おしらせ


2015/12/19

Fuji Photo Film X-Fujinon 50mm F1.9 (Fujica X-mount)*










Xフジノンの明るいノンガウス part 3(最終回)
これにて結成!フジノンのノンガウス3兄弟
Fuji Photo Film X-Fujinon 50mm F1.9
フジカ交換レンズ群の著しい特徴はコストを徹底して抑えるストイックなまでの開発姿勢がレンズのバリエーションに多様性を生み出している点である。レンズ構成はバラエティに富み、エルノスター型、クセノタール型、プリモプラン型、ゾナー型、ガウス型など何でもありのパフォーマンス空間が展開されていた。今回はその中から少し珍しい反転ユニライト型の設計構成を採用したX-Fujinon 50mm F1.9を取り上げる。この種の設計を広めたのは1960年代に中判カメラの標準レンズとして活躍したリンホフ版プラナー(G.ランゲ設計)である。本ブログでも過去にグラフレックス用に供給された同一構成のプラナーを取り上げているが、線の細い繊細な開放描写を特徴としていた。今回取り上げるフジノンは、このレンズにインスパイアされた製品であると考えられる。
レンズの設計はダブルガウスの前群側のはり合わせレンズを分厚い1枚のメニスカスレンズに置き換えた5群5枚の形態である(下図)。構成枚数がダブルガウスより1枚少ないうえ、後群のバルサム接合部が空気層に置き換えられているので、製造コストを抑えるには有効な設計であった。各エレメントを肉厚につくることで屈折力を稼ぎ、この種のレンズ構成としては異例のF1.9の明るさに到達している。このレンズは1970年代にM42マウントのフジカSTシリーズ用レンズとして登場し、X-Fujinonシリーズへの移行後(1980年~)も生産が継続された。
X-Fujinon 50mm F1.9の構成図。構成は5群5枚の反転ユニライト型(空気層入り)である。標準レンズでこのくらいの明るさを想定するなら通常は6枚構成によるダブルガウスを採用するのが定石であるが、本品は僅か5枚の構成でガウスタイプと同等の明るさF1.9を成立させている。接合面を全く持たないことも製造コストの圧縮には有利で、チープな製品を実現することにおいても高い技術力を投入することができた日本製品ならではの独自色を感じる  
入手の経緯
このレンズは2015年4月にヤフオクを介して東京の個人出品者から落札した。オークションの記述は「フジカAXシリーズのレンズ。状態は良好で奇麗。キャップはついていない」とのこと。スタート価格3000円、即決価格5000円で売り出されていたが、自分以外に入札はなく、開始価格3000円で私のものとなった。実に人気のないモデルである。届いたレンズは僅かなホコリと前玉にコーティングレベルのクリーニングマークが2~3本あるのみで、実用十分の状態であった。キットレンズとしての供給がメインだったのでカメラとセットで売られていることも多い。
Xフジノンのフランジバックは43.5mmとデジタル一眼レフカメラで用いるには短すぎるため、現代のカメラで使用する場合にはマウントアダプターを介してミラーレス機で用いることになる。どうしてもデジタル一眼レフカメラで用いたいならば、やや流通量は少ないがM42マウントの旧モデルを探すとよい。フジカXマウント用のアダプターがやや高価なので、アダプターを含めたトータルコストを考えると、M42マウントのモデルを選択した方が懐には優しい。
重量 150g, フィルター径 49mm, 絞り値 F1.9-F16, 絞り羽根 5枚構成,  最短撮影距離 0.6m, 構成 5群5枚(空気層入りの反転ユニライト型), 対応マウントはフジカXマウントとM42マウント, レンズは海外でPORSTブランドでも市販されていた




撮影テスト
開放ではピント部を僅かなフレアが覆いシャドー部の階調が浮き気味になるなど、オールドレンズにはよくある、いい場面もみられる。コントラストは低下気味となるが、これはXフジノンの明るい標準レンズに共通する性質なので、おそらく背後の硬いボケ味をフレアで覆い目立たなくするための意図的な描写設計なのであろう。フレアを抑えクッキリとしたシャープな像を求めるには一段以上絞って撮る必要がある。ポートレート撮影では背後のボケがザワザワと煩くなる事があるが、少し絞れば安定する。なお、グルグルボケや放射ボケは、このレンズに関しては全く出ない。発色はノーマルでシアン系の色乗りが力強く出るあたりは現代的な写りである。解像力は良好だが80年代のレンズとしてはごく平凡なレベルだ。
正直なところ大暴れの描写を求めていた私としては期待外れのレンズであったが、自分がレンズの描写に求める価値観やレンズとの相性がハッキリわかったので、それだけでも一つの収穫であった。

撮影機材 SONY A7, メタルフード使用
Photo 1, F1.9(開放) sony A7(AWB): 開放では極僅かにフレアが発生するが、これに独特の青みがかった発色が相まって肌が綺麗にみえる。解像力は高いしヌケもよい。絶妙なフレアレベルだ

Photo 2, F1.9(開放) sony A7(AWB): このくらいの距離では背後のボケが硬めでザワザワとうるさくなる。本レンズも含め5枚玉のレンズにはボケの硬いものが多い。ピント部の画質は四隅まで良好なレベルである






Photo 3, F1.9(開放) Sony A7(AWB): 厳しい逆光にさらしてみたが、空の色がちゃんと出た。ハレーション(ベーリンググレア)は出るがゴーストはでにくいようだ

Photo 4, F4 sony A7(AWB): これくらいが最短撮影距離。もう少し寄れるとよいのだが・・・

Photo 5, F4 sony A7(AWB): ハイライト部がもうちょい粘るといいのだが…ちなみにグラフレックス版プラナーはもっと粘った


 
今回の特集「Xフジノンの明るいノンガウス」ではガウスタイプのレンズとは異なる描写を求め、3本の明るい標準レンズを取り上げました。この中で私が一番気に入ったのは、皆さんご察しのことかもしれませんが、1本目の55mm F2.2です。理由は使っていて一番ワクワクしたレンズだからです。3本のレンズに共通する性質はレンズの構成枚数がガウスタイプよりも少ないことと、ボケ味が硬いことです。ボケ味が硬いのは球面収差の補正パラメータが不足しているからで、これは構成枚数が少ないことと密接に関係しています。補正パラメータの不足を収差の過剰補正で強引に処理していますので、その副作用としてボケの輪郭部に火面と呼ばれる光の集積部が生じ、ボケ味が硬くなるのです。この傾向が最も強かったのが4枚玉の55mm F2.2でした。バブルボケはオールドレンズに特有の描写特性であることを、改めて強調しておきたいと思います。
 

2015/12/18

Fuji Photo Film X-Fujinon 55mm F1.6(Fujica X-mount)*



Xフジノンの明るいノンガウス part 2
F1.6に到達した孤高のクセノタールタイプ
Fuji Photo Film X-Fujinon 55mm F1.6
クセノタール型レンズと言えばF2.8あたりまでが明るさの限界であると考えられてきたが、このレンズは例外的に明るく、なんとF1.6を実現している。構成図を下に示した[文献1]。恐らくこのタイプの製品の中では世界で最も明るいレンズなのであろう。富士写真フィルム株式会社(現・富士フィルム)が1970年代から1980年代にかけて生産したFujinonおよびX-Fujinon 55mm F1.6である。
クセノタールの構成で明るいレンズを実現するには、画角特性に目をつむり後群側の負のメニスカスレンズ(下図の右側から2番目のレンズ)を分厚く設計することが良いとされている[文献2]。このようなアプローチでF2前後の明るさを実現したレンズには英国のレイ(Wray)社が1944年に開発したユニライト(Unilite)がある。ところが今回取り上げるフジノンの場合には比較的薄いメニスカスを採用しながら、更にもう一段明るい驚異的な口径比に到達しているのだ。どういうマジックを使ったのか詳細まではわからないが、フジの高い技術力あってのレンズであることは間違いはない。

X-Fujinon 55mm F1.6の光学系(文献1からの見取り図):左が前方で右がカメラの側である。構成は4群5枚のクセノタール型。テッサーよりも解像力が高く、ダブルガウスよりも画角特性が優れフレア量が少ない分シャープなのが特徴である。明るいレンズを実現するために前群の正のレンズエレメントがたいへん分厚く設計されている。この種のレンズ構成としては1950年代に登場したビオメタール(Biometar)  F2.8 (ZeissのH.ツエルナー設計) とクセノタール(Xenotar)  F2.8/F3.5 (SchneiderのG.クレムト設計)が有名である

F1.6という奇妙な開放F値は想像を掻き立てられる興味深いスペックである。当初はF1.4を目指していたものの目標まであと一歩のところで届かず、志半ばにして開発を終えたかのようなメッセージを感じるのである。きっと、F1.5であれば焦点移動の許容幅に免じて押し通してしまうことも十分に可能だったはずであろう。しかし、それでは自分達の無念の思いを自ら書き消してしまうようなもの。そう考えたフジの開発者は一切の気の迷いもなく名板に口径比F1.6を刻んだのであろう(←いつものアホな妄想)。
 
富士写真フィルム株式会社(現・富士フィルム)が一眼レフカメラの生産に乗り出したのは1970年のフジカSTシリーズの発売からである。同社はこのシリーズに搭載する単焦点レンズを広角16mmから望遠1000mmまで20タイプも揃えており、標準レンズだけでも45mmから55mmまで何と7タイプも供給していた。レンズ構成もエルノスター型、ユニライト型、ガウス型、クセノタール型、プリモプラン型、反転ユニライト型、ゾナー型など多種多様で、何でも揃うフジカレンズのラインナップはマニア達を狂喜させる闇鍋のような状況になっていた。フジカSTシリーズは1979年まで生産され、1980年からは新型カメラのフジカAX/STXシリーズが登場、それまでM42マウントで供給されていた交換レンズ群(闇鍋)は一部のモデルが刷新されたのみで、ほぼ同じラインナップのまま新しいマウント規格(フジカXマウント)のX-Fujinonシリーズへと移行している。

重量(公式) 275g, フィルター径 49mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り F1.6-F16, 構成 4群5枚クセノタール型, 1970年にM42マウントの旧モデルFujinon 55mm F1.6(フジカSTシリーズ用)として初登場し、1980年のX-Fujinonへの移行後も生産が継続された。海外ではPORST名でも市場供給されている。対応マウントはSTシリーズ用に供給されたM42マウント(1970-1979年)とFujica AX/STXシリーズ用に供給されたFujica Xマウント (1980-1985年)の2種, M42マウントの前期型はモノコート仕様で同後期型とfujica Xマウントの後継モデルはマルチコート仕様(EBCコーティング)となっている





 
★参考文献
  • 文献1: Baris S.Bille WEB page, "X-FUJINON" 2015年秋までは閲覧できたが現在は閉鎖中となっている。フジカレンズの情報が完全に網羅され素晴らしい情報量を誇っていた。現在はキャッシュ検索のみにヒットする。
  • 文献2: 「レンズ設計のすべて:光学設計の真髄を探る」 辻定彦著
入手の経緯
レンズは2015年5月にドイツ版eBayを介し写真機材専門セラーのアラログラウンジさんから即決価格71ユーロ+送料7ユーロ(合計約10000円)で購入した。商品の解説は「グッドコンディションで使用感は殆どない。クモリ、傷はない。ホコリの混入はあるが撮影には影響ない。絞りに油シミはなく開閉は的確でスムーズ」とのこと。届いたレンズは極僅かなホコリの混入がある程度で、美品といっても過言ではない良好な状態であった。
このレンズはどういうわけか最近になって海外での相場が急騰しており、米国版eBayでの取引額は30000円前後を推移している。3年前は5000円~7000円程度で取引されていたレンズだが、フルサイズミラーレス機の登場によりフランジバックの問題が解消されると、中古相場は5倍程度にまで跳ね上がっている。ただし、日本やドイツなど一部の国は流行の波に乗り遅れていたため、最近まで驚くほどの安値で売られていた。私がレンズを探していた2015年春の段階で米国版ebayでの相場は2万5千円程度まで上昇しており、日本のヤフオクでは既にレンズが品薄状態になっていた。一方、ドイツ版eBayにはまだ豊富に流通しており6000円から10000円程度の即決価格で手に入れることができた。現在はドイツ版eBayでも品薄状態が続いている。
なお、入手の際にはダブルガウス型のX-Fujinon 50mm F1.6と混同しやすいのでご注意を。こちらの相場価格はこれまでどうりの安値で推移しているので、慌ててポチる人が後を経たないようである。
 
撮影テスト
クセノタールの構成でF1.6の明るさは衝撃的であると言わざるを得ないが、かなり背伸びをした製品であることを忘れてはならない。おおむねよく写るレンズではあるが、開放で最短撮影距離(0.45m)で撮る場合には画質的にかなりの破綻がある。この場合、ピント部は激しいコマフレアに包まれモヤモヤとソフトな描写傾向になる。コントラストは低く、四隅では顕著な解像力の低下がみられる。前ボケが硬いので収差変動がおこったようで、球面収差が補正不足のようである。ソフトな描写傾向を求める場合は別として、通常は絞って使う必要があるだろう。一方、被写体から少し距離を置くと画質は急激に改善する。最短撮影距離の設定を間違えているのではないか思う程の急激な変貌ぶりである。被写体まで0.6~0.8m程度距離をとれば開放でも実用的なレベルの画質となる。ポートレート域になるとコマフレアはだいぶ収まり、四隅の画質にはかなりの改善傾向がみられる。F2.8程度まで絞ればスッキリとヌケのよいシャープな像が得られ、四隅まで充分な解像力となる。背後のボケはやや硬めだがフレアに覆われているためか煩いほどではない。シュナイダーのクセノタールでは若干見られたグルグルボケであるが、本レンズの場合には距離によらず全く発生しなかった。

撮影機材 SONY A7, メタルフード
Photo 1, F4 sony A7(AWB): 中心部の解像力は良いものの最短撮影距離では四隅の画質が破綻気味になる。(こちら)に示すとおり開放ではコマフレアが多く、更に厳しいことに

Photo 2, F2.8 sony A7(AWB): 少し被写体から離れれば画質は急激に改善する。最短撮影距離の設定を間違えたのではないかと思うほどの変貌ぶりである。開放では(こちら)に示すようにコマフレアが残存し、発色は依然として淡白である
Photo 3, F1.6(開放) sony A7(AWB): 開放でもポートレート域ならば、このとおり画質的には問題ない

Photo 4, F2.8 sony A7(AWB):やはりクセノタール型はF2.8辺りからが安定感を感じる


















Photo 5, F5.6 sony A7(AWB): 


Photo 6, F2.8 sony A7(AWB): 
Photo 7, F4 sony A7(AWB): このくらい絞れば四隅まで十分な画質だ

Photo 8, F1.6(開放) sony A7(AWB): 
































2015/12/11

Fuji Photo Film X-Fujinon 55mm F2.2(Fujica X-mount)*









Xフジノンの明るいノンガウス part1
バブルボケの出るお値打ちレンズ
Fuji Photo Film X-Fujinon 55mm F2.2
オールドレンズの分野では2~3年前から世界的に流行しているバブルボケであるが、火付け役となったメイヤー社のトリオプラン(Trioplan)100mmは中古市場の相場がついに10万円を超え、流行前の10倍の価格にまで跳ね上がってしまった。入門者には手を出し難い高嶺の花である。しかし、バブルボケの性質自体は何も特別なことではなく、程度の差こそあれ古いトリプレット系レンズやその発展形態のエルノスター系レンズ、スピーディック系レンズなどに普遍的にみられる描写傾向なので、探せばトリオプランのようなレンズは案外どこにでもある。ポイントは後ボケの硬いレンズである。10万円も出す必要はないので1本紹介しよう。富士写真フィルム株式会社(現・富士フィルム)が一眼レフカメラFujica AX/STXシリーズの交換レンズとして生産したX-Fujinon 55mm F2.2である。このレンズは1970年代に市場供給されたM42マウントの旧モデルFujinon 55mm F2.2の後継製品として1980年に登場し1980年代半ばまで生産されていた。マウント規格はAX/STXシリーズへの移行に合わせて登場したフジカXマウント(2012年登場のフジXマウントとは互換性がない)である。設計構成は下図に示すような4群4枚で、トリプレット(3枚玉)に正の凸レンズを加え屈折率を高めることで明るい口径比を実現している。中古市場での流通量はとても多く、ヤフオクでは2000円から3000円程度で取引されているお値打ちレンズである。Fujica AX用のマウントアダプターがやや高価なので、安く済ませたいならM42マウントの旧モデルでも設計は同一なので十分であると思う。ただし、M42マウントのモデルにはマウント部にプラスティックの小さなツメがありアダプターと干渉するので、棒やすりで削り落とす必要がある。また、初期のモデルはシングルコーティングなので、コントラストが高く発色の鮮やかな描写に拘るのであればEBCコーティング(マルチコーティング)が施されたM42マウントの後期モデルかFujica Xマウントの後継モデルを選択するのがよい。
X-Fujinon 55mm F2.2で文献1からのトレーススケッチ(見取り図)である。左が前玉、右がカメラ側である。設計構成はは4群4枚のスピーディック(Speedic)型
★参考文献
  • 文献1: Baris S.Bille WEB page, "X-FUJINON" 2015年秋までは閲覧できたが現在は閉鎖中となっている。フジカレンズの情報が完全に網羅され素晴らしい情報量を誇っていた。現在はキャッシュ検索のみにヒットする。

入手の経緯
このレンズはヤフオクを介し大阪の個人出品者から入手した。若干のクモリがあるとのことでキャップと保護フィルターがオマケでついていた。商品は開始価格500円でスタートし3人が入札、結局1300円+送料で私のものとなった。届いたレンズを清掃してみたところクモリの原因は汚れとカビの除去跡であった。カビ跡はコーティングの腐食なので除去できないが、清掃により実写に影響のないレベルまでクリアになったのでブログで紹介することにした。現在のヤフオクでの相場は2000円から3000円程度である。中古市場には大量に流通しており、じっくり探せばもっと安く手に入るかもしれない。フジカの廉価版キットレンズだったため、カメラとセットで売られていることも多い。
 
重量(実測) 130g, 絞り羽根 5枚構成, フィルター径 49mm, 画角 42°, 絞り値 F2.2-F16, 最短撮影距離 0.6m, 構成 4群4枚(スピーディック型), 対応マウントはSTシリーズ用に供給されたM42マウント(1970-1979年)とFujica AX/STXシリーズ用に供給されたFujica Xマウント(1980-1985年)の2種, M42マウントの前期型はモノコートで同後期型とfujica Xマウントの後継モデルはマルチコート(EBCコーティング)となっている
撮影テスト
撮影していてとても楽しめるレンズである。開放で僅かに発生するフレアがしっとり感を演出し、とても雰囲気のある撮影結果になる。シャープネスやコントラストはそれほど悪くはなく、適度な解像感が維持されている。もちろん絞ればフレアは無くなりスッキリとヌケの良い描写でコントラストも一層向上する。発色は癖などなく色乗りもよい。開放では背後のボケが非常に硬く、ザワザワと強い主張を示し2線ボケ傾向もみられる。バブルボケがかなりハッキリと発生するので、うまく利用すれば幻想的な面白い写真になるであろう。反対に前ボケはフレアにつつまれ柔らかい拡散を示す。像面湾曲が良好に補正されているようでピント部は均一性が高い。ボケはよく整っており非点収差に由来する背後のグルグルボケは全く目立たないレベルである。オールドレンズの入門者のみならず、素直で大人しいレンズでは満足できないという上級者にもオススメのとても楽しいレンズである。以下に示すのはすべて開放での作例だ。
 
F2.2(開放), Sony A7(AWB): しっとり感があり、とても魅力的な開放描写だ。背後のボケがザワザワと主張したがっている。ハレーションが出やすいにもかかわらず開放からシャープネスは高くコントラストも十分。解像力も良好だ





F2.2(開放), Sony A7(AWB, ISO2500): やはり、こうなった。バブルボケの出るレンズであることがわかる。しかも、かなりしっかりと出るようだ。こうなったら・・・
F2.2(開放), Sony A7(AWB): 最短撮影距離で逆光にさらしレンズに無理をさせるまでのこと!。無理をさせればさせるほど、レンズは底力を見せるようになる


2015/12/05

「オールドレンズx美少女」の出版記念イベントおよびモデル撮影会*


「オールドレンズx美少女」の出版記念イベント
およびモデル撮影会

写真家・上野由日路氏が執筆された「オールドレンズx美少女」の出版記念イベントが11月29日に自由が丘にてブリコラージュ工房NOCTOの主催で開かれました。イベントには「オールドレンズライフ」などの著書で有名な澤村徹さんや、「オールドレンズの新しい教科書」などの著書で知られる鈴木文彦さんら豪華な顔ぶれが駆けつけ大いに盛り上がりました。上野さんが出版された本については本ブログでも過去にこちらの記事で取り上げています。


祝賀パーティでは何と私が祝辞のスピーチを述べる大役を担うことに(大汗)。そして、パーティの後にはジョイント企画としてモデル撮影会が開催されました。自然光を生かしたハウススタジオで5人のモデルさんを4か所のロケーションで撮るというもので、今夏に鎌倉で行われた和モデル撮影会の続編という位置づけです。ここでの私の役割は撮影班(第1班)を引率し5人のメンバーを4か所のロケーションに誘導することでした。引率の合間に私も撮影をさせてもらいましたので、撮影に用いたレンズと写真をご紹介したいと思います。

1本目に使用したのはシネマ用レンズやズームレンズのパイオニアメーカーとして名高いフランスのアンジェニュー社が1942年から1958年まで生産した35mmスチル撮影用の明るい標準レンズのAngenieux Paris Type S1 5cm F1.8です。同じ班で撮影会場を巡回したKさんのご厚意により使わせていただいたレンズです。
Angenieux Paris Type S1 5cm F1.8 ALPA ALITAR用をLeica-Lマウントに改造したもの。最短撮影距離 1m, 製造期間 1942-1958年, 6種類のマウント規格(ALPA /LEICA /CONTAX/ RECTAFLEX/ EXAKTA/ M42)に対応する製品モデルが市場供給されています。


Angenieux Type S1 50mm F1.8の構成図。公式カタログからのトレーススケッチ(見取り図)。構成は4群6枚のダブルガウス型
レンズの鏡胴は上の写真にあるようなブラウン色でしたが、本来はブラックだったものが色落ちして、こんなにも美しいペイントカラーに変化したのだそうです。ちなみに中古市場に出回っている製品個体は様々なレベルで色落ちしており、あたかもカラーバリエーションがあるように思えてしまいますが、元は全て同じ色でした。レンズの構成は4群6枚の典型的なダブルガウス型です(上図)。このレンズが登場したのはダブルガウス型レンズがまだ発展期だった頃で、この種のレンズの持病と言われるコマ収差の補正が大きく進歩したのは、これよりもだいぶ後の事です。開放ではフレアを伴う柔らかく繊細な描写を堪能することができます。撮影結果を何枚かご覧ください。

F1.8(開放), Angenieux Type S1 +Sony A7(AWB): やはり開放ではオールドガウスに特有のモヤモヤとしたコマフレアが出ており、柔らかい描写となっています。逆光撮影時にハレーションが出やすいのもこのレンズの特徴ですが、ゴーストが出にくいうえに発色が濁りにくいので、画として破綻することがありません。とても使いやすいレンズです


F2.8,Angenieux Type S1 +Sony A7(AWB): 1段絞ると急にヌケが良くなりシャープな像となります。背後のボケは硬めのテイストで2線ボケ傾向もありますが、これは球面収差の膨らみをたたき解像力を向上させるための反動ですから、折り込み済の描写傾向です。艶やかな質感表現のできるレンズです
F2.8,  Angenieux Type S1 +Sony A7(AWB): 階調はシャドー部がよく粘る印象でトーンがとてもなだらかにでています。作品創りにはもってこいの素晴らしいレンズだと思います。レンズを使わせてくださったKさんには大変感謝しています



続いて2本目に使用したのは世界最古の光学機器メーカーとして名高いフォクトレンダー社が1951年に登場させたNokton 50mm F1.5(プロミネント用)です。当時このクラスの明るさのレンズにはNoktonのようなスッキリとヌケの良い開放描写を実現できるものがありませんでした。Noktonはたいへんヒットしたレンズで、1958年までの8年間に少なくとも81611~85073本もの数が生産されたと記録されています。積極的に開放撮影を実践してみました。こちらも撮影結果を何枚かご覧ください。
F2, Nokton+Sony A7(AWB): とても良く写るレンズです。少しアンダー気味にとっていましたが、どういうわけかアップロードするとトーンが粗くなるので、階調全体を若干持ち上げました


F1.5(開放), Nokton+sony A7(AWB): Noktonの開放描写は完全に実用的です

F1.5(開放), Nokton+Sony A7(AWB): 開放でも質感表現は力強いです。厳しい逆光にさらしていますが、見事に耐えてくれました





NOCTO主催のモデル撮影会は今後も年2回程度のペースで定期的に開催されるそうです。オールドレンズつかいが集結し、情報交流の場としても十分に魅力のある会合です。とにかくモデルさん達が素晴らしいので、ご興味のある方は、ぜひとも足を運んでみてください。

2015/12/02

Tomioka Ricomat 45mm F2.8 salvaged from broken camera Ricoh 35 DeLuxe*




オールドレンズ・サルベージ計画 PART 1
沈没船から救出した富岡光学の目
Tomioka Ricomat 45mm F2.8
中古カメラ店のガレージセールでは今もなお再利用できるレンズ達が故障した古いカメラに付いたまま放置されたような状態で売られている。この子達を連れ出し現役選手としてカムバックさせるのが今回の企画だ。狙い目は日本製のレンズ固定式カメラである。カメラ本体が故障していても、なおレンズ自体は無事なケースが多く、状態の良いレンズが付いていることも少なくはない。レンズを救出し簡単な改造を施せば現代のデジタルカメラでの使用も可能になる。ただし、改造には部品代を要するので、なるべく付加価値の高いレンズに狙いを絞るのがよい。
2015年10月のある日、たまたま通りかかった都内某所の中古カメラ店では故障した古いカメラの山が店内の両壁を埋め尽くし、まるで発掘現場の地層の中にいるかのような様相を呈していた。ここで私の目に留まったのは1500円の値札の付いたリコー35スーパーデラックスという60年前のカメラである。値札には「巻き上げ不良(ジャンク品)」との添え書きがついていたが、レンズに大きな痛みはなく、まだまだ使えそうな状態を保っていた。「ジャンク品」とは中古品の流通業界に特有の用語で、研究用や部品取りにどうぞという意味が込められたガラクタ寸前の商品を指す。壊れていることが前提なので品質保証は無いし、いちど購入すると返品対応に応じてもらう事はできないので、その場で検査し購入を決める。この手の商品を手に入れる時には、これよりも少し高額な商品とセットでレジに持ち込み、「ついでに連れて帰りたいんですけれど」というオーラを発しながら値引き交渉に挑むのがよい。「コレ1000円でいいですか?」「いいよ」。こうして海底遺跡の中から、いにしえの沈没舟リコー35をサルベージし自宅に連れて帰ることになった。さて、お宝レンズの救出はここからが本番である。
リコー35デラックス(Ricoh 35 De Luxe)。1956年3月に発売されたレンジファインダーカメラである。カメラ本体の巻き上げが出来ず故障していたため1000円のジャンク品価格で手に入れた









このカメラには彼の有名な富岡光学がリコー社に供給したリコマット(RICOMAT) 45mm F2.8というレンズが搭載されている。リコマットに関する公式データはリコー社ホームページのカメラライブラリで確認をとることがでる[文献1]。レンズの設計は下図に示すような3群5枚の構成でトリプレットの前玉をダゴールで置き換えた異様な形態となっている。この設計構成は中口径レンズの分野においてテッサータイプに置き換わる可能性を秘めた存在として当時の千代田光学(後のミノルタ)が戦前から研究開発を続けてきたもので、1948年登場のスーパーロッコール (Super Rokkor) 45mm F2.8で初めて採用されている。同一構成のレンズとしては富士フィルムが二眼レフカメラのFujicaflexに搭載し1950年にリリースしたPentrectar 83mm F2.8やアルコ写真工業がレンズ固定式カメラのArco 35 automatに搭載し1952年に発売した50mm F3.5などがある。ただし、テッサータイプに対する画質的なアドバンテージが想定していた程大きくはなかったのか、これ以降のカメラメーカー各社は主に旧来からのテッサータイプを採用したため、普及の波には乗りきれず沈没してしまった。テッサーに沈められた原因はいろいろ考えられるが、一つには製造コストの問題であろう。スーパーロッコールにしろリコマットにしろ構成枚数と接合面の数がテッサータイプより多い上、前群側には芯出しに高い精度が求められる3枚接合部を持つ。しかし、これらはレンズの開発段階ではじめから折り込み済みだったので決定的な敗因にはならない。いったい何が普及の障害になったのであろうか。実はスーパーロッコールに関しては設計者が非点収差の計算式を間違えていたという興味深い自白談が残っており[文献2]、どうもこの構成形態の力を充分に出し切れていなかったのではないかという推測が成り立つ。さらに、この時代のテッサータイプは普及したばかりの新種ガラスの恩恵をうけ描写性能を飛躍的に向上させており、こうした経緯がこのレンズ構成の画質的なアドバンテージを目立たないものに変えてしまったのである。ここから先は空想になるが、仮にもしスーパーロッコールの設計にミスがなかったとして描写性能にもう少し大きなアドバンテージがあったなら、この構成が中口径レンズの分野でテッサータイプに置き換わる台風の目になっていたかもしれない。そんな可能性を一人で妄想しているうちに、富岡光学が設計した本レンズにどれ程の実力が備わっていたのかを、この目で確かめたくなってしまったわけだ。コストのかかる独特の構成設計、富岡光学の技術力とネームバリュー、スーパーロッコールの計算ミス、可能性を秘めながらも滅び去った経緯。これらが私にリコマットを復活させる決定的な動機を与えたのである。海底遺跡に沈む古代舟から失われた富岡の名玉リコマットを救出し復活させれば、恐らくデジタルカメラでは世界初の撮影テストになるであろう。おんぼろサルベージ船SPIRAL号発進!。

文献1 リコー社公式HP カメラライブラリ
文献2  郷愁のアンティークカメラIII レンズ編 アサヒカメラ(1993)

入手の経緯
今回はリコー35デラックスを2台入手し2本の改造レンズを制作した。1本目は2015年10月に都内の中古店のガレージセールにて1000円で購入、肝心のレンズには拭き傷と汚れがみられたが描写には影響のないレベルなので問題なしと判断した。もう一本は2015年11月にヤフオクで出ていたジャンク品のリコー35デラックスを1580円にて落札し手に入れた。このカメラはヘリコイド部が破損しておりフォーカッシングのノブも折れていた。ジャンク品にしては少し値がはると思ったが、解説欄にレンズは綺麗と書いてあったので、このカメラを手に入れることにした。オークションは他に入札もなく開始価格のまま私のものとなった。誰の目にも留まらず寂しさ極まりないカメラである。

写真・左は背面パネルを開けたところ。中央のレンズの周囲にある外側のリングをカニ目レンチ等で回しレンズを取り外す
リコマットの救出
レンズの救出および改造手順は以下のとおりである。まずカメラの背面カバーを開け、レンズをカメラ本体に固定しているリング(写真の中の赤の矢印)を小型のカニ目レンチ等で回す。100円ショップで購入したラジオペンチの先端部を棒ヤスリやグラインダーで加工すればカニ目レンチの代わりとしても使用できるだろう。

ポロンと目玉が落ちた。動脈と静脈はカットする

鏡胴のイモネジ3本を緩め、前玉側のカバーを外す







シャッターをB(バルブ開放)の状態にしたまま動かないよう固定してしまう。カバーを開くと薄い円形状のアルミ板があるので、固定にはこれを利用する。切り欠け部分(指先)をシャッターダイアルの固定ピンに引っ掛けたまま鏡胴部にエポキシ接着してしまえばよい(青矢印)。続いてシャッターを開いたままの状態でシャッター制御ピン(左側のトレンチ内に見えるピン)をスタックさせる。私はちいさな細いビニールホースをトレンチ部分に突っ込んでスタックさせた(赤矢印)

続いて後玉側の鏡胴にステップアップリング(42-52mm)を被せマウント部をつくる。ステップアップリングはエポキシ接着剤で固定するが、万が一の事を考え後で再び外すことがあるかもしれないのでガッチリと接着固定するのは避け3点止めにしておいた。もしLeica-Lマウント用ヘリコイド付アダプターをお使いならば、この部分は39-52mmステップアップリングでもよい
















最後に市販のM42ヘリコイドチューブ(BORG7840)へ搭載して完成となる。BORG7840に付属している天板を用いてフランジ長を微調整すれば大方のミラーレス機で不自由なく使用できるだろう。私はM42-Eカメラマウントを用いてSony A7で用いることにした。ライカLマウント用のヘリコイドつきアダプターを所持しているならばヘリコイドチューブは不要になり、レンズヘッドをアダプターに直接搭載すればよい。ただし、スペーサーを入れフランジ調整する必要はある。

重量(実測,ヘリコイド含まない) 130g, フィルター径 内側34mm(保護フィルター用)/外側43mm(フード用), 絞り羽 5枚, 絞り値 F2.8-F22, 3群5枚スーパーロッコール45mm型, セイコー社シャッター, このレンズが搭載されているカメラはリコー35S, リコー35デラックス, リコー35ニューデラックス, リコー500


撮影テスト
中心解像力は開放から良好で緻密な描写表現が可能であるが、四隅は近接域で少し妖しい画質となる。もちろん絞れば良像域は広がりピント部は四隅まで均質になる。フレアや滲みは開放でも全く見られずコントラストは良好でスッキリとヌケが良い。とてもシャープで色鮮やかな描写のレンズである。ボケは開放で撮る際に少し硬くザワザワと煩くなり、距離によっては2線ボケ傾向もみられるが、絞れば素直である。グルグルボケは僅かに出る程度であった。どのような撮影条件でも画質には安定感があり、大きく転ぶことのない優れた描写力のレンズである。
Photo 1:  F5.6, Sony A7(AWB): シャープで色鮮やかなレンズだ

Photo 2: F2.8 (開放), Sony A7(AWB): 背後のボケは安定しており、大きく乱れることはない。開放でもヌケはよいようだ



Photo 3: F2.8(開放), sony A7(AWB): 近接域を開放で撮る。中央は高解像でコントラストも良好だが周辺部はやや妖しい画質になっている。中央部を大きく拡大した写真を下に示す




Photo 3a : ひとつ前の写真の中央部を大きく拡大したもの。とても高い解像力だ。上の写真をクリックするとさらに大きく表示されるので試してほしい

Photo 4: F5.6, sony A7(AWB): トーンはなだらかに出ており、なかなか良い写りである





Photo 5: F8, sony A7(AWB): 歪みはあまりない。ヌケの良いレンズである
Photo 6: F5.6, sony A7(AWB): 逆光でも濁りにくいようだ
Photo 7: F4, Sony A7, やはり近接域では中心部と四隅で画質の差が大きいように思える





良く写るレンズなだけに滅んでしまったのが大変残念でならない。日本には発掘すべき面白そうなレンズがまだまだ沢山眠っているので、この手のサルベージ計画は今後も続けてゆきたい。なにかおススメのレンズ情報をお持ちでしたら、お知らせいただけると幸いです。