おしらせ


2010/06/11

CBC COMPUTAR 35mm/F2.8(M42) コンピュータ


監視カメラ用レンズの世界トップシェア企業が限定生産した珍しいM42マウントレンズ

 「ずいぶんと個性的な名前だな?」と興味を抱き、eBayを介してギリシャの中古レンズ業者still22から僅か62㌦で購入したのが、今回取り上げる単焦点レトロフォーカス型広角レンズのCOMPUTAR(コンピュータ) 35mm/F2.8だ。ちなみに電子計算機を意味するCOMPUTERとは一字違い。わかっていることは、これが日本製であることと望遠レンズ(135mm/F1.8という驚異的なスペックを持つM42マウント用)の姉妹品があることのみ。「逆輸入よろしく頼みます!」とstill22に告げ送ってもらった。届いたレンズを手にして、本やインターネットで製造元を調べてみたが、困ったことに何一つ手掛かりが掴めない。仕方なく諦めてヤフオクに出品したところ、その直後に「フレクトゴンのnavyblueさん(山形)」から一報が届いた。navyblueさんの仕事の取引先にCBC株式会社という企業があり、ここが製造している監視カメラ用レンズのブランドの名がCOMPUTARであるというのだ。CBC社に電話で問い合わせてみたところ「確かに15年程前にペンタックス・スクリューマウント向けに若干数を限定製造した覚えがあるが、正規に販売した商品ではない」との返答。面白い!そして、製造元は判明した。本品は監視カメラ用レンズで世界トップシェアを誇るCBC株式会社がM42マウントのラインセンサー用高性能カメラを造るという取引先の要望に応じ、若干数を限定生産したレンズである。確認は取っていないが電話で応対してくださった方のお話から察すると、取引先はペンタックスのようである。本品と同じ外観を持つ同一品らしきレンズが監視カメラ(CCTY)用としても販売されている。こちらは多分、c-mountであろう。
 CBC株式会社は1925年に創業以来、化学品、合成樹脂、医薬品、農薬、食品、医療機器、監視用レンズやカメラ等のセキュリティ機器、情報通信機器部品、アパレル等の輸出入と国内販売、及び製造などを手がける商社とメーカーの機能を兼ね備えた企業である。もんじゃ焼きで有名な東京都中央区の月島に本社を置き、国内外に多数の事業支店を持つ。会社名のCBCは旧社名(中外貿易株式会社)の頭文字(Chugai Boueki Co.)とのこと。
フィルター径:49mm 焦点距離:35mm/絞り値:F2.8-F16, 最短撮影距離:0.5m, 重量(実測):196g, 絞り羽根:5枚, 光学系の構成は不明。デザインは過去に本ブログで取り上げた50mmのMCペンタコンに良く似ている。

★入手の経緯
 本品は2009年12月にeBayを介し、ギリシャの業者still22 から送料込みの総額62㌦(約5500円)で落札購入した。この業者はクラシックレンズを専門とする優良・有名業者のため、品質には全く不安はなかった。オークションの記述は適確で、レアな商品を多く取り扱うため人気が高い。オークションに掲載されていた商品の状態はEXCELLENT++コンディションで「鏡胴に僅かな使用感がある。光学系は全エレメントがクリア。機構的にはパーフェクト。絞りは適確かつスムーズに動作し、絞りリングやフォーカスリングはスムーズで適確に回転する。」とのこと。届いた商品は全くその通りであった。
 
★試写テスト
使ってみたところ、思っていた程カリカリした描写にはならず階調は軟らかい。CBC社の方の話によると製造された時期は1995年頃とのこと。この頃の品ならば高級・廉価品を問わず、低分散・高屈折率のガラス素材が使われ、マルチコーティング処理が施された現代的な性能を備えたレンズであろう。デジタル一眼レフカメラ(APS-C)につけて撮影テストをした印象は下記の通り。

●開放絞りではコントラストの低下が顕著で結像が甘く、コマが出ているのかピント面はややぼんやりとする。その影響のためかピントの山はやや掴み難い。1段絞れば無難にスッキリ写るようになる。

●最新のデジタルカメラで使用する場合には倍率色収差が顕著にみられ、近接~中距離の撮影において白っぽい被写体の輪郭部が色づいて見えることがある。最近のデジカメは解像度が高く一昔前のレンズの性能を遥かに超えているので、この種の色収差をはっきりと拾う。

●背後には2線ボケが生じていることがしばしばある。ただし、コマフレアが残存しているおかげなのかザ、ワザワ乱れたり崩れたりする程までにはならなかった。

●画角の広い銀塩カメラやフルサイズセンサを搭載したデジイチを用いなかったので、画像周辺部の歪みについて、踏み込んだ事は何も言えないが、建築物に対する撮影においては何ら気にならないレベルであった。

以下作例

左F2.8/右F8 開放絞りにおける結像は甘い。周辺部の歪曲は肉眼では判断できないレベルだ。銀塩カメラやフルサイズセンサのデジカメを用いて、更に広い画角で撮影すれば、もう少し差が出るかもしれない
F2.8 開放絞りで近接撮影の場合は、このように結像が甘くなる。このぼんやりポワ~ンとした解像感の無さは一般撮影で生かすことのできる優れた描写力だ
F2.8 アウトフォーカス部はどのような距離でも乱れたり崩れたりすることなく常に穏やかだ
F5.6 このとおり1-2段絞れば普通に鋭いレンズとなる。コントラストも良好で階調変化はなだらかだ

左:F2.8/右:F5.6 絞り開放ではコントラストの低下が顕著だが、1-2段絞ればメリハリのきいたシャープな描写になる
F5.6 1~2段絞ると肩の辺りに色にじみが出た。しかし、同じ35mm/F2.8のシュナイダー・クルタゴンの方がもっと激しい色にじみであった
F4  ボケ味の柔らかさ(硬さ)はごく普通のレベル。フワッと表現できる程でもなければ、硬いわけでもない

F5.6 ヒヒーン。鼻息荒らそうで、なんだかエロティック

★撮影環境
EOS Kiss x3 +CPC COMPUTAR 35/2.8+  PENTACON metal HOOD

このレンズは意外にも開放絞りの付近でしっとりした描写力を持っている。1~2段絞ればカリッとシャープになるなど一般撮影において充分に楽しめるレンズだ。


2010/06/05

シュナイダーとイスコ 第3弾: Schneider-Kreuznach TELE-XENAR 150/5.5 テレクセナー


アメリカンバイクの似合う
レザーメタル調のデザインが魅力
Xenar(クセナー)はシュナイダー・クロイツナッハ社のテッサー型レンズ(3群4枚)につけられるブランド名だが、tele-xenar(テレクセナー)は代々テッサー型ではなく、4群5枚構成とのことだ(同社HPの「ビンテージレンズデータ」を参照)。今回入手した150mmのTele-xenarはシュナイダー社が1951年に製造した単焦点望遠レンズで、対応マウントにはM42用とEXAKTA用が存在する。鏡胴の材質には真鍮が用いられており、手に取るとズシリと重い。重量を量ってみたところ352gもあるのでビックリした。機構面での特徴は絞り羽根が何と19枚もあることと最小絞り値がF32まであること。大した拘りだが、こんなに羽根があったら重くなるのも当然だろう。当時のプロユースを意識したレンズと言えそうだ。
絞り機構にはカメラとの連動を一切行わないプリセットという方式が採用されている。絞り羽根はリングの回転に応じて無段階で開閉する。頑丈な造りと個性的な鏡胴のデザインが特徴のレンズだ。これに髑髏シールでも貼って使用したら撮影の楽しさが大きく膨らむ。


フィルター径:ネジ山なし, 重量(実測):352g, 絞り値:F5.5-F32, 絞り機構はプリセット, 最短撮影距離:2m, 光学系の構成は2群4枚Bis-telar型, 絞り羽根数:19枚, 本品はEXAKTAマウント用だがM42マウント用の品も存在する
Tele-Xenar F5.5の設計構成:Australian Photography Nov. 1967, P28-P32からのトレーススケッチである。2群4枚のBis-Telarタイプ(望遠基本タイプ)である。後玉の正パワーを弱めることでテレフォト性を稼ぎ光学系の長さを短縮させている


★入手の経緯
本品は2010年3月にeBayを介して米国サウスキャロライナの質屋から送料込みで総額100㌦程度で購入した。この業者はカメラ専門ではないためやや不安ではあったが、高価なレンズではないし、オークションの解説も詳しく丁寧だったので博打的に購入してみることにした。入札は13件と大して盛り上がらなかった。解説では前玉側から見るとレンズの端部に汚れがあるとのこと。届いた品を覗いてみると単に混入したホコリが溜まっているだけであった。古いレンズなのでホコリの混入が無いものは皆無。清掃するほどでもないし、この程度の事を気にしてはオールドレンズなんて買えません。

★テスト撮影
このレンズは鏡胴の格好の良さに惹かれ、それだけで購入してしまった。描写には全く期待していなかったのだが、使ってみたところかなり味わい深い撮影結果が得られることがわかった。発色は淡泊でコントラストは低いなど、いかにもモノクロ撮影の時代のレンズに共通する特徴が出ている。ところが色が薄くなり無駄な色が落ちたことにより白や黒の主張がグッと増し、何でもない物がよく使い込まれ手に馴染んだ物のように見えてしまうのだ。過去に取り上げたモノクロ時代のレンズとは何か一味違う印象を受ける。
シャープスは高く、絞り開放から甘さはない。中間階調が省略気味で、暗部が黒つぶれし明部が白飛びを起こしやすいなど階調変化に粘りがない。やや糸巻き状の歪みが出ている。以下作例。

F8 このレンズのデザインは私の頭の中でアメリカンバイクのイメージと重なる。テスト撮影でまずはバイクを撮ろうと決めていた。晴天下での撮影の場合には写真左のようにフレアが発生しシャドーが浮気味になるのでフードの装着、撮影結果に対するレベル補正は必須となる。左は無補正、右は補正後
F8 バイクをもう一枚パシャリ。強い直射日光の降り注ぐ晴天下。白飛びや黒つぶれはあるも、なかなかまともな描写ではないか
F5.5 「うお。いい味出してるな!」と、このレンズの描写力を見直してしまった一枚だ
F8 デジタルカメラにつけて撮っているのに、なんだかフィルムで撮っているような感覚を覚える
F11 バリッとした硬質でシャープな描写だ
F11 所持しているEXAKTA-EOSマウントアダプターがちゃんと無限遠点のピントを拾っているのかテストしてみた。数百メートル先の遠景を撮影している。合焦マークは点灯しているものの、やや甘いかな?
F8 最短撮影距離が2mなのでこの距離感で近接撮影領域になる。暗部がやや黒潰れ気味だが綺麗にとれている

★撮影機材
Tele-xenar 150/5.5 + MAMIYA 2眼レフ用被せ式フード(42mm内径)


Tele-Xenarは古いレンズの持ち味を充分に楽しむことができる一本だ。次回は髑髏のシールを貼ってお出かけしてみたい。