おしらせ


2009/08/17

Makina Optical Co. AUTO MAKINON 28mm / F2.8(M42)
マキナ光学 マキノン M42 mount

五反田の戸越本社のビル屋上巨大ネオンの写真1枚(1984年撮影)
パートタイムの主婦達が製造した
高性能な逆輸入レンズ

MAKINONは1967年に創業し、東京・品川区五反田に本社のあったマキナ光学が1974-1975年頃に発売したレンズのブランドである。主に海外で販売されていたため国内ではあまり知られていないが、24mmから1000mmまで14ものラインナップが存在する。安くて高性能なレンズという位置づけで販売されていたようだ。創業当時のマキナ光学はOEM生産を中心とし、研究・開発/製造/品質管理/販売・輸出の5つの部署を持っていた。このうち販売・輸出部門を専業化するため、1974年にマキナ・トレーディング・カンパニーを設立し、自社ブランドの輸出販売に力を入れるようになる。1983年時点では社員総数が400人前後、日本各地に9箇所の支社を持つ程に成長し、北米や欧州を中心に世界55ケ国で貿易を行っていた。北米の販売には特に力を入れており、独自の販売網とサービス体制を確立していた。MAKINONに関する貴重な資料本であるStephen Bayley著のMAKINON LENS PHOTOGRAPHYにはレンズ工場の生産ラインの様子が写真に収録されている。写真を見ると、働いている労働者はパートタイムの主婦ばかりである。MAKINONのレンズ群の高いコストパフォーマンスは、低賃金で働いていた主婦達のおかげなのだ。互換マウントはM42, OLYMPUS, CONTAX/YASICA, CANON, MINOLTA, NIKON, PENTAX, KONICA, FUJICA X, ROLLEIとたいへん多い。今回テストするAUTO MAKINON 28mm/F2.8はガラス面にマルチコーティング処理が施されフレアやゴーストが出にくい仕様になっている。逆光時でもコントラストの低下が少なくクリアな撮影結果が得られる。マルチコーティングがカメラのレンズ対して本格的に採用され始めたのは1970年前後である。そのおかげで光の透過性能が向上し、レンズの描写性能が格段に向上したわけだ。MAKINONも当時の先端技術を採用して作られたレンズ・・・なかなか性能が良さそうだ。

MAKINONラインナップ
  • 単焦点レンズ:24mm/F2.8; 28mm/F2.8; 50mm/F1.7; 135mm/F2.8; 300mm/F5.6; 500mm/F8; 1000mm/F11
  • ズームレンズ:24-50mm/F3.5; 28-80mm/F3.5; 28-105mm/F3.5; 35-70mm/F3.5; 35-105mm/F3.5; 80-200mm/F4.5; 75-150mm/F4.5

フィルター径:55mm 焦点距離/開放絞り値:28mm/F2.8 最短撮影距離:30cm 重量(実測)232g, マウント部から絞り連動ピンが突き出ているが、鏡胴側面には絞りオート/マニュアルスイッチがついているので、ピン押しタイプのマウントアダプターに頼る必要は無い。本品はM42マウント
相場と流通量
輸出販売が中心であったためか、国内の中古市場ではあまり手に入らないレアなブランドだ。eBayなど海外のオークションのほうが流通量は多い。MAKINON 28mm/F2.8は即決価格でも40~80ドル程度と安く売られている。WEB上には1975年の発売当時、フランスでの販売価格が360フランス・フラン(当時の1FF を50円として18000円)だったとの回想記録が見つかる。本品は、かなり前に相場よりも少し高く売られていたものを落札した。未使用品であることを証明する検品シールがはられていた。いくらだったか思い出せない・・・・。

試写テスト
描写に定評のあるマキノンだけのことはあり、癖の無い素直な撮影結果が得られる。コントラストは高く、発色は鮮やかでボケも綺麗。チープだが予想以上に期待に応えてくれるというのが、このレンズに対する大方の評価ではないだろうか。ただし、この時代の他社のレンズと比較し、特に秀でた光学性能や描写特性を持っているわけではない。被写体への最短撮影距離は30cmと若干寄れる程度。重量は少し重め。製品としての作りは良いが、デザインは極めて地味。まるでジャージついているような、あの意味不明な3本線は好みが分かれる。他社にはほぼ同じスペックで、もっと寄れるレンズがあるし、もっと軽いレンズもある。一流ブランドメーカーには渋い発色、鮮やかな発色など個性が人気を呼んでいる高性能なレンズがあることを考えると、マキノンの描写にももう少し個性や味が欲しい。基本性能は高いものの良く言えば極めて素直。悪く言えば平凡という印象だ。
F11 EOS kis digital, AWB: ケヤキ並木の道。久々のマルチコーティングレンズに興奮し高コントラストな写真を狙ってみた。どうやらマキノンは定評どうりの高性能なレンズだ
F5.6 EOS kiss x3 AWB: 発色は鮮やか。シャープネスも高い。なかなか優秀なレンズだ
F4 Eos kiss x3, AWB: 日枝神社の狛犬。ボケは安定している
F2.8 EOS kiss x3 digital, AWB: ジョウジョウバエのデート飛行
F8 EOS kiss x3 digital, AWB: 木更津の鬼瓦

撮影環境 AUTO MAKINON + EOS Kiss x3 + Petri Hood

左:Makinon純正キャンプ 右:PETRI metal hoodを装着したところ

マキノンというレンズにはシリアル番号がついていない。そのことからもブランド志向があまり高くなかったようだ。マキナ光学は高性能なマキノンレンズ群を中古市場に残したまま、その後、淘汰の波に飲み込まれ静かに消滅した。

2009/08/07

E.Ludwig Meritar 50mm/F2.9(M42) ルードビッヒ・メリター

 
癖玉メリターはダメ玉なのか・・・

 エルンスト・ルードビッヒ社はドイツのドレスデン近郊にあった小規模の光学機器メーカーである。戦前から眼鏡用レンズやカメラ用レンズを製造しており、1972年に他社に吸収されるまでの間、エントリーレベルの安いレンズの製造を手がけていた。今回テストするメリターはルードビッヒ社が戦前に製造していた主力レンズのVictorをプリセット絞りに発展させたもので、1950年代~1960年代にExa用の標準レンズとして製造されていた。メリターはシンプルな3枚玉のいわゆるトリプレットと呼ばれる設計構造を持つテッサー型のレンズであり、エグザクタマウントとM42マウントの2種が存在する。シンプルゆえの携帯性と画質面での優位性、製造面での低コストを兼ね備えた優れた設計といえる。ドイツレンズらしい青いコーティングと一風代った鏡胴のデザインもメリターの特徴だ。最短撮影距離が80cmと寄れないのは残念。海外のWEBサイトでの評判は劣悪で、描写についてはダメ玉のカテゴリーに入っているようにも感じる。
最短撮影距離 80cm フィルター経:35.5mm 重量:126g M42マウント。本品はプリセット絞りである。マウント部に絞り連動ピンはついていないため、ピン押しタイプのマウントアダプターを用いる必要性はない

入手の経緯
 以前からトリプレット構造のレンズに惹かれていた私。メリターがかなりの癖玉だとは知らずに勢いで購入してしまった。私が入手したのはM42マウント仕様のレンズであり、2007年3月にeBayにて出品されていた。誰も入札しなかったため私の手に¥6000で寂しく落札された。銀座と新宿の中古店にもM42マウントの同じものが置いてあり1万2千円前後の値段で売られていた。
 
試写テスト
 購入後さっそく撮影してみたが、やはり凄い癖玉だというのが第一印象であった。あまりの凄さに数ショット撮影した後、そのまま部屋のどこかにしまい込んでしまったのだ。しばらく時が経ち本ブログを開設して一人で盛り上がっているSPIRAL。そんな中、メリターが蝉の幼虫のようにヒョッコリと顔をだしたので真っ直ぐに向き合うことにした。 メリターの描写性能についてまとめると、


●コントラスト幅がたいへん狭く、暗部は明るく浮き気味、明部は簡単に白トビを起こす。

●階調表現に粘りが無い。輝度の空間変化が失われ平坦になる傾向にある。例えば植物を撮影すると造花のような作り物みたいな画になってしまう。


●カラー彩度が大幅に低く異様な発色となる。まるでモノクロ写真の世界に引きずり込まれてしまいそうな、そんな結果が得られる。ちなみのこのレンズはモノクロ写真が幅をきかせていた時代に作られたレンズである。カラー写真に適したチューニングは施されていない。使い方次第では結構面白い写真が撮れるかもしれない。

●開放絞りでは中央部から解像度不足になる。ブレているのかと思うくらい結像が甘い。2段絞っても中央に解像感が得られる程度であり、シャープネスは期待ほど高まらない。これにはちょっと泣かされる。

●ボケは汚い。二線ボケも出まくる。開放では周辺部で像が流れグルグルボケがでる。収差がちゃんと補正されていないようだ。

 描写に関してはまともに評価できる箇所がまるでない。開き直って、癖を生かした写真を狙うしかない。発色だけに関しては、このレンズでしか撮れない異様な写真が得らそうだ。
なんかだか変な発色。彩度がとっても低い。まるでモノクロ写真をカラー化したような画像だ。 f4

ハイライトに粘りが全くなく、植物の実の部分が白とびしている。コントラストが高い画像でもないのにいったい何なのか?暗部も締まりがなく、明るく浮いている。同じ構図をPancolarやHeligonのテスト撮影の時にも撮影したので比較して欲しい。時期が1ヵ月ほど後のため花が散り実になってしまったが・・・ f5.6

開放絞りでの撮影結果。シャープさに乏しくボケも汚い。暗部に締まりがない。紫の発色も現物より淡い f2.9

上の写真のレベル曲線。勿論無修正のままだ。明部も暗部もちゃんと出ていない。明暗幅(コントラスト)がたいへん狭い

遠方の植木の緑を見て欲しい。階調変化が不自然で、まるで造りものみたいな気持ち悪い画になっている。何かが出てきそうな恐ろしげな発色だ f5.6

暗部にしまりはないものの、時にはこういう具合にましな描写を示すこともある f5.6

昼下がりの東戸塚西武 f8: メリターは発色に爆弾を抱えている。彩度が急降下し異様な画像になることが度々ある。この爆弾がいつ、どのような条件下で炸裂するのか、もうすこしテストを繰り返し真相を探ってみたい。 
撮影機材: E.Ludwig Meritar 50mm/F2.9 + Eos Kiss x3

 癖玉とは必ずしも高性能ではないが描写に個性を持ち、使い方次第で撮影者の表現意図がより一層強調できるレンズとされている。メリターが持つ薄気味悪い発色は間違いなくこのレンズの持つ個性である。これをどうやって生かすかが、癖玉なのかダメ玉なのかの分岐点になる。メリターを通して見た画像は、確実にリアルであるが何となく作り物のように見えてしまう。それを見る者に密かに気付かせ、それが偽物ではあるまいかと心のどこかで疑わせるよう企てられた魔物の住む写真。このレンズを用いると、そんなものが撮れそうだ。メリターは魔物を映し込むレンズになれるかもしれない。

2009/07/28

Steinheil München Cassarit 50mm/F2.8


こんなに小さいカッサリート
無骨なデザインが魅力
シュタインハイル社の極小レンズ

 じつは私の頭には物欲センサーが生えている。時にこれが私を支配し、家族には内緒で夜な夜な新しいクラシックレンズを調達してしまう。困ったセンサーだ。まぁそんなことはどうでもよいのだが、 私がクラシックレンズを選ぶ際の決め手は(1)デザインがレトロでオシャレであること。(2)描写に個性や味があること。(3)できれば希少性が高いこと・・・である。ちゃんと写るならベンチマーク的な描写性能は二の次なのだ。そんなわけで、今回はシュタインハイル社のカッサリートである。レンズ名の由来は創業者のC.A.Steinheilの頭文字(C+A+S)を由来としている。
 シュタイハイル社は1855年に物理学者シュタインハイルが設立した西ドイツ・ミュンヘンの光学機器メーカーである。日本ではあまり馴染が薄いメーカーだが、ドイツではイスコ、シャハト、ローデンストックとともに中堅名門メーカーの一角を担っている。今回とりあげるカッサリートは開放F値が2.8とスペック的には地味であるが、コンパクトな鏡胴と迫力のある大きなゼブラ柄のデザインが魅力の50mm標準レンズである。レンズの構成は収差(サイデルの5収差)を十分に補正するために必要な最低限の3群3枚で、トリプレットとよばれる設計である。トリプレットはシンプルな構造による画質面での優位性と製造面での低コストを両立させた的を得た設計といえる。本品はM42マウントであるが、他にマクロカッサリットという名のExaktaマウントが存在する。
 私にとっての極小レンズはルードビッヒ・メリター50/2.9とエンナ・リサゴン35mm/2.5に次ぐ3本目である。口径の小さなレンズは癖玉が多いというイメージが頭に焼き付いて離れないが、はたしてカッサリートはどうなんだろう。
小さなEOS Kiss x3がまるで大きなカメラのように見えてしまう。重量:127g(実測) 最短撮影距離:80cm 焦点距離/解放絞り値:50mm/F2.8 レンジファインダーカメラによくある40.5mmのフィルター径を持つ。本品はM42マウント仕様

入手の経緯
このレンズはeBayなど海外のオークションにはめったに出品されない。しかし、何故かヤフオクには度々出品されている。本品は2009年6月にヤフオクで5000円の値をつけていた。過去に13500円で落札されていたので、この値段は魅力的であった。他に入札者が1名いたが、いつものように入札締め切り15秒前に8000円を投じ、5750円で競り落とした。
 
ピン押しタイプのマウントアダプターには要注意
 カッサリートには鏡胴の側面に「自動絞り(ピン連動)/手動絞り」の切り替えスイッチがついている。この機能がくせもので、使い方次第では故障の原因となる。今のマウントアダプターには改良が施され、ピン押しタイプのものが多く出回っている。これを用いて、常時ピンを押しこんだ状態のまま先の切り替えスイッチを使用すると、レンズの内部で切替スイッチの状態を絞り羽に伝えるレバーが、絞り羽の上に設けられたストッパーから外れてしまう。その結果、絞り込みができなくなってしまう(いわゆる故障)。こうなった場合には、以下の4つのステップを踏んで機能を回復させてやる必要がある。
  1. 鏡胴についているレリーズチューブの取り付け部を外し、中の制御棒を引き抜いておく。取り付け部はねじ込み式になっているので、マイナスドライバーで簡単に外れる。
  2. マウント部近くのゼブラリングについている3本のねじ止めをマイクロドライバーを使って外す。
  3. 撤去したゼブララリング内の鏡筒の側面に空いた穴にマイクロドライバーを突っ込み、絞り羽上のストッパーを引っ掛けて動かし、絞りが閉じた状態にする。
  4. スイッチの動力を伝えるレバーをマイナスドライバーで立ち上げ、先ほどのストッパーにはめる。あとは逆の手続きで状態を元に戻して修復終わり。
トラブルを避けるためにも、ピン押しタイプのマウントアダプターは使用しないほうが無難だ。
試写テスト
カッサリートの描写性能についてまとめると、
  • ボケは自然で綺麗。グルグルボケや2線ボケは出ない。
  • 晴天下に屋外で使うとコントラストがかなり低下する。
  • 晴天下では紫と緑がだいぶ淡くなる。
  • 鮮やかでもなく渋くもなく平凡。
発色に関して言えば本品は間違いなく癖玉だ。しかし、それはフィルム写真の時代の話。幸いボケは綺麗なので、デジタル一眼レフ本体の補色・補正機能が本領を発揮する。本品はそこそこ使えるレンズに変身するだろう。
★撮影環境: Steinheil Cassarit 50mm/F2.8( M42 mount) + EOS Kiss x3
昼間・晴天下での撮影結果
カメラ側の補正なしで使用した。撮影後の画像補正も行っていない。コントラストが低く暗部に締まりがない。葉の色は本来はもっと濃い緑色であるが淡くなってしまった。これ以降の写真も補正なしのまま f8

本来は濃い紫色なのだがだいぶ淡くなってしった。現物とは全く異なる色だ f5.6
中遠景の撮影結果。屋根のハイライト部が完全に白飛びしてしまった。フレアが出ている。レンズの性能的に、このような高コントラストの構図をカバーしきるにはかなり無理がある。 f8

ボケ味は自然で綺麗だ。グルグルボケは出ていない。カメラ本体で補色を行い紫が出るように補正した。まだ若干淡いもののデジタル一眼の補正機能の強力さを確認できた f5.6
 
夕方から夜にかけて、又は室内での撮影結果
フレアが出にくい条件下ではコントラストの向上が期待できる

夜のカッサリートはコントラストが向上しボケも上々

無駄な光が減るため、夜の緑は濃くしっかりと出る。昼間の描写とはまるで別物だ f4


霧の夜。雰囲気が良く出せた  f5.6
ボケ味のテスト。二線ボケは出ていない。きれいだ! f2.8
トンカツ屋の店主。ハイライト部の階調表現も良好  f4

日没直後の空 f2.8
★撮影環境(オマケ): Steinheil Cassarit 50mm/F2.8( M42 mount) + PENTAX MZ-3 + リバーサル-ISO100

周辺画像の乱れをチェックするため銀塩カメラで何枚か撮影した。
絞っていれば、周辺画像は良好だ。静岡県伊東市・松月院 f8


絞り開放では右側周辺にリングボケが発生した。やはり乱れているなぁ 伊東市・松月院 f2.8
        静岡県伊東市・いな葉と東海館 f8 

私にとって、極小レンズは癖玉の代名詞だった。ルードビッヒ・メリター50mm/2.9はコントラストが低すぎてフォトレタッチでも救いようの無いレベル。エンナ・リサゴンは赤や紫が淡くなり、カメラ本体の補正機能とフォトレタッチでリカバーできるもののボケが癖気味。カッサリートはどうかというと、発色についてはカメラの補正で何とかなるレベルであった。なによりもボケが綺麗なので、もしかしたら使えるレンズなのかもしれない。カメラのセッティングを極め、今後もう少し詳しくテストしてみたい。

2009/07/20

Carl Zeiss Jena Flektogon 25mm/F4 & 20mm/F4 M42-mount
カールツァイス・イエナ フレクトゴン

こちらに改訂版があります
(2017年1月改定)




Flektogon 25mm/F4 (M42-Mount): 最短撮影距離:0.18m フィルター径: 77mm 重量:358g, 設計者はWolf Dannberg

Flektogon 20mm/F4(M42-mount): 短撮影距離: 0.16m フィルター径: 77mm 重量: 320g  

撮る楽しさを盛り上げてくれる

圧倒的な存在感が魅力

 フレクトゴンは旧東ドイツの名門カール・ツァイス・イエナ社によって製造された広角レンズのブランド名である。20㍉/F4, 25㍉/F4, 35㍉/F2.8の3種のラインナップが存在し、フレクトゴン広角3兄弟の愛称で親しまれている。今回テストする25㍉と20㍉のフレクトゴンはそれぞれ1959年と1961年に登場した。大きな前玉と太く短い鏡胴、お洒落なゼブラ柄のリングが外観の特徴である。両者は大きさやデザインがよく似ているため、一見して区別がつかないが、20㍉版のほうがピントリングの縦幅がやや長く前玉の鏡胴がやや短い。25㍉版は1967年に製造を終了している。一方、20㍉版は35㍉版とともに、ガラス面にマルチコーティングを施した黒い鏡胴としてモデルチェンジし、1976年から1981年まで製造が継続される。フルサイズセンサーを搭載したEOS5Dでも後玉がミラーに干渉することなく使用できるようだ。

フレクトゴン広角三兄弟。左から20㍉/F4, 35㍉/F2.8, 25㍉/F4。M42マウントの他にエグザクタマウントが存在する。中央の35㍉版は過去に本ブログでも取り上げた、レンズ名はラテン語の「曲がる、傾く」を意味するFlectoにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせたのが由来。


写真左:フレクトゴンの舌 右:25mm/F4の後玉

フレクトゴンはマクロレンズなみの近接撮影能力を持つのが特徴で、草花や虫をアップで撮影すると肉眼では見ることのできない凄い世界が撮れる。またパンフォーカス撮影にも向いており、近接から遠景に渡る構図において極めて深い被写界深度が得られる。鏡胴の迫力と存在感が撮影者のモチベーションを高揚させるオールドレンズ界の王者である。

入手の経緯
フレクトゴン20㍉/F4は現在もたくさん流通しており、中古店やオークションでの入手は容易だ。今回テストするレンズは2008年夏にeBayにてウクライナの中古カメラ業者から落札購入した。それまで270㌦程度の上限額を用意し何度か落札しようと試みたが、ことごとく失敗した。しかし、この時だけはどういうわけか入札数が少なく、価格が高騰しなかったのだ。新品同様(MINT状態)との触れ込みの品をたった202㌦+送料で手に入れることができた。届いた商品は文句のつけようがない極上品であり、美品の場合の国内相場は4万円程度なので本当にラッキーな買い物であった。デザインに迫力があるため重くてデカそうな印象を抱いていたが、実際に手にしてみるとそれほどでもなく、「あ~こんなもんか」という実感であった。重量320g強というのは、現代の20mm単焦点レンズが250-300gであることを考えると突出して重いというわけではないし、サイズも写真などで見ていたよりはだいぶ小さく感じた。発送元がポーランドになっていたが、たぶん業者が現地で商品を買い付け発送しているのだろう。
一方、フレクトゴン25mm/F4は2009年2月にドイツ版eBayにてスナイプ入札で落札した。ドイツ国内向けの商品であったため、入札者数は少なかった。入札の締切1分前に130ユーロの値を付けていたところに、「えいっ!」と250ユーロを投入したところ160ユーロ(約2万円)であっさり落札できてしまった。25㍉版はもともと製造数が少ない珍品のため20㍉版や35㍉版よりも高額で取引されている。eBayでの相場は350㌦以上、国内相場だと4万5千円はする高価なレンズである。じっくり腰をすえ何度もトライした甲斐があったと思われた。ところが届いた商品は後玉のコーティングにポツポツとした焼けつきがあった。古い品なので仕方ないがオークションの記述にはなかった。一瞬、返品も考えたが実写には影響が無い程度のため我慢することにした。

試写テスト
フレクトゴンの前評判をまとめると・・・

●優れた近接撮影能力を持ち、最短撮影距離は20㍉版で15cm, 25mm版で20cmとマクロレンズ並みである。花や虫を撮るのが楽しそうだ。
●被写界深度がたいへん深く、パンフォーカス撮影に向いている。
●画像中央だけでなく周辺部まできっちりシャープに写り、独特のヌケの良さと透明感のある発色が得られる。
●周辺画像の歪みや光量の低下がたいへん少ない。
●モノコート仕様のため逆光に弱く、コントラストが低下する。


かなり優秀なレンズのようである。

flektogon 20mm/F4:  最小絞りf22による撮影結果。手前の花と遠景の両方が被写界深度内に収まっている。本レンズならではの構図だ
フレクトゴン25(左)と20(右)を同じ撮影条件で比較した。両者は発色やコントラストなど画作りが大変よく似ている。光の多い状況下だが暗部は浮き上がることなく安定しておりコントラストは悪くない。近接から遠方まで大変シャープな結像が得られている。周辺部の歪みも少ない。絞り値はf16。サンプルは無修正・無加工

左は25mm、右は20mm。奥の電灯や紫色の発砲スチロールの色具合など、両レンズの発色はたいへん良く似ている。f8


flektogon 25mm:梅干の赤をきちんと再現できた。f8

flektogon 20mm: やはり25mm版と発色が似ている f8
flektogon 25mm/F4: 紫は若干淡いが、水色、ピンク、緑色はほぼ見た目どおりの発色である。ボケも綺麗。周辺光量の低下も無い。さすがツアィスだ。 f5.6

             flektogon 20mm: f5.6でボケを強調した

               flektogon 20mm: F16で今度はパンフォーカス気味にした
flektogon 20mm: F8

広角レンズは設計上あまりボケてくれないので、ある意味において表現力の乏しいレンズと評されることがある。しかし、フレクトゴンの多才ぶりを知ると、そんなことはどうでもよくなってしまう。フレクトゴンは広い景色を守備範囲とし、小さな虫に大接近し、パンフォーカス撮影をこなす。さまざまな撮影シーンで高い能力を発揮する楽しいレンズなのだ!  

撮影環境: Calr Zeiss Flektogon 25mm & 20mm + EOS Kiss x3 + HAKUBA wide metal Hood


フレクトゴンを持ってスナップ撮影をしていたら、あるとき道行く人に訪ねられた。


What's this? Is this a camera?

No, this is the FLEKTOGON.