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2017/07/16

PETRI CAMERA Co. High-speed Petri part 5: Petri C.C 55mm F1.7


  
ペトリカメラの高速標準レンズ part 5
ソフトで鮮やかな発色の新感覚レンズ
ボケ味はやっぱりペトリだ
PETRI CAMERA Co., Petri C.C Auto 55mm F1.7
今回取り上げるペトリ 55mm F1.7は、これまで取り上げた同社のシャープな標準レンズとは毛色の異なるモデルで、開放ではピント部をフレアが覆い、滲みを伴う柔らかい描写を特徴としている。ペトリカメラが終末期に送り出した製品なだけに「最盛期をやや過ぎたボクサー。パンチは重いが動きにキレがない」みたいなイメージが脳裏を過り、「どうしたんだペトリ!」と心配にもなったが、写真をよく観察すると解像力は高く、発色は濃厚でパンチ力があるなど、平凡なレンズではない。コントラストも良く、ペトリらしい歯応えのある豪快なボケ味も確かに受け継がれている。この手のソフトな描写傾向はスペックを重視する昭和のカメラオヤジから、さぞ酷評されたに違いない。しかし、デジカメが普及しカメラ女子の人口が一定の割合を占めるなど、時代は変わった。緻密で繊細な画作りを得意とする人やファンタジックな写真を撮る人、特にカメラ女子の中にはこの手の描写を好む人が結構な数いると思う。収差レンズとして再評価されてもよい製品ではないだろうか。
ペトリ C.C Auto 55mm F1.7は評価の高かったC.C Auto 55mm F1.8の後継モデルとして1974年に登場し、ペトリカメラが倒産する1977年までの会社終息期に一眼レフカメラのFTE(1973年発売)とFA-1(1975年発売)に搭載するレンズとして市場供給された[1]。この頃の日本の中小メーカーは自社のシェアを伸ばすため、他社より僅かでも高いスペックの製品を供給することに固執したが、ペトリカメラもその例外ではなく、このレンズはメーカー各社が主軸レンズの口径比をF1.8からF1.7にシフトさせようとする潮流の中で生み出された。レンズ構成は先代のF1.8のモデルと同じ4群6枚のガウスタイプであるが[2]、この時代のF1.7クラスのレンズといえばPentx-M、Hexanon AR、Auto Chinon、ROKKOR-PFなどにみられるように、第2レンズと第3レンズの間に空気層(空気レンズ)を設け5群6枚構成とするのが定石で、収差を抑え込むには4群6枚構成では役不足であった。このレンズの独特な描写は構成を変えずに設計限界の壁を越え、F1.7の領域に踏み込んでしまった代償とも受け取れる。いや、これも計画の内だったのであろうか?

参考
[1]  ペトリ@wiki:ペトリ一眼レフ交換レンズの系譜 標準レンズ編
[2] 光を当て反射面の数を数えると明らかに4群6枚構成になっている

入手の経緯
レンズは2017年2月にヤフオクにてペトリFTにマウントされた状態で売られていたものを入手した。オークションの解説は「ミラーが脱落している。シャッターは降りない。シャッター幕が詰まっている。レンズはカビ・クモリなく綺麗な状態。現状渡し」とのこと。写真で見る限りレンズは綺麗である。ジャンク品であることが宣言されていたが、レンズを道連れにしていると判断、2000円で入札したところ1510円で落札できた。数日後、拭き傷やホコリの少ない綺麗なレンズが届いた。カメラの方はやはりシャッターが壊れており、巻き上げもスカスカなので修理は不可能と判断、こちらはマウント部分を取り出してアダプター作りの材料にすることにした。
PETRI C.C 55mm F1.7: 最短撮影距離 0.6m, 絞り羽根 6枚構成, フィルター径 52mm, 光学系 4群6枚ガウス型, 絞り F1.7-F16, ペトリブリーチロックマウント。なお、レンズのガラス表面には同社が独自にコンビネーション・コーティング(C.C)と呼んでいるシングルコーティングが蒸着されている

 
撮影テスト
レンズの描写の特徴はソフトでありながらも、コントラストや発色が良好なレベルを維持している点である。開放ではコマ収差に由来するモヤモヤとしたフレアがピント部を覆い、柔らかい描写傾向となる。その分だけシャープネスは低下気味でトーンも軽めだが、濁りはなくコントラストや発色は良好な水準を維持している。解像力は依然として同社のF1.8と同等の高い水準にあり、柔らかさのなかに緻密さの宿す線の細い写りとなっている。絞ると急にヌケが良くなりシャープネスとコントラストが更に向上する。背後のボケにはペトリならではのザワザワとした硬さがあり、形を留めながら質感のみを潰したような絵画のような味付けがこのレンズにも継承されている。グルグルボケや2線ボケが目立つことはない。ガウス型レンズ成熟期の1970年代にこんな趣味性の高いレンズを出したペトリカメラには、何か別の狙いがあったのだろうか。



Olumpus PEN E-P3で写真
まずは知り合いのカメラ女子(写真家のemaさん)による写真作例。彼女の作風はこのレンズの性格によくマッチしている。色味はいじってるとのこと。
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)

F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)




f1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)

SONY A7Riiでの作例
続いて私がフルサイズフォーマットで撮った写真。

F1.7(開放), SONY A7Rii(WB:Auto) まずは近接での写真をみてみよう。開放でも画質は安定している。ボケ味にはペトリらしさがでており・・・

F1.7(開放), SONY A7Rii(WB:Auto) ・・・形をとどめた妖しいボケ味を醸し出している















F1.7(開放) SONY A7Rii(WB:Auto) ヘリコイドアダプターを用いてレンズの規格を超える近接域を撮っているが、シャープネスはポートレート撮影時と大差ない。この距離を開放でとるというのは無茶なことだが、それなりの画質が維持されているところをみると、接写にも強いレンズのようだ
F1.7(開放), sony A7RII(WB:電球1) 今度は室内で電球と外光のミックス。開放ではフレアがかかりソフトな描写傾向だが、しっかりと解像している
F8, sony A7(WB:曇天) 絞ると急にヌケが良くなり、シャープネスやコントラストが更に向上する。過剰補正型の変化系レンズだ
EE Auto 55mm F1.7とC.C Auto 55mm F1.8の描写比較
最後にEE Auto 55mm F1.7とC.C Auto 55mm F1.8(後期型)の開放描写の比較をおこなった[下の写真]。シャッタースピードやISO値などの撮影条件を同じ値に固定し、ピントは中央の樹木のど真中中で拾っている。カメラはSONY A7を用いた。両者の大きな差はフレア量である。F1.8(写真下段)はスッキリとヌケがよく、そのぶんシャープネスが高い。一方、F1.7(写真上段)はフレアに覆われホワッとした柔らかい写りになり、シャドー部が浮き気味でシャープネスが低下している。ただし、緑の鮮やかさに大差はなく、コントラストや発色がF1.8に比べ悪くなっているという印象はない。むしろ緑はF1.7の方が鮮やかにさえ見える。解像力はほぼ互角で、背後のボケ味がザワザワとしている様子もよく似ているが、F1.7の方が口径比が少し明るい分だけ、ざわつき加減が若干激しい。
C.C Auto 55mm F1.7(上段) と C.C Auto 55mm F1.8 (下段)の開放描写の比較。F1.8の方がフレア量が大幅に少なくシャープネスは明らかに高い。ただし、ソフトなF1.7のほうもコントラストはそれほど悪いものではなく、発色は依然として良好である。緑の鮮やかさはF1.7の方が上かな








2017/06/21

PETRI CAMERA Co. High-speed Petri part 4: Petri CC. Auto 55mm F1.4




ペトリカメラの高速標準レンズ part 4
ペトリの高性能フラッグシップレンズ
PETRI CAMERA Co., Petri C.C Auto 55mm F1.4 
55mm F1.8 / F2に続くペトリ標準レンズのもう一つの驚きが、1967年に登場したPETRI C.C Auto 55mm F1.4である。F1.4の明るさにも関わらず開放から目が覚めるようなスッキリとした描写でコントラストや発色も良く、デジカメで用いた場合にも色収差がほとんど目立たないなど、この時代に設計された同クラスの大口径レンズ群の中では一歩抜き出た優れた性能を実現していた[1,2]。レンズの構成は戦前のLeitz Xenon(クセノン)1.5/50 やLeitz Summarit(ズマリット)1.5/50、Contarex版Planar(プラナー)1.4/55やPancolar(パンコラー)1.4/55など名だたる最高級レンズに採用されたものと同一で、ガウスタイプの最後部(正エレメント)を2枚の正エレメントに分割し、5群7枚としている(下図)。この構成の最大の特徴は収差的にバランスを取りながらf1.4の口径比を実現でき、なおかつバックフォーカスの確保が容易なことである[6]。戦後の一眼レフカメラ用につくられた標準大口径レンズには、ほぼ例外なしにこの構成が採用された。
1970年代に入るとレンズ内で起こるハレーションを軽減させるため、後玉のコーティングがアンバー色のものからシアン色のものに変更され、シャープネスとコントラストの向上が図られた[3,5]。私が入手した今回の個体はアンバーコーティングが施されているので、コーティング変更前の前期型である。

Petri C.C Auto 55mm F1.4 構成図(文献[8]からのトレーススケッチ見取り図):最後群の正レンズを2枚に分割することで屈折力を稼ぎ各面の屈折力を緩め、コマ収差を中心に諸収差を補正しながらF1.4の明るさを実現している。後群ではなく前群側を分割するケースの方が収差的には有利だが、バックフォーカスが稼げる点は他に代えがたい大きな魅力である[6]。このレンズを設計したのは同社エンジニアの島田邦夫氏で[3-5]、島田氏はC.C Auto 55mm F1.8の通称「新型」を設計した人物でもある[4]




レンズは登場後に大手カメラ雑誌の性能試験で当時の最高レベルの成績をたたき出し[2]、1974年のカメラレンズ白書の評価記事でも優れた性能が絶賛された[7]。ただし、市場ではあまり売れなかったようで、廉価ブランドの最高級モデルという微妙な立ち位置をとる本品に対して、世間の反応は鈍かった。
標準レンズの良し悪しはカメラの売れ行きをも左右するカメラメーカーの生命線であったため、とくにペトリのような中小規模のカメラメーカーはその開発に知力を尽くし、全身全霊で取り組んでいた。このレンズや同社の55mm F1.8に優れた描写力が備わっているのは、こうした事情と無関係ではない。そして、ペトリがレンズ設計士の才能に恵まれたカメラメーカーであったことは紛れもない事実である。そのことを世間は語らずとも、レンズは今も世に語り続けているのだ。
 

参考文献・資料
[1] 例えば、この時代の代表的なレンズであるパンコラー(PANCOLAR) 55mm F1.4やプラナー(PLANAR) 55mm F1.4の描写傾向を知っている人ならば、Petri F1.4の並外れた性能がどれほど凄いものであるかを感覚として掴めるはずだ。
[2] カメラ毎日1967年12月号; カメラレンズ白書(1971年)
[3] ペトリ元社員へのインタビュー記事 2chペトリスレ 2013年5月発行/2015年6月改定
[4] ペトリ@wiki「ペトリ一眼レフ交換レンズの系譜 標準レンズ編」
[5]ペトリ@wiki「 PETRI CC Auto 55mm F1.4 」
[6] レンズ設計のすべて 辻定彦著 電波新聞社 2006年
[7] カメラレンズ白書(1974年)
[8] ペトリFA-1ブックレット
 
入手の経緯
2014年8月にヤフオクを介して北海道のカメラ屋から即決価格14400円+送料1030円にて落札購入した。オークションの記載は「カメラ専門店にて整備済の商品。鏡胴にはスレ傷がある。ガラスのコンディションは非常に良く、2~3mm程度の微かな薄い傷が1本あるのみ」とのこと。やや値が張るものの状態の良い個体はなかなか市場に出回らないので、整備済みであることを考えれば妥当であると判断し、この値段で入手することにした。届いた品は、まぁまぁ良いコンデイションであった。
Petri C.C Auto 55mm F1.4: 重量(実測) 324g , 最短撮影距離 0.6m, フィルター径 55mm, 絞り羽 6枚構成, 絞り値 F1.4-F16, フィルター径 55mm, 設計構成 5群7枚(変形ガウスタイプ), ペトリブリーチロックマウント, 後玉がやたらとデカいのが外観上の特徴。なお、レンズのガラス表面には同社が独自にコンビネーション・コーティング(C.C)と呼んでいるシングルコーティングが蒸着されている

撮影テスト
1960年代に設計されたF1.4クラスの大口径標準レンズの中で、ここまで安定感のある描写性能を実現した製品は、なかなか見当たらないだろう。この時代の同クラスのレンズは大方どれも収差の嵐に見舞われるのが当たり前で、開放ではピント部にさえモヤモヤとしたコマフレアが出るし、ボケの乱れっぷりも時に激しく容赦のないものとなる。このクラスのレンズをうまく使いこなすには、レンズの性質をよく理解し、収差との付き合い方や活かし方を自分なりに会得する必要があると日頃から思っていた。ところが、今回のレンズはそうした固定観念を打ち崩すものとなった。開放からスッキリと良く写り、オールドレンズの上級者でなくとも充分に使いこなすことのできる、扱いやすいレンズなのである。
開放での描写性能は手放しで絶賛できるレベルだ。フレア量は同クラスのレンズの中でも抜群に少なく、肌の質感表現などに絶妙な柔らかさを残しながらもコントラストやヌケの良さは高い水準を維持しており、発色も良い。解像力はお世辞にも高いものとは言えないが、カラーフィルム撮影で用いるには充分な水準をクリアしている。背後のボケに硬さはなく、大きく柔らかくボケるなどバランスが重視されており、同社の55mm F1.8/F2クラスのレンズでみられるような過激なセッティングとは異なる設計理念を感じる。レンズの個性が際立つポートレート域においても、グルグルボケや放射ボケなどが目立つことは無い。自分は普段あまり気にすることはないが、歪み(歪曲収差)についても、とても良く補正されている。弱点を強いて挙げるとすれば、逆光撮影時に見られる円弧状のフレアであろう。ここは、うまく活かす方法を会得する必要がある。
今回取り上げたペトリ C.C Auto 55mm F1.4は安定感のある穏やかな画質を得ることのできる、F1.4クラスとしてはとても扱いやすいレンズである。作例どうぞ。
F2.8, sony A7RII(WB:晴天→画質補正) よく写る!とはいっても、この写真は補正を入れている。補正前の元画像(JPEG撮って出し)も下に示す




F2.8, sony A7RII(WB:晴天) 色乗りはバツグンによいし、コントラストやシャープネスもこのクラスの明るいレンズにしては非常に優秀だ

F1.4(開放), sony A7(S.Shiojima): ピント部の解像力はせいぜいこのくらいだが、F1.4としてはまぁまぁの水準ではないだろうか


F1.4(開放),  sony A7(S.Shiojima): ピント部間際の前方でグルグルボケを観測できる。像面を曲げて背後のボケを綺麗に見せる設計のようだ




F4, sony A7Rii(WB:晴天) 発色傾向は同社のF1.8とは異なりクールトーンな印象をうける。ここから更に深く絞ると、ボケが少し硬くザワザワとしはじめる

F1.4(開放), sony A7RII(WB:晴天)続いて開放でのポートレート。素晴らしい。肌の質感表現には絶妙な柔らかさがあり、一方でコントラストやヌケの良さは十分なレベルを維持している。ボケもなかなか綺麗。このレンズは落としどころが見事だ!




F1.4(開放), sony A7RII(WB:晴天) 開放F1.4でここまで写るとは思っていなかったので、正直なところ非常に驚いた。ただし、逆光には弱く、開放からF2までの絞りでは、このような円弧状のハレーションが出る。これが鏡胴内の光の反射であることが明らかにされ、対策として1970年代の後期モデルからは後群のコーティングが見直されている。ちなみに、本レンズは改良前の前期モデルである



2017/05/17

Petri Camera Co. High-Speed Petri part 3: KURIBAYASHI C.C. Petri Orikkor 50mm F2(M42 mount)


ペトリカメラの高速標準レンズ part 3
ペトリブランド初の一眼レフ用レンズ
KURIBAYASHI C.C. Petri Orikkor 50mm F2(M42 mount)
ペトリの一眼レフ用レンズの特徴はシャープな開放描写と独特な背後のボケ味であることを繰り返し伝えてきたが、今回はこの描写傾向のルーツを求めオリコール(Orikkor) 50mm F2の前期型を取り上げることにした。オリコールはペトリカメラが栗林写真機製作所時代の1959年に世に送り出した同社では初となる一眼レフカメラのペトリペンタ(Petri Penta)に搭載された交換用レンズである。これから一眼レフの分野に参入しようと意気込む同社が知力を尽くして開発し、後の1960年代に高い評価を得るペトリブランドの標準レンズ群を生み出す礎となった。レンズの設計構成は独特で、ガウスタイプの変形であることは間違いないが、後群に3枚のレンズをはり合わせた独特なレンズユニットを持ち、3群7枚の構成になっている(下図)。このレンズユニットは一眼レフ用オリコールの初期型のみに採用されたもので、バックフォーカスを確保しながら50mmの標準画角を達成する役割があったと伝えられている[文献1-2]。ただし、1961年発売のPetri Penta V2用に供給されたOrikkor 50mm F2(後期型)とこれ以降の後継モデルではオーソドックスなガウスタイプ(4群6枚)の構成に戻っている[文献3]。
レンズを使ってみたところ、予想に反して開放ではピント部に絶妙な柔らかさが漂い、人物のポートレート撮影で力を発揮できる繊細な質感表現のレンズであることがわかった。一方、ペトリならではの絵画のようなボケ味はこの頃のレンズから既に備わっており、過剰気味の収差補正と適度な残存収差による独特な味付けが、このレンズにおける大きな魅力となっている。戦後のメイヤーのレンズにもどこか通じる味付けではないだろうか。


Kuribayashi C.C. Petri Orikkor 50mm F2: 7 elements in 6 groups(文献[1,4]からのトレーススケッチ)
参考文献・資料
[1]写真工業 7月号(1959年)写真工業出版社
[2]Petri@wiki 「ペトリ一眼レフ交換レンズの系譜 標準レンズ編」
[3]Petri Penta V2 取扱説明書; PETRI PENTA V2 Instruction Book(英語);
[4]Petri Penta Instruction Book, P15
Kuribayashi C.C. Petri Orikkor 50mm F2(前期型): フィルター径 49mm, 重量(実測) 180g, 絞り羽 10枚構成, 絞り F2-F22プリセット式, 最短撮影距離 約0.5m(1.75 feet弱), 設計構成 4群7枚変形ガウス型,  M42マウント, Petri Penta用の標準レンズとして供給された。なお、レンズのガラス表面には同社が独自にコンビネーション・コーティング(C.C)と呼んでいるシングルコーティングが蒸着されている。また同レンズの初期ロットにはC.Cとは別のAmber-magenta combination Coating(A.C)が蒸着されている場合もある。C.Cではレンズエレメントごとにアンバー系とマゼンダ系のコーティングが複合的に用いられているが、A.Cでは全てのエレメントがアンバー系のコーティングとなっている[Thanks to Rikiya Kawada]



 ★入手の経緯
ネットオークション(ヤフオク)での相場は5000円程度とペトリのF2級レンズとしては高めの値段で取引されている。マウントがM42なので使えるカメラが多く、設計構成が特殊なうえ、流通量もペトリのレンズにしては少な目だからであろう。今回のレンズは知人からの借用品である。硝子に大きな問題はなく、少し傷がある程度で実用十分のコンディションであった。

撮影テスト
これまで本ブログの特集記事で紹介した2つのモデル(55mm F1.8や55mm F2)とは開放での描写傾向が若干異なることがわかった。近接撮影時は開放からシャープであるものの、遠方撮影時になるとピント部に絶妙な柔らかさが漂う。肌の質感表現は素晴らしく、ポートレート撮影にも充分に対応できる繊細かつ上品な味付けといえる。絞ればもちろんシャープでヌケの良い描写となる。背後のボケはいかにもペトリらしく、開放付近では線描写が激しくバラけながらフレアを纏い、輪郭をとどめながら質感表現のみを潰したような独特なボケ味が、絵画のような背景描写をつくり出している。グルグルボケや放射ボケが目立つことはない。2線ボケもここまで過度だと見事としか言いようがない。この味付けは栗林時代に既に確立していたのである。

F8, sony A7(WB: 晴天): 過剰補正傾向の強いレンズなので、ある程度の近接撮影にも画質的に耐えてくれる
F2(開放), sony A7RII(WB:曇天)  迫力のあるボケ味はやはりペトリのレンズならではのもの
F2(開放), sony A7RII(WB:曇天) 絵画と写真の融合・・・全部写真です
F2(開放), sony A7(AWB):近接撮影の場合は開放からシャープに写る

F4, sony A7(WB: 晴天):  ポートレート域はもとより、近接撮影でも依然としてボケ味が硬く、独特の味付けになるのは、ペトリレンズならではの特徴といえるだろう。凄い!
F2(開放), sony A7(WB:曇天):ポートレートになるとピント部の描写傾向は柔らかく、絶妙な質感表現となる
F4, sony A7(WB:曇天):絞ったときの引き画。スッキリとヌケが良く、シャープネスな描写だ

2017/04/30

PETRI CAMERA Co. High-speed Petri part 2: Petri 55mm F2




ペトリのレンズが気になりはじめたのは一人の写真家が2年前のある日、フェイスブック版MFlensesに投稿した一枚の写真を見てからだ。それは、新緑を背景に一列に並んだティーカップを撮影した何でもない構図の写真であったのだが、今まで見たこともない独特なボケ味に度肝を抜かれ、思わずシェアしてしまったのを今でも覚えている。

ペトリカメラの高速標準レンズ part 2
線描写のバラけっぷりが
背景を絵画に変える
PETRI CAMERA Co., Petri Automatic 55mm F2 and C.C Auto 55mm F2 
ペトリカメラが一眼レフカメラ用として供給した最初の高速標準レンズは栗林写真機製作所時代のオリコール(Kuribayashi Orikkor) 50mm F2で、1959年発売のペトリペンタ(Petri Penta)に搭載する交換レンズとして登場した[0]。1960年代に入るとブランド名はオリコールからペトリ(Petri)に改称され、それまで焦点距離が50mmだった同社の標準レンズは、この頃から55mmで作られるようになる。カメラの方はペトリペンタV(1961年発売)、V3(1964年発売)、V6(1965年発売)、ペトリFT (1967年発売)など新製品の発売が相次ぎ、これに合わせてレンズのほうも鏡胴のデザインや光学設計が短い期間に何度もマイナーチェンジされた[1]。Petriシリーズの第2回はペトリペンタV用に供給されたPetri Automatic 55mm F2(上写真・右)、ペトリV6用に供給されたPetri C.C Auto 55mm F2(上写真・中央)、ペトリV6II用に供給されたPetri C.C Auto 55mm F2(上写真・左)の3本を取り上げたい。
レンズ構成はいずれも典型的な準対称ダブルガウス型で(下図)、前回の記事で取り上げた上位モデルの55mm F1.8と同一の光学系を使い、絞りの動きを制限したり、内部に絞り冠を設置するなどリミッターを設けることで、口径比をF2に制限している[1]。描写傾向も基本的には上位のモデルと同じで、力強く描かれた絵画のようなボケ味とシャープな開放描写がこのモデルの大きな魅力となっている。
Petri Penta V2 取り扱い説明書からのトレーススケッチした55mm F2(旧型)の構成図(見取り図)
ペトリの55mm f1.8にはペトリフレックス7に供給された旧設計のPetri Automatic 55mm f1.8(通称「旧型」)と、ペトリV6の登場から供給された新設計のPetri C.C auto 55mm f1.8(通称「新型」)があり[1]、今回取り上げるPetri 55mm F2は同社がこれらの口径比をF2に制限し廉価モデルとして発売したものである。私が入手した3本の個体のうち2本(AutomaticとシルバーのC.C auto) は旧型、残る1本(ブラックのC.C Auto)は新型の設計をベースにしていることを、レンズ面における光の反射パターンから同定している。
3本の中で最も古いモデルのPetri Automatic 55mm f2は絞りが全開にならないよう動きに制限を加えることで口径比をF2にしており、オート時にはいったん絞り羽が見えなくなりF1.8のモデルと同じ口径比となるものの、カメラのシャッターが降りて絞り制御レバーが押し込まれると、絞り羽が僅かに顔をだし、F2相当に絞り込まれる仕組みになっている。マウントアダプター等でデジカメに搭載する場合には、自動絞りレバーは用いないので、必要に応じてスイッチをオートにすればリミッターは解除され、高速なF1.8での撮影が可能になる。これは、ある種のブーストスイッチともいえるし、妄想を広げるなら(やや見掛け倒しではあるが)「過剰補正/完全補正切り替えスイッチ」ともとれる。このスイッチをオンにして口径比をF1.8にすると若干明るくなるものの、背後のボケが硬くゴワゴワと力んだ描写となり、オフにすると若干絞るので少し暗くはなるが、ボケはより素直になり、解像力やコントラストが若干向上するというわけである。ただし、実写テストによるF2とF1.8の比較では、こうした違いを見出すことはできず、両モデルの描写は極めてよく似ていた・・・(空騒ぎでしたスミマセン)。
C.C auto 55mm F2についてはレンズの内部に絞り冠が設置され、口径比がF2に制限されているので、残念ながら上記のように手動でブーストさせることはできない。
 
[0]「オールドレンズとシネレンズで遊ぶ」 詳しい解説があり、レンズの特徴がよくわかる写真も掲載されている
[1] Petri@Wikiの特集記事「ペトリ一眼レフ交換レンズの系譜 標準レンズ編
[2] Petri Penta V2 Instruction Book
[3] Petri@Wikiの特集記事:c.c Auto 55mm f1.8
 
本当に同一設計なのか?
F2とF1.8が同一の光学系であるという仮説に対する確かな証拠は今のところペトリ@wikiにも提示されていない。自分もF2の新旧各モデルのガラスに光を当て、各レンズエレメントからの光の反射を観察してみたが、光の反射パターンはF1.8の新旧それぞれのモデルのパターンと見分けのつかないレベルまでよく似ており、仮説はホントのように思える。ちなみに、新型と旧型の反射パターンは大きく異なるため、これらの分別は容易だ。この仮説の核心に迫るには、やはり光学系をバラすしかない。今回は旧型のAutomatic F1.8とAutomatic F2を分解し、ノギスで各レンズエレメントの大きさや厚みをチェックすることにした。結論から先に述べると、両モデルに差は見られなかったので、光学系は同一であるという判断に至った。
左はPetri Automatic 55mm F2(S/N: 170304) で、右はPetri Automatic 55mm F1.8(S/N: 91986)。両レンズとも設計は「旧型」である



両モデルの前玉の直径は34.94mmで同一。厚みにも差はなかった





玉を抑えるトリムリング(カニ目リング)の内径には明らかな差があり、F1.8のモデル(右)が内径33.54mmであるのに対し、F2のモデル(左)は内径31.49mmと一回り狭い。上の写真からも明らかに左の方がリングの幅が広いが、外径は同じなので、そのぶん内径が狭いことが見てわかる


ノギスによる計測対象は前玉の直径以外にも、前玉の厚み、前群全体の厚み、後群全体の厚み、後玉の直径、前・後群の絞り側のエレメントの直径、絞り全開時における絞り周辺部の鏡胴内径など多岐にわたるが、全ての点検項目で両レンズのスケールが一致した。同一光学系であるという判断に疑いの余地はなく、ペトリ@wikiに掲示されている情報をコンファームする結果となった。

入手の経緯
Petri Automatic 55mm F2 (S/N: 170304)は2017年3月にヤフオクを介して兵庫県の古物商から購入した。オークションは500円の開始価格のまま誰も入札しなかったので、この値段で自分のものとなった。商品の記載は「中古品につき外観に傷・汚れがある。ジャンク品なので返金は不可」とのことで、ガラスの状態には何も触れていないので博打的に手を出すことにした。届いたレンズには前玉の裏に汚れがあったので分解し清掃したところ綺麗になった。分解も慣れたものだ。

Petri Automatic 55mm f2(S/N: 170304) Petri Penta V(1960年発売)用、およびPetri Penta V2(1961年発売)用, 絞り F2-F16, 絞りの開閉を制限し口径比をF2としている,最短撮影距離 0.6m, 重量(実測) 205g, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚準対称ガウス型, Petriブリーチロックマウント, 光学系はPetri Automatic 55mm F1.8(通称「旧型」富田良三氏による設計[3])と同一である可能性が高い



続くPetri C.C Auto 55mm F2(S/N: 203343)は2013年2月にヤフオクを介してカメラ(PETRI U VI)付きのものを1000円で落札した。カメラの方はシャッターが壊れミラーも脱落しておりジャンクとの扱いであったが、レンズの状態については何も触れていなかったので、やはり博打にうって出ることにした。ハズレくじを引くと分解清掃をするという趣味の悪い罰ゲームであるが、コンディションの良い個体が届いた。シルバーカラーは少し珍しい。カメラの方はマウント部を取り出し、アダプターをつくるための材料にした。 
Petri C.C Auto 55mm F2 (S/N: 203343) Petri Penta V6前期型(1965年発売)用, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚準対称ガウス型, 絞り F2-F16,  最短撮影距離 0.6m, Petriブリーチロックマウント, 光学系はPetri Automatic 55mm F1.8(通称「旧型」富田良三氏による設計[3])と同一である可能性が高い
最後の1本Petri C.C Auto 55mm F1.8(S/N: 248448)は2017年3月にヤフオクを介して1本目のレンズと同じ兵庫県の古物商から購入した。オークションの記載は「中古品につき外観に傷・汚れがある。ジャンク品なので返金は不可」とのこと。500円の開始価格のまま誰も入札せずに自分のものとなった。届いたレンズには前玉の裏に汚れがあったが、分解し清掃したところ綺麗になった。分解・清掃は慣れたものだが、こう毎度毎度だとかったるくなる。

Petri C.C Auto 55mm F2(S/N: 248448) Petri V6II用,  フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚準対称ガウス型, 絞り F2-F16, 最短撮影距離 0.6m, Petriブリーチロックマウント, 光学系はPetri C.C 55mm F1.8(通称「新型」島田邦夫氏による設計[3])と同一である可能性が高い



撮影テスト
描写に定評のある上位モデル(F1.8)と同じ設計なので、本モデルも高性能であると考えて間違いはない。
ピント部中央は開放からとてもシャープなうえ解像力も十分で、安いのに感心する写りだ。背後のボケには独特の々しさがあり、2線ボケを超越した線描写のバラけっぷりが不思議に調和した旋律を奏で、ハイライト部を覆うフレアと相まって、力強く描かれた絵画のようなボケ味を作り出している。前ボケは柔らかく綺麗に拡散しており、グルグルボケや放射ボケが目立つことはない。中央のシャープネスは新旧両モデルでほぼ互角の性能であったが、四隅では旧型よりも新型の方がフレア量が少なく若干シャープな像が得られた。発色は新型の方がトリウムガラスの影響からか温調方向にコケる傾向がみられた。
当初は口径比をF2に制限したことで収差設計がいくらか過剰補正から完全補正にシフトしていると予想したが、使ってみた印象では依然として過剰補正の特徴を強く残しており、明るさこそやや異なるものの、ピント部のシャープネスやフレア量、ボケ味などにF1.8のモデルとの差を見出すことはできなかった。
F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2 (旧型 S/N: 203343)+ sony A7(WB:晴天) 


F2.8, Petri Automatic 55mm f2(旧型 S/N: 170304) + sony A7(WB: 日陰)




F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2 (旧型 S/N: 203343)+sony A7(WB:晴天): 背景が絵画にしか見えない(笑)。知人に貸したブロニカ。ペッツバールをマウントして、楽しそうにつかっている


F2(開放), , Petri C.C Auto 55mm F2 (新型S/N: 248448)+ sony A7(AWB) 開放からスッキリとヌケがよい。シャープネス、コントラストは十分
F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2(新型 S/N: 248448)+ sony A7(AWB) 背後のボケは非常に硬く、輪郭を保ちながら質感を潰したような面白いボケ味になっている
F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2 (旧型 S/N: 203343)+sony A7(WB:晴天) これだけ寄っても、平気によく写る。接写に強いレンズだ

F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2(新型 S/N: 248448)+ sony A7(AWB)  中心解像力は充分だ

F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2(新型 S/N: 248448)+ sony A7(AWB) 
F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2 (旧型 S/N: 203343)+ sony A7(WB:晴天)