おしらせ


2022/07/26

YASHINON-DX 32mm F1.4(YASHICA HALF 14 ) converted to Leica M


F1.4を実現した
ハーフサイズ界のスター

Yashica YASHINON-DX 32mm F1.4 for Yashica Half 14

 ハーフサイズカメラに付いているレンズは定格イメージフォーマットが35mm判(フルサイズセンサー)の面積の約半分ですから、改造してデジタルカメラに搭載して使う場合にはAPS-C機で用いるのが最適です。カメラ屋のジャンクコーナーにこの種のカメラであるYASHICA HALF 14が4台束になって置いてありましたので、全部いただいてきました。シャッターが降りないものや巻き上げノブが回らないもの、ファインダーのガラスが割れているものなど、それぞれが致命的に故障したカメラでしたが、レンズは清掃すれば使えそうでしたので、取り出してライカMマウントに改造することにしました。同じレンズが一度に4本も転がり込んで来ましたので、ブロガーの伊藤浩一さんに1本御裾分けしましたところ、早速使ってくださいました。こちらです。伊藤さん曰く、背後のボケが大暴れするとのことです。お写真を拝見するとピント部はシャープで高コントラスト、いかにもYASHINONらしい高性能なレンズです。APS-C機につけると48mm前後の標準レンズとなり、理論上はフルサイズ機にてF2クラスの標準レンズを用いて撮影する場合と同じ写真が撮れます。今週はいよいよ私も使ってみました。

YASHICA HELF14というカメラは同社が1966年に発売したハーフサイズのレンズ固定式カメラです。特徴は何と言っても搭載されているレンズで、レンズ固定式のハーフサイズカメラとしては唯一無二のハイスピードF1.4を誇るYASHINON-DX 32mm F1.4が付いています。レンズの構成はガウスタイプの後玉を2枚に分割したガウスタイプからの発展型(5群7枚構成)で、F1.4クラスの高級レンズに採用される典型的な設計形態です。

 

フィルター径 52mm, 絞り F1.4-F16, 絞り羽の閉じ方がやや歪で非対称な形状です。残念ながらイメージサークルはフルサイズセンサーをカバーできず、こちらにように四隅にダークコーナーが生じます

 

撮影テスト

コントラストの高いシャープなレンズであることは伊藤さんのお写真からも事前にわかっていましたので、私はこれに歯止めをかけるべく、FujifilmのAPS-C機に搭載してフィルムシミュレーションのクラシッククロームにて撮影することとしました。敢えて軟調なモードを選択することで、いい具合にバランスさせることを狙ったのです。開放では微かなフレアがハイライト部を覆うように発生し絶妙な柔らかさです。ただし、コントラストは高く、バランスするどころか押し負けてしまいました。暗部に向かって階調がストーンと落ち、晴天時はカリカリのトーンのため暗部が簡単に潰れてしまいます。2・3・5・6枚目の写真はトーンカーブを少しいじり暗部をやや持ち上げ、この状況を改善させています。フィルムで撮るくらいがちょうどよかったのかもしれません。解像力は良好で高画素機のSONY A7R2で使用した写真を100%クロップしても、まだ分解能には余裕がある印象でした。背後のボケは像の崩れ方が独特ですが、これは絞り羽の歪な形状に起因するものではなく、光学系に由来するものです(開放でも独特でした)。逆光時にはこちらのように虹のゴーストが出現します。

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F8, Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F5.6 Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F4 Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)





2022/07/23

Auto MIRANDA 5cm F1.9 and 50mm F1.8



マイナーなマウントに平凡なスペックなど、わざわざここにゆく理由がなければ手にする事もないミランダカメラのF1.8 / F1.9クラスのレンズですが、使ってみると案外と特徴がある事に気付かされます。記事化することにしました。

ぺンタレフカメラのパイオニア
ミランダの交換レンズ群 
part 6

ミランダカメラ初の自社製レンズ

AUTO MIRANDA 5cm F1.9

F2前後の標準レンズといえば軒並み開放からシャープで高性能(無個性)なものが多いのですが、この安いレンズは滲みが多く、コントラストも低く、ぼんやりとした柔らかい描写が特徴です。このモデルはミランダカメラが交換レンズの自社生産にのり出して間もない頃の製品でしたので、技術的にまだ発展途上だったのかもしれません。レンズホリックの輩には千載一遇の機会ですので、取り上げない手はありません。

Auto MIRANDA 5cm F1.9:  S/N: 456XXXX, フィルター径 46mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F1.9-F16, 絞り羽 6枚構成, MIRANDAバヨネットマウント, 重量(実測) 193g

 ミランダカメラがレンズの自社供給を始めたのは1963年からで、それまで自社の一眼レフカメラに標準搭載するレンズはZUNOWや興和、藤田光学などから供給してもらっていました。その頃のレンズにはシリアル番号の先頭に"K", "T", "Y"など供給メーカー各社の属性を表す頭文字が記されていましたが、1963年10月に登場した一眼レフカメラのMIRANDA F以降では、こうした頭文字が記されなくなっています[1,2]。これ以降の標準レンズは全て自社で生産し供給することとなったためです。最初の自社製レンズはKOWA製MIRANDA 5cm / F1.9(AUTOMEX II用)の後継モデルとして1963年に供給された標準レンズのAUTO MIRANDA 5cm F1.9でした[1]。レンズは1963年に登場したMIRANDA F用としてカメラとセットで供給が始まり、1966年登場のMIRANDA FV/GTまで供給されました。ちなみにカタログには1968年まで掲載されています。1966年に登場した一眼レフカメラのMIRANDA SENSOREXで新設計のAUTO MIRANDA 50mm F1.8に置き換えられ、カタログから姿を消しています。

レンズ構成はこのクラスの製品では一般的な4群6枚のガウスタイプで(下図)[3]、口径比がF2程度であれば無理なく収差補正ができるところですが、実際に使用してみると滲みが多く、柔らかい描写であることに驚かされます。F2クラスの柔らかい描写のレンズは探しても少ないので、今後ますます人気の出そうなオールドレンズです。オートミランダでドミロンの夢を見られるかな?

AUTO MIRANDA 5cm F1.9構成図:文献[3]からの見取り図(トレーススケッチ)
 
 
レンズの市場価格
比較的多く流通しているレンズですし、今のところ値段も安いので、特徴のあるレンズを探している方におすすめしたいです。レンズの日本国内での中古相場は、コンディションにも左右されますが5000円~7000円程度と気軽に手を出せる価格帯です。私は2020年春に国内のネットオークションにて即決価格5000円+送料で落札購入しました。アダプターの入手が難しいため全く注目されてこなかったレンズだったようで、ネットには作例が全く出ていません。
 
撮影テスト
開放ではフレアが画面全体を覆い、コントラストは低下気味で、滲みを伴うボンヤリとした雰囲気のある描写となります。レンズのコンディションは良好ですし、鏡胴への光学ユニットの据え付けが緩んでいるわけでもないので、もともとこういう描写のようです。ボケは四隅で像が流れることがありますが、回転ボケ(グルグルボケ)までには至らない一歩手前です。背後のボケは硬めで、距離よってはザワザワとします。近接撮影時の方が遠方撮影時より滲みが少なめでした。もちろん絞ればフツーにシャープな描写になります。開放で積極的に使ってゆきたいレンズですね。
  
F1.9(開放) Sony A7R2(WB: 日陰) 開放では滲みを伴うソフトな像です。オールドレンズとしては嬉しい結果ですね

F4 Sony A7R2(WB:日陰)もちろん絞ればスッキリ写ります

F1.9(開放) SONY A7R2(WB:日陰) 再び絞りを開けるとソフトな描写になります

F1.9(開放) Sony A7R2(WB:日光)

F4, Sony A7R2(WB:Auto)

F1.9(開放) SonyA7R2(WB:Auto) ボケは回転ボケの一歩手前で四隅が流れています。近接撮影時の方が遠方撮影時より滲みが少なめです
 
続いて後継モデルのAuto MIRANDA 50mm F1.8を紹介します。こちらの方がF1.9のモデルより幾らかシャープに写る新設計のレンズで、やはりミランダカメラが生産しました。このレンズは一眼レフカメラのMIRANDA SENSOREXとのセットで1966年に市場供給が開始されています。初期ロットの個体はフィルター径が46mmでしたが、直ぐに52mm径に変更となりました。1972年に同社が発売した一眼レフカメラのSENSOREX EEではEE(Electric EYE)に対応したAUTO MIRANDA E 50mm F1.8(タイプEとも呼ばれる)も登場しますが、設計構成は従来型と同一です。レンズは1975年に登場したSENSOREX RE-II用とdx-3用に供給された新設計のAUTO MIRANDA EC 50mm F1.8に置き換えられ生産終了となっています[4]。今回は比較も兼ねてフィルター径46mmの初期ロットと後期ロット(タイプE)を入手しました。
 
Auto MIRANDA 50mm F1.8:  S/N: 191XXXX, フィルター径 46mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, MIRANDAバヨネットマウント, 重量(実測) 205g


Auto MIRANDA E 50mm F1.8:  S/N: 113XXXX, フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, MIRANDAバヨネットマウント, 重量(実測) 228g




















 
ンズ構成は下図に示すような4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです。F1.9のモデルからの明らかな改良点がみられ、特に第2群の接合面の形状とガラスの厚みに大きな差があります。
  
AUTO MIRANDA 50mm F1.8の構成図:文献[5]からの見取り図(トレーススケッチ)
  
レンズの市場価格
これらも比較的多く流通しているレンズで、今のところ安値で取引されています。レンズの中古市場での相場は、コンディションにも左右されますが5000円~7000円程度と気軽に手を出せる価格帯です。
 
参考文献・資料
[1]クラシックカメラ専科64ミランダの系譜, 2002年9月
[3] MIRANDA F instruction manual(English)
[4] MIRANDA SENSOREX RE-II manual; dx-3 manual (English)
[5] MIRANDA SENSOREX instruction manual(English) 
  
撮影テスト
2本の50mm F1.8(Type EとNon-Type E)はカタログに掲載されている構成図を見比べる限り同一設計のレンズですが、写真を撮り比べた結果からも写りに差はありませんでしたので、やはり同一設計のモデルであることを再確認することができました。F1.8のモデルはF1.9のモデルよりもフレアの発生量が少なく、シャープネスやコントラストに改善がみられ、より高性能なレンズとなっています。開放でもピント部はスッキリとした描写です。ミランダカメラの技術力が日々向上していた事の証でしょう。ただし、歪みは樽型で目立つレベルでした。
 
F1.8(開放) Sony A7R2(WB:⛅) 時間帯的に良い写真が取れそうな予感です。ピントは赤い橋。F1.9のモデルよりもシャープネスは明らかに高くフレアも少なめです


F1.8(開放) Sony A7R2(WB:⛅)
F1.8(開放) Sony A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) Sony A7R2(WB:日陰)けっこう樽型歪みがあります

F8, Sony A7R2(WB:日陰)