おしらせ


2010/02/09

Isco-Göttingen ISCONAR 100mm/F4.5(M42)
イスコ・ゲッチンゲン イスコナー


コンパクトでスタイリッシュな望遠レンズ
ライトセーバーにはなりません

  「この写真ずいぶんと写りがいいわね。」写真を覗き込んだ妻がそう口にした。カメラについては素人の妻も、このレンズの描写力がいつもの標準レンズや広角レンズのものとは異質であることを直感したらしい。
  ISCO社はドイツの古都ゲッチンゲンにあり、名門光学機器メーカーのシュナイダー・クロイツナッハ社を親会社とする中小規模のレンズメーカーだ。24mmから400mmまで数多くのラインナップを揃えていた。現在はカメラ部門から撤退し、シネマ用プロジェクションレンズや工業用レンズのみ製造を続けている。親会社のシュナイダーが高級品、イスコが廉価版を製造するという企業イメージがあるようだが、イスコのレンズは決して安っぽいものではない。鏡胴はオール金属でしっかりと造り込まれ、工業デザイン的にも優れた製品が多い。
  今回取り上げるISCONAR(イスコナー)100mm/F4.5はISCO社が1950年代に製造した単焦点望遠レンズである。対応マウントにはM42とexaktaがある。光学系は3枚のレンズからなるシンプルなトリプレット型で、軽量化に有利な設計である。アルミ鏡胴を用いることや開口口径を小さく抑える事により、更なる軽量化が図られ、重量は162gとたいへん軽い。絞りにはカメラとの連動を一切行わないプリセット絞りという機構が採用されている。絞りリングの動作は各指標においてクリック感がなく、絞り羽根はリングの回転に応じて無段階で開閉する。シルバーのアルミ鏡胴に青く輝く目を内臓した美しいレンズだ。

重量(実測):162g, 鏡胴長さ:約8cm, フィルター径:41mm, 最短撮影距離:1.7m, 絞り値: F4.5-F22, M42マウント; 本品はプリセット絞りであるためマウント部に絞り連動ピンはついていない。ピン押しタイプのマウントアダプターを用いる必要はない

私はこれまで使いやすさと携帯性を重視するあまり標準レンズや広角レンズばかりに目を向けてきた。「望遠レンズなんて、ただ遠くのものがアップで撮れるだけでしょ?」という具合に軽視し、これまで1本も所持したことがなかった。しかし、最近になって望遠レンズの持つ圧縮効果とやらに興味を持ちはじめ、背景を大きく写した写真が撮ってみたいと思うようになり、遊び半分でISCONARを購入してみたわけだ。あまり期待もせずに使ってみたところ「これは素晴らしい!」とビックリ仰天、感動してしまった。圧縮効果の迫力には当然満足したのだが、それ以上に感激したのは優れた画質である。望遠レンズは単に遠くを写すだけの品ではなかったのだ。

★入手の経緯
2009年11月30日にeBayを通じて米国オークランドにある写真雑誌関係の一般業者から落札購入した。IsconarはレアなレンズのようでありeBayでも出品される事は稀である。ただし、eBay相場は100㌦前後といったところ。単焦点望遠レンズというカテゴリーは明るい大口径レンズを除き一般に人気が無いため、どのレンズも相場は安値で安定している。出品者の解説は「ガラス面に傷はない。コーティングも問題なし。僅かに埃があるがカビやクモリもなく良好な状態。絞りリングの回転は正常で的確。鏡胴に少し傷があるが、おおむね良好。」とある。経年にしては上等な品であった。

★描写テスト
画像周辺部に至るまで平坦性の高い結像と均質な描写を実現するという観点から考えると、画角の狭い望遠レンズは広角レンズよりも無理の少ないレンズ設計が可能である。このため望遠レンズには非の打ちどころのない高い描写力を持つ製品が数多くある。今回の主役であるISCONARもなかなかの描写力である。ピント面の解像感は開放絞りから極めて高い。口径が小さいので諸収差の影響は絞り開放でも小さいようだ。画像周辺部までシャープで歪みの少ない均質な画質が得られる。ガラス面のコーティングが単層なので逆光耐性が劣ると思っていたら、そんなことは全くない。筒身が長く前玉径が小さいことに加え、単純なレンズ構成であることが優位に働き、内面反射光が光学系内に蓄積しにくいようだ。フレアはあまり出ず高コントラストな撮影結果を維持している。ボケ味は硬いが、乱れることなく綺麗に整っている。とてもアンティーク品とは思えない素晴らしい描写力を持ったレンズである。

F5.6 素晴らしい解像力と高いコントラストだ。ちなみにフードはつけておらず半逆光という悪条件だがフレアは全く出ていない。これが本当に1950年代の製品なのだろうか。

F4.5  望遠レンズの描写が広角・標準レンズと大きく異なる点は、背景のボケた部分の像が大きく写る「圧縮効果」である。背景が迫ってくるように大きく写る。望遠レンズらしい無理のない設計のためかピント面は極めてシャープであると同時に、アウトフォーカス部のボケた部分の結像が大変良く整っている

F5.6 画像周辺部まで均質な画質が得られている
F4.5 開放絞りでもシャープな像だ

F4.5 ボケはこの通りにザワザワと硬い

F5.6 屋根の瓦が持つ色や質感がよく再現できている

★撮影環境 Isco-Göttingen ISCONAR 100mm/F4.5 + EOS kiss x3


これは本当にいいレンズだ。ISCONARに出会い、望遠レンズに対する価値観が変わった。これからはもっと望遠レンズにも目を向けてみたい。

2010/02/04

Steinheil München CULMIGON 35mm/F4.5
シュタインハイル・ミュンヘン クルミゴン


独特の設計だからこそできたこのサイズ。
コンパクトな広角レンズを探すと最後はクルミゴンに辿りつく
 
こんなに小さな一眼レフ用広角レンズはちょっと見当たらない。ドイツ・ミュンヘンの老舗光学機器メーカー、シュタインハイル社が1956年に製造したクルミゴンである。光学系はシュタインハイルが得意とする3枚構成のトリプレット型を原型とし、最前面に凹レンズを1枚置いて包括角度を広げ、4群4枚構成でレトロフォーカス化したユニークな設計であり、正レンズと負レンズが2枚づつとなるため光学系のバランスが良い。レトロフォーカス化に便乗し、同時に高画質化も実現してしまうという優れたレンズ構成である。アルミ素材の鏡胴に加え、口径を小さく抑えた設計により重量わずか130gの超小型・軽量ボディを実現した。APS-Cセンサーを搭載したデジタル一眼レフカメラが全盛の今、使いやすい35mmの焦点距離を持つ本品への注目度は高い。なお、レンズ名の由来はラテン語の「頂上」を意味するCulmenで、広角レンズなのでこれにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせCulmigonとした。
 
★入手の経緯
 本品は2009年12月にeBayを通じて米国ワシントンの業者から送料込みの80㌦で落札購入した。eBayでの落札相場は80-130㌦くらいだろう。解説には「マウント部にハゲ。フォーカスリングに小さな傷。フォーカスリングの回転はスムーズだが少し重い。絞りリングの回転は快調だが、絞り羽には若干オイル染みがある。ガラスはクリーンでクリア。キャップがつく。」とある。後日手元に届いた現物の全てを的確に物語っていた。

フィルター径:40.5mm, 重量:130g, 光学系:4群4枚, 焦点距離:35mm, 絞り値:F4.5-F22, 最短撮影距離: 0.5m。本品はプリセット絞りである。絞りリングには各指標においてクリック感がなく、絞り羽根は実質的に無段階で開閉する

★描写テスト
クルミゴンの設計には割り切りの良さを感じる。開放絞り値がF4.5とやや暗めの仕様だが、元の原型がシンプルなトリプレット構造であることや、ボケ味を出し難い広角レンズであることなどを考えると、無暗に大口径化するよりもコンパクト性を重視するほうが製品としての特色が出しやすい。そう考えると、描写のチューニングも自然とシャープネスを優先するものになる。本レンズの特徴は下記の通りだ。

●画像中央部は絞り開放からシャープに結像する。
●周辺部は湾曲収差の影響で、結像はボケ気味である。
●発色は薄くて淡い。暗部が浮き気味になりコントラストは明らかに低い。
●二線ボケやグルグルボケは出ていない。ボケ味は硬め。
●ガラス面は単層コートティングなので逆光に弱くフレアが発生しやすい。フードは必須だ。

以下、作例を示す。

F4.5 この通り中央部は絞り開放からシャープだが周辺部の結像は像面湾曲の影響でボケ気味

 
F4.5 コントラストは低く発色は淡白。アウトフォーカス部では輪郭に沿ってエッジがシャープに立ち上がっている。ボケ味は硬く騒がしい

F5.6 下方の芝生の結像がガサガサと煩さく像がタルのように歪み縮まっているようにみえる。歪曲収差が出ているようだ?

 
F8 これくらい絞っておけば周辺部まですっきりと高画質だ。いいレンズではないか

★撮影環境: Steinheil CULMIGON + EOS kiss x3 + マミヤ2眼レフ用HOOD(42mm径)

 

 シュタインハイル社製のレンズには特色のある品が多い。第二次世界大戦による工場の被害さえなければ、戦後のシュタインハイルは名実ともにライカやツァイス、シュナイダーと並びドイツを代表する規模のメーカーとなっていたのだろう。中小企業という劣勢の立場、伝統ある老舗メーカーとしての誇りがシュタインハイルの製品を魅力あるものにしたのだろう。