おしらせ


2020/02/29

Showa-koki PIOTAR CINE Tele lens 75mm F1.8 (c-mount)






昭和光機の大口径シネレンズ
Showa-koki PIOTAR Cine Tele lens 75mm F1.8

昭和光機製造株式会社(現・昭和オプトロニクス株式会社)は1954年に東京の世田谷で創業した光学機器メーカーです[1]。創業時からカメラ用レンズや双眼鏡を生産し、1950年代にはアイレス写真機製作所の傘下でCORALレンズを供給しました[2]。1959年に日本電気(NEC)の関連会社となり、赤外線用レンズ、顕微鏡器機、レーザ用光学機器、高出力レーザ用コーティング技術の開発などを手掛け、現在は昭和オプトロニクス株式会社の名称で精密光学部品、精密光学機器、固体レーザ発振器の製造と販売を行っています。
今回紹介するレンズは同社が1950年代に生産したシネマ用レンズのPIOTAR(ピオター)75mm F1.8です。設計は3群4枚構成のゾナー型で、Cマウントを採用していますので16mmムービーカメラに搭載する望遠レンズとして使われました。レンズ名の語源は先駆者を意味するPIONEER(パイオニア)であろうと思われます。F1.8の明るさを僅か4枚のレンズ構成で実現するというかなりの無茶をしでかしていますが、パイオニア精神の生み出した意欲作であったに違いありません。収差レンズとして捉えるなら、これはもう面白いレンズであること間違いなしです。
 
Showa-Koki PIOTAR Cine Tele lens 75mm F1.8(C-mount): 清掃時に中を空けた際の見取り図(スケッチ)で、設計構成は3群4枚のゾナー型です。分厚いガラスと大きな曲率面で屈折力を稼ぎ、F1.8の明るさを実現しています

参考文献・資料
[1] SOC 昭和オプトロニクス株式会社沿革
[2] クラシックカメラ専科 No.22 朝日ソノラマ
 
SHOWA-KOKI PIOTAR 75mm F1.8(C-mount): フィルター径  約47.5mm, 絞り羽 12枚, 最短撮影距離 4feet(1.25m), 絞り値 F1/8-F22, 構成 3群4枚ゾナー型, コーティング付き, Cマウント

入手の経緯
レンズは2020年2月にヤフオク!で見つけ落札しました。出品者は古物商でカメラやレンズは専門外とのことなので、「ジャンク品」であることを宣言していました。この場合、状態がどんなに悪くてもクレームはできません。写真を見る限りクモリはなさそうでしたがレンズにはカビが多く発生しており、そのままの状態では使い物にはなりませんでした。久々の博打買いです。
さて、届いたレンズをバラしてクリーニングしてみたとこと、コーティングにはカビによるダメージが若干残りました。ただし、クモリやバルサム剥離などはなくカビ自体も完全に除去でき、ほぼクリアな状態まで持ってゆくことができました。ヘリコイドグリスを入れ替え各部スムーズに動くようになり、実用的には問題のないコンディションとなっています。
あまりに珍しいレンズなので中古市場での取引相場は定まっていません。イーベイに出せば高値が付くでしょうが、行き先はほぼ間違いなく中国人コレクターです。


出品者から化粧箱に入った状態で送られてきました。永い眠りから叩き起こすような感覚です。これからいっぱい活躍してもらいましょう

ライカマウントへの変換
レンズはもともとCマウントですが、マウント部を外すとイメージサークルが拡大し、フルサイズセンサーをカバーすることができます。せっかくですので特性アダプター(自作)を用意しマウント部をライカL/Mマウントに変換、フルサイズ機で使用することにしました。Cマウントのマウント部はイモネジを緩めるだけで簡単に取り外すことができます。 








後玉周りの鏡胴径は32mmあります。ゆるみ止めを塗れば32.5-M39アダプターリング(ポルトガル製)がピタリとジャストサイズで装着でき、マウント部を汎用性の高いM39ネジに変換することができます。続いてM39マクロエクステンションリング(光路長1cm)をとりつけます。ヘリコイドリングの内側に無限調整用のカムがありましたので、これを微調整し、ライカLスクリューマウント(フランジバック28.8mm)のレンズとして無限遠のフォーカスをピタリと拾えるようにします。下の写真は更にライカL→M変換アダプターを取り付けライカMにしたものです。ほぼ非侵襲の改造ですのでCマウントのオリジナル状態に戻すことは容易ですが、戻さないと思います。
特性アダプターを使いマウント部をCマウントからライカMマウントに変換しました。デザインにマッチするシルバーカラーのM39マクロリングをどうにかみつけて使用しています

ライカマウントに変換したことでイメージサークルは大きくなり、フルサイズセンサーをカバーできるようになりました。写真の四隅は本来は捨てていた部分ですので、かなり妖しい画質になりますが中央はマトモです。
 
撮影テスト
開放ではフレアが多めのソフトな描写ですが、中央はしっかり解像しており繊細な描写です。フォトショップの階調(レベル)を見てみるとビックリ。中間部の階調が驚くほど豊富に出ており、あまり見ないリッチなトーンです。写真の四隅は本来は捨てていた部分ですので画質的に乱れるのは当然で、フルサイズ機で用いると像面が大きく湾曲しピントは手前に来ます。また、ピント部背後はグルグルボケ、手前は放射ボケが発生します。歪みはほとんど見られず、画面の四隅でも真っすぐなものが真っすぐに写ります。
このレンズはピントの位置(像が最もシャープに写る位置)が像が最も緻密に写る位置からズレているため、緻密さを求める場合の「ピント合わせ」には技術がいります。フォーカスピーキングは役に立ちませんので、デジタルカメラのピント部拡大機能を使い、像が最も緻密に写る位置を自分の目で探り当てます。


F1.8(開放) sony A7R2(WB:日陰)まずはポートレート域での一枚ですが、開放ではかなりクラシックな写りです。2段も絞ればスッキリとした透明感のある画になります(こちら



F1.8(開放) sony A7R2(WB:曇天)続いて遠景。こちらも開放ではフレアが多めに出ます。被写体の前方には放射ボケが表れています。この場面、F4まで絞れば中央はスッキリと写ります(こちら
F4 sony A7R2(WB:曇天): 2段絞ればスッキリと写りますが、四隅には依然として放射ボケが残っています


F1.8(開放) sony A7R2(WB:曇天)開放ではボンヤリとしますが、それがこのレンズの持ち味です。雰囲気勝負のレンズです。F4まで絞るとまた違った印象ですが、放射ボケは残っています(こちら
 
絞り3段(F4→F2.8→F1.8)で画質の変化を見てみましょう。

F4 sony A7R2(WB:auto) 初めにF4dです。開放から2段絞ればピント部はスッキリと写ります。発色があっさりしているのはホワイトバランスをオートにしているためで、SONYのオートはこういう味付けで、ある意味で正直です
F2.8 sony A7R2(WB: auto)  絞りを1段開けます。ピント部はフレアに沈み、背後にグルグルボケが目立つようになります


F1.8(開放) sony A7R2(WB: auto)  開放です。ピント部はギリギリで解像しています。フレアは更に激しくなります

F1.8(開放)sony A7R2(WB:auto) 


F1.8(開放) sony A7R2(AWB) 中間部の階調が驚くほどよく出ており、フォトショップの階調(レベル)では、あまり見た事のないとてもリッチなトーンが出ています
F1.8(開放)sony A7R2(WB:auto)しかし、このレンズはよく回ります。お見事としか言いようがありません












2020/02/17

試写のみ:P. Angenieux paris Type X1 75mm F3.5 for Atos-2

F5.6 Fujifilm S400, Camera:minolta X-700

F5.6 Fujifilm S400, Camera:minolta X-700: イエローにコケるのが本レンズの特徴で、アンジェニューのレンズにはよくあります

F5.6 Fujifilm S100, Camera:minolta X-700
Fujifilm S400, Camera:minolta X-700



知り合いの方からお借りしたP.Angenieux Type X1 75mm F3.5です。作例のみ掲載します。

P.Angenieux(アンジェニュー)と言えば、映画用レンズやズームレンズ、レトロフォーカス型広角レンズのイメージが強いフランスのレンズ専業メーカーですが、中判カメラにもレンズを供給していました。今回手にしたレンズはRex Reflex Atos-2という6x6フォーマットの中判2眼レフカメラに搭載されていたもので、他にはSEMFLEXという2眼レフカメラに供給されたモデルもあったようです。私がお借りした個体は改造品で、直進ヘリコイドに搭載されM42マウントレンズとして使用できるよう改造されていました。
ご存じのようにP.Angenieuxのレンズには異なる設計構成ごとにType RやType Sといった記号が銘板に記されており、今回のレンズにはテッサータイプの設計をあらわすType Xの記号が記されています。テッサータイプらしい四隅まで破綻のない堅実な描写ですが、コーティングに原因があるのか硝材に原因があるのか短波長(青色)側の光の透過率が低いようで、イエローにこけるアンジェニューならではの発色と軟調でどこかドライな感じのする独特な階調特性が本レンズにもみられます。Type R1もこんな感じの描写でしたね。
  
P. Angenieux Type X1:  絞り羽 10枚構成, 設計構成 3群4枚テッサー型, シャッタースピード 1/300まで

  
F3.5(開放) sony A7R2(WB:日陰)
F3.5(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F3.5(開放)SONY A7R2(WB:日光)



2020/02/14

Asahi Opt.Co.(PENTAX) Auto-Takumar 35mm F2.3 M42-mount


元祖レトロフォーカスの国産コピー
Asahi Opt.Co., Auto TAKUMAR 35mm F2.3(M42 mount)
一眼レフカメラの広角レンズを開発したパイオニアメーカーとして知られるフランスのP.Angenieux(アンジェニュー)。同社が1950年に発売したType R1 35mm F2.5は世界初のスチルカメラ用レトロフォーカス型広角レンズとして後世に名を残す名玉となりましたが、このレンズと全く同一構成の国産レンズがありました。後にPENTAXとなるAsahi Opt.Co.(旭光学工業)が一眼レフカメラPENTAX S2の発売に合わせ1959年から1962年にかけて市場供給したTAKUMAR(タクマ―) 35mm F2.3です[1,2]。今や710万円もするType R1によく似たレンズを手頃な価格で入手できるわけですから、これは手に入れないわけにはいけません。さっそくレンズ構成を見てみましょう。
下図の左がTAKUMAR、右の短いほうがType R1で、確かに同一構成のレンズであることがわかります。設計構成はテッサータイプ(後群のブルーの部分)をベースレンズとして前方にオレンジ色の2つのレンズユニットを追加したレトロフォーカスタイプです。最前面に据えられた大きな傘のようなレンズユニット(負のメニスカスレンズ)の効果によりバックフォーカスの延長が図られ、一眼レフカメラにおけるミラー干渉の回避を実現しています。これは、いわゆる眼鏡による近視補正の方法をレンズ設計に持ち込んだようなものです。

   
左がAsahi Opt. Co., TAKUMAR 2.3/35(1959年発売)、右がP.Angenieux Type R1 2.5/35(1952年発売)の光学系(トレーススケッチ)。設計構成は5群6枚のレトロフォーカス型
 
初期のレトロフォーカス型レンズには画質的に改良の余地が多く残されており、特にコマ収差の補正が大きな課題でした[3]。開放ではコマフレアがコントラストを低下させ、発色も淡白になりがちだったわけですが、これに対する解決法が発見されたのは1962年になってからのことです[4]。本レンズの製造期間が僅か3年と短期だったのは、日進月歩に進歩していた1960年代初頭のレトロフォーカスタイプの設計技術が、よりシャープで高コントラストなレンズを実現できるようになったからでしょう。

参考文献 

[1] Asahi Pentax S2 取り扱い説明書 1959
[2]  Takumar 2.3/35Type R1と同一構成であることはこちらの有名サイトに掲載されていた情報で知りました:「出品者のひとりごと・・」解説とオーバーホール工程: Asahi Opt. Co., (旭光学工業) Auto – Takumar 35mm/f2.3M42(20201月)
[3]「写真レンズの基礎と発展」小倉敏布 朝日ソノラマ (P174に記載)
[4] ニッコール千夜一夜物語 第12夜 Nikon-H 2.8cm F3.5 大下孝一
 

入手の経緯

中古市場では数こそ多くはありませんが、常に流通している製品です。ヤフオクでの取引相場は17500円から25000円くらいでしょう。私は2019年春に同オークションにて17500円の入札額で競り落としました。オークションの記載は「カビ、クモリ、バルサム切れ等なくガラスは美品。外観は写真で判断してほしい。フィルター枠には凹みがある」とのことでしたが、届いたレンズはヘリコイドが重めなうえマウント部にガタがありました。説明不足なので返品してもよかったのですが、自分で修理して使う事にしました。本レンズの場合は流通している個体の大半で前玉の裏に多めの拭き傷が見られます。写りに影響がないのであれば、ある程度の拭き傷は仕方ないものだと思います。
  
Takumar 35mm F2.3: 重量(カタログ値) 310g, 最短撮影距離 45cm, 絞り値 F2.3-F22( 半自動絞り), 絞り羽 10枚構成, フィルター径 62mm, 設計構成 5群6枚レトロフォーカス型(アンジェニューR1)

 

 

撮影テスト

Type R1と似ている描写傾向はありますが、想像していたよりも異なる部分の方が多くありました。Type R1よりもコントラストは高く、発色はより鮮やかでカラーバランスはノーマル、ヌケも良いです。これらはコーティングの性能やガラス透過率による差なのかもしれません。ピント部はType R1Takumarもたいへん解像感があり、被写体の質感をしっかりと捉えてくれます。四隅ではコマ収差の多いレンズにみられる玉ボケの変形がみられますが、ぐるぐるボケなどは無く、ボケはおおむね安定しています少しハイキー気味に撮るのがオススメで、開放では薄いベールを一枚覆ったようなコマフレアが強調され少しぼんやりしますが、それでいて色ノリはしっかりとしておりアーティスティックな雰囲気を作り出すことができます。Type R1では黄色にこける独特な発色と何とも表現しがたい味のある軟調描写が魅力でした。カメラ女子が使いこなすというよりはオジサンがカッコよい写真を狙うのに適したレンズだったのですが、TAKUMARの方は発色がノーマルで人肌の質感や色味も綺麗、花も鮮やかに撮ることができます。玄人向きのType R1、万人向きのTakumarといったところではないでしょうか。どちらも滲み系レンズで個性は強めです。

Photo: Shingo Shiojima
Location: 横浜イングリッシュガーデン
Camera: SONY A7S

F2.3(開放) sony A7S 美しいコマフレアが画面全体を覆っています
F2.3(開放) sony A7S 発色はType R1よりもノーマル。美しい肌の質感表現だとおもいます
F2.3(開放) sony A7S 35mmの広角でも口径比がF2.3もあれば、なかなかのボケ量が得られます

F2.3(開放) sony A7S

F2.3(開放) sony A7S 白い部分が少しぼんやりしますが、そこがいいんです







 

Camera: SONY A7R2
Location: 鎌倉
Photo: spiral

F2.3(開放)  SONY A7R2(WB:日光) 滲み系レンズの滲みを活かすには明るめに撮るのがオススメです

Camera: Fujifilm GFX100S
Photo: spiral
Aspect ratio 16:9

















続いて中判デジタルセンサーを搭載したGFX100Sでの写真です。アスペクト比を16:9に設定しダークコーナー(ケラレ)を防止しています。

F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)
















F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)

F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)

F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)