おしらせ


2014/11/26

レンズ名の語源

世の中には数え切れない種類のレンズがあり、欧州の光学メーカーにはその一つ一つに固有の名称を与える素晴らしい伝統があります。こうした製品名には開発者の理念や製品コンセプトが反映していることが多く、レンズグルメの一人としては見逃すことのできない重要なポイントです。これは欧州のカメラ産業が日本のようなオールインワンでの製品開発を主流とはせず、カメラやレンズ、シャッターなどパーツ毎に開発と生産を分業する体制を敷いていたためではないかと考えられます。
さて、最近「カメラ名の語源散歩」(新見嘉兵衛著・写真工業出版社)という本を手に入れ読んでみましたが、とても興味深い内容でした。ぜひ購入されていてはいかがでしょうか。

本ブログで過去に話題にしたレンズやメーカー等についても、その名称の語源が沢山取り上げられていましたので、この本を含むいくつかの参考文献から関連情報を引用し、私のTEXT&表現で紹介させていただきました。参考文献を下記にあげさせていただきます。

参考文献
「カメラ名の語源散歩」新見嘉兵衛著・写真工業出版社
 最も充実した情報源です。この本に収録されている情報に多くを頼りました。
「フォクトレンダー VM & カールツァイス ZM レンズWORLD」 日本カメラMOOK
 P28にZeissとVoigtknderのレンズ名の由来が収録されています。
「ツァイスイコン物語」竹田正一郎著
 本の中の各所にZeissのレンズ名の由来に関する情報が網羅されています。
「ぼくらのクラシックカメラ探検隊フォクトレンダー」オフィスへリア
 本の中の各所にVoigtlanderのレンズ名の由来に関する情報が網羅されています。
Helmut Franz and Edward Reutinger, STEINHEIL MUNCHENER OPTIK MIT TRADITION

TEXT:Spiral
  • A.Schacht Traveron(トラベロン), Travenar(トラベナー), Travegar(トラベガー), Travegon(トラベゴン): 「遠くへ」または「外国への旅行」を意味するTravelが由来。旅行に持っていけば大活躍するという意味が込められてるのだろう。携帯性の高いコンパクトなレンズが多い。
  • Agfa Solagon(ゾラゴン), Solinar(ゾリナー): ラテン語で「太陽」を意味するSolが由来。ソーラーカーやソーラーシステムとも同じ語源である。アニメAkiraで出てきた光学兵器もこんな名前だった。
  • Arsenal Vega(ベガ): ロシアのクセノタール型レンズに付与されるブランド名で七夕の織女星(琴座の一等星)Vegaが由来。ベガは赤い星だが、このレンズのコーティングもマゼンタだった。
  • Carl Zeiss Planar(プラナー):ドイツ語の「平坦な」を意味するPlan(ラテン語ではPlanus)が由来。平坦な像面が得られるという意味。こんな名前がついたのも、もともと製版向けが主だったためであろうか。
  • Canon:観音に由来しKwanon → Cannon(大砲の意) → Canon(規準の意)と変遷したと「カメラ名の語源散歩」に解説されている。大砲くらいで留めとくのが一番かっこよかったのに、フツーの名前になってしまった。
  • Carl Braun Braun-Paxette(パクセッテ): やはり同じ文献に解説があり、Carl Braun社の6x6判カメラ。ローマ神話の「平和の女神」を表すPaxが由来だそうである。カメラ名やレンズ名には神話を由来にするmのが数多くあります。
  • Carl Zeiss Biotar(ビオター): 文献2に解説があり、ギリシャ語で「生命」を表す接頭語Bioを由来としている。ただし、文献によっては若干異なる解釈もあるらしいことを読者の方から教えていただきました(感謝)。「もの」を意味するMetronを組み合わせBiometar(ビオメター), 「角」を意味するGonを組み合わせBiogon(ビオゴン), テッサーの改良という意味でBiotessar(ビオテッサー)とした。
  • Carl Zeiss Distagon(ディスタゴン):ラテン語の「遠くの、離れた」を意味するDistoに「角」を意味するGonを組み合わせた。焦点距離よりもバックフォーカスの長いレンズを意味する。
  • Carl Zeiss Flektogon(フレクトゴン):ラテン語の「曲がる、傾く」を意味するFlectoにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせたのが由来。融通が利くという意味で用いられるフレックスも元は同じ語源であり、やはり曲がるという意味もある。
  • Carl Zeiss Hologon(ホロゴン):ツァイスの超広角レンズ。Holoは「全部」を意味するギリシャ語接頭語で、これに「角」を意味するGonを組み合わせた。ホーロー鍋の語源にも関係しているのかもしれない。感じでは「琺瑯」だそうである。
  • Carl Zeiss Orthometar(オルソメタール):ギリシャ語で「正直、正」を意味する接頭語Orthoと、おなじく「もの」を意味するMetronの組み合わせ。Metronはメートルの語源でもある。湾曲なく真っ直ぐに写すという意味を感じる。
  • Carl Zeiss Protar(プロター):ギリシャ語の「元祖の、最初の」を意味するProtosが由来。これに関連して英語のPrototype(プロトタイプ)は試作品もしくは原型を意味する。
  • Carl Zeiss Sonnar(ゾナー):太陽を由来にもtsレンズ名は数多くある。このレンズもドイツ語の「太陽」を意味するSonneが由来となっている。ただし、Carl Zeissが工場を構えた地名Sonthofen(ゾントホーフェン)から来るという説もある。
  • Carl Zeiss Tessar(テッサー):ギリシャ語の「4」を意味するTessaresが由来で、このレンズが4枚玉であることを意味している。
  • Carl Zeiss Topogon(トポゴン):ギリシャ語の「地形」を意味するTopography、あるいはその語源となった「場所」を意味するToposに由来している。航空写真用であることを意味している。
  • Carl Zeiss Triotar(トリオター), Hugo Meyer Tripoplan(トリオプラン), Triplet(トリプレット):ラテン語の「3」を意味するTriplexが由来で、これらのレンズが3枚玉であることを意味している。
  • Chinon(チノン):創業時に三信光学であった時の製品名で、創業時の社長である茅野弘氏の名が由来。
  • Copal:創業者の小林氏のCoと前原春一氏のHalを組み合わせ、Co+Hal→Copalとなった。
  • Cosina:創業者の小林文治郎氏の出身地が長野県中野市越地区だったので、越地区のCosiと中野市のNaを組み合わせ社名にした。
  • Dallmeyer Rapid-Rectirinear(ラピッド・レクチリニア):「高速な」を意味するRapidと四角形(長方形・矩形)を意味するRectが由来。四隅まで歪まずに写る画期的なレンズであった。
  • ELGEET: 創業者の3人(London, Goldstein, Terbuska)の頭文字を組み合わせたL+G+Tが由来。
  • Ernemann Ernostar(エルノスター):Ernemann社のStar(星)という意味。
  • Ernst Leitz Ermar(エルマー), Ermax(マックス), Ermarit(エルマリート):会社名のErnst Leitzとレンズ設計者の名Max Berekを掛け合わせてできた名称。
  • Ernst Leitz Hektor(ヘクトール):ギリシャ神話でトロイ戦争に出てくる勇士の名が由来。ちなみにレンズの設計者Max Bekekは愛犬にHektorの名をつけていた。
  • Ernst Leitz Summar(ズマール),Summicron(ズミクロン),Summitar(ズミタール), Summilux(ズミルクス), Summarit(ズマリット): ラテン語の「最高の」を意味するSummaを由来としている。これに「小さい」を意味するMicroを組み合わせるとSummicron, 「光」を意味するLuxを組み合わせるとSummiluxとなる。
  • Ernst Leitz Thambar(タンバール):ギリシャ語の「驚き、驚嘆」が由来。
  • Goerz DAGOR(ダゴール):Doppel-Anastigmat Goerzの頭文字を組み合わせDAGORとしたのは有名な話だ。
  • Goerz DOGMAR(ドグマー):ラテン語で「信条」を表すDOGMAが由来。宗教性を帯びた名前には不思議な魅力を感じる。
  • Goerz Hypergon(ハイパーゴン):ギリシャ語の「過度」を意味するHyperと、「角」を意味するGonの組み合わせ。あるいみウルトラゴンにも似ている。巨大隕石が落ちて来るような名前である。
  • Hugo Meyer Helioplan(ヘリオプラン):メイヤーの広角レンズ。ギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosとドイツ語の「平坦」を意味するPlanを組み合わせた。
  • Hugo Meyer Tele-Megor(テレ・メゴール):「望遠」を意味するTeleにMeyer社のMe、同社の所在地GorlitzのGorを組み合わせたの由来。
  • Jhagee Exakta(エキサクタ):ドイツ語の「精密な」を意味するExaktから来ている。
  • Kern Switar(スイター):スイスの英語名Switzerlandが由来。
  • Kilfitt Zoomar(ズーマー): ズーマー社(キルフィット社)の社名でもありレンズ名でもあるZoomarは、ズームレンズの語源にもなっていりが、元来はブーンという音を表す擬声音で飛行機が急角度で上昇する意味。
  • KMZ Helios(ヘリオス):ロシアのKMZ社の標準レンズ。ギリシャ語の「太陽神」を意味するHeliosが由来。ラテン語ではSolというそうだ。
  • KMZ Jupiter(ユピテル):ローマ神話の最高至上の神の名。英語ではジュピターと読む。ロシアのゾナー型レンズにつけられる名称。
  • KMZ Mir(ミール):ロシア語で「平和」「世界」を意味するMIRが由来。広角レンズにつけられる名称。Flektogon 35mmのロシア版コピーはMir-1。
  • KMZ Orion(オリオン):ギリシャ神話の巨身美貌の狩人。オリオン座。ロシア版Topogonに用いられている。
  • KMZ Russar(ルサール):ロシア製超広角レンズ。「ロシア」を意味する英語のRussoが由来。ロシアが独自に生んだ最もロシアらしい超広角レンズ。良く写るらしい。
  • Kodak Ektar(エクター):米国メーカーのEastman Kodak Co.の略語EKCから作られたと推測される。
  • Kodak:創業者イーストマン氏の造語ではなく、どの国の人にも発音しやすい語が選ばれたといわれている。
  • Komura: 三協光機の社長小島氏のKoと専務の稲村氏のMuraを組み合わせKo+Muraとなった。
  • Konishiroku Hexar(ヘキサー), Hexanon(ヘキサノン): ギリシア語の「6」を意味するHexおよびその接頭語であるHexaが由来。ちなみにHexarはテッサー型なので6枚玉の意味とは関係なさそう。小西六右衛門の六か?。
  • Mamiya Sekor(セコール):Sekorはマミヤ光機から独立した世田谷光機が発売したレンズで、SEtagaya+KOkiでSekorとなった。しかし、Mamiya Sekorでレンズが出ているので、結局はマミヤの傘下に入ったという事だろう。
  • Metz Mechaflex(メカフレックス):メッツ社の4x4判カメラ。「機械」を意味するMechanik(メカニック)を由来としている説とMetz社のCameraの略という2つの説がある。前者の方がカッコいい。
  • Meyer Primagon(プリマゴン), Primoplan(プリモプラン),Primotar(プリモタール):ラテン語の「第一の、最初の」を意味するPrimoにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせ広角レンズPrimagon、ドイツ語の「平坦な」を意味するPlan(ラテン語ではPlanus)を組み合わせPrimoplanとした。Primoはドイツ語では「優秀な、最良の」を意味するPrimaと関連があるので、この意味を掛けているとも考えられる。
  • O.P.L. Foca(フォカ):フランスのライカタイプのカメラ。フランス語の「焦点」を意味するFocusが由来。「カメラ名の語源散歩」によると、元来は「炉」を意味するラテン語で太陽の像を結ぶと黒紙が焦げるところから来ている。うーん。深い!
  • Orion精機 Miranda(ミランダ):Orion精機のカメラ。ラテン語で「感心な女の子」の意味。天王星の衛星の名にもなっている。こういう由来で名を決めた経緯にむしろ興味がわく。
  • Pentacon(ペンタコン):東ドイツVEBペンタコン社の社名およびレンズブランド名。「ペンタプリズム付きコンタックス」の意味。ちなみにPentagonは5角形でアメリカ国防総省の中枢にもなっているが、これとは全く関係ない。
  • Petri(ペトリ) 栗林製作所:栗林製作所のカメラの名称。キリスト教12使徒の1人「聖ペテロ」に由来している。3Mの微生物検査ツールであるペトリフィルムと関係があるのであろうか?
  • Petri Orikkor(オリッコール):恐らくは「お利口」からきていると予想される。
  • Pentax Takumar(タクマー):Pentaxの創業者の関係者で梶尾琢磨氏(芸術家)の名からとったのは有名な話。また、ある筋から聞いたところでは「切磋琢磨」する意味とかけているらしい。
  • Plaubel Anticomar(アンチコマー):プラウベル社製レンズのブランド名。ギリシャ語で「非」を意味するAntiとコマ収差のComaを合成した名称。
  • Retina(レチナ):Kodakのカメラに用いられたブランド名で、ラテン語の「網膜」を意味する。
  • Rodenstock Eurygon(オイリゴン):ギリシャ語の「広い」を意味するEurysに同じく「角」を意味するGonをかけあわせた名称。ヨーロッパを意味するEuroとは無関係(←私は長らくコレだと勘違いしていた)。
  • Rodenstock Heligon(ヘリゴン):太陽に由来するレンズ名は多いがヘリゴンはローデンストック社の大口径標準レンズに用いられたブランド名で、ギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosに「角」を表すGonを組み合わせてつくられた。
  • Rodenstock Imagon(イマゴン):ラテン語で「映像」を意味するImagoとギリシャ語の「角」を意味するGonの合成だそうである。イメージという言葉も同じ語源であろう。
  • Schneider Angulon(アンギュロン):ラテン語の「角」を意味するAngulusから作られたと推測されている。写真を撮る際によくつかう「アングル」とも同じ語源であろう。
  • Schneider Curtagon(クルタゴン):ラテン語の「短くする」を意味するCurtoに「角」を意味するギリシャ語のGonを組み合わせた。
  • Schneider Radionar(ラジオナー):シュナイダーのトリプレット型レンズ。ラテン語の「光る」を意味するRadioが由来。「放射」を意味するRadiationという説もある。
  • Schneider Xenon(クセノン), Xenar(クセナー), Xenogon(クセノゴン), Xenagon(クセナゴン): 原子番号54の希ガス元素キセノン、あるいはこの原子の語源となったギリシャ語の「未知の」を意味するXenosが由来。キセノンランプにはこの元素希ガスが用いられている。
  • Soligor(ソリゴール): もとは日本のカメラ、写真レンズのOEMブランド名で世界中でつかわれていた。「Solid+Gold」が由来とされているが、「太陽」をあらわすSolだったという説もある。
  • Steinheil Cassar(カッサー), Cassarit(カッサリート), Cassaron(カッサロン):「カメラ名の語源散歩」やFranz & Reutingerの文献などにSteinheil社の創業者C.A.Steinheilの頭字(C+A+S)が由来と解説されている。知らなかった!
  • Steinheil Culminar(クルミナー), Culmigon(クルミゴン): ラテン語の「頂上」を意味するCulmenが由来。これにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせた広角レンズCulmigonとした。もともとは最高級のレンズという意味が込められたのであろうが、トリプレットなど安価なレンズにも多用されていた。名前負けしている。
  • Steinheil Orthostigmat(オルソスティグマート):ギリシャ語で「正直、正」を意味する接頭語Orthoと「点、印」を意味するStigmaの組み合わせ。湾曲なく真っ直ぐに写るという意味が込められているのであろう。ツァイスのOrthometarも一部同じ由来であろう。
  • Steinheil Quinar(キナー), Quinaron(キナロン), Quinon(キノン): ラテン語の「5つの」を意味するQuinarius(ドイツ語のQuinar)に由来しており、このレンズ(Quinar)が元々は5枚玉であったことを示唆している。
  • Tamron(タムロン):創業時の泰成光学の設計者田村右衛門のTamuraが由来。
  • VEB Pentacon Practicar(プラクチカール):「実用」を表す接頭語のPractiが由来。東ドイツ製カメラのPracticaやPractinaも同様。
  • Voigtlander Apo-Lanther(アポ・ランター):アポはアポクロマートの略で色収差をできる限り小さくしたという意味。ランターはガラスに用いられた希土類元素Lanthanumからとった。
  • Voigtlander Collinear(コリニア):ラテン語の「同一の」を意味するColに「線」を意味するLineaを組み合わせた。全体として「同一線上の」の意味となる。
  • Voigtlander Heliar(ヘリアー):フォクトレンダーの名玉。ギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosが由来である。ちなみにヘリコイドとはまったく関係ない。太陽を語源とするレンズ名はHeligonやSoligon、Sonnarなど沢山あるが恐らく1901年発表のHeliarが一番最初ではないだろうか。
  • Voigtlander Nokton(ノクトン):夜を意味する接合辞のNoctあるいはNoctiが由来。またはラテン語の「夜の」を意味するNocturnusが由来。
  • Voigtlander Orthoscope(オルソスコープ):ペッツバールが設計し1851年に発売された広角レンズ。ギリシャ語の「真っ直ぐ、正」を意味するOrthoと、「観る、観察する」を意味するScopioを組み合わせたのが由来。
  • Voigtlander Septon(セプトン):ラテン語で「7」を表すSeptemが由来。
  • Voigtlander Skopar(スコパー), Skoparex(スコパレクス), Skopagon(スコパゴン):ギリシャ語で「見ることのできる」を意味する接尾語のScopeが由来。これにギリシャ語の「角」を意味するGonをSkopagonとなる。
  • Voigtlander Ultragon(ウルトラゴン):ラテン語の「極端」を意味するUltraと「角」を意味するGonの組み合わ
  • Voigtlander Ultron(ウルトロン):ラテン語の「極端な」を意味するUltraが由来。
  • Wollensak Velostigmat(ベロスティグマート):ウォーレンザック社の高速レンズ。ラテン語の「速い」を意味するVeloxが由来。
  • Zeiss Opton(オプトン):旧西ドイツのオーバーコッヘンを拠点としたCarl Zeiss社の旧称。ラテン語の「視覚」を意味するOpticusまたは英語の「光学」を意味するOpticsが由来。
  • Zenit:英語のZenith(天頂、絶頂)に当たる意味。
  • Zuiko(ズイコー):オリンパスのレンズ名。瑞穂光学研究所(ZUIho KOgaku Institute)の名称が由来。
  • Zunow:ズノー光学(旧帝国光学)の名称は、おそらく「頭脳」が由来。インパクトのあるブランド名だ。
他にも「これは面白い」という語源(レンズやメーカー名に関するもの)をご存知でしたら、掲示板等でお知らせください(できれば出典もお願いします)。リストに加えさせていただきます。

2014/11/25

Steinheil Culminar 85mm F2.8











ライトトーンの美しい階調描写が魅力
Steinheil Culminar 85mm F2.8
Culminar(クルミナー) 85mm F2.8はオーストリアの数学者J.M.Petzval(ペッツバール)が19世紀半ばに設計したOrthoscope(オルソスコープ)を祖とするポートレート撮影用レンズである[文献1]。Petzvalはレンズの設計に対する数学的理論の裏付けがまだ十分ではなかった時代に史上初めて収差理論をレンズの開発に導入した人物で、2本のレンズを世に送り出している。このうちの1本はVoigtlander(フォクトレンダー)社から1840年に発売されたPetzval式人像鏡玉で、当時まだF14程度がやっとだった写真用レンズの明るさをいきなりF3.4まで高めた歴史的銘玉である。Petzval式人像鏡玉は近年Lomographyから復刻版が発売され話題を集めた。一方、兄弟レンズのOrthoscopeが世に出るのはこれよりも少し後のことで、風景撮影に適したF8の広角レンズが1858年にVoigtlander社から発売されている。Orthoscopeにはやや大きい糸巻状の歪曲があり非点収差も大きいなど広角レンズとして用いるには四隅の画質に課題を残していたが、後群全体が弱い負のパワーを持ちテレフォト性を備えていたため、Steinheil(シュタインハイル)による1881年の修正を経ることで中望遠レンズとしての新たな活路が見いだされた[文献2,3]。このレンズはAntiplanet(アンチプラネット)と呼ばれるようになり、今回紹介するCulminarの原型となっている[文献4,5]。

Orthoscope(左)とAntiplanet(中央)の光学系は[文献2], Culminar(右)の光学系は[文献4]からトレーススケッチした。いずれも構成は3群4枚である


Culminar 85mm F2.8は1948年にSteinheil社製のカメラCasca IIの交換レンズとして登場した。ところが、Casca IIの売れ行きは全く不振だったため、後に対応マウントをライカM39(L39), M42, Exaktaにも広げ交換レンズ単体としても売られるようになった。このうちライカM39マウントのモデルは軽量で求めやすい価格帯にある位置づけが消費者層のニーズをとらえ、売れ筋商品として成功を収めた。今もeBayなどの中古市場に流通する製品個体はM39マウントのモデルが中心である。Leica用の中望遠レンズを供給するサードパーティ製品の市場において、Steinheilのブランド力に対抗できるライバルがいなかったのも成功の要因だったのであろう。
 
文献1:写真レンズのすべて 辻定彦
文献2:Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens
文献3:Adolph Steinheil,  Pat. US241438 
文献4:Helmut Franz and Edward Reutinger, STEINHEIL MUNCHENER OPTIK MIT TRADITION
文献5:「無一居」さん ブログコラム
 
入手の経緯
本品は2012年3月にeBayを介し中古カメラの売買を専門とするローマのセラー(ポジティブフィードバック100%)から落札購入した。これより少し前に他のセラーからM42マウントのモデルが出品されていたため私も入札したが、400ドルオーバーで他者の手にわたっていった。このレンズにはライカスクリューマウントのモデルも存在し、eBayでは350-400ドル程度で売買さている。今回のモデルはEXAKTAマウントなので少しは求めやすい価格になるのではと予想、スマートフォンの自動入札ソフトで最大入札額を301㌦に設定しスナイプ入札を試みた。商品の解説は「素晴らしい状態の完全動作品。EXAKTAでもテスト済み。フォーカスはスムーズで絞りの動きも良い。外観は僅かに使用感があるものの良好。硝子は素晴らしい状態(工場出荷状態に近い)で、カビ、クモリ、汚れ、その他何一つ問題はない。オリジナルレザーキャップとプラスティックケースがつく」とのこと。文面をそのまま信じるなら滅多に出ない素晴らしい状態であり争奪戦になるのではと予想していた。しかし、蓋をあけてみると205.5ドルで呆気なく落札、送料込みでも総額234.5ドルであった。国内での相場は不明だが2013年10月にヤフオクで出品された際は中古並レベルの品が21000円で落札されていた。届いた品は前玉に僅かな拭き傷があり絞り羽根に少し油染みが出ていた。オークションの解説がやや誇張気味だったのか、あるいは検査力の低いセラーに当たってしまったようだ。ただし、ガラスが傷みやすく傷の多い本レンズとしてはとても良好な状態であった。

重量(実測) 200g, 絞り羽 16枚, フィルター径 36mm, 最短撮影距離 1m, F2.8-F32, 光学系 3群4枚アンチプラネット型(テッサーを前後逆向きに据えたような構成), 対応マウント M39(L39), EXAKTA, M42, Casca II(本品はEXAKTA), レンズ名の由来はラテン語の「頂上」を意味するCulmen(「カメラ名の語源散歩」新見嘉兵衛著より)



撮影テスト
Culminarはオールドレンズらしいゆるい写りを存分に堪能できるレンズである。コントラストが低く彩度が抑え気味でけっして派手にはならなず、あっさりとした軽い印象の写りが特徴である。そのぶん階調は豊富で濃淡の変化を丁寧に表現できるので、空や雲の繊細でダイナミックなトーンを見事にとらえることができる。解像力は平凡だが開放でもハロやコマなどのフレア(滲み)は殆ど見られずボケも安定している。ポートレート域では後ボケが硬めになり距離によっては2線ボケ傾向にもなるが、反対に前ボケは柔らかくフワッと拡散する。逆光には弱くハレーションがたいへん出やすいものの、ゴーストはあまりみられず発色が濁ることも少ないため、均一で美しい性質の良いハレーションである。これを写真効果として活かさない手はない。開放で逆光気味に構え露出オーバーで撮影すると淡泊で軽い仕上がりとなり、写真全体のイメージも明るく優しいものになる。美しいライトトーンの画はまるで白昼夢のようである。
このレンズにはダブルガウスやトリプレット、クセノターのようなゾクッとするような解像力もなければ破綻の見え隠れするような危うさもない、いわゆる「線の太い描写」の典型だが、テッサーのような鋭い写りにはならなず、穏やかで安定感のある写りを特徴としている。強いていればゾナーをかなり軟調にしたような性格と言ったらいいだろうか。ガラスの傷んでいる製品個体が多く描写性能については一部で酷評もみられるが、状態の良いものを探し当てれば味わい深い素晴らしい写りであることがわかる。軟調描写が好きな人にはたまらないレンズであろう。

撮影機材: Camera: Sony A7 + Metal Lens hood + Exakta-Emount adapter
F4, sony A7(AWB): コントラストが低く彩度が抑え気味でけっして派手にはならない。逆光でもシャドーが粘ってくれる
F2.8(開放), sony A7(AWB): 解像力は平凡だが開放でもハロやコマなどのフレア(滲み)は殆ど見られず、ボケも安定している

F2.8(開放), sony A7(AWB): 空の微妙なトーンをダイナミックに捉えることができるのは軟調レンズならではの長所である
F2.8(開放), Sony A7(コントラスト調整): 開放では少し後ボケが硬めになる


F2.8(開放), sony A7(AWB), +2EV(露出高め):  ひとつ前の写真と同じ場所にて逆光に構え、露出オーバーで撮影した。もう、夢の世界だ

F2.8(開放), sony A7(AWB): 前ボケの拡散も綺麗







2014/11/21

【続】Carl Zeiss Jena Doppel-Protar 128mm F6.3 撮影テストPart 2(大判撮影編)

 
Carl Zeiss Jena Doppel-Protar 128mm F6.3
Lens Test by LARGE FORMAT CAMERA
前エントリー(こちら)ではDoppel-Protar 128mm F6.3の撮影テストに中判カメラ(ネガ120フィルム)とデジタルカメラ(フルサイズ機)を用いたが、今回はいよいよ大判カメラによる撮影テストである。レンズは推奨イメージフォーマットが4x5インチの大判シートフィルム相当となっており、この規格で用いると35mm判換算でF1.76/35mm程度の明るい広角レンズとなる。メーカーの推奨する規格に準拠することで、レンズの潜在力を最大限に引き出すことができる。
 
撮影テスト(続編)
撮影機材
CAMERA: 大判カメラ
FILM: Fujicolor 160N(4x5判カラーネガ)
露出計:Sekonic Studio Delux L-398
Film Scan: EPSON GT-9700F
 
このレンズを中判カメラや35mm判カメラで使用した際はコントラストが低く、あっさりとした発色傾向であったが、大判カメラになるとコントラストが幾らか向上し発色にもレンズ本来の力強さがみられるようになる。また、開放で線の細い写りとなるのも大判撮影におけるこのレンズの特徴で、背後にフレアを伴いつつピント部は高解像で四隅までの画質の均一性も高い。柔らかさの中に芯のある繊細な写りが堪能できる。
逆光に対する弱さは相変わらずである。曇天時には発色が淡くなり、空が入るとハレーションも簡単に出る。これは主にガラス同士あるいはガラスと空気の境界部における迷い光(内面反射光)の発生が原因である。ただし、ゴーストが出たり不均一な塊(フレア塊)になることは少なく、薄いベールで1枚覆ったような均一で美しいハレーションである。発色は濁らずにクリアな状態を維持しているので、写真効果として積極的に活用することができる。
ボケは基本的に安定している。被写体までの距離によっては四隅で僅かに像が流れることがあるが、グルグルボケまで発展することはない。前ボケは柔らかく綺麗に拡散しており、反対に後ボケは像がフレアにつつまれソフトな印象が維持されている。コントラストの低いレンズなので、良く晴れた真夏のような空の下でも階調描写は硬くならない。

絞り: F6.3(開放), Lens:Doppel-Protar 128mm F6.3, Film: Fujicolor 160N (4x5), Scannar: EPSON GT-9700F:中判撮影の時にも感じたことだが、やはりハレーションが綺麗なのはこのレンズの大きな特徴である。前ボケは柔らかく綺麗に拡散している。反対に後ボケはやや硬いが、フレアにつつまれているのでソフトな印象を損ねることはない。解像力は開放から充分である。気になるほどでもないがアウトフォーカス部の周辺域で像が僅かに流れている
絞り: F11.3, Lens: Doppel-Protar 6.3/128, Film: Fujicolor 160N (4x5), Scannar: EPSON GT-9700F, 上下を少しトリミングしている: 軟調系レンズなので、こういうシーンには強く、トーン描写が丁寧で暗部も潰れない。四隅の減光は装着しているフードが少し深すぎたせいかもしれない。この場所は有名な撮影スポットであるが、誰が撮っても同じような写真にしかならない難易度の高い場所でもある。決死の覚悟で人をいれることにした。中央にいるのは私だ

絞り: F11.3, Lens: Doppel-Protar 124mm F6.3, Film: Fujicolor 160N (4x5), Scannar: EPSON GT-9700F: 広角レンズならではのパースペクティブ(遠近感)もよく出ており、迫力がある。突然真っ白いドレスを着た女性が横切ったので、コレはチャンスと思い急いでシャッターを切った