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2025/11/29

AUTO TAMRON 21mm F4.5 (PFJ-45Au) M42 mount


タムロンにウルトラワイドがあったとは!

AUTO TAMRON 21mm F4.5 (PFJ-45Au) M42 mount

タムロンといえば、望遠レンズやズームレンズ、あるいはマクロ撮影用レンズに強みを持つ、レンズ専業メーカーとして広く知られています。公式サイト[1]に掲載された製品一覧を見れば、標準域や広角域のラインナップがいかに限られているかが一目瞭然であり、今回紹介するような焦点距離21mmの超広角レンズがタムロンから登場していたことは、少なからず驚きをもって受け止められることでしょう。同社が1970年から1973年までの3年間に市場供給したAUTO TAMRON 21mm F4.5です。

このレンズのオールドレンズ市場における位置づけはやや曖昧ですが、焦点距離20mm前後の手頃なウルトラワイドレンズを探し始めると、自然と候補に挙がってくる一本です。このクラスの廉価製品としては、COSINA MC WIDE ANGLE 20mm F3.8(ネットオークションでは7,000円前後から)が圧倒的な存在感を放ちますが、チープな鏡胴の作りが妥協点となります。次いで、NIKKOR-UD Auto 3.5 20mm(実売価格は12,000~15,000円程度)は性能面で優れ、コストパフォーマンスの高さにおいて大きな魅力です。今回取り上げるAUTO TAMRONは、ちょうどこの2本の間に割って入るような立ち位置にあります。

本レンズは、タムロン独自の交換マウント機構「アダプトマチック」を採用しており、様々なマウント規格で市場供給されました。この機構は、独自の交換マウントをレンズに付け替えることで多様なカメラマウントに対応可能とするもので、ボディ側からの自動絞り制御にも対応していた点が特徴です。今回入手した個体にはM42マウント用アダプターが装着されており、往年のスクリューマウント機との組み合わせも楽しめる仕様となっています。

レンズ構成は6群8枚で、残念ながら構成図は公開されていませんが、超大型の前玉を持つことで知られるFlektogon 20mmを模範とした、広角レトロフォーカス型の設計と推察されます。最短撮影距離は25cmと短く、接写にも対応可能です。焦点距離が20mmではなく21mmという点を中途半端と感じる向きもあるかもしれませんが、これはライカ判35mmフォーマットにおいて対角線画角がちょうど90度となるよう設計された結果であり、意図的な選択といえるでしょう。もっとも、焦点距離を20mmにまで詰めるには設計上の困難が伴うため、21mmという設定にはコスト面での配慮も含まれていたのかもしれません。

最短撮影距離 0.25m, 絞り F4.5-F16, 重さ(カタログ値/ニコンFアダプトール装着時) 332g, 設計構成 6群8枚レトロフォーカス型, マウント アダプトマチック, モデル名 PFJ-45Au, フィルター径 82mm(前玉側) / 17mm(後玉側)
 
中古市場での相場

この種のウルトラワイドレンズの中では、比較的安価で入手しやすいモデルに位置づけられます。国内のネットオークションでは、探せば1万円弱から見つかることもあり、1970年当時の新品価格が29,800円であったことを踏まえると、現在の中古価格は非常に手頃といえるでしょう[1,2]

アダプトマチック方式は、各種国産一眼レフカメラのマウントに対応可能な設計となっており、中古市場に流通する個体のマウント規格も多岐にわたります。

参考文献・資料

[1] TAMRON公式ページ アーカイブ
[2] Auto TAMRON 21mm F4.5 テクニカルシート
 
 
撮影テスト

口径比がF4.5と控えめなため、開放でも滲みは最小限に抑えられています。描写はシャープで抜けが良く、すっきりとした印象を与えます。ウルトラワイドレンズ特有の線の太さは見られますが、これは性質上避けられないものです。ただしトーンは柔らかく、絞り込んでも階調が硬くならない点は、この時代のウルトラワイドレンズに共通する美点であり、本レンズもその例外ではありません。開放では周辺部の光量落ちがやや目立つため、気になる場合は半段ほど絞ると良いでしょう。歪曲収差は少し顕著で、上下方向では中央部が樽型、四隅が糸巻き型、左右方向では糸巻き型の傾向を示します。


F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)

F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)

F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)歪みが波打っています。中央は樽型、周辺は糸巻き型

F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)





F8(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)



F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)





F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)


2025/11/15

Voigtländer SKOPARON 35mm F3.5 (Prominent)


あらら、プロミネント用アダプターに装着できないとは。想定外の出来事に、思わず心がときめくではないですか。

凹メニスカスの静かな主張:アダプターが使えないからオフロード走行でひた走る

Voigtländer SKOPARON 35mm F3.5

1950年代初頭はバックフォーカスを延長したレトロフォーカス型広角レンズが登場し始めた時期です。アンジェニュー・タイプR1やカールツァイス・フレクトゴンなどが先陣を切り、この分野のパイオニアになったことで知られていますが、フォクトレンダー社からも同種のレンズが市場供給されていたことは、しばしば見過ごされがちです。同社のレンジファインダー式カメラ「プロミネンⅠ型(1950年発売) 」 に搭載する広角レンズとして1954年に発売されたスコパロン35mm F3.5のことです[1]。

このレンズがあまり注目されないのも無理はありません。多くのレトロフォーカス型レンズが一眼レフカメラのミラー干渉を回避する目的で設計されたのに対し、スコパロンはフォクトレンダー社が自社のカメラに採用したビハインドシャッター方式に対応するための設計でした。後に一眼レフカメラ黄金時代が到来することを考えると、この特殊なカメラ機構への対応という変則的な事情が、スコパロンの技術史的な位置付けを曖昧にしてしまったのです[2]。

注目されない原因はもう一つあり、極めて特殊なフォーカス機構です。このレンズには光学系全体が鏡胴内部で前後に移動する、インナーフォーカスにも似た構造が備わっています。ただし、インナーフォーカスが光学系の一部のレンズ群のみを移動させるのに対し、スコパロンは全群繰り出し方式のため、マウント部に繰り出し量を制御するための機構が別途必要になりました。このような特殊性が、ノクトンやウルトロンなどに使われる一般的なプロミネン用アダプターの装着を不可能にしており、結果としてプロミネント本体で扱う以外の選択肢がありません。技術的な「時代の主流」から外れ、奇抜な独自路線を築いたフォクトレンダーらしいアプローチとも言えますが、現代のデジタルカメラとの相性は劣悪で、デジタルカメラでの作例が現在のインターネット上に皆無なのも、このマウント・フォーカス機構の特殊性に起因する事態と言えます。

とはいえ、手元に届いたのも何かの縁。マウント部にM42ネジを設置する加工を施し、直進ヘリコイドに搭載。下の写真のようにライカL39マウントレンズとしてミラーデジタルレスカメラで使用できるカスタム仕様にしました。

(a) M42リングを装着したところ。側面からイモネジで留めつつ、接着剤で補強をすれば耐久性的には十分かと思います (b) M42 to M39ヘリコイド(17-31mm)を装着したところ。白銀のスポーツカーにオフロード用タイヤをはめたような不思議な感覚です。これで結構な近接域まで寄れマクロレンズのようにも使えます


レンズ構成はレトロフォーカス型レンズの創成期によくある典型的なスタイルで、既存のレンズ構成をマスターレンズとし、前方に凹メニスカスレンズを据え付けた形態です[3]。本レンズの場合はマスターレンズがテッサータイプとなっています(下図)。一眼レフ用レンズとは異なり、バックフォーカスの延長量が一般的なレトロフォーカスレンズよりも短いため、凹メニスカスには度数の比較的の小さなものが採用されています。口径比もF3.5と無理がなく、黎明期のレトロフォーカスタイプにしては、案外とよく写るレンズなのかもしれません。

本レンズを設計したのはフォクトレンダー社でノクトンやウルトロン、カラースコパー、スコパゴンなどの設計を手がけたトロニエ博士(A.W.Tronnier)です[3,4]。1952年にレンズ構成の米国特許を公開しました[3]。 レンズは1954年から市場供給されています[1]。

左: A.W.Tronnier 45-46歳のイラスト(似顔絵),   右: Skoparon構成図(トレーススケッチ)




 

入手の経緯

このレンズをデジタルカメラで活かす事の出来るマウントアダプターがないため、中古市場での人気は今ひとつです。海外ではeBayなどのオークションサイトで110ユーロ/130ドル(20000円)前後からの値段で取引されてます。日本ではヤフオクやメルカリでの個人売買が15000〜20000円程度、ショップでは20000~25000円程度からです。私は202511月にメルカリにて状態の良い個体を見つけ購入に至りました。商品の説明には「外観・レンズともに非常に状態の良い美品」とあり、実際に届いた品も、わずかなホコリの混入を除けば申し分のないコンディションでした。プロミネント用アダプターに装着できないことが発覚したのは手元に届いた後です。どうしよう。自分が一番乗りになれるかもと予期せぬ事態にガッツポーズをしたものの、嬉しさ半分、困惑も半分です。


参考資料 

[1] Vogtlander Prominent カタログ "because the lens is so good" (1954)

[2] Rudolf Kingslake "a history of the photographic lens" / 「写真レンズの歴史」ルドルフ・キングスレーク クラシックカメラ選書11;  OPTICAL SYSTEM DESIGN By Rudolf Kingslake(1983) Academic Press Inc.

[3] 米国特許  US2746351A(1952年)

[4] Voigtländer "weil das Objectiv so gut ist", Voigtländer A.G., Kameras, Objectivem Zubehur; Voigtländer 1945-1986 UDO AFALTER(1988)

Voigtlander SKOPARON 35mm F3.5: 重量(実測) 230g, フィルター径 45mm, マウント規格 プロミネント外詰めマウント, 絞り羽 9枚構成, 絞り F3.5-F22, 最短撮影距離 2.3feet(約0.7m),設計構成 4群5枚レトロフォーカスタイプ, 発売年 1954年

 

撮影テスト

この時代のレトロフォーカス型広角レンズはコマ収差の対応方法が発見される前の製品ですので、開放では滲みを伴う軟調かつ柔らかい描写を期待することができます。ただし、今回取り上げるスコパロンは前玉に据えた凹メニスカスの度がそれほど強くないうえ、開放F値も3.5と無理のない設定になっていますので、画質的な破綻は無いのかもしれません。写真作例を見てみましょう。

F5.6 Nikon Zf(WB:日光)
F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)


F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6 Nikon Zf(WB:日光) abc


F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)




F5.6 Nikon Zf(WB:日光)
F5.6 Nikon Zf(WB:日光)


F5.6 NikonZf(WB:日光)
F3.5(開放) Nikon Zf (WB:日光)










とまぁ、見てのとおりに、予想といいますか期待は見事に外れ、かなりの優等生レンズでした。ライバルであるツァイスのBIOGONとライツのSUMMARONを迎え撃つだけのことはあります。開放でもピント部は隅まで高解像で端正、F2.8系の同種レンズよりも明らかに優れています。気づいたことと言えば開放で近接を取る際に、四隅の前ボケが少し流れるくらいです。滲みは僅かでスッキリと写り、歪みは良く補正されています。トーンは見てのとおりに開放で軟らかく軽やかです。少し絞れば死角は全くありません。最高級カメラのプロミネントに搭載されるレンズというだけのことはあります。

2023/11/24

Konica Hexar AR 28mm F3.5: 中判デジタル機で35mm判広角レンズを使う



中判デジタル機で35mm判広角レンズを使う:

ローエンド製品が超広角レンズに化ける反則技

Konica Hexar AR 28mm F3.5 (Konica AR mount)

最近あまり話題にはならなくなりましたが、写真用語の一つに「35mm判換算」というものがあります。35mm判とは俗に言う「ライカ判(36mmx24mm)」を指す写真フィルムの規格で、デジタル撮影が全盛期を迎えた今では、フルサイズセンサーがこれに相当します。この用語が多く使われるようになったのは、APS-C規格やマイクロフォーサーズ規格のイメージセンサーを搭載したカメラが先行して普及したためです。

よく知られているように、50mm F2の標準レンズに対する35mm判換算での焦点距離はAPS-C規格のカメラで約75mm相当、マイクロフォーサーズ規格のカメラでは約100mm相当と、いずれも少し望遠寄りになります。要は50mm F2のレンズをAPS-C規格のカメラにマウントして使用すると、35mm判カメラ(フルサイズセンサー機)75mm F3(1.5倍を乗じた焦点距離と開放F値)のレンズを用いた場合と同等の写真(同じ画角、同じボケ量の写真)が撮れ、マイクロフォーサーズ規格のカメラにマウントして使用した場合には、35mm判カメラに100mm F4(2倍を乗じた値)のレンズを用いた場合と同等の写真が撮れるという意味です。用いるレンズが35mm判ならば、中心の良像域のみを利用した贅沢な使い方になるなんて言われた時期もありました。しかし、レンズは四隅まで均一な画質を得る目的から中心解像力を抑えるよう設計されているため、この認識は幻想でしかありません。四隅と中心は画質的にトレードオフの関係にあり、概して35mm判レンズの中心画質は、これより小さなフォーマットに最適化されたレンズの中心画質より劣るのが実情です。

さて、ここまでの理屈を中判イメージセンサー(44x33mm)を搭載したFujifilm GFXシリーズに当てはめると一体どうなるでしょうか。50mm F2の標準レンズをGFXにマウントして使用した場合の35mm判換算値は、0.78倍を乗じた39mm F1.56となります。35mm判レンズの場合にはケラれていまう可能性がありますが、運良くケラれずに使う事ができれば理論上はフルサイズ機で39mm F1.56の超ハイスペックレンズを使用した場合と同等の写真が撮れるという見立てになります。注目したいのは、このような使い方をした場合に中判用レンズを用いる場合に比べ、概して中心部の画質はより高く、周辺部の画質はより低くと、大きな「画質の勾配」が生じる点です。このような大きな画質勾配を持つレンズに個性の際立つものが多いのは、オールドレンズユーザの間では周知の事です。では、本題に入りましょう。


広角35mm判レンズを中判デジタル機にマウントする

広角レンズにはイメージサークルのマージンが小さなものが多く、35mm版レンズを中判デジタル機に搭載して流用する場合には写真の四隅が暗くなる、いわゆる「ケラレ」が生じるケースが多くあります。しかし、運良くケラレの出ない製品に出会う事ができれば、ある意味で穴場的な使い方ができます。先に経験的な事柄を抑えておきましょう。

1.焦点距離がより短い製品ほどケラレの発生頻度は高く、中判デジタル機での流用はより困難になる。

2.ケラレの出ない広角レンズに出会える可能性があるギリギリのラインは焦点距離28mm辺り。ただし、発見できる製品は少なく、全体の1/5にも満たない。

ちなみに、焦点距離28mmのレンズをデジタル中判機で使用した場合の35mm判換算値(焦点距離)は22mmです。運良くケラれない製品を見つけることができれば、かなり広大な画角を持つ超広角レンズとなります。焦点距離28mmのレンズに対しては、この焦点距離を好む愛好者が一定数いる一方で、「スナップ撮影にはやや広角過ぎる」「広角レンズとして使うにはパースが不足気味」など中途半端である点を指摘する声が昔から絶えずあり賛否両論でした。こうした評判に呼応しているのか定かでありませんが、28mmの広角レンズには不遇な扱いをうけている非常に安値の製品が現在の中古市場にゴロゴロとあります。一つの事例として今回の記事ではKONICA HEXAR 28mm F3.5を取り上げてみることにしました。このレンズのイメージサークルは広く、GFXのイメージセンサーを完全にカバーすることができますが、中古市場では極めて安値で取引されており、私は美品クラスの個体を国内のネットオークションにて2500円で入手しました。他にもMINOLTA W.Rokkor 28mm F2.8がケラれの出ない製品であるという事前情報を得ています。チープなレンズの代表格であるKOMURA 28mmとPETRI 28mmは残念ながらケラれてしまいました。焦点距離28mmの広角レンズは数多くのメーカーから製品供給されていますので、探せばGFXで使用できるレンズがまだまだ発掘できると思います。

 

重量(カタログ値) 195g, 最短撮影距離 0.3mm, 絞り F3.5-F16+AE, 設計構成 5群5枚, フィルター径 55mm, 絞り羽 6枚構成, 市場供給期間 1975-1978     

KONICA HEXAR AR 28mm F3.5の基本情報

HEXARはコニカのローエンド製品につけられたブランド名称で、上位のブランドにはHEXANONがあります。レンズは1975年に発売され、当時AEに対応した一眼レフカメラのオートフレックスT3(1973年登場)やAcom1(1976年登場)に搭載する広角レンズとして市場供給されました。1978年に後継製品のNEW HEXANON AR 28mm F3.5が登場したことで、発売から僅か3年で生産中止となっています。ただし、後継製品と光学系が同一ですので、ブランド名称が変わっただけで存続していたという見方もできます。設計構成は下図に示すように非常にシンプルな5群5枚構成のレトロフォーカスタイプです。製造コストの面から見ると、これで焦点距離28mmをカバーできたのは凄い合理性だと思います。

今日HEXAR 28mmは上位モデルのHEXANONと同等かそれ以上の値で取引されています。これは主に90年代にコニカのレンジファインダー機でHexarブランドが名声を得たことと、HEXAR 28mmがHEXANONの同等品より希少であるためです[2]。

KONICA HEXAR AR 28mm F3.5 構成図:KONICA公式パンフレット[1]からのトレーススケッチ。設計構成は5群5枚のレトロフォーカス型

参考文献・資料

[1] 公式パンフレット(2ページ折込):Englisch, Deutsch, Französisch, Schwedisch, Italienisch und Spanisch言語

[2] The Konica AR System: http://www.konicafiles.com/

[3] Aperturepedia "Konica Lens database"

 

撮影テスト

まずはカメラの設定でアスペクト比を65:24に変え、35mm判(フルサイズセンサー)に近い対角線画角で撮影してみることにしました。設計規格に近い使い方ですので、当然ながらケラれることはありません。こんな使い方ができるのは中判デジタル機ならではの醍醐味でしょうね。このアスペクト比であれば35mm判レンズのほぼ全てをケラレ無しで使用できます。いつか機会があれば、このクロップモードで超広角レンズのHOLOGON 16mmを使ってみたいと思います。

さて、HEXANONは開放からシャープに写るレンズです。歪みは樽型で少し目立ちますが、十分に実用的な写真画質が得られます。後半からは規格外のフォーマットで使いますので、性能評価についてはこのくらいにしておきましょう。写真作例をどうぞ。

F8, Fujiflm GFX100S(AWB, Aspect Ratio 65:24, FS: CC)


F8, Fujiflm GFX100S(AWB, Aspect Ratio 65:24, FS: CC)
F8, Fujiflm GFX100S(AWB, Aspect Ratio 65:24, FS: CC)

 

続いてクロップ無しのフルフレーム写真です。すぐ見てわかるように全くケラれていませんし、光量落ちも気にならないレベルに収まっています。

GFXシリーズでケラレ無しで使える広角レンズがありましたら、ぜひ紹介してください。その際は、こちらもご覧になってください。

F8,Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: CC) 
F8, Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: CC) 
F5.6, Fujifilm  GFX100S(WB:auto, FS: CC) 











F8, Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: CC) ちなみに開放F3.5での同じ場面ですとこんな感じになります。本来は写らない部分に滲みが出ていますが、本来の画角でカバーされる部分は滲みのない像で、開放でも十分にシャープですね。絞れば全画面でシャープ




F8 Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)








2023/02/11

PETRI C.C Auto 28mm F3.5


ペトリカメラの主力広角レンズ

PETRI C.C Auto 28mm F3.5

ペトリカメラのネタもそろそろ今回で最後になりそうな頃合いですが、取り上げるのは同社が1966年頃に発売した焦点距離28mmの広角レンズPETRI C.C Auto 28mm F3.5です。このレンズは同年のフォトキナに新型一眼レフカメラのPETRI FTと共に出展されました[1]。28mmといえば古くから広角レンズの代名詞のような焦点距離で、各社ここには力を入れてきました。室内での撮影には広すぎず狭すぎずの絶妙な画角が要求されるわけで、焦点距離35mmでは画角が足らず、24mmではパースペクティブによるデフォルメが効きすぎる。焦点距離28mmのレンズはまさにこのような状況で活躍したわけです。

レンズの構成は7群7枚のレトロフォーカスタイプで(下図参照)、自動絞り機構を容易に組み込めるよう、絞りの位置を比較的前方に退避させる工夫が盛り込まれています[2]。レンズを設計したのは55mm F1.4や55mm F1.8(後期型), 21mm F4などペトリカメラの主要なレンズを手掛けた島田邦夫氏で、後群のパワー配置から見て明らかなように、1960年発売のNikkor-Hをベースに改良を施した製品であると判断できます。Nikkor-Hはコマ収差の新しい補正方法を切り拓いたレトロフォーカス型レンズの名玉で、これ以降の多くのメーカーの手本になった事で知られています[3]。島田氏の特許資料[2]によると「従来のレトロフォーカス型レンズでは絞りの位置がカメラのボディーに近すぎ、自動絞りの機構を組み込むには窮屈なのだが、(光学設計を工夫し)絞りを比較的前方に退避させることで、これに対応できるようにした」とのこと。ただし、コマ収差の除去がより困難になるため、同時にマスターレンズの側を変形トリプレットにすることで困難を解消したそうです。

Petri 28mm F3.8(左)とNikkor-H 2.8cm F3.5(右)の構成図。上が前玉側で下がカメラの側。Nikkor-Hは後群マスターレンズ側の配置を正負正正とすることでコマ収差が効果的に補正できることを実現した画期的なレンズですが、PETRIは明らかにこれを参考にしているように見えます。前群側の2枚で歪みを効果的に補正しています


参考文献

[1] PETRI@wiki: 「日本カメラショー・フォトキナ出品カメラ

[2] 日本特許庁 昭41-49384(1966年7月29日);特許公報 昭44-23393(1969年10月4日)「絞りを比較的前方に置いたレトロフォーカス式広角レンズ」 

[3] ニッコール千夜一夜物語:第十二夜 NIKKOR-H Auto 2.8cm F3.5

[4] PETRI @ wiki 「ペトリの社内資料レンズデータ編」に掲載されていた社内資料 


PETRI C.C Auto 28mm F3.5(1st model): フィルター径 52mm, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 6枚構成, 重量 208.5g, 設計構成 7群7枚(レトロフォーカスタイプ), 最短撮影距離 0.6m, PETRIブリーチロックマウント

 

入手の経緯

レンズは2023年2月と3月に1本づつヤフオクから手に入れました。ペトリの35mmF2.8はだいぶ値上がりしてしまいましたが、このレンズはまだあまり認知されていないようで、国内のネットオークションでは5000円にも満たない安値で取引されています。自分が手に入れた1本めのレンズもオークションの記載にカビがあると記載されていたため入札されず、3000円+送料で手に入れることができました。届いたレンズを見ると傷やクモリのない悪くない状態で、カビもレンズ2枚目の裏側に小さなものが居座っている程度でした。前群の光学ユニット全体が回せば簡単に外れる構造になっていましたので、取り出して清掃しみることに。。。しかし、残念ながらコーティングにはカビ跡が残りました。写真には全く影響の出ないレベルですので、値段を考えれば充分な個体です。2本目のレンズもヤフオクからで、PETRIの一眼レフカメラ本体と標準レンズ、PETRIズーム、テレコンのセット品を5000円で入手しました。カメラやレンズはペトリにしては珍しく丁寧に手入れされており、カビやクモリ等のない良好なコンディションでした。

PETRI to LEICA Mアダプター:秋葉原の2nd Baseで購入できる特製品を使用しました


撮影テスト
開放から中央は滲みの少ないシャープな描写のレンズです。線は太く、解像力よりもコントラストで押すタイプですが、現代のレンズに比べればコントラストは緩めで、トーンもなだらかなオールドレンズらしい側面を備えています。開放では遠方撮影時に光量落ちが目立ちますので、気になる場合は少し絞る必要があります。写真四隅の倍率色収差はやや強めに出ています。この種の広角レンズにありがちな樽型の歪みはよく補正されていますが、この補正に関する影響で近接撮影力が弱いとの解説がNikkor-Hに対してあります[2]。このレンズもおそらく同様で、最短側では解像力が弱い印象を受けました。拡大すると像がベタッとしています。最短撮影距離が0.6mとおとなしめの設定になっているのも頷けます。
F3.5(開放), SONY A7R2(WB:日光) 今日もこの子に付き合ってもらいます


F8, Sony A7R2(WB:日陰)
F3.5(開放), Sony A7R2(WB:日陰) 近接での解像力はこんなもんです

F8, SONY A7R2(WB:日光) 基本的に線の太い描写です 

F8, SONY A7R2(WB:日光)レトロフォーカスタイプにしてはゴーストは出にくい印象です。歪みもよく補正されています

2022/08/08

Petri C.C Auto 21mm F4

   

そのレンズ、旨いのか?不味いのか?
ペトリカメラのウルトラワイド

PETRI C.C Auto 21mm F4

結論から言いましょう。高性能です。ペトリのレンズが高性能なのは描写性能に高い基準を設けていたからで、製品化の際には同時代のニッコールと撮り比べをおこない、どちらがペトリなのか見分けができない事を基準としていたそうです[1]。レンズの性能に対する同社の自信は宣伝時に用いた「性能はニコン。価格は半額」というキャッチフレーズにもあらわれています。技術的にハードルの高いレンズでは、メーカーの設計理念の高さが描写性能に如実に表れるのではないでしょうか。

さて、今回取り上げるレンズはペトリカメラが開発し1973年に発売した焦点距離21mmのウルトラワイドレンズPETRI C.C Auto 21mm F4です。このレンズが誕生した時代は国内でもミラーアップなしで使える一眼レフ用ウルトラワイドレンズが各社から出始めた頃で、先行製品のCarl Zeiss Jena Flektogon 20mm F4(1961年発売)やNikkor-UD 20mm F3.5などを意識した製品を各社開発していました。レンズ構成は下図のような6群9枚の複雑な形態で、時代的にはコンピュータを利用して設計された光学系です。ペトリのレンズ設計は初期はそろばんで、その後は手回し式のタイガー計算機に変わり、さらに機械式のモンロー計算機、最後はデータをテープで送るコンピュータに変遷したとのことです[1]。このレンズは最後期の製品なので、設計は紙テープ式の旧式コンピュータだったのでしょう。レンズ設計を担当したのは同社の55mm F1.4や55mm F1.8(新型)を手掛けた島田邦夫氏です。島田氏の手掛けたレンズには優れたものが多く、この21mmも例外ではありません。ただし、開発時は社内の基準をクリアすることに大変苦労したそうです[1]。

参考文献

[1] petri @ wiki「ペトリカメラ元社員へのインタビュー(2013年)」リバースアダプター氏

[2] petri @ wiki「ペトリの社内資料レンズデータ編」に掲載されていた社内資料をトレーススケッチした見取り図です。ガラスの種類についてはソース元を見てください。光線軌道シミュレーションなどもあります

 

Petri C.C Auto 21mm F4光学系見取り図(トレーススケッチ)[2]。設計構成は6群9枚のレトロフォーカス型で、第一レンズがはり合わせになっているのが、他ではあまり見ない特徴です
PETRRI C.C Auto 21mm F4:フィルター径 77mm, 絞り F4-F16, 絞り羽 6枚構成, 最短撮影距離 0.8m(0.5m前後までマージン有), 設計構成 6群9枚レトロフォーカスタイプ, 重量(カタログ値) 370g  , マウント規格 ペトリブリーチロックマウント

















 

入手の経緯

2022年5月にヤフオクでリサイクルショップが出品していたものを即決価格で購入しました。国内のオークションではカビやクモリのある個体が4万円位から取引されています。コンディションにもよりますが、相場は4〜7万円あたりでしょう。オークションの記載にカビがあると記されていましたので届いた商品を見たところ・・・・居た居た。絞りに面した後群側に成長中のカビが居座っていました。後群の光学ユニット全体が回せば簡単に外れる構造でしたので、取り出して拭いてみると完全に綺麗になり、コーティングは大丈夫でした!。ガラス自体はクモリや傷のない大変状態の良い個体なのでラッキーな買い物です。ネットに一切の作例が出ていないので、どんな写りなのか楽しめそうなレンズです。デジタルカメラへのマウントには2nd baseで入手できるPETRI-Leica Mアダプターを使用しました。

 
撮影テスト
描写性能の高さには驚きました。少し前に撮影テストした同時代のMIRANDA 21mm F3.8よりも開放でのシャープネスやコントラストは明らかに良好で、中心部から中間画角にかけてフレアの少ないスッキリとした描写です。ピントの山がつかみやすく、ダラダラとピントの合う同等製品が多い中、このレンズはキレのある合焦が特徴です。ニッコールを性能の指標として製品開発を行っていただけのことはあります。開放では写真の四隅にコントラストの低下と発色の濁りがあり、この部分に関して言えば同時代・同クラスの他社製レンズと大差はありません。また、光量の多い晴天下の屋外撮影では、開放時に四隅の周辺光量落ちが目立ちますので、1段以上絞って撮影する必要があります。ただし、こういう状況下ではシャッター速度の観点からみても、そもそも絞って撮影するわけですので、使い方を考慮した最適化が描写設計にも行き渡っていると考えるべきでしょう。絞り込んだ時の四隅の画質はとても良好で、フレアの少ないしっかりとした描写です。歪みは概ねよく補正されていますが、中間画角でやや樽型になり、四隅の最端部近くでは反対に糸巻き状に歪んでいます。広角レンズといえば樽型の歪み方が定番なので、ちょっと新鮮かな。逆光時のゴーストが出にくいという噂は本当のようで、フレクトゴン20mm F4よりもゴーストはおとなしい印象でした。ペトリカメラのレンズ設計力の高さを改めて実感することができる価値のある一本です。
 
F4(開放) sony A7R2(WB:日光) 開放から中央は充分な画質でコントラストも良好、F8に絞ったこちらの画像と比較しても大きな差はありません。四隅の光量落ちがやや目立ちます

F8 sony A7R2(WB:日光) 続いて絞った結果です。四隅まで充分に良好な画質です



















F8 sony A7R2(WB:日陰) シャープなレンズなので、絞るとカリカリになるケースもあります


F11 sony A7R2(WB:日光)
  

F4 vs. F8

F4(開放) sony A7R2(WB:日光) 中央から中間画角まででしたら開放でもスッキリと写りコントラストも良好、四隅もこのクラスのレンズとしてはフレア量の少なめな良好な画質です。ただ、開放では光量落ちがやや目立つ結果に







F8 sony A7R2(WB:日光) 中央は灯台の中腹に空いた排気口の中のブレードの数までハッキリとわかります。四隅も高画質




































 
銀塩フィルムでの撮影

FILM: KODAK C200カラーネガ
Camera: PETRI V6