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2023/01/04

Bell and Howell - Angenieux Type M1 1inch(25.4mm) F0.95

月面探査機の目として活躍した
アンジェニューの超高速レンズ

Bell & Howell - Angenieux Type M1  1inch(25.4mm) F0.95 (C mount)

1964年7月31日13時8分、米国の無人宇宙船レンジャー7号は月面を至近距離から撮影する目的のため、P. Angenieux 社の超高速レンズType M1を組み込んだTVシステムを搭載し、月面上空の高度約1800kmから目標地点であるコペルニクスクレーターの南方マレ・コグニトゥム(既知の海)に向け降下を開始、目標に向かって降下する様子を撮影しました[1,2]。降下から17分13秒後に時速約9400km/hで月面に衝突しミッションを完了、レンジャー7号は降下中に4308枚もの連続写真を地球に向け送信したのでした。最後の写真は衝突の0.18秒前に高度約480メートルの地点から月面上の約30mx50mの区画を0.5mの解像度で撮影した1コマでした。ミッションの成功はNASAによる月面探査史上初めてのことで、ここに到達するまでにNASAは月面探査のミッションを13回連続で失敗しています。レンジャー7号の成功が後に月へ宇宙飛行士を送り出す「アポロ計画」を推進するための貴重な地形データを提供したことは言うまでもありません。
NASA JET PROPULSION Lab. Official Home Page(Click the preview image above to go!)

 

宇宙船レンジャー7号

レンジャー7号(P-54/Ranger-B)についてはこちらに船体図の詳細があります[3]。宇宙船に興味のない人は読み飛ばしてください。船体は全高3.6m、総重量は366kgで、幅1.5mの六角形のアルミフレームでできた基部(コアユニット)に推進装置と動力装置を内蔵、基部の左右には0.74m x 1.54mの発電用ソーラーパネルがあり、基部の一角には指向性アンテナが備わっていました。また船体後方に無指向性アンテナを内蔵した円筒形の塔を持ち、アンテナ塔の中央部に6台のTVカメラシステム(全てRCA-Vidicon社のスロースキャンTVカメラ)が設置されていました。このTVカメラシステムは2つの独立したチャンネルを持ち、各チャンネルがそれぞれ独立した電源、タイマー、トランスミッターを備えることで、トラブルに強い構造となっていました。このうちの第1チャンネルは2台のフルスキャン用カメラ(AカメラとBカメラ)が設置され、Aカメラには広角レンズとしてAngenieux社の25mm F0.95Bカメラには望遠(狭角)レンズとしてBausch & LombBaltar 75mm F2(T2.3)が搭載されていました。また、第2チャンネルには4台のパーシャルスキャン用カメラが設置され、これらには同じくA社の広角レンズ2台、B社の望遠(狭角)レンズ2台が搭載されていました。宇宙船は月面への下降を始める3日前の7月28日にアトラス・アジェナ大型2段ロケットに搭載され、フロリダ州のケネディ宇宙センターに併設されたケープカラベル宇宙軍基地の発射台(LC-12)から打ち上げられました[4]。打ち上げは順調に進み、予定どうり1段目のアトラスロケットを分離した後、2段目のアジェナロケットとレンジャー7が宇宙待機軌道に投入されました。続いてアジェナへの2度目の点火と切り離しにも成功、宇宙船レンジャー7は月遷移軌道へと投入されたのでした。

Bell & Howell - Angenieux 1inch F0.95(関東カメラ塗装モデル): 焦点距離 約25.4mm,  絞り F0.95-F22, 最短撮影距離 約0.45m, 重量 166g, フィルター径 約39mm, マウント規格 Cマウント, 6群8枚(ガウス発展型),  16mm /Super 16mm シネマムービーフォーマット

 

Angenieux Type M1

今回取り上げるのはレンジャー7号に搭載され月面探査で活躍したフランス製16mmシネマ用レンズのP.Angenieux Type M1です。レンズは1953年にピエール・アンジェニューの手で設計され、市販品としてはBell & Howell社の16mmシネマムービー用カメラ B&H Filmo 70シリーズに搭載する交換レンズとして、A社の広角10mm, 望遠75mmと共に供給されました[5,6]。レンズ構成は下図に示す通りで、F0.95の明るさを実現するためスタンダードなガウスタイプの前後に正の凸レンズを一枚ずつ追加し、屈折力を稼ぎながら各面の曲率を緩めバランスさせています。この種のレンズ構成は傑出した明るさと引き換えにペッツバール和の増大が問題となりますので、像面湾曲をある程度許容しても非点収差を十分に補正しきれない問題が残ります。ただし、画角を広げすぎなければ弱点にはなりません。Type M1の画角はは25°が定格で、これは35mmフォーマットに換算すると約100 mmの望遠レンズに相当しますので、画質的に無理のない設計であったと言えるでしょう。

Angeniux Type M1 F0.95 / 1inch の光学系:設計構成は6群8枚(ガウス発展型)。球面収差は強力に補正されるようですが、画角を広げると正レンズ過多によるペッツバール和の増大が問題になり、像面湾曲をある程度許容しても非点収差を十分に補正しきれないそうで[7]、グルグルボケと写真の四隅での解像力の低下を引き起こします

参考文献

[1] 米国ジェット推進研究所資料:Ranget VII Photographs of the Moon Part O: Camera "A" Series, JET PROPULSION LABORATORY, CALIFORNIA INSTITUTE of TECHNOLOGY, Aug. 27 (1964)

[2] AFCINEMA.COM, Remember 50 years ago… A famous lens made by Angénieux... (2022)

[3]NASAアーカイブ: Ranger7, Solar system Exploration, NASA

[4] 「スペースガイド1999」(財)日本宇宙少年団編 丸善株式会社刊

[5] 設計特許:Pierre Angenieux, Large Aperture Six Component Optical Objective, US Pat. 2701982 (1955)

[6] FILM and DIGITAL TIMES:A History of Angenieux, IBC Special Report- Sept 2013, Jon Fauer,ASC

[7] 「レンズ設計の全て」辻定彦著 電波新聞社(第一版)P96頁 2006年

入手の経緯

レンズは2018年にカメラやレンズの修理を専門とする関東カメラを訪問した際、同店から購入しました。たまたま同店のガレージに赤く輝く見たこともないレンズを発見、スタッフの方に尋ねると同社の社長が長らく愛用していた個体とのこと。再塗装とオーバーホールのため一度分解されているものの、MTF曲線を確認しながらベストな性能が出るよう、細心の注意を払いながら組み立てられたとのことです。試写してみるとF0.95であることが信じられない素晴らし性能でした。迷うことなく購入し持ち帰ることにしました。関東カメラはレンズやカメラの修理を専門とする国内屈指の会社です。オークションにおけるレンズの一般的な相場は、コンディションにも依存しますが、概ね7万円から10万円くらいでしょう。

撮影テスト

私の手にした個体はコンディションが完璧なうえ光学系がベストな位置に組み上げられていましたので、レンズ本来の性能か最大限まで引き出されている個体と考えてよさそうです。レンズの定格イメージフォーマットは16mm/Super 16mmのシネマムービー規格ですので、デジタルカメラで使う場合にはNikon 1が最も相性が良い組み合わせです。ただし、イメージサークルには余裕があるため、一回り大きなマイクロフォーサーズセンサーでも写真の四隅に若干の暗角が出る程度で済みます。今回は主にマイクロフォーサーズ機のOlympus E-P3でアスペクト比を16:9に設定して使用することにしました。写真の四隅は本来は写らない部分ですので、適度な収差が出てくれます。立体感に富むピント部と非点収差に由来するグルグルボケを期待することができそうです。何枚か試写結果を見てゆきましょう。
 
F0.95(開放)Pen E-P3(WB:auto, Aspect ratio 16:9)


F0.95(開放)Pen E-P3(WB:auto, Aspect ratio 16:9)
F0.95(開放)Pen E-P3(WB:auto, Aspect ratio 16:9)

F2  Pen E-P3(WB:auto, Aspect ratio 16:9)














私的にはかなり好みなテイストなのですが、いかがでしたでしょうか?前評判からはもう少しフレアの多い描写を想像していたのですが、ピント部は適度に滲む程度で充分な解像感が得られており、まとまりのある品の良い描写です。適度に軟調なうえ四隅の光量落ちもあり、なだらかでダイナミックなトーン描写を楽しむことが出来ます。四隅の像は流石に妖しく、ピンボケしたように見えるのは非点収差の影響と考えられます。アウトフォーカス部のハイライトが滲みを纏い、キラキラと光り輝くドラマチックな演出効果を生み出しています。これも収差の力でしょうね。ピント部は口径比F0.95とは思えない傑出した描写力で、絞りを開けっ放しにしても、充分に実用的な画質が得られます。ボケは流石に大きく、マイクロフォーサーズ機(4:3)で使用した場合には、フルサイズ機にて50mm F1.9相当のレンズを使用した場合と同等の画角と被写界深度になります。
 
F0.95(開放)Pen E-P3(WB:auto, Aspect ratio 16:9) 前ボケの滲みがうつくスィ~

F0.95(開放)Olympus Pen E-P3(WB:auto, Aspect ratio 16:9) 開放0.95でも、この通りにピント部は緻密に描かれ、素晴らしい!
F2.8 Olympus Pen E-P3(WB:auto, Aspect ratio 16:9)
 
 
Nikon 1での撮影結果も参考までに何枚かどうぞ。全て開放で撮っています。こちらです。

2022/07/26

YASHINON-DX 32mm F1.4(YASHICA HALF 14 ) converted to Leica M


F1.4を実現した
ハーフサイズ界のスター

Yashica YASHINON-DX 32mm F1.4 for Yashica Half 14

 ハーフサイズカメラに付いているレンズは定格イメージフォーマットが35mm判(フルサイズセンサー)の面積の約半分ですから、改造してデジタルカメラに搭載して使う場合にはAPS-C機で用いるのが最適です。カメラ屋のジャンクコーナーにこの種のカメラであるYASHICA HALF 14が4台束になって置いてありましたので、全部いただいてきました。シャッターが降りないものや巻き上げノブが回らないもの、ファインダーのガラスが割れているものなど、それぞれが致命的に故障したカメラでしたが、レンズは清掃すれば使えそうでしたので、取り出してライカMマウントに改造することにしました。同じレンズが一度に4本も転がり込んで来ましたので、ブロガーの伊藤浩一さんに1本御裾分けしましたところ、早速使ってくださいました。こちらです。伊藤さん曰く、背後のボケが大暴れするとのことです。お写真を拝見するとピント部はシャープで高コントラスト、いかにもYASHINONらしい高性能なレンズです。APS-C機につけると48mm前後の標準レンズとなり、理論上はフルサイズ機にてF2クラスの標準レンズを用いて撮影する場合と同じ写真が撮れます。今週はいよいよ私も使ってみました。

YASHICA HELF14というカメラは同社が1966年に発売したハーフサイズのレンズ固定式カメラです。特徴は何と言っても搭載されているレンズで、レンズ固定式のハーフサイズカメラとしては唯一無二のハイスピードF1.4を誇るYASHINON-DX 32mm F1.4が付いています。レンズの構成はガウスタイプの後玉を2枚に分割したガウスタイプからの発展型(5群7枚構成)で、F1.4クラスの高級レンズに採用される典型的な設計形態です。

 

フィルター径 52mm, 絞り F1.4-F16, 絞り羽の閉じ方がやや歪で非対称な形状です。残念ながらイメージサークルはフルサイズセンサーをカバーできず、こちらにように四隅にダークコーナーが生じます

 

撮影テスト

コントラストの高いシャープなレンズであることは伊藤さんのお写真からも事前にわかっていましたので、私はこれに歯止めをかけるべく、FujifilmのAPS-C機に搭載してフィルムシミュレーションのクラシッククロームにて撮影することとしました。敢えて軟調なモードを選択することで、いい具合にバランスさせることを狙ったのです。開放では微かなフレアがハイライト部を覆うように発生し絶妙な柔らかさです。ただし、コントラストは高く、バランスするどころか押し負けてしまいました。暗部に向かって階調がストーンと落ち、晴天時はカリカリのトーンのため暗部が簡単に潰れてしまいます。2・3・5・6枚目の写真はトーンカーブを少しいじり暗部をやや持ち上げ、この状況を改善させています。フィルムで撮るくらいがちょうどよかったのかもしれません。解像力は良好で高画素機のSONY A7R2で使用した写真を100%クロップしても、まだ分解能には余裕がある印象でした。背後のボケは像の崩れ方が独特ですが、これは絞り羽の歪な形状に起因するものではなく、光学系に由来するものです(開放でも独特でした)。逆光時にはこちらのように虹のゴーストが出現します。

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F8, Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F5.6 Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F4 Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)





2022/07/23

Auto MIRANDA 5cm F1.9 and 50mm F1.8



マイナーなマウントに平凡なスペックなど、わざわざここにゆく理由がなければ手にする事もないミランダカメラのF1.8 / F1.9クラスのレンズですが、使ってみると案外と特徴がある事に気付かされます。記事化することにしました。

ぺンタレフカメラのパイオニア
ミランダの交換レンズ群 
part 6

ミランダカメラ初の自社製レンズ

AUTO MIRANDA 5cm F1.9

F2前後の標準レンズといえば軒並み開放からシャープで高性能(無個性)なものが多いのですが、この安いレンズは滲みが多く、コントラストも低く、ぼんやりとした柔らかい描写が特徴です。このモデルはミランダカメラが交換レンズの自社生産にのり出して間もない頃の製品でしたので、技術的にまだ発展途上だったのかもしれません。レンズホリックの輩には千載一遇の機会ですので、取り上げない手はありません。

Auto MIRANDA 5cm F1.9:  S/N: 456XXXX, フィルター径 46mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F1.9-F16, 絞り羽 6枚構成, MIRANDAバヨネットマウント, 重量(実測) 193g

 ミランダカメラがレンズの自社供給を始めたのは1963年からで、それまで自社の一眼レフカメラに標準搭載するレンズはZUNOWや興和、藤田光学などから供給してもらっていました。その頃のレンズにはシリアル番号の先頭に"K", "T", "Y"など供給メーカー各社の属性を表す頭文字が記されていましたが、1963年10月に登場した一眼レフカメラのMIRANDA F以降では、こうした頭文字が記されなくなっています[1,2]。これ以降の標準レンズは全て自社で生産し供給することとなったためです。最初の自社製レンズはKOWA製MIRANDA 5cm / F1.9(AUTOMEX II用)の後継モデルとして1963年に供給された標準レンズのAUTO MIRANDA 5cm F1.9でした[1]。レンズは1963年に登場したMIRANDA F用としてカメラとセットで供給が始まり、1966年登場のMIRANDA FV/GTまで供給されました。ちなみにカタログには1968年まで掲載されています。1966年に登場した一眼レフカメラのMIRANDA SENSOREXで新設計のAUTO MIRANDA 50mm F1.8に置き換えられ、カタログから姿を消しています。

レンズ構成はこのクラスの製品では一般的な4群6枚のガウスタイプで(下図)[3]、口径比がF2程度であれば無理なく収差補正ができるところですが、実際に使用してみると滲みが多く、柔らかい描写であることに驚かされます。F2クラスの柔らかい描写のレンズは探しても少ないので、今後ますます人気の出そうなオールドレンズです。オートミランダでドミロンの夢を見られるかな?

AUTO MIRANDA 5cm F1.9構成図:文献[3]からの見取り図(トレーススケッチ)
 
 
レンズの市場価格
比較的多く流通しているレンズですし、今のところ値段も安いので、特徴のあるレンズを探している方におすすめしたいです。レンズの日本国内での中古相場は、コンディションにも左右されますが5000円~7000円程度と気軽に手を出せる価格帯です。私は2020年春に国内のネットオークションにて即決価格5000円+送料で落札購入しました。アダプターの入手が難しいため全く注目されてこなかったレンズだったようで、ネットには作例が全く出ていません。
 
撮影テスト
開放ではフレアが画面全体を覆い、コントラストは低下気味で、滲みを伴うボンヤリとした雰囲気のある描写となります。レンズのコンディションは良好ですし、鏡胴への光学ユニットの据え付けが緩んでいるわけでもないので、もともとこういう描写のようです。ボケは四隅で像が流れることがありますが、回転ボケ(グルグルボケ)までには至らない一歩手前です。背後のボケは硬めで、距離よってはザワザワとします。近接撮影時の方が遠方撮影時より滲みが少なめでした。もちろん絞ればフツーにシャープな描写になります。開放で積極的に使ってゆきたいレンズですね。
  
F1.9(開放) Sony A7R2(WB: 日陰) 開放では滲みを伴うソフトな像です。オールドレンズとしては嬉しい結果ですね

F4 Sony A7R2(WB:日陰)もちろん絞ればスッキリ写ります

F1.9(開放) SONY A7R2(WB:日陰) 再び絞りを開けるとソフトな描写になります

F1.9(開放) Sony A7R2(WB:日光)

F4, Sony A7R2(WB:Auto)

F1.9(開放) SonyA7R2(WB:Auto) ボケは回転ボケの一歩手前で四隅が流れています。近接撮影時の方が遠方撮影時より滲みが少なめです
 
続いて後継モデルのAuto MIRANDA 50mm F1.8を紹介します。こちらの方がF1.9のモデルより幾らかシャープに写る新設計のレンズで、やはりミランダカメラが生産しました。このレンズは一眼レフカメラのMIRANDA SENSOREXとのセットで1966年に市場供給が開始されています。初期ロットの個体はフィルター径が46mmでしたが、直ぐに52mm径に変更となりました。1972年に同社が発売した一眼レフカメラのSENSOREX EEではEE(Electric EYE)に対応したAUTO MIRANDA E 50mm F1.8(タイプEとも呼ばれる)も登場しますが、設計構成は従来型と同一です。レンズは1975年に登場したSENSOREX RE-II用とdx-3用に供給された新設計のAUTO MIRANDA EC 50mm F1.8に置き換えられ生産終了となっています[4]。今回は比較も兼ねてフィルター径46mmの初期ロットと後期ロット(タイプE)を入手しました。
 
Auto MIRANDA 50mm F1.8:  S/N: 191XXXX, フィルター径 46mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, MIRANDAバヨネットマウント, 重量(実測) 205g


Auto MIRANDA E 50mm F1.8:  S/N: 113XXXX, フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, MIRANDAバヨネットマウント, 重量(実測) 228g




















 
ンズ構成は下図に示すような4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです。F1.9のモデルからの明らかな改良点がみられ、特に第2群の接合面の形状とガラスの厚みに大きな差があります。
  
AUTO MIRANDA 50mm F1.8の構成図:文献[5]からの見取り図(トレーススケッチ)
  
レンズの市場価格
これらも比較的多く流通しているレンズで、今のところ安値で取引されています。レンズの中古市場での相場は、コンディションにも左右されますが5000円~7000円程度と気軽に手を出せる価格帯です。
 
参考文献・資料
[1]クラシックカメラ専科64ミランダの系譜, 2002年9月
[3] MIRANDA F instruction manual(English)
[4] MIRANDA SENSOREX RE-II manual; dx-3 manual (English)
[5] MIRANDA SENSOREX instruction manual(English) 
  
撮影テスト
2本の50mm F1.8(Type EとNon-Type E)はカタログに掲載されている構成図を見比べる限り同一設計のレンズですが、写真を撮り比べた結果からも写りに差はありませんでしたので、やはり同一設計のモデルであることを再確認することができました。F1.8のモデルはF1.9のモデルよりもフレアの発生量が少なく、シャープネスやコントラストに改善がみられ、より高性能なレンズとなっています。開放でもピント部はスッキリとした描写です。ミランダカメラの技術力が日々向上していた事の証でしょう。ただし、歪みは樽型で目立つレベルでした。
 
F1.8(開放) Sony A7R2(WB:⛅) 時間帯的に良い写真が取れそうな予感です。ピントは赤い橋。F1.9のモデルよりもシャープネスは明らかに高くフレアも少なめです


F1.8(開放) Sony A7R2(WB:⛅)
F1.8(開放) Sony A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) Sony A7R2(WB:日陰)けっこう樽型歪みがあります

F8, Sony A7R2(WB:日陰)

2022/07/01

Auto MIRANDA /AUTO MIRANDA E 50mm F1.4 and AUTO MIRANDA EC 50mm F1.4 :ペンタレフカメラのパイオニア、ミランダの交換レンズ群 part 4


ぺンタレフカメラのパイオニア

ミランダの交換レンズ群 part 4

ミランダのハイスピード・スタンダード

AUTO Miranda E 50mm F1.4 ( 2nd Generation ) 

AUTO Miranda EC 50mm F1.4 ( 3rd Generation )

1966年にAUTO MIRANDA 50mm F1.4(第1世代・初期型)を豪華な8枚構成で製品化したミランダカメラですが、1972年に同社が発売した一眼レフカメラのSENSOREX IIとSENSOREX EEでは新設計の後継製品(第2世代)を投入します[1,2A-2C]。第2世代での変更箇所は鏡胴がやや太くなりフィルターのネジ径が46mmから52mm変更されている点と、レンズ設計が同クラスの標準レンズとしては一般的な5群7枚構成に変更された点です(下図を参照)。8枚構成から7枚構成への設計変更は製造コストを削減し利益率を引き上げるためと思われがちですが、そうではありません。2つのレンズを使い画質を比べてみると後継製品には明らかに改良が見られます。初期型の設計構成(8枚玉)には長所・短所がそれぞれありますが、それらを差し引いても総合的なアドバンテージはあまり大きくはないと判断されたのでしょう。8枚玉は補正パラメータが多いことや各屈折面の曲率を緩めることができるなど長所もあり中心解像力は良好でしたが、ペッツバール和が大きく、高価な新種ガラスを用いても非点収差を十分に抑える事ができませんでした[4]。初期型では背後に回転ボケが顕著にみられることがありますし、鏡胴が細長い分だけ四隅の光量落ちがそれなりに目立ちました。一方で1枚少ない7枚構成でも合理的な設計を行えば、諸収差を十分に補正することができたのです[5]。8枚玉から7枚玉への変遷はミランダカメラのレンズ設計技術の成熟を意味しているのでしょう。ちなみに同時代のMinoltaやKonicaの同クラスのモデルは7枚構成から6枚構成へと変更されています。これらのレンズを使ってみればわかることですが、6枚構成の後継モデルでは明らかなフレアの増大がみられます。合理性の追求というよりはコストの削減を目的とした設計変更であったのでしょう。もちろん、この種の柔らかい描写がオールドレンズフリークには大歓迎である事は間違いありません。

ミランダのレンズはどんなエンジニアがどんな理念で設計していたのでしょう。日本語や英語の文献を読み漁ってみたものの、この部分に関して踏み込むような記事が全く見当たりません。AUTO MIRANDA EC 50mm F1.4はPETRIカメラで55m F1.4や21mm F4, 55mm F1.8(新型)などのレンズ設計を手掛けミランダカメラに移籍してきた島田邦夫氏による設計であることがわかっています[12]。カメラの情報は少しあるのですがレンズについては情報が僅かです。ミランダカメラは倒産から46年が経ちます。関係者との連絡が途絶えてしまう前に、社内の事情やエンジニアのエピソードがもっと世に出てくることを願っています。また、このブログがそうした役割を果たせるのであれば、いつでも大歓迎です。

 

Auto MIRANDA 50mm F1.4(2nd Gen.)構成図:文献[2B]からのトレーススケッチ(見取り図)です。構成はF1.4クラスの高速レンズの典型である5群7枚(ガウス発展型)









 

レンズの相場

第2世代(タイプE)のeBayでの値段は100ドルから150ドル程度(送料は別)で、第3世代のタイプECはこれよりも若干安い80ドルから100ドル程度でしょう。日本国内でのレンズの流通は海外よりも少な目なのですが、それにも関わらずレンズの値段は日本国内で買う方が確実に安いです。裏技としてカメラとセットで買うとレンズ単体で買うよりも安く入手できることがあります。カメラが不要なら売ってしまえばよいわけです。ただし、レンズ単体て購入する場合よりも博打性が高いことは覚悟しなければなりません。コンディションの悪いレンズが来てしまった場合に自分でガラス等のメンテナンスができる人ならばよいとおもいます。

第2世代の2本はeBayにて米国のレンズセラーから購入しました。両方とも状態の良い個体でした。2本ともレンズ単体で110ドル前後でした。第3世代のMIRANDA ECはブロガーの伊藤浩一さんにお借りしました。いつもありがとうございます。

Auto MIRANDA 50mm F1.4(2nd Generation): フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.43m, 絞り羽 6枚構成, 絞り値 F1.4-F16, 設計構成 5群7枚(ガウスタイプからの発展型), 重量(実測)315g, S/N: 28XXXXX 

Auto MIRANDA E 50mm F1.4(2nd Generation): フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.43m, 絞り羽 6枚構成, 絞り値 F1.4-F16, 設計構成 5群7枚(ガウスタイプからの発展型), 重量(実測)340g  S/N: 139XXXX


Auto MIRANDA EC 50mm F1.4(3rd Generation): フィルター径 49mm,最短撮影距離 0.43m, 絞り羽 6枚構成, 絞り値 F1.4-F16, 設計構成 5群7枚(ガウスタイプからの発展型), 重量(実測)275g, S/N: 256XXXX, フィルター枠の内側に振出式の内蔵フードが隠されています




















参考文献・資料等

[1] MIRANDA研究会

[2A] MIRANDA SENSOMAT manual (英語版) :構成図引用元

[2B] MIRANDA SENSOREX II Instructions (英語版)

[2C] Miranda SENSOREX EE Instructions (英語版)

[3] Miranda dx-3 Instructions (英語版)

[4] 「レンズ設計の全て」辻定彦著 電波新聞社(第一版)P96頁 2006年

[5] ニッコール千夜一夜物語 第七十七夜: Nikkor-S 50mm F1.4

[6] カメラ毎日 別冊「レンズ白書」1969年

[7] カメラ毎日 別冊 カメラ・レンズ白書 1971年 : 寒冷色

[8] 「幻のカメラを追って」白井達男著 現代カメラ新書

[9] クラシックカメラ専科(1982年) 「ミランダカメラのすべてとその歴史」 日比孝著

[10]クラシックカメラ専科 (2004年)「ミランダの系譜」

[11]カメラスタイル13:今語る初期ミランダカメラ開発秘話:小さな町工場が踏み出した大きな一歩:ミランダを創った男たち

[12]ペトリカメラ元社員へのインタビュー(2013年) 2chペトリスレ リバースアダプター氏

 

撮影テスト

第1世代(初期型)に比べ、第2世代と第3世代には画質における改良点がみられ、よりバランスを重視した画質設計になっています。非点収差が無理なく補正できるようになり、背後の回転ボケ(グルグルボケ)はほぼ見られなくなりました。また、光学系が短くなった分だけ写真の四隅にみられた光量落ちや口径食が目立たなくなっています。第1世代のモデルが課題としていた逆光耐性が改善しゴーストが発生しづらくなるとともに、コントラストも良くなり、逆光時でも発色がより鮮やかになっています。中心部の解像力は可もなく不可もなく平凡で、このクラスとしては平均的です。開放で遠方を撮影するとピント部をフレアが覆い、輪郭部に滲みが生じます。近接撮影とポートレート撮影時では開放でもスッキリとした描写で、コントラストやシャープネスはこのクラスのレンズとしては良好です。デジタルカメラで用いる場合には第2世代に比べ第3世代の方が軸上色収差が目立ちます。


AUTO MIRANDA 1.4/50(第2世代) x SONY A7R2

2nd GEN @ F1.4(開放) sony A7R2(WB:⛅) 背後のボケがグルグルと回転しないのは初期型からの改善点です

2nd GEN @ F1.4(開放) SONY A7R2(WB:⛅) 開放でも中心部の解像感は、なかなかのものです
 

AUTO MIRANDA E 1.4/50(第2世代) x SONY A7R2

続いて第2世代のEタイプです。設計はnon-Eタイプと同じなので描写性能に差はありません。モデルさんは白川うみさんです。いつもありがとうございます。

2nd GEN @ F1.4(開放) SONY A7R2(WB:⛅)コントラスとは良好で、開放からスッキリとヌケのよい描写です










2nd GEN @F1.4(開放) SONY A7R2(WB:⛅)初期型に比べて開放での周辺光量落ちが、だいぶ改善されています
2nd GEN @F1.4(開放) SONY A7R2(WB:⛅)

AUTO MIRANDA EC 1.4/50(第3世代) x SONY A7R2

 
F2.8 SONY A7R2(WB: 日陰,  Cropped to 16:9 ratio) 絞るとキリリと高コントラストだが、絞りを開けると下のように



F1.4(開放) SONY A7R2(WB: 日陰) 夏らしいぼんやりした絵を狙い、開放にて前ボケのフレアを生かしました。絵画風な仕上がりを楽しむことができます





F1.4(開放) SONY A7R2 (WB: 日陰)薄いフレアが覆いボンヤリと写りで、雰囲気があります

F8 SONY A7R2(WB:日陰)もちろん絞ればカッチリとフツーによく写ります

F1.4(開放) SONY A7R2(WB:日光)開放の柔らかい雰囲気が好きです







F8 SONY A7R2(WB:日陰)



















F5.6  SONY A7R2(WB:日陰)


























































 
 
第2世代(Type E)と第3世代(Type EC)の描写性能の比較
 
第2世代(TYPE E)と第3世代(TYPE EC)は光学的に異なる設計ですが、様々なシーンでの比較にも関わらず基本性能(シャープネスや解像力)に差は見られませんでした。どちらのレンズも被写体の背後に回転ボケは起こらず、四隅までボケは安定しています。開放ではどちらのレンズもピント部を微かなフレアが覆い少し柔らかい描写となり、四隅には光量落ちがみられますが、いずれもF1.4クラスのレンズとしては平均的な性能です。発色の再現性に癖はありません。強いて言えば第2世代の方が微かに温調、第3世代の方が軸上色収差が目立ちました。また、第3世代の方が前ボケが大きいようなので、球面収差は第2世代よりも、より過剰補整に設定されているように思えます。


ひとつ前の写真の赤枠部を100%でクロップしたもの。ピントは手すりのあたりです。左が第2世代で右が第3世代。第3世代の方が軸上色収差が目立ちます。また、前ボケが大きいので、球面収差はより過剰補正のようです。


ピントの位置はパンダの左目です。この距離では両レンズの描写の違いが全くわかりません。