おしらせ


2016/04/21

VEB Pentacon(Meyer-Optik Diaplan) 150mm F2.8 x Speed Graphic



東ドイツのペンタコンブランド PART 4(後篇)
スピードグラフィックで辿りつく
バブルボケフォトの極大点
VEB Pentacon (Diaplan) 150mm F2.8
ペンタコンAV(ダイアプラン)シリーズで最大の口径を誇る150mm F2.8は中判6x6フォーマットのMalisixという投影機に供給されたプロジェクターレンズである。イメージサークルには余裕があり、中判6x9フォーマットまでを余裕でカバーできる。フォーカルブレーンシャッターを搭載した万能カメラのスピードグラフィックに取り付け、特大サイズのバブルボケフォトを楽しもというのが今回の企画である。ちなみに中版6x9フォーマットで撮影した場合の撮影画角は35mm版換算で65mm相当と標準レンズ並みの広さとなる。イメージサークルを余す所なく活用した写真には一体どれほど大きなバブルボケが写るのか。想像するだけで胸がいっぱいになり、鼻血が出そうである。このレンズの中判カメラによる実写はこれが初めてなのではないだろうか。

入手の経緯
前回の記事で紹介したPentacon AV 150mm F2.8(M42改造)は記事を公開した直後に売却してしまった。しかし、その直後に中判カメラによるテストを思い立ち、再び買いなおすことに・・・。レンズは2016年3月にドイツ版eBayにてレンズヘッドの状態で売られていたものを90ユーロ+送料20ユーロの即決価格で入手した。この時点では誰も関心を寄せないレンズであったため、他に入札はなく、難なく私のものとなった。しかし、1か月たった現在では出品される商品に多くの入札が集まるようになり、レンズヘッドの落札額も1.7~2万円程度まで上昇している。
PENTACON 150mm F2.8, 重量(実測) 約400g(レンズヘッドのみ), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径 62.5mm, 鏡胴は金属製, 設計構成 3群3枚(トリプレット型), マルチコーティング, Malisix 6x6 120 Slide Projector用レンズ, イメージサークルは中判6x9フォーマットをギリギリでカバーできる。大判4x5inchでは写真の四隅がケラれていた
スピグラで撮影中の私。Baush and Lomb Baltar 75mmf2.3 +Sony A7で近所の知り合いに撮っていただきました(Photo by S. Shiojima)

撮影テスト
ボケ量はさすがにフルサイズ機で用いた時とは比べ物にならないほど大きい。ただし、画角が35mm版換算で65mm相当まで広がったのは大誤算であった。望遠圧縮効果が弱まりバブルの大きさが均一になってしまうとともに、グルグルボケが目立つようになり、画面の四隅でバブルが平べったく変形してしまうのである。フルサイズ機で用いたときのような迫力のあるバブルボケにはならない。グルグルボケは主張が強いうえ比較的多くのレンズに見られる性質なので、ある意味でボケが平凡になってしまうのである。バブルボケフォトを楽しむにはボケ量の大きさも重要であるが、無理してボケ量を稼ぐのではなく、望遠圧縮効果を活かし大小さまざまなサイズのバブルを発生させるほうが奥行き感に富む迫力のある写真が得られる。グルグルボケもできれば無い方がよい。このレンズはフルサイズ機にマウントし望遠レンズとして使用するほうが、真価を存分に発揮できると思う。


Photo 1,  F2.8, 中判6x9(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic (Pacemaker):さすがにボケ量は大きい。35mm版換算でF1.2の標準レンズと同等のボケ量が得られる

Photo 2, F2.8, 中判6x9(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic (Pacemaker):オールドレンズ写真学校の講師の方です




Photo 3, F2.8, 中判6x9(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic (Pacemaker): 中判6x9フォーマットだとグルグルボケが目立つようになり、四隅でボケが平べったく変形してしまう。撮影フォーマットはもう少し小さい方がよさそうだ







Photo 4,  F2.8, 中判6x7(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic(Pacemaker):6x9フォーマットは広すぎると感じたので、今度は6x7フォーマットに変更してみた。ボケにはかなり特徴が出ている。娘から光のオーラが立ち上がり北斗の拳になってしまった

2016/03/05

VEB Pentacon (Meyer-Optik Diaplan) 150mm F2.8 (Projector lens)



 前エントリーで取り上げたPentacon AV 80mm F2.8は鏡胴の素材がプラスティックであったが、今回の望遠モデルは耐久性のあるメタルになっており貫禄は充分。ボケ量の大小を決める口径サイズは同シリーズで最大を誇る


東ドイツのペンタコンブランド PART 4(前篇)
ダイアプラン系列で最大の口径を誇る
バブルボケレンズの王者
VEB Pentacon (Diaplan) 150mm F2.8 改M42
プロジェクター用レンズのPENTACON AV/ DIAPLANシリーズは改造して写真撮影に転用することでバブルボケを発生させることができるため、高価なトリオプラン100mm F2.8の代用品になるレンズとして脚光を浴びている[文献1]。今回はその中で最大の口径を誇るペンタコン(AV) 150mm F2.8を取り上げてみたい。ボケ量は口径の大きなレンズほど大きく、口径比がF2.8の場合には長焦点レンズであるほど大きなボケ量となる。150mmの焦点距離を持つ本レンズの場合、得られるボケ量はF0.9相当の極めて明るい標準レンズと同等で、マクロ域での撮影のみならずポートレート域で人物を撮る際にも、背後の空間に大きなバブルを発生させることができる。しかも、本レンズの場合には望遠圧縮効果が有利に働くので、バブルボケの出方が平面的にはならず、大小さまざまなサイズのバブルが空間内を浮遊するような奥行き感のある写真が得られるのである。実はこの150mmのレンズを用いた写真がまだ殆ど公開されていないため、どれほど凄い写真が撮れるのか全く知られていない。レンズヘッドの購入額は約1万円強。1万円で未知の扉を開くことができるのは、オールドレンズ遊びを趣味とするグルメ人として冥利に尽きることだと思う。
ペンタコンAVには焦点距離150mmの製品以外に複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類を確認している[注1]。このレンズの先代はメイヤー・オプティックのDiaplan(ダイアプラン)150mm f2.8であるが、メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わっている。なお、ダイアプランとペンタコンAVの光学設計は全く同一である。
  
先代のMeyer-Optik DIAPLAN 150mm F2.8。外観だけでなく、中身(設計)も全く同一である


注1… Diaplan/Pentacon AVシリーズには焦点距離や口径比の異なる9種類のモデル2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200が存在する。このうち2.4/60は私がこちらで検証したようにレンズ構成が変則的なダブルガウス型のためバブルボケが出る保証はないが、他は全て3枚玉のトリプレット型である。今回入手した150mmf2.86x6フォーマットのMalisixという中判スライドプロジェクターに供給された交換レンズである。理由はよくわからないが、Malisix用のモデルのみ鏡胴が金属製で銘板にAVの表記がない。

参考文献・サイト
[文献1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
 
入手の経緯
2016年1月にドイツ版eBayを経由しアルパフォログラフィーというカメラ屋からレンズヘッドのみを90ユーロ(+送料12ユーロ)の即決価格で購入した。オークションの記述は「プロジェクター用レンズのPentacon (Diaplan) 150mm F2.8。鏡胴径は62.5mmでカメラマウントはない。傷、カビはない」とのこと。マウント部に傷がない品なのでオールドストックであると判断し購入に踏み切った。届いたレンズは撮影に影響のないレベルのホコリがみられる程度で、コンディションの良い個体であった。焦点距離150mmのモデルは流通量が少なく直ぐにはみつからなかったので、長らく探した末の入手である。
PENTACON 150mm F2.8, 重量(実測) 約400g(レンズヘッドのみ), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径 62.5mm, 鏡胴は金属製, マルチコーティング, Malisix 6x6 120 Slide Projector用レンズ

カメラへのマウント
このレンズにはヘリコイドはおろかマウント部すら付いていないため、改造にかなりの工夫を要する。改造における最大の難関は62.5mmもある太い鏡胴をヘリコイドにどうやって据え付けるのかである。しばらくのあいだ試行錯誤を繰り返していたが、ある時にミノルタのメタルフードD52N2が鏡胴にピタリとはまることを発見、このフードをレンズヘッドの後玉側に被せて固定し、レンズヘッドのマウント側を52mmのフィルターネジにすることができるようになった。あとは、そのまま中国製のM52-M42ヘリコイド(35-90mm)に搭載すれば、M42レンズとして使用可能である。M52-M42ヘリコイドはeBayにて50ドル程度から入手することができる。レンズの光軸が傾いてしまったりズレてしまうのを予防するため、レンズヘッドの土台部分に58mm-52mmカプラーを填めてみた。こうすることでレンズヘッドフードの内側にある平らな部分に乗り安定する。なお、レンズの鏡胴内やヘリコイドの内側には反射光防止用の植毛を貼っている。これだけの対策でハレーションはかなり抑制され、写真のコントラストもだいぶ向上している。本レンズのようにイメージサークルの大きなレンズではハレーション対策に万全を期す事が肝心なのである。
 



このレンズにはフィルターネジがないので、ステップダウンリングを前玉側にエポキシ接着した。これで、フードやキャップを装着することができる

撮影テスト
遠方に点光源をとらえ撮影したところ、焦点距離150mmの本レンズでもトリオプランの開放描写を彷彿させる輪郭のハッキリとしたバブルボケを確認することができた。しかも、本レンズの場合は大きなボケ量と強い望遠圧縮効果のため、大小さまざまな大きさのバブルを近接撮影時のみならずポートレート撮影時においても発生させることができる。バブルボケの出るレンズは収差(球面収差)が過剰に補正されており背後のボケは硬くザワザワとしているが、反対に前ボケはフレアに包まれフワッと柔らかく拡散するのが特徴で、これが本レンズの場合にはキラキラと輝きながら滲む素晴らしい写真効果を生む。過剰補正のためピント部は薄いハロに覆われ、ポートレートで人物を撮るのに適した柔らかい描写となっている。コントラストは低く階調はたいへん軟らかいが、中間部の階調はよく出ている。長焦点レンズということもあり、画質は四隅まで大きな乱れもなく安定している。ボケも四隅まで整っておりグルグルボケや放射ボケは全く見られない。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには望遠レンズ用の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。それではダイアプランシリーズ最大のバブルボケをご堪能いただきたい。
 
撮影に使用したカメラはSony A7
Photo 1, sony A7(AW:晴天,カラーバランス補正あり): 柔らかく、軟らかい描写がこのレンズの特徴だ。JPEG撮って出しのオリジナル画像はこちら


Photo 2, sony A7(AWB, 色調補正済): 自転車のハンドルから光のオーラが立ち上がっているが、これも収差の仕業であろう。少し口径食が出たのは深いフードを装着してしまったため。フードの丈を調整をした。補正前のオリジナル(JPEG撮って出し)はこちら

Photo 3, sony A7(WB:晴天, カラーバランスとコントラスト補正済): 背後の空間には輪郭部のはっきりしたバブルが発生する。JPEG撮って出しの補正無し画像はこちら
Photo 4, sony A7(WB 晴天, コントラスト+50, 明るさ+50): 




Photo 5, sony A7(WB 晴天, 補正なし): 前ボケにはフレアがかかり柔らかい

Photo 6, sony A7(AWB): 続いてポートレート。このスケールでも大小大きさの異なるバブルが出た

Photo 7, sony A7(WB 晴天): 

Photo 8, sony A7(AWB): 前ボケはフレアをまといながらキラキラと綺麗に滲む
Photo 9, sony A7(AWB):後ボケはもちろんのことだが、思っていた以上に前ボケがいい!フワッと綿のように拡散している。こうなったら・・・・
Photo 10, sony A7(AWB): : 調子に乗って前ボケによる表現を堪能するまでのこと

Photo 11, sony A7(AWB): : 再び近接撮影で、こんどはピントをきちんと合わせてみた。トリプレットはもともと中央が高解像なのだ
Photo 12, sony A7(AWB): ピント部はやや滲にをともなう柔らかい描写である。ポートレート撮影で女性を撮るにはよいレンズだ



Photo 13, sony A7(AWB): 





Photo 14, sony A7(AWB):