APS-C mode, WB:日陰) 開放では細部に滲みがみられる雰囲気重視の画作りになります

F4 SONY A7R2(APS-C mode, WB:日陰)  絞ればこの通りキリッとうつります
F1.7(開放)開放でド逆光の中、今回もレオ様が登場です。臨場感がよくでています
F1.7(開放) SONY A7R2(WB:日光, APS-C mode) ぐるぐるボケは強く出たそしてもこんな程度までです

F1.7(開放) SONY A7R2(APS-C mode, WB: 日光) 開放では逆光で虹もよく出ます
F1.7(開放) SONY A7R2(APS-C mode, WB:日光)
F1.7(開放) SONY A7R2(APS-C mode, WB:日光)

2022/07/26

YASHINON-DX 32mm F1.4(YASHICA HALF 14 ) converted to Leica M


F1.4を実現した
ハーフサイズ界のスター

Yashica YASHINON-DX 32mm F1.4 for Yashica Half 14

 ハーフサイズカメラに付いているレンズは定格イメージフォーマットが35mm判(フルサイズセンサー)の面積の約半分ですから、改造してデジタルカメラに搭載して使う場合にはAPS-C機で用いるのが最適です。カメラ屋のジャンクコーナーにこの種のカメラであるYASHICA HALF 14が4台束になって置いてありましたので、全部いただいてきました。シャッターが降りないものや巻き上げノブが回らないもの、ファインダーのガラスが割れているものなど、それぞれが致命的に故障したカメラでしたが、レンズは清掃すれば使えそうでしたので、取り出してライカMマウントに改造することにしました。同じレンズが一度に4本も転がり込んで来ましたので、ブロガーの伊藤浩一さんに1本御裾分けしましたところ、早速使ってくださいました。こちらです。伊藤さん曰く、背後のボケが大暴れするとのことです。お写真を拝見するとピント部はシャープで高コントラスト、いかにもYASHINONらしい高性能なレンズです。APS-C機につけると48mm前後の標準レンズとなり、理論上はフルサイズ機にてF2クラスの標準レンズを用いて撮影する場合と同じ写真が撮れます。今週はいよいよ私も使ってみました。

YASHICA HELF14というカメラは同社が1966年に発売したハーフサイズのレンズ固定式カメラです。特徴は何と言っても搭載されているレンズで、レンズ固定式のハーフサイズカメラとしては唯一無二のハイスピードF1.4を誇るYASHINON-DX 32mm F1.4が付いています。レンズの構成はガウスタイプの後玉を2枚に分割したガウスタイプからの発展型(5群7枚構成)で、F1.4クラスの高級レンズに採用される典型的な設計形態です。この時代のヤシノンレンズはヤシカ光学研究室が設計(藤陵嚴達氏が設計または監修)し、1968年より同社の子会社となる富岡光学が製造するパターンが一般的です。このレンズもそうであっのかは資料がなく不明ですが、可能性としては大いに考えれるでしょう[1,2]。

フィルター径 52mm, 絞り F1.4-F16, 絞り羽の閉じ方がやや歪で非対称な形状です。残念ながらイメージサークルはフルサイズセンサーをカバーできず、こちらにように四隅にダークコーナーが生じます

 

参考資料

[1] 光学設計者 藤陵嚴達, 脱力測定(2021)

[2] 写真工業 1966年6月

撮影テスト

コントラストの高いシャープなレンズであることは伊藤さんのお写真からも事前にわかっていましたので、私はこれに歯止めをかけるべく、FujifilmのAPS-C機に搭載してフィルムシミュレーションのクラシッククロームにて撮影することとしました。敢えて軟調なモードを選択することで、いい具合にバランスさせることを狙ったのです。開放では微かなフレアがハイライト部を覆うように発生し絶妙な柔らかさです。ただし、コントラストは高く、バランスするどころか押し負けてしまいました。暗部に向かって階調がストーンと落ち、晴天時はカリカリのトーンのため暗部が簡単に潰れてしまいます。2・3・5・6枚目の写真はトーンカーブを少しいじり暗部をやや持ち上げ、この状況を改善させています。フィルムで撮るくらいがちょうどよかったのかもしれません。解像力は良好で高画素機のSONY A7R2で使用した写真を100%クロップしても、まだ分解能には余裕がある印象でした。背後のボケは像の崩れ方が独特ですが、これは絞り羽の歪な形状に起因するものではなく、光学系に由来するものです(開放でも独特でした)。逆光時にはこちらのように虹のゴーストが出現します。

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F8, Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F5.6 Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F4 Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)