おしらせ


2009/07/20

Carl Zeiss Jena Flektogon 25mm/F4 & 20mm/F4 M42-mount
カールツァイス・イエナ フレクトゴン

こちらに改訂版があります
(2017年1月改定)




Flektogon 25mm/F4 (M42-Mount): 最短撮影距離:0.18m フィルター径: 77mm 重量:358g, 設計者はWolf Dannberg

Flektogon 20mm/F4(M42-mount): 短撮影距離: 0.16m フィルター径: 77mm 重量: 320g  

撮る楽しさを盛り上げてくれる

圧倒的な存在感が魅力

 フレクトゴンは旧東ドイツの名門カール・ツァイス・イエナ社によって製造された広角レンズのブランド名である。20㍉/F4, 25㍉/F4, 35㍉/F2.8の3種のラインナップが存在し、フレクトゴン広角3兄弟の愛称で親しまれている。今回テストする25㍉と20㍉のフレクトゴンはそれぞれ1959年と1961年に登場した。大きな前玉と太く短い鏡胴、お洒落なゼブラ柄のリングが外観の特徴である。両者は大きさやデザインがよく似ているため、一見して区別がつかないが、20㍉版のほうがピントリングの縦幅がやや長く前玉の鏡胴がやや短い。25㍉版は1967年に製造を終了している。一方、20㍉版は35㍉版とともに、ガラス面にマルチコーティングを施した黒い鏡胴としてモデルチェンジし、1976年から1981年まで製造が継続される。フルサイズセンサーを搭載したEOS5Dでも後玉がミラーに干渉することなく使用できるようだ。

フレクトゴン広角三兄弟。左から20㍉/F4, 35㍉/F2.8, 25㍉/F4。M42マウントの他にエグザクタマウントが存在する。中央の35㍉版は過去に本ブログでも取り上げた、レンズ名はラテン語の「曲がる、傾く」を意味するFlectoにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせたのが由来。


写真左:フレクトゴンの舌 右:25mm/F4の後玉

フレクトゴンはマクロレンズなみの近接撮影能力を持つのが特徴で、草花や虫をアップで撮影すると肉眼では見ることのできない凄い世界が撮れる。またパンフォーカス撮影にも向いており、近接から遠景に渡る構図において極めて深い被写界深度が得られる。鏡胴の迫力と存在感が撮影者のモチベーションを高揚させるオールドレンズ界の王者である。

入手の経緯
フレクトゴン20㍉/F4は現在もたくさん流通しており、中古店やオークションでの入手は容易だ。今回テストするレンズは2008年夏にeBayにてウクライナの中古カメラ業者から落札購入した。それまで270㌦程度の上限額を用意し何度か落札しようと試みたが、ことごとく失敗した。しかし、この時だけはどういうわけか入札数が少なく、価格が高騰しなかったのだ。新品同様(MINT状態)との触れ込みの品をたった202㌦+送料で手に入れることができた。届いた商品は文句のつけようがない極上品であり、美品の場合の国内相場は4万円程度なので本当にラッキーな買い物であった。デザインに迫力があるため重くてデカそうな印象を抱いていたが、実際に手にしてみるとそれほどでもなく、「あ~こんなもんか」という実感であった。重量320g強というのは、現代の20mm単焦点レンズが250-300gであることを考えると突出して重いというわけではないし、サイズも写真などで見ていたよりはだいぶ小さく感じた。発送元がポーランドになっていたが、たぶん業者が現地で商品を買い付け発送しているのだろう。
一方、フレクトゴン25mm/F4は2009年2月にドイツ版eBayにてスナイプ入札で落札した。ドイツ国内向けの商品であったため、入札者数は少なかった。入札の締切1分前に130ユーロの値を付けていたところに、「えいっ!」と250ユーロを投入したところ160ユーロ(約2万円)であっさり落札できてしまった。25㍉版はもともと製造数が少ない珍品のため20㍉版や35㍉版よりも高額で取引されている。eBayでの相場は350㌦以上、国内相場だと4万5千円はする高価なレンズである。じっくり腰をすえ何度もトライした甲斐があったと思われた。ところが届いた商品は後玉のコーティングにポツポツとした焼けつきがあった。古い品なので仕方ないがオークションの記述にはなかった。一瞬、返品も考えたが実写には影響が無い程度のため我慢することにした。

試写テスト
フレクトゴンの前評判をまとめると・・・

●優れた近接撮影能力を持ち、最短撮影距離は20㍉版で15cm, 25mm版で20cmとマクロレンズ並みである。花や虫を撮るのが楽しそうだ。
●被写界深度がたいへん深く、パンフォーカス撮影に向いている。
●画像中央だけでなく周辺部まできっちりシャープに写り、独特のヌケの良さと透明感のある発色が得られる。
●周辺画像の歪みや光量の低下がたいへん少ない。
●モノコート仕様のため逆光に弱く、コントラストが低下する。


かなり優秀なレンズのようである。

flektogon 20mm/F4:  最小絞りf22による撮影結果。手前の花と遠景の両方が被写界深度内に収まっている。本レンズならではの構図だ
フレクトゴン25(左)と20(右)を同じ撮影条件で比較した。両者は発色やコントラストなど画作りが大変よく似ている。光の多い状況下だが暗部は浮き上がることなく安定しておりコントラストは悪くない。近接から遠方まで大変シャープな結像が得られている。周辺部の歪みも少ない。絞り値はf16。サンプルは無修正・無加工

左は25mm、右は20mm。奥の電灯や紫色の発砲スチロールの色具合など、両レンズの発色はたいへん良く似ている。f8


flektogon 25mm:梅干の赤をきちんと再現できた。f8

flektogon 20mm: やはり25mm版と発色が似ている f8
flektogon 25mm/F4: 紫は若干淡いが、水色、ピンク、緑色はほぼ見た目どおりの発色である。ボケも綺麗。周辺光量の低下も無い。さすがツアィスだ。 f5.6

             flektogon 20mm: f5.6でボケを強調した

               flektogon 20mm: F16で今度はパンフォーカス気味にした
flektogon 20mm: F8

広角レンズは設計上あまりボケてくれないので、ある意味において表現力の乏しいレンズと評されることがある。しかし、フレクトゴンの多才ぶりを知ると、そんなことはどうでもよくなってしまう。フレクトゴンは広い景色を守備範囲とし、小さな虫に大接近し、パンフォーカス撮影をこなす。さまざまな撮影シーンで高い能力を発揮する楽しいレンズなのだ!  

撮影環境: Calr Zeiss Flektogon 25mm & 20mm + EOS Kiss x3 + HAKUBA wide metal Hood


フレクトゴンを持ってスナップ撮影をしていたら、あるとき道行く人に訪ねられた。


What's this? Is this a camera?

No, this is the FLEKTOGON.


2009/07/05

Rodenstock Heligon 50mm/F1.9 (M42 mount)
ローデンストック ヘリゴン


幻のレンズHeligonは

中間色の発色の良さが魅力

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 海外のあるレンズ収集家はブログ上で、M42マウントのHeligonについて「eBayで7年間も購入の機会を待ったが、出品されたのはたったの2件だった」と嘆いている。Heligon 50mm/F1.9は中判カメラの名門Rodenstock社が1959年に僅かに製造した標準レンズである。私は見たことがないが、エギザクタマウント用も存在するようだ。姉妹品として本ブログでも過去に取り上げた広角レンズのEurygon 30mm/F2.8が存在する。いずれも市場での流通量が極めて少なく、知る人ぞ知る隠れ玉とされ指名手配されている。無骨なデザインは人それぞれ好みが分かれるようだが、私はかなり好きだ。ガラスに光を当てると紫色に輝くのもお洒落。デザインはEurygonによく似ているが、フィルター枠の周りが銀色の二重線でカラーリングされているなど、こちらの方が若干凝っている印象を受けた。WEB上での情報が極めて少ないため、今回入手できたのを機会に少しばかり正体を明らかにしてみたい。

フィルター径52mm 開放F値1.9 最短撮影距離0.6m M42-mount 鏡胴の側面に絞り開放レバーがついておりピント合わせの際に重宝する。レンズ名はギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosに「角」を表すGonを組み合わせたのが由来である。


Pentax MZ-3への装着例
左: 姉妹品のユリゴン 30/2.8 右:ヘリゴン 50/1.9 デザインがよく似ている

入手の経緯 
2009年6月にeBayに出品していたロスのカメラ業者から即決価格610㌦(6万円弱)にて落札した。この業者(ケビンさんが経営する"ゴー・ケビン・カメラ")は品揃えが極めて豊富でレアな商品を多数扱っているため私のお気に入りだ。価格は少し高めであるものの、日本の相場よりはいくらか安めの設定。本品の日本での相場は全く不明だが、ドイツ版eBayでの相場は1000㌦近い値であった。この業者からは過去にAngenieux 35mm/F2.5(M42)を購入した。商品の状態については、Minty/Rare (98% Mint)とあり、ほぼ新品同様品とのこと。実際に届いた商品は解説通りであった。それにしても、ケビンさんの商品調達能力は凄い。
試写テスト 
開放絞りでは解像度が落ち、やや甘い描写になる。また、暗部が若干明るくなるなどコントラストの低下もある。1~2段絞ればシャープになりコントラストは充分に高くなる。発色は僅かにクールトーン調で落ち着いており、姉妹品の広角レンズEURYGONと傾向が良く似ている。青や赤およびこれらの中間色がしっかり出てくれるのが魅力だ。このレンズの場合、開放絞り時の収差が大きいようで、ボケの暴れっぷりは凄い。二線ボケやグルグルボケが強く出る。1960年頃のレンズはどれも収差の補正が未熟なようで、大口径レンズの場合、ボケ癖の無いものに出会ったことがない。開放絞りにて近景を撮影する際には、背景のシーン選びに注意し、心配ならば少し絞ったほうが無難だろう。
アジサイの色は難しい中間色であり、きちんと再現できればかなり優秀なレンズだ。過去にLithagon35mm/3.5とPANCOLAR50mm/1.8で挑んだが、ともに淡くなり、だいぶ白っぽい色合いになってしまった。Heligonは見た目に近い色を再現した。F4
開放絞りで近景を撮影すると、背景に二線ボケやグルグルボケが強く発生する。収差が大きくボケ癖が強いようだ F1.9
少し絞っておけばこのようにボケは綺麗に整いコントラストも向上する F4
PANCOLAR(50mm/F1.8)のテストの時と同じ被写体を同じアングルで開放絞りにて撮影した。撮影時期が1週間程後のため前回の撮影時よりも花が萎んでしまった。気のせいかPANCOLARよりもボケが強い気がする。EURYGON 30mmの時にも30mmにしてはボケが強いなと感じた。絞り開放で球面収差が大きいのだろうか?背景のコンクリート部分を比べるとわかるがコントラストはPANCOLARのほうが高い。一方、花びらの発色を見比べれば中間色の再現性はHeligonの方が上である。 F1.9

階調表現もなかなか良い。早大理工キャンパスの新校舎にて F5.6

初夏の雰囲気を取り込む F5.6

開放絞りでの描写はこのように甘いので1段~2段絞ったほうが実用的だ F1.9
開放から一段絞るだけで、このように大変シャープになる 。Heligonの絵づくりは中間色の再現性に優れており、ピンク色がしっかりと出ている。PANCOLAR 50mm/1.8で撮影したコスモスのサンプル画像と比較して欲しい。

こちらもPANCOLAR50/1.8と同じシーンを写した。なかなか優れた発色だ f2.8

発色が優れているとはいえ金色(輝光色)の再現はさすがに難しい。銀色っぽくなってしまう(現代のレンズでもまともに写りません・・・。レンズの問題なのかどうか?)
パンカラーと同じシーンを何枚も撮影し比較した。色の濃淡(コントラスト)はパンカラーのほうが上、中間色の発色はHeligonのほうが上であると感じた。


撮影環境 Rodenstock Heligon 50mm/F1.9(M42-mount) + EOS Kiss x3 + PETRI HOOD

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