おしらせ


ラベル Retrofocus type の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル Retrofocus type の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2021/11/12

Schneider Kreuznach SL-ANGULON 35mm F2.8 (Rollei QBM)

 

QBMレンズの広角ツートップ  後編

Schkeider Kreutznach SL-ANGULON 35mm F2.8 

シュナイダー社はこの種のレトロフォーカス型広角レンズに対して通常CURTAGON(クルタゴン)のブランド名をつけるのですが、本レンズに対しては戦前から使用してきた伝統的な名称を襲名させました。理由はわかりませんがLeica用に同社が供給した広角レンズの名称にもSuper-Angulonが使用されており、EDIXAなど大衆機に供給したレンズとの差別化をはかっているという解釈が考えられます。ただし、ALPA用にはCURTAGONでレンズを供給していましたし、Rollei SL用にはシフトレンズのPC-CURTAGON 4/35もあり、こうした事実がこの解釈を支持しません(出だしから自爆でスミマセン)。そうなると、残るはRollei SL用に少し前の1970年から供給されていたCarl Zeiss DISTAGON 35mmとのレンズ名の被りに配慮したという解釈です。バックフォーカスを長くとる意味からきたDISTA(離れた/遠くの)+GON(角)に対し、焦点距離を短くとる意味からきたCURTO(短くする)+GON(角)では、まるで反対の事を言っているようで調子が狂います。妄想は尽きないので、このくらいにして本題に入りましょう。
SL-ANGULON(SLアンギュロン)はシュナイダー社が一眼レフカメラのRollei SL35/SL2000シリーズ用に1972年から1976年までの期間で市場供給したレトロフォーカスタイプの広角レンズです。設計は下図・右に示すような6群7枚構成で、CURTAGONをベースとする正常進化版です。初期のCURTAGONは5枚構成でしたが(下図・左、ALPA用に供給された改良版では1枚増えた6枚構成になり(下図・中央)、今回紹介する製品では更に1枚増えた7枚構成に到達、改良の度に設計がどんどん豪華になっています。また、前群の空気間隔が減り、光学系全体がコンパクトになっている様子もわかります。構成枚数が画質性能の決定要因にはなりませんが、設計自由度の多さに加え、時代的にはコンピュータ設計のアドバンテージを余すところなく発揮できましたし、シュナイダーの製造技術の高さを踏まえれば、本レンズが高性能であることは間違いないでしょう。やはり、QBMマウントで先行発売されていたZeiss-OberkochenのDISTAGON 2.8/35を強く意識した改良なのかもしれません。5枚玉のCURTAGONですら既にだいぶ高性能でしたので、今回取り上げる7枚玉の後継レンズはその遙か上を行く、ひたすら高性能なレンズに仕上がっているものとおもいます。オールドレンズとしては、ここがどうしても弱点になるわけですが。
 
 ★入手の経緯
eBayでの取引価格は200ユーロ(26000円)から250ユーロ(33000円)あたりでしょう。私が入手したのは2021年8月にフランクフルトのレンズセラーがドイツ版eBayに200ユーロで出品していた個体です。オークションの記載は「わずかにホコリの混入があるがカビ、クモリ等のない状態の良い中古品。ピントリング、絞りリングの動作は適正で、問題個所はない」とのこと。値切り交渉を受け付けていたので180ユーロでどうかと申し出たところ了解が得られ、送料込みの総額191ユーロで私のものとなりました。
Schneider-Kreuznach Rollei SL-ANGULON 35mm F2.8: フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽, 重量(カタログ値) 206g, 製造期間 1972-1976年, 設計構成 7群6枚レトロフォーカス型, 最短撮影距離 0.3m


 
撮影テスト
前回の記事で紹介したQBMマウントのDISTAGONと比較される事の多いレンズですが、このレンズもDISTAGONに勝るとも劣らない、あるいはそれ以上にも思える高性能なレンズで、コンピュータ設計のアドバンテージを余すところなく発揮して作られたカラーフィルム時代の申し子とでもいいますか、現代レンズの直接の祖先みたいな性格のレンズです。開放からスッキリとヌケが良く、コントラストや発色は良好、解像力よりも解像感(シャープネス)に注力した線太な描写を特徴としています。かつてレトロフォーカス型レンズが課題としていたコマ収差に由来するフレアや滲みは、全くと言っていいほど見られません。ただし、歪みがやや目につく時があり、フロント部の2枚の凹凸レンズで補正していますが、効果は充分ではないように思えます。ボケは距離によらず安定していて、像は四隅まで整っています。光学系がコンパクトで前玉が鏡胴の少し奥まったところに引っ込んでいるためでしょうが、逆光にはかなり強いです。フードによるハレ切りが無くても、ゴーストやハレーションはほとんど出ませんでした。周辺光量が豊富な点やグルグルボケが出にくい点などはレトロフォーカスタイプならではの性質です。
 
 
F8 sony A7R2(WB:日光)逆光も平気です。ゴーストはほとんど出ません
F5.6 sony A'R2(WB:日光)このとおり歪みはやや残っています

F4 sony A7R2(WB:日光) とてもシャープで解像感の高いレンズです
F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 開放でも全く滲まず!



F5.6 sony A7R2(wb:日光)
f4  SONY A7R2(WB:日光)
F2.8(開放) sony A7R2


2021/10/26

Carl Zeiss DISTAGON (QBM) 35mm F2.8

QBMレンズの広角ツートップ 前編

Carl Zeiss DISTAGON 35mm F2.8 

ドイツのRollei(ローライ)社が1970年に発売したRolleiflex SL35という一眼レフカメラにはCarl ZeissとSchnaiderが交換レンズを供給しており、ツァイスからPlanar, Sonnar, Distagon, シュナイダーからXenon, Curtagon, SL-Angulonなど魅力的なレンズが集まり人気を博しました。このカメラが採用したマウント形状のことをQBM(Quick Bayonet Mount)と呼びます。QBMマウントのカメラは後の1974年にVoigtlanderブランド(ローライ社が製造)でも発売され、カメラとブランド名を揃える目的から、こちらにはPlanarに代わり同一設計のColor-Ultron, Distagonに代わり同一設計のColor-Skoparexが供給されました。消費者はツァイス、シュナイダー、フォクトレンダーのドイツ三大ブランドからQBMレンズを選択できたわけです。QBMレンズの中で当時最もよく売れたのはブランド力で勝るツァイスのレンズでした。逆に販売成績が振るわなかったシュナイダーブランドのレンズは希少性が高く、特にQBMマウントのモデルにしかないSL-ANGULONは現在では高値で取引される人気商品です。今回から2回にわたり広角レンズのDISTAGONとSL-ANGULONを取り上げます。
 



初回は旧西ドイツのカールツァイス・オーバーコッヘンが設計したDISTAGON (ディスタゴン)です。このレンズにはドイツのブラウンシュバイグ工場で製造された前期型(初期型と称されることも)と、シンガポールのローライ工場で製造された後期型があり、設計構成や外観が異なります。設計構成は前期型が5群5枚で、下図に示すような第一群に負の凹レンズを置きバックフォーカスを稼いだレトロフォーカス型レンズですが、第2群にやたらと分厚い正の凸レンズを置いて屈折力を稼いでいる独特の形態です。後期型は前期型の基本構成に1枚レンズを追加し歪みの補正を強化した6群6枚で、1枚増えた分だけ鏡胴も長くなっています。外観については前期型のピントリングがメタル素材で後期型がラバー素材、前期型から後期型への過渡期にはラバー素材のドイツ製やメタル素材のシンガポール製が入り乱れています。定説ではありませんが、過渡期のレンズが前期型(5群5枚)なのか後期型(6群6枚)なのかを判断するには鏡胴の長さ(=ピントリングの素材)をみればよいはずです。歪みを気にする方は後期型がよいでしょうし、ピントリングのラバー素材が気に入らない人は前期型がよいでしょう。私が入手した個体はドイツ製・前期型です。製品が発売されてから半世紀近くが経ちますが、シンガポール製であろうとドイツ製であろうと、ローライが生産管理した製品に今のところ品質面での差はないようです。ゴム製ローレットの加水分解によるべたつきは品質管理というよりは保管環境と手入れの問題です。この手のベタつきは自分でも簡単に除去できます。
  
DISTAGON 35mm F2.8(QBM)の構成図:上段は前期型で5群5枚のレトロフォーカス型。下段は後期型で6群6枚のレトロフォーカス型。オレンジ色で着色した部分のメニスカスが1枚入り、鏡胴も長くなっている。文献[1]からのトレーススケッチ(見取り図)である

   
入手の経緯

レンズはeBayにて170~250ユーロ(20000円~30000円)あたりで取引されています。今回入手した個体はドイツの個人セラーがeBayに出していたもので、150 ユーロ+送料とやや安めの価格でした。レンズのコンディションは「ガラスは綺麗でカビ、クモリはない。絞りの開閉、ヘリコイドの動作も問題ない」とのこと。届いた品はガラスこそ綺麗でしたが、マウント部に少しガタがあり、絞りリングがグリス抜けであるなど難点のある品でした。明らかにセラーの説明不足ですが、緩みを締めればすぐに改善する気がしたので自分で修理して使うこととしました。相場より安値で売られている個体には、表面上わからない何らかの落とし穴が潜んでいることが多くあります。

 

Carl Zeiss DISTAGON 35mm F2.8(前期型): 最短撮影距離 0.4m, フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽 6枚構成, 構成 5群5枚レトロフォーカス型, 重量(実測)201g


 

参考文献・資料

[1] Rollei Report 3:Rollei Werke, Rollei Pototechnic, Claus Prochnow

[2] Frank Mechelhoff, Rollei QBM MOUNT Objektivprogramm, Update 2009

 

撮影テスト

開放から滲みはなく、スッキリとしたヌケの良いシャープな描写です。解像力は控えめですがコントラストは良好で、線の太い力強い性質がこのレンズの特徴です。設計がレトロフォーカス型であることを反映し、四隅まで光量落ちは目立ちませんし、ボケにも安定感がありグルグルぼけ等は出ません。ピント部の画質は均一で像面も平坦なので、立体感がやや物足りないかもしれません。歪みは樽型で前期型は少し目立つ事がありますが、後期型はこの点が改善しています。癖の少ない高性能なレンズだと思いますがオールドレンズとしては、どうしてもここが弱点になります。せめて旧東ドイツのフレクトゴン35mmの前期型みたいに少し開放で線が細い描写である方が面白いと思うのですが、どうでしょうか?。

イメージサークルは35mmライカ判向けとして設計されていますが実際にはかなり余裕があり、レンズを中判デジタル機のGFXシリーズで使用しても僅かに光量落ちがある程度で、ダークコーナーは出ません。GFXで使用する場合は35mm換算で27mm F2.15相当の写真が撮れるスーパーレンズに化け、画角が拡大する分だけ画質に味がでるようになります。フルサイズ機では小さくまとまってしまい大人しい描写ですが、GFXではパースペクティブが強く、光量落ちが少し出るせいか諧調がよりダイナミックに見えるようになります。自分はこっちの方が好きかな。今回はメイン機のSONY A7R2(フルサイズセンサー)とサブ機のFujifilm GFX100S(中判44x33mm)の両方で撮影をおこなっていますので、順番にどうぞ。

 

DISTAGON x SONY A7R2

 

F5.6 sony A7R2(WB:日光) 
F5.6 Sony A7R2(WB:日光)参考までに開放F2.8での写真はこちら。引き画では違いはほとんどわからない

F5.6 sony A7R2(WB:日光)







  

 

DISTAGON x Fujifilm GFX100S

model:  #はらみか #えぞえこうざぶろう

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)





















F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)













 

★DISTAGON x Fujifilm GFX100S★

 

F4 Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)



F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB)






































 
DISTAGON x Fujifilnm GFX100S
model: 彩夏子
 
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, F.S.: NN)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, F.S.:NN)

2021/06/13

A.Schacht Ulm S-TRAVEGON 35mm F2.8 R (M42 mount)


レンズ設計者のベルテレ(L.J.Bertele)は戦後にゾナー(SONNAR)を広角化させるもう一つのアプローチを開拓し、一眼レフカメラへの適合までやってのけます。こうしてうまれたのがトラベゴン(TRAVEGON)で、シャハトのためにベルテレがレンズ設計を提供しました。シャハトとベルテレは互いに支え合い困難を乗り越えてきた盟友と呼べる間柄であったようです。

シャハトの一眼レフカメラ用レンズ part 2
ベルテレの広角ゾナー part 2

ゾナーから派生した
レトロフォーカス型広角レンズ

A.Schacht Ulm TRAVEGON 35mm F2.8

ベルテレとシャハトの関係については、文献[1-2]に重要な記載が見られます。共にミュンヘン出身である二人は戦前のZeiss Ikon社に在籍していた時代から親交がありました。シャハトは1939年に故郷ミュンヘンのSteinheil社にテクニカルディレクターとして引き抜かれ移籍します。その間、ドイツではナチスドイツが台頭し、シャハトはナチスの熱狂的な支持者となってゆきます。移籍後のシャハトはSteinheilで潜水艦、装甲車両、軍用機の光学システムの開発に関わります。ベルテレも1940年にドレスデンのZeiss IkonからSteinheilへと移籍することを切望します。この時、シャハトはSteinheilの上層部にかけ合ってベルテレの採用を推薦します。しかし、Zeiss Ikonは天才設計者を手放すことを拒みました。シャハトは政治的な根回しで便宜を図るなどベルテレの希望をかなえるため手を尽くし、彼を助けました。そして、1941年にベルテレはついにSteinheilへの移籍を果たすのです。しかし、二人がSteinheil社に在籍した期間は、そう長くはありませんでした。

1945年にドイツは降伏し終戦を迎えます。ところが、シャハトは終戦後もナチ・イデオロギーを改めることはなく、そのことが原因でSteinheil社を解雇されてしまいます。経済的・社会的に孤立したシャハトは1948年に自身の光学メーカーA.Schcht社を興しますが、こんどはベルテレがレンズ設計者としてシャハトに助けの手を差し伸べることとなるのです。こうして生まれたのがシャハトのレンズ群で、今回ご紹介するTRAVEGONはその中でも、ベルテレらしさを放つ独創的なレンズでした。レンズ構成を下図に示しすが、設計はゾナー同様に3群構成で、SONNARの前玉を正の凸エレメントから負の接合エレメントに置換して生み出されたユニークな形態で、Carl ZeissのBIOGON同様に広角ゾナーの一形態と言えます。広く言えばこれはレトロフォーカス型広角レンズの仲間ですので、短い焦点距離でありながらもバックフォーカスが長く、SONNARファミリーでありながらも一眼レフカメラに適合しています。シャハトとベルテレの友情が生み出した他に類を見ない設計のレンズがTRAVEGONなのです。




TRAVEGONにはF3.5とF2.8の2種類がありますが、1950年代に作られたアルミ鏡胴のモデル(前期型)にはF3.5の口径比のみが用意されました。一方で1960年代に登場したゼブラ柄のモデル(後期型)にはF3.5に加えF2.8のモデルが加わっています。また、数は少ないですが、TRAVEGONのF3.5のモデル(前期型)にはALPAの一眼レフカメラに供給されたALPAGON 35mm F3.5があります。

参考文献

[1] Marco Cavina, Le Ottiche Di Bertele Per-Albert Schacht --Retroscena

[2] Erhald Bertele, LUDWIG J. BERTELE: Ein Pionier der geometrischen Optik, Vdf Hochschulverlag AG (2017/3/1)

[3] 特許資料 (1956年)L.J.Bertele, Switzerland Pat.2,772,601, Wide Angle Photographic Objective Comprising Three Air Spaced Components (Dec.4, 1956/ Filed June 13,1955)

A.Schacht Ulm S-TRAVEGON 35mm F2.8 R: 絞り羽 6枚, フィルター径 49mm, 最短撮影距離 0.5m, 重量(実測) 202, 絞り F2.8-F22, 3群7枚TRAVEGON型, この個体はM42マウント

レンズの相場

A.Schacht社のレンズは近年、再評価がすすみ、ベルテレの件もあって国際相場は上昇傾向にあります。トラベゴンも既にeBayでは400ドル以上の値で取引されています。ただし、日本ではこのような情報の流通が遅く、ヤフオクなどでは今だに3~4年前の値段(1.5~2万円程度)で取引されています。安く手に入れたいなら流通量こそ少ないですが、日本の国内市場が狙い目です。

撮影テスト

SONNARの形質を受け継いだ線の太い力強い描写が特徴で、欠点の少ない優秀なレンズです。開放からスッキリとヌケがよく、シャープな描写で発色も鮮やかです。フレアは開放でも殆ど出ません。ピント部の画質は四隅まで安定しており、レトロフォーカスレンズらしく周辺部の光量落ちも殆どありませんし、ボケも四隅まで安定しています。ただ、背後のボケはポートレート域でゴワゴワとやや固めの味付けになり、被写体までの距離や背後までの位置関係によっては2線ボケ傾向が見られます。もちろん近接では収差変動が起こり、ボケは綺麗になります。

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日陰)開放から充分なコントラストです。ボケが少し硬めですね

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日陰) 歪みは微かに樽形ですが、よく補正されています

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 逆光にはそこそこ強いです



































 

Travegon+Fujifilm GFX100S

F8 Fujifilm GFX100S(35mmフルフレームモード 少し左右をクロップ, Film Simulation: Standard)

F5.6 Fijifilm GFX100S(35mmフルフレームモード, WB:⛅)

F4  Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio: 16:9, FilmSimulation: E.B, Shadow tone :-2, Color:-2)

F4 Fijifilm GFX100S(Film simulation E.B, Shadow tone:-2, Color:-2)
F2.8(開放) Fijifilm GFX100S (35mmフルフレームモード, Film Simulation: Standard)

2021/05/08

LOMO OKC7-28-1 (OKS7-28-1) 28mm F2 KONVAS OCT-18 mount


LOMOのシネレンズには解像力に対する厳しい規格があり、中心50線/mm以上、画角端25線/mm以上を要求していました。28mm F2の広角レンズでこの性能に到達するには、世界最高峰の光学技術を擁したLOMOでも10年近いの歳月を要したのです。

LOMOの映画用レンズ part 9
 
厳しい画質基準を豪華な9枚構成でクリアした

LOMO渾身の一本

LOMO OKC7-28-1(OKS7-28-1) 28mm F2

1950年代は映画用の明るい広角レンズを実現するにはまだ技術的に困難な時代でした。同時代の代表的な広角シネマ用レンズにテーラー・ホブソン社のSpeed Panchro(スピードパンクロ)25mmF2がありますが、開放ではコマ収差に由来するフレアが多く、柔らかく軟調な描写でした。ロシアでも1946年前後とかなり早い時期にレニングラードのKINOOPTIKAファクトリーでPO13-1 28mm F2が試作されていましたが、描写性能が厳しかったのか、後に映画用レンズの製造を引き継いだLENKINAPファクトリーで若干数の試作品が作られたのみに止まり、後継モデルが発売されることはありませんでした。

1960年代になるとレンズのコンピュータ設計が普及するとともにレトロフォーカス型広角レンズに有効な構成が発見されるなど、映画用広角レンズの設計に進歩の兆しが見えはじめます。また、1950年代末から1960年代初頭にかけて後にロシア映画界の黄金期と呼ばれる時代が到来し、映画産業に対する開発や投資が積極的に行われるようになります。この時期はレニングラードでLENKINAPファクトリーが映画用レンズの生産に乗り出すとともに、旧来からのPOシリーズを再設計、高性能な新型レンズをOKCシリーズとして再リリースしてゆきます。更に同地域では1962年にLENKINAPを含む幾つかの工場が合併し、巨大光学メーカーのLOMOが誕生、映画用レンズも含めた国内での光学製品の開発と生産を一手に担うようになります。レニングラードは再び、映画用レンズの国内最大の供給地となるのです。

LOMO(LENKINAP)の開発したOKCシリーズには明確な性能基準があり、諸収差に対する充分な補正をおこないながらも、解像力は中心で50線/mm、画角端で25線/mm以上を要求していました。一般的なネガフィルムに備わった記録密度の目安が25線あたりでしたので、この基準はフィルム面全体で記録密度を活かしきるといういうハードルの高いものです。広角レンズでこの基準をクリアすることは、当時、世界最高峰の光学技術を擁したLOMOでも容易なことではありませんでした。1960年代に28mm F2のモデルをOKCシリーズに組み込むことは、ついに実現しなかったのです。

しかし、1970年代に入りLOMOから2本の明るい広角レンズが登場します。1本目はOKC4-28-1 28mm F2で、ガウスタイプのマスターレンズ前方に凹メニスカスを据えるレトロフォーカス型レンズでした。このレンズは中心解像力こそ50線/mmでLOMOの基準をクリアしていましたが、画角端は20線/mmと僅かに届きませんでした。しかし、それまで開発されてきたどのレンズよりも優れていたため、1970年に発売されることとなりました。もう一本は翌1971年に登場したOKC7-28-1です。このモデルはマスターレンズが典型的ではない事からもわかるように、コンピュータで一から設計されたレンズでした。中心部53線/画角端32線とOKC4-28-1に比べ、周辺側の性能が大幅に向上しているとともに、光学系の全長がOKC4-28-1の60%弱まで短縮され、レンズはたいへんコンパクトになっています。ただし、設計構成は7群9枚と、たいへんコストのかかるものとなりました。それでも発売できたのは製造コストを度外視できる共産圏だったからでしょう。LOMOは10年かけて、十分な性能を有するOKC7-28-1の完成にこぎつけたわけです。このレンズは旧ソビエト連邦が崩壊する1991年まで製造されました。

OKC7-28-1の構成図:Catalog Objective 1971(GOI)からトレーススケッチした構成図の見取り図です。設計は7群9枚のレトロフォーカス型です

OKC7-28-1の設計は上図に示すような7群9枚構成で、何からの発展形態なのか判らない、まるで現代のレンズのような複雑な構造になっています。前方の凸レンズと凹レンズでそれぞれ歪みの補正とバックフォーカスの延長を実現し、2枚で凹レンズとなっていますので、レトロフォーカスタイプの一形態であることは確かです。後群はなんだか凄いことになっていますが、ガウスタイプからの発展形態のようにも見えます。コーティングはシアン系のシングルコーティングです。

 

レンズの入手と相場価格

LOMOのシネレンズは日本で全く認知されていませんので、本レンズも入手となるとeBayなど海外のオークションを通じてロシアやウクライナのセラーから買うルートしかありません。レンズはやや希少で、eBayには多い時でも1~2本程度しか出ていません。全く出ていない時もあります。相場価格はコンディションによって変わってきますが、4~7万円程度でしょう。前モデルのOKC4-28-1と大差はありません。私は2020年7月にeBayを介してロシアのレンズセラーから購入しました。外観、ガラスともに大変綺麗なコンディションでした。

OKC(OKS)7-28-1  28mm F2: フィルター径 62mm, 単撮影距離(定格) 1m, 絞り F2(T2.3)-F16, 絞り羽 12枚, 重量(実測) 247g, OCT-18マウント




マウントアダプター

本レンズは映画用カメラのKONVAS(カンバス)に搭載する交換レンズとして市場に供給されました。マウント部はカンバスの前期型に採用されたOCT-18マウントです。デジカメでこのマウント規格のレンズを使用するにはmukカメラサービスが3Dプリンタで製造し販売ているこちらのアダプターがよさそうです。私はこのアダプターの存在を知りませんでしたので、ポーランドのセラーがeBayにて8000~9000円で販売しているOCT18-Leica Mアダプターを使用しました。私が入手したアダプターは廻り止めのキーが内蔵されていないシンプルなつくりなので、ピントリングと絞りリングが一緒に回ってしまう点が不便ですが、レンズのヘリコイドは使用せず、代わりにミラーレス機に中継するアダプターをヘリコイド付きにして、ピント合わせはアダプター側のヘリコイドでおこないました。他にも、ロシアのRafCameraがeBayで販売しているOCT18 - M58x0.75アダプターやOCT18-Canon EOS(EF)アダプターなどがあります。このアダプターの使い方については本ブログのOKC4-28-1の記事で取り上げました。

F2(開放) sony A7R2(APS-C mode) 普通に撮ると、開放でもこんなに高コントラストでとれてしまいます。恐ろしく高性能なレンズです


 

撮影テスト

ピント部は中央から周辺部まで良像域が広く、解像力もあり、写真の四隅でも画質はかなり安定しています。開放でもピント部の像に滲みはなく、スッキリと良く写ります。レンズの前玉がフィルター枠よりかなり奥まったところにあるためゴーストが出にくく、逆光でも描写は安定しています。私が入手した個体はシングルコーティングでしたが、とてもシャープでよく写るレンズでした。背後のボケは穏やかで、グルグルボケや放射ボケが目立つことはありません。四隅での光量落ちは全く目立たないレベルでした。

フツーに撮るとたいへん高性能なレンズでつまらないので、以下ではFujifilmのミラーレス機に搭載し、フィルムシミュレーションのClassic Chromeで撮影しましたので、彩度がやや低めの設定です。

F8 Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:日光)

F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:日光)



F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:日光)
F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:曇天)

F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:曇天)

F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:曇天)

F2(開放) Fujifilm X-T20(Film simulation: Classic chrome, WB:曇天)