おしらせ


2012/08/30

アンケート集計結果(1)
オールドレンズユーザーの好むカメラとレンズの焦点距離

   オールドレンズユーザー達は普段どんなカメラを使用しているのでしょうか?レンズ交換式デジタルカメラの市場におけるミラーレス機のシェアは2012年6月で30%を超えたと報じられています(BNC調査)。本ブログでは2011年12月から250日間、ブログを訪れた方々に対して投票式のアンケート調査を行い、下記のような回答結果を得ました。
2011年12月から本ブログで250日間実施した投票式アンケート調査の回答結果。カメラを何台も所有している人は複数選択ができるようになっています。投票数の合計(百分率)が100%を超えるのは回答を複数選択できるからで、例えばミラーレス機が41%となっているのは、回答者数の41%がこれを選択したという意味になります。私は「ミラーレス機」「デジタル一眼レフ(フルサイズ)」「一眼レフ(銀塩フィルム)」にそれぞれ1票を入れました。レンジファインダ-機(銀塩フィルム)も1台持っていますが今のところ出番はほとんどありません
このアンケート結果には幾つか興味深い内容が含まれています。デジタルカメラの獲得票数は「その他」と「銀塩カメラ」を差し引いた上位3段目までの249票で、このうちの104票(約42%)が「ミラーレス機」に集中しています。オールドレンズユーザーに対するミラーレス機のシェアはBNC調査の結果よりも10%程度高いことがわかります。フランジバックの短いミラーレス機はオールドレンズとの相性が良いので、このような結果が得られるのは当然のことですが、ユーザー層を特定した事例ならではの価値のあるアンケート結果ではないでしょうか。もう一つの興味深いのは「一眼レフ(銀塩フィルム)」の獲得票数が何と32%もある点で、おおよそ回答者の3人に1人は銀塩カメラを使用していることを意味しています。この結果に対してはデジタルカメラ世代以前の古くからのユーザー層がオールドレンズユーザーには多くいるという解釈が成立します。関係のない話になりますが、私は最近、もうすぐ発売が囁かれているフルサイズ機のSony α99が気になって仕方ありません。フルサイズ機が安くなる頃には、このシェアも多少は変化してくるのでしょうね。
  さて、次のアンケートにも大変興味深い結果が表れています。オールドレンズユーザーが最も好む焦点距離1つを35mm版換算値でたずねています。
2012年1月から本ブログで220日間実施した投票式アンケート調査の回答結果。複数回答はできない設定になっている。私自身は80mm前後(中望遠)に票を入れました。レンズには表現力を重視しています。また、画角的にも少し長焦点の方が無駄なものが入らずに思い通りの写真が撮れると思っています
焦点距離の短い広角系のレンズは、被写界深度が深いのでピンボケが起こりにくく、初級者には好かれる傾向がありますが、その反面でボケ量が小さく表現力が犠牲になります。多少角が立つ言い方になってしまいますが、広角レンズは「表現力よりも画角を重視したレンズ」という見方ができます。当然ながら逆も言えるわけで、長焦点(望遠系)レンズになると被写界深度が浅く、ボケ量は大きくなり、表現力に富むレンズとなります。望遠系レンズは画角に無理がないので画質を重視するユーザーには好まれる傾向があります。オールドレンズユーザーはノスタルジックな描写を求めるなど表現力を重視する志向が強いと思われますので、私が予想していたアンケート結果は1位が50mm前後、2位が80mm前後、3位は35mm前後でした。しかし、予想は大きく外れ、1位は35mm前後と50mm前後、続いて3位が80mm前後となっています。本ブログを訪れた方々(オールドレンズユーザー)は意外にも35mm前後の広角レンズを好む傾向が強いことがわかります。ただし、このアンケートには注意しなければならない落とし穴があります。回答者がきちんと35mm換算値を答えていたかどうか不明なのです。35mm換算値で選ぶようアンケート文にしっかりと明示し注意を呼びかけましたが、数値に弱い回答者の耳には、なかなか届かないと思われます。アンケートの出題方式がまずかったと反省しています。

さて、新しいアンケートを右側のサイドメニューに1件追加しますので引き続き公開アンケートをお楽しみください。

2012/08/21

コンタックス・ゾナーの末裔達2:LZOS MC Jupiter-9 85mm F2 (M42)

ロシア製ポートレートレンズの中で絶大な人気を誇るのが今回取り上げるJupiter-9(ユピテル9/英語名はジュピター9)である。レンズが登場したのは1950年で、Carl ZeissのContax版Sonnar(3群7枚構成・85mm F2)をベースに設計された。巷ではSonnarをそのまんまコピーしたレンズと誤って解釈される事が多いが、厳密にはSonnarを再設計した改良レンズである。記録にはこのレンズの初期のモデルにZK-85というコードネームのプロトタイプが存在し、ドイツ産のガラス硝材が用いられていたと記されている。このプロトタイプはまさにSonnarの完全なコピーであったと推測できる。モスクワ生まれのロシアン・ゾナーがツァイスのオリジナル設計を離れ、独自の進化を遂げ始めたのは、いつの頃だったのであろうか?

安くてよく写るロシア製レンズの魅力を
世に広めた銘玉ユピテル9

第2次世界大戦の戦勝国として旧東ドイツを占領したロシア(旧ソビエト連邦)は、カール・ツァイスの技術力を手に入れ、自国のカメラ産業を発展させた。Zeissが戦前から保有していた発明特許は戦勝国同士の取り決めにより無効化され、戦後のロシアではビオター、ゾナー、ビオゴン、フレクトゴンなどカールツァイスブランドのコピーレンズがロシア製品として次々と生み出されていった。ツァイスのイエナ工場が保有していた設備はマイスター(レンズ設計技師)と共にその一部がモスクワ近郊のKMZ(クラスノゴルスク機械工場/Krasnogorski Mekhanicheskii Zavod)へと移され、マイスター達には原則5年、ロシアでレンズの設計や生産に関わる技術指導の義務が課せられた。それから間もなくのことである。ZeissのW.Merte(メルテ)が設計したBiotarはBTK(Biotar Krasnogorsk)に姿を変え、L.Bertele(ベルテレ)が設計したSonnarとBiogonはそれぞれZK(Sonnar Krasnogorsk)とBK(Biogon Krasnogorsk)、H.Zollnar(ツェルナー)のFlektogonはFK(Flektogon Krasnogorsk)へとロシアの地で造り変えられていった。いわゆるツァイス製品を模したロシア製コピーレンズの原点である。これらの多くは光学系の一部または全部にドイツ産のガラス硝材(Schott社から接収したもの)が用いられており、FKを除き戦前からのイエナガラスに頼る設計であった。そこで、技術指導を受けたロシア人技師達はレンズを次々と再設計し、ロシア国内で量産可能な新種ガラスを用いた設計へと変更していった。その後、BTKはHelios(ヘリオス), BKとZKはJupiter(ユピテル), FKはMIR(ミール)へと改称され、ロシア各地の工場で大量生産されるようになった。今回取り上げるJupiter-9(ユピテル9)もそうした類のレンズで、KMZの設計者M.D.Maltsevが1940年代後半に焦点距離85mmのSonnar(あるいはZK-85)を再設計し、1950年に発売された大口径中望遠レンズである。Maltsevは有名なテッサー型パンケーキレンズのIndustar 50を設計した人物でもある。JupiterシリーズにはJupiter-3 1.5/50, jupiter-8 2/50, Jupiter-9 2/85など戦前のコンタックス版ゾナーを起源とする3種のレンズが存在し、設計はいずれもMaltsevと記録されている。生みの親が同じなので「ロシアのユピテル3兄弟」と言ったところであろうか。


ロシアンゾナーのユピテル3兄弟。後列左はJupiter-9 85mm F2(Contax-Kiev mount)でLZOS製, 中央手前はJupiter-3 50mm F1.5(Leica-Fed L39 mount)でValdai製, 後列右はJupiter-8 50mm F2(Leica-Fed L39 mount)でKMZ製となる。なお、レンズ名の由来はローマ神話の最高至上の神の名ユピテルである。
Jupiter-9の光学系のスケッチ(G.O.I. 1963 catalogよりトレースした)。ソビエト製レンズに詳しいSovietCams.COMによると、Jupiter-9の前身はKMZが1948年から1950年まで生産したZK-85というレンズであり、このモデルには光学系の一部あるいは全部にドイツ産のガラスが用いられていたと記されている。硝材が同じなら屈折率が同じになり、Sonnarと同一の設計も実現可能である。こうしたことから、ZK-85はSonnarのオリジナルと同一設計である可能性が高い。一方、現在KMZを傘下に持つZenitのホームページにはショット社から接収したドイツ産の硝材(イエナガラス等)のストックが1953年に枯渇してしまい、Jupiterシリーズにはロシア産のガラス硝材に置き換える再設計(リム形状の変更)が施されているとも記されている。これらの断片情報を統合するならば、ロシア製ゾナーがツァイスのオリジナル設計を離れ独自の進化を遂げ始めたのはZK-85よりも後のJupiter-9リリース時から、あるいは1955年前後のモデルチェンジからということになる
Jupiter-9は1950年にKMZ社が発売し、まずはLeicaスクリュー互換のZorki(ゾルキー)マウント用と旧Contaxマウント互換のKiev(キエフ)マウント用の2種が市場供給された。更に1951年には一眼レフカメラのZenit用(M39マウント)が、やはりKMZから登場している。初期のモデルはどれもシルバーカラーのアルミ鏡胴モデルである。なお、レンジファインダー機向けに造られたZorki用とKiev用のモデルは最短撮影距離が1.15mであるのに対し、Zenit用のモデルでは光学系が同一のまま0.8mに短縮されている。KMZは1950~1957年にJupiter-9を複数回モデルチェンジ(マイナーチェンジ)しているが、1958年にレンズの生産をLZOSとARSENALに引き継ぎ、ムービーカメラ向けのOCT-18マウント用など新モデルを追加投入する場合を除いて基本的にはJupiter-9を造らなくなっている。LZOSからは1958--1988年にZorkiマウント用とKievマウント用が生産され、その後、対応マウントのラインナップはM39マウント用(1960年代)、OCT-18マウント用(1960年代~1970年代)、1970年代からはM42マウント用にまで拡張されている。1980年代半ばからガラス表面にマルチコーティングを施したモデルが従来のシングルコーティング版モデルに混じって造られるようになり、その割合が少しづす増えていった。一方、Arsenalからは1958--1963年にKievマウント用が生産され、その後は1970年代にKiev-10/15マウント用などが生産されている。なお、1963年からは各社ともJupiter-9のカラーバリエーションにブラックを追加し、その後、シルバーカラーは1968年に製造中止となっている。最後まで生産されたモデルは今回紹介するLZOS製のM42マウント用で、ごく最近に製造されたものとしてはeBayで2001年製の個体を確認している。また、Blog読者の方からは2002年製の個体を入手したとの情報もいただいている。この最終モデルも現在は製造中止となっている。MC Jupiter-9の新品を販売していたロシアの通販店(例えばこちら)でもオールドストックの在庫が底をついたようで、現在は中古品のみを販売している。それに連動し、eBay等の中古市場では取引価格が急騰している。
フィルター径:49mm, 絞り羽:15枚, 質量(カタログ公称値):380g, 焦点距離:85mm(精密値84.46mm), 最短撮影距離:0.8m, 解像力:中央33 LINE/mm, 周辺部: 18 LINE/mm, 光透過率: 0.85,マウント規格はM42, 本品はLZOS(ルトカリノ光学硝子工場)が生産したjupiter-9シリーズの後期型である


入手の経緯
今回はJupiter-9の撮り比べをしたいという都合があり、製造年代の異なる3本の個体を入手した。このうちの一本はガラス表面に多層光反射防止膜(マルチコーティング)が施された1993年製のMC Jupiter-9で、2011年11月にウクライナ最大手の中古カメラ業者ペテルズブルグ・ディールから180ドル+送料15ドルの即決価格で購入した。商品についてはMINT ITEM(美品)との触れ込みで「ガラスはクリアでクリーン。傷、カビ、クモリはなく全エレメントがクリア、絞りコントロールとヘリコイドリングは正常。フォーカスは精確」との解説であった。同業者と100件以上の取引歴がある知人によるとNEWと記された商品以外は要注意とのことであったが、手元に届いた品はチリやホコリすらほとんどない極上品であった。MC Jupiter-9は最近になって新品(オールドストック)の在庫が底をつき、人気商品ということもあり、中古相場は急激に上昇してしまった。eBayでは状態の良い品が200ドル弱の値で取引されている。

撮影テスト1:デジタル撮影
カメラ Nikon D3 digital+ハクバ製ラバーフード(補正レンズ無しアダプターを使用)
Jupiter-9の持ち味は美しい階調描写と安定感のある整ったボケであろう。ゾナータイプならではの穏やかで優雅な描写力を大いに堪能できる魅力的なレンズだ。前エントリーで取り上げたContarex版Sonnarは開放絞りからキッチリとシャープに写るレンズであったが、Jupiter-9はこれとは対照的で開放で像がややソフトになるのが特徴である。絞りを開けるとハイライト部の周囲にはハロが発生し、画面全体に薄いベールを一枚被せたようなフレアっぽい写りになるなど、開放では使いこなす場面がやや限られてしまうものの、少し絞るとかなり良く写るレンズへと一変する。1段絞るF2.8ではフレアが消え、ピント部のハロも目立たなくなる。F4まで絞るとアウトフォーカス部のハロも消え、全体にヌケの良い像が得られるようになる。スッキリとした像を望むならばF2.8、あるいはF4からが実用域となるだろう。コントラストは開放で低く、一段絞ると急に高くなり、そこから先は絞るほど緩やかに向上する。ただし、深く絞る場合にも中間階調は依然として豊富で、軟らかい階調描写が損なわれる事はない。発色は開放で淡く、一段絞った辺りから急に鮮やかになり、コントラストの向上と共に濃厚になる。ただし、黄色に転ぶ傾向があり、フィルムで撮る場合には撮影結果が温調な雰囲気に包まれる。デジタルカメラで用いる場合にはAWB(オートホワイトバランス)機能による補正が働くため、カラーバランスはフィルム撮影時よりもノーマルだが、依然として温調寄りの発色傾向は残っている。アウトフォーカス部の像は常に安定しており、グルグルボケや放射ボケ、2線ボケとは無縁の穏やかなボケ方である。ボケ味については前回のコンタレックス版ゾナーにも同様の傾向が見られたが、同クラスのダブルガウス型レンズのようなブワッと力強く拡散するようなものではなく、やや控えめのフワッとしたボケ方となる。例えるなら羽毛のようなボケ方をするダブルガウスに対して、jupiter9では少しボリューム感のある綿のようなボケ方に見える。ゾナー好きの方々はこの辺りをどう捉えているのだろうか。なお、手元にある何冊かの資料本では、Jupiterシリーズ(Jupiter-3/8/9)の描写について、本家ゾナーに比べて結像が柔らかくソフトで、絞り込んだ時の階調も軟らかいと評されている。
F2.8 Nikon D3 digital(補正レンズ無しアダプター使用), AWB: 開放ではハロやフレアが発生し像もソフトでコントラストは低下気味になるが、一段絞るとコントラストが急に上がり、ピント部はシャープになる。こちらに開放絞りとF2.8における比較写真を掲示しておく。ボケも綺麗でゾナーらしい素晴らしい描写力である。定評のあるレンズであることがよくわかる

F4  Nikon D3 digital, AWB: 2段も絞ればハロやフレアは完全に消え、ヌケのよいスッキリとした像になる


F4 Nikon D3 digital, AWB: このレンズは階調描写が大変美しく、濃淡の変化がなだらかだ



F2.8  Nikon D3 digital, AWB:  一段絞ったF2.8でもアウトフォーカス部は依然として滲み、オールドレンズらしい柔らかい描写表現が可能だ




F4  Nikon D3 digital, AWB: マルチコートのレンズらしく、発色は鮮やかで色のりは良好
F2.8, Nikon D3 digital, AWB:  ボケがきれいすぎて絵画に見える。ある意味ですごいレンズだ
F2.8Nikon D3 digital, AWB:  ........。
F2(開放)Nikon D3 digital, AWB:  絞り開放ではコントラストの低下から発色が淡くなりがちだが、ややアンダー気味に撮れば色濃度が上がり、見た目には悪くない画質だ
撮影テスト2:フィルム撮影
カメラ Yashica FX-3 super2000+ハクバ製ラバーフード
フィルム Kodak ProFoto XL100
フィルム撮影での描写とデジタル撮影での描写が、これほどまでに大きく変わるレンズも珍しい。ネガフィルムを用いた撮影の場合、階調描写は総じてデジタルの時よりも軟らかくトーンがやさしくなり、私の思い描いているゾナー系レンズの描写イメージにより近くなる。この美しい階調描写こそがゾナーの真価ではないだろうか。ジュピター9のようなゾナー系レンズの光学系には硝子同士の貼り合わせが3~4面もあり、他のレンズには無い大きな特徴になっている。この大量の貼り合わせ面が光学系全体に弱い内面反射光を緩やかかつ均一に送り届け、豊かな中間階調を生み出しているというのがゾナーに対する私の見方だ(もちろん根拠は無いので突っ込み所ではあるが、敢えて言い切ってしまうのは私の性分からだ)。発色はフィルム撮影の方がデジタル撮影よりも黄色に転びやすく温調である。おそらくフィルム撮影の方が本来の色であり、デジタル撮影ではオート・ホワイトバランスの影響でノーマルな発色に補正されるためであろう。

F2.8 銀塩撮影 Kodak ProFoto XL100: このとおりにフィルム撮影の方が発色はより黄色に転びやすい
F4 銀塩撮影 Kodak ProFoto XL100:うーん。やはり、フィルム撮影時の方が階調描写は軟らかい印象を受けるが、いかがであろう
F4 銀塩撮影 Kodak ProFoto XL100: 結像は柔らかく階調も軟らかいが、ソフトフォーカスレンズのようなエフェクト的なやわらかさではなく、写真レンズとして許容できる最低限の解像力をきちんと備えた上での天然のやわらかさだ。こういう写りを提供できるレンズはこれからますます貴重な存在になるのではないだろうか

描写力に個体差はあるのか?
Jupiter-9の描写力には大きな個体差(当たり外れ)があると噂されている。こうした噂は一人歩きをしながら、これから購入を検討している人々を大いに悩ませる。根拠が示されてない以上は単なる迷惑でしかない。この種の噂はロシア製品の品質に対する偏見から生まれている可能性も大いに考えられるので検証しておく必要がある。以下では製造年代の異なる3本のJupiter-9を用いてシャープネスとコントラストに個体差があるのかどうか、肉眼による検査を試みた。検査に用いた個体は1986年製のシングルコーティング版が1本、1990年製と1993年製のマルチコーティング版がそれぞれ1本ずつである。光学系の状態は1986年製と1993年製の2本が新品同様、1990年のものには前玉の周辺部に写りには影響のない極薄い汚れ(メンテ時の拭きムラ?)がみられた。下に示した作例に対して3本のレンズを絞り開放のまま同一条件で使用し、中央部の拡大画像を比較することで描写力に差があるかどうかを検証してみた。


なお、撮影テストは同一条件で2回実施し、2回のテストはカメラを三脚に再設置し、レンズをマウントし直すところからはじめるなど、多少面倒ではあるが撮影条件に左右されない試験結果を得ることができるよう配慮している。ピント合わせはライブビューの拡大機能を用いてジックリと時間をかけて行っている。3本のレンズの比較から最もメリハリのある結果が得られたのは1993年のマルチコーティング版(最下行)で、2回のテストともコントラスト性能はトップの成績となった。一方、解像力ではシングルコーティングの1986年製と1993年製が2回のテストともに良好な結果を示し、1990年製はややぼんやりとした像になった。興味深いのはハロの出方で、白文字のロゴの滲み方がレンズごとに異なるのである。1986年製と1990年製の2つのモデルでは右斜め上方に滲んでいるのに対し、1993年製は左斜め上方へと滲んでいる。レンズの中央部で撮った像なので、滲み方は等方的になるのが理想だが、3本のレンズはどれも光軸が僅かにずれているのかもしれない。ちなみに、ゾナーのような3枚接合を持つレンズの場合には光軸合わせ(芯だし)に高い精度の製造技術が必要であることが知られている。


上に示した比較検査からJupiter-9の描写力(解像力、コントラスト、ハロの出方)には肉眼でも識別できるハッキリとした個体差(当たり外れ)が検出できた。この個体差からロシア製品の品質について高いだの低いだのを評価することはできない。それには、日本製レンズやドイツ製レンズを用いて相対的に評価する比較検査が必要になるためだ。なお、この滲みは各個体とも一段絞るF2.8で完全に消える。

MC Jupiter-9は値段のわりによく写るコストパフォーマンスの高いレンズだと思う。開放では像が甘く、使い道は限られてしまうが、F2.8からの描写力については個体差なんてなんのその。ゾナーの優れた描写力を充分に楽しむことができる。3群7枚のゾナータイプはドイツ製や日本製なども存在するが、どれも中古市場では高価なので、ゾナーの写りを安く手に入れたいならばMC Jupiter-9はオススメの一本だ。ところで、いつも疑問に思うことだがJupiter-9の9番のように、ロシア製レンズのブランド名の後ろにつく番号はどうやって決まっているのだろうか?どなたかご存じの方がおりましたら、ご教示いただけると幸いです。