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2016/02/24

VEB Pentacon AV (Meyer Optik Diaplan) 80mm F2.8 (Projector Lens)

東ドイツのペンタコンブランド PART 3
バブルボケの出るプロジェクター用レンズ
VEB Pentacon AV(Diaplan) 80mm F2.8
オールドレンズの分野では数年前から流行しているバブルボケであるが、ブームの火付け役のとなったメイヤー・オプティック社のトリオプラン(Trioplan) 100mm f2.8には、実はプロジェクター用に供給された姉妹品のDiaplan(ダイアプラン)が存在する。レンズ構成はトリオプランと同一で、トリオプランとほぼ同等のバブルボケが発生するため、高価なトリオプランの代用になる製品として最近注目されはじめている[参考1]。3年前、私にトリオプランのバブルボケを教えてくれたドイツの光学エンジニアMr. Markus Keinathがその後"Soap Bubble Bokeh Lenses"と題する新しい記事を2014年に公開しており、その中でTrioplan 2.8/100とDiaplan(Pentacon AV)2.8/100の描写の比較をおこなっていた[参考2]。彼のレポートによるとトリオプランとダイアプランの描写は発色傾向に差がみられるものの極めて高い類似性があり、解像感やボケ具合等には差が認められなかったという。彼の作例からはダイアプランの方がトリオプランよりもクールトーンな発色傾向であることが判る。ダイアプランには100mm以外にも焦点距離の異なる複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200)を確認している。メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのダイアプランを含むメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わった。
今回紹介するレンズはメイヤーを取り込んだペンタコン人民公社がダイアプランの後継レンズとして生産したスライドプロジェクター用レンズのPENTACON AV 80mm F2.8である。このレンズにはスライドプロジェクターのPentacon Aspectomatシリーズに供給されたモデル(アスペクトマット用)とPentacon AspectarシリーズやPentacon AV autoシリーズに供給されたモデル(アスペクター用)の2系統が存在する。もともと撮影用ではないので絞りやヘリコイドはついていないが、開放でのバブルボケを利用した撮影が目的なので絞りは必要ない。そのまま市販のヘリコイドチューブに搭載して写真用レンズとして用いればよい。

参考文献・サイト
[参考1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
[参考2] Markus Keinath - Soap Bubble Bokeh Lenses

PENTACON AV 80mm F2.8(アスペクトマット用), 絞り無し, レンズヘッドネジ 58mm径, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴はプラスティック製, マルチコーティング, スライドプロジェクターのモデルはPentacon Aspectomat, 


PENTACON AV 80mm F2.8(アスペクター用), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径42.5mm, 鏡胴はプラスティック製,  マルチコーティング, スライドプロジェクターのモデルはPentacon auto 100/ auto 150/ Aspectar



入手の経緯
現在は改造済みの商品を入手することが可能になっており、レンズの改造を専門とするNOCTO工房に相談するか、ヤフオクで個人の工房が改造品を定期的に出品しているので、こちらからも手に入れることができる。2016年8月時点でのレンズの相場は20000円から30000円あたりのようである。
レンズは2016年1月にドイツ版eBayを介し旧東ドイツの光学製品を売る古物商が出品していたもので、アスペクトマット用が即決価格29ユーロ、アスペクター用が即決価格34ユーロであった。写真を見る限りガラスは綺麗で、プラスティック製のマウント部には傷が全く見られなかったので、未使用のオールドストック品と判断し購入に踏み切った。送料が5ユーロと安いにも関わらずドイツから5日で届いた。レンズは極僅かなホコリの混入のみで、クリーニングマークすらない状態の良い品であった。eBayなどの中古市場に流通しているモデルは大半がアスペクター用であり、アスペクトマット用を見つけるのは容易ではない。
  
カメラへのマウント
レンズにはヘリコイドがついていないので、一般撮影用としてデジカメで用いるには市販のヘリコイドチューブと組み合わせて使うことになる。おススメはアスペクター用のレンズヘッド(下の写真・左)をM42直進ヘリコイド(25-55mm)に搭載する改造である。まずはじめにニッパーでレンズガードをバキバキに割り、後玉が露出された状態にする(下の写真・右)。ここで注意しなければならないのは割れた部分で手を切らないよう手袋をすることと、パキパキしているところを家族に見られると怪しまれ、いちいち説明するハメになるので、人が寝静まる夜中などにコッソリ取り組む。









レンズガードを除去したのが下の写真の左。後玉が飛び出しているので、ガラスに傷をつけないよう注意しなければならない。ここに、52-43mmステップダウンリングを取り付け(写真・中央)、エポキシ接着剤でガッチリと接着する(写真・右)。




 
次に下の写真・左のように前玉側に43-46mmステップアップリングをエポキシ接着し、フィルターネジにする。下処理として43-46mmステップアップリングのネジ山を棒やすりで潰しておく必要がある。これを怠ると、据え付けがきつく前玉側の鏡胴が割れる。棒やすりによる下処理が面倒な人は・・・・、やや耐久性に劣るが42-46mmステップアップリングでもよい。完成したレンズヘッドをM42ヘリコイドに乗せ(写真・右)、これで完成。


「2番リング」とはマイクロフォーサーズ用マクロエクステンションチューブで使用されている2番目の中間リングのことだ(下の写真・左)。写真の右にはヘリコイド周りで使用した部品を並べている。39-52mmステップアップリングの代わりに42-52mmステップアップリングを用いても、ネジピッチが異なるのでM42ヘリコイドには着けられない。



続いてアスペクトマット用の改造例である。アスペクトマット用はマウント部に58mm径のオスネジがついており、フィルター用ステップアップリング(39-58mm)が問題なく装着できるので、M39-M42ステップアップリングを介しM42ヘリコイドチューブ(35-90mm)に搭載することができる。この状態でフランジバックはM42マウントレンズとほぼ同じで、若干のオーバーインフ気味であるが無限遠のフォーカスを問題なく拾うことができる。なお、レンズヘッド側のネジの軸(ネジ先からネジ頭まで)がステップアップリングのネジ軸よりも長いので、そのまま装着するとネジ込みが収まりきらず隙間が生じてしまう。レンズヘッド側のネジを棒ヤスリで半分ぐらいに落としておいたほうが見栄えは良い。(注意:よくある36-90mmでは無限遠が出ない!。その場合にはレンズヘッド側のネジを棒ヤスリで落とすことでフランジを削り無限を出す)





続いてアスペクター用モデルであるが、鏡胴径が約42.5mmなのでM42ヘリコイドにはギリギリ収まらず、改造難度はこちらのほうが高い。ルーターでネジ山をつぶしたステップダウンリング(52-43mm)を鏡胴にはめて接着固定し,そのままM52-M42ヘリコイドに搭載してM42レンズとして用いるのことにした(写真・下)。プラスティック製のレンズガードはニッパー等で除去している。


おすすめのモデル
冒頭でも触れたがPentacon AV(Diaplan)には少なくとも9種類のモデル(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150)が存在する。どれを選択すればよいのかはカメラの種類と撮影対象(マクロ域で使うのか?ポートレート域で使うのか?)で決まる。私のおすすめは35mm版換算で焦点距離が100mm以上になるモデルである。このくらいの長焦点レンズになると望遠圧縮効果が有利に働き、大小不揃いのバブルボケが発生するので、奥行きのある空間をシャボン玉の泡沫が浮遊しているように見える。使用するカメラがAPS-CセンサーやM4/3センサーを搭載した機種ならば9種類あるモデルのどれを選んでもよいが、センサーサイズの事を考えると口径比がF3よりも明るいモデルがよいだろう。マクロ域での撮影が中心ならば80mm F2.8、ポートレート域で人物の背後にバブルボケを出したいならば80mm F2.8か100mm F2.8(F3)をおすすめする。焦点距離が長いほどボケ量を稼ぐには有利だが、長すぎるとスナップ撮影では手振れを起こしやすく使いにくい。一方、使用するカメラがフルサイズセンサーを搭載した機種なら焦点距離100mm以上のモデルがおすすめである。中でも150mmF2.8はダイアプラン系列で最大の口径を誇り、50mmの標準レンズに換算しF0.9相当の極めて大きなボケ量が得られるので、ポートレート域で人物を撮る際には絶大な効果(巨大バブル)を期待することができる。60mm F2.4はトリプレット型ではなくダブルガウス型なのでバブルボケの出る保証はない。

撮影テスト
バブルボケの出るレンズはどれも収差(球面収差)を過剰に補正したものであるため、背後のボケは硬くザワザワとして煩いが、反対に前ボケはフレアに包まれ柔らかく美しいのが特徴である。本レンズの場合はやや長焦点レンズということもあり、ピント部の画質は四隅まで大きな乱れもなく安定している。ボケも四隅まで整っておりグルグルボケや放射ボケは全く見られない。私は望遠圧縮効果を強化するため、Sony A7をAPS-Cクロップモードに切り替えて撮影した。この場合の換算焦点距離(35mm版換算)は120mm相当である。遠方に点光源をとらえマクロ域を撮影したところ、大小さまざまな大きさのバブルボケを発生させることができた。トリオプランの開放描写を彷彿させる、輪郭のハッキリとしたバブルボケである。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには80mm相当の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。

撮影機材
カメラ SONY A7 (APS-Cクロップモードで使用) / Sigma SD Quattro
Photo 1: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)




Photo 2 by Yusuke SUZUKI : Pentacon AV80mm F2.8, Sigma SD quattro

Photo 3: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)

Photo 5 by Yusuke SUZUKI : Pentacon AV80mm F2.8, Sigma SD quattro
Photo 4: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)
Photo 6: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(FF mode, AWB)









Photo 7: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)

2016/02/03

VEB Pentacon PENTAFLEX Color(Domiplan) 50mmF2.8 (M42 mount)*









ある知人曰く、「ペンタコン製レンズの特徴は国産レンズには見られない魅力的なボケと適度な解像感、そして何よりレンズの安さである」。なるほど、このレンズはまさにそうだ。

東ドイツのペンタコンブランド PART 2
ドイツ製品最強のコストパフォーマンスを誇る
バブルボケレンズ
VEB Pentacon Pentaflex-Color (Domiplan) 50mm F2.8
その知人からマクロ域でバブルボケが出るレンズと教えてもらい、さっそく試してみることにした。旧東ドイツのペンタコン人民公社(VEB PENTACON)が一眼レフカメラのPentaflex SL(1967年登場)に搭載するキットレンズとして供給したペンタフレックス・カラー(Pentaflex color)50mm F2.8である。ドイツ製レンズの中では1、2位を争うロープライス製品であり、eBayでは30ユーロ前後で大量に売買されている。しかも、バブルボケが出るとなれば、手をださない理由はない。では、何故こんなに安いのか。実は最短撮影距離が0.75mとやや長く、バブルボケのスイートスポットであるマクロ域まであと一歩届かないのである。しかし、案ずることはない。この問題はマクロエクステンションリングやヘリコイド付きアダプターを併用することで簡単に解決できるのだ。
さて、製品のルーツを調べる中でバブルボケの出る理由については一定の理解が得られた。ペンタコン人民公社は1968年にレンズメーカーのメイヤー・オプティック(Meyer optik)を吸収しており、このレンズの正体はメイヤーのドミプラン(Domiplan) 50mmF2.8と同一、つまり1963年に姿を消したトリオプラン(Trioplan) 50mm F2.9の後継レンズなのである。トリオプランには焦点距離100mmと50mmの2種類のモデルがあり、どちらもバブルボケが顕著に発生するレンズとして有名である。
レンズの構成は下に示すような3枚構成のトリプレットタイプで、製造コストの低いシンプルな設計にも関わらず中心部の解像力は良好なうえ、シャープでヌケが良く、グルグルボケが出やすいのが特徴である。なお、ペンタフレックス銘のレンズには50mm F1.8(M42マウント)も存在し、これはメイヤー・オプティックのオレストン(Oreston)をベースとするガウス型レンズである。
Domiplanの断面図(左)およびPentacon DOMIPLANの構成図(右)。構成図は「東ドイツカメラの全貌」(Hummel, Koo 村山著, 朝日ソノラマ)からのトレーススケッチ(見取り図)





ペンタコン人民公社はメイヤー・オプティックを吸収した後、1971年にレンズの製品ラインナップを再構成し、メイヤーブランドの一部を同社のプラクチカール(Prakticar)ブランドへと置き換えている。ただし、どういう理由かは不明だがドミプランだけは例外的にプラクチカールファミリーに編入せず、Pentacon Domiplanとして存続させた。もしかしたら当初はテッサータイプのPrimotar 50mm f2.8をPrakticarに編入させる計画があり、席を空けておいたのかもしれない。
手に取ればDOMIPLANとPENTAFLEX-COLORが同一品であることを改めて実感できる。両者は銘板に刻まれた名称等を除き、細部に至るまで完璧に同一である




入手先
このレンズは2016年1月にドイツ版eBayを介しドイツの写真機材専門のセラーから32.5ユーロ(4160円)+送料9ユーロで落札した。オークションの記述は「新品同様。ドミプランの100%コピーである。レンズはプラクチカとCanon 600Dでテストした」とのことで、フロントキャップとリアキャップ、UVフィルター、Schachtの接写用マクロリング(6mm丈)が1枚付属していた。届いたレンズはパーフェクトに近い非常に良い状態であった。eBayでは今も流通量が豊富なレンズで価格もこなれているので、じっくりと探し、状態の良い個体を選ぶとよいであろう。
Pentaflex-Color/Domiplan: 重量 150g, フィルター径 49mm, 最短撮影距離 0.75m, 画角 47°, 絞り羽 6枚, 設計構成 3群3枚トリプレット型, 絞り値 F2.8-F22, 対応マウント M42, Exakta(Domiplanのみ), Domiplanについては極僅かにペンティナ(Pentina)マウントの個体も存在するようである(2016年1月にeBayで目撃)



撮影テスト
このレンズはフルサイズ機に準拠した設計仕様になっているが、バブルボケを生かす事を最優先に考えるなら、マイクロフォーサーズ機やAPS-C機などセンサーサイズが小さいカメラで用いることをおすすめする。例えばマイクロフォーサーズ機で用いると焦点距離100mm相当の望遠レンズとなり、望遠圧縮効果が起こるため、1枚の写真の中に大小さまざまな大きさのバブルボケを生み出すことができる。また、撮影倍率が2倍となり最短撮影距離の長いこのレンズの弱点が克服できるうえ、四隅の画質に弱点をもつトリプレット特有の問題も解決できる。それだけではない。トリプレット型レンズによく見られる非点収差由来のグルグルボケも殆ど目立たなくなるのだ。せっかくシャボン玉を送り出すのだからグルグルと回る嵐の中ではなく、穏やかなそよ風の中に放ちたい。そう思うのは私だけであろうか。
SONY A7での写真作例
F2.8(開放), sony A7(AWB):  手前にガラスがあるので後ボケが被写体の前方に写り込んでいる

F2.8(開放), sony A7(AWB): 

F2,8(開放), sony A7(AWB): 

F2.8(開放), sony A7(AWB):

F2.8(開放), siny A7(AWB):



Olympus PEN E-PL6での写真作例
バブルボケを大きく見せたいならば、レンズをヘリコイド付きアダプターで用いるか、マクロエクステンションリングを併用するのがよい。マクロエクステンションリングを用いる場合には、オリンパスPEN(M4/3)用かM42レンズ用のどちらかを手に入れればよい。
F2.8(開放), Olympus Pen EP-L6(AWB) + MACRO Extension Ring: 小さなバブルと大きなバブルが共存できるのは望遠レンズ特有の圧縮効果のおかげである。遠方のバブルが大きく誇張され、迫ってくるように見える


F2.8(開放), Olympus Pen EP-L6(AWB) + MACRO Extension Ring: 先代のトリオプランにも引けをとらないハッキリとしたバブルが出現している






2015/04/12

Fuzhou Cheng-An Optelect. Tech., ABF CCTV Lens 25mm F1.4 (ABF-F2514MV)












僅か20ドルで購入できる
監視カメラ用高速レンズ
Fuzhou Cheng-An Optoelectronic Technology Co., Ltd.
 (福州诚安光电技术有限公司/福州成安光電技術社)
ABF CCTV Lens 25mm F1.4(C mount)

新品レンズが2千円強で購入できるという気になる噂を耳にしたので、早速その真相を確かめるべくeBayを覗いてみたところ・・・出るわ出るわと僅か20ドルにも満たないレンズが数多く売り出されていた。噂の正体は中国福建省福州市に拠点を置くFuzhou Cheng-An Optoelectronic Technology Co.,Ltd.(福州诚安光电技术有限公司)が製造と販売を手がける監視カメラ用レンズのABF CCTVシリーズである。同シリーズには焦点距離の異なる5種類のモデル(6mmF2, 12mmF1.2, 25mmF1.4 35mmF1.7, 50mmF1.4)があり、25mm以上の長焦点レンズにはブラックカラー(基本色)のモデルに加えシルバーのモデルが用意されている。また、鏡胴のデザインが僅かに異なるFUJIAN (福建)ブランドのOEM製品としても供給されており、eBayにはブラックとシルバーのモデルに加え、ピンク、ゴールド、グリーンのカラーバリエーションも出ている。今回はABF CCTVシリーズの中から25mm F1.5のシルバーカラーをチョイスし、20ドルのレンズに秘められた潜在力を試してみることにした。レンズは2015年4月にeBayを介し中国のセラーから送料込みの即決価格18.63ドル(2200円程度)で購入、箱に入った状態で届き、オマケでCマウント用のマクロエクステンション・リングが付属していた。レンズの定格は1/2インチ(6.4×4.8mm)のCCTVフォーマットなのでPentax Qで用いるのが画質的に安定感のある組合せである。一方、イメージサークルはこれよりも広いマイクロフォーサーズ(M4/3)センサーをカバーでき、オリンパスPEN でもケラれることなく使用できる。私はPentax Qを所持していないので PEN E-PL6で用いることにした。レンズの構成は3群3枚のトリプレットである。
 
Fuzhou Cheng-An Optoelectronic Technology Co., Ltd.
(福州诚安光电技术有限公司/福州成安光電技術社)
同社は中国福建省福州市で2000年に創業した従業員規模51人以上100人以下(2015年現在)の光学電子機器メーカーである。監視カメラ用レンズの製造と販売を手がけ、製造品の51-60%を北米、南米、西ヨーロッパ、東南アジア、アフリカに輸出している。同社のホームページにはレンズ製品の絞り羽とCCDチップに日本製の部品を用いることでクオリティを維持しているとの解説があった。ただし、今回紹介するレンズは廉価製品のためか絞り羽のクオリティはイマイチ。ガラスにはグレードAの光学ガラスを使用しておりプラスティックは一切使用していないとのことである。
 
参考:メーカー公式サイト http://fuzhou-cheng-an.en.ywsp.com
 
重量(公式データ)78.4g, 最短撮影距離 50cm, 絞り F1.4-F8 (ただし、絞りリングをF8まで回すと絞り羽根が完全に閉じ光路が塞がってしまう・・・なんで), イメージフォーマット 1/2 inch (定格画角11度), モデル番号 ABF-F2514MV-Y, Cマウント監視カメラ用レンズ, 光学系は3群4枚のヘクトール型, フィルターネジは30mm弱


 
撮影テスト
使用機材:Olympus Pen E-PL6 +  Cマウント → M4/3マウントアダプター(CCTV用)
レンズ構成は4枚玉のヘクトールである。中心部は開放でもしっかりとシャープに写りヌケもよい。カラーフリンジ(軸上色収差に由来する色ズレ)が目立つもののコントラストは良好である。ただし、オリンパスPENのイメージセンサーはさすがに広すぎるようで、四隅での画質の破綻はかなり大きなものとなり背景にグルグルボケも出る。周辺光量落ちが絶妙で、とても印象的な画作りができる点は素晴らしい。このダメっぷりはハマると癖になる。
収差を積極的に利用する場合はこのままでもよいが、安定した画質を求めたいならばカメラの設定メニューでアスペクト比を3:4に選び有効イメージサイズを小さくしておくのがよいだろう。本来は1/2インチのCCTVフォーマット(6.4×4.8mm)で使用することを前提に設計されているため、これでもまだ撮像部の面積は規格より4倍も広いが、撮影テストでは実用的な画質が得られている。条件が悪いと開放では温泉の湯煙のような物凄いハレーションが出ることもあるので、フードを装着しハレ切り対策に万全を尽くすことをおすすめする。

F1.5(開放), Pen E-PL6(Aspect ratio 3:4): オリンパスPENで用いる場合は画像のアスペクト比を3:4にして、できる限り小さなイメージフォーマットで撮影するのがおすすめである。中心解像力は開放でも良好で犬の毛並みやヒゲの生え際の様子までしっかりととらえている。コントラストも良いが、ややカラーフリンジが目立つ



F1.5(開放), Pen E-PL6(M4/3 format, Aspect ratio 4:3): 今度はイメージフォーマットを一回り大きなマイクロフォーサーズ規格にしてみたが四隅まで画質を維持できず、何だか少し酔いそうだ

F1.5(開放), Pen E-PL6(Aspect ratio 3:4): 再び3:4のアスペクト比に戻した。十分に明るいレンズなので、この設定でもボケ量は大きく表現力は充分である

2014/09/12

Spiral-733 ( 放射温度計MINOLTA IR630用レンズ ) converted M42

放射温度計とは物体から出ている熱放射(赤外光や可視光)の強度を測定し、そこから物体の温度を求める非接触型の温度計です。温度を求める原理には物理学のシュテファン=ボルツマンの法則とプランクの法則を利用しています
ミラーレス機があれば
何だって写真用レンズになる
Minolta放射温度計IR-630用レンズ Spiral-733 2.8/85
研究棟のごみ置き場で壊れた放射温度計のMINOLTA IR-630を拾いました。見るとレンズがついています。一応は大学のプロフェッサーの身分ですから、ゴミあさりなんて品格のない行為はいけません。キョロキョロとまわりを見回しサッと回収。ゴキブリ並みの行動力で獲物を確保しダッシュで立ち去りました。部屋に戻りこの子に電池を入れ自分の体温を測定してみると、何と733℃と表示されます。本体が完全にイカれているか、私がイカれた赤外発光体であるかのどちらかです。このまま墓場送りにするのはもったいないので、レンズのみを救出することにしました。分解すると綺麗なレンズではありませんか。構成はトリプレットで、イメージサークルはフルサイズセンサーを余裕でカバーしています。焦点距離は85mm前後で、絞りはついていませんが、口径比はF2.8あたりです。フランジバックは一眼レフでも十分に使える長さになっており、ヘリコイドもついています。M42マウントに変換し写真用レンズとして第二の人生を歩ませることにしました。この手のレンズを改造し流用することについてはミラーレス機が登場したおかげで、ずいぶんと度胸がつきました。
ヘリコイドを近接側いっぱいまで回し軽く力をいれると、カチッという音がして光学ユニットがヘリコイドから外れます。マウント部は3本のビスでネジ止めされており、これを外せばヘリコイドがマウントごと本体から外れます






放射温度計の本体からレンズをとりはずしたところ。本体は故障しているのでこのまま廃棄しました

レンズを外すには上の写真のようにマウント部のビス3本をマイクロドライバーで外します。すると、マウント部がヘリコイドごと本体から取り外せます。続いてM42マウントへの変換ですが、M42リバースリングとステップアップリングを用意します。リバースリングはeBayで9ドル(送料込み)、ステップアップリングはヤフオクにて500円程度で手に入ります。今回は43.5mm-49mmのステップアップリングを用いて解説していますが、据え付けがきついので、ひとつ上のサイズ(43.5mm-52mm)の方がよいでしょう。また、リバースリングもこれにあわせ、M42-52mmとなります。
 
M42リバースリング(左)とステップアップリング(右)。どちらも市販品として手に入れることができます


ンズのマウント部に鏡胴側からステップアップリングを逆さに被せ、反対側(カメラ側)からM42リバースリングをはめ、ネジで合体させます。マウント部に対し2枚のリングで包み込むように固定するのです。あとは光学ユニットを取り付け、下方からフランジ調整用のM42マクロチューブ(2.7cm丈)を取り付ければ完成となります
の写真のようにステップアップリングをレンズのマウントに対して鏡胴側から逆さに被せ、その反対側(カメラの側)からリバースリングを据え付け固定します。マウント部を包み込むように2枚のリングを前後からはめるのです。こうして無改造のままマウント部をM42ネジに変換することができました。あとはフランジバックの調整ですが、M42レンズとして使用する場合には27mm丈のM42マクロチューブを継ぎ足せばピタリと無限遠のフォーカスを拾うことができます。簡単な改造ですがこれで完成です。無名のレンズなのでSpiral-733と命名することにしました。
焦点距離(推定) 85mm, 口径比(推定) F2.8, フィルター径 40.5mm, 構成 3群3枚トリプレット(推定), MINOLTA IR-630専用レンズ, ガラス表面にはコーティングが施されています

ヘリコイドを近接側に繰り出すと、中からレンズ名とスペックが表れるようにしました.

撮影テスト
camera SONY A7
Spiral-733の写りに何を期待したらよいのでしょうか。愚問かもしれませんが、勿論それはシュールな世界を描き出す破綻した描写特性です。このレンズは写真撮影用ではないので、その期待に応える可能性は大いにあると考えられます。
イメージサークルはかなり大きく設計されており、中判カメラの6x6フォーマットにもケラれることなく対応できます。ただし、画質的な破綻が大きいので、おすすめはできません。今回はフルサイズセンサーを搭載したSONY A7で使用することにしました。しかし、それでも四隅における画質的な破綻は大きなものです。
Spiral-733はトリプレット型レンズですので写真中央部の解像力は高く、ハロやコマの少ないスッキリとヌケの良い写りとなります。コーティングの性能がよいためかゴーストやハレーションは出ず、階調こそ軟調ですが発色が濁ることはありません。像面が四隅に向かって近接寄りに大きく曲がっており、画面中央でピントを拾いながら画面いっぱいに被写体を捉えると、四隅ではピンボケを起こします。この手の像面湾曲レンズの特徴は後ボケが柔らかく綺麗に拡散することとフォーカス部の近くで放射ボケがみられることです。また、近接側ではグルグルボケもみられます。被写界深度が浅く見えるのも大きな特徴で、これは言わば写真の四隅に向かってティルトシフト(アオリ効果)が効いているのと同じことです。以下作例。
Sony A7(AWB)やりました!激しい像面湾曲と放射ボケが発生し、なんだか凄い写りです




Sony A7(AWB): 基本的に日の丸構図になります。周辺部の像の流れを活かせば迫力のある演出効果が得られます

Sony A7(AWB): ピントは中央にとっています。像面が大きく曲がっているため、中央から外れると直ぐにピンボケを起こします

Sony A7(AWB): さすがにトリプレット。ピント部中央には高い解像力があります









Sony A7(AWB): 後ボケは柔らかくとろけるように拡散しています

Sony A7(AWB): このレンズの手にかかれば、玉ボケも放射状に流れてゆきます














Sony A7(AWB): 収差設計の基準点が近接域なのかと思っていたら、遠方でもご覧のとおり高解像です



 
酔いそうになるような激しい作例たちでしたが、最後までご覧いただきありがとうございました。レンズは写真仲間の「ぽんちゃん」にプレゼントしました。ぽんちゃんによる写真もこちらに掲示しましたので、ご覧ください。カメラはオリンパスPen(デジタル)です。