おしらせ


2024/02/08

【2024年】オールドレンズ入門者です。カメラは持っていません。どんな機材を揃えればよいのでしょうか?



オールドレンズはじっくり時間をかけ、自分に合った製品を探してゆくものです。先ずは「カメラ」と「アダプター」を買い揃えてください。

買い揃えるカメラはフルサイズ・ミラーレス機が入門者には最適です。SONY A7(初代ILCE-7)の中古品をおすすめします。フルサイズ・ミラーレス機であればレンズ選択の幅が広く、自分のニーズや嗜好に合ったレンズを探すのが容易です。初級者から上級者まで幅広い層が使用しており、悩んだり困ったときには誰かに相談することができます。SONY A7ならば現在は中古店で60000円程度(ネットオークションでは35000円程度)から入手できます。他のフルサイズ・ミラーレス機と比べ圧倒的に安いのが特徴です。まずはこのくらいの製品でオールドレンズライフをスタートさせ、本格的に取り組む段階で、必要に応じて最新機を買いなおすのがよいでしょう。もちろん予算に余裕があれば、最初から最新機を手に入れるのもよいと思います。

APS-C機やマイクロフォーサーズ機に手を出すのは、今はやめた方がよいです。実際のところ、この種のカメラは中・上級者向けです。レンズの選択幅が狭く、レンズとカメラの相性に関する専門的な知識も必要になります。最大の悩みは広角レンズを探すのがたいへん困難なことです。カメラとの相性を考えると、ベストな選択はシネレンズやハーフサイズカメラ用レンズに限定されます。値段が安くカメラ自体がコンパクトであることは初級者には大きな魅力ですが、相性の良いレンズが見つからなければ、結局は大きなフルサイズ機用のレンズを付けることになります。こうなるとカメラとのバランスが悪い上に、レンズ本来の性能を引き出すことはこれらの機種ではできません。ちなみにSONY A7(初代)は10年も前の製品ですが、まぁまぁコンパクトな上に本体重量は416gしかありません。

次にアダプターですが、入門者が買い揃えておきたいのは3種類、ライカMマウントレンズのアダプターと、ライカL(L39)-ライカM変換リング、M42マウントレンズのアダプターです。これらのマウント規格は、かつてユニバーサルマウントと呼ばれ、世界中の光学メーカーがレンズを供給していました。数多くのオールドレンズが中古市場に流通しています。

最後に少し将来の話になりますが、ライカMマウントレンズのアダプターを買い揃えておけば、そこを起点にアダプターを継ぎ足す事で、さまざまなレンズが使えるようになります。こちらの記事が参考になりますので、今ではなく、いつか読んでみてください。今お伝えしたいのは、ライカMアダプターをお勧めするのには合理的な理由があるという事です。ただし、安物を入手するとレンズを継ぎ足す際にガタが出ることがありますので、ライカMアダプターだけは多少値が張っても精度のよいもの、定評のあるものを手に入れることをお勧めします。

thanks to Loose Drawing

Kern-Paillard Switzerland YVAR 16mm F2.8 AR c-mount

 
タンポポチップで復活する
焦点距離25mm未満のCマウントレンズ
Kern Paillard YVAR 16mm F2.8 AR (c-mount)
 
焦点距離25mm未満のCマウントレンズ(16mmシネマフォーマット)はマイクロフォーサーズ機で用いると完全にケラれてしまうため、デジカメ全盛時代の今でも人気がありません。ケラレを避けるにはセンサーサイズが16mmシネマフォーマットに近いNikon 1シリーズで使ばよいのですが、なにしろNikon 1というデジカメはオールドレンズ界ではとても悪名が高く、レンズをアダプター経由で用いると露出計は作動しないし、シャッターすら切れない。徹底して社外レンズを排除する意地悪な仕組みになっているのです。しかし、これをどうにか克服する手があり、通称タンポポチップと呼ばれる電子チップをアダプターに接着して用いるのです(写真・下)。このチップはカメラにレンズの情報を伝達する電子回路と電気接点を持った小さな部品です。これを取り付けておくと、カメラはCPUレンズが装着されたと認識し、絞り優先自動露出とフォーカスエイドが有効になります。タンポポチップはeBayなどのネットオークションでキット商品として販売されています。私はeBayでGfotoという業者からロシア製のチップを購入しました。キットにはチップを正しい位置に装着するための固定器具が付属しており、初めての私でも難なく取り付けることができました。最近では初めからチップのついたNikon 1用アダプターも流通しているようです。ただし、値段は高めなうえCマウントアダプターは無限が出なかったり、逆に大幅にオーバーインフだつたりと規格がバラバラです。アダプターくらいは納得のゆく製品を自分で選んだほうがよいと思います。
 
  
今回取り上げるYVAR(イバール)というレンズはスイスのKern-Pillard(ケルン・パイヤール)社が1956年から市場供給したBolex H-16 Reflexという16mm映画用カメラの交換レンズです[2,4]設計構成は下図のような肉厚トリプレットで、各レンズエレメントを分厚くすることで屈折力を稼ぐと同時に各空気境界面の曲率を緩め、収差の発生量を小さく抑えています。廉価版モデルとは言え、手抜きが無いのがKERN流なのでしょう。
 
YVAR設計構成のトレーススケッチ。構成図は文献[1]に掲載されています。左が前方で右がカメラの側です
 
入手の経緯
今回のレンズはネットオークションでBausch & Lombのシネレンズを落札購入した際に、セットでついてきてしまった個体です。自分から欲しくて手に入れたレンズではありませんが、何かの縁ですので記事化しました。KERNと言えば泣く子も黙る超高級ブランドですが、今回のレンズのように使えるカメラが限られている場合は安値で入手できます。レンズは中古市場で5000円~10000円程度で売買されています。
 
Kern-Pillard YVAR 16mm F2.8 AR: 最短撮影距離 約30cm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測) 50.7g, フィルター径 31.5mm, Cマウント
  
参考文献
[1] BOLEX TECHNICAL INFORMATION BULLETIN No.34 6/61, LENSES for 16mm MOTION PICTURE and TELEVISION CAMERAS
[2] BOLEX COLLECTOR: Kern-Paillad lenses
[3] Bolex Product News From Paillard," No. 5, (New York: Paillard Incorporated, June 25, 1974).
[4]Alden, Andrew Vivian (1998). Bolex Bible: Everything You Ever Wanted to Know But Were Afraid to Ask : an Essential Guide to Buying and Using Bolex H16 Cameras. A2 Time Based Graphics.
 
撮影テスト
開放から滲みはなく、四隅まですっきりとシャープに結像しています。コントラストも良好で色乗りは濃厚、歪みはほぼ気にならないなど高性能です。晴天下でも黒潰れはなくなだらかなトーンを維持しており、雰囲気の良い写真が撮れます。ボケは距離に依らずに概ね安定しており、像の流れは少しありますが目立たないレベルです。背後にグルグルボケは出ません。開放F2.8なのでボケ量が足りない点は仕方ありませんが、さすが高級レンズメーカーと言うだけのことはあり、廉価モデルでも欠点らしい欠点はほぼ見当たりません。Nikon 1との相性は、とても良好です。タンボボチップに感謝しています。
 
F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB: 日陰日光)
F4Nikon 1 J2(WB: 日陰日光)


F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)