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2016/12/04

Meyer-Optik Görlitz Diaplan 100mm F3 (projector lens)




ダイアプランの原点
Meyer-Optik Görlitz DIAPLAN 100mm F3
メイヤー・オプティック(Meyer-Optik)のトリプレット型レンズに対する拘りは強く、同社の看板レンズであるトリオプラン(Trioplan)にはF2.8, F2.9, F3, F3.5, F4.5など口径比の異なる様々なモデルが供給されている。中でも口径比F3はポートレート用のスペシャルモデルに位置づけられた経緯があり、流通している個体数が少ないのもさる事ながら、明るさと画質のバランスが絶妙なため、マニアの間では別格扱いされている。このトリオプランから派生したプロジェクター用レンズのダイアプラン(Diaplan)にも実は口径比F3のモデルが供給されており、描写傾向に対する興味は増すばかりである。100mmF3は140mm F3.5などと共に戦前から供給されてきたダイアプランシリーズの最古のモデルである。ダイアプランはトリオプランよりも安価であることに加え、写真用に改造することでトリオプラン同等のバブルボケを出すことができるため、近年になって人気が急上昇している(参考文献[0])。本ブログでもダイアプラン80mm F2.8や後継モデルのペンタコンAV ( Pentacon AV)100mm F2.8など、関連するレンズをこれまで何本か取り上げてきた。
ダイアプラン100mm F3についてはシリアル番号の独自調査により戦前の1930年よりも前の時代に早くも登場していることが判明しており(参考資料[1])、本ブログで今回取り上げる1本もシリアル番号が19万番の1920年代に製造された個体である。EXAKTA用やLEICA用として3種のTrioplan(10cm F2.8/10.5cm F2.8/12cm F4.5)が登場したのは1936年であるから、Diaplan 100mm f3はこれらよりも前に登場していたことになる。このモデルの生産は戦後もしばらく続き、1950年代にはガラス面にコーティングが施された個体も市場供給されているが、1960年代初頭に口径比が少し明るいダイアプラン100mm F2.8が登場し姿を消している(参考資料[2][3])。なお、メイヤー・オプティックは1968年にペンタコン人民公社(VEB Pentacon)に吸収され、それまでのメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置わっており(参考資料[4][5])、ダイアプラン100mm f2.8についても設計構成は同一のままペンタコンAV (Pentacon AV)100mm f2.8へと改称されている。

入手の経緯
ノンコートモデル
2016年11月にeBayを介してドイツのカメラ屋アルパ・フォトグラフィーからレンズヘッドに純正ヘリコイドがついた状態の品を99ユーロ+送料6.5ユーロの即決価格で落札した。オークションの記述は「完全に良好な状態の実用品である。ガラスはクリアでカビはない」とのこと。届いたレンズは後玉が汚れていたので、クリーニングし完全にクリアになった。レンズにはプロジェクター本体に固定するための筒(末端が58mmネジ)が付属していたので、ここにM58中華製ヘリコイドを据え付け、ヘリコイドのカメラ側を58-39mmステップアップリングとM39-M42変換リングで末端処理し、M42レンズとして使用できるようにした。
Diaplan 100mm F3(戦前製), 重量(実測)145g(側部の鏡胴固定ネジは含まず), 設計構成は3群3枚のトリプレット型, ノンコート, シリアル番号197099(製造は1920年代)

コーティング付きモデル
2016年11月にeBayを介して競買の末、レンズヘッドのみをエクサクラウスさんから74ユーロ+送料8.6ユーロで落札した。オークションの記述は「ナイスコンディション。ガラスはちょっとだけクリーニングが必要だろう」とのこと。届いたレンズは中玉にやや汚れとゴミがあったが、構造が単純なので簡単に分解でき、クリーニングしたところクリアになった。ステップアップリングを用いてM52中華製ヘリコイド(17-31mm)に搭載すればM42レンズとして使用できるが、今回はより高伸長なヘリコイド(36-90mm)に搭載しsony A7で使用している。
Diaplan 100mm F3(戦後製):重量(実測) 195g(側部の鏡胴固定ネジは含まず) , 設計構成は3群3枚のトリプレット型, ガラス面にコーティングあり,  シリアル番号2240762(1950年代に生産された製品個体

参考資料
  • [0] レンズの時間 VOL.2 P43-P49 玄光社
  • [1] オークション取引歴の中にシリアル番号167XXXのDiaplan 100mm F3が見つかる。これは戦前の1930年よりも前の時代の製品である。
  • [2] 今回入手した1本はシリアル番号から1950年代後期に生産された個体である。ガラスにはコーティングが施されている。一方、オークションの取引歴には1952年製(シリアル番号130万番)のノンコートの個体もみつかる。メイヤーがコーティング蒸着装置を導入するのは1952年と遅かった。
  • [3] オークション取引歴の中には1960年代初頭に生産されたDiaplan 100mm F2.8(S/N: 2624XXX)がみつかる。参考資料[2]との前後関係から1960年前後にモデルチェンジが行われ、口径比がF3からF2.8に明るくなったものと判断できる。
  • [4]  オークション取引歴の中にDiaplan 100mm F2.8(S/N:6933XXX)が確認できるため、このモデルは少なくても1970年代初頭までは生産されていたと判断できる。1971年にMeyerブランドは全てPentaconブランドに置き換わっている。
  • [5] 東ドイツカメラの全貌(朝日ソノラマ)
M42マウントへの改造例
ダイアプランのレンズヘッドにはプロジェクター用のヘリコイドが付属していることが少なくないので、これを有効活用しM42マウントに改造する事例を示しておく。必要な部品はM52-M42ヘリコイドと、プロジェクター用ヘリコイドの末端を52mm径のネジにするために用いる52-62mmステップアップリングである。ステップアップリングは内側のネジ山をルーターで削り若干広げておく。これをプロジェクター用ヘリコイドの末端に被せ、側面からネジ留めすれば完成だ。無限遠のピントがほぼピタリと出ている。なお、今回はネジ留めではなくエポキシ接着で簡単に済ませた。ガッチリ接着してしまうと力ずくでも取り外すのは困難なので、3点留め位に手加減しておくのがよい。
レンズはダブルヘリコイド仕様になっているので普段はM52ヘリコイドを使い、マクロ撮影の時のみプロジェクター用ヘリコイドを繰り出して用いる。

撮影テスト
過去に本ブログで取り上げた口径比F2.8の後継モデルPentacon AV 100mmはピント部にややフレアが発生するソフトな描写傾向のレンズであったが、今回取り上げるDiaplan F3は、これよりもフレア量が少なくシャープな像が得られている。ただし、解像力は後継モデルの方が良い印象をうける。肝心のボケについては被写体の背後に強い光の集積をともなうハッキリとしたバブルボケを確認できた。コーティングつきモデルとコーティングなしモデルの画質的な差は階調描写性能のみで、コーティングのあるモデルの方がコントラストが良好で色乗りがよく、コーティングなしモデルの方が逆光撮影時にハレーションが出やすく、発色が淡白になる傾向がみられた。淡泊な描写を避けたいならばフードをしっかり装着し、デジカメのセッティングをビビットにすればよい。それ以外の解像力やボケ具合、フレア量などについて、両モデルはほぼ同等である。
コーティング付きモデル + sony A7(AWB): ボケの輪郭部に強が集まり、しっかりとしたバブルボケを形成している

コーティングつきモデル + sony A7(AWB):ピント部は四隅まで安定感のある描写で、滲みはPentacon AV 100mm F2.8に比べると少な目である
ノンコートモデル + sony A7(APS-C crop mode, WB:晴天): バブルの大きさを抑さえたい時にはAPS-Cモードに変え、引いてとるとよい
ノンコートモデル + sony A7(APS-C mode, AWB):こちらもマクロ域。バブルボケが大きくなりすぎるので、APS-Cモードの方がよい
ノンコートモデル + sony A7(APS-C mode, AWB): こういう被写体には軟調なノンコートレンズの描写がよく合う
コーティングつきモデル + sony A7(AWB): 背後の像がバブルボケを伴いながら崩壊している。たっ、楽しい!




コーティング付きモデル + sony A7(WB:晴天, クリエイティブスタイル Vivid): ノンコートレンズで彩度がほしいならデジカメの設定を変えればよい。この作例ではクリエイティブスタイルをノーマルからVIVIDに変更している

ノンコートモデル + sony A7(AWB): ノンコートレンズはもともとコーティング付きよりも軟調なので、長所を生かしハイキー気味に撮影するとライトトーンな写真になる。バブルボケの白さもアップ!













ノンコートモデル + sony A7(Full-frame mode, AWB): Diaplan 100mm F2.8との画質の差はフレア量であろう。モヤモヤとした滲みが苦手な人はDiaplan(Pentacon AV) 100mm F2.8よりもF3のモデルを選ぶ方がよいのかもしれない

2016/10/15

VEB Pentacon AV(Meyer-Optik Diaplan) 100mm F2.8 and 140mm F3.5




爺さんはトリオプラン、父さんはダイアプラン
バブルボケファミリーの血が騒ぐ
Pentacon AV 100mm F2.8 and 140mm F3.5
プロジェクター用レンズのペンタコンAV(PENTACON AV)は改造して写真撮影に転用することでバブルボケを発生させることができるため、高価なトリオプラン(Trioplan) 100mm F2.8の代用品になるレンズとして脚光を浴びている[文献1]。今回はその中でも大口径モデルであるペンタコンAV 140mm F3.5とペンタコンAV 100mm F2.8を取り上げてみたい。ボケ量は口径の大きなレンズほど大きく、開放F値が同一の場合には長焦点(望遠)レンズになるほど大きなボケが得られる。140mmF3.5と100mm F2.8は同シリーズの中で150mm F2.8に次ぐ大きな口径を持つのが特徴で、マクロ域での撮影のみならずポートレート域で人物を撮る際にも、背後の空間に大きなバブルボケを発生させることができる。また、望遠圧縮効果を活かした長焦点レンズならではの撮影ができるメリットもあり、背後に奥行きのある場所で撮影すると、バブルボケの出方が平面的にはならず、大小さまざまなサイズのバブルが折り重なるように発生し、とても印象的な写真が撮れるのである。焦点距離140mmのモデルはネットに作例や情報がなく、どれほどの写真が撮れるのかは今回のエントリーが初公開になりそうである。
ペンタコンAVには今回取り上げる2本以外に複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類のバリエーションを確認している[注1]。最もポプラーなモデルは100mm F2.8と80mmF2.8である。レンズの先代はメイヤー・オプティックのダイアプラン(Diaplan)であるが、メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わっている。ペンタコンAVはメイヤー時代にダイヤアプランとして生産していたものをペンタコン人民公社が名称を変えて生産したレンズであり、中身の設計はダイアプランと同一である。
ダイアプランはトリオプランと描写傾向がそっくりであるため、設計が同一であるかもしれないという憶測から注目されるようになった。その真偽については何も伝わっていないが、実際にダイアプラン100mm F2.8とトリオプラン100mm F2.8の描写を比較している記事があり、両者は発色傾向が異なるのみでボケ味や解像力、開放での柔らかい描写傾向などは見分けがつかない程よく似ている[文献2]。違いと言えばダイアプランは寒色系の強い現代的な発色傾向であるのに対し、トリオプランは暖色系にコケる傾向がある点で、この差はコーティングの種類が異なることに由来しているものと思われる。

注1:Pentcon AVとDiaplanには焦点距離の異なる複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200)を確認している。


PENTACON AV 100mm F2.8:構成は3群3枚のトリプレット, 今回もレンズヘッドのみを入手後、自分で改造しM52-M42ヘリコイド35-90mmに搭載した


PENTACON AV 140mm F3.5:構成は3群3枚のトリプレット, 灰色の部分はプロジェクターに据え付ける際に用いるペンタコンAV用の純正ヘリコイドである
入手の経緯
本品はレンズヘッドのみをeBay経由でドイツの業者から取り寄せ、自分で直進ヘリコイドに載せM42マウントに改造したレンズである。レンズヘッドの値段は100mmF2.8が13000円、140mm F3.5が8000円であった。はじめから改造済みの品を手に入れるにはNOCTOなどレンズの改造を専門にしている工房に相談するか、ヤフオクでこの種のレンズを定期的に出品しているセラーから買い取るのが国内での入手ルートである。改造済のレンズの場合、100mmF2.8で1本30000円~45000円程度が相場である。140mm F3.5の相場については取引履歴がどこにもないので不明であるが、レンズヘッドの価格や80mm F2.8の相場が20000~30000円であることを考慮すると、25000円~35000円あたりが妥当な値段と言えるだろう。100mmのモデルは元祖バブルボケレンズのトリオプランと同じ焦点距離であるため人気は高く、取引価格も他のモデルより高額に設定されている。

写真用レンズへの改造
両モデルともプロジェクター用レンズであるため、写真用レンズとして用いるには改造が必要である。100mmのモデルは鏡胴の前玉側(首根っこのあたり)にステップアップリング58-55mmとPETRIの55mm径フード(PETRI Φ55mm)をはめ、ステップアップリング55-52mmを介してM52-M42ヘリコイド(36-90mm)に搭載しM42レンズとして使用できるようにした。すこしオーバーインフなので、M42-Nikon Fアダプターを介してNikon Fに搭載した場合にも無限遠を拾ううことができた。
140mmの方はプロジェクターに据え付ける際に用いるペンタコンAV用の純正ヘリコイドがついていたので、これを有効利用している。末端部が58mmネジであることを利用し、58-52mステップアップリングを介してM52-M42直進ヘリコイドに搭載し、M42レンズとして使用できるようにした。



参考文献・サイト
[参考1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
[参考2] Markus Keinath - Soap Bubble Bokeh Lenses 
[参考3] 球面収差の過剰補正と2線ボケ,小倉磐夫著, 写真工業別冊 現代のカメラとレンズ技術 P.166;  球面収差と前景、背景のボケ味,小倉磐夫著, 写真工業別冊 現代のカメラとレンズ技術 P.171
[参考4] Kravtsov, Yu. A., A modification of the geometrical optics method: Radiofizika, 7 664-pp.673(1964a); Kravtsov, Yu. A., Asymptotic solutions of Maxwell’s equations near a caustic, Radiofizika, 7, pp.1049(1964b).
[参考5] Ludwig, D., Uniform asymptotic expansions at a caustic, Comm. Pure and Appl. Math., XIX 215-250(1966)


撮影テスト
両レンズとも口径が大きく、設計は3枚構成のトリプレット型である。背後の空間に点光源をとらえると比較的大きなバブルボケが発生する。また、中判6x7フォーマットを越える大きなイメージサークルをもつので、搭載するレンズヘッドにM42-M42ヘリコイドを用いたのでは、ヘリコイドの内壁面で強い反射がおこり、コントラストが低下してしまう。そこで、今回は一回り太いM52-M42ヘリコイドに搭載することにしてみた。するとコントラストが大分改善され、両レンズともシャープで発色の鮮やかな描写傾向を示すようになった。太いヘリコイドを使用するメリットについてはこちらの記事で解説している。
フレアは100mmよりも140mmの方が少なめで、140mmは近接域でもスッキリとしたヌケのよい描写である。その分、コントラストも140mmの方が若干よく、シャープでメリハリのある力強い写真が撮れる。口径比がF3.5と半段暗く、設計に無理がないためであろう。ペンタコンAVのF2.8のモデルに絞りがついていると仮定し、それを開放から半段絞った描写であると考えれば話ははやい。
バブルボケの発生原因は収差であることを忘れてはならない[文献3]。バブルボケはボケの輪郭部に光が集まることにより形成されるが、光の集積部(専門用語では火面と呼ばれている)を作り出しているのは球面収差やコマ収差である[文献4,5]。この種の収差はフレアを生み出す原因にもなるため、フレア量の大小はバブルボケの「ハッキリ度」を察知する指標にもなっている。ならば、半段絞った口径比をもつ140mmのモデルではバブルボケのハッキリ度も小さいであろうというのが三段論法の結論だ。しかし、実写で試してみた感触としては140mmのモデルにもバブルボケを発生させるレベルの残存収差はしっかり残っていた。バブルボケに興味はあるがソフトな描写は苦手という方には140mmのモデルをおすすめしたい。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには望遠レレンズ用の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。
 

PENTACON AV 100mm F2.8 + SONY A7
 
Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天),  ポートレートでもこの通りに大きなバブルボケが出るのは、さすがに大口径レンズである
Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): ハイライト部はややフレアっぽいが、シャープネスの高さと発色の良さはMeyerのTrioplan 100mm F2.8の開放描写を超えているという印象をうける。ボケの輪郭部にかなりつよい光の集積がみられ、ハッキリとしたバブルボケを形成している
Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): 近接域ではモヤモヤとしたフレア纏うが、コントラストは十分である

Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): お気に入りの一枚。子供の世界だ


Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): 相場価格10万もする高価なトリオプラン100mmを購入するよりも、M52ヘリコイドに搭載しコントラストを改善させた本品の方が私には魅力的な商品にみえる





 Pentacon AV 100mm + Fujifilm GFX100S
PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)


PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)

PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)

PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)

PENTACON AV 140mm F3.5による作例
Pentacon AV 140mm F3.5+ sony A7(WB:晴天): この製品もや点光源を背後の空間に捉えることでバブルボケの出るレンズであることがわかった
Pentacon AV 140mm F3.5+sony A7(WB:晴天), 温調な写真が多いのは撮った時間帯が夕刻だったため。これまで本ブログで扱った口径比F2.8のモデルに比べると、フレアは出にくく、シャープネスやコントラストは明らかに高い
Pentacon AV 140mm F3.5+sony A7(WB:晴天); バブルボケだけがこのレンズの芸ではない。背後のボケは基本的に硬いので、うまく利用すれば形を留めた美しいボケ味になる
Pentacon AV 140mm F3.5+ sony A7(WB:晴天): 

Pentacon AV 140mmF3.5+sony A7(WB:晴天): 長焦点トリプレットというだけのことはあり、解像力は良好でボケも四隅まで乱れずに安定している



Pentacon AV140mm F3.5+sony A7(WB:晴天), ピントは真面目に合わせてはいないので、ご了承いただきたい。バブルボケはしっかり出ている

Pentacon AV 140mm F3.5+sony A7(WB:晴天), バブルボケとはボケ玉の輪郭に光の集積部のある独特のボケ方を指す。普通の玉ボケとは一線を画するものであることがわかる




2016/04/21

VEB Pentacon(Meyer-Optik Diaplan) 150mm F2.8 x Speed Graphic



東ドイツのペンタコンブランド PART 4(後篇)
スピードグラフィックで辿りつく
バブルボケフォトの極大点
VEB Pentacon (Diaplan) 150mm F2.8
ペンタコンAV(ダイアプラン)シリーズで最大の口径を誇る150mm F2.8は中判6x6フォーマットのMalisixという投影機に供給されたプロジェクターレンズである。イメージサークルには余裕があり、中判6x9フォーマットまでを余裕でカバーできる。フォーカルブレーンシャッターを搭載した万能カメラのスピードグラフィックに取り付け、特大サイズのバブルボケフォトを楽しもというのが今回の企画である。ちなみに中版6x9フォーマットで撮影した場合の撮影画角は35mm版換算で65mm相当と標準レンズ並みの広さとなる。イメージサークルを余す所なく活用した写真には一体どれほど大きなバブルボケが写るのか。想像するだけで胸がいっぱいになり、鼻血が出そうである。このレンズの中判カメラによる実写はこれが初めてなのではないだろうか。

入手の経緯
前回の記事で紹介したPentacon AV 150mm F2.8(M42改造)は記事を公開した直後に売却してしまった。しかし、その直後に中判カメラによるテストを思い立ち、再び買いなおすことに・・・。レンズは2016年3月にドイツ版eBayにてレンズヘッドの状態で売られていたものを90ユーロ+送料20ユーロの即決価格で入手した。この時点では誰も関心を寄せないレンズであったため、他に入札はなく、難なく私のものとなった。しかし、1か月たった現在では出品される商品に多くの入札が集まるようになり、レンズヘッドの落札額も1.7~2万円程度まで上昇している。
PENTACON 150mm F2.8, 重量(実測) 約400g(レンズヘッドのみ), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径 62.5mm, 鏡胴は金属製, 設計構成 3群3枚(トリプレット型), マルチコーティング, Malisix 6x6 120 Slide Projector用レンズ, イメージサークルは中判6x9フォーマットをギリギリでカバーできる。大判4x5inchでは写真の四隅がケラれていた
スピグラで撮影中の私。Baush and Lomb Baltar 75mmf2.3 +Sony A7で近所の知り合いに撮っていただきました(Photo by S. Shiojima)

撮影テスト
ボケ量はさすがにフルサイズ機で用いた時とは比べ物にならないほど大きい。ただし、画角が35mm版換算で65mm相当まで広がったのは大誤算であった。望遠圧縮効果が弱まりバブルの大きさが均一になってしまうとともに、グルグルボケが目立つようになり、画面の四隅でバブルが平べったく変形してしまうのである。フルサイズ機で用いたときのような迫力のあるバブルボケにはならない。グルグルボケは主張が強いうえ比較的多くのレンズに見られる性質なので、ある意味でボケが平凡になってしまうのである。バブルボケフォトを楽しむにはボケ量の大きさも重要であるが、無理してボケ量を稼ぐのではなく、望遠圧縮効果を活かし大小さまざまなサイズのバブルを発生させるほうが奥行き感に富む迫力のある写真が得られる。グルグルボケもできれば無い方がよい。このレンズはフルサイズ機にマウントし望遠レンズとして使用するほうが、真価を存分に発揮できると思う。


Photo 1,  F2.8, 中判6x9(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic (Pacemaker):さすがにボケ量は大きい。35mm版換算でF1.2の標準レンズと同等のボケ量が得られる

Photo 2, F2.8, 中判6x9(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic (Pacemaker):オールドレンズ写真学校の講師の方です




Photo 3, F2.8, 中判6x9(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic (Pacemaker): 中判6x9フォーマットだとグルグルボケが目立つようになり、四隅でボケが平べったく変形してしまう。撮影フォーマットはもう少し小さい方がよさそうだ







Photo 4,  F2.8, 中判6x7(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic(Pacemaker):6x9フォーマットは広すぎると感じたので、今度は6x7フォーマットに変更してみた。ボケにはかなり特徴が出ている。娘から光のオーラが立ち上がり北斗の拳になってしまった

2016/03/05

VEB Pentacon (Meyer-Optik Diaplan) 150mm F2.8 (Projector lens)



 前エントリーで取り上げたPentacon AV 80mm F2.8は鏡胴の素材がプラスティックであったが、今回の望遠モデルは耐久性のあるメタルになっており貫禄は充分。ボケ量の大小を決める口径サイズは同シリーズで最大を誇る


東ドイツのペンタコンブランド PART 4(前篇)
ダイアプラン系列で最大の口径を誇る
バブルボケレンズの王者
VEB Pentacon (Diaplan) 150mm F2.8 改M42
プロジェクター用レンズのPENTACON AV/ DIAPLANシリーズは改造して写真撮影に転用することでバブルボケを発生させることができるため、高価なトリオプラン100mm F2.8の代用品になるレンズとして脚光を浴びている[文献1]。今回はその中で最大の口径を誇るペンタコン(AV) 150mm F2.8を取り上げてみたい。ボケ量は口径の大きなレンズほど大きく、口径比がF2.8の場合には長焦点レンズであるほど大きなボケ量となる。150mmの焦点距離を持つ本レンズの場合、得られるボケ量はF0.9相当の極めて明るい標準レンズと同等で、マクロ域での撮影のみならずポートレート域で人物を撮る際にも、背後の空間に大きなバブルを発生させることができる。しかも、本レンズの場合には望遠圧縮効果が有利に働くので、バブルボケの出方が平面的にはならず、大小さまざまなサイズのバブルが空間内を浮遊するような奥行き感のある写真が得られるのである。実はこの150mmのレンズを用いた写真がまだ殆ど公開されていないため、どれほど凄い写真が撮れるのか全く知られていない。レンズヘッドの購入額は約1万円強。1万円で未知の扉を開くことができるのは、オールドレンズ遊びを趣味とするグルメ人として冥利に尽きることだと思う。
ペンタコンAVには焦点距離150mmの製品以外に複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類を確認している[注1]。このレンズの先代はメイヤー・オプティックのDiaplan(ダイアプラン)150mm f2.8であるが、メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わっている。なお、ダイアプランとペンタコンAVの光学設計は全く同一である。
  
先代のMeyer-Optik DIAPLAN 150mm F2.8。外観だけでなく、中身(設計)も全く同一である


注1… Diaplan/Pentacon AVシリーズには焦点距離や口径比の異なる9種類のモデル2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200が存在する。このうち2.4/60は私がこちらで検証したようにレンズ構成が変則的なダブルガウス型のためバブルボケが出る保証はないが、他は全て3枚玉のトリプレット型である。今回入手した150mmf2.86x6フォーマットのMalisixという中判スライドプロジェクターに供給された交換レンズである。理由はよくわからないが、Malisix用のモデルのみ鏡胴が金属製で銘板にAVの表記がない。

参考文献・サイト
[文献1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
 
入手の経緯
2016年1月にドイツ版eBayを経由しアルパフォログラフィーというカメラ屋からレンズヘッドのみを90ユーロ(+送料12ユーロ)の即決価格で購入した。オークションの記述は「プロジェクター用レンズのPentacon (Diaplan) 150mm F2.8。鏡胴径は62.5mmでカメラマウントはない。傷、カビはない」とのこと。マウント部に傷がない品なのでオールドストックであると判断し購入に踏み切った。届いたレンズは撮影に影響のないレベルのホコリがみられる程度で、コンディションの良い個体であった。焦点距離150mmのモデルは流通量が少なく直ぐにはみつからなかったので、長らく探した末の入手である。
PENTACON 150mm F2.8, 重量(実測) 約400g(レンズヘッドのみ), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径 62.5mm, 鏡胴は金属製, マルチコーティング, Malisix 6x6 120 Slide Projector用レンズ

カメラへのマウント
このレンズにはヘリコイドはおろかマウント部すら付いていないため、改造にかなりの工夫を要する。改造における最大の難関は62.5mmもある太い鏡胴をヘリコイドにどうやって据え付けるのかである。しばらくのあいだ試行錯誤を繰り返していたが、ある時にミノルタのメタルフードD52N2が鏡胴にピタリとはまることを発見、このフードをレンズヘッドの後玉側に被せて固定し、レンズヘッドのマウント側を52mmのフィルターネジにすることができるようになった。あとは、そのまま中国製のM52-M42ヘリコイド(35-90mm)に搭載すれば、M42レンズとして使用可能である。M52-M42ヘリコイドはeBayにて50ドル程度から入手することができる。レンズの光軸が傾いてしまったりズレてしまうのを予防するため、レンズヘッドの土台部分に58mm-52mmカプラーを填めてみた。こうすることでレンズヘッドフードの内側にある平らな部分に乗り安定する。なお、レンズの鏡胴内やヘリコイドの内側には反射光防止用の植毛を貼っている。これだけの対策でハレーションはかなり抑制され、写真のコントラストもだいぶ向上している。本レンズのようにイメージサークルの大きなレンズではハレーション対策に万全を期す事が肝心なのである。
 



このレンズにはフィルターネジがないので、ステップダウンリングを前玉側にエポキシ接着した。これで、フードやキャップを装着することができる

撮影テスト
遠方に点光源をとらえ撮影したところ、焦点距離150mmの本レンズでもトリオプランの開放描写を彷彿させる輪郭のハッキリとしたバブルボケを確認することができた。しかも、本レンズの場合は大きなボケ量と強い望遠圧縮効果のため、大小さまざまな大きさのバブルを近接撮影時のみならずポートレート撮影時においても発生させることができる。バブルボケの出るレンズは収差(球面収差)が過剰に補正されており背後のボケは硬くザワザワとしているが、反対に前ボケはフレアに包まれフワッと柔らかく拡散するのが特徴で、これが本レンズの場合にはキラキラと輝きながら滲む素晴らしい写真効果を生む。過剰補正のためピント部は薄いハロに覆われ、ポートレートで人物を撮るのに適した柔らかい描写となっている。コントラストは低く階調はたいへん軟らかいが、中間部の階調はよく出ている。長焦点レンズということもあり、画質は四隅まで大きな乱れもなく安定している。ボケも四隅まで整っておりグルグルボケや放射ボケは全く見られない。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには望遠レンズ用の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。それではダイアプランシリーズ最大のバブルボケをご堪能いただきたい。
 
撮影に使用したカメラはSony A7
Photo 1, sony A7(AW:晴天,カラーバランス補正あり): 柔らかく、軟らかい描写がこのレンズの特徴だ。JPEG撮って出しのオリジナル画像はこちら


Photo 2, sony A7(AWB, 色調補正済): 自転車のハンドルから光のオーラが立ち上がっているが、これも収差の仕業であろう。少し口径食が出たのは深いフードを装着してしまったため。フードの丈を調整をした。補正前のオリジナル(JPEG撮って出し)はこちら

Photo 3, sony A7(WB:晴天, カラーバランスとコントラスト補正済): 背後の空間には輪郭部のはっきりしたバブルが発生する。JPEG撮って出しの補正無し画像はこちら
Photo 4, sony A7(WB 晴天, コントラスト+50, 明るさ+50): 




Photo 5, sony A7(WB 晴天, 補正なし): 前ボケにはフレアがかかり柔らかい

Photo 6, sony A7(AWB): 続いてポートレート。このスケールでも大小大きさの異なるバブルが出た

Photo 7, sony A7(WB 晴天): 

Photo 8, sony A7(AWB): 前ボケはフレアをまといながらキラキラと綺麗に滲む
Photo 9, sony A7(AWB):後ボケはもちろんのことだが、思っていた以上に前ボケがいい!フワッと綿のように拡散している。こうなったら・・・・
Photo 10, sony A7(AWB): : 調子に乗って前ボケによる表現を堪能するまでのこと

Photo 11, sony A7(AWB): : 再び近接撮影で、こんどはピントをきちんと合わせてみた。トリプレットはもともと中央が高解像なのだ
Photo 12, sony A7(AWB): ピント部はやや滲にをともなう柔らかい描写である。ポートレート撮影で女性を撮るにはよいレンズだ



Photo 13, sony A7(AWB): 





Photo 14, sony A7(AWB):