おしらせ


2016/02/07

Mamiya Sekor F.C. 4.8cm F1.9 salvaged from broken camera Mamiya 35*



オールドレンズ・サルベージ計画 PART 2 
独特の構成形態を採用した明るい6枚玉
Mamiya Sekor 4.8cm F1.9
ジャンクカメラからレンズを救出しデジカメ用として第2の人生を歩ませるサルベージ計画の第2弾はマミヤ光機製作所(現マミヤ・デジタル・イメージング株式会社のセコール(Sekor) 4.8cm F1.9である。このレンズは同社が1958年に発売した35mmレンジファインダー機のMamiya 35Sに搭載されているもので、下の図に示すような独特な構成形態を採用している。F1.9程度の口径比といえばガウスタイプが定石であるが、このようなコストのかかる設計をわざわざ採用したのには、なにか特別な狙いがあったのであろう。鏡胴をコンパクトにするためであろうか。しかし、現物を見る限りレンズがコンパクトにつくられているとは到底思えない。軸上光線の高い位置に色消しレンズを配置すると、色収差の補正に有効なのであろうか。


Mamiya Sekor 4.8cm F1.9の光学系。Mamiya fanclub資料からのトレーススケッチ。構成は4群6枚である。一瞬だけプラズマート(オルソメタール)型にも見えなくはない構成であるが、よくみると空気層の形状が異なる。クラークのダブルガウス型レンズ(1888年設計)の前後玉を張り合わせにした固有形態と言えるのではないだろうか
35mmレンジファインダー機のMamiya 35S。とても造りのよい頑丈そうなカメラである
カメラからレンズを取り外す
結論から言うと、かなり手間のかかる改造になるので、2度とやりたくない。レンズを取り出す過程の一部を示しておく。
まず、左の写真のようにマイクロドライバーを用いてレンズのマウント部にある4本のビスを外す。すると、右の写真のように四角いマウントがカメラの本体から外れる。このマウントは真鍮製の分厚い頑丈なつくりなので、ここからレンズを取り外すには一苦労する(ここが最大の難関)。ネジで外れるようなつくりではなく、マウント部の一部を切断するしかレンズを取り外す方法は見当たらなかった。 



どうにか四角いマウント部を撤去したら、その上からステップアップリングを利用してレンズに新たなマウント部をつくる。下の写真のようにハンディルーターでステップアップリングのネジ山を削ればレンズにピッタリと装着できるだろう。


今回はSONY Eマウントへの装着を想定し、バックフォーカスの調整用にもう一枚ステップアップリングをはめた(下の写真)。この上にネジピッチの異なるM39-M42ステップアップリングを強引に装着しエポキシ接着剤で固定、最後にM42-Eマウント・スリムアダプターを装着して完成である。実際にはスリムアダプターとステップアップリングの間に1mm厚のプラ板を挟んでフランジを微調整している。手間のかかる改造であった。
 
フィルター径 40.5mm, 絞り F1.9-F16,  絞り羽 6枚, 最短撮影距離 0.9m, レンズシャッター セイコーシャMXL(シャッタースピード 機械制御 B・1~1/500秒), レンズ構成 4群6枚特殊型, 1958年8月発売
撮影テスト
開放ではピント部がフレアにつつまれ柔らかい描写傾向を示すが、ピントにはしっかりとした芯がある。解像力は良好で、線の細い繊細な描写傾向となる。ポートレート撮影にはよさそうなレンズだ。背後のボケはザワザワと硬く、反対に前ボケはフレアにつつまれ柔らかい。絞ればスッキリとヌケの良い描写でコントラストも向上するが、深く絞り込んでも階調は硬くならず、なだらかなトーンを維持している。絞りを開けると逆光に弱くハレーションが出やすい。絞ればある程度は耐える。
F8, sony A7(AWB): 絞るとシャープ


F1.9(開放), sony A7(AWB): 絞りを開けるとピント部は薄いフレアに覆われ、線の細い柔らかい描写となる。背後のボケは硬くザワザワとしている。1段絞ればフレアは消えシャープな像となりボケも素直である



F2.8, sony A7(AWB):逆光では盛大なハレーションが出る










2016/02/03

VEB Pentacon PENTAFLEX Color(Domiplan) 50mmF2.8 (M42 mount)*









ある知人曰く、「ペンタコン製レンズの特徴は国産レンズには見られない魅力的なボケと適度な解像感、そして何よりレンズの安さである」。なるほど、このレンズはまさにそうだ。

東ドイツのペンタコンブランド PART 2
ドイツ製品最強のコストパフォーマンスを誇る
バブルボケレンズ
VEB Pentacon Pentaflex-Color (Domiplan) 50mm F2.8
その知人からマクロ域でバブルボケが出るレンズと教えてもらい、さっそく試してみることにした。旧東ドイツのペンタコン人民公社(VEB PENTACON)が一眼レフカメラのPentaflex SL(1967年登場)に搭載するキットレンズとして供給したペンタフレックス・カラー(Pentaflex color)50mm F2.8である。ドイツ製レンズの中では1、2位を争うロープライス製品であり、eBayでは30ユーロ前後で大量に売買されている。しかも、バブルボケが出るとなれば、手をださない理由はない。では、何故こんなに安いのか。実は最短撮影距離が0.75mとやや長く、バブルボケのスイートスポットであるマクロ域まであと一歩届かないのである。しかし、案ずることはない。この問題はマクロエクステンションリングやヘリコイド付きアダプターを併用することで簡単に解決できるのだ。
さて、製品のルーツを調べる中でバブルボケの出る理由については一定の理解が得られた。ペンタコン人民公社は1968年にレンズメーカーのメイヤー・オプティック(Meyer optik)を吸収しており、このレンズの正体はメイヤーのドミプラン(Domiplan) 50mmF2.8と同一、つまり1963年に姿を消したトリオプラン(Trioplan) 50mm F2.9の後継レンズなのである。トリオプランには焦点距離100mmと50mmの2種類のモデルがあり、どちらもバブルボケが顕著に発生するレンズとして有名である。
レンズの構成は下に示すような3枚構成のトリプレットタイプで、製造コストの低いシンプルな設計にも関わらず中心部の解像力は良好なうえ、シャープでヌケが良く、グルグルボケが出やすいのが特徴である。なお、ペンタフレックス銘のレンズには50mm F1.8(M42マウント)も存在し、これはメイヤー・オプティックのオレストン(Oreston)をベースとするガウス型レンズである。
Domiplanの断面図(左)およびPentacon DOMIPLANの構成図(右)。構成図は「東ドイツカメラの全貌」(Hummel, Koo 村山著, 朝日ソノラマ)からのトレーススケッチ(見取り図)





ペンタコン人民公社はメイヤー・オプティックを吸収した後、1971年にレンズの製品ラインナップを再構成し、メイヤーブランドの一部を同社のプラクチカール(Prakticar)ブランドへと置き換えている。ただし、どういう理由かは不明だがドミプランだけは例外的にプラクチカールファミリーに編入せず、Pentacon Domiplanとして存続させた。もしかしたら当初はテッサータイプのPrimotar 50mm f2.8をPrakticarに編入させる計画があり、席を空けておいたのかもしれない。
手に取ればDOMIPLANとPENTAFLEX-COLORが同一品であることを改めて実感できる。両者は銘板に刻まれた名称等を除き、細部に至るまで完璧に同一である




入手先
このレンズは2016年1月にドイツ版eBayを介しドイツの写真機材専門のセラーから32.5ユーロ(4160円)+送料9ユーロで落札した。オークションの記述は「新品同様。ドミプランの100%コピーである。レンズはプラクチカとCanon 600Dでテストした」とのことで、フロントキャップとリアキャップ、UVフィルター、Schachtの接写用マクロリング(6mm丈)が1枚付属していた。届いたレンズはパーフェクトに近い非常に良い状態であった。eBayでは今も流通量が豊富なレンズで価格もこなれているので、じっくりと探し、状態の良い個体を選ぶとよいであろう。
Pentaflex-Color/Domiplan: 重量 150g, フィルター径 49mm, 最短撮影距離 0.75m, 画角 47°, 絞り羽 6枚, 設計構成 3群3枚トリプレット型, 絞り値 F2.8-F22, 対応マウント M42, Exakta(Domiplanのみ), Domiplanについては極僅かにペンティナ(Pentina)マウントの個体も存在するようである(2016年1月にeBayで目撃)



撮影テスト
このレンズはフルサイズ機に準拠した設計仕様になっているが、バブルボケを生かす事を最優先に考えるなら、マイクロフォーサーズ機やAPS-C機などセンサーサイズが小さいカメラで用いることをおすすめする。例えばマイクロフォーサーズ機で用いると焦点距離100mm相当の望遠レンズとなり、望遠圧縮効果が起こるため、1枚の写真の中に大小さまざまな大きさのバブルボケを生み出すことができる。また、撮影倍率が2倍となり最短撮影距離の長いこのレンズの弱点が克服できるうえ、四隅の画質に弱点をもつトリプレット特有の問題も解決できる。それだけではない。トリプレット型レンズによく見られる非点収差由来のグルグルボケも殆ど目立たなくなるのだ。せっかくシャボン玉を送り出すのだからグルグルと回る嵐の中ではなく、穏やかなそよ風の中に放ちたい。そう思うのは私だけであろうか。
SONY A7での写真作例
F2.8(開放), sony A7(AWB):  手前にガラスがあるので後ボケが被写体の前方に写り込んでいる

F2.8(開放), sony A7(AWB): 

F2,8(開放), sony A7(AWB): 

F2.8(開放), sony A7(AWB):

F2.8(開放), siny A7(AWB):



Olympus PEN E-PL6での写真作例
バブルボケを大きく見せたいならば、レンズをヘリコイド付きアダプターで用いるか、マクロエクステンションリングを併用するのがよい。マクロエクステンションリングを用いる場合には、オリンパスPEN(M4/3)用かM42レンズ用のどちらかを手に入れればよい。
F2.8(開放), Olympus Pen EP-L6(AWB) + MACRO Extension Ring: 小さなバブルと大きなバブルが共存できるのは望遠レンズ特有の圧縮効果のおかげである。遠方のバブルが大きく誇張され、迫ってくるように見える


F2.8(開放), Olympus Pen EP-L6(AWB) + MACRO Extension Ring: 先代のトリオプランにも引けをとらないハッキリとしたバブルが出現している