おしらせ


2014/07/08

Zeissの古典鏡玉PART 0(Prologue): 数奇な運命をたどったZeissブランドのフラッグシップレンズ達

左はKrauss Planar-Zeiss 60mm F3.5, 中央はBiotessar 10cm F2.9, 右はDoppel-Protar 147mm F7である



光学系の構成図:左はPlanar, 中央はBiotessar, 右はDoppel-Protarである
Carl Zeissの古典鏡玉 Part 0
数奇な運命をたどった
Zeissブランドのフラッグシップレンズ達
1886年にZeissErnst Abbe(エルンスト・アッベ)Otto Schott(オットー・ショット)は後のレンズ設計の分野に革命的な進歩をもたらす新しいガラス硝材の開発に成功した。その硝材は原料にバリウムを加えることで透過光の分散(色滲み)を抑え、しかもレンズの屈折率を大幅に向上させるというもので、イエナガラス(新ガラス)と呼ばれるようになっている。イエナガラスを光学系の凸レンズに用いれば像面特性を規定するペッツバール和の増大を抑えることができ、従来のクラウンガラスとフリントガラスでは困難とされてきたアナスチグマートの実現が、いよいよ現実味を帯びてきたのである。4年後の1890年にZeissPaul Rudolph(パウル・ルフドルフ)は最初のアナスチグマートProtar(プロター)を完成させている[注1]。イエナガラスの登場はレンズ設計の分野に大きなインパクトを与え、波及効果は直ぐに広まった。それはまるで生物界に急激な多様化をもたらしたカンブリア爆発のような出来事であった。Protarを皮切りにDagor(ダゴール;1892), Triplet (トリプレット;1893), Protarlinse/ Doppel-protar (プロターリンゼ;1895), Planar (プラナー; 1897), Dialyt (ダイアリート; 1899)など高性能なアナスチグマートが次々と誕生し、19世紀末から20世紀初頭にかけてレンズ設計の分野は黄金期とも言える彩色豊かな素晴らしい時期を迎えたのである。そして、1902年に後の光学産業の縮図を塗り替えたと言っても過言ではないたいへん高性能なレンズが開発される。ZeissErnst Wandersleb(エルンスト・ヴァンデルスレプ)とPaul Rudolphが世に送り出したTessar(テッサー)である。
Tessar34枚という比較的少ない構成にもかかわらず諸収差を強力に補正することのできる合理的なアナスチグマートであった。これより半世紀もの間、Tessarタイプのレンズはあらゆるカメラのメインストリームレンズに採用され、コストパフォーマンスの高さで市場を席巻、数多くのレンズ構成を絶滅の淵に追いやっている。本ブログでは数回にわたりイエナガラスの時代に登場し、優れた性能を持ちながらも不遇な運命を歩んだZeissブランドの高級レンズ達を紹介してゆく。取り上げるレンズはDoppel-Protar(ドッペル・プロター; 1893年登場)Planar (1897登場)Tessar (テッサー;1902年登場)、Biotessar(ビオテッサー; 1929年登場)の4本である。

注1・・・Anastigmatとは非点収差の攻略によって5大収差の補正全てを合理的に完了できたレンズである。イエナガラスを用いて非点収差を補正したレンズとしてはProtarよりも先の1888年にH. L. Hugo Schroeder, Moritz Mittenzwei, and Adolph Mietherらが設計した2群4枚のレンズがあり、見方によってはこちらが世界初のAnastigmatとも呼べる。しかし、非点収差が補正されているだけで他の残存収差は多く、このレンズは不成功に終わっている。こうした事情がありProtarを最初のAnastigmatとする見解が世間一般では優位なようである。

Carl Zeiss Jena Planar 10cm F4.5(初期型)

2014/07/02

アンケートの集計結果(3) オールドレンズユーザーが好むレンズの描写特性に迫る

オールドレンズ愛好家達はレンズのもつ描写特性のどの部分に惹かれているのでしょうか?本ブログでは2014年3月1日から同年月5月22日までの約80日間、ブログを訪れた方々に対し投票式の公開アンケートを実施し、449人から回答を得ました。アンケートの内容は下図に示すような14の選択肢から好みの描写特性を最大4件まで選択回答するというものです。

[設問] オールドレンズの好きな描写特性をお選びください。複数回答が可能ですが4つまででお願いします。

横軸には回答件数(および回答率%)を提示しました。446人がアンケートに回答し、全14項目の中から一人当たり平均3.1件(最大4件に制限)を選択回答していただきました。集計結果の再下段にある「その他(リストにはないもの)」にも26件(回答率5%)の回答が寄せられています。ここには例えば「立体感」のような感覚的には把握されているものの理論的によくわからない描写特性を望むオールドレンズ愛好家達の残留思念が漂っているものと思われます


この集計結果からわかる「万人受けするオールドレンズ」とは、
  • ①発色がノーマルではなく、固有の特徴があり、
  • ②階調が軟らかく、
  • ③収差(ハロやコマ)に由来するモヤモヤとしたフレアや滲みが発生し、
  • ④解像力があり、
  • ⑤グルグルボケや放射ボケがみられる
というレンズです。③の「フレアや滲みを伴うソフトな描写」と④の「高解像」は一見矛盾するように思われますが、実は両立しており「線の細い描写」という意味に集約されます。①から⑤までの全てを満足するレンズが実在すれば欲張りなユーザーも大満足のはずです。はたしてそんなレンズはあるのでしょうか。参考までに Angenieux Type R1は①が〇、②が〇、③も〇、④も〇、しかし・・・⑤は残念ながら×となり総合評価がとても良いことになります。Xenotarは①が〇、②は×、③は×、④は〇、⑤は△です。

アンケートにご協力いただきました皆様に心より感謝いたします。

2013年度に実施したアンケートはこちら
2012年度のアンケートはこちらです。