おしらせ


ラベル cinema lens の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル cinema lens の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2024/01/08

Carl Zeiss Jena ERNEMANN-ERNOSTAR 5cm F1.9

ERNOSTAR特集 PART 2

シネマ用レンズとして供給された

焦点距離5cmのエルノスター

Carl Zeiss Jena ERNEMANN-ERNOSTAR 5cm F1.9

エルノスターを開発したエルネマン社でしたが、1926年にツァイス・イコン社の設立母体として他社と合併し消滅してしまいます。ただし、エルネマン社の一部のカメラやレンズは、合併後も短い期間だけCarl Zeiss Jena製品として生産されました。今回紹介するERNEMANN-ERNOSTAR 5cm F1.9もそうした製品の一つで、35mm映画用レンズとして同社がZeiss傘下で1930年頃まで生産したKino model E、およびCarl Zeiss Jena製品の35mm Kinamo N25というカメラに搭載され市場供給されています。注目すべきはこのレンズの設計で、エルノスターファミリーの遺伝子を受け継ぐ系統であることは確かなのですが、下図に示すとおり、これまで事例のなかった4群5枚構成なのです。よく観察しますと、この構成はよく知られている4群4枚の10cm F2と、4群6枚の10.5cm/8.5cm F1.8のちょうど間をとった関係になっており、開放F値が1.9である事が正にそれを暗示しています。この事実が計画的であったかどうかはわかりませんが、ベルテレは構成枚数を1枚づつ追加しながら開放F値を0.1刻みで明るくしたようです。同一構成のレンズとしては、戦後に登場したKOMURA 105mm F2.8, 135mm F2.3, 135mm f2.8などがあります。

 


入手の経緯

レンズは2023年の写真工学研究会グループ写真展で出展者としてご一緒したサンドさんからお借りしました。はじめからライカMマウントに改造されており、デジタルミラーレス機で使用できる状態になっていました。レンズはカビ、クモリ等ない良好な状態です。シリアル番号が94万番代ということで1930年に製造された個体のようです。中古市場で一体幾らで取引されているのかは個体数が少ないこともあり、わかりませんが、10万円~20万円で買えるようなものでは無いとだけは断言できます(さすがに100万円はしませんが)。 

Erneman Ernostar 5cm F1.9: 絞り F1.9-F22, 絞り羽 12枚, 4群5枚エルノスター1型変形, ノンコート, フィルターねじはないが34mm前後が緩くハマる  


撮影テスト

解像力といい、発色傾向といい、自分が求めるオールドレンズの感覚にスッと入り込むものがあり、すごく気に入りました。例えるならカラフルな折り紙を扱う創作表現の世界に一人和紙を用いて切り込んでゆくような感覚で、折り紙を現代レンズによる描写表現に例えています。

レンズは35mmシネマ用フォーマットが定格で、APS-Cセンサーを搭載したデジタルカメラで用いるのが相性のよい組み合わせです。ただし、イメージサークルには余裕があり、フルサイズセンサーはおろか、もう一回り大きな中判デジタルセンサーでも、どうにか使用できます。

ガラス面にコーティングの無いいわゆるノンコートレンズですので、コントラストは低めで、発色はあっさりと淡く、軟調傾向の強い描写ですが、開放でも滲みはなく、レトロな意味でおしゃれな写真が取れる類のレンズです。モノクロ撮影との相性もかなり良さそうです。今回はフルサイズ機での試写がメインでしたが、四隅まで良好に解像しており、ボケも素直で安定感があります。エルノスターの構成で気にしなければならない歪みや四隅でのピンボケ(像面湾曲)ですが、実写ではそれほど気になることはありませんでした。ちなみに、こういう個性丸出しのわかり易いレンズこそ、オールドレンズを始めたばかりの入門者に使ってもらいたいと、いつも思っています。正直、自分は欲しくなってしまいました。手頃な価格で買えるもんなら本当にオススメしたいです。

F1.9(開放)  Nikon Zf (WB:日光)

F1.9(開放)  Nikon Zf (WB:日光)















F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm判フルサイズモード, WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm判フルサイズモード, WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm判フルサイズモード, WB auto, FS CC)





F5.6  Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 29mmx16mm[65:4からのクロップ], WB auto, FS CC)


F1.9(開放) Nikon Zf (WB:日光)















































続いて、中判イメージセンサー(44x33mm)を搭載したGFX100Sにてクロップ無しで撮影した結果です。絞ると四隅が少しケラれてしまい口径食も出ますが、開放ではケラれません。ただし、像面湾曲とぐるぐるボケ、糸巻き状の歪みが目立ち始めます。大きなボケ量は魅力ですが、安定した画質を求めるならば、おとなしくフルサイズセンサーまでにしておくのがよさそうです。

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)

F5.6  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)絞ると四隅がケラれます

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)






































2023/10/29

Meopta OPENAR 40mm F1.8 ( c mount )



ある日、私はこのレンズを手に口が開きっぱなしでした。手に入れたのは遡ること6年も前の事です。インターネット上に投稿されていたこのレンズによる写真を見て漠然と惹かれるものがあり、eBayでポチったまではよかったのですが、そのまま忘れ去っていたのです。そしてある日、防湿庫を整理していたら、奥の方ですまなそうに「僕のこと覚えていますか?」などと言い「にゅ~っ」と顔を出して来たのがこの子で、「あっ!」と口が開きっぱなしになったのでした。

チェコからやって来たシネマ用レンズ

MEOPTA OPENAR 40mm F1.8 (c mount)

OPENAR(オプナー)はMEOPTA(メオプタ)社の16mmムービーカメラAdmira 16 A1 electricに搭載する交換レンズとして1963年にカメラと共に登場しました。カメラはプロ向けに開発された製品ではなく、マチュアがホームムービーを撮影するためだとカタログに紹介されており、電動で動くのが売りだったようです。ネットには女性モデルがピストルグリップを片手で握りニッコリ笑って撮影している当時の広告写真が見つかりますが、これは間違いなく痩せ我慢。本体重量が2.1kgもあるので、かなり怪力なモデルを採用しているようです。カメラは旧ソビエト連邦に数多く輸出され、シンプルな操作性と信頼性で人気だったようです。交換レンズは今回ご紹介するOPENAR 40mm F1.8が豪華な5群7枚構成のガウスタイプで、イメージサークルはマイクロフォーサーズセンサーを完全にカバーでき、APS-Cセンサーでは四隅に光量落ちが出るもののケラれることはありません。焦点距離40mmはCマウント系レンズには珍しく、APS-Cで用いると標準レンズ、マイクロフォーサーズではポートレート用レンズの画角となります。一粒で二度美味しい、人気が出そうなモデルですね。これ以外には7群8枚の広角レトロフォーカスタイプLargor 12.5mm f1.8、4群6枚の標準レンズOpenar 20mm f1.8、3群5枚の望遠レンズOpenar 80mm f2.8があります。LargorとOpenar 20mmはマイクロフォーサーズ機で用いると大きくケラれてしまうので、Nikon 1など更に小さなセンサーを採用したカメラが適しています。望遠のOpenar 80mmはAPS-C機で用いると四隅に光量落ちがみられるものの、イメージセンサーをギリギリでカバーできるようです。

 

メオプタ社についてのおさらい

メオプタ社は1933年に旧チェコスロバキアの小都市Prerovにて地元工業学校教授Alois Mazurka博士の主導のもと設立されたOptikotechna(オプティコテクナ)社を前身とする光学機器メーカーです[2]。博士は就労先の工業学校に光学専攻を設立し若手を育成、それがオプティコテクナ社の設立に繋がりました。設立後は引き延ばし機、暗室具、暗室用コンデンサー、プロジェクター装置などの生産を手がけ、1937年には郊外に新工場を建設、事業規模を拡大してゆきます。1939年に6x6cm判の二眼レフカメラFlexette(フレクサット)を開発することでカメラ産業への進出も果たしています。ところが、間もなくチェコスロバキアはドイツ帝国による支配をうけることになります。第二次世界大戦が始まり、同社はドイツ軍の要求に応じ軍需品(望遠鏡、距離計、潜望鏡、双眼鏡、ライフル)を製造するようになります。そしてドイツは敗戦、大戦終結の翌年1946年にオプティコテクナ社はチョコスロバキア共産党政権の下で国営化され、現在のMEOPTA(メオプタ)へと改称されます。メオプタの由来はME(機械:mechanical) + OPTA(光学機器:Opical device)です。戦後間もなくメオプタ社は引き延ばし機の分野で世界最大規模のメーカーに成長し、また中東欧における唯一のシネマプロジェクター製造メーカーとなっています。しかし、戦後の東西冷戦体制が同社を再び軍需産業メーカーへと変えてしまいます。1971年にはワルシャワ条約機構軍への軍需品生産が売上高の75%を占めるまで増大、同社は正真正銘の兵器開発メーカーになります。国営企業が武器を生産し戦争や破壊行為に荷担する事への避難の声が国内外から高まっていきました。こうした企業体質を変えようとする動きは冷戦構造の崩壊と1989年のビロード革命による共産党政権の崩壊で大きく前進します。1988年にメオプタ社はライフルの減産を発表し、1990年に生産を0%とすることで兵器産業からの脱却を宣言しています。ただし、この数値にはライフル照準器や戦車の照準器などが武器としてカウントされておらず、同社は今現在も軍需光学製品を生産しており、軍需産業からの完全な脱却には至っていません。メオプタ社は1992年に民営化を果たし、今もチェコを代表する東欧最大級の光学機器メーカーとして企業活動を継続させています。

 

★参考 

[1] Adomira 16 A1 electric 公式マニュアル

[2] MEOPTA公式ホームページ

MEOPTA OPENAR 40mmF2.5: 絞り F1.8-F22, 絞り羽 6枚, 最短撮影距離 0.8m, フィルター径 35mm, 重量(実測) ,  Cマウント, 5群7枚ガウス発展タイプ


入手の経緯

eBayを経由しウクライナなど東欧のセラーから入手するのが一般的なルートです。私は2017年11月に状態の良さそうな個体をウクライナのセラーから総額114ドルで購入しました。商品はエクセレントコンディションとの触れ込みでカビ、クモリのないクリアなガラスとのことでした。届いた品はガラスこそ良好な状態でしたが、ピントリングがカチンコチンに固まっていました。自分で分解しグリスを入れ替えることに。Cマウントレンズはヘリコイドの構造がシンプルな製品が多くメンテナンスは慣れた人にはごく簡単です。現在の取引価格は最低150ドルからで、市場での流通量は今でも豊富です。ただし、相場価格は私が入手した頃よりも明らかに高くなっています

 

撮影テスト

ChatGPTは柔らかい描写のレンズと言っていましたが、彼は実際に試写していませんし、言っていることも間違いです。7枚玉の威力なのでしょうか、かなり高性能で、開放から滲みは無く、高解像でシャープな像が得られます。レンズは16mmシネマフォーマットが定格ですが、イージサークルには余裕があり、APS-Cセンサーでも写真の四隅に少し光量落ちが出る程度でケラれる事はありません。マイクロフォーサーズ機では四隅まで均一な光量が得られます。このクラスのシネレンズを規格外の大きなセンサーで使うと四隅の画質に無理が出るのが常ですが、このレンズは画質的に余裕があり、良像域がとても広く、APS-Cセンサーの四隅まで像面は平坦です。ボケは流石にグルグルしますが、避けたいならばマイクロフォーサーズ機で用いれば全く目立たないレベルになります。

F1.8(開放) Fujifilm X-T20(WB:日陰) APS-C機でのケラれ具合はこんなもんです


F1.8(開放) Fujifilm X-T20(WB:日陰)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(WB:日陰)



F2 Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8 Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8 Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)




F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)

2023/10/21

Wollensak Raptar 3inch (76. 2mm) f2.5 cine telephoto



ウォーレンサック社

シネマ用 高速望遠レンズ

Wollensak Raptar 3inch (76.2mm) f2.5 cine telephoto

今の私はエルノスター型レンズの予想外の性能にどはまりしている最中です。高価なガラス硝材を使いコスト度外視で作れば、僅か4枚の構成でも凄い性能に到達できる事をエルノスターは教えてくれています。そこで今回取り上げたいのが、米国WOLLENSAK社が1950年代初頭に生産したラプター 3inch F2.5 (RAPTAR 3 inch F2.5 Cine Telephoto LENS)という望遠レンズです。ラプターという名はWOLLENSAK社の最高級ブランドで、名称の由来はRAPID(=高速な)だそうです。このレンズにはFASTAX-RAPTARという軍用・研究所向けに供給された裏バージョンが存在し、これを映画用に転用したのが今回のモデルです。鏡胴のつくりは素晴らしく、ただならぬオーラにつつまれており、このままデジカメにつけて撮ることに一瞬ためらいを感じてしまうほどです。レンズの構成図は見当たりませんが、オーバーホール時に確認したところ確かに4群4枚のエルノスター初期型でした。これまでの経験からも分かるように、エルノスタータイプのレンズはコントラストとシャープネスで押し通す性格のものが多く、写真の四隅まで安定感があり、ボケ味も素直で美しいのが特徴です。本家エルノスターを取り上げる前に少し寄り道しておきたい面白そうなレンズです。このレンズのF2.5という中途半端な口径比はエルノスター構成の設計限界なのでしょう。そういえば、同じエルノスター型レンズにPrakticar F2.4という製品がありました。
WOLLENSAK RAPTAR 3inch F2.5 CINE TELEPHOTO:フィルター径 40mm, 最短撮影距離 3 feet弱(約0.9m), 重量(実測) 270g/フード込み300g , 絞り F2.2-F22, 設計構成 4群4枚 エルノスター型,  c マウント, シリアル番号から本品は1953年に製造された個体であることがわかります

市場価格
2022年夏頃、eBayにて本品とCine Velostigmat 1inch F1.5がセットで出品されていたものを、競買の末にお買い得価格で入手しました。本命がCine Velostigmatでしたので、今回のレンズは意図せず入手してしまったわけです。届いた個体はオーバーホールが必要でしたが、ピントリングをグリス交換し、ガラスの清掃もしたところ、カビ・クモリのないなかなか良いコンディションとなりました。ちょうどCマウント系の望遠レンズが欲しいというオールドレンズ女子部の知人がいましたので、この記事を書いたらお譲りすることとなっていますレンズは主に米国内で流通しており、eBay経由で米国のセラーから入手するのが一般的な購入ルートです。取引価格はコンディションにもよりますが、200ドルから250ドルあたり(現在の為替で30000~40000円あたり)です。米国からの購入の場合、送料が高いうえガッツリと税金を取られるので注意が必要です。また、同社の3inch望遠シネレンズには外観がよく似たF2.8やF4のモデルがあるので、購入時の勘違いにも注意してください。
 
撮影テスト
さっそく試写してみたところ、やはり滲みのないスッキリと写る高性能なレンズでした。ピント部は解像感がたいへん高く、開放でも像の甘さは全くありません。コントラストも高く、シャドー部には締まりがあり、そのぶん発色は鮮やかです。色味に癖はありません。ボケは素直で距離に依らず安定しており、グルグルボケや放射ボケとは無縁です。イメージサークルには余裕があり、本来は16mmのシネマフォーマットが定格ですが、APS-Cセンサーでもケラれることなく使えます。
4枚構成のエルノスター初期型はやはり戦後に大化けしたようです。コーティング技術やガラス硝材の進捗が、この種のレンズ構成の潜在能力を大きく引き出してくれたように思います。
F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅,F.S.: ST)

F4, Fujifilm X-T20(WB:⛅, F.S.:ST)シャドー部の締りは良好です

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.: ST) ボケは距離に依らず四隅まで安定感しており、綺麗なボケ味が得られます

F4, Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.: ST) 最短撮影距離ではこのくらい

F4 Fujifilm X-T20(WB:⛅, F.S.:ST)

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST)

F4, Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST) 発色は濃厚かつ鮮やか

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST)

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST) 逆光では写真全体が均一に軟調化し、いい雰囲気に写ります

2023/09/24

Ichizuka Opt. Co. COSMICAR 25mm F1.4 and PENTAX COSMICAR 25mm F1.4

新旧COSMICARの描写比較

Ichizuka Opt. Co. COSMICAR( Professional Kinotar ) 25mm F1.4(C-mount)

and PENTAX COSMICAR 25mm F1.4(C-mount)

COSMICAR(コズミカ)といえば現在はROCOH IMAGING(旧PENTAX)が市場供給しているCCTV用レンズのブランドですが、かつては東京都新宿区に拠点を構え、1951年より米国や日本に8mm Dマウントと16mm Cマウントのシネマムービー用レンズを市場供給した市塚光学工業株式会社のブランドでした[1]。同社はOEM生産にも積極的に取り組み、自社ブランドIZUKAR(イズカー)や、米国向けブランドのKINOTARとKINOTELでもレンズを製造[2]、広角から望遠、明るい大口径レンズ、マクロ撮影用レンズまであらゆる種類のシネレンズを手掛けていました[3]。1967年にコズミカ光学株式会社(Cosmicar Optical Co.)へと改称しますが、その後は経営不振に陥り他社との合併を繰り返しながら、最終的には旭光学(後のPENTAX / RICOHイメージング)の傘下に収まっています。

今回取り上げるのは市塚光学がコズミカ光学に改称した頃に市場供給したと思われるCOSMICAR 25mm F1.4(前期モデル)と、その後継製品で旭光学の傘下で生産したPENTAX COSMICAR 25mm F1.4(後期モデル)です。文献[4]には市塚光学製シネレンズの構成図がいくつか掲載されていますが、残念ながら今回取り上げるレンズの構成図は見つかりませんでした。現物をみるかぎり両モデルはどちらもガウスタイプの発展形です。両レンズの構成や用途はやや異なり、前期モデルは6群7枚のクセノン・ズマリット型で16mmシネマムービー用レンズであるのに対し、後期モデルは5群6枚のウルトロン型のCCTV用レンズです。旭光学の傘下で画質性能的にどのような変化があったのか、新旧COSMICARの写りの違いを堪能してみたいと思います。ちなみに前期モデルは米国ミモザ社のブランド登録商標であるProfessional Kinotarでも市場供給されていました。本ブログの過去の記事(こちら)で取り上げたProfessional KINOTAR 50mm F1.4は今回の前期モデルとは姉妹品の関係にあたります。 

参考文献・資料
[1]アサヒカメラ 1958年10月広告

[2] United States Patent and Trademark Office

[3]Popular Photography ND 1957 4月; 1957 1月(米国)

[4]1956~7年版 カメラ年鑑 日刊工業新聞社

COSMICAR (市塚光学製)前期型 25mm F1.4: 鏡胴に市塚光学のマークICHがみられる。構成 6群7枚ガウスタイプ(クセノン・ズマリット型), Cマウント, フィルター直径 30.5mm, 最短撮影距離 0.5m, 絞り値 F1.4-F22,  重量(実測) 106g, 定格は16mmシネマフォーマット
COSMICAR(ペンタックス製)後期型 25mm F1.4: 構成 5群6枚拡張ガウスタイプ(ウルトロン型), Cマウント, フィルター径 27mm, 最短撮影距離 0.3m, F1.4-F16, 重量(実測) 88g, 定格は16mmCCTVフォーマット

入手の経緯

COSMICARの前期モデルは米国でProfessionl KINOTARの名称で販売されていました。eBayでは150ドル程度で取引されており、国内ではオークションで1万円から1.5万円程度の値が付きます。現在は国内で探す方が安価に購入できると思います。後期モデルは現在もRICOHイメージング社がPENTAXブランドで市場供給しており、新品が17800円(税別)で購入できます。中古品の場合は国内のオークションで5000円程度以内で売買されています。旭光学の時代から販売されおり、とても息の長い製品ですね。

前期モデルには後期モデルの3~4倍の値がつきます。興味深いことですが、中古市場では古いレンズの方が価値があるということでしょうか。

撮影テスト

結論から申しますと、今回取り上げる前期モデルと後期モデルの間には画質的に大きな差があります。前期モデルは開放でフレアが目立ち、柔らかい描写傾向となります。コントラストは低めで色のりはあっさりしており、オールドレンズらしい画作りには好都合なレンズです。イメージサークルは広く、マイクロフォーサーズセンサーでは深く絞った際に四隅が僅かに欠ける程度です。ただし、本来写らない部分の画質ですので、中央から外れたところでは像面湾曲でピンボケ気味になり、樽型の歪みが目立ちます。1~2絞っても柔らかいままでした。グルグルボケは近接域で若干目立ちます。

後期モデルは流石にPENTAXの技術が入ったためか、シャープでコントラストの高い、高性能なレンズに変貌を遂げています。開放でも滲みはほとんど見られず、発色も鮮やかです。像面の平坦域は前期モデルよりもだいぶ広く、写真の四隅のみでピンボケします。歪みの補正はだいぶ改善されているように見えます。

前期モデルと後期モデルでここまで性能差があるのには、正直驚きました。後期モデルの設計にあたっては、PENTAXの設計陣がかなりテコ入れしたのでしょう。両レンズともマイクロフォーサーズ機で使用した際のケラレは極僅かで、私には全く気にならないレベルでした。ケラレを少しでも気にする人は、カメラの設定からアスペクト比を変えて撮影するのがよいかと思います。

Ichizuka Opt. Co. COSMICAR 25mm F1.4 

 Panasonic GH1

F2.8  Panasonic GH-1(WB:日陰)


F1.4  Panasonic GH1(WB:auto)

F1.4  Panasonic GH1(WB:auto)

F1.4  Panasonic GH1(WB:日陰)
F1.4  Panasonic GH1(WB:auto)




F5.6  Panasonic GH1(WB:日光)
F2.8 Panasonic GH1(WB:日陰)

PENTAX COSMICAR 25mm F1.4

 Panasonic GH1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) シャープで高コントラスト。流石に現行モデルというだけのことはあります

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) でも、イメージサークルの規格を超えたセンサーでは、周辺画質が程よく乱れます

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) 中央の高画質と周辺の破綻がほどよくブレンド!

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) ケラレはマイクロフォーサーズ機で、あまり気にならないレベルです

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰)