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2023/06/08

Schneider-Kreuznach cine-Xenon and cine-Xenon RX 25mm F1.4 (c mount)



















お洒落で可愛い双子のシネ・クセノン
Schneider-Kreuznach cine-Xenon and cine-Xenon RX 25mm F1.4 (c mount)

Cine Xenonと言えば日本ではアリフレックス用の16mmシネマムービーレンズが雑誌になどで取り上げられ、先行して知られるようになりました[1]。写真中心部の素晴らしい描写力や、マイクロフォーサーズ機で使用した際に見られる大きく破綻した周辺画質などが話題になり、レンズ構成がライツ・ズミタール(7枚玉)と同一である事もあって、一部のマニア層の人々を虜にしています。今回はこのレンズと同一設計のであるBolex用Cine Xenon(ノーマルタイプ)、およびBolex H-16 Reflex用に供給されたCine Xenon RX(RXタイプ)を取り上げ紹介します[2,3]。RXタイプの方はBolex H-16 Reflex用に供給された特別仕様で、カメラにはプリズムが内蔵されていましたので、このプリズムと協力して画質補正ができるよう設計されています。ただし、プリズムなしのデジタルカメラでも普通に使用することができ、画質への影響は限定的のようです。
cine-Xenon 1.4/25(ノーマルタイプ): 重量(実測) 152g  , 最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm,  絞り値 F1.4-F22, 開放T値 1.5, 絞り羽 5枚構成, 設計構成 4群7枚
cine-Xenon RX 1.4/25(RXタイプ):145g(実測),  最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm,  絞り値 F1.4-F22, 開放T値 1.6, 絞り羽 5枚構成, 設計構成 4群7枚

 
姉妹製品のアリフレックス用Cine Xenonは昨今のインフレによる影響や、ライカマウントに変換できる高い汎用性のため、市場での相場は7~8万円(5年ほど前まではeBayで3.5~4万円程度でした・・・)を超える高値で取引されるに至りましたが、ボレックス用であれば、ケルンやアンジェニュー、コダックなどの高級ブランドがまだ数万円で取引されていることからもわかるように、依然として相場は落ち着いており、穴場的に安く手に入れる事ができます。これはM42マウント系レンズに対して同モデルのEXAKTAマウント系レンズが安値で取引されていた以前の状況によく似ています。今回ご紹介するレンズは2017年にeBayにて、200ドルを少し超える値段で手に入れました。現在もこの状況は大きく変わっていませんので、3~4万円程度で手に入れることができます。

姉妹品のアリフレックス版Cine Xenon
 
デザインに目を向けると、姉妹品のアリフレックス版Cine Xenonにはピントリングに指掛があるなど特殊なデザインが栄えますが、今回ご紹介するボレックス版Cine Xenonも負けてはいません。極小の鏡胴にオシャレなゼブラ柄、被写界深度表示の凝ったギミックなど、ピリリとアクセントの効いたとても素敵なレンズであることが写真からも見て取れると思います。
レンズの設計は下図に示すような4群7枚構成で、ライツのズミタールF2と同一ですが、Cine Xenonでは前玉の正エレメントが分厚く設計され、この部分で屈折力を稼ぐ構造となっており、1段明るいF1.4の口径比を実現しています。下図はノーマルタイプの設計構成ですが、RXタイプも同一構成です。
Cine-Xenon F1.4(ノーマルタイプ)の光学系。ちなみにRXタイプも構成は同じですが、細部が異なると思われます。構成は4群7枚のズミタール型で、前玉が色消しの張り合わせ(たぶん旧色消し)になっています。絞りに接する両側のガラス面の曲率差(曲がり具合の差)でコマ収差を補正しています。上の構成図は文献[3]からのトレーススケッチです

焦点距離25mm(Cマウント)のシネマ用Xenonが登場したのは1920年代と古く、1927年に製造された真鍮鏡胴の個体を確認しています。ちなみに初期のモデルは口径比がF2(2.5cm F2)でしたので、トロニエ設計の4群6枚構成だったものと思われます。1930年代後半になると再設計され口径比がF1.5まで明るくなった真鍮鏡胴のモデル(シルバーカラーとブラックカラーがある)が登場しています。このモデルは戦後の1950年代にも生産が続きますが、1950年代半ばなると鏡胴素材がアルミに変更され軽量化が図られるとともに、Dマウントでも市場供給されるようになります。更に1960年代に入ると口径比がF1.4の新設計のモデルが登場し、ゼブラ柄とアルミ鏡胴の2種で市場供給されています。RXタイプが登場したのもこの頃からです。市場に流通している個体のシリアル番号から判断する限り、これらは遅く見積もっても1960年にはリリースされ、1969年までは確実に生産されていました。
  
参考文献
[1]「オールドレンズ×美少女」 上野由日路著  玄光社MOOK 2015年
[2] Australian Photography Nov. 1967, P28-P32 
[3] SCHNEIDER Movie Lenses for 16mm cinema cameras: シュナイダー公式カタログ
 
マウントアダプター選びにはご注意を
レンズのマウント部近くには絞りリングのクリック感を制御するボタンが付いています。赤いボタンを押し込むとクリックの「ある」状態となり、緑のボタンでは「なし」となります。このボタンがマウントアダプターの土手に干渉し装着できないケースが報告されており、アダプター製品との相性が問題になるようです。いい機会ですので、Cマウントレンズをマイクロフォーサーズ機に搭載するためのアダプター4製品、フジFXマウント機に搭載するためのアダプター2製品に対し、干渉の有無を確認してみました。
アダプターとレンズの相性問題:相性が悪いと左の写真のように、レンズをアダプターに取り付ける際にボタンがアダプターの土手部分に干渉してしまい、根本まで完全にねじ込むことはできません。右は相性の良いアダプターに搭載した場合の事例です。懐の部分が深いアダプターを用いれば干渉はおこりません

検証の為に集めたアダプター。ご協力いただいた皆様に感謝いたします

 
結論から申しますとフジ用のアダプターは懐の部分が広く設計されており、いずれも干渉が起こりませんでした。一方でマイクロフォーサーズ機用のアダプターでは4製品中2製品で干渉が発生しました。ちなみに干渉のない2製品のうち一方には構造上の欠陥があり、カメラへのマウント時にガタの出ることが知られています(上の写真の手前右側の商品)。
マイクロフォーサーズ機用のアダプターの中では下の写真の左側のアダプターが唯一推奨できる製品です。無限のフォーカスもほぼピッタリ(微かにオーバーインフ)でした。
左側の製品がレンズを干渉なく装着できるアダプターです。M42スクリューマウントにも対応しえとり、その分だけ懐が広くなっているのが特徴です。側面が1週にわたり凸凹しているデザインです。これによく似たアダプターが右側の製品ですが、こちらの製品はレンズのボタンに干渉してしまいました

よく似たデザインの製品が1つありますのでアダプターを探す際には注意してください(上の写真の右側)。アダプター側面にある凸凹パターンがそっくりですが、レンズのボタンが窪みの内側部分で干渉してしまいました。製品を見分けるポイントは側面の凸凹です。左の製品は凹凸パターンが1週にわたって刻まれていますが、右側の製品は文字が刻印されている部分だけ、凸凹パターンがありません。
 
撮影テスト
技術力の高いシュナイダーのレンズですから、やはりどう転んでも、よく写る製品であることに違いはありません。今回ご紹介するシネ・クセノンも中央はシャープでコントラストは良好、開放からプロフェッショナルユーザの期待に応えられるだけの充分な描写性能を実現しています。細部に目を向けるとCine Xenonのノーマルタイプには引き画では感知できなかった薄い滲みが出ており、水面下で繰り広げられている収差設計の駆け引きの一端が見え隠れしています。F1.4を実現することは簡単なことではなかったはずですが、球面収差を過剰補正の設定にすることで、解像力の向上が図られているものと思われます。RXタイプの方はというと、ノーマルタイプとは少し異なる描写設計である事がわかります。以下で写真作例を交えながら両タイプの違いを見てゆきましょう。
もともとは16mmフォーマットが定格のレンズです。マイクロフォーサーズ機では本来写真に写らない部分まで写ってしまいますので、画質的に四隅が破綻気味になるのは考えてみればごく当たり前のことです。ダークコーナー(いわゆるケラレ)も出ています。カメラの設定を変え、アスペクト比をシネマ用ワイドスクリーンと同じ16:9にすれば、ケラレはより小さく目立たなくなりますし、真四角が嫌いでなければ1:1にするとケラレは全くで出なくなります。やはり映画用なので私は16:9の設定で使うことにしました。この設定、案外とハマりますので、試した事の無い方にはオススメですよ!。
 
Cine Xenon 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) 前ボケにフレアが乗り綺麗ですが、やや過剰補正の設定なのでしょう

F2.8 Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9)少し絞れば大変シャープで、とても高性能なレンズであることがわかります

F2.8 Panasonic GH-1 (WB:曇空 ; Aspect Ratio 16:9) ケラレはこんなもんです。許容できるかどうかは人によります

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) でも、雰囲気はよく出ます

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) 少しグルグルボケが出るのは、アリフレックス版モデルでも見られていた特徴です

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) コントラストは充分で癖のない自然な発色です
 
Cine Xenon RX 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日光, Aspect Ratio 16:9)
F5.6 Panasonic GH-1(WB:日光)
F2.8 Panasonic GH-1(WB:日光, Aspect Ratio 16:9)
F4 Panasonic GH-1(WB:日光, Aspect Ratio 16:9)
F5.6  Panasonic GH-1(WB:日陰, Aspect Ratio 16:9) 絞るとケラレがだいぶ目立つようです

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰, Aspect Ratio 16:9)




 
ノーマルタイプとRXタイプの画質比較
最後に2つのモデルの画質を比較してみましょう。カメラはPanasonicのGH-1で写真のアスペクト比を16:9に設定して撮影しています。
Cine Xenonのノーマルモデル(上段)とRXモデル(下段):絞りは開放

2つのモデルの開放での撮影結果を比較すると、ノーマルモデル(上段)の方がピント部にフレアが出ており、より柔かい描写傾向であることがわかります。RXモデル(下段)は開放でもフレアの無いスッキリとした描写で、コントラストはより高く、その分だけ発色はコッテリと濃厚に出ています。背後のボケに目を向けると、RXモデルの方が見た目のボケ量は大きく癖のない整ったボケで、対するノーマルモデルはやや硬めのボケ味で若干ぐるぐるボケが出ています。ノーマルタイプは完全補正か若干の過剰補正のレンズによく見られる描写傾向であるのに対し、RXタイプは補正不足気味のレンズによく見られる描写傾向であることがわかります。少し絞ればノーマルタイプの方が解像力・コントラスト共にRXタイプを凌駕すると思われます。ケラれ具合に大きな差はありませんが、強いて言えばRXタイプの方がコントラストが強いせいか、四隅での暗角が暗く沈み込むように見え、ケラレが目立ちます。この2種のレンズの描写傾向の差はケルンのSWITAR AR/RXシリーズでも、ほぼ同等でした。本ブログで過去に扱っていますので合わせてご覧ください。
以下の画像でもノーマルタイプとRXタイプの比較を行っていますが傾向はやはり同じです。深く絞った際の画質に大きな差はありませんでしたので、開放の画質のみ提示します。


上の写真の中央を拡大したのが下の写真で、左がノーマルタイプ、右がRXタイプです。やはりノーマルタイプの方が滲みがあり、若干柔かく発色も淡い印象で、RXタイプの方がコントラストは高く開放でもスッキリしています。背後のボケはRXタイプのほうが大きく、前ボケはノーマルタイプの方が大きくボケるように見えます。両レンズの味付けの差は購入者に選択の余地を与えてくれる想定外の発見でした。皆さんはどちらのタイプを選択しますか?私は滲みがもう少し強く、絞った際の解像力に明確な差があれば、文句無しでノーマルタイプを選びますが、強いて言えば今回はRXタイプタイプかな・・・。

中央部の拡大写真。左がノーマルタイプで右がRXタイプの結果

2021/10/18

Som Berthiot Paris CINOR 25mm F1.4 RX (C-mount)



SOM BERTHIOT社のフランス製レンズ、いいですよね~。味がありますよね~。2本目行ってみましょう。
 
ベルチオ社のシネマムービーレンズ
SOM BERTHIOT CINOR 25mm F1.4 RX
 
フランスのSOM BERTHIOT (サン・ベルチオ)社は1950~1960年代にバイヤール社(スイス)のBOLEX(ボレックス)という映画用カメラに搭載するための8mm/16mmシネマ用レンズを多数供給しました[1]。中でも同社の設計士Roger Cuvillierが1950年に開発したPan Cinorは現代のフィルム撮影用ズームレンズの第一号で、その利便性からBolexとともに世界各国に輸出されました。1958年に米国のAcademy of Motion Picture Arts and Sciencesから栄誉ある技術功労賞を受賞しています[2,3]。Pan Cinorのヒットにより、SOM BERTHIOT社はシネマ用レンズ供給メーカーのトップランナーに仲間入りすることとなるのです。
今回紹介するのは1950年代に同社がムービーカメラ用として供給したCINOR(シノール) 25mm F1.4 RXです。タイプRXのシネレンズはバイヤール社が1956年に発売したBOLEX 16H Reflexに搭載する交換レンズとしてメーカー各社から供給されました。このカメラには、内蔵された分光プリズムにより、取り込んだ光の25%をファインダーに導く特殊な機構が備わっていました[4]。ただし、プリズムを入れることは光学補正に影響を与えますので、RX系レンズにはこの影響を打ち消すような特別な配慮が施されていました。レンズをプリズムのないデジカメに搭載して用いると本来の描写ではなくなってしまいますが、今となってはこれもレンズの個性を際立たせる一要因にすぎないでしょう。
本レンズのイメージサークルは25mmのシネレンズの中では比較的狭く、マイクロフォーサーズでは四隅が大きくケラれます。これは後玉周りのレンズガードが狭い事が原因ですので、ここをハンディルーターで削り広げてやれば、ダークコーナーは目立たないレベルになります。ハンディルーターでの削りはこんな感じになりました。
 
SOM BERTHIOT社のレンズカタログ[5]からトレーススケッチしたレンズ構成の見取り図

参考文献・資料等
[1] Bolex Collector: 1950s SOM Berthiot
[2] Bolex Product News From Paillard," No. 5, (New York: Paillard Incorporated, June 25, 1974).
[4] BOLEX COLLECTOR: Lenses for Bolex 16mm Cameras
[5] Les Objectifs, Som Berthiotの戦後の公式カタログ(発行年の表記無し)

入手の経緯
レンズはeBayにて300ドル~350ドル程度の値段で取引されています。私の個体はヘリコイドが硬く固着していたので、少し安い250ドル+送料で入手することができました。自分でヘリコイドを分解し酸化したヘリコイドグリースを脱脂、新しいグリスに入れ替えて軽快に使えるようになりました。ガラスはたいへん綺麗で、純正フードと純正メタルキャップが付属していました。

SOM BERTHIOT Paris CINOR 25mm F1.4 RX: 絞り羽 6枚, 絞り F1.4-F22, 最短撮影距離 0.5m, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, 重量(実測)126g, Cマウント, 16mmシネマフォーマット






撮影テスト
サン・ベルチオの製品には柔らかい描写のレンズが多くありますが、このレンズもコマ収差に由来するフレアが多めに発生し、アウトフォーカス部やピント部四隅はボンヤリと写ります。ただし、ピント部は解像力があり緻密な描写ですので、ソフトフォーカスレンズ寄りの常用レンズやポートレート用レンズとしてアーティスティックな作品作りに生かせると思います。レンズはH16 RX仕様ですので、デジタルカメラで使用する場合には、球面収差が補正不足の設定になります。このため、背後のボケはトロトロ気味の柔らかい拡散で大きくボケます。グルグルボケや放射ボケは出ません。歪みは樽形でマイクロフォーサーズ機ではやや大きめに出ます。

Panasonic Lunix GX1
 
F1.4(開放) Panasonic GX1(AWB)

F1.4(開放) Panasonic GX1(AWB)

F1.4(開放) Panasonic GX1(AWB)

 
Olympus PEN E-PM1
model: 彩夏子さん
 
F1.4(開放) Olynpus PEN E-PM1(AWB)

F1.4(開放) Olynpus PEN E-PM1(AWB)








































F1.4(開放) Olynpus PEN E-PM1(AWB)

F1.4(開放) Olynpus PEN E-PM1(AWB)

F1.4(開放) Olynpus PEN E-PM1(AWB)

2020/04/13

ELGEET CINE NAVITAR(GOLDEN NAVITAR) Wide Angle 12mm F1.2




非球面を採用した史上初の市販レンズ
Elgeet Cine Navitar Wide Angle 12mm F1.2
米国Elgeet社(現Navitar)のCine Navitar(シネ・ナビター)は通称Golden navitar(ゴールデン・ナビター)とも呼ばれる16mmフォーマットの明るい中口径・広角シネレンズです[1]。1956年に登場したこのレンズは同社の他のモデルにはないゴールドの装飾帯が施されゴージャスな箱に納めらるなど、別格扱いされました。このモデルの何が別格なのかというと、実は市販された製品としては世界て初めて設計構成に非球面を採用した先駆的なレンズなのです[2]。設計構成は下図のような9枚構成の豪華なレトロフォーカス型で、最後群の赤で着色したレンズエレメントに非球面が採用されています。非球面の加工には膜研磨技術(Membrane polishing)という工法が用いられたそうですが、コストのかかる方法でした[3]。市販価格はたいへん高かったものと思われます。
非球面は大口径レンズにおける球面収差の補正と超広角レンズやズームレンズにおける歪曲収差の補正に大きな効果があり[4]、絞りを開放に近づけるほど大きなアドバンテージか得られます。ただし、深く絞る際は球面のみで構成された光学系の方が性能的にやや有利なようです。
イメージサークルは16mmフォーマットのシネレンズにしては広く、Nikon 1で使用できることは勿論のこと、マイクロフォーサーズ機でも撮影モードを3:4に変えればギリギリでケラレを回避できます。Nikon 1では35mm判換算で焦点距離35mm相当、マイクロフォーサーズ機(3:4モード)では焦点距離28mm相当の立派な広角レンズです。どんな写真が撮れるのか、ますます楽しみになってきました。

  
Cine Naviter 12mm F1.2の構成図。文献[2]に掲載されていたものからのトレーススケッチです。左が被写体側で右がカメラの側で、最後群の赤で着色したレンズエレメントに非球面が採用されています
  
Elgeet光学
Elgeet(エルジート)1946年に3人の若者(Mortimer A. London, David L. Goldstein, Peter Terbuska)が意気投合し、ニューヨークのロチェスターに設立した光学機器メーカーです。LondonKodak出身のエンジニアでレンズの検査が専門で、GoldsteinTerbuskaはシャッターの製造メーカーで知られるIlex社出身でした。3人は少年時代からの友人で、Elgeetという社名自体も3人の名の頭文字(L+G+T)を組み合わせたものです。彼らは1946年にアトランティック通りのロフトに店舗を開き、はじめレンズ研磨装置のリース業者としてスタート、すぐ後にレンズの製造と販売も手がけるようになりました。会社は1952年に300人弱の従業員を抱え、数千のシネマ用レンズ(8mm16mmムービーカメラ用)や光学機器を年単位で出荷する規模にまで成長します。この時点で3人の役職はGlodsteinが社長、Terbuskaが秘書、Londonが財務部長でした。プロフェッショナル向けの廉価製品を供給するというスタイルが成功したのか事業規模は順調に拡大し、1954年には米国海軍(US Navy)にミサイル追尾用レンズNavitarの供給を行うようにもなっています。更に同社は1960年頃からNASAや国防総省との関係を強めてゆきますが、この頃から会社の経営は立ち行かなくなります。同時期に筆頭創設者のLondonが退職し、その2年後に同社は一時ドイツ・ミュンヘンのSteinheil社の所有権を獲得するものの直ぐに売却。2年後の1964年には株主総会が会社の再編を勧告し、Goldsteinは社長の座を追われています。株主総会から新社長に任命されたのはAlfred Watsonという人物ですが、それから2年後に会社の資本は株式会社MATI(Management and Technology Inc)に吸収されています。なお、MATI社は1969年まで存続し消滅、Goldsteinはこの時にMATI社が保有していた資産の一部を購入し、D.O.Inc. ( 株式会社Dynamic Optics )を創設しています。しかし、この新事業は軌道に乗らず失敗し、新会社は1972年に閉鎖となっています。Goldstein1972年に改めてD.O.Industries Dynamic Optics工業社 )を設立し、事業を再々スタートしています。同社は1978年にNavitarのブランド名でスライドプロジェクター用レンズを発売し、1994年に顕微鏡用ズーム・ビデオレンズの生産にも乗り出しています。会社は1993年に株式会社NAVITARへと改称。1994年にはGoldstein2人の息子JulianJeremyが父Davidから会社を購入し、兄弟で会社の共同経営にのりだしています。2人はどちらも日本在住の経験があり日本語を話すことができます。Jeremy1984年と1985年に日本のKOWA(興和光学)に出向し、レンズの製造技術と経営学を学んだ経験があります。Navitar社はライフサイエンス関連の光学機器と軍需光学製品を製造・販売するメーカーとして今日も存続しています。

参考文献・資料
[1] NAVITAR社ホームページ:About navitar
[2] A History of the Photographic Lens(写真レンズの歴史) Kingslake (キングスレーク) 著
[3] Wikipedia: Aspheric lens
[4] カメラマンのための写真レンズの科学 /吉田正太郎
 
ELGGET CINE NAVITAR Wide Angle 12mm F1.2: 最短撮影距離 1feet(約30cm), 絞り F1.2--F16, フィルター径 38.5mm, 構成 7群9枚レトロフォーカス型, Cマウント, 発売年 1956年
 
入手の経緯
レンズは201910月にeBayを介し米国の個人出品者から100ドル+送料で落札しました。オークションの記載は「ガラスは綺麗でヘリコイド、絞りリングの回転はスムースだ。写真で判断してくれ」とのことで、安い!と思って飛びつきました。届いた個体はガラスのコンディションこそ良好でしたが、絞りに修理できない不良があり絞り羽根を除去、ヘリコイドがカッチンコッチンに重かったのでグリースを交換、ここまでしてどうにか使用できる状態となりました。米国では200ドル~300ドル程度で売られていますが、日本では認知度が少ないこともあり、決まった相場はありません。
 
撮影テスト
このレンズは広角レンズとして設計されています。Nikon 1(Super 16フォーマット)では35mm判換算で35mm相当の焦点距離となりスナップ撮影に最適な画角となります。またマイクロフォーサーズ機の撮影フォーマット3:4で用いる場合には焦点距離28mm相当となり、遠近感を誇張させるダイナミックな写真にも対応できます。F1.2という非常に明るい口径比を考えると大変優秀なレンズで、非球面を採用した効果が出ています。中央はとても緻密で解像力があり線の細い繊細な描写で、歪み(樽状の歪曲)も16mmシネマ用レンズとしてはたいへん良く補正されています。この時代のレトロフォーカス型レンズはコマフレアの補正に重大な課題を残しており、本レンズも開放ではハイライト部が滲んで軟調気味になります。ただし、コントラストを大きく損ねる程の影響はなく、オールドレンズとして捉えるならば、この程度の軟調さはかえって良い味となります。逆光には強く、レトロフォーカス型レンズでは定番のゴーストも、このレンズの場合には全く見られません。ボケは概ね安定しており、グルグルボケが大きく目立つことはありません。


Olympus PEN E-PL7(WB:auto)
 Aspect ratio 3:4(35mm換算で約28mm相当の焦点距離)
 
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto)
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto)
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 驚いたことにマイクロフォーサーズ機の3:4モードでケラレなく使えました。35mm換算の焦点距離は28mmと立派な広角レンズです







F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto)拡大すると薄いフレアが見られるものの解像力は良好で線の細い描写です

F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) コントラストは良好です

F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 

F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto)近接撮影時の方がコントラストは良好でシャープです
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 

F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 逆光につよくゴーストはあまり出ません
 
   
Nikon 1 J2(WB:日光日陰)
 Aspect ratio 3:4(35mm換算で約28mm相当の焦点距離)
 
続いてNikon 1 J2での撮影結果です。このカメラには16mm映画用レンズのイメージフォーマット(Super 16)とほぼ同じ大きさの1インチセンサーが採用されており、この種のレンズには唯一無二の存在です。ただし、アダプターを介して社外レンズを使用する場合には本来備わっている露出計や拡大ピント合わせ機能が無効になるなど意地悪な仕様のため、オールドレンズユーザ達から総スカンを食らっているカメラです。実用性を確保するには海外で流通しているエミュレーションチップ搭載のアダプターを手に入れて用いるのが有効です。
  
F1.2(開放)  Nikon 1 J2(WB: 日光日陰)近接時には少しグルグルボケが出ます

F1.2(左右とも開放)  Nikon 1 J2(左右ともWB: 日陰)近接時はやはりフレア少な目ですね
F1.2(開放)  Nikon 1 J2(WB: 日陰)ここまで近いのに依然としてボケは硬めですね。まったくケラれません