おしらせ


2011/02/17

Carl Zeiss Jena TESSAR 50mm/F2.8 and Carl Zeiss Oberkochen TESSAR 50mm/F2.8

時代が引き裂いた2本のZEISS TESSAR(4枚玉)。その名の由来はギリシャ語4を意味するテッサレスとされている。左奥は東ドイツ産で右手前は西ドイツ産だ
かつて利権を争った東西ツァイスがテッサーで対決
 「おのれ。貴様、何者だ!」「お前こそ何者だ!」 

Carl Zeissは第二次世界大戦後のドイツの東西分断によって東ドイツの人民公社Carl Zeiss Jenaと西ドイツのZeiss Opton(現Carl Zeiss)社に分裂し、1990年に西側ツァイスが東側を吸収するまでの間、2社による独立した企業活動を展開していた。今回取り上げるTESSAR(テッサー)はSONNAR(ゾナー)と並び、戦前からのツァイスを代表する主力ブランドであり、分裂後も東西両社から後継品が次々と生み出されていた。
M42マウントのTESSARが登場したのは戦後の1940年代末頃からである。東側のZeiss JenaがPractika(1948年~)やCONTAX S(1949年~)などの一眼レフカメラに搭載する交換レンズを供給し、50mm/F2.8はモデルチェンジを6回も繰り返した。なお、Exaktaマウント用(50mm/F2.8)は戦前の1936年から登場している。

★東独TESSAR(M42マウント)のモデルチェンジと製品概要
登場時期、デザイン、バリエーション、スタンプマークなど
●1948年 アルミ鏡胴 40mm/F4.5,50mm/F2.8(T)
●1949年 アルミ鏡胴 50mm/F3.5
●1950年代前期 アルミ鏡胴 40mm/F4.5, 50mm/F2.8(T /1Q) 12枚羽
●1950年代中期 アルミ鏡胴 50mm/F2.8 (1Q) 8枚羽
●1960年代初頭 黒鏡胴(ローレット部に合皮) 50mm/F2.8(1Q)
●1960年代後期 ゼブラ柄鏡胴 50mm/F2.8 8枚羽
●1970年代前期 黒鏡胴 50mm/F2.8 DDR(東独製)が明記
●1970年代中期 黒鏡胴 50mm/F2.8 DDR 6枚羽
●1978年 50mm/F4 200本のみの生産 詳細不明

一方、1960年代半ばに起こったPENTAX SP(旭光学/1964年発売)の世界的な大ヒットなどによりM42マウントレンズの需要が増すと、1966年から1972年にかけて西側のZeissもM42マウントのTESSARを発売した。同一マウントで同一仕様(50mm/F2.8)の2種のTESSARが東西のツァイスで生産され、それらが市場に共存するという異様な事態に至っている。「おのれ。貴様、何者だ!」「お前こそ何者だ!」。
今回私が入手したのは東西両社が1970年代に生産した最後継モデルとなる2本のTESSARである。製品仕様だけを見れば東独TESSAR(以下ではJena Tessarと略称)の方が重量は20%も軽量く、最小絞りはF22までと1段分深く、最短撮影距離は10cm短いなど西独TESSAR(Oberkochen Tessarと略称)よりも優れている印象を抱くかもしれない。しかし、写真用レンズの価値や優劣はそれだけで決まるものではない。東と西の「パラレルワールド」に分かれたTESSARブランドが、やや異なる世界でどのように成長していったのか、以下では描写における2本のレンズの差異を見出してみたい。
CARL ZEISS JENA DDR TESSAR (写真左側): 東独製, 重量(実測) 168g絞り羽 5枚, 最短撮影距離 0.35m, 絞リ値 F2.8--F22, コーティング色はブルー焦点距離 50mm, フィルター直径 49mm, 本品はM42マウント, 自動/手動絞り製造ナンバー407927(1975年頃製造)

Carl Zeiss (Oberkochen) Tessar (写真右側): 西独製, 重量(実測) 212g絞り羽 5枚,最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F2.8--F16, 焦点距離 50mm, コーティング色はパープル, M42マウント, 製造ナンバー7343329なので、フォクトレンダーの台帳と照合すると1970年製造ということになる。M42マウント, ULTRON同様にフィルター部がねじ込み式ではなくバヨネットタイプなので純正フードやフィルターしかつかない。本品はZeiss Ikon社の一眼レフカメラであるIcarex 35S TM用の交換レンズとして供給された
TESSARはPLANARを開発したカールツァイス社45歳の技士Paul Rudolph(パウル・ルドルフ)と、彼についた24歳の助手で後にBIOTESSARを開発するErnst Wandersleb(エルンスト・ヴァンデルスレブ)によって1903年に生みだされた3群4枚の単焦点レンズだ。ルドルフが1890年に開発した2群4枚のProtar(プロター)の後群部と、プロターを基に1899年に開発した4群4枚のUnar(ウナー)の前群部を組み合わせることで発明された。Unarから来た凸形状の空気間隔が球面収差の補正に有効に働き、解像力の向上に貢献している。凹凸レンズの構成枚数比が2:2と光学系のバランスが非常に良く、ペッツバール和を小さく抑えられることから、像面湾曲と非点収差の補正が有利に働き、優れた周辺画質を実現している。Proterから来た後群の貼り合わせによって色収差の補正もできる。ただし、テッサーの後群の貼り合わせには元来、分散が同じで高い屈折率差のある硝材が用いられていたようで、色消しのためではなくペッツバール和を抑制するためのものであったことが、テッサー初期型に対する分析から解明されている。シンプルな設計によって全ての収差が合理的かつ良好に補正できたことからTESSARの人気は非常に高く、1920年にツァイスの特許が切れると各レンズメーカーからコピーレンズが次々と造られるようになった。Leitz Elmar, Schneider Xenar, Lzos Industar-61, Kilfitt Makro-Kilar, Schacht Travenar, Isco Westar, Kmz Industar 50, Agfa Solinar, Rodenstock Ysar, Kodak Ektar, Leidolf Lordnar, Meyer Primotarなど例を挙げだしたらきりがない。Tessarタイプの光学系を持つレンズのブランド名には、語尾に"-AR"がつくという共通ルールがあるようだ。なお、東独Zeiss Jenaの機関誌Jena Revew(1984/2)によると、戦後に登場したCarl Zeiss JenaのTessar F2.8はBiometarやFlektogonの設計者として知られるハリー・ツェルナーにより1947年から1948年にかけて再設計されたとのことである。ツェルナーは同社のW.メルテが戦前の1931年に設計したTessar F2.8を再設計し新種硝材を導入、コマ収差と球面収差を大幅に向上させることに成功している。
   TESSARはレンズの構成枚数が少なく内面反射光が内部に蓄積しにくい設計により、メリハリのきいたハイコントラストな描写が得られるという長所を持つ。一方で同時にそれは、このレンズの短所にもなっている。撮影シーンによってはコントラストが高くなりすぎてしまい、その反動で中間階調が奮わないのだ。こうした事情からモノクロ写真の分野では古いテッサーを好む写真家が数多くいるらしく、古いものほど階調表現がなだらかで質感に富んだ好ましい描写を示すのだという。また、同じ理由からなのかツァイスは1970年代中期にflektogonやbiometar, pancolar,sonnarなどすべてのモデルを黒鏡胴化した新しいラインナップの中で、テッサーに対してのみ反射防止膜のマルチコート化を見送っている。今となっては設計こそ古い光学系だが、シンプルでコンパクトな利点を生かし、最近でもWEBカメラやコンパクトカメラ、携帯電話搭載用のデジタルカメラなどにテッサー型レンズが採用されている。2002年には現在のCarl ZeissからTESSAR誕生100周年記念モデル(45mm/F2.8でCONTAX/RTS用)が限定生産された。

★入手の経緯
東独製のJena Tessarは2010年9月にeBayを介して英国の中古カメラ販売業者から70㌦の即決価格にて落札購入した。オーバーホール済みのMINT(新品同様)状態という触れ込みで販売していた品だ。送料込みの総額は107㌦(9100円位)もしたので、総額で換算すれば国内で美品を買う際の相場価格と同じになってしまった。ちなみにeBayでの通常の相場は60~80㌦程度であろう。届いた商品はオークションの記述どうりのMINT品であった。
続く西独製のOberkochen Tessarは2011年1月にeBayを介してポーランドの大手中古カメラ販売業者のフォトホビーから落札購入した。レンズの状態はmint-と簡素なものであり、写真を見る限り光学系は綺麗、外観には大きな問題もなく、まずまずの品であった。商品ははじめ160㌦の即決価格にて販売されていたが、値切り交渉を受け付けていたので130㌦での購入を提案したところ、即私のものになった。なお、送料が40㌦と高かったので総額は170㌦もした。東独Jena Tessarに比べると西独Oberkochen Tessarは生産されていた当時の世評が低く、あまり売れていなかったと言われている。中古市場での流通量が少なく、現在はJena Tessarよりも高値で取引されている。届いた商品には光学系に軽微な拭き傷が1本、鏡胴側面のレバーにも不調があった。まぁフォトホビーなんでしょうがないかと妥協した。

★TESSARの画づくり
今回は2本のTESSARに描写面での差異を見出すことを主眼としている。TESSARの描写力については他のブログや書物など多くの場所で語られているので、本ブログで述べるまでのことではないが、比較実験の前に軽くおさらいしておく。
TESSARはレンズの構成枚数が少なく内面反射が蓄積しにくいという設計により、メリハリのきいた極めてコントラストの高い(鋭い)描写が得られるという長所を持つ。解像力(緻密さ)はそこそこ高いので、シャープなイメージを求める際には好都合なレンズといえるだろう。また、バランスの良い光学系の構造が功を奏し、非点収差が生まれにくいため、グルグルボケ(サジタルコマフレア)を心配することなく像面湾曲をガッチリと補正できる。端部まで均一な優れた画質が得られ、クッキリ鮮やかな色とともに癖のない優れた画質を実現できる。切れ味のよい硬質な描写から「鷲の目」などと呼ばれていたことも過去にあった。しかし、それは同時にこのレンズの短所にもなっている。撮影シーンによってはコントラストが高くなりすぎてしまい、その反動で中間階調が奮わないのだ(黒つぶれ注意!)。また、設計的に大口径化が難しいこともあり表現力が今一歩足りないというのがこの種のレンズに対する大方の見方であろう。人の顔に例えるならば10代の若者がたまに見せる、やや表情に乏しい端正な顔立ちといたところか。万人受けする優れた描写力を揶揄し、「よく写って当たり前」などと冷たく酷評されることがしばしばある。
 
Jena Tessar(F5.6)による作例。銀塩Fujicolor S400: 鋭い描写だ。TESSARには現代のレンズにも引けをとらない優れた描写力が備わっている
Jena Tessar @ F4:sony NEX-5 digital(AWB) :こんどはデジカメによる撮影結果。色のりは大変良い
Oberkochen Tessar@F2.8 銀塩撮影(Fujicolor Pro800Z): テッサーはボケが硬いといわれているが、これが階調描写の硬さによるのか、テッサー特有の結像によるのか。たいへん関心のあるテーマだ
Oberkochen Tessar(F11)によるデジタルカメラsony NEX-5 digital(AWB)での作例。日差しの強い晴天下で撮影すると、このようにシャドー部が黒潰れしやすい。いかにもテッサーらしい描写だ

★描写の比較
2本のレンズはほぼ同じ設計なので極めて良く似た撮影結果になるのは当然のことでろう。しかし、仮にレンズの光学系の設計が合同であるとしても、コーティングやガラス硝材(屈折率)が異なれば色味や階調表現、解像力などに差が出る余地はあるはずだ。2本を撮り比べる意味はある。以下に比較例を示す。

Sony NEX-5 digital(AWB) 開放絞り(F2.8)における両レンズの比較。両者の緻密さや解像感に大差はない。収差の補正に余裕がないためか、近接撮影ではアウトフォーカス部の結像がザワザワと煩くなる。両者のボケ味は乱れ方も含めてそっくりだ。階調表現は硬めで影の部分は暗部に向かってストンと落ちる傾向が出ている。両レンズの発色は良く似ており、背景の土の色や芋の皮の表面色に目を向けるとJena Tessarの方が赤みや黄みが強く温調で、Oberkochen Tessarの方が僅かに白っぽい発色であることに気付く。ただし、これらの差は極僅かだ

F5.6 sony NEX-5 digital(AWB) 今度は人工光での発色の比較だ中央ポスターの岡本太郎氏の顔を拡大したのが下の写真となる

顔色や柱の色はJena Tessarのほうが明らかに黄色みが強い。ちなみにCMYK数値のY(イエロー)成分で見ると、柱の付近はJena Tessarが87/100前後であるのに対し、Oberkochen Tessarでは80/100前後、顔の額の色はJena Tessarが46/100前後であるのに対し、Oberkochen Tessarは38/100前後となり、やはりJena Tessarのほうが黄味が強い


F2.8  Sony NEX-5 digital(AWB) 周辺部の口径蝕も良く似ている。芝生の色はJena tessarのほうが極僅かに黄味が強い。ちなみに手前の物体・・・うんちではございません

2本のレンズを撮り比べた結果からは残念ながら大きな差異が得られなかった。レベル曲線は全輝度域でほぼ一致し、階調表現は極めて良く似ていた。ボケ味やシャープネスにも大差はなかった。色味についてはJena Tessarの方が僅かに黄味が強くなる傾向があるが、それ以外については期待していた程の明確な差が出ず、ちょっとガッカリした。

★撮影機材
カメラ本体:
デジタル Sony NEX-5 / 銀塩 Pentax MZ-3
フード:
CZ TESSAR・・・フォクトレンダー純正S56ラバーフード
CZJ DDR TESSAR・・・Pentacon metal hood 49mm径



西独ツァイスからはレンジファインダー用に供給したもっと古いモデルのテッサー(Zeiss-Opton製)がある。一方、東独産Tessarは本モデルよりも発色が更に温調で黄味が増してくる。古いTESSARで比較実験をやり直せば、東西の製品間にもっと大きな差を見出せるのかもしれない。

2011/01/26

Lomography DIANA+ 20mm Fisheye and 38mm Super-wide, and adapter with build-in aperture

lomographic fantasy!

トイ・レンズの奏でるプラスティックのファンタジー!
DIANA+用交換レンズを絞り羽内蔵アダプターにマウントして遊ぶ
 今回はオーストリアに生まれウィーンに拠点を置くLomographic Society(ロモグラフィー社)が販売するトイカメラのDIANA+(ダイアナ・プラス)に装着する2種の交換レンズ、20mm Fish-eyeと38mm Super-wideを取り上げる。このカメラの起源は香港のグレートウォール・プラスティック・カンパニーが生産していた伝説のトイカメラ「DIANA」である。米国のスーパーマーケットにて僅か50セントで入手できたDIANAは多くの写真家や芸術家によって、その類い稀な描写力が見出され、1960年代から1970年代に数多くの創造的な写真作品を生み出していた。このカメラにマウントされていたプラスティック素材のレンズからは泡沫のように色彩溢れ、時に薄汚れ、幻覚にも似た素晴らしい写真効果が得られたのだ。DIANAはHOLGAの元祖とも言われており、トイカメラの先駆的な存在とされている。最近再び巻き起こったトイカメラブームの波に乗り、2007年にLomography社が復刻モデルのDIANA+を発売、4種類の交換レンズ群(焦点距離20mm/ 38mm/ 55mm/ 110mm)とともに現代に甦らせた。また、これら交換レンズ群をNIKONとCANON(EOS)に装着するためのマウントアダプター(SLR Adapter)も発売され、トイカメラならではの素晴らしい描写をデジタル一眼カメラでも楽しめるようになった。


DIANA+用SLR Adapter (Lomography社製) CANON-EOS用(左)とNIKON-F用(右)が市販されている。市販価格は両方ともたったの1260円だ

 
左: Diana+ 38mm Super-wide; 焦点距離38mm 最短撮影距離 約1m 重量(実測)42g
右: Diana+ 20mm Fisheye; 焦点距離20mm 最短撮影距離 約0.3m 重量(実測)49g
本品にはフィルターを装着するためのネジきりがなく、絞り機構も付いていない

  このレンズはヘリコイドの繰り出し機構こそあるものの、絞り羽が内蔵されておらず、カメラマンによる高度な描写コントロールはこれまで不可能であった。ところが最近になって香港のKipon社から絞り羽を内蔵した全く新しい類いのマウントアダプターが発売され、このレンズに絞り羽の開閉機構を補う事が可能になった。Kipon社から発売されたのはCANON EOSのレンズをsony NEX、またはマイクロフォーサーズ規格のカメラに装着するため2種のアダプターだ。DIANA+ → EOS →NEXと2つのアダプターでブリッジすれば、ハロや周辺光量などの絶妙なコントロールを可能とする本レンズの新しい撮影スタイルが生まれるのだ。


 
絞り羽内蔵アダプター
 下の写真は最近マニアの間で話題が沸騰している絞り羽内蔵マウントアダプター(KIPON社製)だ。側面には制御ダイヤルがついており、絞り羽根を2段毎のステップ間隔で開閉させることができる。
私が入手したのは香港Kipon社製絞り羽内蔵マウントアダプター「EOS-NEX A」で、キャノンEOSマウント用レンズをSONY NEXにマウントするというもの。現在、eBayやヤフオクで入手できる。eBayでの価格は送料込みで120㌦程度であった。他にもEOSのレンズをマイクロフォーサーズ機にマウントする同種のアダプターが発売されている

DIANA+ →EOSアダプターと EOS→ NEXアダプターを併用し、DIANA+用レンズをSony NEX-5にマウントするところ

  ある日突然、このアダプターをDIANA+用交換レンズに用いるというアイデアを思いつき、さっそく実践してみることにした。DIANA+用レンズのイメージサークルは元々6×6の中判カメラに対応した広い規格だ。35mm判以下の一眼カメラに装着した場合には画像周辺部が写らないので、トイカメラの象徴的な描写である周辺減光の効果は失われてしまう。しかし、本アダプターを用いれば深く絞る際に四隅がケラれて周辺部の減光効果が蘇る。さらには減光具合の微妙なコントロールも可能になり、表現の自由度が増すというオマケまで付いてくる。ナイスフォロー!
 
★入手の経緯
  DIANA+用交換レンズとマウントアダプターはこちらのロモグラフィー・ジャパンのWEBサイトで通信販売されている。2011年1月に私が購入した時点での販売価格は20mm Fisheyeが5040円、38mm Super-wideが4620円、これらをEOSまたはNIKONにマウントするアダプターが、それぞれ1260円であった。同製品は国内の一部の写真店やデパートでも購入できる。知り合いの写真屋いわく、ロモグラフィー社の製品はどこも店でも取り扱えるわけでなく、同社の厳格な審査をパスした店のみ仕入れることができるとのこと。厳しい価格統制がおこなわ、安売りは厳禁。新品を安く購入することは不可能らしい。何と店に置く値札までロモグラフィー・ジャパンが用意するという徹底ぶりだ。

★撮影テスト
  DIANA+用交換レンズ群はソフトでゆる~い描写、高い彩度、ドリーミーなイメージを宣伝文句にしている。早速レンズをデジタルカメラにマウントし、ライブニューによるピントを合わせを試みた。ところが困ったことに、どんなに目を凝らしてもピントの芯が掴めない。どうやらこのレンズは目測で距離を決め、ヘリコイドリングに記された指標のみでピントを合わせを行うようだ。
 
★20mm Fisheyeと38mm Super-wideの画質比較★
 下の写真は今回入手した2本のレンズを同じ被写体に対して撮り比べたものだ。2本のレンズは全く異なる性格を示している。ご覧のように20mm Fisheyeはシャープで風景撮りに向いている。対する38mm Super-wideは球面収差を生かしたソフトフォーカス気味の描写が特徴で、ハイライト部に美しいハロを纏いドリーミーな撮影効果が生まれている。人物を撮るのに向いていそうだ。以下では個々のレンズの描写力について、もう少し詳しく踏み込んでみる。

デジタルカメラ (sony NEX-5, AWB)による作例。上段は20mm Fisheyeで下段は38mm Super-wideによる撮影結果だ


DIANA+ 20mm Fisheye
 20mm FisheyeはDIANA+用レンズ群の中でもシャープネスとカラー彩度が特に高く、画像周辺部に歪みと色滲みを生じさせるのを特徴としている。同シリーズの中では最も「まとも」に写る製品と言われている。こういう噂話を耳にしてしまうと、トイレンズとしてはいまいち面白味に欠けるという印象を抱いてしまう。しかし、そうした先入観はこのレンズが真価を発揮するにつれて、いつの間にか消し飛んでしまった。以下作例。
20mm Fisheye / NIKON D3 digital(AWB): こちらは絞り開放での撮影結果。このとうりに解像力(緻密さ)は低いが、ごく普通に写る。最短撮影距離が0.3mと短いので、花などの近接撮影も可能だ。フルサイズセンサー機で用いると、周辺部にフィシュアイレンズ特有の歪みが生じる

20mm Fisheye, digital / sony NEX-5 digital(AWB):こちらはAPS-Cセンサー機での撮影結果だ。画像中央部しか写らないので、歪みはほぼ無くなってしまう。こういう作例ではトイカメラらしさが全く表れない。しかし、次の作例をご覧いただきたい。

DIANA+ 20mm Fisheye / sony NEX-5 digital (AWB):曇り空の夕刻における作例だ。光量が少ないと性格がガラッと変わり、薄汚れた雰囲気のある描写を示すようになる。どうやらこのレンズの真価を引き出すには光量を落とし、シンプルで絵画的な被写体をターゲットにするのがコツのうだ。ソフトな結像がボケ味に似た効果を生み、背景の樹木の描写に独特な雰囲気を与えている。なお、本作例では絞り羽内蔵アダプターを用いて画周辺部をやや減光させている

DIANA+ 20mm Fisheye / sony NEX-5 digital(AWB):絞り内蔵アダプターを用いて深く絞り込むと、日中でも減光され、先の作例と同様に薄汚れたアートな空間が生みだされる。実に面白いレンズだ
このレンズが真価を発揮するには少しばかりコツを要することがわかった。光量の少ない条件下において、絵画的な被写体をターゲットにすると独特な描写を示すようになる。絞り羽で周辺部を減光させると雰囲気が更に増すであろう。

★20mm Fisheyeと絞り羽内蔵アダプター★
 絞り内蔵アダプターを用いた被写界深度の制御が本レンズにおいて、どれほど有効に機能するのか調べてみた。下の写真は絞り開放による撮影結果(上段)と適度に絞った状態における撮影結果(下段)だ。瓦のあたりにピントを合わせているが、ご覧のとうりに絞ってみてもアウトフォーカス部の鮮明さに明確な変化は見出せない。被写界深度が極めて深く、パンフォーカス気味に設計されたレンズなのだろう。
20mm Fisheye / sont NEX-5 digital(AWB):上段 絞り開放, 下段 絞り込んだ結果

38mm super-wide
  先の作例にもあるように、こちらのレンズではソフトフォーカス効果が強く働き、ポワーンと甘い雰囲気が漂っている。また、ハイライト部にハロが発生し、その輪郭が薄い光のオーラを纏う。カラー彩度が高くジューシーな色ノリとなり、いかにもトイカメラらしい表現が可能である。

DIANA+ 38mm Super-wide / NIKON D3(AWB):噂どうりにソフトで甘く、高彩度な描写が得られる。気のせいか、このプラスティックレンズを介すると写るものまでプラスティックに見えてくる。面白いレンズだ

DIANA+ 38mm Super-wide / NIKON D3 (AWB):このソフトな描写は人を撮ることに特化していると言い切っても良さそうだ
DIANA+ 38mm Super-wide /sony NEX-5 digital(AWB):こちらは屋外での撮影結果(SPIRALの近影)である。ハイライト部のハロがやや強く出過ぎている印象だ。こういうケースは絞って撮った方がよい。絞り羽内蔵アダプターの出番か!?

★38mm Supe-wideと絞り羽内蔵アダプター★

38mm Super-wide / sony NEX-5 digital(AWB):上段 絞り開放, 下段 絞り込んだ結果
 上の画像は絞り羽内蔵アダプターを用いて撮影した結果だ。上段は絞り開放によるもので、下段は深く絞り込んだ場合の撮影結果となる。右側の椅子の輪郭部や背景のビール瓶の箱に注目すると、絞った撮影結果の方がハロの滲みが薄く、結像も緻密になっていることがわかる。20mmFisheyeと比べるとこちらのレンズの方が絞り羽内蔵アダプターの効果は、より顕著にみえる