おしらせ


2019/08/01

Hugo Meyer Görlitz PRIMOPLAN 2.5cm F1.5(C mount)





写真レンズの本来の使命は、被写体の真の姿を忠実に写し撮ることです。記録写真や報道写真の分野ではこの考え方が最も重視され、出来る限り無収差に近いレンズが追及されてきました。しかし、このようなレンズがあらゆる分野に歓迎されるわけではありません。例えば写真を表現の一手段と捉える創作活動の分野では、表現者の意図を汲み取ることのできるレンズが選ばれます。女性を被写体とするポートレート写真やある種の風景写真では、シャープな描写が時には欠点にもなります。カメラ女子の人口が急伸している現在、忠実な描写よりも美しい描写、レトロでお洒落な写真を望む声が以前にもまして大きくなっています。 

女子力向上レンズ part 4
プリモプランの原型と言える
エルノスター型プリモプラン
Hugo Meyer PRIMOPLAN 2.5cm F1.5(C mount)

ふんわり、ぼんやり、でもシッカリと緻密に写るオールドレンズ女子の嗜好にストライクなレンズ、そのひとつが戦前にドイツのMeyer-Optik(マイヤー・オプテーク)が16mm用ムービーカメラ用として供給したPrimoplan(プリモプラン) 25mm F1.5です。カメラ女子から圧倒的な支持を得ているオリンパスのマイクロフォーサーズ機との相性も良く、明るい標準レンズとして大活躍すること間違いなしでしょう。

プリモプランと言えばスチル撮影用につくられた口径比F1.9のモデルが有名で復刻版まででていますが、今回紹介するのは1935年に登場した16mmムービーカメラのBOLEX 16H Leaderに搭載する交換レンズとして供給されたシネマ用のモデルで、口径比は明るいF1.5です。ピント部はよく滲み、前ボケは崩壊気味なので、写真家というよりはアーティストが使いそうな類の魔力系レンズです。

設計構成は良く知られているスチル撮影用のモデルとは異なり、その原型ともいえる4群4枚のエルノスターI型です(下図)。スチル撮影用に供給されたプリモプランがエルノスタータイプやその始祖であるトリプレットタイプ(TORIOPLAN)から派生したレンズであることを示す決定的な証拠といえます。レンズを設計したのは第二次世界大戦前にMeyer-Optik社の主任レンズ設計士としてプリモプランシリーズの設計を統括したポール・シェーファーという人物です。
F1.5のプリモプランには希少性の高い焦点距離5cmのモデルもあり、こちらは極めて数が少ないため、コレクターズアイテムとなっています。米国ではB&H EXTOLという製品名でも販売されました。
Primoplan 25mm F1.5と同型のエルノスターI型(エルネマン社)の設計。構成は4群4枚で、トリプレットの前方に正の凸レンズを据えることで大口径化を実現している
レンズには純正フードとBOLEXの保証書(シリアル番号入り)がついていました
 
入手の経緯
レンズはeBayにてドイツのおじいちゃんコレクターから購入しました。この方は本レンズ以外にもカメラやアクセサリーのコレクションを大量に売り出していました。自己紹介欄に写真があり80~90歳あたりの高齢者のようで、使わなくなったので身の回りの物を整理しているとのことです。終活中なのでしょうか。
レンズにはシリアル番号入りの保証書が付いていました。メイヤーの台帳を見るとレンズの製造年は1937年前後ですが、保証書の刻印は1941年になっています。当時は大戦中なので人の手に渡るまでに時間を要したみたいです。スナイプ入札を試みたところ2万円台(送料込でも3万円)であっさりと落札することができました。eBayでの取引相場は350ドル~400ドル(4万円前後)あたりで、日本国内でもほぼ同じ相場(4~5万円あたり)で取引されています。届いたレンズはとても状態が良く、長い間ずーっと大切にのしてきたのでしょう。
重量(実測)149.7g,  絞り羽 12枚, 絞り値F1.5-F16, 最短撮影距離 0.45m, S/N: 829040(1937年製), 構成 4群4枚(エルノスター I型), Cマウント(Bolex 16H用), ノンコート






撮影テスト
とても軟調なレンズで発色は淡く、オールドレンズっぽい落ち着いた雰囲気になります。開放ではピント部全体に僅かにフレアが入り、しっとり感の漂う柔らかい描写傾向です。またハイライト部に適度な滲みが入り、ファンタジックな画作りができます。中心部は開放からシャープで、絞るほど良像域が四隅に向かって広がります。2段も絞ればスッキリとしたヌケの良い描写になります。グルグルボケは背後ではなく前ボケに発生します。これは活かし方次第で面白い写真が撮れるとおもいます。背後のボケは四隅まで乱れることなく距離によらずに安定しています。定格イメージサークルを超えるマイクロフォーサーズセンサーで写真を撮るとコマ収差が顕著に目立ち、周辺部で玉ボケが三角形の形状に変形します。典型的な球面収差の過剰補正型レンズですが、滲みが入るため背後のボケがうるさい感じにはなりません。最短撮影距離は0.45mなので、不満な場合はCマントレンズ用の接写リングをポケットに用意しておくとよいと思います。また、四隅のケラレを避けたい場合は下の写真のようにフードを外してしまうか、カメラの設定でアスペクト比を16:9に変えるとよいでしょう。
マイクロフォーサーズ機で使用する場合には、四隅が僅かにけられますので、避けたい場合には上の写真のようにフードを外します。これで、ケラレは全く生じません。逆に光量落ちを残したい場合は、フードをつけたままカメラの設定メニューでアスペクト比を16:9に変えるとよいとおもいます。
 
Lens: Primoplan 1.5/25 (フード付き
Camera: Olympus PEN E-PL6 
(Micro 4/3 sensor, Aspect ratio 16:9)
F1.5(開放)フード付き,  Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) 前ボケは独特でグルグルボケが面白い感じに出ます。軟調な描写のためか発色はやや淡い感じで、お洒落に仕上がります
F1.5(開放)フード付き,  Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) 薄いフレアに覆われ、しっとりとした柔らかい描写です
F1.5(開放)フード付き,  Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) フレアに覆われ、背後のボケがはじけています
F1.5(開放) フード付き, Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) 

F1.5(開放)フード付き,  Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) アスペクト比16:9なら引き画でもケラレは出ません。深く絞ればケラれますが









F1.5(開放)フード付き,  Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) 

 


Lens: Primoplan 1.5/25 (フード外し
Camera: Olympus PEN E-PL6
(Micro 4/3 sensor, Aspect ratio 4:3)
モデル 菅 彩夏子さん
F1.5(開放)  フード外し,  Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 4:3) アスペクト比は4:3に戻しました。フードを外すと四隅のケラレは全くでなくなります
F1.5(開放)  フード外し,  Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 4:3) 開放での後ボケはかなり独特です








Camera: Fujifilm X-T20 
(APS-C sensor / Aspect ratio 1:1)
Lens: Primoplan 1.5/25 (フード付き
F1.5(開放)フード付き,   Fujifilm X-T20(AWB:Aspect ratio 1:1)

F1.5(開放)フード付き,   Fujifilm X-T20(AWB:Aspect ratio 1:1)







  
続いてうらりん(@kaori_urarin)さんにご提供していただいた写真作品をご覧いただきます。このレンズ独特のボケ味が活かされていますうらりんさんのインスタグラムにも是非お立ち寄りください。こちらです。


Photographer: うらりん
Camera: Olympus PEN-F
フード装着


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Masako Hondaさんからはフードを外しケラレを除外した写真をご提供いただきました。屋内(すみだ博物館)での写真ですので、プリモプランらしさはあまり出せなかったとのこと。オリンパスPEN E-PL8(アスペクト比4:3)でケラレは出ていません。
 
Photographer: Masako Honda
Camera: Olympus PEN E-PL8
フード外し
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2019/07/16

企画展DDR windが終了

2019年7月5-7日に東京・原宿のデザインフェスタギャラーで開催されたオールドレンズフェスVOL.3は今年も大いに盛り上がり3日間の会期を無事に終えました。今回のVOL.3では、これまでにない初めての試みとして企画展「DDR WIND」が立案され、私は幹事として会場のEAST204にて出展者・来場者の皆様と楽しく有意義な3日間を過ごしました。
この企画展はツァイス・イエナやメイヤーオプテークなど東ドイツ製レンズを愛用する写真家が集い、写真作品を展示するとともに、レンズの魅力を語り合う交流の場でもあります。協力していただいた出展者の皆様、会場に足を運んでくださった皆様に深く御礼申し上げます。
 
改めて写真展に出展していただいた方々と、使用レンズをご紹介いたします。
 
山本航 x Tessar 2.8/50
中耶莉佐 × Pancolar 1.8/50
Kuramago x Primoplan 1.9/58
伊藤浩一 x Trioplan 2.9/75
上野由日路 x Pentacon MC 1.8/50
塩島真吾 x Flektogon 2.8/35
鈴木啓太/urban x Flektogon 4/20
spiral x Primoplan 1.5/25
 
会場には著名な写真家の方々が次々と来場し、ビックリ仰天の毎日でした。写真でその様子をお伝えします。

まず5日の初日には写真家でエッセイストのハービー・山口(右)さんに来場していただきました。私とのツーショット写真です。Photo:塩島真吾さん













6日(2日目)に来場していただいたのは田中長徳さん(右から2番目)と澤村徹さん(左から2番目)です。田中さんにはDDRのプレートをご持参いただきました。右はオールドレンズフェス実行委員長の上野由日路さん。企画展幹事の私(左)もちゃっかり写ってまーす(←いらんかも)Photo: 伊藤浩一さん


本企画展の運営に協力してくださった伊藤浩一さん(右)。オールドレンズの経験が豊富な方です。Photo提供:伊藤浩一さん

来年に開催予定のオールドレンズフェスVOL.4(2020)でも新しいテーマでこの企画展を立案し、出展者と来場者が共にオールドレンズの魅力を語り合う交流の広場にしてゆきたいと考えています。映画文化とシネレンズを絡めるようなテーマかな。アイデア募集中です。

オールドレンズ闇市で飛び入り店長をしてくださった澤村さん。来店したお客さんから「初心者向けにピッタリのレンズはありませんか?」「おすすめのM42レンズはありませんか?」などの質問が飛び交い、とても丁寧に対応されていました Photo: 伊藤浩一さん
また、同会場では「オールドレンズ闇市」が併設され、オールドレンズ写真学校やオールドレンズ女子部関係者の不要レンズの委託販売がおこなわれました。こちらには澤村徹さんがご来店、何と飛び入り店長をしてくださいました!