庶民の味方ISCOのレンズは
安くて良く写るドイツ版タクマーでございます
安くて良く写るドイツ版タクマーでございます
シュナイダー・クロイツナッハ社は傘下にIsco-Göttingen(イスコ・ゲッチンゲン)という名の子会社を持つ。ISCOという社名はシュナイダーの創設者の名を含むIoseph Schneider CO.の頭文字から来ており、親会社とどういう関係にあったのか興味が絶えない。創業は第2次世界大戦前の1936年であり、ナチスドイツ政府によってシュナイダー社から分社化され、ドイツ・ゲッチンゲン市を拠点にスタートした。大戦中は航空撮影用レンズの製造を手がけおり、政府によってクロイツナッハ市の親会社から移動を命じられてやって来たA.W.トロニエの設計・指揮のもと45000個の航空写真用レンズ(ウルトロンタイプとクセナータイプ)を製造したと言われている。
ISCOとSchneiderの双方から開放F値や焦点距離のダブる同一仕様の製品が数多く発売されており、Schneiderが高級レンズ、ISCOが廉価製品を製造するという役割分担の企業イメージが一般的な認識として定着している。たしかにISCOのレンズはどれも安い(ISCORAMAだけは別格)。しかし、設計が全く異なるものばかりであり、廉価版というよりは関連の無い別のブランド製品を作っていたというのが実態に思える。今回取り上げる1本はISCOが1960年代前半に製造したWESTROCOLOR 50mm/F1.9という名のガウス型高速標準レンズだ。レンズの名称から本品は明らかにカール・ツァイス・イエナの高速標準レンズであるPANCOLOR 50mmを意識した製品である。ちなみに、同じ時期に発売された姉妹品(ゼブラ柄のAUTO WESTシリーズ)には超広角のWESTROGON 24mm/F4、広角のWESTRON 35mm/F2.8、望遠のTELE-WESTANAR 135mm/F3.5などがあり、これらも当時のツァイス・イエナが製造していたFLEKTOGONやSONNARのレンズ名の一部を真似た名である事がわかる。要するにISCO WESTシリーズは東独スター軍団に対する対抗商品なのである。なお、対応マウントはM42とEXAKTAの2種が用意されている。親会社のシュナイダーから類似製品(Xenon 50mm/F1.9)が出ており、本品との性質の差異に興味が湧く。
フィルター径:54mm, 絞り値;F1.9-F22 /焦点距離:50mm, 最短撮影距離:0.5m, 重量(実測):226g, 光学系の構成は4群6枚のガウス型, 絞り羽根の枚数:12
★入手の経緯
本品は2010年3月1日にeBayを介してギリシャの有名・優良業者still22から購入した。商品の状態はエクセレントであり、「レンズのエレメントはすべてクリアー。絞りリングとフォーカスリングはともにスムーズで精確に動作する。鏡胴には使用感がある」とのこと。このレンズはISCOの中でも珍しいタイプであり中古市場にはあまり出回っていない。過去に出品された時には200㌦付近まで値が上がった。150㌦を投入し入札したところ何と88㌦(約8000円)で呆気なく落札してしまった。送料込みでも10000円程度だ。一体、どうしたのだろうか。有名なstill22の品なので商品の品質に大きな外れはない。届いた商品はやや羽根にオイルがまわっていたが、羽根の開閉はスムーズで支障はなく、他の部分は解説のとうりであった。
★撮影テスト
開放絞りでは結像がやや甘くコントラストは低下気味になるものの、しっとりとした描写が楽しめる。シュナイダーの製品に良く似てボケ味が柔らかく色ノリがよい。中でも青や緑が鮮やかでとても綺麗である。絞り羽根の枚数が12枚もあり、開口部はどのような絞り値でも真円に近い形になるので綺麗なボケとなる。グルグルボケや2線ボケは出ず、どのような距離においても穏やかで素直なボケ味であることが本品の特徴だ。1~2段絞ればコントラストば向上し、結像はスッキリとシャープになる。以下作例。
F1.9 開放絞りでは結像がやや甘くコントラストも僅かに低下気味だがしっとりとしたいい雰囲気が出ている。発色はとても鮮やで安価なレンズとは思えないいい描写だ。レンズ専門のメーカーというだけのことはある
F4 2段絞ればカリッとシャープになりコントラストも向上する
F4 ボケ味がフワッと柔らかいところはシュナイダーのクセノンに良く似ているが、グルグルと流れることはなく素直で穏やかなところがクセノンとは異なる。質の高いボケ味と言える
F5.6 ややフレアが出てしまったが、絞ってしまえばコントラストは高く、階調表現もなだらかで良く写るレンズだ
F5.6 良い味出してる椅子を発見!と、ここでコントラストの高いシビアな撮影条件を試してみた。やや白飛び気味となった
★上位のモデルにあたるSchneider-Kreutznach Xenon 50/1.8との描写の比較
WestrocolorとXenonはともに焦点距離が50mmで開放絞りがF1.9、光学系は4群6枚のガウス型レンズだ。同じシュナイダーグループから同一仕様のレンズを2本も出す必要が何故あったのか?両レンズを揃えたので、これを機に差異を調べてみた。
Xenon 50/1.9(左)とWestrocolor 50/1.9(右)。Xenonの方が一回り小さい
左はXenonで右はWESTROCOLOR。双方とも開放絞りF1.9で撮影した。Xenonは開放絞りでもコントラストの低下は少ない。対するWestrocolorは少し白っぽくなっている。ヌイグルミの右側の樹木を比較すると、左側のXenonはザワザワと煩いのに対し、右側のWestrocolorは穏やかだ。三脚をたてて撮影したので気付いたのだがXenonの方が少し画角が広い
ピント面の拡大写真。双方とも開放絞りF1.9での撮影結果だ。Xenonの方が解像感があるのに対しWestrocolorは結像がやや甘い
Xenon 50/1.9(左)とWestrocolor 50/1.9(右)のボケ味の比較。双方ともF1.9にて撮影した。Xenonは背景の結像がグルグルと流れている様子がわかる。Westrocolorの方が周辺部まで均質で素直なボケ味のようだ
シャープで高コントラストなXenon、ボケ味の優れたWestrocolorという描写面での差異がよくわかった。
シャープで高コントラストなXenon、ボケ味の優れたWestrocolorという描写面での差異がよくわかった。
昨日はおつかれさまでした。
返信削除興味ある話色々聴かせてもらって良かったです。
また次回、お会い出来たら本見せて下さい。^^
リンクいただきますね。
こちらこそ、とらさんとお会いでき有意義な会合でした。とらさんの写真サンプルを拝見し、風景を撮りたい気持ちがムラムラと込み上げています。このやり場のないエネルギーは、8月のバリ旅行で発散してきます。いつか洞窟にも行きましょうね♪ 次回にご期待。
返信削除"isco"会社のiは簡単に理解できません。
返信削除joshep schneiderですが、...
そのとおり。ドイツ語ではjとiで読み方が入れ替わります。例えば
削除EXAKTAのカメラを製造したJhagee社はイハゲーと読みます。
ドイツ語でIosephと書く場合、英語ではJosephとなります。
ドイツ語でJhageeと書く場合、英語ではIhageeです。
ドイツ語でCarl Zeiss Jenaと書く場合、英語ではCarl Zeiss Ienaでしょうね。
同様にKとCも入れ替わります。
KameraがCamera, ExaktaはExactaですね。
ありがとうございます。
削除疑問がフルました。該博な知識が本当に感動しています。
CSZ ultronが出荷中なのに期待しています。
ただし、ポーランド販売だからかどうか心配です。韓国でも言われたポーランドの売り手はなるべく購入を控えているのです。有名な話です。
ポーランドの販売者はなるべく避けたほうがよいです。
削除ただし、返品は確実にしてくれます。