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2022/06/01

Auto MIRANDA 25mm F2.8:ペンタレフカメラのパイオニア、ミランダの交換レンズ群 part 3



ペンタレフカメラのパイオニア

ミランダマウントの交換レンズ群 part 3

ディスタゴンにも似た

ポピュラーな広角レンズ

Auto MIRANDA 25mm F2.8(初期型)

ミランダカメラは広角レンズのラインナップが恐ろしく充実しており、焦点距離のバリエーションが17mm, 21mm, 25mm, 28mm, 35mmと5種類もありました。この中で特に評価が高く人気だったモデルが今回取り上げる25mm F2.8です。画質的な評判(当時の海外での誌上評価のこと)は近い焦点距離の28mmF2.8よりも上で、超広角レンズにしてはコンパクトに作られている点も魅力でした。レンズは同社の一眼レフカメラSENSOREX-Cが登場した1970年からカタログに掲載され、Sensorex II, Sensomat RE(1970年), Sensorex EE(1972年)にも掲載があります。ただし、初期の製造ロットにはカタログに無いフィルター径46mmの個体があったようなので、市場供給が開始されたのはもっと前の1960年代後半であったと思われます[1,2]。人気の秘密は光学系をみると一目瞭然にわかり、何とカールツァイスの最高級カメラCONTAREXにも搭載されていたDISTAGON 25mm F2.8(1963年発売)によく似た設計構成なのです(下図)。レンズは空気間隔を分厚いガラスで埋めることによりコンパクトな光学系を実現しており、コンピュータ設計から生み出されたレトロフォーカスタイプの進化版と言った製品です。Auto MIRANDA 25mmを開発・生産したメーカーがどこであったのかは明らかになっていませんが[2]、珍しい焦点距離であることや、当時同じスペックのレンズを生産したメーカーが見当たらないこと、またレンズの内製化がすすめられた後に発売されているなど状況証拠から考えると、MIRANDAの自社設計である可能性が濃厚です。MIRANDAカメラは自社開発と思われる標準レンズや35mm F2.8をカメラのカタログに掲載していますが、そうではないことが判っている17mmや21mmの広角レンズを自社のカメラのカタログに掲載しませんでした。ちなみに今回の25mmはカメラのカタログに掲載されています。内部を開け部品レベルで検証すれば、よりはっきりとしたエビデンスが得られるのでしょう。それでは、和製ディスタゴンの写りを堪能してみましょう。


左はAuto MIRANDA 25mm  F2.8で7群8枚構成、右はCONTAREX/QBM DISTAGON 25mm F2.8で8群8枚です。上が被写体側で下がカメラの側
 

参考情報

[1]MIRANDA SENSOREX C official manual(英語版); MIRANDA SENSOREX II official manual(英語版); MIRANDA SENSOREX EE official manual(英語版);MIRANDA SENSOREX RE official manual(英語版)

[2]ミランダ研究会: Ultra wide angle lenses

Auto MIRANDA 25mm F2.8: フィルター径 52mm(初期ロットに46mmあり), 最短撮影距離 0.25m, 絞り値 2.8-16, 絞り羽 6枚構成, 設計構成 7群8枚, 重量(実測) 266g















入手の経緯

レンズは2021年11月にeBay経由で米国のカメラ専門のセラーから、純正フードとケースが付いた状態で225ドル(送料込み)にて入手しました。オークションの記載は「ファイン・ビンテージ・コンディション」とのタイトルで「素晴らしいコンディションのレンズ。説明を要する問題個所は見当たらない。純正フードとケースが付属する」とのこと。届いた商品は記載どうりのコンディションでした。eBayでの取引相場は状態にもよりますがフードなしで200~250ドル程度、純正フードのみが約35~40ドルくらいで取引されています。オートミランダの広角モデルの中では比較的高値で取引されており流通量も安定していることから、人気のあるモデルであることがわかります。ミランダカメラの製品は主に米国、ヨーロッパで販売され、日本国内でも数は少なめですが販売されました。レンズを探す際には海外の市場の方が流通が豊富です。

 

撮影テスト

開放ではピント部をフレアが覆いコントラストも低下気味の柔らかい写りですが、四隅まで良像域が広く解像感はそれなりにありますので、被写体をきっちりと写しながらも味のある描写を両立させる事ができ、なかなか楽しめるレンズです。ピント部全面に渡る画質的な均一性と安定感がこのレンズの長所のように思います。2段絞ればスッキリとしてヌケがよく、画面全体で解像感に富んだシャープな像が得られます。レトロフォーカス型には珍しく開放でやや光量落ちがみられますので、雰囲気のある画作りができます。歪みは樽型ですがこのクラスのレンズにしては少なめ。感心したのは最短撮影距離が24cmと短めな点で、近接撮影ができるのは大きなアドバンテージだと思います。グルグルボケは全くみられませんでした。

 

まずはYOKOHAMAを「赤煉瓦モード」でどうぞ

F8, sony A7R2(WB:⛅, R+22 G-12 B-16赤煉瓦シフト) ちょっと赤よりなのはいじっているからですが、なかなかの高描写です。モデルさんは白川うみさん(Thanks!)
F8 Sony A7R2(WB:日陰, R+22 G-22 B-16:赤煉瓦シフト)

F2.8(開放) Sony A7R2(WB:日陰, R+22 G-22 B-16:赤煉瓦シフト) 開放では光量落ちがあり、雰囲気が出ます。ちなみに、このシーンをF8まで絞るとこのようになります(←発色無補正)




























F2.8(開放)  SONY A7R2(WB:日陰, R+16 G-16 B-16)開放ですが、解像感は良好です。F8まで絞った写真はこちらです













F2.8(開放) SONY A7R2(WB: ⛅, R+16 G-16 B-16)レトロフォーカスタイプのくせに周辺光量落ちがしっかり目に出ているのは正に目から鱗です。光学系が細長い分、口径食でも出ているのでしょうか

 

続いて初夏の三崎(三浦半島)です

こちらは色補正なしの写真です

F8 SONY A7R2(WB:日光) 
F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

2022/05/06

Auto MIRANDA 35mm F2.8 :ペンタレフカメラのパイオニア、ミランダカメラの交換レンズ群 part 2





ペンタレフカメラのパイオニア

ミランダの交換レンズ群 part 2

ミランダカメラのコピー・アンジェニュー

ミランダカメラ AUTO Miranda 35mm F2.8 

1960年代はアンジェニュー(フランス)の広角レンズを手本とする日本のメーカーが後を絶ちませんでした。アンジェニューとは言わずと知れたスチルカメラ用レトロフォーカスレンズとズームレンズのパイオニアメーカーで、1950年に一眼レフ用広角レンズの源流とも言われるANGENIEUX Type R1(タイプR1)を製品化した事で知られています。今回取り上げるミランダカメラの広角レンズもタイプR1を模倣した数あるコピー・アンジェニューの一つです。1960年代半ばにこの構成を模倣するというのも技術的に時代遅れではという印象を抱きますが、こうした事も現代のオールドレンズファンには嬉しい誤算でしかありません。ミランダ以外の国産レンズではペトリカメラのPETRI C.C Auto 2.8/35 (前期型)、コニカのHEXANON AR 2.8/35 (前期型)、旭光学(ペンタックス)のSUPER TAKUMAR 2.3/35などがタイプR1のコピーとして知られ、オールドレンズの分野では一目置かれています。いずれもタイプR1の性質を受け継ぎながら1960年代の改良されたコーティングと新しい硝材により、より高いシャープネスと鮮やかな発色を実現しています。スーパータクマーやペトリについては少し前に本ブログで紹介記事を出しましたので、本記事と一緒にご覧ください。双方とも開放でフレアの多い滲み系レンズで、アンジェニューの性格を色濃く受け継いでいます。オリジナルのType R1は今や8~10万円もする高嶺の花となりつつあるわけですが、今回ご紹介するレンズならば、状態の良い個体がまだ10000円以内で入手できます。さっそくレンズの設計構成を見てみましょう。

 

 

上図の左がオート・ミランダで右がアンジェニュー(タイプR1)です[1]。設計構成はテッサータイプのマスターレンズを起点に前群側に凹レンズと凸レンズを1枚づつ加えた6枚玉(5群6枚)で、コマ収差の補正に課題を残す古典的なレトロフォーカスタイプです。オート・ミランダは確かにType R1と同一構成ですが、前玉径や空気間隔がType R1よりも小さめに設計されており、レンズをコンパクトにする事を重視していたようです。このレンズはミランダカメラが一眼レフカメラのMIRANDA F(1963年発売)以降に搭載する交換レンズとして設計したもので、それまで興和からOEM供給を受けていたAutomex用Soligor MIRANDA 35mm F2.8(こちらはType R1とは異なる7枚玉)の後継レンズとして市場供給されました[2]。フレアっぽい開放描写とシャープで解像感に富む中央部、黎明期の古いコーティングから生み出される軟らかいトーン、鈍く淡白な発色などが、よく知られているType R1の特徴です。これらの何がオート・ミランダに受け継がれ何が刷新されているのかを論点としながら、レンズの描写を楽しんでみたいとおもいます。

Auto MIRANDA 35mm F2.8: フィルター径 46mm, 重量(実測) 189.6g, 絞り羽 6枚, 絞り F2.8-F16, 最短撮影距離 0.3m, MIRANDAバヨネットマウント, S/N; 64XXXXX, 設計構成 5群6枚レトロフォーカスタイプ



 


 

参考文献・資料

[1] MIRANDA SENSOMAT through-the-lens exposure determination(英語版マニュアル)

[2] MIRANDA Model F Manual

[3] ミランダ研究会: MIRANDA SOCIETY JAPAN (xrea.com)

 

入手の経緯

MIRANDAブランドは米国やEUなど主に海外で流通しており、本品も入手ルートはeBayです。レンズは2021年12月に米国のレンズセラー(日本人)から39ドル+送料18ドル(総額約7500円)で入手しました。オークションの説明は「中古のミランダ35mm F2.8。ケース付きである。日本製」と簡素でしたが、セラーのフィードバック評価が優秀であることやオークションの記載に問題点の指摘が無いこと、写真でみる限りガラスは綺麗だったので、直感を信じて博打買いしたところ・・・綺麗でした。eBayでの相場はコンディションにもよりますが60~90ドル(送料別)あたりでしょう。今回もMIRANDA純正品のライカLアダプターを使い、レンズをデジタルカメラにマウントして使用しました。

 

撮影テスト

開放ではコマフレアが発生し一般的な感覚から言えば柔らかくボンヤリとした描写ですが、アンジェニュー・タイプR1を基準に考えればフレア量は少なく、そのぶんシャープネスは高めで発色も鮮やか。一方で解像力は平凡です。アンジェニューの発色は開放付近で温調方向にコケる傾向がありますが、ミランダは至ってノーマルです。開放で遠方を撮ると像面湾曲のためか四隅がピンボケを起こしています。風景撮影の際は基本的に絞る必要がありそうです。逆光でも前玉が小さいためなのかゴーストは気にならないレベルでした。背後のボケは安定しており、像が流れたりグルグルに至るような事はありません。デジタル撮影だとフィルム時代には問題にならなかった色収差がやや目立つようになっています。中判デジタルセンサーのFujifilmのGFX100SとフルサイズセンサーのSONY A7R2で写真を撮りました。続けてどうぞ。

 

Fujifilm GFX100Sでの作例

イメージサークルには余裕があり、中判デジタルセンサー(44x33mm)を搭載したFujifilmのGFXでも光量落ちが少しある程度で、ダークコーナーは全く出ません。開放では本来は写らなかった領域が写るため、画質が乱れ、四隅の像が流れています。

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Film simulation: NN)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Film simulation: NN)

  

 

Sony A7R2 での作例

 

F4 Sony A7R2(WB:日光)

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 近接からポートレートくらいの距離ですとType R1よりもコマ収差は少なめで、コントラストも良好です










F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光) 拡大すると輪郭部が色づく色収差がやや目立ちますが、デジタル撮影だからでしょう。フィルム撮影では問題にはならなかったことです









F2.8(開放)Sony A7R2(WB:日光) ところが、このくらい遠方になると開放では四隅の画質が怪しくなってきます。中遠景から遠景は絞って取るのが鉄則でしょう

F8 sony A7R2(WB: 日光) 絞れば良像域が広がり、四隅まで十分な画質です

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 遠景ではこのとおりコマフレアは多めで、シャドー部の階調は浮き気味となり、四隅の画質がだいぶ怪しくなります

F8 sony A7R2(WB:日光) 絞ればスッキリシャープです











































































 

これまで構成が同一のコピー・アンジェニューを何本か試しましたが、描写はどれも少しずつ異なっており、性格の差異が当初思っていた以上に大きい事を今回のレンズから学びました。どれもザックリとした傾向は似ていますが、そこからの違いにはメーカーや設計者の趣味・嗜好が働いているように思えます。テキトーに作っていたわけはないはずです。同一構成のレンズの中にも、更なる多様性を生じさせる余地があるというのは喜ばしいことです。

2022/03/20

Staeble-LINEOGON 35mm F3.5(Brown-Paxette M39 mount)

たったの4枚の構成でこの描写性能は、

ちょっとしたサプライズかも!

Steable LINEOGON 35mm F3.5

Staeble(シュテーブル)社(正式名The Optisches Werk Dr. Staeble & Co)は1908年にドイツの物理学/数学者のフランツ・シュテーブル博士(1876-1950)、技術者のアルフレッド・ノイマン、ビジネスマネージャーのオスカー・イエーガーによってミュンヘンに設立されたレンズメーカーです[1,2]。自社ブランドのレンズに加え、様々な企業に対してOEMレンズの供給を行っていました。主に生産したレンズはカメラ用、プロジェクター用、引き延ばし用ですが、第二次世界大戦中はガンライトなどの光学軍需製品の製造にも関わっています[2]。第二次世界大戦末期、ドイツ降伏が濃厚となる1944年夏にドイツ空軍の命令(連合国の空襲を逃れるため)で会社と工場をバイエルン州のショーンガウ市に移転、はじめはチーズショップの敷地内を工場の避難地としました。その後の1953年にショーンガウ近くのアルテンシュタットにある旧軍用飛行場の航空機修理ホールへと工場の再移転を果たしています。会社は1954年にオットー・フリードルと彼の妻が所有しましたが、1969年にAGFAに買収されています。

今回紹介するレンズはStaeble社のLineogon(リネオゴン) 35mm F3.5です。このレンズはBraun社のPAXETTEという35mm版小型レンジファインダー機に搭載する広角レンズとして1950年代に供給されました。設計構成は4群4枚で、トリプレットの前方に凹メニスカスを設置してバックフォーカスを稼いだレトロフォーカスタイプのレンズです(下図)。同じ構成を採用したレンズとしてはSchneider社のRadiogon 35mm F4, Meyer-Optik社のPrimagon 35mm F4.5, Steinheil Culmigon 35mm F4.5などがあり、Lineogonはこれらの中で頭一つ飛びぬけたF3.5の明るさを実現している点が特徴です。この明るさはシュテーブル社の技術力なのでしょうか。あるいは収差を生み出す呼び水なのでしょうか。

 

Staeble LINEOGONの設計構成(見取り図): トリプレットの前方に空気間隔を開け凹レンズを設置することでバックフォーカスを延長させたレトロフォーカス型の構成です

 

レンズが採用したマウント規格はPaxette M39と呼ばれスクリューマウントとAkaletteというレンジファインダー機に供給されたAkAマウント(スピゴットマウントの一種)、そして数が少なく市場に出回る事はほぼ無いようですが、M42マウントです[3]。Paxette M39マウントの個体は数が多く入手しやすいうえ、デジタルカメラへの搭載も容易なのでおすすめです。eBayにPaxette M39-Leica L39アダプターなど市販のアダプター製品が複数出ています。20ドル程度で手に入るM42-M39ヘリコイド(12-17mm)と1~2ドル程度で手に入るM39-M42変換リング1個を組み合わせることで自分でアダプターを作ることもできます。この場合、ヘリコイドを少し繰り出した状態で用いることになります。シルバーベースの鏡胴と反転ゼブラのデザインが個性的で、とてもカッコよいレンズですね。

 

参考文献・資料

[1]camera-wiki: Staeble, http://camera-wiki.org/wiki/Staeble

[2] Hartmut Thiele (2008) Staeble-Optik. Die Geschichte des Optischen Werkes, Aufstellung der gesamten Objektivfertigung von 1917 bis 1972. München: Lindemanns Fotobuchhandlung.

[3] 同社の雑誌広告より

Steable LINEOGON 35mm F3.5: Braun Paxette用交換レンズ, 最短撮影距離 1m, フィルター径 40mm, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 10枚構成, Paxette-M39マウント















 

入手の経緯

2021年8月に値切り交渉を経て送料込みの110ドルでドイツのeBayセラーから購入しました。コンディションの悪い個体が同じくらいの価格でeBayに2~3本出ていたのと、当時どうしても欲しいというわけではなかったので、ダメもとで65ドル安くしてほしいと無茶な交渉をしてみたところ、驚いたことに了承の連絡が来ました。レンズのコンディションは「カビ、クモリ、傷などの問題のない状態の良い個体で、僅かなホコリの混入があるのみ」とのこと。外観もレンズも、各部の動きも十分良好なコンディションでした。通常はまともなコンディションの個体がeBayでは180~250ドルあたりで取引されています。


撮影テスト
中心部は開放からシャープで解像力も良好です。開放でのフレアは少なめでコントラストも良好、スッキリと写るヌケの良いレンズです。ただし、マスターレンズがトリプレットであるためか、中心部と四隅の画質差が大きく、四隅ではフレア量こそ多くないものの引き画では解像力にやや物足りなさを感じます。発色にクセは無くデジタルカメラとの相性は良い感じです。非点収差はそんなにキツくはなく、コマ収差もおとなし目でした。色収差は僅かですが拡大すると確認でき、四隅の方で像の輪郭部が色付いて見える倍率色収差がわかります。設計が単純なわりに歪みはとても少なく、僅かに樽形ですが全く気にならないレベルでした。本当に4枚なのかと疑いたくなるほどスキの無いよく出来たレンズだと思います。強い弱点を挙げるならば没個性的なところかな。
広角なのでF3.5もあれば引き画で撮るぶんには充分な明るさでしょうし、シャッタースピードを稼ぎたい場合にはデジカメのISO感度を上げることでカバーできます。この明るさの広角レンズにマイナス要因はほとんどありません。むしろ、ボディが小さく軽い点はこのレンズの大きな魅力となっています。スナップ撮影のお供にはちょうどよいレンズですね。中判デジタル機のGFXでもダークコーナー(暗角)はわずかでしたので、アスペクト比を変えれば問題なく使えました。
  
model: 鈴木康史さん( @bff_actmodel13 ) Thanks!
 
F4.5 sony A7R2(WB:日陰)
F4.5   sony A7R2(WB:日陰)
F8 sony A7R2(WB:日陰)

 
今回も鈴木康史さんにお写真を撮らせていただきました。ご協力に感謝いたします!
  
F3.5(開放) sony A7R2 鈴木康史さん( @bff_actmodel13 )
 
次いてのイケメンモデルは動きの速い、こちらのお方です。予測不可能なChaoticな動きを深い被写界深度で捉えました。
F3.5(開放) sony A7R2(WB:日光) 
  

 LINEOGON x Fujifilm GFX 100S

中判デジタルカメラのGFXでは四隅にダークコーナー(暗角)が僅かに発生します。ただし、アスペクト比を3:2(35mm判への換算焦点距離は25.7mm)や16:9(35mm判への換算焦点距離は31mm)に設定すれば、光量落ち程度で済みます。以下の写真はフィルムシミュレーションをノスタルジックネガにしていますので、描写傾向が軟調気味であることを断わっておきます。
それにしても、このレンズはホントに4枚なのかと目を疑いたくほど高性能です。いままで全く評価されてこなかったのが不思議でしかたありません。
 
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 3:2,WB 日光, Film Simulation Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 3:2,WB 日光, Film Simulation Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)






2021/11/15

PETRI C.C Auto 35mm F2.8(前期型)





 

元祖レトロフォーカスの国産コピー

PETRI C.C Auto 35mm F2.8(前期型) ペトリカメラ

世界初のスチルカメラ用レトロフォーカスレンズであるAngenieux TYPE R1を1950年に発売し、広角レンズのパイオニアメーカーとなったフランスのP.Angenieux(アンジェニュー)。後の1960年代には国産メーカー各社がこのType R1を手本とした広角レンズを発売し、パイオニアが切り拓いた道に追従しています。コニカのヘキサノンAR 2.8/35(前期型)や旭光学(ペンタックス)のスーパータクマー 2.3/35、オート・ミランダ2.8/35はタイプR1の国産コピーとして知られ、タイプR1の性質を受け継ぎながらも1960年代の改良されたコーティングにより、一段と鮮やかな発色を実現しています。スーパータクマーについては少し前に本ブログで紹介しましたので、こちらをご覧ください。開放でフレアの多い滲み系でありながらも発色の良い面白いレンズです。ヘキサノンについてはヨッピーさんのレビューがありますので、こちらが参考になります。コントラストやシャープネスの高い高性能なレンズのようです。

さて、今回の記事ではこれまでノーマークだった新たなコピー・アンジェニューを紹介したいと思います。東京のペトリカメラが1965年に同社の一眼レフカメラに搭載する交換レンズとして発売したPETRI C.C Auto 2.8/35(前期型)です。おそらくコピー・アンジェニューの中では今最も手頃な価格で入手できる製品であろうかとおもいます。オリジナルのType R1は今や8~10万円もする高嶺の花となりつつあるわけですが、このレンズならば状態の良い個体が今はまだ5000円程度から入手できます。さっそくレンズ構成を見てみましょう。

下図の左側がPETRI、右がAngenieux Type R1で確かに同一構成であることが判ります。テッサータイプのマスターレンズを起点に、前群側に凹レンズと凸レンズを1枚づつ加えた5群6枚で、コマ収差の補正に課題を残す古典的なレトロフォーカスタイプです。フレアっぽい描写傾向とシャープで解像感に富む中央部、黎明期の古いコーティングから生み出される軟らかいトーン、鈍く淡白な発色などアンジェニューの性質の何が受け継がれ何が刷新されているのか、今回の記事ではこの辺りを論点としながら、レンズの描写を楽しんでみたいとおもいます。

左がPetri C.C Auto 35mm F2.8(前期型)、右がAngenieux Paris Type R1 35mm F2.5。構成図はPetri @wiki[1]に掲載されているものからの見取り図(トレーススケッチ)です。初期のレトロフォーカス型レンズには画質的に改良の余地が多く残されており、特にコマ収差の補正が大きな課題でした[2,3]。開放ではコマフレアがコントラストを低下させ、発色も淡白になりがちだったわけですが、これに対する解決法が発見されたのは1962年になってからのことです[4]

  

PETRI C.C 35mm F2.8には一眼レフカメラのPETRI V6(1965年発売)と共に登場した前期型と、PETRI FTE(1974年発売)と共に登場した後期型があり、タイプR1と同一構成であるのは前期型です。後期型には名板にEE(Electric Eye)対応であることを記した赤字のマークがありますので、一目で判別できます。

前期型には何種類かのバージョンが確認できますが、最もよく目にするのはピントリングがブラックのモデル(バージョン1ブラック)です。また、数はこれより少ないのですが同じ鏡胴でピントリングがシルバーのモデル(バージョン1シルバー)も存在します。さらに流通量は極僅かで市場で目にする機会は少ないのですが、内部構造がペトリっぽくないモデル(バージョン2)もあります。レンズの色はオールブラックで鏡胴は少し太く、もしかしたら他社製のOEM製品なのかもしれません。ただし、設計構成はバージョン1と同じでタイプR1です。

Petri Automatic 35mm F2.8 初期型(バージョン1シルバー): 絞り羽 6枚構, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 0.5m, 重量(実測) 232g, フィルター径 52mm, Petriブリーチロックマウント, SN: 764XXX, 構成 5群6枚(Retrofocus, Angenieux R1 type)
Petri C.C Auto 35mm F2.8 前期型(バージョン1ブラック): 絞り羽 6枚構, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 0.5m, 重量(実測) 201g, フィルター径 52mm, Petriブリーチロックマウント, SN: 809XXX, 構成 5群6枚(Retrofocus, Angenieux R1 type), 1965年3月発売

Petri C.C Auto 35mm F2.8 前期型 (バージョン2): 絞り羽 6枚構, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 0.5m, 重量(実測) 228g, フィルター径 52mm, Petriブリーチロックマウント, SN: 805XXX, 構成 5群6枚(Retrofocus, Angenieux R1 type)

 

バージョン1の鏡胴には絞りの制御をオートやマニュアルに切り替えるスイッチが付いています。これをマニュアル側に切り替えると絞りが僅かに出た状態となり、これでF2.8となります。個体によってはオートの側にすると絞りが全開になり有効口径が少し拡大、もう少し明るいレンズとなります。私はこれをペトリのブーストスイッチと勝手に呼んでいます。標準レンズのC.C Auto 55mm F2の特定のモデルにも同じ機構がありますが、このレンズは55mm F1.8と完全同一の光学系ですので、ブーストスイッチを入れるとF1.8に化ける仕組みでした。今回の広角レンズも全く同一の機構になっているのは驚きですが、同じ構造であるならばブーストスイッチを入れた時はF2.5前後となり、なんとType R1と同等の開放F値です。これができるのは初期型の特定のロットで、内部に縦方向の絞り制御バネが入っている特定のモデルです。全てがこうなるわけではありません。シリアル番号809XXXの2本にはブーストスイッチがありましたが、783XXXと764XXXにはなく、スイッチをM側にしてもF2.8より明るくはることはありませんでした。


参考文献・資料

[1] Petri@ wiki 資料集

[2] レンズ設計のすべて 辻貞彦著

[3] カメラマンのための写真レンズの科学 吉田正太郎

[3] ニッコール千夜一夜物語 第十二夜 NIKKOR-H Auto 28mm F3.5

 

入手の経緯

中古市場での流通量はやや少なめです。安い印象のあるPETRIの交換レンズとは言え、コンディションがまともな個体には5000円~7000円程度の値がつきます。私は2021年11月に6本入手しました。1本目はジャンク(動作確認済みの完全動作品)との触れ込みでメルカリに出ていた個体(バージョン1ブラック)を1800円で博打買い。ガラスはカビ、クモリ、キズなどなく大変綺麗でしたが残念なことに内部で絞り冠の回転を制御レバーに伝える金具が折れており、代替部品がないと修理は不可能な状態でした。2本目はヤフオクに出ていたバージョン1シルバーを即決価格5800円+送料で購入、外観は新品のように綺麗でしたがガラスに少々カビがあり、清掃して綺麗にしました。3本目はヤフオクに出ていた箱付きのバージョン1ブラックで、保証書付き、フード・キャップ付きを3600円+送料にて購入。外観は新品級の美観ですが、オークションの記載によるとレンズ内に汚れがあるとのことでした。届いたレンズには後群側にカビがあり、清掃して綺麗にしました。と、ここでやめるつもりでしたが、気負ったのか更に3本入手してしまいました(笑)。ヤフオクにカメラ本体(FT EE)とセットで3本まとめ売りで出ており、即決価格4380円でした。そのうちの1本はバージョン1ブラックですがガラスのコンディションがあまりに酷かったので、鏡胴のみ生かす目的で、先に入手した1本目の光学系を組み込みました。5本目はバージョン2ですが、この個体には後玉に軽いクモリあがりました。今回の記事の撮影テストには使用していません。6本目はバージョン1ブラックで後玉に1本傷がありましたが、こちらは実用としては問題ないレベルでした。

さて、残る問題はアダプターですが、秋葉原の2nd BaseにPETRI-Leica M特製アダプター(下の写真)が売られているのを知っていましたので、これを入手し、問題なく使えるようになりました。お値段は1万円弱です。

2nd Baseで手に入れたPETRI-LM特製アダプター。距離計には連動していませんが、これがあれば各種ミラーレス機でPETRIのレンズ群が使えるようになります

 

撮影テスト

開放ではピント部を薄い均一なフレア(コマ収差由来のフレア)が覆い、発色も淡泊になりがちです。どこか現実感のない不思議な空気感が漂うところはアンジェニューType R1を彷彿とさせる描写です。Type R1が持ち味としていた逆光撮影時の鈍く味のある発色はこのレンズにもみられ、アンジェニューを使っていたときに感じた独特の感覚がよみがえります。ただし、フレアはアンジェニューよりも少なく、コントラストはより良い印象で、コーティング性能の進歩にもよるのでしょうか、逆光でも発色が濁ることはありません。ピント部中央は解像感に富んでおり、キレのある質感表現が可能です。近接時はややボケが乱れます。逆光時にゴーストやハレーションが出やすい点はアンジェニューとよく似ています。 

バージョン1ブラック @ F2.8 (ブーストスイッチON) SONY A7R2(WB:⛅)
バージョン1ブラック @ F2.8(開放) SONY A7R2(WB:⛅) どうですか。逆光でハレーションが出やすく、たちまち淡泊な描写になります。アンジェニューっぽいとおもいませんか?



バージョン1ブラック @ F5.6 SNY A7R2(WB:⛅)

バージョン1ブラック @ F2.8(開放) SONY A7R2(WB:⛅)


バージョン1シルバー @ F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日光) 逆光ではゴーストやハレーションが出ます


バージョン1シルバー @ F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日光)

バージョン1シルバー @F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日光)
バージョン1ブラック @ F2.8(ブーストスイッチON) SONY A7R2(WB:⛅
バージョン1シルバー @F2.8(開放)SONY A7R2(WB:日光)